年初めの本興行としては空席目立つ静かな場内。大きな声援は出場選手の応援団ばかり。しかし、いつもながら交流戦が進む他団体首脳陣の顔触れが目立つ会場風景であった。坂上顕二理事長は初年度を乗り切り、二年目の舵取りはどう進むかも見所の興行。

メインイベントは度々耳にするISKAという世界機構の傘下にある王座のタイトルマッチ。国内も乱立しているが、世界的にも数々のタイトルがある中、ムエタイルールやキックルール、プロ空手式のルールによって、ヨーロッパやアメリカ、アジア各地でチャンピオンらの占めるエリアの片寄りがあるものの、比較的充実した展開を見せているISKA。

2019年の年間表彰式がリング上で行われ、年間最優秀選手は大田拓真。昨年は6月に新人(=あらと/ESG)からWBCムエタイ日本フェザー級王座を奪取し、11月にS-1ジャパン55㎏級トーナメント優勝。その決勝戦の馬渡亮太戦で年間最高試合賞も獲得。

最優秀選手:大田拓真(新興ムエタイ)
殊勲賞:波賀宙也(立川KBA)
敢闘賞:中野椋太(誠至会)
技能賞:健太(E.S.G)
努力賞:山浦俊一(新興ムエタイ)
新人賞:優心(京都野口)
女子最優秀選手賞:Ayaka(健心塾)
年間最高試合賞:大田拓真(新興ムエタイ)vs 馬渡亮太(治政館)
他、格闘技マスコミ各賞

2019年の年間表彰式。前列中央が年間最優秀選手の大田拓真(新興ムエタイ)

ロベルトの威圧的攻めでリズムを狂わされた前田浩喜

◎NJKF 2020 1st / 2月16日(日)後楽園ホール17:00~20:50
主催:ニュージャパンキックボクシング連盟(NJKF) / 認定:NJKF、ISKA

◆10 ISKAムエタイ・インターコンチネンタル・フェザー級王座決定戦 5回戦

前田浩喜(CORE/57.0kg)
    VS
ISKAイタリア・フェザー級8位.オリビア・ロベルト(イタリア/56.45kg)
勝者:オリビア・ロベルト / 判定1-2 / 主審:宮本和俊
副審:竹村48-47. 中山46-49. 多賀谷47-48

ロベルトの脚は細く、脆そうな体格だったが、見た目と実力は大きく差があった。

ロベルトの攻めが届く距離の取り方が上手かった

身長177センチからくる手足の長さを有効に使うロベルト。前田のローキックはその細い脚に幾度かヒットさせ、真っ赤に蹴り跡が残る。

ここから脚を殺してノックアウトに導くかと思えたが、ロベルトの重心の乗ったパンチを振り回して前田の顔面とボディーを打ち込み、長い脚から振り回してくるハイキックは厄介で、前田はリズムを作れず、蹴りやパンチも単発でヒットさせてもインパクトが足りない。

ズルズルとロベルトのペースに引き込まれたまま試合は終了。接戦の展開にも見えるが、前田陣営からも檄が飛ぶ、攻めの勢いが全く足りない試合だった。

前田浩喜は43戦26勝(16KO)14敗3分となった。

前田浩喜の勝機を導くローキックは効果的ながら、次第に少なくなった

手足の長いロベルトが活かした左ストレート

前田浩喜が攻めるがロベルトも返しが上手い

◆9 NJKFスーパーライト級タイトルマッチ 5回戦

畠山隼人の強打がヒットし、崩れ行く真吾YAMATO

チャンピオン.畠山隼人(E.S.G/62.9kg)vs1位.真吾YAMATO(大和/63.1kg)
勝者:畠山隼人 / KO 2R 2:46 / 3ノックダウン / 主審:少白竜
畠山隼人が初防衛

2018年6月に王座決定戦で対戦した両者。畠山がパンチの強打で制したが、今回は距離を保つ真吾が蹴りで主導権を奪う序盤の勢い。

畠山はスロースターター気味に出遅れた感があるが、強打を打込むタイミングを図り、倒す確信を持ったか、第2ラウンドに入ると目が覚めたように強打を振り回し始めた。

踏み込んで畠山の距離になると、フック系のパンチ連打で真吾の顎にヒットすると形勢逆転、効いてしまった真吾に連打を続け、フック気味に2度ノックダウンを奪うと、何とかこのラウンドを凌いで青コーナーに帰りたい真吾に逃がさず連打したところでレフェリーが止める3ノックダウン目となり、再び畠山の豪快ノックアウト勝利となって初防衛に成功。

28戦16勝(8KO)10敗2分となった畠山隼人。勝ったり負けたりだが、またスリリングな展開で上位を目指す。真吾YAMATOは22戦13勝(5KO)8敗1分。

畠山隼人の強打再び、真吾の顔面を打込む

倒すのは時間の問題、仕留めに掛かる畠山隼人の左ストレート

主導権を奪った波賀宙也の攻め

◆8 57.0kg契約3回戦

IBFムエタイ世界ジュニアフェザー級チャンピオン.波賀宙也(立川KBA/56.95kg) 
     VS
フアサン・オー・ユッタチャイ(タイ/56.5kg)
勝者:波賀宙也 / TKO 3R 2:08 / 主審:多賀谷敏朗

ローキックなど蹴りの様子見でフアサンの出方を見て先手を打って出た波賀。接近しても攻められても波賀の冷静な捌きがあった。
第2ラウンドには接近戦でのヒジ打ち、ヒザ蹴りの展開からパンチに繋いでノックダウンを奪うと更に余裕が出てきた波賀。
第3ラウンドも接近戦でヒジ打ちでノックダウンを奪い、更に左ヒジ打ちを顎に打ち込むとフアサンはその場で倒れ込み、レフェリーがカウントを始めたところですぐ試合をストップした。保持する世界王座の初防衛戦に向けて前哨戦を難なく突破した波賀宙也は40戦26勝(4KO)11敗3分。

接近戦の攻防からパンチでノックダウンを奪う波賀宙也

左ヒジ打ちをヒットさせた波賀宙也

左ヒジ打ちを食らった後、バッタリ倒れ込んだフアサン

◆7 56.0kg契約3回戦

WBCムエタイ日本フェザー級チャンピオン.大田拓真(新興ムエタイ/55.8kg)
     VS
バンラングーン・オー・ユッタチャイ(タイ/54.65kg)
勝者:バンラングーン / 判定0-3 / 主審:竹村光一
副審:少白竜28-30. 多賀谷27-30. 宮本27-30

蹴ってくる大田に前蹴りを合わせてバランス崩させるバンラングーン。大田の出方に合わせて空いた箇所を打込むのが上手い。大田の脇腹と背中に周るあたりは真っ赤に蹴られた跡が残った。2019年の年間最優秀選手賞を受賞したばかりの大田拓真に、また新たな試練を与えるような結果となった。大田拓真は24戦18勝(5KO)5敗1分。

◆6 59.0kg契約3回戦

WMC日本スーパーフェザー級チャンピオン.梅沢武彦(東京町田金子/58.8kg) 
     VS
J-NETWORKフェザー級チャンピオン.一仁(真樹AICHI/58.95kg)
引分け 三者三様 / 主審:中山宏美
副審:少白竜30-29. 竹村29-29. 多賀谷29-30

パンチと廻し蹴りの攻防が続く。接近戦での首相撲からのヒザ蹴りもあるが展開は少ない。主導権を奪うに至らない結果が残った。

一仁の左ジャブと梅沢武彦の左ミドルキックが交錯

◆5 60.0kg契約3回戦

NJKFスーパーフェザー級チャンピオン.山浦俊一(新興ムエタイ/61.85→61.75kg) 
    VS
NJKFライト級6位.羅向(ZERO/59.9kg)
勝者:山浦俊一 / 判定3-0(山浦に減点1を含む採点) / 主審:宮本和俊
副審:中山29-27. 竹村29-28. 多賀谷29-28 

◆4 フライ級3回戦

EIJI(E.S.G/50.8kg)vs優心(京都野口/50.85→50.8kg)
勝者:優心 / 判定0-3 / 主審:少白竜
副審:中山28-30. 竹村28-30. 宮本27-30

◆3 68.0kg契約3回戦

渡邊知久(Bombo Freely/67.4kg)vs宗方888(キング/67.85kg)
勝者:宗方888 / KO 1R 1:45 / 3ノックダウン / 主審:多賀谷敏朗

◆2 女子 アトム級(-46.266kg)3回戦(2分制)

亜美(OGUNI/46.0kg)vsねこ太(トイカツ/46.26kg)
勝者:亜美 / 判定3-0 / 主審:竹村光一
副審:多賀谷30-29. 少白竜30-29. 宮本30-29 

◆1 フライ級3回戦

悠(GRABS/50.15kg)vs谷津晴之(新興ムエタイ/50.4kg)
勝者:谷津晴之 / 判定0-3 / 主審:中山宏美
副審:多賀谷28-30. 少白竜28-30. 竹村28-30

《取材戦記》

昨年9月23日に獲得したIBFムエタイ世界ジュニアフェザー級王座を保持する波賀宙也の初防衛戦は獲得から9ヵ月の期限に合わせて6月14日に行なわれる予定。期限以内でももっと防衛戦を行なって欲しいところだが、プロボクシングとは違う興行事情があるのは仕方無いところだろう。

前田浩喜の対戦相手は“ロベルト・オリビア”か“オリビア・ロベルト”か。ファーストネームに“ロベルト”が付くプロボクサーは多い。ニュアンス的にロベルトがファーストネームとなる気がしたが、ISKA立会人に聞いてみると、あまり拘る様子無く、どっちでもいいらしい。本名と正式なリングネームはあるはずで、この辺は招聘したプロモーター側の発表次第だが、発表どおりに記載すると、「オリビア・ロベルトが王座獲得」となりました。

役員に囲まれて、チャンピオンベルトを巻き、認定証を受けたオリビア・ロベルト

畠山隼人に敗れた真吾YAMATOは3度目の王座挑戦も実らず倒されてしまった。この打たれたダメージと精神的ダメージは如何ほどか。真吾よりチーフセコンドが泣いていたことから、チームとしての試合に懸けるよほどの覚悟があったのだろう。そんな勝負の厳しさが伺える勝者と敗者の明暗だった。

反省点を述べつつ初防衛に成功、ラウンドガールとエスコートキッズの男の子に囲まれる畠山隼人

年間表彰式はプロスポーツ各競技でも実施されていて、プロ野球や競輪などは歴史は長く、プロボクシングも終戦後の1949年から始まっています。キックボクシングは各団体ごとの実施で行なわれない団体もあり、業界統一された表彰式はありません。

ニュージャパンキックボクシング連盟では毎年開催され、最優秀選手に大田拓真が選ばれたが、この団体内では順当な選出でしょう。ではキックボクシング業界統一的に視野を広げると、仮に誰が年間最優秀選手となるか。一概には言えないところ、誰もが察するのはあの選手でしょうか。

NJKFは関西支部により関西方面の興行が増えており、3月15日(日)に拳之会ジム主催「NJKF 2020.west 2nd」が岡山コンベンションセンターに於いて開催。翌週3月22日(日)には誠至会主催「NJKF 2020 west 3rd」が大阪市旭区民センター大ホールに於いて開催。

幾つかの地方興行を経て、6月14日(日)後楽園ホールに於いてNJKF主催本興行「NJKF 2020.2nd」が開催されます。

勝者・波賀宙也を波賀宙也を囲むラウンドガールとエスコートキッズの女の子

▼堀田春樹(ほった・はるき)[撮影・文]

フリーランスとしてキックボクシングの取材歴32年。「ナイタイ」「夕刊フジ」「実話ナックルズ」などにキックのレポートを展開。ムエタイにのめり込むあまりタイ仏門に出家。座右の銘は「頑張るけど無理しない」

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