【カウンター大学院生リンチ事件】前田朗教授の豹変(=コペルニクス的転換)に苦言を呈する! 鹿砦社代表 松岡利康

◆リンチ事件に対して的確に論評した前田朗教授

著名な法学者の前田朗東京造形大学教授は、ミニコミながら創刊50年を迎えた『救援』(月刊。救援連絡センター発行)紙に、2度にわたり「カウンター大学院生リンチ事件」(いわゆる「しばき隊リンチ事件」「十三ベース事件」)に対して、研究者としての良心から(と思ったのは私たちの勘違いか?)怒りをもって言及されています。

「反差別運動における暴力」(『救援』580号。2017年8月10日発行)の公表は衝撃的でした。おそらく、そこで厳しく叱責されている李信恵氏や上瀧浩子弁護士らにとっても、別の意味で衝撃的だったと思われます。前田教授は、李信恵氏らの、いわゆる「反ヘイト裁判」で意見書も提出されているといいますから。

前田教授には、リンチ関連本3冊(この時点では4弾目、5弾目は未刊)を送り意見を仰いだところでの論評の公表でした。

ここで前田教授は、私たちの営為とこの事件について、次のように評価されていました。いささか長くなりますが引用しておきます。

「本書(引用者注:前田教授は3冊をまとめて「本書」と表現している)のモチーフは単純明快である。反差別運動内部において暴力事件が発生した。反省と謝罪が必要であるにもかかわらず実行犯は反省していない。周辺の人物が事件の容認・隠蔽に加担している。被害者Mは孤独な闘いを強いられてきた。このような不正義を許してはならない」

「本書の問題提起は正当である。ヘイトスピーチは、差別、暴力、差別の煽動である。反差別と反ヘイトの思想と運動は差別にも暴力にも反対しなければならない。市民による実力行使が許されるのは、正当防衛や緊急避難などの正当化事由のある場合に限られる」

「C(引用者注:李信恵氏)が重要な反ヘイト裁判の闘いを懸命に続けていることは高く評価すべきだし、支援するべきだが、同時に本件においてはCも非難に値する」

「反差別・反ヘイトの闘いと本件においてCを擁護することはできない」

「しかし、仲間だからと言って暴力を容認することは、反差別・反ヘイト運動の自壊につながりかねない。本書が指摘するように、今からでも遅くない。背筋を正して事実と責任に向きあうべきである」

まさに至言です。「リンチはなかった」という戯言は論外として、リンチ現場にいた5人は連帯責任として真摯に反省し被害者に謝罪すべきということは言うまでもありません。

『救援』(580号。2017年8月10日発行)

さらに続いて同論考の「2」(589号。2018年5月10日発行)においても厳しく述べられています。――

「被告C」の人格については、
「長時間に及ぶ一方的な暴力の現場に居ながら、暴力を止めることも幸去ることもせず、それどころか『顔面は、赤く腫れ上がり、出血していた』原告(引用者注:M君のこと)に対して『まあ、殺されるなら入ったらいいんちゃう』と恫喝したのがCである。唾棄すべき低劣さは反差別の倫理を損なうものである」

と断罪し、さらには、

「被告らの弁護人には知り合いが多い。かねてより敬愛してきた弁護士たちであるが、彼らはいったい何のために何をやってきたのか。(中略)あまりに情けないという自覚を有しているだろうか。差別と暴力に反対し、人権侵害を許さない職業倫理をどう考えるのか」

と怒りが溢れる物言いです。全文は別途画像をお読みください。 

『救援』(589号。2018年5月10日発行)

◆私たちはなぜ前田教授に失望したのか?

ところが……
前田教授は先頃『ヘイト・スピーチ法研究原論』(三一書房刊)を上梓され、私のもとにも送っていただきました。A5判、上製、450ページ余りにもなる分厚い本で、本体価格も4600円という高価です。

『救援』紙に上記のような論評をされたので期待を持って紐解くと、期待に反し、リンチ事件については1行も記述されていませんでした。残念です。

なぜなら、このリンチ事件についての反省と教訓こそが反ヘイト・スピーチ運動を止揚する要だからです。いくら立派なことを述べても、身近に起きたリンチ事件という恥ずべき行為に対して真正面から取り組まない限り、虚妄であり空論でしかないでしょう。

また、前田教授が『救援』紙で強く叱責された方々に「感謝」を述べるに至っては、『救援』で述べられたことは一体何だったのか、と遺憾に思いました。

『ヘイト・スピーチ法研究原論』あとがき

さらに、6月7日の集会の案内(別紙参照)が出回っています。私のところにも回ってきました。一瞥して驚きました。すでにお送りしているリンチ関連本5冊を読まれたのならば、前田教授が豹変(コペルニクス的転換とさえ申し上げます)されたのか、と感じざるをえません。リンチ関連本5冊をつぶさに読まれたならば、リンチ関連本でも断罪した人物が中心的に関わっている集会にホイホイと出るということは常人にはできないことです。そうではないでしょうか?

6・7集会案内

実はこの文章、この集会が終わってから明らかにするつもりでしたが、瞬間湯沸かし器のように怒りが込み上げ、悠長に時が過ぎ去るまで待っておれず、本日公開に踏み切った次第です。

趙博氏は、一時はリンチ被害者のM君を庇うかのような振る舞いをしながら突然掌を返しM君や私らを大いに失望させました。M君は趙博氏を信用し貴重な多くの資料を渡しています。これらの資料を入手するためにM君に近づいたのかと思うとスパイ行為と断じます。私に言わせればリンチ事件隠蔽と二次加害のA級戦犯です。(趙博氏の裏切りについてはリンチ本第1弾『ヘイトと暴力の連鎖』P74~79、第4弾『カウンターと暴力の病理』P100~106をご覧ください)

仲岡しゅん弁護士も、一時はM君と昵懇でありながら、彼が当時務めていた法律事務所(この所長のK弁護士は私もかねてより知己があり、数件弁護を依頼したこともありました)にM君が弁護を相談するや独断で断り、これを批判されるや各所でM君や私たちへの誹謗中傷を述べています。(仲岡弁護士については第3弾『人権と暴力の深層』P105~110をご覧ください)

さらに元大阪門真市議の戸田ひさよし氏は、ブログ「凪論」を主宰していたN氏の職場(児童相談所)を突然訪れN氏の業務を妨害しています。N氏は一般市民で下級公務員、こうした業務妨害行為でN氏が職場にいずらくなることが判っているのに平気で行い、これを意気揚々とネットで流しています。

これを受け拡散した「ぱよぱよちーん」こと久保田直己氏はN氏に訴えられ敗訴しています(静岡地裁2019年3月29日判決言渡。久保田代理人は神原元弁護士)。久保田氏は悪名高い「はすみリスト」の作成者として有名ですが、戸田氏や久保田氏の行為は、とても賛同できません。社会には、仮に相手が逆の意見でも、常識的なルールというものがあり、これを踏みにじってはいけません。そう思いませんか?

戸田氏とはかつて(10年余り前)交流がありましたが、こうしたことを平気でやったり、有田芳生参議院議員はじめ「カウンター」/「しばき隊」のメンバーと親密にしていることなどから最近は距離を置いています。

こうした人物が3人も中心的に関わる集会に前田教授が出られるということについては、前田教授にもなんらかの“意図”があるものと察しますが、ご説明いただきたく望みます。

また、前田教授は、リンチ事件隠蔽活動の拠点と化したともいえる「のりこえねっと」の共同代表ですので、ここを改革するとか、他の共同代表の方々にリンチ事件の内容を知らせ議論を惹起するように努めることに、まずは手をつけるべきではないでしょうか。なんのための「共同代表」でしょうか。

前田教授の最新著と、前田教授が講師として参加される6月7日の集会について、私見を申し述べさせていただきました。あまりに失望しましたので、いきおい表現が直截的になりました。

上記のような内容で資料を付け、去る5月21日に前田教授に手紙を出しました。真摯な説明を待ちたいと思います。

手紙の返信を待たずに、あえて公開しました。読者の皆様方は、今後の前田教授が、私の物言いをどう受け止め、どう説明されるのか――留意して待っていただきたいと思います。私たちの「勘違い」であればいいのですが……。

この3年余り、リンチ事件の真相究明と被害者支援の活動で見えた問題の一つとして「知識人」の存在があります。リンチ事件という凄惨な事件が身近で起きたのに、有名無名問わず多くの人たちが、隠蔽に加担したり沈黙したり、うまく逃げたりしたことなどを見ました。

「知識人」とは、こういう時にこそ存在理由があり真価の是非がわかろうというものです。「みんなずるい!」というのが私の率直な感想です。1980年代前半から長年付き合いがあった鈴木邦男氏とは義絶せざるをえませんでした。鈴木氏は、ああ見えても結構計算高い人で、私など小物よりも、辛淑玉、香山リカ、金明秀、安田浩一氏ら「のりこえねっと」に蝟集する著名人を選択したのだと思います。

この「反差別」運動において起きた問題について、常に私は「私の言っていることは間違っているか?」と自らにもみなさん方にも問いかけています。今回は中途半端に済ませることはできません。将来ある一人の大学院生が村八分(これは差別ではないのでしょうか?)にされ正当な謝罪や補償もなされず、マスコミも報じず、事件そのものが隠蔽され、極端に言えば闇に葬られようとしてます。ですから、取材も、私の長い出版人生の中で一番徹底して行いました。それは5冊の本に結実しています。

私は愚鈍・愚直な田舎者ですから、許せないことは許せません。齢を重ねて、少しは丸くなりましたが、それでもやはり生来染み付いた体質は変わりません。

これまでの人生を、人間として出版人として私なりに精一杯闘ってきたという自負ぐらいあります。「反差別チンピラ」(作家・森奈津子氏のしばき隊/カウンター評価)如きには負けません!

M君リンチ事件の真相究明と被害者救済にご支援を!!