「北海道警が、函館税関を巻きこみ、拳銃200丁を押収する見返りに、闇社会の人間に覚せい剤130キロ、大麻2トンを密輸させた」とかつての北海道警のエース刑事が告白する。刑事の名は稲葉圭昭(北海道警察銃器対策課・元警部)だ。そのエース刑事は、覚せい剤に溺れ、犯罪者となって服役したが、このほど腐敗した警察組織のすべてを暴いた本『北海道警 悪徳刑事の告白 恥さらし 稲葉圭昭』(講談社)を上梓した。
日新報道が主催している「サムライの会」で、稲葉刑事を取材したジャーナリストの佐藤一氏が講師で招かれており、幸運にも話す機会があり、1999年から2003年ごろまで世間を騒がせたこの稲葉刑事のことを詳細に聞いた。

稲葉事件……。まず、警察庁は93年に銃刀法を改正し、拳銃をもって自首すれば罪が免除、または軽減される「自首減免」制度を設けた。捜査協力者に銃を出させて、所有者がいない「首なし拳銃」にお墨付を与えたのだ。そもそも、「銃器対策課」は今でもいう生活安全課で、拳銃捜査のノウハウなどない。しかし、ノルマというものはのしかかってくる。そこで稲葉はエス(協力者)と組んでの、やらせ押収を始める。
「銃を捜査するノウハウがない。しかし、取れない、とは言えない。そこで幹部たちは、稲葉に頼るようになっていくのです。やらせ捜査だったことは上層部も知っていたはずでした」(佐藤一氏)

いわゆる「稲葉事件」が発覚したのは、2002年7月5日、1人の男が覚せい剤を持って、札幌北警察署に自首してきたことが発端だ。
このW被告(当時40歳)は自首したにもかかわらず、警察では黙秘を通し、裁判所での勾留尋問になって初めて、稲葉圭昭警部と自分の悪行を洗いざらい告白した。
「自分は、稲葉警部に利用された。警察のエスとしてずっと協力してきたが、稲葉警部の、覚せい剤や拳銃を調達しろという要求は激しくなる一方で、もはや耐えられない。しかも、稲葉警部は、自分で覚せい剤を使っているし、拳銃も持っている」
警察が、エスを使って提出させたり、警察自身が買い上げたりした覚せい剤や拳銃を、あたかも内偵から摘発に至ったように装って実績にしてしまう、いわゆる「やらせ捜査」の暴露を始めた。

いっぽうでなんと、拳銃を200丁押収させるかわりに、暴力団関係者への覚せい剤130キロ、大麻2トンの密輸を通過させるという「バーター」が税関を巻きこんで行われていたのだ。稲葉の著によれば押収した120丁のうち、まともに捜査で発見したものは最初の2丁だけだったという。
当時、四大紙をはじめ、中央ではなかなか報道されなかった稲葉事件。佐々木譲はこの事件をもとに『笑う警官』を書いた。稲葉事件は、北海道新聞社と道警との主導権争いのバトルもかなりエグいのだが、また別の機会に紹介しよう。

(渋谷三七十)