厚生年金基金に2千億円もの穴をあけたAIJ投資顧問の浅川和彦社長は、「詐欺というつもりはまったくなかった」と衆院財務金融委員会で居直った。投資というのは、勝つことも負けることもある丁半博打の世界。浅川社長に様々な問題があったにせよ、相場師に、なぜ負けたんだ、と迫るのは無理がある。

相場の世界がどんなところだか知りたくなったら、平山一郎著『赤いダイヤ――塀の中に落とされた相場師』(鹿砦社)がお勧めだ。
著者の平山氏は今も塀の中だ。島根県にある「島根あさひ社会復帰促進センター」という、官民協営の刑務所で服役している。平成20年、出資法違反と詐欺で逮捕され、懲役4年、罰金300万円の実刑判決を受けた。この本は獄中で執筆されたものなのだ。

平山氏は松本という男から、「JJサニー千葉(千葉真一)の主催する俳優養成学校を東京で開きたいので資金を集めてくれ」と頼まれる。だが学校の設立予定地だった建物は、ずいぶん前から家賃が滞納されており、俳優学校を新たに設立するなどどだい無理な話であった。結果、設立資金を集めた平山氏が詐欺罪に問われ、逮捕されることになったのだ。

そこに至るまでの顛末も読み応えがあるが、本書では、平山氏の20年に渡る相場師人生がぞんぶんに語られている。タイトルにもある「赤いダイヤ」とは、商品先物取引における「小豆」のことだ。商品先物は、投資額に対して、50倍~1000倍のレバレッジをきかせることができ、素人が手を出すと火傷する、と言われる。平山氏は、チームを組織し、小豆相場の仕手戦に挑み、見事勝利。40億もの利益を手にする。

儲けが膨れあがっている頃の話が、おもしろい。
平山は内川という仲間の相場師に誘われて、5日連続で同じラーメン屋に行く。5日目、「ラーメンこぼせ。できるだけ自然に」と内川に言われて、平山はラーメンをこぼす。
慌てて飛んできたウエイトレスに内川は、ギョーザとチャーハンのテイクアウト百人前を注文する。ラーメンをこぼさせたのは、ウエイトレスを口説くきっかけを掴むためだった。
首尾よくことが運び、内川は鞄から1個の〝レンガ〟を取りだして平山に渡す。レンガとは1千万円を一括りにしてがんじがらめにしたものだ。金銭感覚が麻痺していたというが、女性を口説くのがクラブではなくラーメン屋、注文するのがギョーザとチャーハンのテイクアウト百人前というところに、人間くささを感じてしまう。

「相場は人生の縮図」と、平山氏は言う。最高裁まで争って自分に科せられた罪は不本意であっただろうが、塀に落とされた自分の境遇については淡々と受け入れている。「相場は非情」と知っていたからだ。檻の中ではまじめに勉強して、医療事務の資格を取ったと聞く。

「運用」などと耳障りのいい言葉を使っても、相場であり博打である。
本書を読んで、そのことを思い出していただきたい。

(FY)