ブラジルのルーラ大統領が、先般のG7広島サミット(5月19日~21日)にいわゆるグローバルサウスの代表として出席しました。

同大統領は「核兵器の非人道的な結果はあまりにも深刻で、 核抑止 に伴うリスクは大きすぎる」と核兵器禁止条約を批准する意向も示しました。世界でも11位とも言われる経済大国でかつて核開発をしたこともある国のトップが核兵器禁止条約を批准すると言ったことは、G7広島サミットにおける唯一といっていいほどの政治的な目に見える成果ではないでしょうか?

ルーラ大統領の出身政党は「労働者党」です。ルーラ大統領は2022年に行われた大統領選挙でボルソナロ大統領から政権を奪還しました。現在、実質最低賃金の引き上げ、児童手当の給付などに尽力しています。

いま、日本において、一番必要とされるのは、名実ともに「労働者党」のような政治勢力ではないでしょうか?

◆非正規労働者4割、奨学金地獄 ──「労働者虐待」政治

日本のこの20~30年はまさに「労働者虐待」政治でした。ご承知の通り、この20~30年、日本の労働者の給料は全くと言って良いほど上がっていませんでした。ここ1、2年、名目での給料はアップされたが、物価上昇に追いついていません。非正規労働者も全体の4割を占めています。民間だけでなく、公務員でも同様の割合で非正規労働者が多くおられます。地方自治体でいえば62万人に達します。

そして、若手労働者の多くが奨学金という名の借金を抱えて苦しんでおられます。こういう状況では、結婚どころではないという人も多い。低賃金や悪い労働条件を放置する、すなわち労働者虐待を続けたことで、労働者の生活困難が生じるのは憲法25条にも反することです。そして、それ以外の弊害も出ています。

◆広島、日本から人口流出

一つは、広島、日本からの人口流出です。例えば、筆者が勤務する介護現場でも、外国人労働者が広島から東京へ流出する現象があります。さらに、最近では日本からカナダやオーストラリアへ日本人が流出する流れも起きています。

人々の暮らしを支える分野から労働者がいなくなるという恐ろしい状況です。下手をすれば、この広島だってゴーストタウンになってしまうのではないか?そういう恐怖心さえ覚えます。

◆介護・保育 ── 「やりがい搾取」でついに「土俵を割って」しまった労働者たち

もう一つはサービスの質の低下です。少し前までは介護や保育など、悪い労働条件でも仕事の「やりがい」から我慢してきた労働者が多かったのです。ところが、最近では、あまりの悪すぎる労働条件にバカバカしくなって手を抜くような現象も、筆者自身が見聞きすることもあります。

筆者自身も前日の夜勤者が利用者様の便失禁を放置しているのに遭遇することがありました。背中まで広がりまるで化石のようにガチガチに固まった便を風呂場でいわば「削り落とす」のに苦労することも一回や二回ではありませんでした。

また、寝返りを打てない利用者様については、きちんと体位交換(スタッフが介助しての寝返り)を2時間くらい置きにしないといけません。それもしていないために、尻や大腿部に褥瘡、すなわち、皮膚に黒い大穴が空き、そのことを背景に入院に至ったケースもあります。これらは不適切介護です。

ただ、傍から拝見していると、最低賃金ギリギリと言うあまりに安い給料で、しかもそれに見合わないきつさのために、これまで我慢していた労働者が「土俵を割ってしまった」感じを受けました。

保育現場では「これまで評判が悪くなかった」保育士が虐待や不適切保育をしてしまうケースも良く報道されています。介護現場からの類推にはなりますが、「ああ、土俵を割ってしまったのだろうなあ」と思いました。

労働者にきちんと対価を払い、適切な人員を確保しないと、「土俵を割る」労働者が続出し、お年寄りや子どもが大変な目にあいます。一方で、労働者もきちんと仕事をするという構図をつくっていく必要があります。  

◆公務 ── 非正規に高度な業務も限界に

自治体は、いまや、会計年度任用職員など、非正規公務員に高度な仕事をさせています。いや、専門性の高い仕事ほど、逆に非正規が多いとさえ感じます。

国家公務員でも、厚生労働省関係は、ハローワークを先頭に特に人々の深刻な悩みに応えないといけない部署がおおくあります。しかし、厚生労働省こそ一番のブラック企業ではないか?と思えるほど、非正規職員が多くおられます。

しかし、それでは、応募する人がだんだん少なくなります。そして、住民・国民サービスの低下につながります。

国も自治体も「これからは少子化で人口が減るから」という理由で公務員を減らしてきました。だが、実際には子育て支援や、格差拡大も背景にした人々の悩みの増大で行政需要は増えています。そこで、非正規公務員を増やしてしのいできました。それも限界に来ています。

◆現役労働者の賃金低迷が年金受給者や地域の飲食店も直撃

さらに、現役労働者の賃金低迷は、年金受給者もマクロスライドによる年金引き下げという形で直撃しています。

また、労働者の懐が厳しいことを背景に、飲食店も厳しくなっています。そこへコロナが直撃したというのが2020年~22年の状況でした。

あるいは、ちょっとした余裕が地域の労働者からなくなっているために、いわゆるニッチ(隙間)産業への需要が低下しています。

◆労働者に余裕ないため子育て支援も焼け石に水

例えば、いわゆる子育て支援施策が、人間関係の悪い職場では、子どもがいる人と子どもがいない、あるいは、子育てが終わった人の間での対立につながっています。しかし、人間関係の悪いことも、賃金・労働条件が悪いことに起因しています。

そもそも、若手労働者の多くが奨学金という名の借金に苦しんでいるのだから、多少の子育て支援など焼け石に水です。

◆「労働者に打撃」与える政策ばかりの総理

こんな中、岸田総理は、「異次元の少子化対策」の財源として社会保険料アップを打ち出しています。しかし、この保険料アップは給料アップを阻害します。若手労働者にとり、打撃でしかありません。

さらに児童手当の為に扶養控除を廃止する方向です。これによって所得税が大幅増税になる労働者が出ます。正直、総理はどこを見ているのか?

このように、今の政治は、現役労働者を全くと言って良いほど政治で顧みていません。政治の力でなんとかできるはずの公務分野でも政府与党と親しい一部大手企業による中抜きばかりで、実際に仕事をしている労働者や中小企業にお金が回っていません。

介護や保育労働者の給料についても、総理は2022年度こそアップしてくれましたが、雀の涙です。そして、2023年度は激しい物価高騰にも関わらず、何もしていません。それどころか、軍事費増加の為に社会保障費のカットをしようとしています。

◆マスコミにも変化

しかし、マスコミにも変化が表れています。5月24日には、NHK総合テレビの朝番組「あさイチ」が会計年度任用職員含む非正規労働者の問題を取り上げました

筆者がかつて所属した「自治労」や現在幹部を拝命しております「自治労連」なども「相談先」として紹介されました。労働組合の意義についても紹介されるようになったことは歓迎すべき変化です。これまでは、「維新」を筆頭に公務員、労働者をぶっ叩くような人たちがマスコミ、特に在版マスコミで持ち上げられてきたことを考えれば雲泥の差です。

今後は、例えば日本の公務員労働者が労働基本権を制限されていること。そのことは、いわゆる先進国を含めて多くの諸外国と比べても異例であること。こうしたことも取り上げていただきたいものです。

 

5月14日、原爆ドーム前で行われたG7サミットに反対する市民集会に参加した筆者

◆あとは「政治」だ!

マスコミが変わりつつある今、課題はやはりなんといっても、政治が変わるかどうかです。公務員の非正規化を進めてきた与党の自民、公明はもちろん、公務員バッシングで票を稼いできた維新は大問題です。しかし、いわゆる既存野党のみなさんも、サービス増強には熱心でもそれを提供する労働者の労働条件についてはあまり関心を払っていなかったように思えます。また、いわゆる野党共闘を背景に日本共産党さんあたりでも、以前のような鋭さがなく寂しいものがあります。

さらに、連合の芳野会長が権力者に阿るばかりの姿勢を見せているため、労働組合全体の印象も悪くなってしまった面もあります。そのことが、また、野党もそれを避けて、労働条件よりもそれ以外のいわゆるポリコレ案件に注力してしまう面もあるのだろうと推測されます。

また、広島の場合は、平和運動は得意でも、労働運動が弱め、という傾向はありました。しかし、戦前に人々の暮らしが厳しくなる中で、満州事変や日中戦争、第二次世界大戦を歓迎してしまった流れがあったことを想起しようではありませんか。

まず、これまでの「労働者虐待」政治をストップし、現役労働者の労働条件を改善し、人々の暮らしを守っていくことが大事です。そしてそういう方向の政治家・政治勢力を伸ばしていく必要がある。特に若者労働者の流出を中心に人口流出が止まらぬ広島において、それは大事ではないでしょうか?

筆者は、その先頭に立ち続ける覚悟です。

もちろん、これまでも、筆者も微力ながら、非正規労働者の皆様の裁判闘争の支援や労働相談にも取り組んで参りました。それと並行して、政治活動も車の両輪で進めていきます。

▼さとうしゅういち(佐藤周一)
元県庁マン/介護福祉士/参院選再選挙立候補者。1975年、広島県福山市生まれ、東京育ち。東京大学経済学部卒業後、2000年広島県入庁。介護や福祉、男女共同参画などの行政を担当。2011年、あの河井案里さんと県議選で対決するために退職。現在は広島市内で介護福祉士として勤務。2021年、案里さんの当選無効に伴う再選挙に立候補、6人中3位(20848票)。広島市男女共同参画審議会委員(2011-13)、広島介護福祉労働組合役員(現職)、片目失明者友の会参与。
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