8月後半、西日本と東日本、双方で「原発の後始末」で重大な動きがありました。ひとつは、上関町が、核のゴミ=死の灰の貯蔵施設建設へ向けた調査を受け入れ。福島では原発事故の汚染処理水の海洋放出です。

◆上関町は核のゴミ=死の灰 自称「中間貯蔵」へ調査受け入れ

8月18日、上関町の西町長は中国電力に対して、同社と関西電力の共同で核のゴミを自称「中間貯蔵」する施設の建設へ向けた調査を受け入れてしまいました。8月2日に申し入れを受けてからわずか半月余りというスピード決定でした。

岸田政権が強行した自称GX法により関西電力・高浜原発など老朽原発の再稼働が進み、関西電力の死の灰=核のゴミがにっちもさっちもいかなくなることを背景に起きた出来事です。

核のゴミ=死の灰の最終的な行方は全く決まっておらず、今後も決まる可能性はほとんどありません。従って、もし上関町が受け入れてしまえば、中間貯蔵どころか、半永久的に貯蔵されてしまうことは確実です。


◎[参考動画]原発問題で揺れる 瀬戸内海“最後の楽園”上関町【news23】|TBS NEWS DIG

◆フクシマ汚染処理水、海洋放出強行

一方、8月21日、岸田総理は福島を訪問したあと、なぜか、東京に戻って全漁連の会長と会談し、会長も反対姿勢を崩さない中で、東電福島第一原発事故による汚染処理水の海洋放出を伝達し、24日から開始。「数十年に渡ろうとも全責任を持って対応する」と総理は啖呵を切りました。


◎[参考動画]処理水の放出決定 福島県内の漁業関係者は憤りあらわに「納得していないのにおかしい」|TBS NEWS DIG

◆「科学的に安全」と言われた原発が事故を起こしたのに

汚染処理水については、IAEAは国際的な基準に合致していると言ってはいます。しかし、別にIAEAが何か責任を持ってくれるわけではありません。そもそも、2011年の3.11以前、政府も東電もマスコミも「日本の原発は科学的に安全。チェルノブイリ原発のようなことは起きない」と宣伝してきました。従って、汚染処理水の問題で「安全です」と言われても、「安心しろ」というのが無理な話です。

また、岸田総理は数十年にわたろうとも全責任を持って対応する、と言われていますが、総理の任期なんて、安倍晋三さんでさえも8年しか勤めていません。30年後、40年後、人生百年時代ですから、ご存命であったとしても国会議員は辞めておられる可能性が高い。どうやって、責任を取る、というのでしょうか?その時何かあっても「ワシはもう議員でないから知らん」と言われても困ります。あまりにも軽すぎる言葉の使用法がまた、信用を失わせます。

◆モルタル固化などの代案もある 原発事故の後始末は総合的にもっと議論を

なお、汚染処理水をどうすればいいのか?という点については、代案がすでに提案されています

モルタルで固化し、今よりもしっかりしたタンクで保管するという案です。もちろん、これは、地元・福島県双葉町などの同意が必要になってきます。また、もっと言えば、無理にデブリを取り出したりする必要があるのかどうか?強烈な放射線で機械でさえも故障するリスクが高い状況で、将来にわたってできるのかどうか?もっと総合的な議論をすべきではないでしょうか?

◆上関・核のゴミ受け入れ、元自民党代議士の岩国市長も懸念表明

そして、上関町の核のごみの受け入れに対して、21日、岩国市の福田良彦市長も懸念を表明されました。福田市長は、元自民党代議士のご出身です。2008年に岩国基地への艦載機移駐反対派の井原勝介市長を打倒して初当選され、現在4期目です。そんな福田市長でも「近隣自治体とすれば、やはり市民の中にも多くの不安や懸念があることは事実。そういった中での今回の調査、また調査の先には具体的に建設ということになるのかもしれないが、市民、また近隣の方々の安心安全がしっかりと担保されていない、説明が尽くされていないという状況の中では、今回の一連の受け止めについては率直に賛成とは言えない、これが私の考え」とコメントされました。

当然です。岩国市役所までは上関の想定される核のゴミ=死の灰受け入れ予定地からわずか45kmです。上関町だけで、この問題の可否を決める、ということ自体がそもそもの誤りです。

例えば、危険極まりない核のゴミを中国電力島根原発や関西電力高浜原発・美浜原発などからどうやって運搬するというのか? 船は船で、リスクがあります。瀬戸内海では現状でも船の事故は非常に多い。海自の輸送艦「おおすみ」と漁船の衝突事故は記憶に新しいですし、今年に入ってからも山口県沖で護衛艦の座礁事故が起きています。他方で、道路での輸送は交通事故の危険性も高い。海であろうが陸であろうが、岩国市はもちろん、場合によっては筆者の住む広島市も含めて取り返しのつかないことになりかねません。

フクシマの海洋放出に関しては、総理はそうはいっても表に出てきましたが、ご自身の地元(小選挙区=広島、比例区=中国ブロック)に重大な被害が及びかねない上関の問題では何もリーダーシップを取ろうともしない。

◆地域を衰えさせてきた歴代自民党政権

なお、上関町長ら推進派の「上関の持続可能な発展に、可能性がほぼ消えた原発建設に変わる核のゴミが必要」という話も全く筋が通りません。

現実には、原発関係の交付金を受け取ってきた上関町も人口流出で衰えています。他方で、創意工夫で踏みとどまっている自治体もあります。そもそも、原発や核のゴミ受け入れに頼らないといけないように地方を衰えさせてきた自民党政権の経済政策が誤りです。

◆やはり、岸田・自称GX法で老朽原発再開が大問題

岸田総理は、気候変動対策などを大義名分に、自称GX法=老朽原発延命法、原子力村税金投入延命法=を2023年通常国会で強行しました。国民の間でも電気代の値上がりなども背景に「まあ、原発はあるのだから使った方がいいかな」という風潮が広がっています。3.11も、のど元過ぎれば熱さ忘れる、です。

しかし、現実には、汚染処理水問題のように福島原発事故の後始末さえ全くできず、「原子力緊急事態宣言」中です。その上で、核のゴミ=死の灰が増えて、にっちもさっちもいかなくなりつつあるのです。

これ以上核のゴミを増やさないこと。そして、福島のような事故を起こさせないこと。そのためには、やはり原発は止めることです。

再生可能エネルギーについては、九州電力などでは余っていて出力制限をしている状況です。その上で、原発を動かし、4-6月期は過去最高益を出している電力会社はおかしい。

従って、蓄電やスマートグリッドを進めていけば、再生可能エネルギーとの組み合わせで、原発にも旧型石炭火力発電にも頼らずに済む、電力料金も高くせずに済みます。

ただ、根本的には、電力会社よりも原発を国策として進めてきた国の責任が重いのです。GX法を廃止し、原発も国が責任をもって廃止する。蓄電やスマートグリッドにもガツンと財政出動する。そういう方向を示すべきです。

 

筆者勤務先近くの総理の政治活動ポスター

◆ポスターと正反対の政治 「広島の恥」総理を図に乗らせまい

岸田総理は「地域の声で新たな日本へ 所得向上 少子化対策 安全・安心」とおっしゃる。だが、実際には、フクシマの汚染処理水問題では地域の声を軽視し、安心を踏みにじる、上関のような時は国の責任を放棄して地域に対応を丸投げする卑怯な政治です。

そして、原発推進という破綻した「古い日本」を維持するわけです。まさに、実態と真反対のポスターであり、「広島の恥」ではないでしょうか?

総理は恥を知れ、と申し上げたい。残念ながら、前回2021年衆院選では総理は、対立候補に供託金回収さえさせない圧勝ぶりでした。こんな風に圧勝させてしまったことで、岸田総理も図に乗ってしまったということも言えると思います。

広島は平和都市といいながら、実際には爆心地に近いほど保守色が強く総理が強い。そんな状況ですが、次期衆院選こそ、総理をヒヤリとさせ、軌道修正を迫る結果にしなくてはならないと痛感しています。

▼さとうしゅういち(佐藤周一)
元県庁マン/介護福祉士/参院選再選挙立候補者。1975年、広島県福山市生まれ、東京育ち。東京大学経済学部卒業後、2000年広島県入庁。介護や福祉、男女共同参画などの行政を担当。2011年、あの河井案里さんと県議選で対決するために退職。現在は広島市内で介護福祉士として勤務。2021年、案里さんの当選無効に伴う再選挙に立候補、6人中3位(20848票)。広島市男女共同参画審議会委員(2011-13)、広島介護福祉労働組合役員(現職)、片目失明者友の会参与。
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