◆維新の会が躍進した「秘密」にせまる

年末ということもあり、総選挙を総括する記事が重なった。とくに維新の会の躍進をどう分析するか。

これはもっぱら、大阪に足のある評者にお願いしたいと思っていたところ、西谷文和の「維新一人勝ちの謎を解く」が掲載された。まさに時宜にかなった、しかも正鵠を得た内容だった。最新号のキャッチは「維新“一人勝ち”の謎を解く」である。

西谷文和は、総選挙全体の野党共闘の「敗北」の原因を、①1万票以内で競り負けた31選挙区、②立民枝野代表の「また裂き」、③自民党総裁選挙のメディア過剰、であるとする。これらは要点を得て、うなずけるものがある。

それ以上に、唸らされたのは維新の会の組織力の分析である。大阪府の過去2回の住民投票、19年の参院選挙の選挙結果。このふたつの投票率と得票数をもとに、維新の会が持っているのが140万票。および140万票を、70万票に二分する組織力が分析できる。その分析手法はあざやかで、一読にあたいする。

さらには、200におよぶ維新の地方議員のドブ板選挙。この記事で維新の会の躍進の「謎」「秘密」が解明するのである。お見事! 西谷文和は吹田市役所勤務経験のあるジャーナリストだ。

◆野党共闘が勝つ「方法」とは?

西谷文和は自・公・維新を倒す方法として、「5:3:2」の法則を挙げ、棄権5割のうち2割が投票行動をすれば、選挙には勝てるという。それを可能にするのは、野党共闘がさらに3%の得票率を獲得できるよう、ドブ板的な活動量、有権者にひびく言葉を投げかけることだと。

横田一も「野党共闘の成果と課題――岸田文雄『長老忖度政権』と闘う方法」において、東京8区の教訓を挙げている。周知のとおり、東京8区は野党候補が錯綜し、山本太郎(れいわ新選組代表)がいったん出馬を表明しながら撤回するという事態があった。

その後の山本のパフォーマンスが、吉田晴美候補の当選につながったと評価する。北海道4区、大阪10区では自民が最終段階でひっくり返し、ぎゃくに神奈川13区では野党共闘が甘利明自民党幹事長を敗北させた。れいわは5議席を獲得し、NHK出演の政党要件(5名)を満たしたのである。これら選挙パフォーマンスにおいて、立民党の枝野代表の動き、発信はいかにも緩慢であり、有権者に届かないものだった、と横田は批判する。けだし当然であろう。立民の新しい執行部が、山本太郎並みの発信力を身につけ、本気の野党共闘をつくり出すことが、勝つ「方法」の核心だとする。

◆安倍晋三に何が起こっているのか

山田厚俊は「大安倍派誕生も 自民党の変容と安倍晋三の終わり」として、安倍晋三が早期に引退するのではないかと指摘する。というのも、キングメーカーとして君臨するつもりだったが、急速に求心力が低下しているというのだ。安倍晋三に何が起こっているのか? その原因は、派閥のいびつな構造にあるという。

清和会(安部派)93名は、自民党の圧倒的多数はである。にもかかわらず、いやそうであるがゆえに、一枚岩ではないのだ。福田閥、安倍晋太郎閥、小泉閥、晋三閥を抱えている。それゆえに、総裁候補を出しにくい構造にあり、それが自民党全体のなかでは派閥のバランスに配慮しなければならない主流派ゆえに、派閥内には不満が渦巻いているという。

そして、徐々にカタチを顕わしつつある「対安倍包囲網」。それは山口3区で衆院入りした林芳正の外相抜擢にあらわれていると、山田は指摘する。林が安倍を仇敵であり、外相抜擢が将来の総理候補であるからだ。

このあたりは、やや視点は違うが本通信の記事を参照して欲しい。安倍派の内部抗争に注目だ。

[関連記事]「安倍派の誕生 ── 息づく「院政」という伝統」2021年11月12日

◆公明党の危機とは?

大山友樹「『10万円給付』の裏に公明・創価の狙い」NEWSレスQが、葛飾区区議選での公明党議席減に、公明党の危機を指摘している。前々回(11議席)から3つの議席をうしなったことになる。公明党にとって、参院東京区と地方議員は絶対当選の要件である。得票率は700万票(09年は805万票)を切るか切らないかに低減している。大山が指摘するのは連立政権の中で、自民党抜きには選挙にも勝てなくなっている現実、そして自民党並みの腐敗。すなわち遠山清彦元代議士の「闇献金」問題によって、大波が押し寄せていることだ。

すこし横道に逸れるが、NEWSレスQには気になる情報が載っている。マリエの「枕営業」(相手は島田紳助)と日大理事藪本(被告)の愛人情報だ。このあたりのスキャンダルを、もっとワイドかつディープに取り組むジャーナリストはいないものか。

◆メディアの「選挙協力」

浅野健一は「『反共』『壊憲』扇動の大本営発表」として、朝日新聞をはじめとする記者クラブ、内閣記者会の問題点を指摘する。

立民党の代表選挙が、自民党総裁選挙よりも「知性・品格もはるかに優れていると感じた。経歴・党歴も様々で、今後、日本をこう変えたいという理念や情念がよく伝わった」(記者クラブ主催の討論会)にもかかわらず、「キシャクラブ」の報道は「共産党との共闘の今後」が争点になったと、勝手に報じたと批判する。

朝日「天声人語」の筆者を山中季広論説委員と特定して、そのバランスを欠いた書き飛ばしを批判する。その歯に衣着せぬ批判は、いつもながら痛快である。問題なのは「岸田演説に日当五千円動員」(茨城6区、国光文乃議員選挙)である。告発のゆくえが注目される。

◆選挙制度の欠陥

「権力の腐敗はなぜチェックされないのか――総選挙と西東京市長選に見る選挙制度の悪用」(青木泰)は、虚偽事項を満載した怪文書が「法定ビラ」として大量に撒かれた事件のその後である。東京高裁は違法性(公選法違反)を指摘しつつ、当選無効の判断はしなかった。現在の司法には無理であろう。

青木は今回の総選挙で、森友事件を追及してきた立民の川内博史(鹿児島1区)、辻元清美(大阪10区)、今井雅人(岐阜4区)、黒岩宇洋(新潟3区)らが、ことごとく落選した背景に、自民党が長期間をかけて落選させる準備をしてきたと指摘する。だとすれば、自民党の周到な計画がどのようなものなのか。そんなレポートを期待したい。

▼横山茂彦(よこやま・しげひこ)
編集者・著述業・歴史研究家。歴史関連の著書・共著に『合戦場の女たち』(情況新書)『軍師・官兵衛に学ぶ経営学』(宝島文庫)『闇の後醍醐銭』(叢文社)『真田丸のナゾ』(サイゾー)『日本史の新常識』(文春新書)『天皇125代全史』(スタンダーズ)『世にも奇妙な日本史』(宙出版)など。

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