厚生労働省の「今後の労働者派遣制度の在り方に関する研究会」が労働者派遣法の改正案として、1つの業務に就く3年の上限期間を撤廃する方向で報告書をまとめた。

このニュースを観た時「ああ派遣も少しは働きやすくなるのか」と思ったが、ネット上はおろか、専門家も有識者も猛烈に批判している。どういうことかと思って調べてみると「1人の派遣社員が同じ業務に就ける期間は3年」は変わらずそのまま、「1つの業務に派遣社員を入れ替えながら、3年以上無制限に派遣社員を就業させられる」ということだった。まさか国の省庁がそんな馬鹿な改正を考えるわけがないと思っていた。

非正規雇用が蔓延する中、派遣社員は余るほどいる。企業にとっては3年で首を切っても、代わりはいくらでもいる。しかし派遣社員は当然、3年で首を切られた後すぐ次の仕事が見つかるとは限らない。派遣の使い捨てを国が奨励しているわけだ。なぜこんな事を考えるのか理解に苦しむが、厚生労働省にとって「雇用」とは「正社員雇用」であり、派遣社員を含む非正規雇用は労働者として考えていないとの見方もある。社会保険料を納めない非正規雇用は憎むべき存在だからだと言う評論家もいる。もしそうなら、まもなく2000万人に到達するだろう非正規雇用者を、なぜ正社員にする方向でまとめられないのか。派遣の年数上限をいくら動かしたって正社員は増えない。

派遣社員に複雑な業務を任せることはあまりないので、大抵の人は同じ仕事を3年も続ければ業務をこなせるようになるだろう。しかし3年経ったら解雇する必要がある。それ以上続けるのなら正社員にしなくてはならない。元々正社員を雇用するコストを抑えるために派遣社員を使っているのだから、また派遣をつれてくるだけだ。その度引き継いだり業務が遅れたりするデメリットが企業にはある。3年の上限というのは誰にとっても良い事がないように思えるが、厚生労働省は頑なに守っている。

派遣社員、非正規雇用の問題は当事者だけのものではない。そもそもなぜ不況なのか。物が売れないからだ。なぜ売れないのか。手持ちの金が少ないからだ。なぜ金がないのか…… 1800万人を超える人が非正規で働いているからだ。不況の根底には非正規雇用、ワーキングプアといった問題がいつまでも残っている。「働いたってどうせ非正規だし給料少ないんだ」こう思う若者が1人いたら、ニートが1人生まれる。消費しない層が増え続けているのに、さらに派遣社員を先行き不安にさせる考えが理解が出来ない。少し前、車業界が「若者に車が売れない」なんでデータを出してあれこれ言っていたが、当たり前の話だ。晩婚化が進むだの少子化が進むだのという話も、全て繋がっている。経済的に余裕がないのに結婚して子育てをしろというつもりだろうか。妊娠すれば当然働けないし、産後また職に就けるとも限らない。子ども手当なんて小手先の制度で解決できるようなことじゃない。

どれもこれも経済学の話ではない。ごく当たり前の話だ。そのごく当たり前が理解できなければ、アベノミクスといくら念仏を唱えても景気が回復するはずがない。

(戸次義継)