元CIA職員のエドワード・スノーデン氏の、ロシアのシェレメチェボ空港のトランジット(乗り継ぎ)ゾーンでの滞在は、3週間に及ぼうとしている。
スノーデン氏は、アメリカ国家安全保障局(NSA)による個人情報収集の手口(PRISM計画)を告発したことで、米司法当局により逮捕命令が出されている。
香港で告発を行ったスノーデン氏は、ロシアに飛んだ。ロシアは、彼の亡命、入国は認めなかったが、アメリカが求める身柄引き渡しに対して、トランジットゾーンはロシアの司法権の及ばない区域であるとして、この問題には関知しないという態度を取っている。

国際的な大問題であるとともに、トニー・スコット監督の映画『エネミー・オブ・アメリカ』の描いた問題を背景にしながら、起こっていることはスティーヴン・スピルバーグ監督の映画『ターミナル』そのものという、きわめて興味深い出来事であるにもかかわらず、大手メディアはほとんどこの事件を、スルーしている。

世界中にあり、青森県の三沢米軍基地に隣接する姉沼通信所にもある、「ゾウの檻」と通称される巨大施設、エシュロンによって、軍事無線、民間の固定電話、携帯電話、ファクス、電子メール、データ通信をアメリカは大量に傍受収集していることは、以前から語られている。
エシュロンによって得られた情報は、日本政府には共有されていない。
北朝鮮の金正男の入国や、日本赤軍最高幹部であった重信房子の入国は、エシュロンのよって得られた情報によって察知されたと言われているが、そのような、アメリカにとっても都合のいい情報が、稀に伝えられるだけだ。

エシュロンで得られる情報は、軍事・政治的に使われるだけではない。
日本の企業が特許申請しようとしていた技術開発が、その段になると、アメリカの企業によって先に特許が取得されていた、ということが何件もあった。
もちろん、エシュロンによるものだとは立証できないので、抗議のしようもない。
だが今や、日本のどんな企業も、技術開発の話は、電話やメールではせずに、直接会って話すことが常識となっている。

姉沼通信所のエシュロンでも勤務していたという、エドワード・スノーデン氏は、そうした事柄を、当事者として告発したのだ。グーグルやマイクロソフト、アップル、フェイスブック、ヤフー、ユーチューブ、スカイプなども、NSAのPRISM計画に協力させられていたことも明らかにしている。

スノーデン氏の告発によって、NSAは同盟国の各国駐米大使館への盗聴を行っていることも明らかになった。「同盟国に対するこのような行為は容認できない」などとして、フランスやドイツは、公式に抗議している。
日本は、「米国内の問題なので、米国内で処理されることだ」「日米間の外交においては、しっかりと秘密は守られるべきだ」と菅義偉内閣官房長官が述べ、抗議しない姿勢を明らかにした。

稀にこの問題を報じる時に、朝日新聞を始めとした日本の大手メディアが、スノーデン氏を「容疑者」と呼んでいることにも注目すべきだろう。
この問題を受けて、オバマ大統領は、6月6日のワシントンでの記者会見で語った。
「100%の安全と100%のプライバシーは、何の不便もなく手に入れることはできない。これはテロを防ぐために必要なことだ。 アメリカ国民やアメリカ国内にいる人は(監視や個人情報収集の)対象にしていない」
この言葉を信じるとしても、非アメリカ国民からは情報収集を行っていると明言したことになる。
罪を犯していると疑われるのはオバマ大統領とNSAのほうであり、スノーデン氏ではない。
米司法当局が逮捕命令を出しているからといって、歩調を合わせて「容疑者」と呼ぶなど、改めて日本はアメリカの属国なのだと痛感させられる一事だ。

当初、スノーデン氏が香港で告発を行ったことなどから、中国がバックにいるのでは、という憶測も呼んだ。だが、現在の彼の状況を見るなら、それは否定されるべきだろう。
また、自身の利益を当て込んでの告発なら、亡命を完了させてから行うはずだ。

ベネズエラからの亡命受け入れの申し出に対して、本人が承諾していないという情報が流れるなど、確かに彼の言動には不透明なところもある。
本人も、自分はヒーローではない、と言っているように、確固とした信念を持った正義漢というよりも、悪事に手を染め続けることに耐えられなくなった善人、といったところだろう。それでも、豊かな生活と故国を捨てる決意での告発は、勇気あるものだ。

スノーデン氏がアメリカの手に落ちないこと、彼に明るい未来が開けていることを、祈るばかりだ。

(鹿砦丸)