◆政治の私物化を厭わない独裁者・菅義偉の正体が明らかに

おそらく政治の権限というものを、あまりにも単純に考えているのだ。国民の負託を受けた政治権力(総理大臣)は、その任免権において何をやっても許されるのだと。ヒトラーの全権委任法を、21世紀において実行しようとしているかのようだ。

日本学術会議の新会員任命(任期3年)について、菅総理は105名のうち6人を任命しないという処置をとった。史上初めてのことである。


◎[参考動画]日本学術会議 人事「NO」に野党追及(FNN 2020年10月2日)

そもそも学術会議は政府から独立した組織であり、その予算が内閣府傘下の予算建て(国庫から)になっていることから、形式上、総理大臣が任免することになっているに過ぎない。日本学術会議法はその第3条において、政治からの独立を宣言しているのだ。

「日本学術会議は独立して左の職務(一、科学に関する重要事項を審議し、その実現を図ること。二、科学に関する研究の連絡を図り、その能率を向上させること。)を行う」と。

ところが、その独立性を知らない菅総理は、政治主導(つまり官邸独裁)をここでも発揮してみせたのである。このことが、学問の自由をめぐる政治問題に発展するのは必至だ。はやくも国会論議の焦点が、いや国民的な大運動に発展させるべき案件が浮上したといえよう。学問の自由・独立が侵されたのだ。

というのも、任命されなかった学者のうち、国会で政府の法案に批判的だった人物が含まれているからだ。好ましからぬ人物(芸術家や研究者)を排除する。それはナチスドイツの文化政策と酷似している。

今回、推薦されながら任命されなかったのは、芦名定道京都大教授(哲学)、小沢隆一東京慈恵会医科大教授(憲法学)、宇野重規東京大教授(政治学)、岡田正則早稲田大教授(行政法学)、加藤陽子東京大教授(日本近代史)、松宮孝明立命館大教授(刑事法学)の人文社会科学系の6人である。

その大半に安保法制に反対してきた経緯があり、松宮教授は共謀法やテロ等準備罪法に反対し、国会で意見を述べているのだ。したがって、今回の任命拒否は、政府の政策・法案に反対する研究者は学術会議から排除する、という政治宣言にほかならない。


◎[参考動画]岡田正則早稲田大教授(行政法学)の会見(東京新聞 2020年10月2日)


◎[参考動画]小沢隆一東京慈恵会医科大教授(憲法学)の会見(東京新聞 2020年10月2日)

◆排除の理由を明らかにできない政府

政府は今回の任命拒否の理由を、絶対に明らかにできないであろう。

なぜならば、選考理由を明らかにすれば、任命拒否それ自体の違法性が露呈するからだ。まずは正面から、憲法23条に違反する違憲行為であることを指摘しておこう。

事実、加藤勝信官房長官は1日の記者会見で「内閣総理大臣の所轄であり、会員の人事等を通じて一定の監督権を行使するっていうことは法律上可能となっておりますから、まあ、それの範囲の中で行われているということでありますから、まあ、これが直ちに学問の自由の侵害ということにはつながらない。個々の選考理由は人事に関することでコメントを差し控える」と述べている。

今回の選考理由は、けっして任免を左右するような人事問題ではない。今回の政府による会員資格の当否が研究の中身にかかわる、と同時に政府批判にかかわることになるからだ。つまり研究の内容ではなく、研究者の政府批判が基準になっているのだから、もはや学問に政治介入するもの以外の何物でもない。いや、そもそも政府には研究活動の内容を選考理由にする基準は存在しないのだ(憲法23条「学問の自由は、これを保障する」)。


◎[参考動画]芦名定道京都大教授(哲学)=京都大学春秋講義「『戦争と平和』の時代とキリスト教」2016年4月13日 Part 1(Kyoto-U OCW 2019年2月20日)


◎[参考動画]宇野重規東京大教授(政治学)インタビュー(NIRA総合研究開発機構 2018年12月19日)

◆明らかな憲法違反である

過去の政府答弁を確認しておこう。

選挙で日本学術会議の会員を選ぶ制度に代わり、現在の推薦制度が導入された1983年の国会審議では、下記の政府答弁がなされている(参議院文教委員会8号、昭和58年5月12日)。長いが引用しておこう。

粕谷照美(社会党)「推薦制のことは別にしましてその次に移りますが、学術会議の会員について、いままでは総理大臣の任命行為がなかったわけですけれども、今度法律が通ると、あるわけですね。政府からの独立性、自主性を担保とするという意味もいままではあったと思いますが、この法律を通すことによってどういう状況の違いが出てくるかということを考えますと、私たちは非常に心配せざるを得ないわけです」

手塚康夫(政府委員)「前回の高木先生の御質問に対するお答えでも申し上げましたように、私どもは、実質的に総理大臣の任命で会員の任命を左右するということは考えておりません。確かに誤解を受けるのは、推薦制という言葉とそれから総理大臣の任命という言葉は結びついているものですから、中身をなかなか御理解できない方は、何か多数推薦されたうちから総理大臣がいい人を選ぶのじゃないか、そういう印象を与えているのじゃないかという感じが最近私もしてまいったのですが、仕組みをよく見ていただけばわかりますように、研連から出していただくのはちょうど二百十名ぴったりを出していただくということにしているわけでございます。それでそれを私の方に上げてまいりましたら、それを形式的に任命行為を行う。この点は、従来の場合には選挙によっていたために任命というのが必要がなかったのですが、こういう形の場合には形式的にはやむを得ません。そういうことで任命制を置いておりますが、これが実質的なものだというふうには私ども理解しておりません」

形式的な任命権である、と明言しているのだ。したがって「学術会議に監督権を行使することが法律上可能」という加藤官房長官の発言は、日本学術会議法7条2項(会員は、第17条の規定による推薦に基づいて、内閣総理大臣が任命する。)について「総理大臣の任命権は形式的なものに過ぎない」とする政府の国会答弁(従って公権解釈)と明確に矛盾するのだ。

菅総理は自民党総裁選の段階から、官僚の人事について「私ども、選挙で選ばれてますから、何をやるかという方向が決定したのに反対するのであれば異動してもらいます」と明言してきた。

これを学術団体にまで適用したのが、今回の任命拒否なのである。いうまでもないことだが、日本学術会議の構成員は行政官僚ではなく、それぞれが独立した研究者である。このような政治介入がまかり通るのであれば、コロナ対策における専門家会議が政府の都合(失敗を隠ぺい)で廃止されたり、御用学者の意見のみを根拠として政策が実行されていくことになる。

いや、そもそも安保法制のように、9割をこえる憲法学者が反対をする政策が、無批判に行なわれることを意味するのだ。メディア関係者との会食をくり返して、報道内容に手心を加えさせる。あるいはニュース番組の人事に介入し、放映権をかたに政府寄りに報道を捻じ曲げようとしてきた自民党政権において、寡黙な実務派である菅総理が、本領を発揮し始めたとみるべきであろう。いまこそ寡黙な独裁者の言動を国民的にあばき出し、その政治的な死を強いなければならない。


◎[参考動画]加藤陽子東京大教授(日本近代史)『それでも、日本人は「戦争」を選んだ』(FM放送ラジオ番組ベストセラーズチャンネル 2015年12月25日)


◎[参考動画]松宮孝明立命館大教授(刑事法学)【テロ等準備罪】【共謀罪】参考人意見陳述【参議院法務】(※動画33分50秒~)2017年6月1日(shakai nomado 2017年6月9日)

▼横山茂彦(よこやま・しげひこ)

編集者・著述業・歴史研究家。歴史関連の著書・共著に『合戦場の女たち』(情況新書)『軍師・官兵衛に学ぶ経営学』(宝島文庫)『闇の後醍醐銭』(叢文社)『真田丸のナゾ』(サイゾー)『日本史の新常識』(文春新書)『天皇125代全史』(スタンダーズ)『世にも奇妙な日本史』(宙出版)など。医科学系の著書・共著に『「買ってはいけない」は買ってはいけない』(夏目書房)『ホントに効くのかアガリスク』(鹿砦社)『走って直すガン』(徳間書店)『新ガン治療のウソと10年寿命を長くする本当の癌治療』(双葉社)『ガンになりにくい食生活』(鹿砦社ライブラリー)など。

月刊『紙の爆弾』2020年10月号【特集】さらば、安倍晋三

〈原発なき社会〉を求めて『NO NUKES voice』Vol.25