大前研一「迷走50年、日本の空港『非効率の極み』」より(PRESIDENT 2016年12月5日号)

〈関西の空港状況もよく似ている。2滑走路のため発着数に限界があったのと騒音問題を抱えていた伊丹空港(大阪国際空港)に代わる新空港建設計画が持ち上がった当初、建設予定地は南港沖、現在のUSJの外側辺りだった。大阪、神戸の都心からは近いし、すでに高速道路も通っている。グッドアイデアだったが、自前で空港を持ちたい神戸がこれに強く反対。結局、ずっと南に下らざるをえなくなり、泉南沖を1兆5000億円かけて埋め立てて現在の関西国際空港をつくった。しかし地盤調査が不十分だったせいで第1滑走路の完成直後から地盤地下が発覚してしまう。横風対策でT字にする予定だった2本目の滑走路を平行滑走路にするなど、沈降対策でさらに1兆3000億円。新空港の損益分岐点は未来永劫やってこない。

それだけの巨費を投じておきながら、新空港が完成すると今度は、「関空は遠すぎる」と廃止が決まっていた伊丹空港の存続運動が巻き起こった。

 

大前研一「迷走50年、日本の空港『非効率の極み』」より(PRESIDENT 2016年12月5日号)

工事欲しさに新空港が必要だと言っていた関西の財界人まで乗る始末である。結局、伊丹は存続し、神戸空港もできて、関空は目的不明になってしまった。一応、「国内線は伊丹、国際線は関空」という仕分けはあるが、離れているため3時間以上の乗り換え時間が必要でハブとしてはまったく機能しない。したがって関空から飛んでいる海外路線は非常に少ない。西日本に住む人は長距離便の場合、成田か仁川で乗り換えるケースが圧倒的に多い。〉
※[引用元]大前研一「迷走50年、日本の空港『非効率の極み』」より(PRESIDENT 2016年12月5日号)

長い引用になったが上記はわたしが、常日頃「軽蔑」する、大前研一氏の関西空港に対する評価である。

そんなことは30年前からわかっていただろう!と言いたいが、わたしごときがの発信ではついぞ、関西空港の問題は伝わらなかったので、大前氏の見解を引用させていただいた。

前述の通りわたしは、大前氏の日頃の主張に大方同意しない。それどころか、彼が社長を勤めた、日本マッキンゼー社がなした仕事には、直接の被害をうけたこともある。

 

関西エアポートグループHPより

それはそれとして、大前氏の関空批判には合理性がある。大前氏の批判は効率の悪さに主として立脚しているが、関西空港はその工法が決定した時点から、このような災害に見舞われることが宿命づけられた「欠陥だらけの空港」であった。

関西空港(関空)は伊丹空港が人工密集地に位置し、事故の危険や日々の騒音問題が地元から長年突き上げられるなかで、建設地が泉佐野市沖合と決定し、工法につて従来の「埋め立て」か「メガフロート(浮島工法)」かの議論も交わされた。

 

関西エアポートグループHPより

結果的には軟弱な地盤と判明しており、沈下が確実である「埋め立て工法」が採用されたが、当時から「この地盤ではいずれ関空は沈んでしまう」と懸念する声が少なくなかった。そして、関空は当初の懸念を上回る速度で、地場沈下を体験することとなる。

公式には3m-4m沈下した、とされている。関西空港は、「現在では完全に沈下が止まっています」と胸を張るが、極めて怪しい。

そして開港から24年目の記念日に、設計上海面から5mに建設された滑走路を海水が覆ってしまった。

 

関西エアポートグループHPより

メディアによっては「想定外」などと報道する素っ頓狂もいるが、1994年関西空港開港から、かなりの頻度利用してきたものとしては、「想定外」どころか「当たり前」に予想された不具合が生じたのではないかと穿たざるを得ない。

関空(埋め立て島)の沈下は、目に見える範囲でも開港1年目から顕著であった。航空機の出発、到着機能を持つビルと、商業施設やホテルが並び立つビルのあいだは、タイル張りの通路で結ばれている。開港1年目には、肉眼で確認できる数センチのズレが生じていた。

こんなに短期間で、埋め立て島の中にひずみが出来ても大丈夫なのか?と当時関西国際空港株式会社に勤務していた、まじめな知人に聞いてみたことがある。

「それは技術の人の担当なんですが、基本大丈夫だということです」と知人は答える。「でも目に見える範囲でも沈下が始まっているよ。羽田や海外の空港でこんなの見たことないよ」と聞くと「実は……沈下した場所に何かを差し込んで対応する……というのが今の方針だそうです」と腰を抜かすような答えが返ってきた。

 

関西エアポートグループHPより

「え!そんなことしてたらきりがないやろ。それに高潮とか来たら一発でやられるで」と返すと「そんなこと言われても…。なんとかなるでしょう」と最後は困り果てていた。

「なんとかなる」ことはなかった。関西空港自身が認めている通り、既に3-4m沈下しているのであれば、設計時に海面から5m余裕をみていた滑走路も2-1mしか余裕がないことになる。5mの高潮は珍しいが、1-2mの高潮を「想定外」とは呼べまい。昔知人が語ってくれたように「何かを差し込んで」沈下を食い止めていたとしても、それは止められないだろう。

今回は空港自体の設計問題とは別に、空港への連絡橋にタンカーが衝突する、という事故が起きた。航空機はもともと強風の際には離着陸できないので、陸地と空港を結ぶ連絡橋も、強風の際には、しばしば封鎖されてきた。しかし、タンカーの衝突はさすがに関西空港も、鉄道会社も予想していなかったであろう。衝突された連絡道は完全に左右にずれており、完全修復には相当の時間がかかろう。

ある報道の引用である。

〈偶然にも、4日は1994年に開港した関空の開港記念日。孤立した空港内で客らの支援にあたる日本航空関西空港支店総務グループの森知康さんはこう語った。「前例のない事態だ。飛行機の離着陸がいつから可能になるか、現時点では全くわからない」〉
(2018年9月5日付朝日新聞)

正直な感想であろうが、「前例はなくとも、予期された事態ではある」点を指摘しておく。

最後に台風21号の災害でお亡くなりになられた方、被災された方に、心からお悔やみ、お見舞いを申し上げます。


◎[参考動画]4時!キャッチ 関空リポ 台風21号 関空の孤立者ら救助船で神戸へ(サンテレビ Published on Sep 5, 2018)

▼田所敏夫(たどころ としお)
兵庫県生まれ、会社員、大学職員を経て現在は著述業。大手メディアの追求しないテーマを追い、アジアをはじめとする国際問題、教育問題などに関心を持つ。※本コラムへのご意見ご感想はメールアドレスtadokoro_toshio@yahoo.co.jpまでお寄せください。

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