《脱法芸能50》吉松育美VS谷口元一裁判(10)戸田泉弁護士による反対尋問

吉松さんに質問をする被告代理人が戸田泉弁護士に交代した。

戸田泉弁護士 代理人の戸田から質問させていただきます。ええと、確認ですが、マットさんはあなたのマネージャーですか?

吉松育美 海外エージェントです。

戸田泉弁護士 付き人という理解でいいですか?

吉松育美 そうですね。

戸田泉弁護士 ええと、話は飛びますが、久光さんとの契約の時にあなたはスキャンダルとか悪いことが問題になるのではないかということをおっしゃっていたと思いますが、そのスキャンダルというのはそのマットさんと同棲しているという噂と、実際は同棲しているかどうかは、分かっていませんが、同棲しているかどうかといことがスキャンダルということですね?

吉松育美 それは分かりません。どんな形であれ、スキャンダルはスキャンダルです。

戸田泉弁護士 そのスキャンダルとか悪いことというのは、あなたから見たら、どういうのがスキャンダルとか、悪いこととして久光さんが考えていると理解していますか? 先ほど、スキャンダルとか悪いこととおっしゃったと思いますが、それは具体的には?

日本外国特派員協会での吉松育美さん記者会見(FCCJ公式チャンネル2013年12月16日公開)

吉松育美 たとえば、週刊誌に漏れるとか、そういうことだと思います。

戸田泉弁護士 週刊誌に載ってしまうと、広告は出れない、そういう事態ですか?

吉松育美 そうですね。日本の芸能界は、いいことでも悪いことでも、週刊誌に載るということはすごく嫌う傾向がありますので、スキャンダルというのは、週刊誌に載ってしまうこと。

戸田泉弁護士 その他に何かありますか?

吉松育美 悪いことというのはいろいろありますけど、今、ぱっと思いつくことはありません。

戸田泉弁護士 同棲しているという噂が流されることや週刊誌に載ることがスキャンダルや悪いことということですね?

吉松育美 同棲していることが悪いというというのは、私の人権というか、私も自由に恋愛をする権利はありますので、悪いことにはならないです。それを面白おかしく仕立てあげるマスコミがそれに対して拒絶反応をしてしまうような企業。

戸田泉弁護士 今度は契約の金額の話です。先ほど、3000万円から5000万円というお話だったと思いますが、交渉は誰が行なっていたんですか?

吉松育美 テイラーが。

戸田泉弁護士 テイラーさんは弁護士ですか?

吉松育美 違います。

(この質問には、契約交渉のような法律行為を他人に代わって行うことは、本来、弁護士でなければ行えないものではないか、という含みがある。実際、暴力団絡みの地上げ事件で地上げ屋が弁護士資格を持たず地上げ交渉をしたために弁護士法違反で摘発された事例がある。場合によっては、テイラー氏も弁護士法違反に問われることもあるが、谷口氏も立場は同様であり、弁護士も深くは突っ込んでいない。芸能事務所が弁護士資格を持たずに出演交渉をタレントの代理人として行うことについて日本の芸能界では、ほとんど問題になったことがないが、タレントが芸能事務所から搾取される原因になっているとも言えよう)

戸田泉弁護士 どういう立場でやられていたんですか?

吉松育美 私の代理人として。

戸田泉弁護士 あなたは直接テイラーさんに代理権を与えたんですね?

吉松育美 というよりも、芸能界でタレントというのは、直接企業とお金の交渉をするものではない。だいたい、マネージャーや付き人、エージェントを間に挟んで値段の交渉をするので、その時、その役割だったのがテイラーだったと思っていただければと思います。

戸田泉弁護士 じゃあ、具体的に金額が3000万から5000万だったというのは、あなたは直接はやりとりされていないということですね?

吉松育美 直接はしていません。

戸田泉弁護士 3000万から5000万の開きがあると思いますが、それでもあなたが90%決まっていると思う根拠は何ですか?

吉松育美 交渉の間では3000万から5000万でしたが、最終的には3000万です。

戸田泉弁護士 3000万円で話がまとまったと考えていいですね。

吉松育美 はい。

戸田泉弁護士 今まであなたは、広告の契約を何本かやられていたのですか?

吉松育美 はい、アメリカでやっています。

戸田泉弁護士 これ以前には何本かやったことはありますか?

吉松育美 以前にはやったことはありません。

戸田泉弁護士 はい。今までは何か小さな金額の広告とかにも出たことはありませんか?

吉松育美 今までというのは?

戸田泉弁護士 契約の前。

吉松育美 ないです。

戸田泉弁護士 その前にあなたは事務所に所属されていたと思いますが、そこではどういう活動されていましたか?

吉松育美 ……イベントに出演したりということをやっていました。

戸田泉弁護士 そこに所属されるタレントさんで有名な方はいらっしゃいますか?

吉松育美 ゼロです。

戸田泉弁護士 そうすると、あなたは芸能界に詳しいとは決していえないんじゃないですか?

吉松育美 そうですね。はい、広告関係については、テクニカルな話については私はプロではありません。

戸田泉弁護士 谷口さんとお会いした回数については?

吉松育美 1回です。

吉松育美 日テレの時だけということですか。ええ、あなたがつきまとったと評価するのは、動産執行されたということと、あとは日テレの時と、ご両親に電話したことと後はあなたの主張によれば、久光さんとか、国際文化協会に谷口さんが圧力をかけたこと、あとは週刊誌を使ったこと。

吉松育美 プラス、私の事務所にいく度となく電話をかけてきたこと。

戸田泉弁護士 あなたの事務所というのは、あたなと今、新しい自分で立ち上げられた事務所ということですね。

吉松育美 はい。

戸田泉弁護士 そこで電話に出られたのは誰ですか?

吉松育美 うちのスタッフです。

戸田泉弁護士 何回ぐらい?

吉松育美 数えていないですが、覚えていないぐらいに電話がかかってきました。

戸田泉弁護士 頻繁にですか?

吉松育美 はい。(続く)


◎[参考動画]日本外国特派員協会での吉松育美さん記者会見(日本外国特派員協会2013年12月16日公開)

○吉松育美さん公式サイト=http://ikumiyoshimatsu.com
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▼星野陽平(ほしの ようへい)
フリーライター。1976年生まれ、東京都出身。早稻田大学商学部卒業。著書に『芸能人はなぜ干されるのか?』(鹿砦社)、編著に『実録!株式市場のカラクリ』(イースト・プレス)などがある。

◎事実の衝撃!星野陽平の《脱法芸能》
◎《脱法芸能36》宮根誠司──バーニングはなぜミヤネ独立を支援したのか?
◎《脱法芸能37》『あまちゃん』能年玲奈さえ干される「悪しき因習」の不条理
◎《脱法芸能40》安室奈美恵「移籍劇」は芸能界決壊への「パンドラの箱」を開いたか?

芸能界の歪んだ「仕組み」を解き明かす!『芸能人はなぜ干されるのか?』

タブーなきスキャンダルマガジン『紙の爆弾』!

メールストーカーの心理状態を推察し、挑戦状を出す!

先輩の田所敏夫さんが先日、昨年12月14日に行われた鹿砦社の忘年会についてレポートしていたが、僕は僕なりにこの夜、事件があった。深夜の25時30分すぎに、「酔ってるのか? とりあえず落ち着いて座れ。」といういたずらメールが入ってきた。2012年の夏に東電をぶったたく本を作ってからこの手のストーカーメールがガンガン入ってくるようになり、無視していた。だが無視できないことに旧知のライターの名前を出して、「Aの住所を教えたらメールしないだろう よろしく!」と時間がたって入ってきた。

はっきり言って、この一連の流れとメールアドレスのデータは、警察庁のサイバー犯罪対策室の係官にルートがあるので、すぐに報告した。するとさっそく解析してくれるそうだ。警察庁の人を快く紹介してくれた弁護士の猪野雅彦先生には、心より御礼を申し上げたい。この猪野先生は、現在、パートナーの弁護士を探しているので、仕事がない弁護士は、鹿砦社(の東京編集室にいる)のハイセーヤスダ宛に連絡をしてほしい。もっとも猪野先生そのものは稲川会や怒羅権を守る弁護士なの で「強面」であることを付け加えておく(そのおかげで僕は友人がヤクザだらけとなった)。

話が横にそれた。問題は、「メール」でつきまとう、という行為についてだ。
たとえば、米ノースウエスタン大学の研究チームは、スマートフォンを1日1時間 以上使う人は、鬱になりやすいという発表をしている。

「スマホを使えば、鬱になる」という断定はここではきわめて危険だ。だが、データはスマホの使い手が鬱になりやすい、というデータを如実に示している。

僕自身は、ツイッターやフェイスブックは、「CIAおよび日本政府が個人情報を集める」ために立ち上げたと考えている。その証左の一端は、10月末に報道されたが、「米グーグルと米ヤフーが検索情報を共有する」というニュースだ。僕はなんとなくこのニュースを、「情報サービス業者のインフラ戦略」として聞いてみたが、よくよく見れば、この話は「民衆が何を考えているか、ひとつお互いに掌握しておこうじゃないか」という話だ。だから僕は一切、ツイッターもフェイスブックもやらない。LINEをやるくらいなら、携帯そのものを捨てる。

メールストーカーよ。僕は君を追跡する。
話を情報戦に絞れば、この勝負は長引きそうだ。
君が敵にまわしたのは僕だけじゃなくて「鹿砦社」全体だ。右翼にも左翼にも縦横無尽に人脈があり、ヤクザにも警察にも通じている鹿砦社と君と、どちらが勝負になるのか決着をつけようじゃないか。

そして宣言する。僕はメールでしか物を言ってこない「誰か」について、おそらくパワーをすべてつぎこみ、社会から抹殺するだ ろう。もしも過去に僕に「社会的に抹殺された」何人かについて情報を得たいなら、僕が「サイバッチ」のライターをしていた時代まで遡れ。

さあ、ゲームの始まりです。勝負のゴングは、僕の中ではすでに鳴っているのだ。

▼ハイセーヤスダ(編集者&ライター)
テレビ製作会社、編集プロダクション、出版社勤務を経て、現在に至る。週刊誌のデータマン、コンテンツ制作、著述業、落語の原作、官能小説、AV寸評、広告製作とマルチに活躍。座右の銘は「思いたったが吉日」。格闘技通信ブログ「拳論!」の管理人。

◎川崎中1殺害事件の基層──関東連合を彷彿させる首都圏郊外「半グレ」文化
◎国勢調査の裏で跋扈する名簿屋ビジネス──芸能人の個人情報を高値で売買?

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《脱法芸能49》吉松育美VS谷口元一裁判(9)池田尚弘弁護士による反対尋問

ITJ法律事務所の池田尚弘弁護士による吉松さんの反対尋問が続く。

池田尚弘弁護士 (電通が)あなたのことを調べていた時にあなたと海外エージェントマット・テイラーさんとの関係が黒い噂としてこの当時、インターネットや新聞記事に掲載されていたことは?

吉松育美 その当時は私の名前を検索しても、テイラーとの黒い噂などがいろんなことろで出るということはまったくありません。出たのは新聞社1社のみだったと思います。もしくはその新聞ですら、その時点では存在していなかったと思います。その契約書、もちろん電通が調べる段階では6月前のことなので、そうすると、そういったものは世の中に一度も出ていない時に調べたと思うので、それは違うと思います。

池田尚弘弁護士 甲20号証を示します。こういった記事が出ていたことはご存知ですね?

吉松育美 はい。

池田尚弘弁護士 では、聞きましょうか。日テレ事件について伺います。あなたは谷口さんが別な番組の入館証を持って入ってきたと言っていました。具体的にはどの番組ですか?

吉松育美 私は谷口さんが入ってきたところを見ていません。

池田尚弘弁護士 そうすると、あなたは『バンキシャ!』とは別な入館証を持って、谷口さんが入ったということを見たわけではないんですね?

吉松育美 『バンキシャ!』の番組関係者のスタッフから別な入館証を持っていた、色が違ったと言われました。

池田尚弘弁護士 はい。聞いたわけなんですね。スタジオからあなたの控室に出るまでの出来事ですが、あなたは先程詳細にお話していただけました。一番最初に私はスタッフに囲まれて、スタジオを出ましたと。

日本外国特派員協会での吉松育美さん記者会見(FCCJ公式チャンネル2013年12月16日公開)

吉松育美 誘導されて。

池田尚弘弁護士 誘導されて。スタッフは何人ぐらい?

吉松育美 一人。

池田尚弘弁護士 あなたの横に?

吉松育美 前に。

池田尚弘弁護士 前に。誘導されて、スタジオから控室まで廊下を通るんですね。どのくらいの距離ですか?

吉松育美 そんなに長くない。

池田尚弘弁護士 通常であれば、マネージャーのマットさんが横にいるはずなんですが、その時は横にいなかったという風に言ってました。どのくらい距離がありましたか?

吉松育美 でも、すぐ、谷口さんが割り込んで入ってきた感じだったので、私の後ろのすぐ谷口さんで、その後、テイラー。わりとそんなにすごく離れたところからという感じではなかった。

池田尚弘弁護士 谷口さんが割り込んだのは、どのあたりですかね? スタジオ出て、10メートルぐらい歩いて、控室に行きますよね。どのあたりですか?

吉松育美 スタジオから。

池田尚弘弁護士 スタジオですか? 甲第7号証、7の1号証。これはスタジオから控室までの音声を先ほど、証人のテイラーさんが録ったものの反訳書です。ここには記載されていないんですけども、0130、1分30秒ぐらいのところで、「なぜ、彼がついてくるの?」とあなたは、マットさんに語りかけています。ただ、あなたの話だとずっとスタジオを出た後は、あなたの後ろはすぐ谷口さんですね。

吉松育美 はい。

池田尚弘弁護士 さあ、続いて控室に入ってからです。あなたは控室に入って、谷口さんがマットを押しのけ、あなたと一緒に控室に入った。控室の中であなたの右手をつかんだとおっしゃっていますね。その間にすぐ横にいたマットさん、もしくはすぐ横にいたスタッフはどういう風にしていましたか?

吉松育美 スタッフは谷口さんが後ろからついてきていたことにに気づいていなかった。ただ、その出来事というのはとても一瞬のことだったので……。

池田尚弘弁護士 一瞬というのはどのくらいの間隔ですか?

吉松育美 録音記録を聞いていただければ分かりますが、5秒ぐらい。

池田尚弘弁護士 この廊下を歩いてくる音声を聞くと、「お金返して」という谷口さんの声が聞こえてくるんですけど、それでもスタッフは何も気づかなかった?

吉松育美 そうです。

池田尚弘弁護士 控室に入った時、スタッフ、あとはテイラーさん、お互い、どの位置にいましたか?

吉松育美 スタッフさんは控室に入ってきませんでした。テイラーは私に危害を加えようとする谷口さんを払いのけてドアをガシャンと閉めました。

池田尚弘弁護士 スタッフは控室に入っていない? 控室まで誘導するわけですね?

吉松育美 はい。

池田尚弘弁護士 そこですぐにあなたが入って5秒もないということは、入ってすぐに谷口さんが同行して控室に入った。スタッフは目の前で見ていますよね?

吉松育美 はい。

池田尚弘弁護士 でも、止めなかったんですか?

吉松育美 はい。さっき言ったように一瞬の出来事すぎて。

池田尚弘弁護士 その時にたとえば谷口さんがあなたの手をつかんだのであれば、何か谷口さんの声、もしくはスタッフの声、あとは止めようとしたテイラーさんの声が録音されていないんですか?

吉松育美 はい。でも、どうかしたのとは録音されています。私の悲鳴も録音されています。

池田尚弘弁護士 その言葉は、周りの皆さんは聞かなかったんですね。私からは以上です。(続く)


◎[参考動画]日本外国特派員協会での吉松育美さん記者会見(日本外国特派員協会2013年12月16日公開)

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▼星野陽平(ほしの ようへい)
フリーライター。1976年生まれ、東京都出身。早稻田大学商学部卒業。著書に『芸能人はなぜ干されるのか?』(鹿砦社)、編著に『実録!株式市場のカラクリ』(イースト・プレス)などがある。

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堤防決壊で大洪水の傷跡が残る観光地、鬼怒川温泉に行ってきた

昨年末、鬼怒川温泉に行ってきた。理由は昨秋9月10日に記録的な豪雨を記録し、鬼怒川の下流の堤防が決壊し、濁流が民家に流れ込み、不幸にも死者を出したからだ。僕は、こうした天災や事故が起きた観光地には極力行くようにしている。お悔やみの意味もあるし、「すいている」という事情もあるが、なによりもどうせ遊ぶのなら、誰かに感謝されたいとひとりの人間として率直に思う。

川治温泉の風景

今回、お世話になった鬼怒川の旅館(正確には川治温泉の旅館)は、もう集客に懸命で、上野と越谷から往復のバスを無料でだしていたほど。来年、50歳になる僕にはありがたいサービスだ。東武の特急「スペーシアきぬがわ」はかなり乗り心地がいいと、鉄道博士のO社員に聞いていたが、乗り換えの心配がいらないし、往復の交通費が無料とは感激だ。

案の定、休暇にはならず、あちらこちらに話を聞いて回る取材となり、まったく休まらないが、得てきた情報は公開する。まずこのコメントを紹介する。

「氾濫した打撃はそんなに宿泊客の激減にはつながっていないと思いますが、今年は暖冬なのが参りますよね。雪の景色を露天風呂で楽しみたいお客さまが、このシーズンは多く押し寄せますから。このあたりは、地熱で雪がとけてしまうから、雪見の露天風呂は、ここいらでは売りのひとつだから、雪が降らないのは少し残念ではあります」(ベテランの旅館店員)

帰る日に雪が降ってきた

皮肉なことに、帰る日に雪が降ってきた。朝にチェックアウトして出るときに、「この雪を見ながら露天風呂に入りたかった」とつぶやき、おごそかに降る雪をうらめしく見ていると、旅館店員が話しかけてくる。

「この雪はすぐにやみますよ。むしろ今日が来られる日だったら、バスが遅れる可能性だってあります。まあ、この暖冬をうらみますよ」

日光関連で残念なニュースがある。「日光さる軍団」のポスターやチケットなどをデザインしたアートディレクターの男性が、「デザイン料の一部しか受け取っていない」と訴訟を起こしたのだ。男性は、「おさるランド」にデザインの使用差し止めを求める仮処分を東京地裁に申し立てた。

鬼怒川の濁流

この話が複雑なのは、おさる軍団の女性社員が、「おさるランド」のアイキャッチとなっているかわいいキャラクターを描いたことだ。おさるランド側に言わせると、「自社の社員が描いたキャラクターをデザイナーが加工しただけで、著作権はこちらにある」という主張になり、両者の言い分は平行線だ。これは、東京五輪に続く「第2のエンブレム問題」として注目していきたい。

記者会見に行ってみたが、「おさるランドは、客が入っており、儲かっている。払わない理由がわからない」とデザイナー氏が主張していた。行く末を見守りたいと思う。

話を鬼怒川の観光に戻すと、倒産している旅館が鬼怒川には相次いでおり、旅館の後継者もなかなか希望者がいないようだ。

「NHKが日光を舞台にしたドラマでも作ってくれないと無理。来年の『真田丸』は関係なさそうだしねえ。あなた、鬼怒川温泉を舞台したドラマでも作ってくれませんか」と旅館の店員は言う。

ウエスタン村は、債権でもめており、実質的に破綻している。今もなお、倒産におびえて年寄りが旅館を運営、その姿に未来はない。

それでも、と僕は思う。実は鬼怒川温泉は、川の氾濫から台地が変形し、温泉が湧いたという説もある。「災い転じて」福という観光地になるように祈る。(小林俊之)

◎流行語大賞トップテン入りで波にのる「とにかく明るい安村」のウラ事情
◎小林俊之+影野臣直!強力タッグの短期連載ルポ[全8回]
新宿・歌舞伎町ぼったくり裏事情──キャッチ目線で見た「警察の対応変化」

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ティーンズチャンプがキック界を刷新する?──2015年回顧と2016年展望

2015年のキックボクシング界主要団体で目立った出来事を大雑把に振り返り、2016年の潮流を展望してみます。

◆日本選手7名全員が敗れたムエタイ王座戦への挑戦

2015年、ムエタイ二大殿堂のルンピニースタジアム王座とラジャダムナンスタジアム王座に挑戦した日本選手は7名で、そのすべてが敗れ去りました。

ムエタイ技術の奥深さ、タイトルが掛かる場合や、プロモーターや賭け屋の暗黙の査定が存在する中では異様な底力を発揮するタイ選手のノンタイトル戦とは違う本気度。現地ラジャダムナンスタジアムでの挑戦は1月19日の石毛慎也(ライラプス東京北星)と5月24日の喜多村誠(伊原)の2名。他はすべて日本国内でした。

双子で再度ムエタイ王座狙うWKBA世界チャンピオンコンビ江幡睦・塁

接戦も撥ね返された試合もありました。3月15日の江幡睦(伊原)もラジャダムナン系で、他はすべてルンピニー系でした。4月5日に藤原あらし(バンゲリングベイ)、4月19日に一戸総太(WSR・F)と梅野源治(PHOENIX)、7月19日と12月27日に一刀(日進会館)の4人が挑戦。梅野源治が最も注目を浴び、過去の実績から王座に近い存在でしたが、優勢の流れから技術でミスし逆転負けの屈辱を味わいました。

キックの老舗WKBA世界戦では蘇我英樹(市原)と江幡弟・塁(伊原)が初防衛。江幡兄・睦はフォンペット・チューワタナ(タイ)とのダブルタイトル戦で敗れ奪われた王座が、後に返上された為、再び王座決定戦で奪回に成功。

WBCムエタイでは5月10日、同・世界スーパーライト級チャンピオン.大和哲也(大和)がノンタイトル戦で500グラムオーバーとなる失態があり、その試合もゴーンサック・シップンミーに判定負け。その汚名返上となるべき9月27日の王座統一戦は、暫定チャンピオンのアランチャイ・ギャットパッタラパン(タイ)に初回からダウンを奪われ判定負け。初防衛と王座統一は成らず。

7月20日、WBCムエタイ世界スーパーフェザー級タイトルマッチでの梅野源治の初防衛戦で、挑戦者ペットブーンチュー・ソー・ソンマーイが1.43kgオーバーによる失格により計量時で“防衛”という不可解な裁定が勃発。ノンタイトル戦となった試合は梅野の3R・TKO勝利。

11月15日、WBCムエタイ日本チャンピオン.宮越兄弟(拳粋会)がWBCムエタイ・インターナショナル王座決定戦に出場。兄・宗一郎はスーパーウェルター級、弟・慶二郎はライト級で王座奪取。

WPMF世界王座奪取したのは4名。3月17日アユタヤでフライ級の福田海斗(キングムエ)が王座奪取。7月12日、青森でフェザー級の一戸総太(WSR・F)が奪取し、スーパーバンタム級に続く同時2階級制覇。9月20日、岡山県倉敷市でスーパーフェザー級で町田光(橋本)がで奪取、ミドル級でT-98(=タクヤ/クロスポイント吉祥寺)が奪取しました。

◆高校生チャンピオン福田海斗の躍進

3月17日にWPMF世界フライ級チャンピオンとなった高校1年生・福田海斗(キングムエ)が、12月8日にタイのルンピニースタジアムでタイ国ムエスポーツ(プロムエタイ)協会フライ級王座決定戦に出場。同協会4位の福田海斗が10位のタナデー・トープラン49 にヒジで切り裂き、3-0(3者49-47)で完勝。タイ人以外初の同協会チャンピオンとなりました。

本来このムエスポーツ協会は公的機関の組織でタイ国の国家予算が使われており、外国人には充てないはずのタイ国王座でしたが、プロモーターの見切り発車で、協会役員の反発がありつつも押し切られての開催でした。前例が出来た以上、今後も外国人が絡んでくることは止められないでしょう。

出場に至った経緯など価値的には問題視されますが、これで形式上は福田海斗もムエタイ“三大”殿堂王座を制したことになります。「日本人5人目の・・・」と言いたいところ、本来はタイ国の統一王座に在り得る団体だったのにも関わらず、そういう活動は少なく権威は崩れているので、残念ながら“二大”殿堂には適わぬ第三の地位に落ちています。

ルンピニージャパン開設記者会見(2015年8月7日)

◆ルンピニーボクシングスタジアムオブジャパン発足!

8月7日に記者会見が行われ、ルンピニーボクシングスタジアムオブジャパンの発足が発表されました。代表はセンチャイ・ムエタイジム会長のセンチャイ・トーングライセーン氏。2016年には日本タイトルも制定し、ランキングに入るとタイ国ルンピニースタジアムのランキングにも反映され、日本チャンピオンになるとルンピニースタジアム王座に挑戦有資格者となり、ルンピニースタジアムのチャンピオンクラスを招聘し、トップレベルの試合も行う予定と発表されています。12月13日に従来のムエタイオープン興行で最初の日本ランキング査定試合も開催されました。

◆WPMF日本支局長、ウィラサクレック・ウォンパサー氏の3期目へ続投

ウィラサクレック=WPMF日本支局長

2009年1月にWPMF日本支局が発足し、日本での運営を管理管轄してきた組織は任期3年で、2期務めたウィラサクレック・フェアテックスジム会長のウィラサクレック氏でしたが、2015年前期に、日本支局はタイ本部の直接的管轄下に置く案があり、日本支局長廃止案が出ていました。しかし、長く務められたウィラサクレック氏の功績も非常に大きい為、第3期目の続投が認められました。

◆2016年の展望──ムエタイ“二大”殿堂王座に江幡ツインズが再挑戦

ムエタイ“二大”殿堂のひとつラジャダムナンスタジアム王座に再挑戦することが確実視される江幡ツインズと、再度ルンピニースタジアム王座狙う梅野源治は王座奪取なるか。3人とも実力で優るものがありながら、首相撲が絡む駆引きで苦杯を味わう壁を打ち破れるか期待が掛かります。

高校生まで低年齢化したチャンピオンやランカークラスの台頭が目立った2015年でしたが、福田海斗(キングムエ/16歳)、伊藤勇真(キングムエ/18歳)、那須川天心(TARGET/17歳)、佐々木雄汰(尚武会/15歳)、石井一成(エクシンディコンJAPAN/17歳)といった選手が日本国内とタイ国でもアマチュア枠ではない、プロのチャンピオンレベルの話題を振りまく試合を続けていますが、その実力は本物か、試される年になりそうです。

梅野源治=WBCムエタイ世界スーパーフェザー級チャンピオン

貴センチャイジム(WMC世界スーパーフライ級チャンピオン)vs佐々木雄汰。15歳デビュー戦は引分け(2015年6月28日)

ラジャダムナンスタジアムが主戦場、高校2年生17歳の石井一成

17歳の那須川天心は10戦10勝(9KO)6戦目でRISEバンタム級王座獲得

夜魔神、竹村哲、松本哉朗などの引退があった昨年は、国内でも世代交代が目立ち、二十歳代本来の成熟した新チャンピオンが幾人も誕生した中、日本と世界の狭間にいるWBCムエタイ・インターナショナルチャンピオン.宮越兄弟(拳粋会)と宮元啓介(橋本)、新日本キックの殿堂選手の緑川創(目黒藤本)、石井達也(目黒藤本)もひとつ上の世界へ挑む時期に来て臨戦態勢を保っています。

権威の在り方が問われるムエタイ殿堂を含む各認定組織。WBCムエタイもアマチュアから日本、世界王座まで構築された構造が創られ、WPMF日本も更に活性化した運営を期待され、支局長・ウィラサクレック氏の更なる戦略拡大も注目です。

活動始まったばかりのルンピニージャパンはまだ展開が見えない中、ルンピニースタジアムと日本国内を繋ぐ吸引力は保てるか。結局乱立が増しただけのタイトルになっている各組織に健全な運営が続けられるか、順調そうに見える組織が頓挫しないか、選手の活躍以外にも、ファンは競技存続の鍵を握る組織を注視していてもらいたいところです。

[撮影・文]堀田春樹

▼堀田春樹(ほった・はるき)

フリーランスとしてキックボクシングの取材歴32年。「ナイタイ」「夕刊フジ」「実話ナックルズ」などにキックのレポートを展開。ムエタイにのめり込むあまりタイ仏門に出家。座右の銘は「頑張るけど無理しない。」

◎キック新時代を牽引するRIKIXジムの「NO KICK NO LIFE」
◎ルール変更の紆余曲折から辿る日本キックボクシング界の栄枯盛衰クロニクル
◎ボクサー転向物語(1)ボクシングからキックボクシングに転向した名選手たち
◎ボクサー転向物語(2)キックボクシングからボクシングに転向した名選手たち
◎強くなるためにタイへ行く!日本キックボクサー「ムエタイ修行」今昔物語

7日発売『紙の爆弾』!タブーなきラディカル・スキャンダル・マガジン

 

2016年のジャパン・カオス──2026年正月に記された日系被曝難民家族の回想記

2016年鹿児島県川内原発爆発事故に端を発する「JAPAN CHAOS」により、日本国は終焉した。娘の遥(はるか)と妻を懸命に引きつれロシアから中米のこの国に渡った私たちは難民だ。

FUKUSHIMA2011

昨年末、妻が急逝した。乳がんだった。今年は遥と二人だけで9回目の新年を迎えた。とはいってもこの国にはかつての日本で盛んであったような「新年」を祝う習慣は無い。亡命直後はそれでも妻が雑煮を作ったり、遥かには「お年玉」を渡したりしていたが、それが娘にとってこの環境に馴染むのには好ましくない、私たちだけのノスタルジーだと気がついた6年前から新年を祝う旧日本的な行為はすべてやめることにしている。

この国では2020年から「2000年以降に開発された科学技術(とりわけ電子技術)の大半は、本来的な人間の生活に資するものではない疑いがあることから、暫時使用の取りやめを勧奨する」という、世に言う「反進歩主義法(反デジタル法)」が施行されている。国民内で喧々諤々の議論の末に成立した稀代の「反進歩主義」に立脚したこの世界でも例を見ない法精神に、この国の先住民たるインディオ(インディアナ)の生活則が強く反映されていることは疑いない。

しかし、政治的に強い影響力を持たないインディオ(インディアナ)の古い習慣に中央政府が耳を傾けた理由には、米国のデフォルト及び中国の内戦勃発という激震と、この地にたどりついた我々、日本からの難民に極めて高い確率でがんが発症し出したことを直視したことも強く影響している。現実的課題として資本主義の終焉、原発をはじめとする巨大エネルギーとコンピューターテクノロジー(デジタル技術)の無限発展への懐疑と危険視が大衆の心も捉えたのだ。

私たちは強制はされてはいないものの、2030年までに「携帯電話」と「インターネット」の使用を停止するように求められている。医療分野だけは例外的に2000年以降の技術の導入も認められているが、難民である我々より先に、この国の住人の多数は既に自宅からパソコンを取り払い、家族で1台だけ非常時用に携帯電話を保持する「Emergency Usage」を難じることなく受け入れ始めている。政府の決定とはいえ、差し当たり「不便」が伴うことが明白な「反進歩主義法」への住民の理解と即応振りに、私は正直かなり驚いた。

KAGOSHIMA2015

昨年9月妻に乳がんが見つかり、医師からは余命が幾ばくも無いことを伝えられた。何の兆候も感じていなかった妻はもちろんのこと、私も大いに動揺した。遥に母親の余命を伝えるのはあまりにも過酷だと判断した私は、「反進歩主義法」の精神に背いて、スイスの最先端医療機関に妻を搬送した。もちろん遥も同行させた。金銭的に窮乏状態にある私たちが妻の治療を高額なスイスの医療機関に委ねることができたのは、皮肉にもこの国の「反進歩主義法」への反感を強く内包する「日本人難民会」の経済的支援によってであった。そして妻の乳がん発症は川内原発爆発事故直後の初期被爆が原因であることが改めて医師から指摘された。

私自身の思想や主義(そんなあからさまなものはもとより無いのだけれども)とは関係なく、娘の母親を失わせたくないとの思いの前で、普段は付き合いもそこそこの「日本人難民会」から膨大な援助を受けることに私は躊躇しなかった。

だが、妻が最新の医療技術で処置に当たっても余命が数週間だとスイスの病院で通告を受けたとき、私は腰から力が抜けた。ステージ3だか、4だか確かに中米の国では「治療困難、余命半年」を言い渡されたとき、私の心にはまだ、進歩する(はず)の技術への信仰とも言うべき思考性癖が残っていたのだ。私たちが難民として暮らす国民平均年収の20倍を超える金額を、躊躇無く受け取った私は遅まきながら、妻の葬儀後喪失感とともに、自己嫌悪に陥った。もうこの国で難民として暮らす資格なんか無いと思いつめ、教会へ懺悔に赴いたり、仕事を休み午前中から酒に浸るようになった。

あっさりしていて実は隣人の生活に良くも悪くも興味を失わない国民性など、私の頭からはすっかり吹き飛んでいた。遥を学校に送り出したあと、私は連日この国特有の度数が高い酒精を煽りだしていた。

ドアがノックされたのは酒精のビンが大方1本空になりかけた頃だっただろうか。半分うつろで吐息にたっぷりと蒸留酒の臭いを含んでいたはずの私がドアを開けると、立っていたのは差し向かいの奥さんだった。先住民とスペイン人の混血だが先住民の血の濃さが強く残る彼女の名前は記憶に間違いが無ければ「ケチュア」さんだったはずだ。

「タドコロさん、奥さんが亡くなってから町内の皆が心配しています。昨夜町委員会でどうしたらタドコロさんが元気になるか議論しました。もしお願いできたら今年の『町委員長』を引き受けてもらえないか、と結論が出ました。もちろん難民は法律上『町委員長』にはなれませんから、役所への名簿にはうちの主人の名前を載せます。でもこの町内を今年はタドコロさんに任せたい、と結果が出ました」

いったい何を考えているのだ。立っているだけでまともに受け答えができない私は答に窮した。ケチュアさんは続けた。

「タドコロさんは急に奥さんをなくしてとても気の毒だし、落ち込んでいる。きっとスイスに行ったことにも複雑なお気持ちがあるでしょう。私たちはタドコロさんが『日本人難民会』から支援を受けたことを知っていますが、誰もそれを責めてはいません。何故だかわかりますか?」

親切な配慮のようで油断のならないこの質問に泥酔状態の私は窮した。

「タドコロさんはオオタリュウを知っていますね。ご存じないかもしれませんが『反進歩主義法』は表向き私たちの先祖インディオ(インディアナ)の思想回帰の形を基礎としていますが、政府はオオタリュウの思想を詳細に検討しているのです。オオタリュウと会ったことがあるんですよね、知り合いだったのですね、タドコロさん?」

私の酔いは瞬時に醒めた。「待ってくれ、オオタリュウ(大田竜)の名前を知らないわけじゃない、彼の大雑把な思想変遷もまったき不案内なわけではないけども、私は彼と生きている時代も世界も違った。私がオオタリュウと知り合いだなどといったい勘違い(虚言?)をいったい誰が・・・」とまくし立てようとしたが言葉が出なかった。

「こんな言い方は失礼ですが、物質文明と経済発展だけに狂って破綻した『日本』を政府も、私たちも実はとても真剣に考えているんです。明日の私たちの姿と重ねながら。そこから生まれたのが『反進歩主義法』なのです。でも破滅した『日本』の中にオオタリュウやアンドウショウエキ、タナカショウゾウ、フジモトトシオといった優れた思想があったことはとても興味深い事実です。だからタドコロさんにはその思想をこの町内で教えてほしいのです」

もう私は完全に体温が下がりはじめていた。たしか「笛」を意味するはずの名前を持つ差し向かいの奥さんがただの主婦ではないことは明白だ。普段口数少ないこの主婦が政府の情報機関に関する仕事をしていることは間違いない。それにしても40年前の日本の公安が監視対象としていたような(それにしては人選が相当大雑把な)人物を政策立案の参考にするこの国はいったい何を考えているのだ。彼女が口にした人物たちが生きたのは時代も異なり思想にも相当開きがある。それ以上に私からは晩年思想的に破綻したとしか思われない人間の名前が重宝されている。

本当に「反進歩主義」など実現できると思っているのだろうか。

その時、遥が帰ってきた。「こんにちは、ケチュアさん。お父さんまたお酒臭いよ。だらしない。お母さんは神様の下に召されたんだから、いつまでも落ち込んでいちゃだめ! 私ね、今日嬉しいことがあったんだ。クラス討論の時間にお母さんの最期の話をしたのね、そしたら学校で3人しかいない『反進歩主義法』討論委員に選ばれたんだよ!今からお母さんのお墓に報告に行ってくるね。いいでしょ?」

「ああ、それは良かった、気をつけて行っておいで」私は虚ろに答えた。
ケチュアさんが口を開いた。
「ハルカさんは元気そうで良かった。タドコロさん。私たちは本気で『反進歩主義法』を進めたいと考えているのです。それにその先に…… もし可能ならこの国家を終わりにしたい……」

彼女の言葉を全て信じたわけではない。でも、難民として受け入れられてからこの国が私たちに与えてくれた厚遇は、豊かではない国家財政の中で破格というべきものだった。そこには何らかの打算や損得勘定を感じさせるものは一切なかった。

「わかりました、私でよかったらお引き受けしますよ」

自分でも驚くほど無謀な答えが口から飛び出した。急速に脳が回転し始めた。どんな結果になるにせよ近代の反省に立脚する「反進歩主義」の壮大な社会実験に俄然興味が沸いてきた。自分が難民であることも忘れた。娘が討論委員に選ばれたのが政府の恣意か偶然かもどうでも良い。本気かどうかわからないが「それにその先に……もし可能ならこの国家を終わりにしたい……」は、抗いがたい魅力に満ちている。

生きる目的を数十年ぶりに与えられた気がする。2026年は「反進歩主義」から「国家の終焉」を夢見て働くことができる。

▼田所敏夫(たどころ としお)
兵庫県生まれ、会社員、大学職員を経て現在は著述業。大手メディアの追求しないテーマを追い、アジアをはじめとする国際問題、教育問題などに関心を持つ。※本コラムへのご意見ご感想はメールアドレスtadokoro_toshio@yahoo.co.jpまでお寄せください。

◎2016年逝きし世の日本へ──2024年8月15日に記された日系難民家族の回想記
◎負け続けた2015年──「普通の人」たちが生み出した絶望と病理の行方
◎2015年日本の現実──日本に戦争がやってくる
◎菅直人VS安倍晋三裁判──請求棄却判決の不当とねじれ過ぎた真実
◎3.11以後の世界──日本で具現化された「ニュースピーク」の時代に抗す

「脱原発」×「反戦」の共同戦線誌『NO NUKES voice(ノーニュークスヴォイス)』第6号!

 

新年のご挨拶

昨年は「デジタル鹿砦社通信」のご拝読、ありがとうございました。

まだまだ皆様方のご期待に応えられていませんが、
本年は、皆様方のご期待に応えるように、
これまで以上にラジカルに展開したいと思っております。

メディアが本来の使命を忘れ死滅していこうとしていく中で、
ささやかながら私たちは一致して、
さらに<タブーなき言論>を突き進んでいく所存です。

本年も、旧年に倍するご支援のほど、よろしくお願い申し上げます。

2016年1月1日
「デジタル鹿砦社通信」編集部/執筆者一同

負け続けた2015年──「普通の人」たちが生み出した絶望と病理の行方

終わりだ。2015年が暮れてゆく。読者諸氏と何かを共有できるとすれば、「お互い生きて年を越せそうだ」ということくらいだろうか。毎度毎度独りよがりで、偏屈な語りばかりの私だから大晦日ぐらい頬が緩むような明るい話題をお伝えしたい、何かあるはずだろう。「安寧」か「労い」か「希望」の欠片でもいい。大晦日なのだから「前向きさ」、あるいは誰にも口を割りはしなかった秘そやかな「喜び」のようなものはないのか。さらに言いつのれば「軽い嘘」でもいい。年の終わりなのだから腹を捩じらせないまでも、微笑ましい何かを献上できないものか。

田所敏夫「8.27反安倍ハンストの大きな意味」(2015年8月28日)より

結局ダメだ。書けない。やはり軽くても嘘はどうあがいても書けない。「2015年」の結びだからだろうか。

◆2015年の絶望は、他者を当然のように排除する「普通の人」たちの台頭だった

「2015年」私にとっては絶望を徹底化された年だった。キーワードは「普通」または「普通の人」である。

幼少時より自分が「普通」ではないとさんざん思い知らされてた私(個人)にとっては、「普通」または「普通の人」が持つ概念と語感の強制には慣れ過ぎていて、全く痛痒はない。けれども、ついに「普通」または「普通の人」という概念は私だけをターゲットにする域を大いに超えた。多数派が誰彼構わず意見や行動様式が異なる人びとを揶揄する際、実に無垢に聞こえながら底抜けに恐ろしい恫喝の用語として、こともあろうに「政府が行おうとしている暴挙に反対する場所」でさえまき散らされたのだ。「排除」の道具としてである。

田所敏夫「安保法採決直後に若者弾圧!ハンスト学生への『不当ガサ入れ』現場報告」(2015年9月25日)より

「警察」や「権力」、「国家」などという概念とその実態に少しでも思索を巡らせた経験があれば、語るのが恥ずかしいほど最低限の自明性すら死滅しているのだ(それは「戦後民主主義」と呼ばれたものと重複する)。実に基礎的な、幼稚園児程度の経験則も論理も社会構造への理解も知識もない自称主催者たち(誰も彼らを『主催者』と認めたことはないのだが)。彼らが振りまく「普通」あるいは「普通の人」を少し解読すれば、その意味するところ「彼らの行動方針に従う人か、従わない人か」のみを尺度とした分類であることに慄然とする。

彼らは「普通」または「普通の人」でなければその場所に留まらせることすら許さない。罵倒を浴びせて追い出そうとする。攻撃される人が持っているモノをぶっ壊す。暴挙に及ぶ「普通の人」たちを年格好から想像すれば、一応の経験もして来ただろうと思しき年齢の人たちが遠巻きに見ている。同罪だ。

田所敏夫「見せしめ逮捕のハンスト学生勾留理由開示公判」(2015年9月26日)より

◆2015年の病理は安倍でも自公でも警察でもなかった

「何をやってるんだ!やめろ!」と液晶の画面越しに私は怒鳴った。「普通」もしくは「普通の人」ではないから揉みくちゃにされ、あげくの果てに警察(!)に向かい「こいつら○○だから帰らせた方がいいですよ。逮捕してくださいよ」と口走った男とその仲間たち。この連中の妄動は「2015年」私にとって最も印象深い可視的な「罪」として記憶されている。「戦争推進法案」成立と同等もしくはそれ以上に深刻である壮大な病理だ。

安倍でもなく、自民党、公明党でもない。公安警察でも機動隊でもない。今年いよいよもってその本性を露わにしたのは権力者に命令されてもいないのに、権力者が内心期待する以上の自主的規制から、さらに踏み込み結果、公安警察並みの役割を果たした「普通の人」たちだ。

スマートフォンや各種の伝達媒体の普及で映像の伝達、風景を記録する機器が市民の手に備わった唯一のメリットは、権力があからさまな暴力を振るいにくくなったことだ。だから大集会や大勢のデモにおける機動隊の既得権であった暴力は圧倒的に抑えられている。だが、その逆の側では権力でさえ躊躇する思想弾圧や暴力を「普通の人」たちが代行する。もう機動隊など不要なのだ。

◆2015年の不快は、言葉と意味の不調和、背理の極まりだった

「民主主義ってなんだ」と壊れたレコードのように繰り返す大学生たち。「本気で止める」気など皆無のくせにデザインにだけは広告代理店並みの注意を払い、絶対に本質的な抗議を忌避する不気味な集団。その背後であれこれ采配を振るい、世間受けする配役や、あろうことか「金儲けに」にまでも抜け目のない腹黒い輩たち。それをあたかも何か新しい思想胎動の発芽のように繰り返し報じ、恥を知らない「東京新聞」や「週刊金曜日」を始めとする「良心的」メディア。そう「赤旗」も忘れてはいけない。

これらの塊が私には猛烈に不快でたまらない。悪意なさそうで計算高く、本当は欺瞞だと気づいていながらも付和雷同が処世訓として身に着いた「普通の人」たち。彼らをひとからげに「ファシズム・ファシスト」と呼びつける訳にはゆかない。彼等は冗談でなく「アンチファシズム」(!)を標榜しているのだ。こんなにも激しい言葉と意味の不調和、背理の極まりがあろうか。

計算高いことにかけては人後に落ちない「日本共産党」はついに来年の通常国会の開会式に参加することを表明した。「憲法の規定による国事行為の範囲を超える問題がある」を理由に天皇が主席する国会の開会式への出席を1947年から控えてきた「日本共産党」。12月24日わざわざ大島理森=衆議院議長を訪ねて、この意向を明らかにした。


◎[参考動画]共産党、国会開会式出席へ 約40年ぶり方針転換(共同通信社2015年12月23日に公開)

何故に「この時期」に、独自に発表するのではなく「わざわざ大島理森衆議院議長を訪ねて」表明しなければならなかったのか。そうしたのか。

「日本共産党」は自公政権に対抗するために「国民連合政府」を提唱し、野党に選挙協力を働きかけている。候補者擁立が決定していた熊本で既に公認候補の取り下げを決定し、今後さらに「野党共闘の柱」として存在感を誇示してゆきたいようだ。

田所敏夫「戦争法案『断固阻止!』──沖縄『祖国復帰斗争碑』に学ぶ反戦の哲学」(2015年9月15日)より

そのためには「現実路線」と冠される「日米安保反対の一時凍結」まで差し出している。

前述の「普通」または「普通の人」を名乗り全国の市民運動の背後でいそいそと糸を手繰っている人たちの中に「日本共産党」党員が少なからず入り込んでいることは偶然だろうか。

で、一体何がしたいのだ?「日本共産党」の諸君、ではない「普通の人」たち。
私は確信する。「普通の人」たちは来年、私や「普通ではない」人たち「まつろわぬもの」を血眼になって探し出し、排除にかかるだろう。

「2015年」を総括する。私(たち)は「普通の人」たちの成す勢いに敗北した。
「15年安保」などという成立しえない虚語が許されている。
「60年安保」、「70年安保」と並列で「15年安保」を語る心象は「普通の人」にしか能わぬ技だ。
「2015年」私(たち)は徹底的に敗北した。敗北し続けた。
負け続けた2015年が暮れてゆく。

▼田所敏夫(たどころ としお)
兵庫県生まれ、会社員、大学職員を経て現在は著述業。大手メディアの追求しないテーマを追い、アジアをはじめとする国際問題、教育問題などに関心を持つ。※本コラムへのご意見ご感想はメールアドレスtadokoro_toshio@yahoo.co.jpまでお寄せください。

◎2015年再考(1)「シャルリー・エブド」襲撃事件と表現の自由、力学の軋み
◎2015年再考(2)橋下ファシズム台頭の起源──TV×維新×虚言の愚劣な結託
◎2015年再考(3)湯川さん、後藤さん人質事件の惨事からこの国は何を学んだか?
◎2015年再考(4)戦争と大学──「学」の堤防は決壊し、日常を濁流が飲み込んだ
◎3.11以後の世界──日本で具現化された「ニュースピーク」の時代に抗す

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SOUL IN THE RING──松本哉朗の引退式と伝統を継ぐ目黒ジム勝次の防衛戦

SOUL IN THE RING 13 / 12月13日(日)後楽園ホール17:00~
主催:目黒藤本ジム / 認定:新日本キックボクシング協会

◆日本ヘビー級チャンプ松本哉朗がついに現役引退

松本哉朗テンカウントゴング

日本ヘビー級チャンピオンの松本哉朗が現役引退しました。今年2月11日の「NO KICK NO LIFE」でノブ・ハヤシと対戦、第1ラウンドでヒジ打ち一発でノブの額を切りTKO勝利。重量級での対戦相手の少なさ、“ヒジ打ち有効5回戦”を受けてくれる選手は少なく、40歳を過ぎてモチベーションも低下していきました。

それでも過去、2005年5月にはタイ国ラジャダムナンスタジアムでミドル級王座挑戦経験もありました(ラムソンクラーム・スワンアハーンジャーウィーに判定負け)。日本ミドル級王座は6度防衛。体の成長で減量が苦しく7度目の防衛戦で敗れ転級も、ヘビー級では軽い体で、100kg級の選手との対戦は体格差で劣る場合もありましたが、それを感じさせないパワーでKO勝利を増やしました。

日本ヘビー級王座は1度防衛。純粋なキックボクシングに拘り、他競技枠となるヒジ打ち禁止や3回戦は極力拒みつつ、それでは試合が無い状況になるので、受けざるを得ない試合が多いようでした。

古代ムエタイ演舞

この日行なわれた引退式は中盤第7試合後に行なわれ、伊原信一代表をはじめ、6人の協会役員から記念品と御祝儀が渡され、松本哉朗の御挨拶とスポットライトを浴びてテンカウントゴング。役員と記念撮影をしてリングを下りました。その時間17分。前日の竹村哲引退式の約半分の時間だったのは、後半の試合を控えてのセレモニーで長引かせられない状況だったため。松本哉朗もその実績、その存在感から重みある引退式となりました。振り返れば多くの実績有る選手と対戦し、後悔無くリングを去ることが出来たようです。

またアトラクションとして古代ムエタイ演武が披露されました。「現在のスポーツ競技となる前の、古き時代のムエタイの原点となる技が芸術的に披露されました。

◆高橋勝次 vs 山田春樹 ──チャンピオンは防衛してこそ真のチャンピオン!

日本ライト級タイトルマッチ5回戦
チャンピオン.勝次(=高橋勝次/目黒藤本/61.2kg)vs 挑戦者同級3位.春樹(=山田春樹/横須賀中央/61.2kg)
勝者:勝次 / 3-0 (主審 椎名利一 / 副審 仲 50-48. 桜井 50.48. 宮沢 50-48)

勝次vs春樹、単発ながら緊迫感あり

先月の黒田アキヒロ(フォルティス渋谷)に逆転判定負けしたショックが心配された勝次でしたが、その影響は無く、しかし初防衛戦の追われるプレッシャーはあった様子で、試合は単発の攻防に盛り上がらず、勝ちに徹することを意識するあまり、見た目は不細工な試合になってしまいました。

「“チャンピオンは防衛してこそ真のチャンピオン”と藤本ジムでは言われているので、そのプレッシャーはキツかったです。」と試合後、勝次は語りました。

鴇稔之トレーナーとラウンドガールに囲まれる勝次

目黒藤本ジムで勝次を指導してきたトレーナーの鴇稔之氏も、自身が日本バンタム級チャンピオンになった1987年(昭和62年)7月以降、先代会長の野口里野さんに常に言われていた言葉がそれでした。

里野会長はキックボクシング創設者・野口修氏の実母で目黒ジム会長職を創生期から1988年5月に亡くなられるまで長く務めた人でした。鴇氏はその里野会長が残した、純粋なチャンピオンの義務を引継ぎ、指導してきたジムだけに、チャンピオンになってすぐ王座返上する者はいませんでした。

「次の防衛戦は倒しにいきますよ」と早くもV2宣言。「その上の目標は、チャンスを貰えるならラジャダムナン王座を視野に、与えられるものならWKBA王座も狙えればいいです。まず日本王座を防衛していかないと認めてもらえないので一つ一つ勝ち上がっていきます」とコメント。

対する春樹はランカー対決で星を落とすことも多かったですが、ライト級で地道に成長してきた選手。一発で倒すパワーは無いが若さと前蹴りから繋ぐパンチやミドルキックの突進力でまたタイトルに絡んで欲しい選手です。

◆江幡睦 vs ルークタオ・モー・タマチャート ──2016年に4度目のラジャダムナン王座挑戦を目指す江幡睦

54.0kg契約5回戦
WKBA世界バンタム級チャンピオン 江幡睦(伊原/53.3kg)vs ルークタオ・モー・タマチャート(タイ/54.0kg)
勝者:江幡睦 / TKO 2R 3:02 / ノーカウントのレフェリーストップ / 主審 仲俊光

ローキックでルークタオの動きを弱らせる江幡睦

目黒藤本ジム興行ながら、メインイベントに登場したのは江幡睦(伊原)。9月のWKBA世界王座奪回後、初試合でしたが、毎度攻略は難しい相手が来日する中、ルークタオはミドルキックが速く強く、崩し難い感じながら徐々に弱点を見つけ、ローキックが効いている様子が伺えると上下打ち分け、得意の左フック一発でボディを効かせ、倒して勝利しました。来年は睦にとって4度目のラジャダムナン王座挑戦へ向けて今度こそ失敗は許されないプレッシャーとの戦いになるでしょう。

新日本キックの“殿堂選手”緑川創(目黒藤本/70.0kg)は70.0kg契約3回戦で、スーパーバーン・ホーントーンムエタイジム(タイ/68.9kg)に3ラウンド1分9秒、TKO勝利。同じく“殿堂選手”石井達也(目黒藤本/63.2kg)は63.5kg契約3回戦で、成合SATORU(若松セキュリティ/62.5kg)に大差判定勝利しました。来年は江幡ツインズより先にムエタイ王座を狙うほどの飛躍して欲しい目黒藤本ジムコンビです。

1973年のプロスポーツ大賞は王貞治を抑えて沢村忠が受賞した!

ところで2015年のプロスポーツ大賞表彰式が12月25日に都内ホテルで行なわれました。キックボクシング界では功労賞をWKBA世界スーパーバンタム級チャンピオンの江幡塁(伊原)が受賞(昨年は江幡睦)。新人賞を日本バンタム級チャンピオンの瀧澤博人(ビクトリー)が受賞しました(昨年は翔栄)。

新人賞は各競技加盟団体から15名選ばれ、そこから最高新人賞が一人選ばれますが、キック界からはさすがに難しい壁となっています。キックボクサーがプロスポーツ大賞に輝いたのは1973年の王貞治氏を抑えて沢村忠氏が受賞した年のみです。いつの日かまた、プロスポーツ大賞と最高新人賞が獲れるメジャー人気とスターを生み出して欲しいものです。

松本哉朗が協会役員に囲まれて記念撮影

[撮影・文]堀田春樹

▼堀田春樹(ほった・はるき)
フリーランスとしてキックボクシングの取材歴32年。「ナイタイ」「夕刊フジ」「実話ナックルズ」などにキックのレポートを展開。ムエタイにのめり込むあまりタイ仏門に出家。座右の銘は「頑張るけど無理しない。」

◎強くなるためにタイへ行く!日本キックボクサー「ムエタイ修行」今昔物語
◎キック新時代を牽引するRIKIXジムの「NO KICK NO LIFE」
◎ルール変更の紆余曲折から辿る日本キックボクシング界の栄枯盛衰クロニクル

月刊『紙の爆弾』!タブーなきラディカル・スキャンダル・マガジン

 

2015年再考(4)戦争と大学──「学」の堤防は決壊し、日常を濁流が飲み込んだ

東京大学総長の濱田純一(当時)が「デュアル・ユース(軍民両用技術)」の研究解禁の声明を発表したのは今年の1月16日だった。

濱田純一はその声明の中で「軍事研究の意味合いは曖昧」だが「東京大学での研究成果について、デュアル・ユースの可能性は高まっている」と表明した。

その上で、「このような状況を考慮すれば、東京大学における軍事研究の禁止の原則について一般的に論じるだけでなく、世界の知との自由闊達な交流こそがもっとも国民の安心と安全に寄与しうるという基本認識を前提とし、そのために研究成果の公開性が大学の学術の根幹をなすことを踏まえつつ、具体的な個々の場面での適切なデュアル・ユースのあり方を丁寧に議論し対応していくことが必要であると考える」と結び、「軍民両用技術」研究解禁を容認する声明を東京大学の総長として発したわけだ。

2015年1月16日付け濱田純一東京大学総長(当時)の声明

◆迂遠な表現で「軍事研究」全面解禁を表明した東大総長声明は歴史的な事件である

迂遠でありながら意図するところが「軍事研究」の全面解禁に他ならないこの「宣言」は2015年が、まつりごと(政治)の世界だけではなく学問、教育機関も「戦争」へ向かうことを明言した「事件」として記憶されなければならない。

さらに最近になり、この「軍事研究解禁宣言」以前から、こともあろうに米軍の資金提供を受けた研究が全国の大学で多数行われていたことが判明した。
「研究機関に米軍資金 名城大など計2億円超」(2015年12月7日付中日新聞)

教育・研究の現場では「戦争準備」体制が誰はばかることなく猛烈な勢いで立ち上がっている。

◆「戦争推進法案」賛成の意見を国会で述べたピエロ村田晃嗣=同志社大学長

「良心」も「節操」も入り込む隙間すらない「高等教育機関」の際限なき国家への追従、堕落の惨憺極まりない無聊な絵画の仕上げを担ったのは同志社大学長村田晃嗣(当時)だった。

ピエロを演じる自覚があったのかどうか知らないけれども、私の感覚からすれば「道化者」のような衣装をまとい国会特別委員会中央公聴会に公明党推薦の参考人として「戦争推進法案」賛成の意見を述べた村田は「道化」が過ぎて同志社大学長選挙で落選の憂き目を見た。だが、それをもって「同志社」の良心復活などと喜んでいる方々がいるとすれば目出度たさが過ぎるというものだ。

最後の堤防はつとに決壊し、濁流が日常を飲み込んでいるこの人為災害を感じることができなければ、高等教育機関で教鞭を取っている方々は職を辞したほうが良い。


◎[参考動画]戦争法案【賛成】公述人=公明党推薦・村田晃嗣=同志社大学学長(2015年7月13日)

◆「卑怯な非政治性」をまとった鵺(ぬえ)たちの学府

「戦争」加担に自然科学も社会科学も人文科学もありはしない。2015年12月、大学で教職にあり、戦争に「反対しない」ことは(戦争に)「加担する」ことと同義である。もう、中間領域などない。「YES」か「NO」。どちらにつくか、自身の立場を明確にしない研究者、教育者はすべて戦争に加担する「卑怯な非政治性」をまとった鵺(ぬえ)だ。

否、さらに悪質なのは「戦争推進法案」反対運動が全国で沸き上がり、その中心として国会前で行われた抗議行動に登場した現職・引退した大学教員達だ。政治の「イロハ」も知らぬ学生たちが(おそらく)本能的に「戦争は嫌だ」と起こした行動を自身の「良識派」振り発揮の好機だと姑息にも抜け目のなかった連中は、本質的な「戦争への反対・国家への抵抗」を極力「排除」すべく「坊や」や「お嬢ちゃん」たちに賛辞を投げかけ、「ようやく若者が目覚めた」、「この日を待っていた」などと聞いて居る者が恥を感じるような甘っちょろくも薄っぺらな軽口を叩き続けた。

◆「若者に共感した」と言いつつ、ストも打たず職も辞さない大学の教職員たち

自民党の勉強会で何度も講師を勤めたあの改憲論者さえもがそこにはいた。あんた達は国会の前で学生を持ち上げているけども日頃は大学で何をしているんだ。教授会で「戦争推進法案反対」の決議を提案したのか。まさか学内に公安警察を常駐させていて黙ってはいまいな。学内外でビラを配布しようとしている学生を監視し、弾圧をしてなどいまいな。絶対に。

60年安保や70年安保よりあたかも「優秀」な抗議行動のようにあちこちで吹聴していた東大名誉教授、あんたはいつの時代でも結局時代と寄り添っているだけじゃないのか。そもそもコンサートか何かと見違えるような、あの光景を見てあれが「反政府抗議行動」だと本気で感じていたのか。だとすればあんたの得意な打算は完全に的外れだ。あんたは完全に勘違いしている。救いがたく。だから本音をちょっと発語しただけで総叩きにあったじゃないか。

「戦争推進法案」に反対して教職員組合がストライキを打った大学があるか。職を辞した教員がいるか。自分の仕事や体の一部でも「賭けて」闘った教員がいたら教えてくれ。

年末の流行語大賞の候補に戦争推進法案反対に関係する「○○○○」や「××××」が選ばれたといって喜んでいる愚民たち。そこにニコニコしながら加わる澤地久恵。広告代理店と資本によって回収されていく情報商品に選定された「戦争反対」は滑稽ではなく恐ろしさを強いてくる。怖いのは権力や資本じゃない。誰にも指示されずに、アルバイト代ももらわずに権力代行業に余念のない(しかも本人には悪意が全くない)スタイリッシュでカッコよく「普通」な人。「普通の人」が織りなす「パレード」や「フライヤー」だ(「デモ」や「ビラ」はダサいから排除される)。

東大総長の「軍事研究解禁」と同志社大学長の村田の国会における希代の「戦争賛成」発言。そして戦争に「反対」しているはずで9条改憲は賛成で、リベラルで「自民党感じ悪いよね」なのに安倍政権打倒と言ったら「過激」だと怒る人達。
ビルの横でニンマリウインクしているジョージ・オーウェルと目が合った。

▼田所敏夫(たどころ としお)
兵庫県生まれ、会社員、大学職員を経て現在は著述業。大手メディアの追求しないテーマを追い、アジアをはじめとする国際問題、教育問題などに関心を持つ。※本コラムへのご意見ご感想はメールアドレスtadokoro_toshio@yahoo.co.jpまでお寄せください。

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