反体制、暴力、ドラッグ。こういったロックのイメージを決定付けた、あるいは体現したと言ってもいい。そんなローリング・ストーンズだが、ライブを観れば必ずしもそんなレッテルがくだらないことだとわかる。

音楽に対してはストイックなグループだ。ステージ上で楽器を破壊することも無ければ、暴力的に暴れることもない。以前、ミックがノリで、歌いながらドラムセットを蹴ったことがある。ライブ終了後、チャーリーがミックの元に駆け寄り「俺のドラムセットに2度と触れるんじゃねえ」と激怒したという話がある。それ以来他のメンバーの楽器に手を出すようなことはない。

ただ爆音を響かせるバンドでもない。ストーンズは間を重要視する。今回のライブでもそうだ。「Miss you」や「Gimme shelter」では曲間にほとんどの楽器を止め、ベースだけをしばらく鳴らし続けたり、ドラムだけが静かに響いているという場面が多い。大音量と激しいプレイを売りにするハードロックやヘビ、メタルと決定的に違うところだ。

それは、ストーンズの根底にブルースがあることに理由がある。キースは以前、自著に書いている。「ブルースは間が重要だ。音がしないところで音楽を感じるんだ。常にジャカジャカ鳴っている音楽はあまり好きじゃない」と。

ストーンズはデビューして以来、若者への影響力を英米政府に危惧された。保守的な時代背景もある。英国政府は、若者にドラッグが蔓延し、不良化すると本気で恐れていた。そのためストーンズは常に警察に見張られていた。ライブ中、警備側と客のトラブルで刃傷沙汰になることもあった。ドラッグで逮捕されてからは国外退去という目にも遭った。

ミックにしてもキースにしても、ドラッグ崇拝者というわけではない。当時の社会背景が根底にあり、はっきりいえば60年代当時のロックミュージシャンで、ドラッグをやらない人の方が珍しいぐらいだった。社会的影響力の強いストーンズは見せしめとして逮捕された側面がある。ストーンズを通してロックの反体制、暴力、ドラッグは結び付けられていった。

彼らのライブを観ると、いろいろ感じるところがある。定番の「Get off my cloud」(1日目)や「Start me up」(2日目)でスタートし、往年の名曲と新曲を混ぜて演奏する。ステージ上を走り回るが、暴力的な行為はない。尤も、今となっては年齢的な理由もあるだろうが……

ミックは「Angie」を静かに歌う。チャーリーは終始、クールにドラムを叩く。ロンは時に飛び跳ねたりしながらギターを弾く横で、キースは会場を見まわしながら淡々とギターを弾く。ストーンズはIt’s only rock’n’roll bandだ。今更金が必要でもなければ、高齢バンド記録を塗り替えたいわけでもない。ただ音楽が好きで、バンドをやりたいからやっているだけだ。

1990年まで、ストーンズは米国での逮捕の影響で、日本への入国が認められなかった。50年以上の歴史を持つバンドを、四半世紀日本のファンは見ることが出来なかった。ミックはこの日、日本語でステージに叫ぶ。
「今日ハ、27回目ノ、東京ドームデス」
ライブが好きなだけのバンドだ。「You can’t always get what you want」で客席と一緒に合唱をする。そんなことが好きなのだ。メディアや当局が付けた反社会的なイメージは、ライブには関係ない。「最もドラッグで死にそうなロック・スター」に10年連続で選ばれたキースも、過去の話だ。ジャンキーを克服し、今、東京ドームでギターを弾いている。

最後に最も有名な「Satisfaction」で締めて、東京ドームでのライブは終わった。最終日の公演を観た安倍首相は報道陣に「Satisfaction(満足)だった」と答えた。本当にそうなら、もう安倍首相はストーンズのライブを観る必要はないだろう。ミックが最後に「No satisfaction」と連呼したように、彼らはまだ満足していない。いつまで経っても満足できない若者、中年、高齢者のために「(I can’t get no)Satisfaction」と歌い続けるのだ。何より、70歳を過ぎても満足できない本人達が、この先も演奏し続けるのだ。

(戸次義継)