◆橋本聖子・大会組織委会長の言う「広島と長崎から平和のメッセージを発信してほしいという依頼を地元からいただいている」は本当か?

7月9日付けデイリースポーツによれば、「感染拡大が続く中で、前日(7月8日)に来日したバッハ会長は16日に広島を、コーツ調整委員長が長崎を訪問する予定となっており、東京からの移動することなどに批判が集まっている。橋本(聖子)会長は『根本原則は平和。被爆国である日本が、広島と長崎から平和のメッセージを発信してほしいという依頼を地元からいただいている』と強調した」という。

さて、橋本会長の言う「広島と長崎から平和のメッセージを発信してほしいという依頼を地元からいただいている」は本当だろうか。7月9日午後、広島市役所に電話取材を行ったところ「市としてIOCバッハ会長の招聘をしている事実はないので、県に問い合わせてほしい」と県の「平和担当プロジェクトチーム」をご紹介いただけた。早速同部署に電話で取材すると担当者からは以下の通り回答を得た。

◆バッハ会長から直接広島来訪の要請はなかった?

田所  橋本聖子五輪組織委員会の会長が、広島から招聘されたのでIOCのバッハ会長は広島訪問の調整をしていると一部で報道されていますが、IOC会長のバッハさんに広島県は広島訪問を要請なさっているのでしょうか?

担当者 従来からバッハ会長が広島を訪問したい、という意向は伺っておりましたので、時間があれば広島にお越しいただきたい、ということはお願いしてきました。

田所  従来というのはいつごろからですか?

担当者 オリンピックに向けて2020年開始の予定でしたが、その聖火リレーの前にも『広島に行きたい』というお話を伺がった記憶があります。

田所  東京五輪の招致が決まったのは2013年です。2013年からあまり遠くない時期からIOC会長が広島訪問の意向があった、ということでしょうか?

担当者 いえ、2020年に近くなってからだと思います。

田所  4、5年前ではなく、昨年は延期されましたが、昨年近くになって『広島を訪問したい』という意向が示されたわけですね?

担当者 直接要請されたわけではなく、そういう要望をお持ちであると報道を通じて聞いていましたので……。

田所  バッハ氏から直接広島来訪の要請はなかったわけですね?

担当者 直接はなかったです。

◆バッハ会長はいつごろ広島訪問の準備をしていたのか?

田所  去年も広島県はご準備なさっていたのでしょうか?

担当者 去年は準備の段階にもいかないところで、『五輪延期』となりましたので、準備をしていたわけではありません。

田所  昨年はそれぐらいぎりぎりのタイミングだったのですね。今年はどうだったのでしょうか?

担当者 今年は5月に聖火リレーがありまして、その頃に『会長は広島に行きたがっている』ということを伺っていたものですから。

田所  ちょっと待ってください。『調整している』というのは広島県の方がバッハ氏を招聘するのではなく、IOCがバッハ氏のスケジュールを調整している、ということですね?

担当者 そうです。

田所  いま、また東京には『緊急事態宣言』が出ていますがバッハ会長は東京から広島にはいつごろ訪問の準備をなさっていますか?

担当者 先月IOCが発表されたのは7月16日に広島に来られる予定で調整中と伺っておりますので。

田所  16日というのは『広島が来てください』と招聘したのではなく、IOCが日程調整中という意味ですね?

担当者 広島側としてもバッハ会長の意向を受けて『是非広島に来てください』とはお願いしております。

田所  『バッハさんの意向を受けて』ということですね。広島側からバッハ会長に『広島に来てください』というアクションが最初にあったわけではない、ということですね?

担当者 そうです。

◆橋本聖子組織委会長が語っていたことはほぼ嘘だった

つまりIOC会長という「権力の椅子」に座った人間に意向は、日本政府はもちろんのこと、広島県には「無言で圧力」をかけていたのだ。これほど被爆者として屈辱的なことはない。

橋本聖子組織委会長が、口から出まかせに語っていたことはほぼ嘘だったのだ。地元広島県には「もう少し毅然とした態度」を期待したいと、思わぬでもないけれども、結局自分で「暴く」しかないのであろう。

薄ら寒い2021年7月だ。

▼田所敏夫(たどころ としお)
兵庫県生まれ、会社員、大学職員を経て現在は著述業。大手メディアの追求しないテーマを追い、アジアをはじめとする国際問題、教育問題などに関心を持つ。※本コラムへのご意見ご感想はメールアドレスtadokoro_toshio@yahoo.co.jpまでお寄せください。

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