大学入試が真っ盛りだ。入試業務は煩雑で多忙ではあるが、志願者の多い有名私大にとっては「入試検定料」(受験料)で、副収入を稼ぎ出す「美味しい」季節の到来である。

一方、学生集めに苦戦してる大学は「入学試験」をどのような形で行うかをめぐり右往左往している。その激化は近年益々際立ってきている。

インターネットで検索を行ったり、フリーメールを利用したりすると、画面に表示される広告がその内容に応じて利用者向けに調整される薄気味悪い機機能を読者もご存知だと思うが、私は大学に関する記事を書くことが少なくないので、画面には大学の学生募集広告が次々に表示される。

◆勢いがある近畿大広告とクドイほど現われる甲南大MBA広告

昨年志願者数が初めて日本一になった「近畿大学」もその一つだった。さすがに勢いがある。「お父さん、怪しい履歴消しといてね」という際どくも気の利いたほほえましいコピーは余裕のなせる技か。パソコンをご家族で共用している「お父さん」は本当に気を付けないといけない。深夜や休日の「お楽しみ」後にはくれぐれも検索結果を消去しておくようにお勧めする。

また、くどいほど画面に現れたのは「甲南大学MBA」(「MBA」は「ビジネススクール」とも呼ばれる)だった。「何回受験しても受験料は5000円」、「実質学費は60万円」とこちらはひたすらに「お値打ち感」を前面に出していた。「MBA」でありながら教学内容ではなく「お値打ち感」をアッピールする広告を打つことに躊躇いはないらしい。こういう学校の教育内容は推して知るべしだ。本コラムで何度か言及している通り学生(院生)確保に苦しんだ挙句「学費」の値下げ競争(ダンピング)に足を突っ込んだところは「破綻」が近い。

日本の大学は私学、国公立とも世界で一番学費が高い。これは大問題だと思う。国が教養の豊かさや教育を重視していないことの現れで、経済格差が生活格差に直結する一大問題であるから、こちらの問題は近く詳述したい。

◆学生募集に苦しんでいる大学ほど「ネット出願」に積極的

そのことを認識しながらも、入試や広告に見られる「ドタバタ」は大学の内実を示唆する。

「インターネット出願」(以下「ネット出願」)を採用する大学が増加している。「ネット出願」が可能な大学は「受験料」も安く設定され、通常出願であれば25000~35000円するところ、「受験料」が5000円~7000円程度に抑えられている。

受験生にとっては有難い。「ネット出願」を利用すれば通常出願の5分の1程度の出費で受験できる。大学側にとっても受験生情報の入力作業が大幅に簡素化できるから業務効率化というメリットがある。

受験生が多い大学は出願開始時期に併せて、臨時のパートや派遣スタッフを雇う。常勤メンバーでは到底さばききれないので3月中旬の2次試験終了まで、入試業務専属の「期間限定」増員を行う。「ネット出願」が今後増加すれば、このような「期間限定」のスタッフ増員も不要になるかもしれない。「センター試験」の成績だけで合否を決める試験もあるので、そのような「無機質」な試験に従来の「受験料」は高すぎたし、願書出願の手間も省けるというメリットは評価されよう。但し忘れてはならないのは「ネット出願」と言ったところで、インターネット上で全ての情報を大学に送ることが出来るわけではなく、調査書や写真、推薦状などは必ず郵送しなければならないことだ。

「ネット出願」を実施している大学の顔ぶれを見ると、「受験生の負担軽減」や「業務の効率化」といった合理的な理由ではなく、別の側面も浮かび上がってくる。
有名どころでは東洋、東海、法政、亜細亜、龍谷、同志社女子、近畿各大学なども「ネット出願」を導入している。が、これら以外の「ネット出願」採用大学は概ね学生募集に苦しむ大学だ。とにかく受験生確保のためならば手段は問わない、「受験料もお安くしときます」との本音が垣間見える。この中には同一学部同一学科を受験するのに6つも7つも試験が用意されている大学がある。

◆一度の試験で3回合否チャンスを与える大学まで出現

NG大学は「センター試験の結果のみ」で合否が決まる入試と、その日の「独自問題」による入試、さらに「センター試験の結果と独自問題を総合して」合否が判断される「実質3つの入試」を同時に受験できるという、俄かには理解に苦しむ制度まで駆使している。

何を言っているかご理解いただけるであろうか? あなたが受験生であるとする。あなたは「センター試験」を既に受験していて「ネット出願」でその大学に3つの方法の受験を出願している。通常、3通りの試験を出願すれば、3回試験を受けるのかなとお感じになるのではないだろうか。まあ、このケースでは「センター試験の結果」だけという試験があるから2回かもしれない。しかしそうではないのだ。あなたは1回だけ「独自問題」による試験を受ければよい。でも「受験料」は3つの形式で受験しているので3回分支払う。

手が込んでいてわかりにくいが、このケースでNG大学は一度の「入試」3回分の「受験料」を「儲ける」ことが出来る仕組みだ。ここを本命に、と考える受験生の弱みを狙った賢くも、小賢しい手法である。

また、極一部の難関私学にとっては相変わらず「入試」は格好の副収入である。大方私学の大学案内パンフレットや願書は実質的に無料になったけれども、早稲田大学は今でも950円で販売している。全国の高校に大学案内や願書を配りまくっている弱小私大にはうらやましい限りだろう。

ともあれ、寒さ厳しいおり受験生の皆さんのご健闘をお祈りする。

▼田所敏夫(たどころ としお)
兵庫県生まれ、会社員、大学職員を経て現在は著述業。大手メディアの追求しないテーマを追い、アジアをはじめとする国際問題、教育問題などに関心を持つ

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