滅多にテレビを観なくなった私だが、観なくてもテレビの情報はいくらでも入ってくる。半沢直樹が人気を博しただの、一方でショムニはコケてしまっただのという話は、ドラマを一話たりと観ていなくても知っている。どちらも会社が舞台になっているが、私の勤める会社で話題に出たことは一度もない。

先日半年ぶりぐらいにテレビを付けてみた。KAT-TUNの田中聖が脱退して、やくみつるが「『タトゥーン』として再デビューしてもらいたい」と発言したことでファンから猛バッシングを受けた、なんてことを流していた。チャンネルを変えると、今度はTPP問題だ。日本政府は「聖域」として守ると言っていた農作物の関税を、一部撤廃する方向だという。農家にとっての被害は最小限に留めるとのことだが、撤廃される作物を専門に生産している農家は食っていけるかどうかの瀬戸際に立たされてしまうだろう。さらにチャンネルを変えると、女子高生ストーカー殺人のニュースをやっていた。ちょうどニュースとワイドショーの時間だったのだ。

漠然とこれらのニュースを観ていて、どれも私個人に関係するものはない。「タトゥーン」はちょっと面白いと思ったが、KAT-TUNもやくみつるもファンでもなければ知り合いでもない。農家にとってTPPは死活問題になるが、それ以外の人には第三者的な立場でしかない。ストーカー殺人も加害者、被害者(女優として活躍していたようだが)共に初めて知る名前だった。

どれもこれも全く無関係の人の方が多いだろう。それでも毎日、個人に関係あろうとなかろうと、山ほど情報が発信されていく。耳に入った情報は意外と忘れずに残る。しかも調べようと思わなくても、インターネットを見れば同じニュースが、真偽混ざり合って語られている。

TPPについては、本来農作物だけの問題ではない。医療や保険の問題の方がまだ個人にとって重要な問題だ。TPPは国際協定であるため、国内法より優先的に守られるという恐れもある。そんなことはテレビでは言わない。ストーカー殺人ではネット上で当たり前に知られてしまっている情報を、テレビでは一切報じていなかった。勿論プライバシーの問題もあるから、何もかも公開すればいいわけではない。が、全く存在しないことのようにシャットアウトされてしまうと、テレビというメディアの限界を感じてしまう。

ネットの情報は確かなのか。誰でも意見が言える場なので間違いの方が多いだろう。言えることは、テレビだろうが新聞だろうがネットだろうが、わからないものはわからないのだ。今上げたニュースはたまたま目に入ったので取り上げただけだが、どれも個人的に無関係で、調べる必要があるわけでもない。テレビも新聞もネットも嘘をつくものである以上、所詮真実は当事者でないとわからないことだらけだ。もし実際当事者に話を聞けたら、また違った意見を持つことができるだろう。

わからない上に個人的に関係がない、興味もない情報が毎日山のように配信されている。遭遇していない殺人事件と、結果が見えない政治と、お目にかかることのない芸能人の話題。必要な情報はあるだろうか。知っておかなければならない重要事項になりうるだろうか。ただこれらをぼんやり眺めていると、今この部屋で生活している自分が、今日何を食べて、外出して何をして、何時に寝るという現実との乖離を感じるばかりだ。

家のテレビは、NHKの受信料を払うのが馬鹿らしいほど、滅多に番組を映さない。専らパソコンのモニターとして使っている。テレビを付けるときは、趣味の音楽制作をする時がほとんどだ。過多な情報を無尽蔵に仕入れるよりは、有効的な使い方かもしれない。

(戸次義継)