プロ野球12球団のうち、楽天イーグルスと広島東洋カープはよく似たところがいくつかある。

まず、それぞれの本拠地である仙台と広島は、本州の端っこのほうにある地方都市で、両球団共に地元では圧倒的な人気がある。また、楽天は親会社の創業者である三木谷浩史氏、独立採算制のカープはオーナーの松田元氏がいずれも球団内で絶対的な存在であるところも似た点だ。

もっとも、両球団は球団としての歴史が大きく異なり、それゆえに文化や考え方も対照的だ。それが鮮明になったのが、先日、楽天の元エース「マー君」こと田中将大投手がMLBヤンキースから楽天に復帰が決まった時だった。

◆元エースの復帰を球団ホームページで発表した楽天に対し、カープは……

まず、楽天は田中投手が復帰するという情報をどのように発表したか。

球団ホームページで「マー君復帰」を発表した楽天

楽天は1月28日午後5時30分頃、この情報を球団ホームページで正式発表した。それをうけ、各メディアが次々に速報を配信した。球団の正式発表と共にヨーイドンで報道合戦が始まったわけだが、たちまち広まった「マー君が楽天に復帰」という情報は国内はもとより、米国の野球ファンたちにも驚きを与えていたようだ。

一方、カープでも6年余り前によく似たことがあった。かつてチームのエースだったMLBヤンキース黒田博樹投手の電撃復帰だ。MLBで5年連続二桁勝利を収め、複数球団から年俸20億円前後のオファーがあった中、年俸4億円の条件で愛着のある古巣に復帰した黒田投手の決断は「おとこ気」と言われ、社会的な関心事になったほどだった。

そんな黒田投手の復帰について、第一報を伝えたのは中国新聞だった。同紙は2014年12月27日、この情報を朝刊1面で〈黒田、カープ復帰へ〉と単独スクープしている。カープは同日、黒田投手のカープ復帰を正式発表したが、地元紙である同紙にだけは前日に情報を伝えていたわけだ。

田中投手の復帰を球団ホームページで発表した楽天の場合、特定メディアを特別扱いしなかったどころか、全世界に同時にこの情報を伝えたわけで、両球団の情報発信の仕方は好対照である。

黒田投手のカープ復帰を単独スクープした中国新聞(2014年12月27日朝刊1面)

◆元エース復帰の伝え方がなぜ、こうも違うのか

さて、私がここでしたいのは、楽天とカープのどちらが良くて、どちらが悪いという話ではない。

楽天の場合、親会社はオールドメディアに対抗する形で台頭してきたIT企業の代表格である。それが今回の「球団ホームページで全世界に一斉発表」という形になって現れたのだろう。

一方、カープは戦後間もない被爆地に市民球団として誕生して以来、地元の財界に支えられ、存続してきた歴史がある。他ならぬ中国新聞もカープを支えてきた地元有力企業の1つだ。それが「中国新聞は特別扱いして当たり前」という形になって現れたのだろう。

よく似たところがある2球団でよく似たことが起こり、それによって両球団の歴史の違いが鮮明になった。私は単純にそのことを興味深く感じたのである。

この両球団が今年の秋、日本シリーズで相まみえるようなことがあれば、田中投手が投げる日はぜひ、黒田氏にテレビ中継の解説をお願いしたい……と思ったりもしたが、両球団の戦力的に実現は難しかったりするだろうか?


◎[参考動画]田中将大投手が楽天復帰 背番号は「18」(TBS 2021年1月30日)

▼片岡 健(かたおか けん)
ノンフィクションライター。拙著『平成監獄面会記』がコミカライズされた『マンガ「獄中面会物語」』(画・塚原洋一、笠倉出版社)がネット書店で配信中。

月刊『紙の爆弾』2021年2月号 日本のための7つの「正論」他

「絶望の牢獄から無実を叫ぶ ―冤罪死刑囚八人の書画集―」(片岡健編/鹿砦社)