◆日通、4月から非正規社員の賃金を正社員と同額へ引き上げる

運輸最大手の日本通運が、この4月から非正規社員の賃金を正社員と同じにするという。働き方改革関連法で2020年4月から義務づけられる「同一労働同一賃金」を先取りしたものだ。日通の社員約4万人のうち、正社員は2万7000人。のこり1万3000人が非正規社員(有期雇用)である。このうち、フルタイムで働く数千人をエリア職(転勤のない正社員=1万6000人)と同一賃金にするというのだ。総合職(転勤あり)よりは低いものの、時給1000円前後から飛躍的な賃上げとなる見通しだ。もっとも、新しい評価制度の導入と一体なので、人件費の総額としては従来枠と変らないのではないかと見られている。

◆本当に実現されれば、中小企業は立ち行かないはずだが

この制度は、大企業が2020年4月から、中小企業も2021年の4月から義務化される。新たな人事評価制度はおそらく、既存労働組合のはげしい抵抗を招くであろう。逆に言えば、賃金体系を維持したうえで「同一労働同一賃金」を導入するとしたら、労使双方にきびしい覚悟を強いるものとなるだろう。労働組合には非正規を組織に取り込み、なおかつ従来の賃金体系を維持するという、いわば資本を追いつめる覚悟が問われる。経営側には新しい人事評価(賃金体系)を導入できなければ、非正規の雇い止めという労務政策を招くおそれがある。

たとえば市場変動(学生数の変化)がいちじるしい大学において、高給取りの専任(教授・准教授・専任講師)と非常勤講師(特任教授・研究員)との格差、あるいは非常勤の雇い止めは頻発している。ちなみに、専任と非常勤講師の賃金格差は、じつに年収1000万円以上である。はたして中小企業においても、この賃金体系は実現できるのだろうか。400兆円もの内部留保を抱えている大企業はともかく、パートの安い賃金で生産性を確保している製造業系の中小企業は耐えられるのだろうか。

◆究極の「同一労働同一賃金」は社会主義経済の賃金である

この「同一労働同一賃金」は、自民党のなかでも議論が深められてきたとは言いがたい。さわりの良い言葉(スローガン)はすぐに導入したがる安倍総裁に批判的な勢力からは「この同一労働同一賃金の意味がわかる人に教えてもらいたい」(石破茂)という声も出ていた。そう、この「同一労働同一賃金」はILOをはじめとする労働組合のスローガンであり、社会主義的な労働証書制(働いた時間を証書として、賃金を受け取る)に近いものなのだ。

突き詰めていえば、安倍総理と同じ時間と同質の仕事(国会答弁など、総理に固有の業務をのぞく)をしている者。たとえば総理秘書官や補佐官などは、安倍と同じ程度の歳費(年収)をもらわなければならないのである。国会議員秘書の大半は、議員と同じ程度の労働をしている。官僚は大臣以上の仕事をしているはずだ。社長秘書が社長とおなじ労働をしていると主張した場合、労働監督局はどう判断すればいいのだろうか。労働審判や民事裁判になれば、そこに線引きができるのか。石破茂の疑問は当然である。

◆外国人労働者にも適用するべきだ

経済界からの肝煎りの要請で、強行採決までして成立した入管法改変も、この賃金システムから自由ではないはずだ。外国人労働者が日本人とおなじ労働をしているのなら、その賃金も同一でなければならない。間違いなく、同一賃金は外国人労働者にも適用されなければならない。年功序列型の賃金体系が崩れるのは大いに歓迎されなければならないと思うが、もしも同一賃金が画餅に終わるようなら、残されるのは雇用制度そのものが崩壊する可能性である。人を雇えなくなった企業の門前に、膨大な失業者があふれる光景を思い浮かべてしまう新春である。


◎[参考動画]荷役はかわる 通運のパレット作業(1958)|物流アーカイブズ(日本通運公式チャンネル2017/09/27公開)

▼横山茂彦(よこやま しげひこ)
著述業・雑誌編集者。主な著書に『軍師・黒田官兵衛に学ぶ経営学』(宝島文庫)、『真田一族のナゾ!』『山口組と戦国大名』(サイゾー)など。医療分野の著作も多く、近著は『ガンになりにくい食生活――食品とガンの相関係数プロファイル』(鹿砦社LIBRARY)

月刊『紙の爆弾』2019年2月号 [特集]〈ポスト平成〉に何を変えるか

横山茂彦『ガンになりにくい食生活――食品とガンの相関係数プロファイル』(鹿砦社LIBRARY)