石棺のような窓のない建築物。出入口に配備された警備員。

 

最高裁判所(出典:ウィキペディア)

外界とは厚い壁で隔てられ、通信手段は郵便だけに限定され、メールもファックスも通じない。

最高裁判所には不可解なグレーゾーンがある。その中で何が進行しているのか──。

今年に入って、わたしは最高裁の実態を調べるための一歩を踏み出した。情報公開制度を利用して、複数の「役所」から最高裁に関連する情報を入手した。

◆元最高裁長官らが退官後に宮内庁参与に

最高裁長官を退任した寺田逸郎氏と竹崎博允氏が、宮内庁参与に就任したことは、人事に関する新聞記事などから判明している。両氏とも安倍晋三内閣の時代に宮内庁参与の「職」を得ている。今後も「最高裁長官から宮内庁参与」へのコースが準備されていく可能性がある。

筆者は、情報公開請求により、元最高裁長官の寺田・竹崎の両氏と宮内庁の関係を調査した。

ちなみに宮内庁参与とは、天皇家の相談役である。宮内庁の説明によると、内庁参与は国家公務員ではないが、賜与(日本国語大辞典:〈しよ〉、 身分の高い人が下の者に、金品を与えること)というかたちで内廷費の中から相談料を受け取っている。

【内廷費】皇室経済法に基づき天皇及び内廷にある皇族[1]の日常の費用その他内廷諸費[2]に充当されるため支出される費用。より具体的には、第4条第1項の条文を根拠とする。(ウィキペディア)

 情報公開請求の内容は、次の3項目である。

1、寺田逸郎宮内庁参与の就任から、2021年8月までの勤務実態を示す資料

2、竹崎博允(元宮内庁参与)の在任期間中の出勤実態を示す資料

3、宮内庁参与に対して内廷費から支給された経費が分かる文書。期間は、2011年度から2020年度の10年間

 宮内庁によると、「1」と「2」に関連した資料(勤務実態に関するもの)は、存在しないとのことだった。宮内庁参与と宮内庁との間には雇用関係がないからというのがその理由だ。あくまでも、「陛下」から宮内庁参与にプライベートに相談をお願いする形式を取っているという。従って宮内庁が、宮内庁参与の勤務実態を把握することはできないという論理である。

 

書面の例(令和2年6月の書面)

が、勤務実態がないにもかかわらず宮内庁は、次に示すように宮内庁参与に対して報酬を支給してきた。「3」については公開したのである。

◆支給日が不明なケースが多数

宮内庁が公開した資料は、稟議書の類である。各書面に次のような記述がある。

「天皇皇后両陛下から、下記のとおり賜ってよろしいか、お伺い申し上げます」

しかし、「決裁日」と「施行日」の欄の大半は空白にしている。他の箇所については、その大半を黒塗りにしている。これでは開示資料とはいえない。参考までに「令和2年」6月のものを紹介しよう。

●書面の例(令和2年6月の書面)
http://www.kokusyo.jp/wp-content/uploads/2021/11/R211127p.pdf

日本国憲法8条は、皇室関連の賜与に先立って、「国会の議決に基かなければならない」と述べている。従って国会議事録の中に金銭に関する記録が残っている可能性もある。

参考までに賜与の「提案日」「決裁日」「施行日」を一覧で示そう。ただし、日付けの混乱を避けるために、ここでは開示された資料で使用されている元号を例外的に使用する。

皇室の相談料の「起案日」「決裁日」「施行日」

なぜか年に2回、ほぼ定期的に相談会を開催している。支給された金額は、黒塗りで処理しているが、通常の日当(3万円程度)であれば公開できるのではないか。金額が尋常ではないから、宮内庁は、この部分を黒塗りにしたと考えるのが自然だ。

上記の資料に加えて、宮内庁参与のだれかが内廷会計主管に対して金銭請求をしたことを示す資料の存在も判明した。ただし、宮内庁は、請求者も請求額も黒塗りにしている。請求日は、「令和2年6月16日」である。

今後、筆者は宮内庁に対して、宮内庁参与に金銭を支払ったことを証明する書面の情報公開を求める方針だ。たとえば領収書である。領収書の有無を確認するのも金銭の流れを確認する上で不可欠だ。

◆「報告事件」の存在が判明

最高裁判所の実態調査の中で、筆者は最高裁事務総局に対して「報告事件」の存在を示す文書の情報開示を請求した。以下は、筆者のブログに掲載した内容だが、再度、その中身を紹介しておこう。

「報告事件」というのは、最高裁が下級裁判所(高裁、地裁、家裁など)に対して、審理の情況を報告させる事件のことである。それにより、下級裁判所で国策の方向性と異なる判決が下される可能性が浮上すると、最高裁事務総局は人事権を発動して、裁判官を交代させるなどして、国策と整合した判決を導き出すことができる。

原発訴訟などがその対象となると言われているが、本当に「報告事件」が存在するのか否かは現時点では不明だ。そこで「報告事件」の有無を確認するために、筆者は情報公開請求に踏み切ったのである。

請求内容は次の通りである。

「最高裁が下級裁判所に対して、審理の報告を求めた裁判の番号、原告、被告を示す文書。期間は、2018年4月から2021年2月。」

11月8日、わたしは最高裁判所の閲覧室で、A4判用紙で15センチほどに積み上げられた開示文書を閲覧した。次に示すのが、最高裁事務総局が開示した書面の一部である。結論から言うと、筆者は「報告事件」の存在を大量に確認することができた。しかし、最高裁事務総局は、それらの事件の事件番号については黒塗りにしていた。
 

読者に特に注目していただきたいのは、「3、勝訴可能性等について」の箇所である。最高裁が下級裁判所に対して、勝訴の可能性について報告させていることを示している。この部分についても、最高裁事務総局は黒塗りにして開示した。

従って報告内容を受けて、実際に下級裁判所の裁判官が交代させられたかどうかは判断できない。

今回の調査で、最高裁事務総局が報告事件に指定しているのは、国が被告、あるいは原告になっている裁判であることが分かった。それ以外の事件は、開示された資料には含まれていなかった。しかし、最高事務総局が全部の関連文書を開示したか否かは分からない。

半年ほどの調査で、最高裁のグレーゾーンから不可解なものが輪郭を現わし始めた。

▼黒薮哲哉(くろやぶ・てつや)
ジャーナリスト。著書に、『「押し紙」という新聞のタブー』(宝島新書)、『ルポ 最後の公害、電磁波に苦しむ人々 携帯基地局の放射線』(花伝社)、『名医の追放-滋賀医科大病院事件の記録』(緑風出版)、他。
◎メディア黒書:http://www.kokusyo.jp/
◎twitter https://twitter.com/kuroyabu

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