「都民の生活を守る」「働きやすい環境づくりを」と、都知事選の候補者達が連日街頭演説を繰り返している1月末、労働派遣法の改正案が国会に提出される見込みとなった。厚生労働省の労働政策審議会が最終報告をまとめたからだ。

以前も少し書いたが、1つの業務を派遣社員に任せるのは、一部職種を除いて3年が上限とされていた。この改正案では1人の派遣社員は3年以上就業させられないことは変わらないが、会社は同じ業務に別の派遣社員を雇うことで、年数の上限無く派遣社員を使い続けられる。企業に優しく労働者には厳しいだけの改正案だが、昨年夏に意見が出されて以来、問題なく事が進んでいる。一般人からは反対意見ばかりが出ているのだが。

メディアも派遣社員の使い捨て、正社員の派遣化に繋がると批判的だ。だがそうはならないと最近思うようになってきた。この改正案が通ったとしても、現状は何も変わらないと思われる。現在企業は、派遣社員が3年同じ業務に就いた後は、その業務で派遣社員を使ってはいけないことになっている。現実的にはその業務に就いていた派遣社員を正社員にして、引き続き業務に当たってもらうのが自然なのだが、そうはならない。

ではどうしているかというと、問題のある派遣社員の場合は契約満了ということで会社から出て行くことになるが、そうではない優秀な派遣社員の場合は、部署名や肩書を変えて、全く同じ業務を続けさせているのだ。あるいは、少しだけ業務内容を変えて、以前の通り就業を続けさせたりしている。要は同一の立場で同一の業務でなければ、派遣社員を使い続けることに問題はない。それが名目だけが変わったものだとしても。

つまり今回の改正案が実施されたとしても、何も変わらない。3年という期限があっても、別の肩書を与えれば同じ業務を延々続けさせることができる。優秀な派遣社員はそうやって使い続けるだろう。一度派遣になってしまえばキャリアアップや昇給の機会も無いまま、ずっと派遣だ。もし能力や人物に問題があると判断されれば、法を盾に会社から出すのも容易い。働く側にとっては何の変化もない。

ではこの改正案を通してもいいのか、というわけでもない。1人の派遣社員は3年が上限だが、業務は3年以上無期限で派遣を使えるのだから、いざという時企業が言い逃れをする抜け道を作ることになるだろう。働く側には何の変化もないが、法は確実に労働者を締め付けてくるものだ。メディアや一般の反対もどこ吹く風と、国会提出まで進んでいく。

連日、都知事候補者の街頭演説を聞きながら、ふと思う。彼らの中で、この派遣法の改正案について、真っ向から反対して動いた人は1人でもいるのだろうか、と。

(戸次義継)