◆連日、長蛇の列 原爆資料館

広島の原爆資料館の入館者数が2023年度、まだ2月23日の時点ですが176万252人となりコロナ前の2019年度の175万8746人を上回り、過去最多となりました。2月23日の入館者数は4709人。今年度の一日平均だとここまでは5350人です。

G7広島サミット以降、特に外国人観光客の方の関心が高まったのは事実です。筆者も平和公園周辺を出勤のために自転車で通過することも多いのですが、外国人とみられる方が原爆資料館周辺に並ばれているのを目撃します。

原爆資料館は1955年に開館。22000点の資料が収蔵されています。被爆から80年近くたった今、被爆者の方も少なくなってきました。原爆被害の実態を伝えるという意味での資料館の役割はますます高まっています。来館者が増えるのはもちろん、良いことです。

◆平和首長会議、1780自治体加盟で全加盟まで「マジック1」

一方、この2月、京都府城陽市が平和首長会議に加盟し、国内の1781の基礎的自治体=市区町村で加盟していないのは長崎県佐世保市のみとなりました。

1982年6月24日、当時の荒木武 広島市長は、米ソの軍拡競争に危機感が高まる中、米国・ニューヨーク市の国連本部で開催された第2回国連軍縮特別総会において、世界の都市に国境を越えて連帯し、共に核兵器廃絶への道を切り開こうと呼び掛けました。また、広島・長崎両市は、この呼び掛けに賛同する都市(自治体)で構成する機構として、世界平和連帯都市市長会議を設立しました。

1991年には、国連経済社会理事会のNGOに登録されています。その後、2001年8月5日、「世界平和連帯都市市長会議」から「平和市長会議」に、さらに2013年8月6日に「平和首長会議(へいわしゅちょうかいぎ)」に名称変更され、現在に至っています。

目的は以下です

「平和首長会議は、加盟都市相互の緊密な連帯を通じて核兵器廃絶の市民意識を国際的な規模で喚起するとともに、人類の共存を脅かす飢餓・貧困等の諸問題の解消さらには難民問題、人権問題の解決及び環境保護のために努力し、もって世界恒久平和の実現に寄与することを目的としています。」

◆めでたさも中くらいなり

上記の出来事は、基本的には平和都市・広島にとり、「めでたい」ことであるのは間違いない。そうなのですが、素直に喜べない。それはなぜか。やはり、この間も何度もお伝えしているように、「戦後初の中央官僚出身市長」松井一實市長のもとで進んでいる「広島市自身の変質」の問題があるからです。

もう一つは、原爆資料館労働者の労働環境の問題もあるからです。まずは、こちらからご紹介したい。

◆原爆資料館労働者に相談なく開館延長

松井市長は、G7広島サミットの開催を受け、原爆資料館の開館延長を急遽実施しました。さらに、3月から開館延長を本格実施します。しかし、これらは、原爆資料館の現場労働者には寝耳に水でした。開館延長ということはそれだけ、現場労働者には負担をかけるということです。

筆者も幹部をさせていただいている広島自治労連でもこの問題でアンケートを労働者に対して行っていますが、とくに小さいお子さんをお持ちの職員を中心に不安の声が上がっています。労働者に十分相談もなく、決めてしまうあり方は、「平和都市」としていかがなものなのか?

広島市民の皆様、また市民を代表する議員の皆様にも関心を持っていただきたい。

◆パレスチナ問題で決議すら出さず

そして、情けないことがあります。広島市長はガザで進行中のイスラエルによる大虐殺について沈黙し、広島市議会も決議さえ出していません。広島県議会でさえも停戦を求める決議を既に出している中で、世界で最初の戦争被爆地そのものである広島市議会が沈黙している。情けないことです。原爆ドーム前で即時停戦を求めるアクションを呼びかけられている皆様も、堪忍袋の緒が切れ、市議会と市長に公開質問状を出していますが、返答はぱっとしないものでした。

◆G7広島サミットで「米国忖度」

これも繰り返しになりますが、G7広島サミット以降、急速に広島県も広島市も米国への忖度路線を強めています。広島市の松井市長はサミット後にパールハーバーと平和記念公園の「姉妹公園協定」を締結しました。しかし、そもそもパールハーバーは現役の軍事基地です。戦争となれば、核も含む攻撃の拠点となる場所です。そこと平和記念公園の協定というのがおかしい。

そもそも、原爆投下を反省・謝罪しない米国政府と広島市が協定を結ぶことは、核使用への「免罪」の雰囲気を世界に広めてしまいます。米国だけでなく、ロシア、中国、英国、フランス、そしてインドやパキスタン、朝鮮、イスラエルの核保有国の為政者も図に乗らせてしまいます。

また、「はだしのゲン」を平和教材から削除した件も、結局は、サミットを前に米国に忖度した、とみるのが自然でしょう。

◆広島市は「王道」に戻れ

広島市が自治体として本来すべきことは、平和首長会議に加盟する都市の横の連帯で、為政者に核兵器廃絶を迫っていくことです。当面の目標として核兵器先制不使用を厳守させることです。(先制使用をしなくなれば、いわゆる核抑止論を正当化している敵国への恐怖感もかなり取り除かれるため)

核兵器は、使用されれば、結局はどこかの自治体に対して使用されることになります。自治体の市民への脅威である核兵器をやめさせる。そこで、がっちり、世界の自治体に所属する市民とスクラムを組む。それが平和首長会議の会長都市でもある広島市が進むべき「王道」ではないでしょうか?

むろん、街づくりで国からの補助金が欲しいとか、いろいろな事情があることは存じています。それでも、王道を歩むことがいま、広島市に求められるのではないでしょうか?

そして、そのためにも、筆者が常々主張しているように、広島の政治や経済、社会の在り方を、民主的なものにたて直していくことが大事である。残念ながら、「はだしのゲン」に登場する政治家「鮫島伝次郎」のような広島の政治や経済、社会の在り方が、結局は平和都市広島の変質の背景にある。そこから根本的に改めていく必要がある。そのことを付け加えたいと思います。

▼さとうしゅういち(佐藤周一)
元県庁マン/介護福祉士/参院選再選挙立候補者。1975年、広島県福山市生まれ、東京育ち。東京大学経済学部卒業後、2000年広島県入庁。介護や福祉、男女共同参画などの行政を担当。2011年、あの河井案里さんと県議選で対決するために退職。現在は広島市内で介護福祉士として勤務。2021年、案里さんの当選無効に伴う再選挙に立候補、6人中3位(20848票)。広島市男女共同参画審議会委員(2011-13)、広島介護福祉労働組合役員(現職)、片目失明者友の会参与。
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