「餃子の王将」を全国展開する王将フードサービス(以下、王将)の社長・大東隆行さん(享年72)が2013年12月、何者かに銃撃され、死亡した事件は、19日で発生から6年を迎える。犯人はいまだ捕まらないままだが、なぜ捜査は難航しているのか?

ヒントは、「この事件に限らず、そもそも銃撃事件には、未解決の重大事件が多く存在すること」だ。そこに着目すると、この事件の捜査が難航する理由もおのずと察せられる。

◆主な未解決の銃撃事件とは・・・

この事件が起きたのは2013年12月19日の午前5時45分頃、場所は京都市山科区の王将本社前の駐車場だった。犯人は、車で出勤してきた大東さんを待ち伏せしており、腹部などに銃弾4発を撃ち込むと、バイクで逃走した。大東さんは心肺停止の状態で病院に搬送され、病院で死亡が確認された。

有名企業の社長が銃殺された事件は、当然のごとく大きな注目を集め、当初から様々な情報が飛び交った。数年前には、九州の暴力団の関与が疑われているとの情報がまことしやかに報じられたこともある。だが、発生からまもなく6年になる今も警察は被疑者検挙に至らない。事件はいつしか全国の重大未解決事件の1つに数えられるようになった。

大東さんはこのあたりに倒れていた。左手のレンガ造りの建物が王将本社

では、未解決の銃撃事件には、この他にどんな事件があるかを挙げてみよう。

・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・

①1987年5月 朝日新聞阪神支局襲撃事件(兵庫)
黒っぽい目出し帽をかぶった男が同支局に押し入り、男性記者2人を銃撃。うち1人が死亡した。2002年に公訴時効成立。

②1993年8月 阪和銀行副頭取射殺事件(和歌山)
朝、自宅からハイヤーに乗り込もうとした同銀行副頭取の男性が近づいてきた男に銃撃され、死亡。2008年に公訴時効成立。

③1994年9月 住友銀行名古屋支店長射殺事件(愛知)
支店長は自宅マンションのエレベーターホールで何者かに頭部を銃で撃たれ、死亡している状態で見つかった。2009年に公訴時効成立。

④1995年3月 警察庁長官狙撃事件(東京)
長官は朝、自宅マンションの前で何者かに撃たれ、腹部などに3発の銃弾を浴び、重傷を負った。2010年に公訴時効成立。

⑤1995年7月 スーパーナンペイ射殺事件(東京)
閉店後のスーパーで、女性従業員3人が頭部を撃たれて死亡。現場の現金には手がつけられていなかった。現在も捜査中。

⑥2002年11月 名古屋現金輸送車襲撃事件(愛知)
パチンコ店などが入るビルの駐車場で、現金輸送車の警備員が銃撃され、金を奪われた。警備員は現在も車いすの生活。2017年に公訴時効成立。

⑦2009年7月 鳥取タクシー運転手射殺事件(鳥取)
タクシー運転手は鳥取駅前から客として乗せた犯人に銃撃され、釣銭入れを盗まれた。病院に搬送されたが、死亡。現在も捜査中。

・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・

こうしてみると、銃撃事件には、未解決の事件が多い印象は否めないだろう。では、なぜ、銃撃事件の犯人はなかなか捕まらないのか。

捜査が難航する理由を事件ごとに指摘すれば、いくらでも指摘できるだろう。だが、つきつめて言えば、実にシンプルな話になる。

銃撃事件は、通常の殺人事件や殺人未遂事件に比べると、犯人が事前によく計画を考えたうえで犯行に及んでいる。それが、銃撃事件が未解決になりやすい理由である。

◆殺人犯や殺人未遂犯の多くは突発的、衝動的

これは事件取材や裁判の傍聴などをしているとわかることだが、殺人事件や殺人未遂事件の犯人は多くの場合、突発的、衝動的に犯行に及んでいる。「抵抗されたので、持参していた包丁で刺してしまいました」とか「被害者が大きな声を出したので、慌てて口を押えたら、気づいた時には死んでいました」とかいうケースがほとんどだ。ドラマや小説の殺人犯は、完全犯罪のために緻密な計画を立て、その計画通りに犯行を実行しているが、あのような殺人犯は現実にほとんど存在しないのだ。

対して、銃撃事件の犯人というのは、少なくとも銃を準備する程度に計画的である。さらにターゲットの行動を調べ、銃撃する場所や逃走手段なども考えている。

実際に王将の事件で見てみると、大東さんは毎朝、会社の誰よりも早く出社し、会社前の路上などを掃除していたというが、午前5時45分に会社の駐車場で犯行に及んだ犯人は当然、そのことを知っていただろう。おそらくは、大東さんが大企業の社長でありながら運転手を使わず、1人で車で出社することも知っていたはずだ。

王将本社。大東さんが自ら掃除していた玄関や会社前の路上は今も掃除が行き届いている

また、犯人が逃走に使ったバイクは離れた場所に乗り捨てられていたが、盗難されたものだったという。つまり、犯行に使ったバイクからアシがつかないように考えているわけだ。

上に挙げた他の未解決銃撃事件を見ても、どれも犯人は事前にターゲットの行動を調べ、犯行を実行しやすく、逃走しやすい場所や時間をある程度考えているのは明らかだ。他の多くの殺人事件のように突発的、衝動的に犯行に及んでいるような事件は見当たらない。

その程度のことで、警察が犯人を捕まえられないわけがないのでは・・・と思われた方もいるかもしれない。だが、それは警察の力を買いかぶっているか、あるいは、犯罪捜査を簡単に考えすぎではないかと思う。

完全犯罪を狙い、ある程度以上の能力を有する人間が相応の準備をして犯行に及べば、警察もそんなに簡単に検挙できるわけではない。未解決の銃撃事件が多く存在する事実は、そのことを裏づけている。

▼片岡健(かたおか けん)
全国各地で新旧様々な事件を取材している。近著に『平成監獄面会記 重大殺人犯7人と1人のリアル』(笠倉出版社)。同書のコミカライズ版『マンガ「獄中面会物語」』(笠倉出版社)も発売中。

月刊『紙の爆弾』2020年1月号 はびこる「ベネッセ」「上智大学」人脈 “アベ友政治”の食い物にされる教育行政他

「絶望の牢獄から無実を叫ぶ ―冤罪死刑囚八人の書画集―」(片岡健編/鹿砦社)