広島市の松井市長は11月30日からハワイの真珠湾を訪問することを発表しました。これは、今夏、米国政府=エマニュエル駐日大使=との間で締結した真珠湾国立公園との「姉妹公園協定」を具体化するためとのことです。

広島市は9月の定例市議会で「原爆投下に関わる米国の責任の議論を現時点で棚上げし、まずは核兵器の使用を二度と繰り返してはならないという市民社会の機運醸成を図っていくために締結した」と答弁しています。 その答弁を具体化した形です。

◆「原爆投下を反省しない米国政府」と組んで良いのか?

 

真珠湾の戦艦アリゾナ(撮影=広島瀬戸内新聞関西支社の鈴木記者)

筆者は、そもそも論として、広島の平和記念公園とパールハーバー=真珠湾の「姉妹公園協定」に反対です。広島市とホノルル市は姉妹都市であり、ホノルル市は広島市が主導する「平和首長会議」にも加盟しています。平和首長会議は核兵器禁止条約推進の署名活動もしており、広島市とホノルル市はそうした意味で「同志」の自治体であります。その一環として松井市長がホノルルに行かれることには異存はありません。ただし、きちんと平和行政の推進に効果があるかどうか、説明責任を果たしていただきたい、というスタンスです。

だが、米国政府は、いまだに広島への原爆投下を反省していません。「必要だった」というスタンスは崩していません。もはや、原爆投下は戦争の犠牲を減らすためではなく、日本人をモルモットとした「実証実験」であり、戦後に米国の強力な対抗馬になることが確実だったソビエトへのけん制でもあったという議論が主流となった今でも、米国政府はまったく反省していません。オバマ大統領が2016年に広島に来た時もまるで他人事のような挨拶であり、反省や謝罪の言葉はありませんでした。

日本政府についていえば、基本的にはいわゆる村山談話を継承し、第二次世界大戦における加害責任について一定のお詫びをしています。必ずしも十分ではないと筆者は考えますが、それでもまったく反省も謝罪もない米国に比べればすべきことはしています。

そんな米国政府の原爆投下責任を棚上げにして組んで良いのだろうか?そのことは、「核兵器の使用を二度と繰り返してはならない」という国際世論を後退させてしまうのではないか? そう思うのです。

「広島が米国政府を許したのであれば、俺たちが核兵器を使っても構わないよね?」と、米国以外の中露英仏はもちろん、インド、パキスタン、朝鮮、そして今ガザ虐殺で非難を浴びているイスラエルまで言いだしかねません。すくなくとも核兵器使用のハードルを下げる方向に「米国政府の責任棚上げ」はなると思います。

◆G7広島契機に「平和都市ヒロシマ」から「米国忖度都市 HIROSHIMA」への変質

そして、繰り返し指摘したいのは、2023年5月のG7広島サミットを契機に広島が曲りなりも「平和都市ヒロシマ」だったのが「米国忖度都市 HIROSHIMA」に変質しているということです。

すでに、今年度から広島市の平和教育の教材から『はだしのゲン』(小学校)や『第五福竜丸』(中学校)が削除されています。広島市教育委員会はマスコミの取材に様々な弁明をされています。しかし、こんな変更をさせたのは誰か?松井市長以外にあり得ないでしょう。すでに、教育行政については、第二次安倍政権における法改定で首長の「独裁」が事実上可能になっています。広島県の場合は、湯崎英彦知事がお気に入りの平川理恵教育長を任命して彼女に独裁的な教育行政をやらせています。他方で広島市の場合は松井市長が教育長には影が薄い方を任命し、松井市長が強力なリーダーシップを発揮している感があります。

そうした中で、G7で広島にお見えになる米国のバイデン大統領の「お目を汚さない」ようにはだしのゲンや第五福竜丸を削除させたのは、この間の流れを見れば、見え見えではないでしょうか?

そして、G7広島サミットでは、西側の核保有は肯定する「広島ビジョン」が採択されました。

また、対ロシア戦争中のゼレンスキー大統領がまるで「乱入」するかのように途中参加し、まるで対露戦争会議のようになってしまいました。

「平和都市ヒロシマ」は、「米国忖度都市 HIROSHIMA」に変質してしまいました。

◆ガザ虐殺応援団サミットでもあったG7広島、恥ずかしすぎる

あれから半年。ガザでは、ハマス政権の「反撃」に対してイスラエル総理のネタニヤフ被告人が大軍をガザ地区に送り込み殺戮を続けています。そして広島に集ったG7のうち、日本を除く米英仏独伊加や欧州委員長らは核兵器保有国でもあるイスラエルべったりです。ゼレンスキーも核兵器保有国であるロシアによる侵略被害者のはずが、核兵器保有国かつ侵略者であるイスラエルを全面支持する始末です。G7広島サミットはまさに、ガザ虐殺応援団サミットだったことに結果としてなってしまいました。

また、これはサミット広島県民会議を管轄する湯崎英彦知事の暴走になりますが、平和記念公園内にG7広島サミットの常設展示コーナーを5000万円かけて設けるということです。恥ずかしいからやめていただきたい。

広島がガザ虐殺応援団サミットの場に結果としてなってしまった。そのことへの反省も松井市長の現時点での行動からはみじんも感じられません。松井市長には、どうせ訪米するならハワイへ行くよりも、それこそ、長崎市長とも歩調を合わせ、ワシントンやNYに行って、アメリカや国連にネタニヤフの暴走を止めるよう要求したらいかがでしょうか?

◆広島市は米国政府より、まずは市民と連携の「王道」を

ここで強調したいのは、広島市はあくまで自治体であるということです。そもそも、米国政府と組む、というのがおかしな話です。

むしろ、強化すべきは世界各都市(自治体)とそこに住む市民との連携です。11月27日からNYで第二回締約国会議が始まる核兵器禁止条約。この条約も市民運動が各国政府を動かしたのです。米国政府との連携を急ぐ前に、まずは各国市民との連携を密にする。そして、日本政府にもせめて核兵器禁止条約の会議にオブザーバー参加はするよう圧力をかけつつ、核保有国に迫っていく、というのが王道ではないでしょうか?

米国政府のエライ人に一生懸命に胡麻をすったところで、良いように利用されるだけではないでしょうか?

◆「サミット期待・評価」の野党政治家も反省を……平和都市ヒロシマ回復への道

また、くりかえしになりますが、G7広島サミットについては立憲民主党や日本共産党などの国政野党の県議も2023年統一地方選におけるマスコミや市民団体のアンケートに答える形で「G7広島サミットに期待」「G7広島サミット誘致を評価せず」と表明してしまいました。筆者自身は県議候補では唯一「サミットに期待せず」「評価せず」と回答しました。その後の広島ビジョン発表で、日本共産党などの県議はあわてて政府批判に転じましたが、遅すぎました。すでに、松井市長や湯崎知事はアメリカ忖度の方向で暴走を加速した後でした。G7という核保有&イスラエル応援団に悪用され、「米国忖度都市HIROSHIMA」に変質しつつある広島。

一方で、2023年統一地方選でも広島市議選の候補者では、日本共産党や保守系無所属の一部候補でも「サミットに期待しない、誘致を評価しない」という筆者と同じ回答をした方もおられます。

国政野党の皆様にもご反省をいただいたうえで、平和都市ヒロシマを取り戻すため、ともに進んでいただきたいと強く要望します。

▼さとうしゅういち(佐藤周一)
元県庁マン/介護福祉士/参院選再選挙立候補者。1975年、広島県福山市生まれ、東京育ち。東京大学経済学部卒業後、2000年広島県入庁。介護や福祉、男女共同参画などの行政を担当。2011年、あの河井案里さんと県議選で対決するために退職。現在は広島市内で介護福祉士として勤務。2021年、案里さんの当選無効に伴う再選挙に立候補、6人中3位(20848票)。広島市男女共同参画審議会委員(2011-13)、広島介護福祉労働組合役員(現職)、片目失明者友の会参与。
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