3.11大震災・原発事故10周年に、『NO NUKES voice』Vol.27が発行された。2014年の創刊から6年半、日本で唯一の反原発雑誌が持続していることは、そのまま反原発運動の持続力あってのことだ。そして運動の持続性に応える版元の努力も讃えられてしかるべきであろう。

 

『NO NUKES voice』Vol.27 《総力特集》〈3・11〉から10年 震災列島から原発をなくす道

おやっ、と思ったのは、本誌表2(編集用語で表紙裏です)に東洋書店新社という出版社の広告が入っていることだ。書名は『原発「廃炉」地域ハンドブック』(尾松亮・編)である。ロシア・東欧をテーマにした版元のようで、出版物をみると版元のこだわりが感じられる。版元の親会社をみると、わたしのような編集者には「あぁ、なるほど」とわかるわけだが、何にしても出版不況のなかで、こだわりを持った版元が頑張っているのは心強いというか、かたちだけでも応援したくなる。

『紙の爆弾』の先行誌ともいうべき『噂の眞相』も暴露雑誌ゆえに、とくに編集長の岡留安則氏(故人)の周辺や、編集部行きつけの居酒屋の広告は入っても、一般企業や出版社は限定的だった。その事情は『紙の爆弾』も本誌『NO NUKES voice』も同じで、なかなか広告取りはかなわない。万単位の配本があるのに比してである。

一般に雑誌の採算が取れるのは、紙広告の衰退(ネット広告の全盛による)にもかかわらず、最低限の編集費・製作費はAD(広告)でまかなわれる。ないしは現在ではコンビニ販売を取り付けて、安価大量販売(といっても2万部前後)をはかる以外に、なかなか雑誌の販路は開けない。

そんな中で、運動関係であれ反原発書籍限定であれ、本誌を広告が支えていくのであれば、さらに持続力は増すであろう。

◆読み応えがある菅直人、孫崎享、小出裕章の論考

前置きが長くなった。本誌の中身に入ろう。

巻頭カラーは「双葉町原発PR看板標語」運動の大沼勇治さんの10年を写真で追う。そして菅直人元総理による、原発事故からの10年をふり返って、である。さすがに読みごたえがある。

とくに「原発から再生エネルギーへ」「農地を利用した営農型太陽光発電」の提言は、この10年間の省エネ発電の普及、長島彬さん考案の「ソーラーシェアリング」など、具体性があって良いと思う。

※長島さんの『日本を変える、世界を変える!「ソーラーシェアリング」のすすめ』(発行:リックテレコム)に詳しい。

オンカロを視察する菅直人元首相(写真提供=菅直人事務所)

孫崎享さん(東アジア共同体研究所所長)の「二〇二一年 日本と世界はどう変わるか」は、国民の決定権の問題、報道の自由など、民主主義の根幹にかかわる問題を提起する。アメリカの衰退のなかで、世界はどう変わっていくのか。左派のシンクタンクともいえる分析に加えて、いくつかの提案も含まれている。

たんぽぽ舎で講演する孫崎享さん(元外務省国際情報局長/東アジア共同体研究所所長)

小出裕章さん(元京都大学原子炉実験助教)は「六ヶ所村再処理工場の大事故は防げるのか」として、六ヶ所村で事故が起きたとのシミュレーションである。講演録をもとにしているので、パワーポイントの図表がわかりやすい。さてその仮定の結果は、本誌をお読みいただきたい。その悲劇的な結末は、思わず人に話したくなるものだ。

大阪で講演する小出裕章さん(元京都大学原子炉実験所助教)

◆コロナ下で大衆運動はどう立ち上がるか
「さようなら原発」鎌田慧×「たんぽぽ舎」柳田真の対談

鎌田慧さんと柳田真さんの対談は、コロナ下で制約されている大衆運動について、運動の内部まで検証するものになっている。内部の弊害では、先行する運動体の前衛意識と防衛本能。運動もまた、人間の縄張りなのである。

もうひとつは、若者の参加が一時的にはシールズのようなものはあったが、やはり少ないということだろう。鎌田さんは労働運動の弱体化をその原因のひとつに挙げ、いっぽうで生協運動の大きなプラットホームの有効性を語っている。今後の課題は、やはり対面の集会、小さくてもいいから顔を合わせる活動の再開であろう。

左から鎌田慧さん(ルポライター)と柳田真さん(たんぽぽ舎共同代表)

◆哲学は原子力といかに向かい合ってきたか

板坂剛の「新・悪書追放シリーズ 第1弾」の歯牙にかかるのは、ケント・ギルバート『強い日本が平和をもたらす 日米同盟の真実』である。この本に「真実」がないことを揚げ足取り的に、完膚なきまでに論破する。一服の清涼剤である。

拙稿「哲学は原子力といかに向かい合ってきたか」は、『原子力の哲学』(戸谷洋志)と『3.11以降の科学・技術・社会』(野家啓一)を扱った。哲学書(今回は解説書)を簡単に読む方法、お伝えします。

同じく、哲学の歴史的考察から、その現代への適用をわかりやすく解読したのが、山田悦子さんの「人類はこのまま存在し続ける意義があるか否か」である。この論考は前号(Vol.26)の後編である。よく勉強しているなぁ、という印象だ。

SDGs(持続可能な開発目標)も人類の欲望の亜種にすぎず、地球の尊厳を歴史の理念基盤にするべきだとの主張は、もうすこし具現化されるべきであろう。男女二項対立の図式も、やや古いリブの思想に見えてしまう。おそらく生産力主義を批判するあまり、論者の人類の将来が多様性の視点に欠ける(抽象化される)からであろう。とはいえ、その男性社会への批判的視点には正当性がある。

最後に、乱鬼龍さんの「読者文芸欄」をつくる提案は良いと思う。ただし、運動の表現としてのみ、川柳や俳句を扱ってしまうと、運動への芸術文化の従属という、古い課題に逢着するはずだ。文化活動に尊厳を持つ選者や評者があっての文化コーナーではないだろうか。この批評の冒頭にあげた、雑誌の持続力が読者参加にあるのは言うまでもない。

▼横山茂彦(よこやま・しげひこ)

編集者・著述業・歴史研究家。歴史関連の著書・共著に『合戦場の女たち』(情況新書)『軍師・官兵衛に学ぶ経営学』(宝島文庫)『闇の後醍醐銭』(叢文社)『真田丸のナゾ』(サイゾー)『日本史の新常識』(文春新書)『天皇125代全史』(スタンダーズ)『世にも奇妙な日本史』(宙出版)など。医科学系の著書・共著に『「買ってはいけない」は買ってはいけない』(夏目書房)『ホントに効くのかアガリスク』(鹿砦社)『走って直すガン』(徳間書店)『新ガン治療のウソと10年寿命を長くする本当の癌治療』(双葉社)『ガンになりにくい食生活』(鹿砦社ライブラリー)など。

『NO NUKES voice』Vol.27
紙の爆弾2021年4月号増刊

[グラビア]
3.11時の内閣総理大臣が振り返る原発震災の軌跡
原発被災地・記憶の〈風化〉に抗う

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《総力特集》〈3・11〉から10年 震災列島から原発をなくす道
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[報告]菅 直人さん(元内閣総理大臣/衆議院議員)
日本の原発は全廃炉しかない
原発から再エネ・水素社会の時代へ

[報告]孫崎 享さん(元外務省国際情報局長/東アジア共同体研究所所長)
二〇二一年 日本と世界はどう変わるか

[講演]小出裕章さん(元京都大学原子炉実験所助教)
六ケ所村再処理工場の大事故は防げるのか
   
[報告]おしどりマコさん(芸人/記者)
東電柏崎刈羽原発IDカード不正使用の酷すぎる実態

[対談]鎌田慧さん(ルポライター)×柳田真さん(たんぽぽ舎共同代表)
コロナ下で大衆運動はどう立ち上がるか
「さようなら原発」とたんぽぽ舎の場合

[報告]大沼勇治さん(双葉町原発PR看板標語考案者)
〈復興〉から〈風化〉へ コロナ禍で消される原発被災地の記憶
   
[報告]森松明希子さん(原発賠償関西訴訟原告団代表)
「被ばくからの自由」という基本的人権の確立を求めて

[報告]島 明美さん(個人被ばく線量計データ利用の検証と市民環境を考える協議会代表)
10年前から「非常事態」が日常だった私たち

[報告]伊達信夫さん(原発事故広域避難者団体役員)
《徹底検証》「原発事故避難」これまでと現在〈11〉
避難者にとっての事故発生後十年

[報告]鈴木博喜さん(『民の声新聞』発行人)
原発事故被害の枠外に置かれた福島県中通りの人たち・法廷闘争の軌跡

[報告]尾崎美代子さん(西成「集い処はな」店主)
コロナ収束まで原発の停止を!
感染防止と放射能防護は両立できない

[報告]山崎久隆さん(たんぽぽ舎共同代表)
柏崎刈羽原発で何が起きているのか

[報告]板坂 剛さん(作家・舞踊家)
新・悪書追放シリーズ 第1弾 
ケント・ギルバート『強い日本が平和をもたらす 日米同盟の真実』

[報告]三上 治さん(「経産省前テントひろば」スタッフ)
コロナ禍の世界では想像しないことが起きる

[書評]横山茂彦さん(編集者・著述業)
《書評》哲学は原子力といかに向かい合ってきたか
戸谷洋志『原子力の哲学』と野家啓一『3・11以後の科学・技術・社会』

[報告]山田悦子さん(甲山事件冤罪被害者)
山田悦子の語る世界〈11〉 人類はこのまま存在し続ける意義があるか否か(下)

[読者投稿]大今 歩さん(農業・高校講師)
「核のごみ」は地層処分してはいけない

[報告]市原みちえさん(いのちのギャラリー)
鎌田慧さんが語る「永山則夫と六ケ所村」で見えてきたこと

[報告]再稼働阻止全国ネットワーク
コロナ下でも工夫して会議開催! 大衆的集会をめざす全国各地!
《全国》柳田 真さん(たんぽぽ舎、再稼働阻止全国ネットワーク)
三月の原発反対大衆行動──関西、東京、仙台などで大きな集会
《女川原発》舘脇章宏さん(みやぎ脱原発・風の会)
民意を無視した女川原発二号機の「地元同意」は許されない!
《福島》橋本あきさん(福島在住)
あれから10年 これから何年? 原発事故の後遺症は果てしなく広がっている
《東海第二》阿部功志さん(東海村議会議員)
東海第二原発をめぐる現状 
原電、工事契約難航 東海村の「自分ごと化会議」の問題点
《東京電力》渡辺秀之さん(東電本店合同抗議実行委員会)
東電本店合同抗議について―二〇一三年から九年目
東電福島第一原発事故を忘れない 柏崎刈羽原発の再稼働許さん
《規制委・経産省》木村雅英さん(再稼働阻止全国ネットワーク/経産省前テントひろば)
新型コロナ下でも毎週続けている抗議行動
《高浜原発》木原壯林さん(老朽原発うごかすな!実行委員会)
関電よ 老朽原発うごかすな! 高浜全国集会
3月20日(土)に大集会と高浜町内デモ
《老朽原発》けしば誠一さん(杉並区議/反原発自治体議員・市民連盟事務局次長)
大飯原発設置許可取り消し判決を活かし、美浜3号機、高浜1・2号機、東海第二を止めよう
《核兵器禁止条約》渡辺寿子さん(たんぽぽ舎ボランティア、核開発に反対する会)
世界のヒバクシャの願い結実 核兵器禁止条約発効
新START延長するも「使える」小型核兵器の開発、配備進む
《読書案内》天野恵一さん(再稼働阻止全国ネットワーク)
山本行雄『制定しよう 放射能汚染防止法』
《提案》乱 鬼龍さん(川柳人)
『NO NUKES voice』を、もう100部売る方法
本誌の2、3頁を使って「読者文芸欄」を作ることを提案

『NO NUKES voice』Vol.27 《総力特集》〈3・11〉から10年 震災列島から原発をなくす道

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