「ロシア帝国主義の実践者」プーチン大統領と蜜月し、迎合しながら横暴を許し、国益を損ねてきた日本の要人たちに問われる政治責任 横山茂彦

◆戦争犯罪者は日本で歓迎されていた

1991年の湾岸戦争や2000年代の中東におけるアメリカの蛮行(侵略戦争)は、イスラム世界に距離をもつヨーロッパ、日本において、いわば「対岸の火事」であった。自衛隊の海外派兵という国内政治での反対デモはあっても、ムスリムのために支援を申し出る人たちは稀だった。

いま、その舞台が近代の淵源であるヨーロッパであるがゆえに、われわれはプーチンの蛮行に激しい憤りを実感している。ヨーロッパを20世紀の戦争時代にもどしたプーチンへの驚き、戦争犯罪への怒りは、テレビで伝わってくるシーンの数々をみるにつけて、終わることがない。

いっぽう、戦況はNATOから供与されたジャベリン(対戦車ミサイル)、スティンガー(地対空ミサイル)によって、ウクライナ軍の優勢が伝えられている。アメリカの衛星カメラによる情報提供も、ウクライナ軍の善戦の根拠とされる。

「戦争に行くとは知らされていなかった」ロシア兵の士気の低さも指摘されるが、ソ連のアフガン侵攻時に威力を発揮したシルクワーム(対空砲)と同じように、アメリカ供与の最先端兵器が威力を発揮しているようだ。

ロシア軍の作戦の稚拙さも指摘されている。戦略目標だった東ウクライナだけでなく、ベラルーシ経由で北部から首都キエフ、南部からマリウポリを包囲してオデッサ迄の黒海沿岸に展開する3方面作戦は、当初ウクライナ軍を分散させるものと思われていた。しかし、ロシア軍は各戦線で釘づけにされ兵員不足・燃料食糧不足、弾薬不足に陥っているという。湿地を避けて道路上に一直線に渋滞した戦車は、上記の対戦車ミサイルの標的となった。やむなく遠距離からの無差別砲撃に頼らざるを得なくなっているのだ。

◆プーチンと蜜月した人々

さて、戦争犯罪の極悪人プーチンの横暴を許してきたロシア連邦の政治の深刻さと当時に、独裁者を賛美し抱擁してきた日本人たちがいることを、われわれは確認しておかなければならない。

今回の戦争犯罪の共犯者にひとしいその面々は、安倍晋三元総理、森喜朗元総理、鈴木宗男参院議員、山下泰裕JOC会長である。

森喜朗は2000年の総理就任後、初めての外遊先にロシアを選んでプーチンとの首脳会談を行なった。2004年にはクレムリンで「(プーチン氏は)わたしが非常に尊敬している人物であり、わたしの最も重要な友人である」と述べている。

プーチンは会談に遅刻してくることで有名だ。2000年沖縄サミットでも会議に遅刻し、怒ったシラク大統領をなだめたのが森喜朗だった。そうした気遣いが実を結び、森喜朗とプーチンは首脳会談を重ね、2001年3月には平和条約締結後の歯舞・色丹2島の日本への引き渡しを明記した「日ソ共同宣言」(1956年)の法的有効性を確認する「イルクーツク声明」に署名している。

であるがゆえに、国会で野党から「プーチンを説得するために、森喜朗元総理を派遣したらどうか?」という提案(白真勲=立憲民主党議員)がなされたのである。

その質問に対する岸総理の答弁は「特使をはじめとする具体的な対応は今は予定はない」「外交において人と人とのつながり、人間関係は大事な要素。しかし、国際法をはじめとする基本的なルール、理念を大事にしながら外交を進めていく、これが基本。外交の難しさを感じるところだ」と述べるにとどまった。話は聞くが何もしない、何もできない総理の真骨頂といえよう。

プーチン説得役を期待されているのは、ひとり森喜朗のみではない。

「ウラジーミル、君と僕は同じ未来を見ている」「ゴールまで、ウラジーミル、2人の力で、駆けて、駆けて、駆け抜けようではありませんか」(2019年9月の日ロ会談)と、プーチンに呼びかけていた安部晋三元総理である。まるで少年が憧れの親友に書いたラブレターのようで、いまだに失笑を禁じ得ない。

プーチン来日時には、山下泰裕現JOC会長、森喜朗らとともに講道館で柔道の練習を観戦していたものだ。

その山下泰裕JOC会長は取材に応じて「(プーチン大統領とは)皆さんが思っておられるほど親しいわけではない。ロシアでは、私とプーチン大統領が親しいと錯覚している人が多いですけど」

「以前は(親交もあったが、プーチン大統領は)柔道が好きでしたね」とは言うものの、2019年にプーチンから「ロシア名誉勲章」を授けられている。2014年にはロシア政府の「友好勲章」も受けている。

山下は「(IOCが)ロシアとベラルーシの選手、役員を国際大会から除外するよう勧告したことについて、全面的に賛同している。(自身の考えと)全く同じ」と支持する考えを示しているが、モスクワ五輪のときの不参加を不当とする立場とは、それではどう違うのか。選手の参加の自由が蹂躙されたという意味では、かつての自分の立場と同じではないのか。

そのいっぽうで、プーチンからもらった勲章を返上しないというのは、言行不一致と指弾されても仕方がないのではないか。ナチスに賛同・協力したリンドバーグと同じではないか。

◆法的に固定化された北方領土のロシア領有

安倍晋三は総理在任中にロシアを11回訪問し、プーチンと27回も会談してきた。いまだ記憶に新しい長門会談においては、プーチンお得意の「遅刻」で2時間40分も待たされ、その不協和音を打ち消すために墓参で時間をつぶすというパフォーマンスでお茶をにごしたものだ。その挙句に、北方領土交渉には何の成果もないのに、日ロ共同経済活動名目で3000億円もの拠出を約束させられたのである。

2020年12月にプーチンは領土割譲を呼び掛けるなどの行為を処罰する刑法改正案に署名した。罰則は最高10年の懲役である。

つまり安倍の領土交渉は、まったくの水泡に帰し、プーチンをして刑事立法化させるという結末を迎えたのである。このさき、北方領土を日本が取り戻すには、刑事罰を覚悟で領土交渉する政権が成立するしか方法がなくなった。

結果的には、安倍とプーチンの27回の会談こそが、この取り返しのつかない立法を担保するものとなったのだ。それゆえに、説得したくても出来ないというのが安倍の実感であり、ウクライナ侵攻の理解者にされかねないというのが本音であろう。

外交防衛委員会で羽田次郎議員(立民党)の質問が行なわれたことをうけて、安倍晋三元総理はこう発言している。「説得できたら私も説得したいが、まずはG7首脳が結束を固め、その上でプーチン氏に対する説得あるいは外交的な要求、要請、交渉を行うことになると思う」(2月27日の民放番組)。とだけ語っている。ようするに、安倍の対ロ外交はまったく無駄だったばかりか、何らの可能性も残さずに、日ロ関係の将来を閉ざしたのである。

◆現代のチェンバレンたち

安倍晋三元総理がプーチンを説得できない、と言うのはいいだろう。世界が注目する中で恥をかきたくないのも理解できる。

だが、プーチンに迎合することで独裁者を増長させてきた責任は大きい。いまも独裁者プーチンの戦争犯罪で、無辜の市民が犠牲にさらされているのだ。その淵源のひとつに、安倍晋三のプーチン迎合・親交があったのだと、あえて指摘しておかなければならない。

かつて、チェンバレン英首相はヒトラーに迎合し協調することで、ヨーロッパ戦争を回避しようとした。イギリスが一貫して対決姿勢を保っていれば、ナチスドイツは開戦の機会を得ないまま、兵器の陳腐化によって第二次世界大戦は起きなかった可能性がある(ヒトラーのポーランド侵攻時の軍事的判断)。

いま、日本は日ロ経済協力プランを推し進めようとしている。世界がプーチンのロシアに経済制裁をもって、ウクライナ侵攻を押しとどめようとしているときに、日本はプーチンの戦費補填になりかねない経済協力(21億円)を行なっているのだ。参院予算委員会(3月14日)での、立民党福山哲郎および森ゆうこ議員の質問に対する、岸政権の答弁を引いておこう。

福山哲郎 「安倍政権時代にやった日露の8項目の協力プラン、来年度の予算案に入っている金額の総額を言ってください」

鈴木俊一財務相 「令和4年度予算案における8項目の協力プランにかかる予算規模、これは各省にまたがっておりますが、合計しますと、約40、いや、約21億円と承知しております」

福山哲郎 「これに対しては、協力、やめられるんですよね?」

萩生田光一経産相 「すでにロシアに進出している(日本)企業の皆さんもいらっしゃいます。撤退も考えなきゃならない事態もあるかもしれません。そういう意味では、この予算はですね、計上させていただいて、そういった対応に使わせていただく予定でございます」

森ゆうこ 「(ロシアのクリミア侵攻で)本来であれば国際社会と一致して制裁強化すべきところを(安倍政権は)お金を提供して来た。間違った政策だったと思います。先ほどの(福山議員の)質疑で、8項目の対ロシア協力、21億円ということですが、私はこの(ロシアへの協力金という)お金を含んだ来年度予算には賛成できません。減額修正すべきと思いませんか?」

岸田文雄 「委員ご指摘の21億円の予算ですが、昨年末、予算編成をした、その後、今回のような大変非難されるべき大変な事態が生じた、事態が変化したわけでありますが、今後この事態がどう変化するのか、これは予断を持って申し上げることはできません。よって今の状況で予算の修正ということは考えていないということであります」

ようするに、日本がロシアのウクライナ侵攻を支えているのだ。チェンバレンのヒトラー融和策は、その弱腰が第二次世界大戦を招いたとされているが、そのいっぽうで対ドイツ戦争の兵器(スピットファイアなど)を整備する時間を稼いだという評価も、最近では少なくない。

しかし、である。北方領土を法的に固定化され、にもかかわらず対ロ経済協力を日本の企業のためと言いながら続行する日本政府。プーチンの世界史的な犯罪を、いまも公然と後押ししていると指摘しておこう。

▼横山茂彦(よこやま・しげひこ)
編集者・著述業・歴史研究家。歴史関連の著書・共著に『合戦場の女たち』(情況新書)『軍師・官兵衛に学ぶ経営学』(宝島文庫)『闇の後醍醐銭』(叢文社)『真田丸のナゾ』(サイゾー)『日本史の新常識』(文春新書)『天皇125代全史』(スタンダーズ)『世にも奇妙な日本史』(宙出版)など。

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住民票がないことを理由に「特別定額給付金」を貰えなかった人たちが、大阪市・松井一郎市長を訴えました! 尾崎美代子

3月14日、2020年に政府が行ったコロナ支援策「特別定額給付金」を、住民票がないことを理由に、給付されなかった、大阪市西成区内に居住していた10名が、大阪市・松井一郎市長を提訴した。

原告の1人Sさんに「裁判が始まるよ」と報告した

◆2007年、釜ヶ崎に暮らす2088名の住民票を強制削除した大阪市

「特別定額給付金」は、新型コロナウイルスの感染が猛威を振るい始めた2020年、すべての人を対象にした唯一出された支援対策であった。政府は、4月20日、一律10万円の特別定額給付金の給付を閣議決定、その際、2020年4月27日付けで、住民基本台帳に名前の記載がある者、つまり住民票がある者と条件づけた。

しかし、ご存知のように、釜ヶ崎には、様々な理由で住民票を持てない者がいる。野宿生活を余儀なくされた人たち、ドヤ、アパートに住んでいるが、そこでは住民票が取れない人たち、元の住所あるいは本籍地から、様々な理由で住民票を移せない人たちだ。

かつて、大阪市は、釜ヶ崎では住民票が取れない労働者に対して、白手帳(日雇い労働者の失業保険)をとったり、各種資格を取る必要がある場合には、釜ヶ崎地域合同労組が入る「解放会館」などで住民票を置くことを進めておきながら、2007年2088名の住民票を強制削除した。今回、住民票がない人の中には、その被害者もいた。

アルミ缶、銅線などを集めて暮らす彼は「解放会館」に置いていた住民票を強制削除された被害者だった

◆市長室にはほとんどいない松井市長

私は、釜ヶ崎地域合同労組、日本人民委員会、釜ヶ崎炊き出しの会、釜ヶ崎公民権運動のメンバーとともに、大阪市・松井市長に対して、住民票を持たない、持てない人たちにも必ず給付金を渡すようにと要請活動を行ってきた。4月28日、西成区役所に要請行動を行った際、「給付については大阪市役所市民局が行う」と返答されたため、5月8日、松井一郎・大阪市長と大阪市役所市民局に対して「特別定額給付金が、住民票をもっていない人にも必ず渡るように」との要望書を提出した。

市長室にも要望書を届けようとしたが、松井市長は市長室にいないことがほとんどで、いつも秘書課職員に渡すだけで終わった。松井市長は、登庁する日も、ほかの自治体首長と違って極端に低いようだ。しかも、この時、市民局の職員はわずか12名しかいない一方で、IR事業、大阪万博を推進する副首都推進局のスタッフは80名もいた。大阪市は、根本的に、住民の命を守る気などないのだ。

◆行政の責任者は、すべての人に行き渡る施策を執る努力をすべきなのに……

その後も大阪市は、「給付対象者は令和2年4月27日において、住民基本台帳に記載されている者であること」と繰り返し主張するばかりであった。しかし、この給付金は、コロナウイルス感染拡大防止に伴う自粛要請などで経済活動が停滞するなか、「簡素な仕組みで迅速かつ的確に家計へ支援を行う」(実施要項)として、国から唯一出された支援策であり、各自治体、行政の責任者は、すべての人に行き渡る施策を必死で執る努力をすべきだった。

実施要項には、「記載がなくてもそれに準ずるものとして、市町村が認める者を含む」とあり、実際、DVで、住民票のある家からシェルターなどに避難している人や、出生届けが出されず、戸籍の記載がない約800名の「無戸籍者」なども受け取れるような緊急措置が、各自治体で執られ、じっさいに給付されていた。

「住民票のあるなし」にこだわり続けていた大阪市は、その後、NPO釜ヶ崎支援機構が運営するシャルターに、1日でも泊まれば、そこで住民登録を行うとした。しかし、シエルターに泊まることが嫌だから、野宿している人がいることも事実だし、前述したように、様々な理由で住民票をとることが困難な人、あるいは嫌な人がいることも事実だ。

人権問題に詳しい弁護士の南和幸さんは「給付金について、ホームレスの人だから、受け取る権利がないというのは間違い。住民票のあるなしは、権利のあるなしの問題ではなく、とのように受け取れるかの手続きの問題でしかない。それについて、この住民登録があるないだけで、権利があるなしかのように取り扱うのは間違いである」と述べている。

つまり、野宿している人が、その場で、本人確認が行われればいいのだ。大阪市は回答書には、住民登録されれば給付対象となることなどを「周知を図ってまいります」とあるが、野宿者に「周知」して回る際、その場で野宿者の名前、本籍などを確認すればいいではなかったか。じっさい、2008年リーマンショック後の2009年、一律12000円が支払われた給付金の際には、住民票を持たない野宿者らが、西成市役所1階のロビーで、職員らにより本人確認の手続きが行われ、給付金をうけている。今回も同じようにするよう要請したが、「コロナなので」を理由に断られた。何百人も殺到する訳でもないのに。

閉められたままのセンター(右)と、南海電鉄高架下に入ったセンター仮庁舎(左)

◆住民票がないことを理由に特別定額給付金を給付をしないのは違法である

私たちは、2020年8月18日、原告10名とともに、原告の住所、氏名、生年月日を記載した特別定額給付金申請書を持参し、被告である大阪市西成区保険福祉センター分館に赴き、申請を行った。しかし、松井市長により、住所地に住民登録がないとの理由で、給付がなされなかった。そのため、10名の原告から委任状を受け、今回提訴することになった。

訴状によれば、「ホームレス状態にある原告らに被告が、住民登録がなされていないことなどを理由に、特別定額給付金の給付をしないことは、憲法14条及び31条が規定する平等原則及び比例原則に反する。よって、被告の原告らに対する本件給付金の不給付は、いずれも、被告大阪市長に与えられた実施主体としての裁量を逸脱あるいは濫用するものであって、違法であることは明らかである」としている。

さらに「被告の公権力の行使にあたる公務員は、原告らのように、ホームレス状態にある人々に対し、その状態に相応しい住民登録の方法を工夫するなどして、特別定額給付金の給付を実施すべき義務があるにもかかわらず、これを漫然放置し、不給付とした点において、重大な過失がある。従って被告は国家賠償法第1条により損害を賠償する責任に任ずる」とし、「原告らは、本件申請拒否によって、各自、少なくとも、給付額と同額の被害を蒙った」として、1人10万円の損害賠償請求を行った。

今回弁護団を構成する武村二三夫弁護士、遠藤比呂通弁護士、牧野幸子弁護士は、いずれも釜ヶ崎のセンターをめぐる訴訟、監視カメラ訴訟の弁護団を兼任し多忙を極めていたため、提訴が遅れてしまった。しかし、いよいよ裁判は始まった。全国でもおなじように、住民票がないことを理由に受け取れなかった人がいるのではないか。ぜひ、この裁判にご注目していただきたい。

▼尾崎美代子(おざき みよこ)
新潟県出身。大学時代に日雇い労働者の町・山谷に支援で関わる。80年代末より大阪に移り住み、釜ケ崎に関わる。フリースペースを兼ねた居酒屋「集い処はな」を経営。3・11後仲間と福島県飯舘村の支援や被ばく労働問題を考える講演会などを「西成青い空カンパ」として主催。自身は福島に通い、福島の実態を訴え続けている。
◎著者ツイッター(はなままさん)https://twitter.com/hanamama58

タブーなきラディカルスキャンダルマガジン『紙の爆弾』2022年4月号!
〈原発なき社会〉を求めて集う 不屈の脱原発季刊誌 『季節』2022年春号(『NO NUKES voice』改題 通巻31号)

「押し紙」が1部もない新聞社、熊本日日新聞社、地区単位の部数増減コントロールは見られず 黒薮哲哉

「押し紙」は、新聞業界が半世紀にわたって隠し続けてきた汚点である。しかし、すべての新聞社が「押し紙」政策を経営の柱に据えてきたわけではない。例外もある。この点を把握しなければ、日本の新聞業界の実態を客観的に把握したことにはならない。

かねてからわたしは、熊本日日新聞は「押し紙」政策を採用していないと聞いてきた。1972年代に「押し紙」政策を廃止して、「自由増減」制度を導入した。「自由増減」とは、新聞販売店が自由に新聞の注文部数を増減することを認める制度である。

社会通念からすれば、これは当たり前の制度だが、大半の新聞社は販売店に対して現在も「自由増減」を認めていない。新聞社が注文部数の増減管理をしている。「メーカー」が「小売店」の注文数量を決めることは、常識ではあり得ないが、新聞業界ではそれがまかり通って来たのである。

熊本日日新聞社が「押し紙」制度を導入していないという話は真実なのか? わたしはそれを検証することにした。

◆マーカーが示す熊日と読売の著しいコントラスト

次に示す表は、熊本市の各自治体(厳密には自治体にある新聞販売店)に熊本日日新聞社が搬入した新聞の部数の変化を、時系列に入力したものである。出典は、日本ABC協会が年2回(4月と10月)に発行する『新聞発行社レポート』に掲載する区・市・郡別のABC部数である。新聞社ごとのABC部数が表示されている。

熊本日日新聞社が熊本市の各自治体(厳密には自治体にある新聞販売店)に搬入した新聞部数の推移

この表から、ABC部数が微妙に変化していることが確認できる。新聞販売店が毎月、注文部数を自由に増減していることが読み取れる。部数の「ロック」は一か所も確認できない。

これに対して、たとえば次の表はどうだろう。兵庫県を対象にした読売新聞のケースである。

兵庫県を対象にした読売新聞のABC部数

熊本日日新聞の表には、マーカーがなく真っ白なのに対して、読売新聞の表はいたるところにマーカーが表示されている。同じ数量の部数が年度をまたいでロックされている箇所が多数確認できる。地域単位で部数増減がコントロールされているのである。たとえば神戸市灘区における読売新聞のABC部数は、次のようになっている。

2017年04月 : 11,368
2017年10月 : 11,368
2018年04月 : 11,368
2018年10月 : 11,368
2019年04月 : 11,368

神戸市灘区に住む読売新聞の購読者が2年半に渡って1人の増減もないのは不自然だ。普通は月単位で変化する。つまり購読者数の増減とは無関係に、部数をロックしているのである。その原因が新聞社にあるのか、販売店にあるのかはここでは言及しないが、いずれにしても正常な商取引ではない。購読者が減少すれば、それに相応する部数が残紙になっていることを意味する。

本稿で示した熊本日日新聞と読売新聞の表を、「腫瘍マーカー」にたとえると、熊本日日新聞は、「健康体」と診断できるが、読売新聞は公正取引委員会や裁判所による緊急の「精密検査」を要する。科学的に「病因」を探る必要がある。他の中央紙についても、読売と同じことがいえる。何者かが地域単位で部数増減をコントロールすることが制度として定着している可能性が高い。

【参考記事】新しい方法論で「押し紙」問題を解析、兵庫県をモデルとしたABC部数の解析、朝日・読売など全6紙、地区単位の部数増減管理が多地区で、独禁法違反の疑惑 http://www.kokusyo.jp/oshigami/16859/

◆「押し紙」廃止で業績が向上

熊本日日新聞が「押し紙」政策を廃止したのは、『熊日50年史』によると、1972年10月である。今からちょうど50年前である。当時の森茂販売部長が信濃毎日新聞の販売政策に触発されて、「押し紙」、あるいは「積み紙」の廃止を宣言した。社内には反対の意見も強かったそうだが、森販売部長は改革を進めた。その結果、店主の士気があがり、熊本日日新聞の部数は急増した。

「予備紙」として販売店が確保する残紙の部数も、搬入部数の1.5%とした。このルースは現在でも遵守されている。それが前出の表で確認できる。

熊本日日新聞社の販売改革は高い評価を受け、同社は1983年に新聞協会賞(経営・営業部門)を受けている。受賞理由は、「新聞販売店経営の近大化-新しい流通システムへの挑戦」である。

◆独禁法の新聞特殊指定が定義する「押し紙」とは?

ところで残紙(「押し紙」、「積み紙」)が独禁法の新聞特殊指定に抵触する可能性はないのだろうか。この点について考える場合、まず最初に新聞特殊指定が定義する「押し紙」とは、何かを正確に把握する必要がある。

幸いにして、江上武幸弁護士ら「押し紙弁護団」が、新聞特殊指定でいう「押し紙」の3類型を整理し、提示している。次の3つである。

1,販売業者が注文した部数を超えて供給する行為(注文部数超過行為)

2,販売業者からの減紙の申し出に応じない行為(減紙拒否行為)

3,販売業者に自己の指示する部数を注文させる行為(注文部数指示行為)

「1」から「3」の行為は、いずれも「注文部数」の増減コントロールに連動している。従って新聞特殊指定でいう「注文部数」とは何かを定義する必要がある。これに関して、江上弁護士らは、新聞特殊指定(1955年告示・1964年告示・1999年告示)に次の定義が記されていることを明らかにしている。

「新聞販売業者が実際に販売している部数に正常な商慣習に照らして適当と認められる予備紙等を加えた部数」

つまり実配部数に若干の予備紙を加えた部数を超える残紙は、すべて「押し紙」ということになる。「押し売り」の事実があったか否かは枝葉末節の問題なのである。健全な販売店経営に不要な部数は、理由のいかんを問わず原則的に「押し紙」なのである。

かつて新聞業界は業界の内部ルールで予備紙の割合を2%と定めていた。しかし、この内部ルールを1999年ごろに撤廃して、残紙はすべて「予備紙」に該当するという詭弁を公言するようになった。たとえば搬入部数の50%が残紙になっていても、この50%は販売店が注文した「予備紙」だと主張してきたのである。

しかし、「予備紙」の大半は古紙回収業者の手で回収されており、「予備紙」としての実態はない。

従来、「押し紙」とは、新聞社が販売店に対して「押し売り」した新聞であると定義されていた。わたしもそのような説明をしてきた。しかし、この説明は新聞特殊指定に即して厳密な意味で言えば間違っているのである。実配部数に「予備紙」加えた残紙は、すべて「押し紙」なのである。

地区単位の部数増減コントロールは独禁法違反ではないか? 公正取引委員会は中央紙に対して調査すべきではないか。

▼黒薮哲哉(くろやぶ・てつや)
ジャーナリスト。著書に、『「押し紙」という新聞のタブー』(宝島新書)、『ルポ 最後の公害、電磁波に苦しむ人々 携帯基地局の放射線』(花伝社)、『名医の追放-滋賀医科大病院事件の記録』(緑風出版)、他。
◎メディア黒書:http://www.kokusyo.jp/
◎twitter https://twitter.com/kuroyabu

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コロナ下、そして「ウクライナ戦争」時のヒロシマでの3・11 さとうしゅういち

2022年の3・11。言うまでもなく、あの東日本大震災・福島原発事故がはじまって11年です。

「はじまって」という言い方をしたのは、いまだに現在進行形だからです。公式発表でさえ、3万人以上が福島県外への避難を余儀なくされている。そして「原子力緊急事態」は続いています。

筆者は、もちろん、この11年間、ずっと広島で過ごしました。しかし、今年は、一昨年来のコロナに加えて、世界最大の核兵器保有国に君臨する男が、核兵器という刀の柄に手をかけ、原発が戦争で争奪の対象になるという人類存亡の瀬戸際の危機的状況で3・11を広島で迎えました。

◆「黒い雨」主人公の被爆の場所 横川駅前からスタート

その日に自分はどう行動するか? 最初に選んだのは広島市西区の横川駅前での街頭演説でした。

横川駅は小説「黒い雨」の主人公の閑間重松が1945年8月6日に被爆した場所です。重松は現在の中区千田町の自宅を出発して、広電で横川駅に到着。国鉄可部線の古市橋駅近くの会社に向かうため、当時は横川駅始発だった可部線のホームに行き、そこで被爆します。そのあと、広島市内をさまよった挙げ句、可部線が運転再開していた山本駅(2021年の大水害被災地近くだが、現存しない。)から古市橋駅へ電車でたどり着きます。

筆者が、政治家を志した原点は小説「黒い雨」です。ですから、ここを原点に行動することにしました。


◎[参考動画]さとうしゅういちIN横川駅前 東日本大震災・福島原発事故11周年 ノーモア ヒロシマ・ナガサキ・チェルノブイリ、そしてフクシマ いますぐ停戦

演説で筆者は、ここが、重松被爆の場所であることを紹介。その上で東日本大震災の犠牲者の皆様に弔意をしめすとともに、いまなお避難を余儀なくされている皆様をふくむ被災者のみなさまにお見舞い申し上げました。

その上で、原発が戦場になっている状況に危機感を示し、ヒロシマ・ナガサキ・チェルノブイリ・フクシマを繰り返さないため、プーチン大統領に強く停戦を求めました、

一方で、ヒロシマ・ナガサキ・フクシマを経験した国日本として、イスラエルやトルコを見習って停戦へ向けた外交の努力をすべきだ、と訴えました。安倍元総理に対しても「核共有などということを言っている暇があるなら、動けるなら動いたらどうか」と勧告しました。

さらに、国内の物価上昇に対しては、「輸入物価上昇で庶民ほど打撃のいまこそ、財政出動で負担軽減を」と強調。さとうしゅういちとれいわ新選組の「消費税廃止」「ガソリン税ゼロ」「奨学金チャラ・学費無償化」などを紹介。また、食料安全保障のため、農業だけでなく漁業や酪農など食料生産者にコストの補償を、と訴えました。

維新などによる原発復活論に対しては、「ウクライナ戦争で原発が最大の安全保障上のリスクであることがあきらかになった。原発は廃止を。そして、クリーンで地域分散型のエネルギーを促進すべきだ。大きな発電所でつくって、遠くへくばる、という考え方から転換することが大事。そのためのグリーンニューディールにガツンと財政出動する。」と反論しました。

さらに、国家公務員一般職員の給料カット法案については、「公務員給料カットは、結果として民間労働者の給料を下げてしまう。総理の公約の労働者の給料アップも遠のいてしまう。むしろ民間労働者のコロナによる減収を補填した上で、女性が多い非正規公務員の正規化、介護や保育の労働者の給料10万アップをして暮らしを守るべきだ。格差是正は低いほうを上げることで実現を」などと訴えました。

余りにも熱をいれすぎて、広電の横川駅の駅員の方から、「演説と放送が重なると放送がきこえにくいので」とご注意をいただき、後半は場所をすこしずらしました。

◆古市橋駅前で演説、収賄で略式起訴された市議の支持者に遭遇

筆者は、このあと、可部線に乗車。重松が8月6日夕方にたどりついた古市橋駅前に到着し、上記と同様の内容の演説を行いました。

その後、駅近くの床屋で散髪をしていただきました。丁度、先客の女性が、河井事件で検察審査会が「起訴相当議決」をしたことを受けて辞職した議員の熱心な支持者の方でした。議員にがっかりした、とおっしゃっていました。

「わたしは、中途半端に辞職した人よりは、徹底抗戦する議員の方がスジは通っているとおもいますよ。自分でアウトだと思うならすぐに辞職するべき。無罪と思うなら最後まで裁判で闘うべきとおもいます。」と申し上げると、「まったくそのとおりだと思う」と同意をいただきました。

このあと、筆者は、妻と犬の昼食を買って一時、東区の自宅に帰宅しました。午前中の動画のUPをしていると、14時46分。PCの前で黙祷を捧げました。

 

◆元同僚に公務員給料カット反対と引き換え?に介護や保育の労働者の給料UPを訴える

夕方は17時前から元職場の広島県庁前で街頭演説。元同僚に向けて、さとうしゅういちとれいわ新選組が「国家公務員一般職員の給料カットに反対」であり「現場公務員をふやす」政策であることを紹介。一方で、介護や保育の労働者の給料大幅アップなどの政策へのご協力を、元同僚である県庁労働者に向けて訴えました。

中国電力前に「単独」で乗り込み「さとうしゅういちとれいわ新選組への支持を安心して検討してほしい」

県庁前のあと、NHK前、そして中国電力前でも街頭演説を実施しました。

中国電力は、島根原発2号機再稼働、3号機新規稼働を強行しようとしています。また上関原発の新設もあきらめていません。中国電力前では、退勤中の中国電力労働者の皆様に対して「今回の戦争で原発が最大の安全保障上のリスクであることがあきらかになった。また、原発になにかあれば御社は吹っ飛ぶ。それよりは、原発は廃止をしたほうがいい。さとうしゅういちとれいわ新選組は、原発をなくすいっぽうで、原発関連の部署ではたらくみなさまには、原発廃止を担当する公務員のポストをご用意する。安心してさとうしゅういちとれいわ新選組へのご支持をご検討いただきたい。」とお願いしました。

 

なぜ、中国電力前に単独で乗り込んだか? この日はそのあと、18時から原爆ドーム前で「つながろうフクシマさよなら原発ヒロシマ集会」がありました。しかし、コロナ対策で、例年はあった中国電力前までのデモが中止されていたのです。少数でも、中国電力の労働者に向けて訴えない311、それも原発が最大の安全保障上の脅威となったいま、中国電力前で訴えないわけにはいかない。そう考えて、のりこんだのです。なぜか、年配の女性労働者(ひょっとしたら幹部かもしれない)が最後までじっときいておられました。

なお、写真撮影には男性が自転車で筆者の後を追ってご協力をいただきました。ですから、「単独」という表現は実は不正確です。お礼申し上げます。

◆原爆ドーム前で「つながろうフクシマさよなら原発ヒロシマ集会」そして反戦スタンディング

原爆ドーム前では、「つながろうフクシマさよなら原発ヒロシマ集会」がありました。

幅広い市民団体が参加しました。今年は、ロシアのウクライナ侵攻に抗議するメッセージも出されました。福島からは毎年参加をいただいていますが、コロナ災害発生後は、メッセージの代読になっています。そして、島根原発の地元からの報告をいただきました。報告によれば、もはや、島根原発再稼働を松江市長もあっさり受け入れ、住民投票条例案も否決される危機的な状況です。伊方原発は再稼働されてしまいましたが、島根原発も再稼働されれば、広島はそれこそ、南北から原発の脅威で挟み撃ちになる恰好です。ただ、やはり、デモがないのは寂しいかぎりでした。


◎[参考動画]動画 3・11「つながろうフクシマ さよなら原発ヒロシマ大集会」

一方、同時進行で、れいわ新選組の「改憲阻止チーム」が呼びかけて、最初は平和公園噴水前、そして、「ヒロシマ集会」終了後は、原爆ドーム前へ移動してロシアのウクライナ侵攻に抗議するスタンディングが行われました。

ビートルズの「Give Peace a Chance(平和を我等に)」をうたいながら、反戦をアピールしました。
https://twitter.com/reiwakaikensosi/status/1502240723671736322

若いれいわ新選組支持者の発案で、しゃべるのが苦手な人も参加しやすい運動をという趣旨で数日おきにされています。

◆毎週金曜日はオンライン「定例記者会見」

筆者は毎週金曜日、オンラインで定例記者会見を実施しています。この日は3・11とウクライナ戦争、また、国家公務員一般職員の給料カット法案についてわたしから問題提起をし、参加者で自由にご発言をいただきました。もし、ご興味があればご参加ください。どなたでもご参加できます。入退室自由です。記者会見には、以下からどなたでもご参加いただけます。入退室ご自由です。

さとうしゅういち 定例記者会見
開催日時 毎週金曜日 20時~
Zoomミーティングに参加する
https://us04web.zoom.us/j/4117183285?pwd=bFhrcTlWOUpPRmZhUGFkTVpTZlV4Zz09
ミーティングID: 411 718 3285
パスコード: 5N6b38

▼さとうしゅういち(佐藤周一)
元県庁マン/介護福祉士/参院選再選挙立候補者。1975年、広島県福山市生まれ、東京育ち。東京大学経済学部卒業後、2000年広島県入庁。介護や福祉、男女共同参画などの行政を担当。2011年、あの河井案里さんと県議選で対決するために退職。現在は広島市内で介護福祉士として勤務。2021年、案里さんの当選無効に伴う再選挙に立候補、6人中3位(20848票)。広島市男女共同参画審議会委員(2011-13)、広島介護福祉労働組合役員(現職)、片目失明者友の会参与。
◎Twitter @hiroseto https://twitter.com/hiroseto?s=20
◎facebook https://www.facebook.com/satoh.shuichi
◎広島瀬戸内新聞ニュース(社主:さとうしゅういち)https://hiroseto.exblog.jp/

『紙の爆弾』と『季節』──今こそ鹿砦社の雑誌を定期購読で!

原発は、自国に向けた核爆弾 ── 水戸喜世子さんに聞いたロシアのウクライナ原発攻撃とこれからの「戦争と平和」 尾崎美代子

3月7日、水戸喜世子さんのご自宅で、脱被ばく子ども裁判の控訴審と、被ばくで甲状腺がんを発症した若者6人が東電を訴えた裁判についてお話を伺った。居間に通されるなり、目についたのが水戸さん手作りのプラカードだった。ロシアのウクライナ侵攻から2週間以上経過し(3月7日現在)、世界中で反戦の声が高まっている。

とりわけロシアがウクライナの原発を攻撃したことで水戸さんの怒りが最高潮に達した。こうした事態を予測していたかのように、2017年7月、水戸さんは、日本の原発へのミサイル攻撃を懸念し、運転差し止めの仮処分を提訴した。裁判は敗訴。その苦い経験から、懸念したことが現実となった今、「心配していたことが現実になって寒気がする」と話される。 (聞き手・構成=尾崎美代子)

◆世界中が完全な平和を手にするまでは、原発は眠っていてもらいましょう

 
高槻駅で続けられるスタンディングに立つ水戸さん(写真提供・二木洋子さん)

水戸 去年から、ずっと眩暈がひどくて、家でも何かにつかまって歩いていたのですが、ロシアの武力攻撃を知って、いてもたってもいられなくて、キャリーを引きずってスタンディングに参加するようになりました。

2017年、今頃の季節でしたね。北朝鮮が弾道ミサイルを立て続けに発射したことがありました。その時、私はたった一人で、高浜3、4号機の運転差し止めの仮処分を大阪地裁に提訴したのです。あのときは内閣総理大臣が自衛隊法の「破壊措置命令」、つまりミサイルが飛んできたら撃ち落としていいという指示を発令していたのです。

新幹線を運休したり、東京では地下鉄も止めましたよね。子どもまで学校で真剣に避難訓練をさせられ、登下校時の注意書きまで、学校から家庭にお手紙が配られました。戦時中、警戒警報や空襲警報のたびに防空頭巾をかぶって、机の下にもぐった国民学校時代のドキドキした息の詰まるような記憶がよみがえって、言葉にならない怒りがこみあげてきました。国民学校3年の3月です。家の地下に掘った防空壕では危険だからと、商品取引所の地下室に逃げて、命だけは助かりましたが、家は焼けて、着の身着のまま、弟の手を引いて、逃げた時の記憶は消えないのです。 二度と子どもに、あんな思いはさせないぞと強く願って生きてきましたから。

 
高槻駅陸橋で行われているスタンディング。3月10日、働いている人たちにもアピールしようと、夕方から行われた(写真提供・二木洋子さん)

「原発は、自国に向けた核爆弾だ!」ということは世界の常識。国が知らない筈はないのに原発を動かしたまま、子どもまで動員して避難訓練させる安倍内閣の意図をマスコミも指摘しないという呆れ果てた世情に怒り絶頂だったのです。

そんな時、河合さんから電話があって「水戸さんはどう思う?」と言われたので「訴訟したい!」と二つ返事だったのです。同志に出会えた、と本当に嬉しかった。政府のいかさまを裁判長に見抜いてほしい、万一訴訟に負けても世間に「ミサイルと原発」を意識してもらうきっかけになるし、安倍政権の危険な世論操作に気づいてもらえる、そんな思いでしたね。

本当に危険であれば、真っ先に原発を止めるのが常識だってことを、今度のウクライナ侵略戦争が、世界に示したと思います。キエフの住民たちも、まさかこんな戦争になるとは思わなかったと語っているように戦争はいつの時代も突発的です。世界中が完全な平和を手にするまでは、原発は眠っていてもらいましょう。

◆プーチンも教科書でトルストイを読んでいるはず

 
水戸喜世子(みと・きよこ)さん 子ども脱被ばく裁判の会・共同代表。1935年名古屋市生まれ。お茶の水女子大学、東京理科大学で学ぶ。反原発運動の黎明期を切り開いた原子核物理学者・故水戸巌氏と1960年に結婚後、京大基礎物理研究所の文部教官助手就任。1969年「救援連絡センター」の設立に巌氏とともに尽力。2008年から2年間中国江蘇省建東学院の外籍日本語教授。2011年3月11日以降は積極的に脱原発・反原発運動にかかわる。

── プラカードに書いてある「トルストイが泣いている」に込めた思いは?

水戸 私はヤースナヤ・ポリャーナにあるトルストイの生家に行ったことがあるんです。植民地文学学会の西田勝先生(故人)が「トルストイの旅」という小さな企画をされて連れていって貰いました。

広大なお屋敷にはお孫さんの家族が住んでおられて、小さな女の子が真っ白の馬に乗っていました。私は高3の頃、教科書がきっかけでトルストイを読みふけるようになりました。弱者への目、深い洞察からの非暴力主義に、とても感銘を受けたような気がします。ロマン・ロランやマルタン・デュ・ガールなど長編小説にのめりこむきっかけでした。

彼は貴族の出身ですが、弱い人と共にありたいという思いが強く、晩年は家出をして、どこかで死んでしまったのだと記憶しています。『アンナ・カレーニナ』など時代を超えて、ロシアで一番愛され、読み継がれているのがトルストイです。ロシア人の心のふるさとであり、プーチンも間違いなく少なくとも教科書では読んでいるはずです。トルストイの非暴力主義の前で、トルストイを心のふるさととするロシアの民衆の前で、己の行為を恥じてほしいのです。

◆日本の原発のテロ対策

── ウクライナではザポリージャ原発を守ろうと周辺の住民がロシア軍に抵抗しましたが、日本の原発のテロ対策はどうでしょうか?

水戸 規制委員会が要求している原発のテロ対策工事は、テロなどで飛行機が落ちても大丈夫な程度の工事です。ミサイルで狙われたらどうなるか、3月9日の衆議院経済産業委員会で立憲・山崎誠議員の質問に対して、「放射能の拡散は避けようがない」と規制委員会の更田委員長が答えています。私が仮訴訟を起こした頃は、規制委員会は機密に属することなので、と明言しなかったのですが、はっきり言いきったのは今回が初めてですね。

関電側は耐えられると強弁していましたが。 めったに起きないテロ対策を電力会社に要求したのですから、ミサイル発射に対して、対策工事を規制委員会は電力会社に要求すべきです。無防備衛あることを認めたのですから。

◆福島の被ばくの闇の深さ

── まもなく11回目の3・11を迎えますが。(3月7日当時)

水戸 「子ども脱被ばく裁判」がいま控訴審の最中で、毎日が3・11ですから、特別の感慨はありません。福島を振り返るのはまだずっと先のことのような気がしています。

昨日(3月6日)FoE japan主催の国際集会があって、私はズーム参加しました。基調報告で武藤類子さんが福島の現状として被災者切り捨て、矛盾を地元に押し付けたままの見かけの復興、進まぬ廃炉作業、加害責任を果たさない姿などを具体的に話され、改めて、心が引き締まりました。早急に被害者への補償と原発の後始末をさせる、脱原発を実現すること。頑張らねば、と思います。

類子さんの話で私が衝撃を受けたのは、「この1年で友人が6人亡くなりました」と語っておられたことです。数年前にお会いした時も、「今年一年で5人の友人が亡くなったの」と顔をくもらせておられたことと重ねて、福島の被ばくの闇の深さに言葉を失う思いがしました。一体いつまで、国と御用学者は『被ばく者はいない』とごまかし続けるつもりなのか、闘いの本命です。広島・長崎の被ばく者から学ぶことがとても大事ですね。

少し先ですが、5月21日、地元高槻市の高槻現代劇場文化ホール2階で「黒い雨訴訟」の原告である高東征二さんをお呼びして「切り捨てられる被ばく 黒い雨から福島へ」と題した講演会を行っていただきます。ほかに「子ども脱被ばく裁判」主催の展示・学習会も致します。第一歩を踏みだしました。どうぞみなさまもお集まり下さい。

5月21日大阪・高槻市で開催される講演会「広島・長崎から福島へ続く核被害~内部被ばくの危険性を考える」&写真展「広島黒い雨から福島へ」

▼尾崎美代子(おざき みよこ)
新潟県出身。大学時代に日雇い労働者の町・山谷に支援で関わる。80年代末より大阪に移り住み、釜ケ崎に関わる。フリースペースを兼ねた居酒屋「集い処はな」を経営。3・11後仲間と福島県飯舘村の支援や被ばく労働問題を考える講演会などを「西成青い空カンパ」として主催。自身は福島に通い、福島の実態を訴え続けている。
◎著者ツイッター(はなままさん)https://twitter.com/hanamama58

〈原発なき社会〉を求めて集う 不屈の脱原発季刊誌 『季節』2022年春号(『NO NUKES voice』改題 通巻31号)3月11日発売開始

〈原発なき社会〉を求めて集う 不屈の脱原発季刊誌
季節 2022年春号
『NO NUKES voice』改題 通巻31号
紙の爆弾2022年4月増刊

2022年3月11日発売
A5判 132頁(巻頭カラー4頁+本文128頁)
定価 770円(本体700円+税)

事故はいまも続いている
福島第一原発・現場の真実

《グラビア》福島第一原発現地取材(写真・文=おしどりマコ&ケン
《グラビア》希釈されない疑念の渦 それでも海に流すのか?(写真・文=鈴木博喜

小出裕章(元京都大学原子炉実験所助教)
原子力は即刻廃絶すべきもの

樋口英明(元裁判官)
原発問題はエネルギー問題なのか

中村敦夫(俳優/作家)
表現者は歩き続ける

井戸謙一(弁護士)
被ばく問題の重要性

《インタビュー》片山夏子(東京新聞福島特別支局長)
人を追い続けたい、声を聞き続けたい
[聞き手・構成=尾崎美代子]

おしどりマコ(漫才師/記者)
事故はいまも続いている
福島第一原発・現場の真実

和田央子(放射能ゴミ焼却を考えるふくしま連絡会)
犠牲のシステム 数兆円の除染ビジネスと搾取される労働者

森松明希子(東日本大震災避難者の会 Thanks & Dream〈サンドリ〉代表)
「いつまで避難者といってるのか?」という人に問いかけたい
「あなたは避難者になれますか?」と

鈴木博喜(『民の声新聞』発行人)
沈黙と叫び 汚染水海洋放出と漁師たち

伊達信夫(原発事故広域避難者団体役員)
《徹底検証》「東電原発事故避難」これまでと現在〈最終回〉
語られなかったものは何か

《講演》広瀬 隆(作家)
地球温暖化説は根拠のないデマである〈前編〉

山崎久隆(たんぽぽ舎共同代表)
原発は「気候変動」の解決策にはならない

細谷修平(メディア研究者)
《新連載》シュウくんの反核・反戦映画日誌〈1〉
真の暴力を行使するとき――『人魚伝説』を観る

三上 治(「経産省前テントひろば」スタッフ)
機を見るに敏なんて美徳でも何でもない

板坂 剛(作家/舞踏家)
大村紀行──キリシタン弾圧・原爆の惨禍 そして原発への複雑な思い!
 
佐藤雅彦(ジャーナリスト/翻訳家)
“騙(かた)り”の国から“語り部(かたりべ)”の国へ
絶望を希望に転じるために いまこそ疑似「民主国」ニッポンの主客転換を!

山田悦子(甲山事件冤罪被害者)
山田悦子の語る世界〈15〉
森友学園国有地売却公文書 改ざん国賠・『認諾』への考察

再稼働阻止全国ネットワーク
国政選挙で原発を重要争点に押し上げよう
7月参議院選挙で「老朽原発阻止」を野党共通公約へ
《全国》柳田 真(とめよう!東海第二原発首都圏連絡会世話人)
《全国》石鍋 誠(再稼働阻止全国ネットワーク事務局)
《六ヶ所》中道雅史(「4・9反核燃の日」全国集会実行委員会)
《東海第二》野口 修(東海第二原発の再稼働を止める会)
《反原発自治体》反原発自治体議員・市民連盟
《東海第2》披田信一郎(東海第2原発の再稼働を止める会)
《東京》佐々木敏彦(東電本店合同抗議行動実行委員会)
《志賀原発》藤岡彰弘(「命のネットワーク」)
《関西電力》木原壯林(老朽原発うごかすな!実行委員会)
《島根原発》芦原康江(さよなら島根原発ネットワーク)
《伊方原発》秦 左子(伊方から原発をなくす会)
《規制委・経産省》木村雅英(再稼働阻止全国ネットワーク/経産省前テントひろば)
《読書案内》天野恵一(再稼動阻止全国ネットワーク事務局)

《反原発川柳》乱鬼龍

季節編集委員会
我々はなぜ『季節』へ誌名を変更したのか

私たちは唯一の脱原発情報誌『季節』を応援しています!

ロシアの軍事侵略を非難し、ウクライナの愛国主義に共鳴しつつ、「プーチンの盟友」安倍元首相の「核共有」に加勢する日本国内〈好戦派〉の支離滅裂 田所敏夫

◆直接情報が一番の頼り

ロシアがウクライナに軍事侵略を開始して20日以上が経過した。紛争発生時に、自称「国際学者」や「軍事評論家」が言いたいことを無責任に言い放つ様子にはもう飽きた。なぜならば、短・中期的な分析ですら未知の情報を提示してくれる識者は極めて稀だからだ。

そして、ゼレンスキーウクライナ大統領が大手メディアでは英雄扱いされ、日本からも「志願兵」に70名余りの応募があったと在日ウクライナ大使は明らかにした。ゼレンスキー大統領は日本時間の3月16日にはカナダ、米国の国会でリモート演説を行い、日本でも今週、同様のリモート演説の実施に向けて、自民党と立憲民主党が前向きに協議中だと報じられている。私はバイアスのかかったニュースではなく、なるべく情報源に近づき、自らの判断を下そうと試みる。例えばウクライナ政府機関の発信や、ロシア政府の発信などである。中間にメディアが介在すると、いらぬ解釈が加えられるのでそれらは参考程度にしか利用しない。

ゼレンスキー大統領はFacebookとTwitterを利用しながら、かなり頻繁に発信を続けている。そしてキエフやその他のウクライナ国内在住のかたがたも、かなりの数動画を発信している。それらを総合して私は今なにができるのか、なにを考えるべきなのかを模索する。

◆誰がプーチンを擁護して、育てたのか

理由はどうあれ「侵略戦争」には反射的に嫌悪を抱く私は、ロシアの軍事侵略をやはり許すことはできない。そして20年以上実質上独裁者の座にあるウラジーミル・プーチンを支援してきた日本外交や、政治家の名前をしっかりと思いだし、彼らの言動を注視することは無駄ではないだろう。

日本外交の対ロシア最大の課題は「北方領土返還」らしい。私は本気で北方領土返還を実現したいのであれば、ソ連崩壊後独立国家共同体と名乗っていた間隙に机の下で数兆円を渡せば4島返還の可能性はあったと考え、20年以上そのように発信してきた。だが、この期に及んで「北方領土」などにロシアが関心を払わないことは、誰の目にもあきらかであろう。

米国のベトナム、アフガニスタン、イラク侵略に匹敵する、このような惨事を招致するに至った独裁者に世界でも有数の待遇で接していた、この国のかつての最高権力者がいる。安倍晋三だ。安倍は首相在任中あるいは官房長官など在任中にいったい何回プーチンと面会したことであろうか。首相在任期間中には27回と言われているが、非公式な面会を含めた回数は公開されていない。ロシア訪問の際は必ず経済援助の土産を下げて出かけて行き、2016年プーチンが来日した際には安倍の地元、山口県の高級旅館にまで招いて厚遇した。

◆安倍晋三の犯罪性を注視せよ

そして日本は何を獲得したのか? いま安倍は何を発言しているのか。「プーチンと仲の良い安倍にロシアへ行かせて停戦のために働かせろ」との声は政府内外にある。しかし、安倍がそんな役割を担えるような人間ではないことを、首相岸田も外相岸も熟知している。なにより仲良しであるはずのプーチンが核兵器の使用可能性に言及したとたんに、日本の「非核三原則の見直し」と「核シェアリング」(核兵器の共有、あるいは共同利用)との暴論を平気で発言し、岸田を慌てさせた。要するに安倍晋三によって日本はプーチン独裁を確固とさせる栄養を与えてしまい、にもかかわらず安倍にはその認識がまったくないということに、あらためて注目すべきだろう。

◆核兵器は使えない、原発も「地元核兵器」だ

そして私同様に「侵略戦争反対」の立場の人が、ウクライナを支援する気持ちは理解できるものの、それが即「憲法9条改正論」や安倍が唱える程度の「核兵器容認論」にまで結びつくのは、短絡の極みである。

今次のロシアによるウクライナ侵略により明らかになったことは、「核兵器」は実際には使用できない兵器であることと(一度核兵器が使われれば、攻撃の応酬で人類はおそらく破滅近くのダメージを受ける)だ。国連事務総長までが「核戦争の可能性」を憂慮する事態は「何者かが意図的であろうと、ミスであろうと核兵器を使用してしまえば、人類はもうあらゆるコントロールを失い破滅に向かう」ことへの世界的な恐怖に依拠している。

原発の危険性も同様だ。ロシアが侵略直後にチェルノブイリ原発を支配し、その後も主要な原発に手を伸ばしているのは、電力の首根っこを押さえるのではなく「地元の核兵器」を支配下に置くことが目的である。

◆好戦派への警告ゼレンスキ―大統領の言葉

このような状況下、総論ロシアの暴挙は米国によるベトナム侵略戦、アフガニスタン侵略、イラク侵略同様に非難されるのが道理だ。だがここでちょっといきりたち過ぎた日本国内の「好戦派」には警告を発しておこう。私の見解ではなく、米国議会でリモート演説を行いスタンディングオベーションで称賛を受けた、ゼレンスキー大統領の言葉だ。

「真珠湾攻撃を思い出して下さい。9・11を思い出してください」

9・11の実行者はともかく、真珠湾攻撃の当事者は誰でも知っている。日本だ。第二次大戦後の世界の枠組みで東西冷戦構造は崩れても、敗戦国である日本へのまなざしには変化がないことを、ゼレンスキー大統領は明言した。この言葉の含意は重い。どう答えるのだ。安倍晋三とその支持者よ。

▼田所敏夫(たどころ としお)
兵庫県生まれ、会社員、大学職員を経て現在は著述業。大手メディアの追求しないテーマを追い、アジアをはじめとする国際問題、教育問題などに関心を持つ。※本コラムへのご意見ご感想はメールアドレスtadokoro_toshio@yahoo.co.jpまでお寄せください。

〈原発なき社会〉を求めて集う 不屈の脱原発季刊誌 『季節』2022年春号(『NO NUKES voice』改題 通巻31号)
タブーなきラディカルスキャンダルマガジン『紙の爆弾』2022年4月号!

激闘必至の戦い始め、勝次はまたもドローで再浮上成らず! 堀田春樹

2022年、新日本キックボクシング協会の闘い始め、激闘にはなったが、勝次は先へ進めない苦難が続く。

重森陽太は珍しくやや攻められる展開を見せながら、蹴りの鋭さで圧倒の展開。

リカルド・ブラボもパンチ、飛び技で他団体チャンピオンに圧倒の勝利。

高橋亨汰は試合毎にアグレッシブな展開が増す成長を見せるTKO勝利。

主力メンバーに定着してきた瀬川琉は安定した試合運びで僅差ながら判定勝利。

◎MAGNUM.55 / 3月13日(日)後楽園ホール17:30~20:03
主催:伊原プロモーション / 認定:新日本キックボクシング協会

◆第12試合 63.6kg契約3回戦

勝次(藤本/ 63.55kg)vs 般若HASHIMOTO(クロスポイント吉祥寺/ 63.15kg)
引分け0-0
主審:少白竜 / 副審:宮沢29-29. 仲29-29. 桜井29-29

勝次はWKBA世界スーパーライト級チャンピオンとしての苦戦が続く。般若は元・グラディエーター武士道キック・フェザー級チャンピオンの経歴を持つが、アグレッシブな試合運びは見応えある展開を見せる選手。

勝次は序盤、蹴りでややペースを掴むが、第2ラウンドには般若のパンチラッシュでロープ際からコーナーに追い詰められる。クリーンヒットは免れたが攻め続けられては印象が悪い。勝次はピンチを脱し打ち返し、飛びヒザ蹴りも見せるが強引さでタイミングが合わない。

ロープに詰められ猛攻を受けてしまう勝次。その状態が長いと印象は悪い
何とか巻き返し、蹴りでは優っていた勝次

第3ラウンド、勝ちたい意識が表れる両者が打って出る一進一退が続く。終盤に勝次のパンチヒットで般若がロープに詰まったところでラッシュをかける勝次。これがどういう印象を与えて採点に影響するか際どい中、おそらく多くの観戦者の予想が当たるように引分けに落ち着く。

ジャッジ三者が揃ったのは般若に与えた第2ラウンドだけだったが、採点の振り方も難しさが窺えた展開だった。

引分け続きの勝次は晴れない表情

◆第11試合 62.5kg契約3回戦

重森陽太(伊原稲城/ 62.4kg)vs 大谷翔司(スクランブル渋谷/ 62.5kg)
勝者:重森陽太 / 判定2-0
主審:椎名利一 / 副審:少白竜29-29. 仲29-28. 桜井30-29

重森陽太はWKBA世界ライト級チャンピオンとして安定感ある試合を続ける。JKイノベーション・ライト級チャンピオンの大谷翔司もここ2連勝で勢いがある選手。
第1ラウンド、大谷翔司がローキック中心に攻める。蹴り返す重森陽太の蹴りが鋭く大谷の脇を赤く染める。

第2ラウンド、重森のヒザも含めて強い蹴りが優っていき、リズムを掴む。大谷はパンチ連打で出るとやや圧されてしまった重森だが、すぐの立て直しで劣勢には至らない。

第3ラウンド、重森の前蹴りが何度か大谷を吹っ飛ばすほどの勢いでボディーをヒット。ヒジ打ちもヒットさせた重森が僅差ながら判定勝利。

重森陽太も蹴るパワーがあり、ヒザ蹴りで大谷翔司を攻める
重森の前蹴りは強く鋭く、大谷のバランスを崩し転ばす勢いがあった

◆第10試合 72.0kg契約3回戦

日本ウェルター級チャンピオン.リカルド・ブラボ(伊原/アルゼンチン/ 71.7kg)
      vs
WBCムエタイ日本スーパーウェルター級チャンピオン.匡志YAMATO(大和/ 71.65kg)
勝者:リカルド・ブラボ / TKO 1R 1:26 / 主審:宮沢誠  

開始間もなく、リカルド・ブラボの右ストレートでの匡志があっさりノックダウン。ここから全くのリカルドのペース。パンチやヒザ蹴りで匡志を追い、赤コーナー側に詰めてパンチでノックダウンを奪い、飛びヒザ蹴りで押し込んでからのパンチ連打で3ノックダウン目となって圧勝のリカルド・ブラボとなった。

とびヒザ蹴りも見せたリカルド・ブラボ、勢いに乗った存在である

◆第9試合 62.5kg契約3回戦

日本ライト級チャンピオン.高橋亨汰(伊原/ 62.45kg)
      vs
NJKFスーパーフェザー級1位.HIRO YAMATO(大和/ 62.15kg)
勝者:高橋亨汰 / TKO 3R 0:40 / 主審:仲俊光

第1ラウンド、パンチから蹴りの勢いでHIROを圧倒した高橋。コーナーに詰めてのパンチ連打で倒すかに見えたが、HIROは凌いで脱出。

第2ラウンド、左ヒジ打ちでノックダウンを奪った高橋。更に飛び前蹴りでノックダウンを奪い、攻勢を続けるが仕留めるに至らず、HIROも険しい表情を見せながら抵抗を続ける。

第3ラウンドも諦めないHIROは蹴ってくるが、ヒジ打ち合わせた高橋。額を大きく切ったHIROはドクターの勧告を受け入れレフェリーストップとなった。

飛び前蹴りでHIROを吹っ飛ばした高橋亨汰

◆第8試合 58.0kg契約3回戦

瀬川琉(伊原稲城/ 57.85kg)vs 祐輝(OU-BU/ 57.5kg)
勝者:瀬川琉 / 判定3-0
主審:桜井一秀 / 副審:椎名29-28. 宮沢30-29. 仲30-29

瀬川は落ち着いた攻めで相手の打ち終わりへのローキックなどが上手い。やや相手を勢い付かせてしまうが、主導権を奪った展開で僅差ながら判定勝利を掴む。

攻めるタイミングが上手かった瀬川琉、的確なヒットを見せた

◆第7試合 59.0kg契約3回戦

仁琉丸(富山ウルブズスクワット/ 58.35kg)vs 大木一真(ワイルドシーサー那覇/ 57.75kg)
勝者:大木一真 / TKO 1R 0:34 / 主審:少白竜

展開は早く、大木一真がロープ際でパンチヒットさせ、仁琉丸は脚をふら付かせながら立ち上がるもレフェリーがカウント中にストップして大木がTKO勝利。

速攻のパンチで仁琉丸を倒した大木一真

◆第6試合 女子(ミネルヴァ)53.0kg契約3回戦(2分制)

アリス(伊原/ 52.5kg)vs NA☆NA(エス/ 52.9kg)
勝者:NA☆NA / 判定0-3 (27-30. 28-30. 28-30)

勢いが無いアリス。自分の距離になると蹴りは強く出るが、NANAは簡単に体勢を変えてパンチ蹴りで圧倒し、NANAが大差と言える判定勝利。

元気無い展開で連敗となったアリス、攻めの柔軟性はNA☆NAが優っていた

◆第5試合 83.0kg契約3回戦

竜矢(伊原稲城/ 82.9kg)vs 中川達彦(無所属/80.45kg)
勝者:竜矢 / TKO 3R 2:29 / 主審:宮沢誠

初回1分足らずで竜矢の右ハイキックで中川達彦がノックダウン。バランス崩しスタミナ消耗が激しい中川は苦しい体勢が続き、最終ラウンドもガードが空き気味の顔面にまたも竜矢の右ハイキックを貰って倒れこむと、ほぼノーカウントでレフェリーが止めるTKOとなった。

◆第4試合 フェザー級2回戦

木下竜輔(伊原/ 56.9kg)vs 颯也(新興ムエタイ/ 56.6kg)
勝者:木下竜輔 / TKO 1R 2:42 / カウント中のレフェリーストップ

◆第3試合 ウェルター級2回戦

大場一翔(伊原/ 66.35kg)vs 小林亜維二(新興ムエタイ/ 66.6kg)
負傷判定引分け0-0 (10-10. 10-10.10-10) / テクニカルデジション 1R 1:12
小林亜維二の故意ではない股間ローブローにより大場一翔が試合続行不可能

◆第2試合 アマチュア女子32.0kg契約2回戦(1R=90秒制)

西田永愛(伊原)vs 渡邊明莉(VALLELY KICK BOXING TEAM)
勝者:西田永愛 / 判定3-0 (20-19. 20-19. 20-19)  

◆第1試合 アマチュア女子49.0kg契約2回戦(2分制)

星野姫歌(レジェンド)vs 安黒珠璃(闘神塾)
勝者:安黒珠璃 / 判定0-3 (18-20. 18-20. 18-20)

《取材戦記》

勝次が勝てないのはなぜか。今回はヒジ打ち禁止ルールだったことや、ここ暫くは3回戦制が影響しているかもしれません。いつも焦って前に行き過ぎてタイミングがズレ、もっと蹴り中心に組み立てれば自分の距離感も保てそうで、5回戦で戦えば様子見の展開が活きてくる気がします。

勝負は勝ちか負けか引分けの結果は残りますが、チャンピオンはその責任を負う立場として、野口修氏の遺産となるWKBAの世界チャンピオンとして日本人相手に互角の展開ではマズいでしょう。

重森陽太も意外に攻められたシーンがありましたが、いつもながら突き放す前蹴りに鋭さがありました。昨年暮れにシュートボクシングでジャーマンスープレックスで投げられたマイナスポイントで判定負けしているようですが、経歴にも心理的にも影響は無いでしょう。

伊原信一代表が元気に戻って来ました。昨年秋に軽い脳梗塞に罹り、10月のTITANS NEOS興行は欠席。だが当時の前日計量での病院から選手に贈るスピーカーフォンの声は以前と同じ響き。後の退院後もミット持ちへも復帰した様子で、勝次も蹴っていた様子です。

コロナの影響で外国人選手を招聘出来ない事情はありましたが、今後、主力メンバーのWKBA世界戦も計画している様子です。

新日本キックボクシング協会次回興行は5月15日(日)、後楽園ホールに於いて開催予定です。

▼堀田春樹(ほった・はるき)[撮影・文]
フリーランスとしてキックボクシングの取材歴32年。「ナイタイ」「夕刊フジ」「実話ナックルズ」などにキックのレポートを展開。ムエタイにのめり込むあまりタイ仏門に出家。座右の銘は「頑張るけど無理しない」

タブーなきラディカルスキャンダルマガジン『紙の爆弾』2022年4月号!

地震に便乗してタンク保管のデメリット強調? 作業事故まで持ち出して海洋放出進めたい細野豪志氏に福島から異論 鈴木博喜

「作業の過程で事故が起きてしまうことと、汚染水海洋放出の是非は別問題でしょう。本質的に全く別の問題を並べ比べて、陸上でのタンク保管では駄目だと目の前に突き付けているように思います」

電話取材に応じた福島県の市民団体「これ以上海を汚すな!市民会議」共同代表の織田千代さんは「どこから反論したら良いものか…」と呆れた様子で言葉を紡いだ。

「3・11」を想起させる大きな揺れから一夜明けた17日朝、震災・原発事故発生後の2011年9月に野田内閣の環境大臣に就任した細野豪志代議士(現自民党)が、ツイッターに次のように書き込んだ。大地震に便乗して海洋放出への支持を増やそうとしているように映った。

「昨晩の地震で知ってもらいたいのは処理水をタンクで保管するリスク。地震で処理しきれていない水が流出するリスクは常にある。1000基(一基約1億円)超のタンクの水漏れや劣化をチェックする作業は危険を伴う。タンクから転落死もあった。現状を放置するより、処理して海洋放出する方が安全」

汚染水の海洋放出を推す細野豪志氏の投稿。作業事故にも触れながら「タンク保管より海洋放出する方が安全」と書き込んだ

実は細野氏は地震直後にも、こう書き込んでいる。

「宮城・福島の地震被害が心配だ。東電福島第一原発のタンク破損も気がかり。処理が終わっていないものがある。タンク保管のリスクが顕在化しないことを祈る。#処理水」

ほら、こういう大きな揺れが来たらタンクが壊れるかもしれない。「処理しきれていない水」が漏れ出すリスクと背中合わせじゃないか。だから海に流すべきなんだ─。大地震への心配を装いながら、細野氏の持論が「顕在化」した格好だ。

2020年3月11日には「タンクをあれだけ近くで取材しながら、処理水を保管し続けるリスクをなぜ説明しないのか!」と「報道ステーション」への怒りをツイッターに綴り、同年7月13日には「処理水タンクは放射性廃棄物となる。タンク保管を続ければ廃棄物が増える タンクは改良されたが、台風や竜巻によって処理しきれていない水が流出するリスクがある タンクの水漏れや劣化をチェックする作業は危険を伴う。タンクから転落死した作業員もいる。 #タンク保管を続けることに反対します」と書き込んでいる。

織田さんは言う。「地震の直後は、確かにタンク保管を心配する人もいるかもしれません。ただ、細野さんたちが発信するのは影響が大きいので、日頃あまり関心を持っていない人が目にすると『やっぱり海に流すしかないのか』となりかねない。彼らもそれを分かっていて発信していると思う。もうすぐ海洋放出という政府方針決定から1年が経ちます。『地元(大熊町や双葉町)が望んでいるから』などと少しずつ論点をずらしながら放射能を拡散する方向に進んでいます。汚染水は一度流してしまうと回収できません。取り返しがつかないんです。中身のことも学べば学ぶほど恐ろしい。細野さんがいくら長生きしたって海洋放出の影響に責任を取れないということを分かって欲しいです」

福島県内では海洋放出に反対する声が多い。織田さんたちも「陸上保管継続を」と訴え続けている

細野氏の主張を後押ししている人物がいる。初代原子力規制委員長を務めた田中俊一氏だ。昨年2月に発刊された著書「東電福島原発事故 自己調査報告」のなかで細野氏と対談している田中氏は、こう語っている。

「凍土壁の工事では作業員が1人、感電で亡くなっています。貯水タンクを造っている最中にも、タンクから落下して1人亡くなっている。トリチウムの海洋放出を先送りにしたことで、2人が殉職しているんです。そういう人命と、何千億円というお金が費やされている。そういうことも踏まえて判断するのが有識者の使命だと思うんです」

確かに尊い命が失われるような作業事故はあってはならないが、2015年1月に発生したタンクからの転落死亡事故では、安全帯を使用せず単独で作業してしまったことが原因だと報告されている。作業事故を挙げて海洋放出の是非を語るのは全くの筋違いなのだ。

長く原発労働者問題に取り組んでいる狩野光昭いわき市議(社民党福島県連代表)も「それはフランジ型タンクだと思いますが、確かに単独作業で落下し、作業員が亡くなりました。でも、それが『タンク保管を継続したことでの事故』であって『だから海洋放出する方が良い』と結びつけるのは論理の飛躍だと思います。あくまでも作業工程のなかでの労働安全衛生上の問題ですよ。発注者としての東電の責任もあるし、元請け企業の責任もある。それを海洋放出の是非と結び付けるのは暴論というか飛躍しすぎ。そこは納得いかないですね。全くの別問題です」と語る。

タンクでの陸上保管を求めているのは織田さんたちだけではない。ミクロネシア連邦のディビッド・W・パニュエロは昨年4月、汚染水の海洋放出に関して大きな懸念を示す書簡を当時の菅義偉首相宛てに送付。「タンク貯蔵が効果的で緊急性のある解決方法だ」と海洋放出しないよう綴った。

これに対し、資源エネルギー庁・原子力発電所事故収束対応室の福田光紀室長は昨年11月、織田さんたちとの意見交換の場で「陸上でのタンク保管についてはいくつかの論点がある。そもそもタンクから水が漏えいしないのが大前提。漏えいを防ぐために検査をやらなければいけない」などと陸上保管のデメリットを強調していた。

昨年2月の大地震でも今回も、貯蔵タンクから汚染水が漏れ出したとの報告はない。本当に陸上保管より海洋放出の方がメリットが多いのか。

「海底トンネルをつくって30年にわたって海に流す計画なのだから、配管(トンネル)が大きな揺れで破断することだって考えられる」

狩野市議はそう指摘する。しかし、海底トンネルのリスクは語られない。

▼鈴木博喜(すずき ひろき)
神奈川県横須賀市生まれ。地方紙記者を経て、2011年より「民の声新聞」発行人。高速バスで福島県中通りに通いながら、原発事故に伴う被曝問題を中心に避難者訴訟や避難者支援問題、〝復興五輪〟、台風19号水害などの取材を続けている。記事は http://taminokoeshimbun.blog.fc2.com/ で無料で読めます。氏名などの登録は不要。取材費の応援(カンパ)は大歓迎です。

〈原発なき社会〉を求めて集う 不屈の脱原発季刊誌 『季節』2022年春号(『NO NUKES voice』改題 通巻31号)

〈原発なき社会〉を求めて集う 不屈の脱原発季刊誌
季節 2022年春号
『NO NUKES voice』改題 通巻31号
紙の爆弾2022年4月増刊

2022年3月11日発売
A5判 132頁(巻頭カラー4頁+本文128頁)
定価 770円(本体700円+税)

事故はいまも続いている
福島第一原発・現場の真実

《グラビア》福島第一原発現地取材(写真・文=おしどりマコ&ケン
《グラビア》希釈されない疑念の渦 それでも海に流すのか?(写真・文=鈴木博喜

小出裕章(元京都大学原子炉実験所助教)
原子力は即刻廃絶すべきもの

樋口英明(元裁判官)
原発問題はエネルギー問題なのか

中村敦夫(俳優/作家)
表現者は歩き続ける

井戸謙一(弁護士)
被ばく問題の重要性

《インタビュー》片山夏子(東京新聞福島特別支局長)
人を追い続けたい、声を聞き続けたい
[聞き手・構成=尾崎美代子]

おしどりマコ(漫才師/記者)
事故はいまも続いている
福島第一原発・現場の真実

和田央子(放射能ゴミ焼却を考えるふくしま連絡会)
犠牲のシステム 数兆円の除染ビジネスと搾取される労働者

森松明希子(東日本大震災避難者の会 Thanks & Dream〈サンドリ〉代表)
「いつまで避難者といってるのか?」という人に問いかけたい
「あなたは避難者になれますか?」と

鈴木博喜(『民の声新聞』発行人)
沈黙と叫び 汚染水海洋放出と漁師たち

伊達信夫(原発事故広域避難者団体役員)
《徹底検証》「東電原発事故避難」これまでと現在〈最終回〉
語られなかったものは何か

《講演》広瀬 隆(作家)
地球温暖化説は根拠のないデマである〈前編〉

山崎久隆(たんぽぽ舎共同代表)
原発は「気候変動」の解決策にはならない

細谷修平(メディア研究者)
《新連載》シュウくんの反核・反戦映画日誌〈1〉
真の暴力を行使するとき――『人魚伝説』を観る

三上 治(「経産省前テントひろば」スタッフ)
機を見るに敏なんて美徳でも何でもない

板坂 剛(作家/舞踏家)
大村紀行──キリシタン弾圧・原爆の惨禍 そして原発への複雑な思い!
 
佐藤雅彦(ジャーナリスト/翻訳家)
“騙(かた)り”の国から“語り部(かたりべ)”の国へ
絶望を希望に転じるために いまこそ疑似「民主国」ニッポンの主客転換を!

山田悦子(甲山事件冤罪被害者)
山田悦子の語る世界〈15〉
森友学園国有地売却公文書 改ざん国賠・『認諾』への考察

再稼働阻止全国ネットワーク
国政選挙で原発を重要争点に押し上げよう
7月参議院選挙で「老朽原発阻止」を野党共通公約へ
《全国》柳田 真(とめよう!東海第二原発首都圏連絡会世話人)
《全国》石鍋 誠(再稼働阻止全国ネットワーク事務局)
《六ヶ所》中道雅史(「4・9反核燃の日」全国集会実行委員会)
《東海第二》野口 修(東海第二原発の再稼働を止める会)
《反原発自治体》反原発自治体議員・市民連盟
《東海第2》披田信一郎(東海第2原発の再稼働を止める会)
《東京》佐々木敏彦(東電本店合同抗議行動実行委員会)
《志賀原発》藤岡彰弘(「命のネットワーク」)
《関西電力》木原壯林(老朽原発うごかすな!実行委員会)
《島根原発》芦原康江(さよなら島根原発ネットワーク)
《伊方原発》秦 左子(伊方から原発をなくす会)
《規制委・経産省》木村雅英(再稼働阻止全国ネットワーク/経産省前テントひろば)
《読書案内》天野恵一(再稼動阻止全国ネットワーク事務局)

《反原発川柳》乱鬼龍

季節編集委員会
我々はなぜ『季節』へ誌名を変更したのか

私たちは唯一の脱原発情報誌『季節』を応援しています!

対藤井正美(元鹿砦社社員、しばき隊中心メンバー)訴訟、大阪地裁の不当判決を粉砕すべく大阪高裁に控訴! 悪質極まる本田能久裁判長を弾劾する! 鹿砦社特別取材班

◆大阪地裁での鹿砦社への不当判決から控訴へ

就業時間中に膨大な私的ツイッター書き込みを行っていたことが判明したため、通常解雇した、元鹿砦社社員にして「しばき隊」中心メンバー藤井正美を相手取り、鹿砦社が損害賠償請を求めた民事訴訟を大阪地裁に提起し、去る2月24日不当判決が下されたことは本通信でお伝えしてきた通りだ。その後社内外の関係者で控訴すべきか、せざるべきかを徹底討論した結果、私たちは「控訴する」ことに決定した。そして7日、控訴人株式会社鹿砦社を代表して松岡利康みずから控訴状を提出した。闘いの場は大阪高裁へと移った。

本訴訟は就業時間中に尋常ではない膨大な量の私的ツイッター書き込みを行っていたのみならず、解雇後に鹿砦社の名を騙った「企業恫喝」にまで藤井が手を染めていたことが判明したことから、致し方なく提訴の及んだものである。ところが大阪地裁の本田能久裁判長は私たちの主張を一切認めず、あろうことか係争途中で反訴した藤井に対して鹿砦社に11万円余りの損害賠償を払えと、到底納得できない、天地が引っくり返るほど無茶苦茶な判決を下したのだ。

街宣活動をする藤井正美

◆控訴決心への逡巡

控訴にあたっては、協力者内にも賛否両論があった。「証拠を示しても読まない、黒いものを白だというような裁判所に期待するのはもうやめよう」、「裁判所は明らかに鹿砦社に予断と偏見を持っており、『鹿砦社には勝たせない』との意思が見え隠れする。そのような状況も考えれば控訴は慎重であるべきだ」、一方「この判決が確定すれば『就業時間中に私的ツイッターを山ほど行っていても、法律的な責めは負わない』とも解釈できる尋常ならざる判例を残す。こんな判例が罷り通れば、日本の企業、特に中小企業はやっていけない」。

本田裁判長の数々の事実認定は間違いか不当なものばかりで、放置すれば『言論の敗北』と取られかねない。裁判所が『鹿砦社を勝たせない』と意思を決めていたとしても(そんなこと自体が不当極まりないのだが)控訴して地裁判決を徹底的に論破し、鹿砦社の取材姿勢と出版の立脚点を事実をもって明らかにすべきではないか。勝ち負けに関係なく、判決も控訴理由書もすべて公開し、みなさん方に公開し判断を仰ごう」……。

社員が偶然発見した藤井のツイッターの一部

◆不当判決には決然と闘う!

裁判取材経験豊富なジャーナリストや、司法関係者の皆さんからもアドバイスを頂き、最後は原告である鹿砦社の代表、松岡本人が判断を一任され「控訴」に踏み切る決断を下した。

この判断自体は一般の裁判であれば、地裁判決の訴訟指揮、判決の無茶苦茶さを鑑みれば当然というべきものである。だが、前述の通りここ数年鹿砦社が関わってきた「対しばき隊」関連訴訟では、まったく不当な判決が横行し「裁判所などに期待するのはやめよう。法律が機能していない以上このようなことに力を割くのは勿体なく、私たちは『言論』で勝負しよう」と主張する者が出てきたのも無理からぬことではあった。法廷外で鹿砦社や特別取材班、そしてお世話になった代理人の弁護士の方々は想像を絶する力を振り絞り、当然の勝利に向けて物心ともに全力を注いできたのだから。

7日に控訴状の提出を終え、控訴人(鹿砦社サイド)では「控訴理由書」が現在完成に近づいている。本田裁判長の手になる「判決」の判断はほぼすべてが反論が可能だ、否、反論しなければ道理が通らない矛盾ばかりである。「控訴理由書」が完成し、然るべき時期が来ればその要旨若しくは全文を皆さんに公開しよう。

藤井が就業時間内に行ったツイートの一部を集計した表(『カウンターと暴力の病理』より)
藤井正美2015年月別ツイート数一覧(『カウンターと暴力の病理』より)

◆東住吉冤罪事件国賠訴訟で証明された裁判官本田能久の悪質性

さて、15日東住吉冤罪事件の国家賠償を求めていた青木恵子さんの大阪地裁における判決が言い渡された。青木さんの裁判を担当したのは、私たちへの不当判決を平然と書いた本田である。本田は私たちの係争でも何度か「和解」を勧めてきた。私たちは無下に自らの主張ばかりを振りかざすつもりはなく、妥当な一致点が見つけられれば「和解」も排除せず、と考えていた。本田の勧めにより「和解」の席に複数回ついた。本田はあたかも「公平」な結論を導きだそうと努力しているかの如き演技に終始し、もとよりの多弁が和解の席でも同様に発揮されたが、結局あれは「ポーズ」であったと断じるほかない。

15日青木さんは大阪府からのみの賠償を命じる判決を得たが、本田は結審前に青木さんと国、大阪府にも和解の席を用意した。この経緯については尾崎美代子さんが、2012年12月2日本通信に喜びをもって報告してくれている。青木さんに寄り添うような言葉を吐き過剰な期待を煽った本田。そして本田はいかにも青木さんの痛みを理解し、「係争を終了させることにより青木さんの傷を小さくしようとしている」かと誤解させる芝居を打っていたが、15日に国の責任を一切認めないとする判決を言い渡したことにより、青木さんへの「芝居」が空手形であったことが証明された。青木さんは怒り心頭だと報道されている。国賠訴訟で、その名の通り国の責任を問うているのに、あたかも青木さんに寄り添い国の責任を認めてやるかのような態度を取り、結局は国の責任を全く認めなかった。

青木さんと私たちでは受けた傷の大きさが違う。単純比較は青木さんに失礼だ。しかしながら本田を裁判長とする同じ合議体から受けた加害による「被害者」であることは共通だ。既に控訴手続きは7日に完了しており、その後に下された青木さんへの本田からの判決ではあるが、青木さんの無念も私たちの闘争心を更に掻き立てる。こんな判決を許しておくわけにはゆかない!

◆司法は不条理だ、しかし私たちは真実を曲げることはしない

裁判官はどんな誤判を冒しても、罰せられない。法律論は横においておくが、これは不合理極まりないではないか。過ちを冒した裁判官には罰則を設けるべきではないのか。刑事事件で無実の人を刑務所にぶち込んだり、冤罪確定事件の国賠裁判でも国を免罪したり、中小企業の中に入り込んで怠業の限りを尽くし、社名を語って恫喝を行っていた者の行為を不問に付し、逆に会社に罰金を払わせたり……。これが司法試験に合格し法衣を着て「人を裁く」人間の実態である。その代表の一人が本田能久だ。

◆ご支援に感謝しながら「本人訴訟」で不条理とは闘います!

鹿砦社は昨年来新型コロナの影響を受け、売り上げが大幅に落ち込み経営は楽ではない。この間社債を発行し、心ある皆さんに引き受けていただいたり、カンパや『紙の爆弾』『季節』の定期購読(新規、前倒し、複数年)、書籍のまとめ買いの要請にも多くの方々に応じていただいている。そのお陰できょうも出版・言論活動が続けられている。原稿料や諸経費の徹底見直しも行い、危機の脱出に懸命である。控訴に関しては「このように厳しい時期であることも勘案すべきではないか」との意見もあった。私たちとて法廷は気分の良い場所ではないし、「言論」こそが本来のフィールドだ。そこで、今回の控訴は複数の法律専門家のアドバイスを頂きながらも、あえて代理人を立てず本人訴訟とすることとした。

鹿砦社にとっても松岡や中川編集長らにとっても、2005年、『紙の爆弾』』創刊直後、「名誉毀損」に名を借りた出版弾圧を食らった苦しい時期があった。今よりも格段に苦しかった。松岡は長く囚われ、事務所もなくなり、先行きが見えない中でもがいた。この時、刑事・民事双方で多くの皆さん方のサポートで裁判闘争を闘った。同時に『紙の爆弾』はじめ出版活動にも精を出した。決して諦めなかった。その甲斐あって復活することができた。藤井に「棺桶に片足を突っ込んだ爺さん」と揶揄された松岡も齢70となり、当時に比べるとエネルギーも弱くなっているが、最後の「老人力」を発揮し頑張る決意を固めている。人も会社も苦境にあってこそ、その真価が問われる。土壇場でクソ力を発揮するのが松岡の真骨頂だ。

鹿砦社を応援してくださる皆さんの期待に応えるために、そして不当な司法に真っ正面から対峙するために、これまで以上に激烈な魂を込めた「控訴理由書」が近く完成するだろう。裁判所の判断は二の次だ。私たちは真実を突きつけ、「正当な判断とはこういうものだ」と裁判所の姿勢を正す意味でも闘いを継続する道を選んだ。さらなるご支援を!

《関連過去記事カテゴリー》
 M君リンチ事件 http://www.rokusaisha.com/wp/?cat=62

15年前、東京地検の新特捜部長が深く関与した「東広島市の冤罪疑惑事件」 片岡健

河井克行議員夫妻の大型買収事件で現金を受領していた広島の地元議員35人が今年1月、検察審査会で「起訴相当」と議決されて以来、「起訴相当」とされた議員の辞職が相次いでいる。現在、東京地検特捜部が再捜査を行っているという。

そんな事件について、筆者が個人的に注目しているのが、捜査の指揮をとる東京地検特捜部の市川宏部長の動向だ。今年1月に就任したばかりの市川部長は、筆者が10年余り前から取材している「冤罪疑惑事件」に深く関わっているからだ。

◆冤罪疑惑事件で新特捜部長は捜査と公判を担当

その「冤罪疑惑事件」とは、当欄でも何度か紹介した東広島市の女性暴行死事件だ。

2007年に東広島市の短期賃貸アパートで会社員の女性が何者かに顔面や頭部を執拗に殴られ、亡くなっているのが見つかったこの事件では、女性の不倫トラブルの相談にのっていた探偵業の男性M氏が逮捕された。その逮捕の決め手は、現場のアパートの室内でM氏のDNA型が検出されたことだった。

しかし、M氏は逮捕後、現場アパートに事件当日に立ち入ったことを認めたうえ、「アパートに立ち入ったのは、女性に不倫トラブルの相手方との示談契約書の書き方を教えるためだった」と説明。この説明を否定する確たる証拠は存在せず、それ以外の有罪証拠もめぼしいものは皆無。M氏は懲役10年の判決が確定したが、一貫して冤罪を訴え続けていたこともあり、現在も地元では冤罪を疑う声は少なくない。

市川氏は当時広島地検に在籍しており、この事件の捜査と第一審の公判立会を担当した。1つの事件で捜査と公判の両方を同じ検事が担当することは珍しいから、仮にこの事件が本当に冤罪だった場合、市川氏の責任はその他多くの冤罪事件で検事が負うべき責任より重いと言える。

しかも、この事件には、きな臭い事情がある。それは、「M氏以外の真犯人」が存在する可能性を示す証拠がありながら、警察と検察が隠蔽した疑いがあることだ。

東京地検特捜部長就任に際し、力強い抱負を語った市川氏だが……(日テレNEWS1月17日)

◆真犯人の隠蔽疑惑も

当欄では既報の通り、広島県警はM氏を逮捕後もしばらく複数犯を前提に捜査を展開しており、「M氏の共犯者」と「M氏に車を貸した人物」を見つけるために大がかりな聞き込みを重ねていた。これはつまり、この事件が本当は複数犯であり、M氏が普段乗っていた車以外の車が事件に使われたことを示す有力な証拠が存在したということだ。

しかし、その「M氏以外の真犯人」が存在する可能性を示す証拠の存在は、M氏の裁判では一切隠されたままだったのだ。

この事件の捜査、公判を両方担当した市川氏がその裏事情を知らないはずはない。それはつまり、市川氏は重大事件で冤罪の疑いのある男性を犯人にするため、別の真犯人を隠蔽する不正に関与した疑いを抱かれても仕方がない立場だということだ。

東京地検特捜部の新部長が、かつて自分自身も不正を行った疑いのある広島の地を舞台にした大型汚職事件の再捜査でどんな指揮をとるのだろうか。何か気づく点や新しい情報があれば、今後も当欄で紹介したい。

【関連記事】
《殺人事件秘話10》冤罪・東広島女性暴行死事件 隠された「別の真犯人」の証拠(2018年1月8日配信)

▼片岡健(かたおか けん)
ノンフィクションライター。stand.fmの音声番組『私が会った死刑囚』に出演中。編著に電子書籍版『絶望の牢獄から無実を叫ぶ―冤罪死刑囚八人の書画集―』(鹿砦社)。

「絶望の牢獄から無実を叫ぶ[改訂版]―冤罪死刑囚八人の書画集―」(片岡健編/鹿砦社)
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