横浜副流煙事件の元被告夫妻が、日本禁煙学会・作田学理事長に対して1,000万円の損害賠償裁判を提起、訴権の濫用に対する「戦後処理」 黒薮哲哉

煙草の副流煙で「受動喫煙症」などに罹患したとして、隣人が隣人に対して約4,500万円を請求した横浜副流煙裁判の「戦後処理」が、新しい段階に入った。前訴で被告として法廷に立たされた藤井将登さんが、前訴は訴権の濫用にあたるとして、3月14日、日本禁煙学会の作田学理事長ら4人に対して約1,000万円の支払いを求める損害賠償裁判を起こしたのだ。前訴に対する「反訴」である。

 

原告には、将登さんのほかに妻の敦子さんも加わった。敦子さんは、前訴の被告ではないが、喫煙者の疑いをかけられた上に4年間にわたり裁判の対応を強いられた。それに対する請求である。請求額は、10,276,240円(将登さんが679万6,240円万円、敦子さんが330万円、その他、金員)。

被告は、作田理事長のほかに、前訴の原告3人(福田家の夫妻と娘、仮名)である。前訴で福田家の代理人を務めた2人の弁護士は、被告には含まれていない。

原告の敦子さんと代理人の古川健三弁護士、それに支援者らは14日の午後、横浜地裁を訪れ、訴状を提出した。「支援する会」の石岡淑道代表は、

「禁煙ファシズムに対するはじめての損害賠償裁判です。同じ過ちが繰り返されないように、司法の場で責任を追及したい」

と、話している。

◆医師法20条違反、無診察による診断書の交付

この事件は、本ウエブサイトでも取り上げてきたが、概要を説明しておこう。2017年11月、横浜市青葉区の団地に住む藤井将登さんは、横浜地裁から1通の訴状を受け取った。訴状の原告は、同じマンションの斜め上に住む福田家の3人だった。福田家が請求してきた項目は、次の2点だった。

(1)4,518万円の損害賠償

(2)自宅での喫煙の禁止

将登さんは喫煙者だったが喫煙量は、自宅で1日に2、3本の煙草を吸う程度だった。ヘビースモーカーではない。

喫煙場所は、防音構造になった「音楽室」で、煙が外部へ漏れる余地はなかった。空気中に混合した煙草は、空気清浄器のフィルターに吸収されていた。たとえ煙が外部へ漏れていても、風向きや福田家との距離・位置関係から考えて、人的被害を与えるようなものではなかった。(下写真参照)

 

福田家の主婦・美津子さんは、「藤井家の煙草の煙が臭い」と繰り返し地元の青葉警察署へ駆け込んだ。その結果、青葉署もしぶしぶ動かざるを得なくなり、2度にわたり藤井さん夫妻を取り調べた。しかし、将登さんがヘビースモーカーである痕跡はなにも出てこなかった。結局、この件では青葉署が藤井夫妻に繰り返し謝罪したのである。

が、それにもかかわらず福田家は裁判を押し進めた。この裁判を全面的に支援したのは、日本禁煙学会の作田学理事長(勤務先は、日本赤十字医療センター)だった。作田医師は、提訴の根拠になった3人の診断書を作成したうえに、繰り返し意見書などを提出した。判決の言い渡しにも姿をみせる熱の入れようだった。自宅での喫煙を禁止する裁判判例がほしかったのではないかと思われる。

 
黒薮哲哉『禁煙ファシズム-横浜副流煙事件の記録』

ところが審理の中でとんでもない事実が発覚する。まず、福田家の世帯主・原告の潔さんに、25年の喫煙歴があったことが発覚した。「受動喫煙症」に罹患しているという提訴の前提に疑義が生じたのである。また、潔さんの副流煙が妻子の体調不良の原因になった可能性も浮上した。

さらに作田医師が、真希さんの診断書を無診察で交付していたことが発覚したのだ。患者を診察しないで診断書や死亡証明書を交付する行為は医師法20条で禁止されている。これらの証書類を交付するためには、医師が直接患者に対面して、医学上の客観的な事実を確認する必要があるのだ。しかし、作田医師はそれを怠っていた。

福田家は、隣人に対して高額訴訟を起こしてみたものの、訴因となった事実に十分な根拠がないことが分かったのだ。当然、訴えは棄却された。控訴審でも福田家は敗訴して、2020年10月に前訴は終了した。

これら一連の経緯については、筆者の『禁煙ファシズム-横浜副流煙事件の記録』に詳しい。事件の発端から、勝訴までを詳細に記録している。

◆「ごめんなさい」ですむ問題なのか? 

その後、藤井さん夫妻は、2021年4月、数名の支援者と一緒に作田医師を虚偽公文書行使の疑いで青葉署へ刑事告発した。青葉署は告発を受理して捜査を開始した。そして2022年1月24日、作田医師を横浜地検へ書類送検した。現在、この刑事事件は横浜地検が取り調べを行っている。

このような一連の流れを受けて藤井さん夫妻は、福田家の3人と作田医師に対して約1000万円の損害賠償を求める裁判を起こしたのである。「支援する会」の石岡代表が言うように、この裁判は「禁煙ファシズム」に対するはじめての損害賠償裁判である。前例のない訴訟だ。

最大の争点になると見られるのは、福田家の娘・真希さんの診断書である。既に述べたように作田医師は、真希さんを診察せずに「受動喫煙症レベルⅣ」「化学物質過敏症」という病名を付した診断書を交付した。そして福田家は、この診断書などを根拠として、高額な金銭請求をしたのである。将登さんの喫煙禁止だけを求めていたのであればまだしも、事実ではないことを根拠に高額な金銭請求をしたのである。この点が最も問題なのだ。

訴因に十分な根拠がないことを福田家の弁護士や作田医師は、提訴前に認識していたのか?たとえ認識していなかったとしても、「ごめんなさい」ですむ問題なのか? これらのテーマが裁判の中でクローズアップされる可能性が高い。

◆訴権の濫用には「反訴」で

筆者は2008年から、高額訴訟を取材するようになった。その糸口となったのは、わたし自身が次々と高額訴訟のターゲットにされた体験があったからだ。2008年から1年半の間に、わたしは読売新聞社から「押し紙」報道に関連した3件の裁判を起こされた。請求額は、総計で約8000万円。読売の代理人は、喜田村洋一・自由人権協会代表理事だった。

最初の裁判は、1審から3審までわたしの完全勝訴だった。2件目の裁判は、1審と2審がわたしの勝訴で、3審で最高裁が口頭弁論を開き、判決を高裁へ差し戻した。そして高裁がわたしを敗訴させる判決を下した。3件目の裁判(被告は、黒薮と新潮社)は、1審から3審までわたしの敗訴だった。

3件の裁判が同時進行している時期、わたしは「押し紙」弁護士団の支援を受けて、読売による3件の裁判は「一連一体の言論弾圧」いう観点から、読売新聞に対して5500万円の支払いを求める損害賠償裁判を起こした。しかし、訴権の濫用の認定はハードルが高く敗訴した。喜田村洋一弁護士に対する懲戒請求も申し立てたが、これも棄却された。

筆者は訴権の濫用を食い止めるという意味で、不当裁判の「戦後処理」は極めて大事だと思う。とはいえ、訴権の濫用に対する「反訴」の壁は高い。日本では提訴権が憲法で保証されているからだ。米国のようなスラップ防止法は存在しない。

しかし、だからといって訴権の濫用を放置しておけば、自由闊達な言論の場が消えかねない。「反訴」したり、スラップ禁止法などの制定を求め続けない限り、言論の自由が消滅する危険性がある。

▼黒薮哲哉(くろやぶ・てつや)
ジャーナリスト。著書に、『「押し紙」という新聞のタブー』(宝島新書)、『ルポ 最後の公害、電磁波に苦しむ人々 携帯基地局の放射線』(花伝社)、『名医の追放-滋賀医科大病院事件の記録』(緑風出版)、他。
◎メディア黒書:http://www.kokusyo.jp/
◎twitter https://twitter.com/kuroyabu

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河井事件収賄側35人が「起訴相当」! 広島も日本も「大岡越前」的司法からの卒業を! さとうしゅういち

◆衆院選2021・安佐南補選直後の楽観ムード一転、絶体絶命のピンチへ 被疑者県議・市議

参院選2019広島で、河井案里さん(当選無効)と夫で当時は衆院議員だった克行受刑者が県内の地方議員や首長にお金を配ったとして有罪が確定した事件。お金(賄賂)をもらった側の被疑者100人については、東京地検特捜部は、買収の事実は認定しつつも、「一方的にお金を渡された」などの理由で「不起訴処分」としていました。

実際に買収は認定された以上、贈賄側だけでなく収賄側も罰せられなければ法のもとの平等に反します。

そして、被疑者となった「収賄側」議員のうち、とくに高給をもらっている広島県議と広島市議は「起訴相当議決」までは、だれひとり辞職しませんでした。「俺は不起訴だったから無罪放免だ」といわんばかりの態度をとっておれる議員もおられました。

しかし、こうした状況に納得できない市民が不起訴処分となった収賄側の人々について検察審査会に申し立てをこない、2022年1月28日までに、審査の結果が分かりました。

河井案里さん・克行受刑者から賄賂を受け取っていたにもかかわらず、辞職しなかった議員や辞職はしたが、首長として影響力が強いとみなされた方など35人が「起訴相当」とされました。また、辞職した議員ら46人が「不起訴不当」とされました。検察はただちに再捜査を開始しました。「不起訴不当」とされた元地方議員の一人は筆者に対して「あの時(河井夫妻逮捕の前の捜査)で話した以上のことはない。何を話せばいいのかとまどっている。」とおっしゃいました。

◆争わない人は略式起訴、争う構えの人は正式起訴へ

そして、3月3日までに35人の被疑者のうち、6人の地方議員が辞職。東京地検特捜部は35人のうち、「自分は案里さん・克行受刑者に買収された」と認識している人は「略式起訴」、認めずに争う構えの人については、正式な起訴を行う予定です。

衆院選2021広島3区では与党が圧勝。さらに案里さんが長年県議をつとめた地元の安佐南区の補欠選挙で、金権打破を訴える野党共闘候補が、自民党新人はもちろん克行受刑者の元秘書も下回る惨敗だったことから、統一地方選挙2023でも「俺は、私は大丈夫。どうせ、有権者は支持してくれる。」となめていたとしか思えない行動をとっておられる方が少なくありませんでした。

衆院選2021では、「河井さえ批判していれば大丈夫」と楽勝ムードだった野党が広島都市圏における野党の歴史上最悪の大敗を喫しました。しかし、今度は(ほとんどが自民党所属の)収賄県議・市議が絶体絶命のピンチに追い込まれました。

◆安倍晋三さんに忖度、収賄県議・市議とは「司法取引」?

そもそも、参院選2019では、当時の総理の安倍晋三さんが、自民党現職の溝手顕正さんの大昔の発言をうらんでいたこともあって、河井案里さんを地元の自民党組織の反対・懸念を押し切って強引に擁立した経緯があります。安倍晋三さんの秘書も多数広島に入られました。1億5千万円が案里さん陣営に振り込まれたことについても、総裁の安倍さんが何も知らなかったはずはありません。克行受刑者から「安倍さんから」と言われて30万円を渡された筆者の知人の議員(辞職済み)もおられます。本来であれば、安倍晋三さんについても、買収資金を提供した疑い(これも公選法では犯罪です)で捜査してしかるべきです。しかし、東京地検特捜部は、それはしなかったのです。

東京地検特捜部は、案里さん、克行受刑者のみを立件し、「川上」の安倍晋三さんは捜査せず、「川下」の収賄県議・市議らには温情をかけたのです。公選法事件では認められていない「司法取引」をしたと言われても仕方がない客観的な状況があります。

◆逆説的だが収賄議員は徹底的に法廷で戦うべき

参院選2019広島に立候補した皆様

被疑者の県議・市議のみなさまに申し上げたい。こうなったら、中途半端な情状酌量期待の辞職をすべきではない。あるいは、中途半端な略式起訴など甘んじて受け入れるべきではない。むしろ、正式な裁判で判決が確定するその日まで、職にとどまりながら、徹底的に戦っていいただきたいと思うのです。あらいざらい、全てをしゃべる。そのことで、自民党政治の暗部も、そして検察の問題点も明らかになるからです。

筆者は、収賄県議・市議のみなさんに対しては、これまでは、潔く腹を切られたらどうか?と勧めてきました。これには理由があります。筆者自身、それなりに、事件発覚前の収賄広島市議の皆様とはお付き合いがありました。

西日本大水害2018のボランティア活動中、熱中症でぶっ倒れた筆者を手厚く事務所で救護してくださった市議。

気候変動問題などで、筆者の陳情を受けて熱心に動いてくださった議員もおられます。もちろん、過去の選挙で筆者が一定の得票をしてきたことも背景にあるのでしょうが、真面目に動いてくださったことには感謝しています。だからこそ、醜態はさらしていただきたくなかった。ちなみに筆者が男女共同参画分野で師匠とあおいできた女性地方議員は案里さん逮捕直後の2020年6月にお辞めになっています。

しかし、あなたがたが、検察審査会が「起訴相当」を出すまで居座られた以上は、信念をもってたたかうべきだとおもいます。さもなければ、単に給料ほしさに居座っていただけ、とみなさざるをえません。こういう状況であわてて情状酌量期待の辞職や、略式起訴など甘んじて受け入れるなど、情けないでしょう。

◆検察の裁量狭めるためにも国会議員による地方議員へのカネ配りは明文で禁止を

実は、国会議員が地方議員にカネをくばることは、政治資金規正法にもとづいて「寄附」として届ければ現状では合法なとされてしまいます。ですから、過去にも公然と国会議員が地方議員にカネを配るようなことは、自民党京都府連でも行われていたし、野党でも散見されます。河井案里さん・克行受刑者夫妻の場合は届出をきちんとしなかったことがやましいカネだという傍証になり、検察の立件を後押しした面はあります。

しかし、根本的には明文で禁止すべきでしょう。検察の裁量が広くなる現状は改めるべきです。

そもそも、地方議員が国会議員、特に与党議員からお金をもらったら、国にガツンと物申すことができなくなります。広島の場合なら、県や市は核兵器禁止条約推進であり、中央政府は反対です。「黒い雨」被爆者救済であれば、県や市は、住民のために国に対しては自ら受け入れた高裁判決を遵守して全ての被爆者の救済を求めるべき立場です。他方で国は疾病のある被爆者のみ救済、しかも長崎は除外で被爆者の分断をはかっています。

このように、国と自治体では利害の対立があるわけです。自治体議員たるもの、国会議員からカネをもらっては住民のための仕事ができるのでしょうか?

筆者は参院選広島再選挙2021でも、この観点から国会議員のカネ配り明文禁止を訴えています。これに対して当選した立憲民主党議員はこの問題についての態度を曖昧にしておられました。単に自民党を攻撃するために河井事件を利用するように有権者に映ってしまったことが、衆院選2021や県議補選における広島の野党惨敗の一因になったようにも思えます。

◆日本の司法をめぐる文化は時代劇「大岡越前」の世界から進歩なし!

日本の司法をめぐる文化は時代劇「大岡越前」や「遠山の金さん」からほとんど進歩がないと、今回の河井事件でも痛感しました。

第一に警察・検察に逮捕されたり、捜査の対象になったりしただけで悪人という固定観念を国民もマスコミももってしまいます。その背景には検察が起訴したらほとんど有罪という実態があります。検察官と裁判官を「お奉行」が兼務していた大岡越前や遠山の金さんとほとんど変わっていないのです。

そして、検察の判断で起訴するかどうか決める起訴便宜主義も問題です。

これらの結果、以下のようなことが起きています。

1.温情で不起訴にしつつ、自発的な「切腹」を期待するケース
2.相手が大物で忖度して手を出さないケース
3.いわゆる検察ファシズムの疑いのあるケース

1.は、真相をうやむやにする結果を招きます。今回の河井事件における収賄県議・市議についていえます。ただし、収賄県議・市議が、自発的な「切腹」をせず、検察審査会も起訴相当議決を出したためにこの構図は崩れつつあります。

2.については、安倍晋三・昭恵さんについていえるでしょう。数多くの犯罪の疑いが指摘され、告発もされているが、検察は本人をまともに捜査していません。

3.については、戦前の帝人疑獄と1940年代末のいわゆる昭電疑獄があげられます。いずれも検察によるフレームアップとされています。帝人疑獄では、当時のリベラルな政治家がイメージダウンし、極右政治家の平沼騏一郎の影響が強い検察が軍部暴走を後押しした形になりました。昭電疑獄では、当時の日本社会党中心の政権の多くの閣僚が逮捕されてイメージダウンし、日本の左派・リベラルが後退したといえます。そのことが、現在まで永続する自民党による事実上の一党独裁体制の背景になりました。

◆河井事件収賄者35人「起訴相当」契機に広島・日本もイスラエルを見習い、文化を変えよう

諸外国ではどうでしょうか? 日本と同様の西側で、日本と同じF15戦闘機を採用していることでも有名なイスラエルについて見てみましょう。イスラエル検察は、当時の総理のベンヤミン・ネタニヤフ被告を起訴しています。詳しい説明は省きますが、ネタニヤフ被告夫妻は安倍晋三さん・昭恵夫妻とほぼおなじような国政の私物化をしました。妻のサラ・ネタニヤフ元被告は罰金刑が確定しています。ベンヤミン・ネタニヤフ被告自身は総理の職にとどまりながら、裁判をたたかいました。結局、判決が確定する前に、ネタニヤフ被告は選挙で野党共闘に打倒されましたが、起訴されたから辞任ということはしませんでした。

検察は、大物でも忖度せずに起訴する。いっぽうで、国民やマスコミは「推定無罪」にもとづき、被告人も職にはとどまることを許すのがイスラエルの文化なのです。

これからは、日本でも検察は、大物でも容赦なく起訴していくべきです。セットでいわゆる過剰な身柄拘束をともなう人質司法もやめるべきです。もちろん、ゴーン被告のような逃亡事件を防ぐ策を充実させつつです。いっぽうで、国民・マスコミは被疑者・被告人は推定無罪とみなす文化を同時並行でつくっていくべきです。そうしないと、いわゆる検察ファシズムになってしまうからです。

上記のような改革は、自民党の長期政権下ではなかなか難しいものはあります。しかし、今回のように、検察審査会を活用しつつ、被疑者・被告人の人権に配慮する文化を国民自らがつくっていくことは可能です。

河井事件の収賄県議・市議「起訴相当」を契機に広島も日本も「大岡越前」的司法文化から卒業しようではありませんか?

そのためにも、くどいようですが、被疑者の県議・市議のみなさんには、中途半端に情状酌量期待の辞職はせずに、最後まで検察とたたかっていただきたいのです。そうでないと、これまで職にとどまったのは、「有罪がわかりきっているのに単なる給料ねらいで職にとどまっただけではないか?」と思われるだけです。その想いは何人かの被疑者となった広島市議・県議にはお伝えしており、闘う決意である、とのご返答をいただいています。

【追記】広島地検は3月14日一転して、河井克行元法務大臣から現金を受け取った公選法違反の罪で広島県議ら34人を起訴した。


◎[参考動画]【速報】「起訴相当」の広島県議ら34人を起訴 河井元法務大臣の参院選買収事件(ANN 2022年3月14日)

▼さとうしゅういち(佐藤周一)
元県庁マン/介護福祉士/参院選再選挙立候補者。1975年、広島県福山市生まれ、東京育ち。東京大学経済学部卒業後、2000年広島県入庁。介護や福祉、男女共同参画などの行政を担当。2011年、あの河井案里さんと県議選で対決するために退職。現在は広島市内で介護福祉士として勤務。2021年、案里さんの当選無効に伴う再選挙に立候補、6人中3位(20848票)。広島市男女共同参画審議会委員(2011-13)、広島介護福祉労働組合役員(現職)、片目失明者友の会参与。
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第三次世界大戦の危機 プーチンは大丈夫か? 横山茂彦

第三次世界大戦の危機が迫っている。

ロシアに詳しい軍事評論家の小泉悠(東大先端科学技術研究センター講師)によると、ロシアには戦術核兵器の先制使用によるデモンストレーション戦略があるという。ようするに、紛争や外交交渉が停滞したときに、戦術核の先制使用で局面を打開するというものだ。

具体的には、戦術核ミサイルを人口の少ない場所に打ち込み、核の脅威を紛争相手・交渉相手に思い知らせることで、局面を打開する。バクチのような戦略である。
今回のウクライナ侵攻の停滞は、まさに戦術核使用の局面に至ろうとしているのではないかと、小泉は指摘している(報道番組での発言)。

そしてその戦術核の使用が、NATO諸国との偶発的な交戦に発展する可能性が指摘される。戦術核といっても、広島型の数百倍の威力を持っているのだ。

そうであれば、第三次世界大戦の偶発的な勃発が目前にせまっていることになる。世界大戦の戦場はヨーロッパである。

二次にわたる世界大戦ばかりではない。中世以来のバラ戦争、ナポレオン戦争と、世界的な戦争は、ヨーロッパの帰趨をかけたものとして行なわれてきた。ヨーロッパこそ人類の価値観と近代文明の源泉であるからだ。超大国アメリカといえども、近代的な民主主義の価値観と民族的な淵源をヨーロッパに持っているからこそ、NATOという軍事共同体の根っこをこの地に置いているのだ。

逆に中東やイスラム圏の紛争(ソ連のアフガン侵犯・アメリカのイラク戦争)は、それがいかに苛烈であっても世界的なものにはならなかった。そこにわれわれは、ヨーロッパ中心史観・イスラムに対する潜在的な蔑視。あるいは辺境観が、われわれの中にあるのを思い知るわけだが、それはまた別個の問題として、いまは世界大戦の危機に警鐘を鳴らさなければならない。

◆ヒトラーを思わせるプーチンの「嘘」

プーチンはロシア国内で、ロシア軍について誤った報道をした者に懲役15年の罰則をともなう治安法を成立させた。これによって、欧米諸国のロシア現地報道陣は取材活動を停止した。わずかに市民のSNSによって、ロシアの反戦運動が伝わるのみとなった。

ウクライナ現地の事実関係も、これによって「藪の中」になりそうな気配だ。原発施設への攻撃(ロシアはウクライナの謀略と主張)、ロシア兵の死者数、政府系機関による政権支持率70%、人道回廊の封鎖をめぐるウクライナとの見解の対立など、事実関係をめぐる虚偽の疑いが大きくなっている。

アドルフ・ヒトラーの『マイン・カンプ』における明言を想起しておこう。

「政府や指導者にとって、嘘は大きければ大きいほどいい」
「大衆の心は原始的なまでにシンプルなので、小さな嘘よりも大きな嘘の餌食になりやすい」
「大衆はドラマチックな嘘には簡単に乗せられてしまうものだ」

まさにプーチンは、ヒトラーの教訓を踏襲しようとしているかのようだ。そのプーチンはクレムリン宮殿の地下にある軍事作戦本部に入りびたり、将軍たちに「何が起きている?」と落ち着かない日々を送っているという(米ABC放送)。プーチンも事実確認に汲々としているのだ。ネットをふくめた事実関係の取材・報道こそわれわれの責務であろう。

◆NATOの偶発的な介入も

いっぽう、ウクライナのゼレンスキー大統領は、NATOに軍事支援を要求している。ウクライナ上空の「飛行禁止空域」化が実施されると、これまたロシア軍とNATO軍の交戦。第三次世界大戦の引き金となる。

いまのところNATOはウクライナの要求を拒否しているが、戦闘機をふくむ兵器・軍事物資の援助はスウェーデン・フィンランドなど、各国で積極的に検討されている。

この場合も、NATO諸国の軍事基地・飛行場から飛び立った戦闘機がウクライナ上空でロシア軍機と交戦する可能性が高い。これもNATO軍が偶発的に紛争に介入することになり、プーチンはすでに警告を口にしている。

プーチンもゼレンスキーも、すでにあとには引けなくなっている。プーチンが敗北すれば政治的失墜はまぬがれず、ゼレンスキーが白旗を上げるのはウクライナにロシアの傀儡政権をもたらすであろう。

戦争は発動されたら、もう引けないのである。かつてユーゴ内戦が、国土を廃墟にして、隣人の殺し合い(民族排除と浄化)のはてに終焉したことをわれわれは現認してきた。おそらくロシア兵の累々たる死体とウクライナの主要都市の壊滅後に、フランスや中国の仲介で和平会議が訪れるであろう。けれども、世界はそこから何を教訓としてみちびき、ふたたびの騒乱を回避しうるのか。

アメリカによるアフガン出兵とイラク侵攻は、テロとの戦いや大量殺戮兵器という大義名分によって、世界は戦争が発動されるのを傍観した。

しかし第三次世界大戦の危機に、われわれはアメリカが傍観するのを目撃することになった。これもまた、世界の警察官が無力だったことを証明することになったのである。


小泉悠・東京大学特任助教「プーチンのロシア」(2)(日本記者クラブ 2020年3月9日)

▼横山茂彦(よこやま・しげひこ)
編集者・著述業・歴史研究家。歴史関連の著書・共著に『合戦場の女たち』(情況新書)『軍師・官兵衛に学ぶ経営学』(宝島文庫)『闇の後醍醐銭』(叢文社)『真田丸のナゾ』(サイゾー)『日本史の新常識』(文春新書)『天皇125代全史』(スタンダーズ)『世にも奇妙な日本史』(宙出版)など。

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ムエタイの基本技、忘れて欲しくないヒジ打ちの存在 堀田春樹

◆ヒジ打ちの名手

過去、国内でヒジ打ち一発で勝負が付いた試合はどれぐらい存在するだろうか。あっけなく勝負が付く半面、感動的なフィニッシュも多く存在しました。

現在のキックボクシング界において、団体によってルールは微妙に異なるところは有りつつ、ヒジ打ち有効の団体と禁止されている団体等、または各々の試合毎に異なる場合もあります。

平成以降のK-1等のテレビ全国放送でヒジ打ち禁止の試合を放送されてから、多くの一般視聴者はヒジ打ちの認識が薄いという傾向が強くなっているかもしれません。

昭和40年代のキックボクシングブームで、沢村忠さんが主役の漫画「キックの鬼」主題歌でも「ヒジ打ちかわして」といった歌詞が含まれているほど創生期から間違いなく存在する技で、ヒジ打ちの名手・飛馬拳二さんの得意技としての存在感もありました。

低迷期を脱し安定期に入った昭和60年代のMA日本キックボクシング連盟では3回戦(新人戦)はヒジ打ち禁止。5回戦(ランカークラス)ではヒジ打ち有効としたルールが定着。後に復興した全日本キックボクシング連盟でも同様に、その後、新団体が設立されても、それまでに定着したルールを基に改訂されながら活動が続けられてきました。

サーティットvs伊達秀騎。ヒジ打ちで危なっかしい交錯を味わった伊達秀騎(1994年10月18日)
ヒジ打ちをしっかり学んだソムチャーイ高津(1991年頃)

◆ヒジ打ちのステータス

「早く5回戦に上がってヒジ打ち使いたかった」という選手も大勢居た時代は、「キックボクシングはヒジ打ち有りだよ」と教えられてきた昭和から平成初期世代で、ヒジ打ち禁止ルールはキックボクシングの存在意義が分からないという当時の選手も居ます。

ヒジ打ちは頭蓋骨陥没など危険が伴う過激な技であることは事実ながら、ムエタイから倣った基本的な技として、顔面を切る(皮膚を裂く)場合は負傷による試合続行不可能に追い込む手段となります。パンチで切れても同様の処置となり、偶発的なものでなく鮮やかに狙ったヒジ打ちで負傷TKOすることが警戒される存在感としたステータスとなっていくのでしょう。

ヒジ打ちは「しっかりガツンと当たらないと切れないので、パンチで言えば一発KO狙うくらいの勢いが必要」と経験者は言います。

パンチ同様に効かせて倒す(脳震盪起こす)ヒジ打ちは、至近距離でのアゴ狙いや側頭部へ狙い撃ちしてノックアウトに結び付ける選手も多く居ました。

1990年代にタイの地方へ遠征したソムチャーイ高津(格闘群雄伝No.7)は劣勢だった試合をヒジ打ちをヒットさせて形勢逆転させ、相手はかなり流血して2度のドクターチェックがあってもレフェリーは試合を止めず、地元選手を負けさせないが為の強引に行かせるパターンもあるのが昔の田舎ムエタイでもありました。

武田幸三を苦しめた北沢勝のしぶとさとヒジ打ち(2000年1月23日)

また、レフェリーの偏った判断でなくても、歯が頬を突き抜いていても続行した例もあり、視界がはっきり見えているかで判断する場合もあると聞いたこともあります。

切られたら瞬時に切り返す。そんな強引なタイのファイター型も居た昔の選手。ヒジで切られた瞬間、レフェリーに割って入られる前に、反射的にすかさずヒジ打ちで切り返す。それが成功しなくてもやるだけやってみる。執念で試合続行不可能道連れに持ち込む手段も見られた本場ムエタイです。

◆ヒジ打ち禁止の影響

日本においては負けている展開で、逆転狙いのヒジ打ちは最大限に重要視される打撃で、禁止されると困惑するという選手の意見も聞きます。

ヒジ打ち容認団体でも試合によってはヒジ打ち禁止ルールが用いられる場合もあります。ムエタイテクニシャンとの対戦ではヒジ打ち禁止ルールにすることで、形式上は公平さを保ちながら実質的ハンディキャップとしてしまう場合が暗躍します。

ヒジ打ちには拘っていなくても、しっかり習得しているオールラウンドプレーヤーでは、「距離感とかタイミングはヒジ打ちの代用としてヒザ蹴り、アッパー、左右フックなどあるので、特に問題無いです」と、意外にもヒジ打ちだけが禁止なら、あまり違和感は無いと言う選手も多く、「首相撲の規制や蹴り足を掴む行為の禁止、3回戦制の方が不利に傾く影響が大きい」という別の見方も浮上します。

K-1はヒジ打ちが無い分、高度なパンチとコンビネーション、テーンカオ(離れた距離からの突き刺すヒザ蹴り)を持った選手が増えたことはこのルール上の進化なのでしょう。

最近の画像から、大翔の縦ヒジ打ちが眞斗の眉間を切り裂く直前(2021年8月22日)

◆今後の方向性

ヒジ打ちであっけなく試合が止められるシーンは、テレビでは視聴者に伝わり難いものです。

更に「流血における過激なシーンはテレビ番組にはそぐわない」といった話を5年ぐらい前に聞いたことありますが、そう言えば昔のプロレスで“血だるま”という表現された大流血シーンは全く見なくなった気がします。

テレビ放映の在り方は昭和時代から大きく変わってきましたが、多くのスポーツ競技、エンターティメント番組、ドラマでも表れている過激さ制限の時代でしょう。

海外においても文化・風習によってヒジ打ちルールは有りと無しに分かれ、今後も共存していくと考えられますが、ムエタイと元祖キックボクシングは基本ルールから崩れないよう進化していって欲しいものです。

馬渡亮太vs大田一航。ムエタイスタイルの馬渡亮太もヒジ打ちを多用する選手(2021年8月22日)

▼堀田春樹(ほった・はるき)[撮影・文]
フリーランスとしてキックボクシングの取材歴32年。「ナイタイ」「夕刊フジ」「実話ナックルズ」などにキックのレポートを展開。ムエタイにのめり込むあまりタイ仏門に出家。座右の銘は「頑張るけど無理しない」

タブーなきラディカルスキャンダルマガジン『紙の爆弾』2022年4月号!

子どもたちの犠牲だけは本当に耐えられない ── 水戸喜世子さんに聞いた「子ども脱被ばく裁判」「311子ども甲状腺がん裁判」の争点と課題 尾崎美代子

3月7日、久しぶりに高槻市の水戸喜世子さんのご自宅にお邪魔した。2月14日、仙台高裁で2回目の期日が開かれた「子ども脱被ばく裁判」の控訴審と、1月27日、3・11の原発事故の被ばくにより甲状腺がんを発症した6人の若者が東電を訴えた「311子ども甲状腺がん裁判」について、お話を伺ってきた。 (聞き手・構成=尾崎美代子)

 
水戸喜世子(みと・きよこ)さん 子ども脱被ばく裁判の会・共同代表。1935年名古屋市生まれ。お茶の水女子大学、東京理科大学で学ぶ。反原発運動の黎明期を切り開いた原子核物理学者・故水戸巌氏と1960年に結婚後、京大基礎物理研究所の文部教官助手就任。1969年「救援連絡センター」の設立に巌氏とともに尽力。2008年から2年間中国江蘇省建東学院の外籍日本語教授。2011年3月11日以降は積極的に脱原発・反原発運動にかかわる

◆「子ども脱被ばく裁判」5つの争点

水戸 2月14日の2回目の期日は、私は体調が悪くて行けませんでしたが、井戸謙一弁護士から頂いた期日報告に沿っておおまかに説明します。

1つ目は、国の意見の中に「1ミリシーベルトの被ばくをしない利益が法的保護に値しない」というのがあります。この1ミリシーベルト被ばくしても当たり前という国の言い分に対して弁護団は、1ミリシーベルトがどれだけ危険かと準備書面で反論しました。ICRP(国際放射線防護委員会)は、100ミリシーベルト以上浴びると癌で死ぬ確率が0.5%高まると主張しているので、それに基づいて計算すると1ミリシーベルト浴びると年間350人が死ぬことになる。

一方、日本の環境基本法は、大雑把に言って生涯それを飲み続けた場合に、10万人に1人がん死するようなものを「毒物」と規定しています。東京の豊洲市場の地下水が汚染され、ベンゼンが検出されたが、それをずっと飲み続けると10万人に1人以上が亡くなるということで大騒ぎになった。一方で1ミリシーベルト被ばくすると、10万人中350人の死者が出るという環境を放置していいというのが「法的保護に値しない」という内容で大嘘ですね。

2つ目は、「裁量論」についてです。判決では、安定ヨウ素剤を飲ませなかったのも、スピーディーを公開しなかったのも、授業再開も行政の裁量権の範囲内であるというものでした。つまり、法律で決められていることもあるが、決められてないこともある。放射線に関しては事故を想定してないから、決められてないことのほうが多い、そのときは、行政の裁量権に任すしかないというわけです。

── ヨウ素剤を飲ませる、飲ませないも、各自治体、現場の判断に任せると。

水戸 そう。でもそれは違うでしょう。命に関わる重要なことを行政が勝手に決めていい訳がないというのが、弁護団の言い分です。法の取り決めがない場合、では何を根拠にするかというと、1つは憲法、もう1つは国際法です。 それを準備書面の[5]で提出しましたが、未完成だったので、次回に改めて提出します。

── 国は、控訴人らによる「被災者の知る権利」の主張に対し、反論を拒否したとありますが、反論を拒否するとは?

水戸 「あなたたちは独特の理論を主張しているから、勝手にやってください」という態度だと、井戸弁護士は仰ってました。この裁判は、前に話したように、放射線についての国内法が整備されていないのですから国際人権とか憲法とか、もっと大きな土台の上でやっています。放射線に対する規制がないからなのです。環境基本法にもやっとこの間、放射線の項目をとりこむことはできたが「教室なら、この線量以下で」とかの基準とすべき具体的な数字は、今も一切出ていません。いかに安全神話のうえにあぐらをかいていたかということですよね。

「子ども脱被ばく裁判」裁判前集会(武藤心平さん撮影)

── 3つ目の、控訴人が「国賠訴訟」を追加したというのは?

水戸 子ども人権裁判は義務教育を受けている子どもが原告になって訴訟をおこしたが、もう中学生が4人しかいなくなった。それで裁判が自動消滅したら困るので追加訴訟を加えました。安全なところで義務教育を受けられなかったので損害賠償をしろと。でも、福島市、郡山市、いわき市は、裁判の途中で新たに追加するのは「違法だ」と異議を申し立ててきた。裁判長もちょっと首をかしげてます。次回却下されるかもしれないが、さらにしっかりと反論していくことになります。

4つ目が、危険な環境の施設で教育をしてはいけないという原告の要求に対して裁判長から、地方自治体の学校指定処分とどのような関係になるのか、子どもがいれば学校を作るという規則がある、でも今の学校では線量が高いから教育を行ってはいけないということの関係性はどうなるのですかと聞かれ、次回弁護団から説明することになりました。一時的に線量の低い地域に避難して教育を継続出来るのですから矛盾することではありません。安全な環境で教育をうける権利という教育基本法を根拠に反論していくでしょう。

5つ目は、原告の意見陳述で、Aさんが、無用な被ばくをさせられてしまったため、子どもに何か体調が悪いことがあると、被ばくと結び付けて考えてしまうという苦しさについて述べられました。

「子ども脱被ばく裁判」街頭で訴える(武藤心平さん撮影)

◆「311子ども甲状腺がん裁判」甲状腺がん発症者6人による生身の訴え

 
「311子ども甲状腺がん裁判」報告集会の様子

── 先日、東電を提訴した6人の訴訟ですが、弁護団は子ども裁判とほぼ一緒だそうですが?

水戸 ええ、私たちは無用な被ばくをさせられたこと、安全な環境で教育を受ける権利を争っていますが、6人の訴えは生身の訴えですものね。一見理念的にみえた子ども脱被ばく裁判が突如リアリティを伴って立ち現れた思いがして衝撃でした。6人は実際に甲状腺がんを発症し、全員が2回から4回の手術を受けている。経緯は子ども裁判の主張と完全に一致するので、脱被ばく子ども裁判弁護団は全員入り、ほかに海渡弁護士なども加わり、弁護団がつくられています。17歳から27歳までの若者が自分の人生をかけて法廷に立つのですから、何としても勝利したいと思います。

── 提訴後の報告会に私も出席しました。皆さん、10年間孤立していた。先日、井戸弁護士と河合弁護士が出席した日本外国特派員協会の記者会見で、6人の方々は河合弁護士のところに相談にきたと仰ってましたが。

水戸 崎山比早子さんが代表で河合弁護士に関わっておられる「3・11 甲状腺がん子ども基金」などでも繋がる機会はあったんでしょう。福島県立医大は嫌だからと避難先の病院で見てもらっている人もいるし、患者さんは孤立していて、繋がるのは本当に困難だったと思います。その意味でも氷山の一角ですね。「黒い雨裁判」の原告を足を棒にしてつないで歩いた高東征二さんのご苦労から学ばねばと思います。

── 今後、子ども裁判と6人の裁判はどのように闘われるでしょうか。

水戸 全く別の裁判として展開されるのは当然ですが、私は、子ども裁判には、絶対「黒い雨裁判」の成果を取り込まないと勝てないと思っていて、子ども裁判の通信に書かせて頂きました。まだ弁護団のなかで話しあわれてはいませんが。

「黒い雨裁判」の一番のポイントは、黒い雨には明らかに放射能が含まれていて、降った地域の野菜を食べたり、空気を吸って内部被ばくしたことを認めたこと。広島県がとても偉いと思うのは、アンケート調査を何度もやり、降雨地域で病気になった人が非常に多いという事実をつかんだこと。これは外部被ばくだけでは全く説明がつかない。だから残留放射線を浴びた人、食べ物や空気から放射線を吸った人が内部被ばくしたということを、広島地裁も高裁も認めたわけです。地裁は、国の決めた11の疾病にり患していることを根拠にしたが、高裁は、内部被ばくは晩発性だから、今そういう病気がでていなくても、いつでてくるかわからないから、黒い雨を浴びた人全員被ばく者と認定した。そうしないと、一般のがん患者と放射線によるがん患者の区別は今の医学では因果関係を証明できないと思います。本質の到達出来ない時には、現象から迫るのは科学の手法であると、武谷三男の三段論法論で説かれていますけどね。

6人の裁判は「311甲状腺がん子どもネットワーク」が中心に支援していますが、私たちの子ども裁判も実質的に支援していきます。6億円超の損害賠償を求めていますから、訴状の印紙代だけでも大変な額になります。裁判をおこすということは本当に大変。でも一人1億円なんて、若い人の一生涯のことを考えると、小さな額だと思いますよ。 とくに親はどんなに辛いかと思いますよね。私たちの力不足を若者たちにお詫びしたいです。今回のウクライナもそうですが、私は、大人の愚かさのために、無邪気な子どもたちが犠牲になることだけは本当に耐えられません。

▼尾崎美代子(おざき みよこ)
新潟県出身。大学時代に日雇い労働者の町・山谷に支援で関わる。80年代末より大阪に移り住み、釜ケ崎に関わる。フリースペースを兼ねた居酒屋「集い処はな」を経営。3・11後仲間と福島県飯舘村の支援や被ばく労働問題を考える講演会などを「西成青い空カンパ」として主催。自身は福島に通い、福島の実態を訴え続けている。
◎著者ツイッター(はなままさん)https://twitter.com/hanamama58

〈原発なき社会〉を求めて集う 不屈の脱原発季刊誌 『季節』2022年春号(『NO NUKES voice』改題 通巻31号)3月11日発売開始

〈原発なき社会〉を求めて集う 不屈の脱原発季刊誌
季節 2022年春号
『NO NUKES voice』改題 通巻31号
紙の爆弾2022年4月増刊

2022年3月11日発売
A5判 132頁(巻頭カラー4頁+本文128頁)
定価 770円(本体700円+税)

事故はいまも続いている
福島第一原発・現場の真実

《グラビア》福島第一原発現地取材(写真・文=おしどりマコ&ケン
《グラビア》希釈されない疑念の渦 それでも海に流すのか?(写真・文=鈴木博喜

小出裕章(元京都大学原子炉実験所助教)
原子力は即刻廃絶すべきもの

樋口英明(元裁判官)
原発問題はエネルギー問題なのか

中村敦夫(俳優/作家)
表現者は歩き続ける

井戸謙一(弁護士)
被ばく問題の重要性

《インタビュー》片山夏子(東京新聞福島特別支局長)
人を追い続けたい、声を聞き続けたい
[聞き手・構成=尾崎美代子]

おしどりマコ(漫才師/記者)
事故はいまも続いている
福島第一原発・現場の真実

和田央子(放射能ゴミ焼却を考えるふくしま連絡会)
犠牲のシステム 数兆円の除染ビジネスと搾取される労働者

森松明希子(東日本大震災避難者の会 Thanks & Dream〈サンドリ〉代表)
「いつまで避難者といってるのか?」という人に問いかけたい
「あなたは避難者になれますか?」と

鈴木博喜(『民の声新聞』発行人)
沈黙と叫び 汚染水海洋放出と漁師たち

伊達信夫(原発事故広域避難者団体役員)
《徹底検証》「東電原発事故避難」これまでと現在〈最終回〉
語られなかったものは何か

《講演》広瀬 隆(作家)
地球温暖化説は根拠のないデマである〈前編〉

山崎久隆(たんぽぽ舎共同代表)
原発は「気候変動」の解決策にはならない

細谷修平(メディア研究者)
《新連載》シュウくんの反核・反戦映画日誌〈1〉
真の暴力を行使するとき――『人魚伝説』を観る

三上 治(「経産省前テントひろば」スタッフ)
機を見るに敏なんて美徳でも何でもない

板坂 剛(作家/舞踏家)
大村紀行──キリシタン弾圧・原爆の惨禍 そして原発への複雑な思い!
 
佐藤雅彦(ジャーナリスト/翻訳家)
“騙(かた)り”の国から“語り部(かたりべ)”の国へ
絶望を希望に転じるために いまこそ疑似「民主国」ニッポンの主客転換を!

山田悦子(甲山事件冤罪被害者)
山田悦子の語る世界〈15〉
森友学園国有地売却公文書 改ざん国賠・『認諾』への考察

再稼働阻止全国ネットワーク
国政選挙で原発を重要争点に押し上げよう
7月参議院選挙で「老朽原発阻止」を野党共通公約へ
《全国》柳田 真(とめよう!東海第二原発首都圏連絡会世話人)
《全国》石鍋 誠(再稼働阻止全国ネットワーク事務局)
《六ヶ所》中道雅史(「4・9反核燃の日」全国集会実行委員会)
《東海第二》野口 修(東海第二原発の再稼働を止める会)
《反原発自治体》反原発自治体議員・市民連盟
《東海第2》披田信一郎(東海第2原発の再稼働を止める会)
《東京》佐々木敏彦(東電本店合同抗議行動実行委員会)
《志賀原発》藤岡彰弘(「命のネットワーク」)
《関西電力》木原壯林(老朽原発うごかすな!実行委員会)
《島根原発》芦原康江(さよなら島根原発ネットワーク)
《伊方原発》秦 左子(伊方から原発をなくす会)
《規制委・経産省》木村雅英(再稼働阻止全国ネットワーク/経産省前テントひろば)
《読書案内》天野恵一(再稼動阻止全国ネットワーク事務局)

《反原発川柳》乱鬼龍

季節編集委員会
我々はなぜ『季節』へ誌名を変更したのか

私たちは唯一の脱原発情報誌『季節』を応援しています!

『季節』2022年春号(『NO NUKES voice』改題 通巻31号)発行にあたって 原発の危険性を再認識させられたロシアによるウクライナ侵略 季節編集委員会

日本では2011年3月11日にまだ生まれていなかった子どもたちが既に小学校に通っています。同時に大地震の頻発、原発事故からCOVID-19(新型コロナウイルス)のパンデミック、そして20世紀に最大限懸念された「核」戦争の危機に、今日全人類は直面しています。

 
『季節』2022年春号(『NO NUKES voice』改題 通巻31号)3月11日発売開始

ロシアのウクライナ侵略へ、国際社会が強い非難を浴びせていますが、日本国内では「こんなことになるから核武装をしなければならない」、「憲法9条で国は守れない」、「米国と核兵器をシェアーしよう」などと、火事場泥棒的な猛烈に無茶苦茶極まる発言が元総理安倍晋三や維新の松井一郎代表などから聞かれます。

私たちはこれらの暴論を「ふざけるな」と踏みつぶします。今次のロシアによるウクライナ侵略は、細部にデリケートな要因があるにせよ、間違いなく暴挙です。そしてロシアが侵略後、いち早く「原子力発電危機の象徴」である「チェルノブイリ原発」を支配したのは、「原発」が持つ危険性と、国際紛争にあっては「兵器」として機能する危険な存在であることを示した、と理解すべきではないでしょうか。

このような侵略行為が始まれば「核による抑止力」などは一切通用せず、「原発」が核兵器同様に扱われることが、侵略者ロシアによって明確に示されました。これまで本誌を愛読していただいた皆さんも「まさか21世紀にこんな戦争が起こるなんて」と驚いている方が多くいらっしゃることでしょう。私たちも同様です。ロシアによるウクライナへの全面侵略などは、正直予想できませんでした。

◆戦争がなくても「原発」は危険だ

ただし、私たちは平時においても「原発が核兵器同様に危険である」ことは創刊以来感じていましたし、これまで原稿を寄せていただいた、多くの皆さんに指摘していただいた通りです。福島第一原発の大事故により、290名を超える若者が甲状腺がんに罹患してしまいました。政府・福島県や無恥な政党(自民党・維新・国民民主党)はこの明確な健康被害に、「風評被害」とトンデモない言いがかりで応じていますが、僅か10年ほど前の事実すら理解できない、これらの人々に政治を任せるわけにはいきません。

◆なぜ『季節』と誌名を変えたのか

『季節』と誌名を変更した理由については、本日発売の誌面の中で詳述しております。是非手に取ってお読みください。そしてお知り合い、ご友人に広めてください。

少しだけ誌名変更のエッセンスをご紹介しましょう。世界の多くの国には「季節」が廻り、なかでも日本には四季があります。春夏秋冬、落葉樹はそのいでたちを変えながら次の年を迎えます。冬眠する動物もいます。私たち人間の生は長くとも100年程度ですが、私たちが生まれてくる遙か昔から、いま生をうけた私たち全員がこの世から消えた未来にも、過去と変わらずに春夏秋冬は廻ることでしょう。

このような長大な歴史の中で、人間が地球史的にはごく短時間に、犯してしまった間違いの象徴が「原発」だといえるのではないでしょうか。人間みずからの存続はもとより、生態系を破壊するほどの暴走を、原発(核)は持っている、このことを再度肝に銘じたいと思います。残念ながら原発(核)の廃絶には、その汚染物質の処理を考慮に入れれば、最も希望的な観測に基づいても、現在科学の力では数十万年を要します。

私たちは日本だけでなく、世界中の原発の即時停止、廃炉を求めるものですが、仮にその夢が叶ったとして汚染物質の処理には、気が遠くなるような時間が必要です。その間にも「季節」は幾たびも廻るでしょう。今次の侵略戦争での侵略者による「原発」の扱われ方は、そのことへの再度の警鐘です。

2014年の創刊から8年、『季節』は「原発」を絶えまなく凝視しながら、時代・文明の病・欺瞞を突く総合誌への発展を目指し、本日再出発します。ご支援をお願いいたします。

〈原発なき社会〉を求めて集う 不屈の脱原発季刊誌
季節 2022年春号
『NO NUKES voice』改題 通巻31号
紙の爆弾2022年4月増刊

2022年3月11日発売
A5判 132頁(巻頭カラー4頁+本文128頁)
定価 770円(本体700円+税)

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憲法を介護にどういかすのか? 自民改憲草案/先取りする「維新」への対抗軸を3月16日(水)オンラインで討論しましょう! さとうしゅういち

筆者が社主を務める「広島瀬戸内新聞」は、第3回オンラインおしゃべり会「介護と憲法」を2022年2月2日(水)、ZOOMにて開催し、全国からご参加をいただきました。

ご参加いただきました皆様に御礼申し上げます。今回は、自民党が改憲に前のめりになり、維新がそれを「右」から煽るという状況の中、改憲や維新がそれを先取りしている政治がどういう悪影響を介護に与えるか? どう、憲法をいかすか?筆者が問題提起してそれに対して討論を行う形で実施しました。

◆不十分ながらも、高齢者・障がい者介護にいかされてきた憲法

筆者から、前半では、「介護と憲法」をめぐるこれまでの状況をご紹介しました。昭和後期時代は憲法24条があるにも関わらず、いわゆるケア労働が女性の無償労働と見なされていたこと、夫の実父母の介護が「嫁の義務」とみなされていた(法的には義務はない)こと。しかし、そうはいっても介護の社会化を求める声から、介護保険が問題はあるにせよできたこと。

障がい者分野でも個人の尊厳を求める声を背景に、新自由主義的な「自立支援法」をやめさせ、総合支援法を勝ち取ったことなど紹介しました。

他方でまだまだ、ケア労働は「女性の仕事」と言うバイアスもあって現場労働者の給料が低すぎること、また老老介護、老若介護、ヤングケアラー、また男性介護者の増加など状況の多様化、複雑化があることを紹介しました。

◆介護保険のメリットと問題点について意見続出

参加された方からは、

「介護保険のお陰で自分はフルタイムで仕事ができるが、綱渡り状態だ。」(50代女性)

「遠方の母親が介護状態で介護保険は助かる。ただし、父親は弱っているが、介護状態まで行かない。こういう人への支援ももっと欲しい」(50代男性)

「家族が要介護状態になったときどうすればいいか? 教えてくれる教室があったらいい。」

等のご意見をいただきました。

また、20代の方からも「母親と二人暮らしだが、母親も脚を痛めたりして通院している。いつ自分も介護をすることになるか不安だ。ただ介護保険があるのを知って少し安心した」とのご感想をいただきました。

介護現場の女性労働者からは、入居者から暴力を振るわれるなどの実態が報告され、20代の男性からは、「そんな大変な仕事なのに、他の業種より低い給料なんてあり得ない。」との感想が出されました。

わたしからは、「要介護認定される前の方向けに、『総合事業』もあるが、仕事に対する報酬を介護保険の8割に設定しているので、やりたがる事業者が少ない問題もある」等とお答えしました。

◆介護を家族に押し込める自民党憲法改悪草案と先取りする維新政治

後半では、自民党憲法改悪草案、また、改憲草案を先取りしている大阪を中心とした「維新」による政治が介護にどういう影響を与えるかについてお話をしました。

自民党憲法改悪草案の24条では「家族の尊重」が「両性の平等」より前に来ています。さらに、改悪案憲法83条は財政の健全化を義務付けています。

自民党憲法改悪草案 第24条

家族は、社会の自然かつ基礎的な単位として、尊重される。家族は、互いに助け合わなければならない。(新設)

2 婚姻は、両性の合意に基づいて成立し、夫婦が同等の権利を有することを基本として、相互の協力により、維持されなければならない。

3 家族、扶養、後見、婚姻及び離婚、財産権、相続並びに親族に関するその他の事項に関しては、法律は、個人の尊厳と両性の本質的平等に立脚して、制定されなければならない。

緊縮財政条項 第83条

国の財政を処理する権限は、国会の議決に基づいて行使しなければならない。

2 財政の健全性の確保は、常に配慮されなければならない(新設)。

これらを総合すると「介護など社会保障を切り捨て、ケアに関する労働を家族の責任にする」ということです。

「財政の健全化」といいますが、財務省、また財務省の言っていることを先取りしている「維新」の標的になるのはいままでの経緯を見ても、社会保障です。

例えば、財務省は、人工透析の患者の方への訪問介護サービスがおおすぎる、無駄だから削れ、という趣旨の圧力をかけつづけています。実際には人工透析を受けていたら時間もなくなり、家事に手が回らなくなりますから、訪問介護サービスを受けるのは仕方がないのでのにもかかわらずです。また、「維新」は人工透析の患者に事実上「死ね」と言ったにも等しい発言をしたと非難を浴びた長谷川豊さんを、(落選はしましたが)衆院選で公認した実績もあります。「維新」は、これまでの政治を「シルバー民主主義」と決めつけ、若者の味方のふりをして、高齢者や障害者を切り捨てています。

いっぽうで、財務省は国費や国有財産を私物化した安倍晋三さん・昭恵さんの立場が危うくならないよう、全力で忖度しています。

憲法改悪草案が実現して、財務省や「維新」(長谷川豊さん)が叫ぶような政策が実現した場合、どうなるでしょうか? 現代では、少子化・核家族化、さらには単身化ふくめ、昔と家族のあり方も変わってきています。もはや、「嫁」だけでなく、男性や子ども・若者も介護負担で大変なことになります。

「維新」が味方をしているふりをしている若者も「ヤングケアラー」状態になり、これから人生を切り開いていくべきときに、勉強や就職がおろそかになるなどの被害を受けることになるでしょう。そして、そうした被害は「自己責任」として「維新」や財務省に切り捨てられるでしょう。

以上のような提起をさせていただきました。

◆「自民より右」の維新への対抗軸をしめすことが重要

これに対して、大阪府民の女性からは、「地下にトンネルを掘るなど大型の事業は熱心だが暮らしは切り捨てている。」と実態のご報告をいただきました。

また、仕事で障がい者の就労支援にも従事する50代の男性は「支援対象者に『義務とは関係なく、権利があなた方にはあります。』と説明したら、みなさんはまったく何がなんだかわかっておられない様子だった。」と仕事での出来事を紹介。

「日本人には人権はうまれながらにしてある、という考えは薄いのではないか?ただ、介護保険の場合は『消費者として、保険料への代価としてサービスを受け取れる』という意識は強まっていると思う」と感想を述べられました。

また、20代の会社員男性からも「衆院選2021がおわったばかりで当面、政権交代はない。自民党に対して、介護などケア労働者の給料を上げていくよう、維新とは正反対の方向から突き上げていくこともしていきたい。」との提起をいただきました。

わたしからは、やはり、憲法とは国民が権力者を縛るツールであるということをもっと強調していくこと、この20-30年で強まった新自由主義の洗脳は強いが、すこしずつでもそれを改めていくよう粘り強く努力すること、とくに今年の参院選で維新に対抗軸をきちんと示す勢力をのばしていくことの重要性を強調してまとめさせていただきました。

◆継続的にオンラインおしゃべり会を開催

広島瀬戸内新聞では介護をテーマにオンラインおしゃべり会をシリーズで開催しています。

前回12月22日の第2回オンラインおしゃべり会 「どうなる 介護現場 働く人の処遇改善、そしてご利用者・ご家族の安心はどこへ」でいただいたご質問・ご意見と筆者の回答は以下です。

なぜ、昔は公務員でやっていた介護事業がなくなったのか?
回答→総務省が公務員をへらした自治体を優遇する制度をとっていたのが大きいのではないか?

介護を公務員でまたやるようにはできるのか?
回答→菅政権でさえ、国家公務員定数増加に転じた。 政治次第で可能と考える。

認知症現場について

認知症介護の現場経験を踏まえたご意見
認知症が迷惑に思われない、安心して認知症になれる社会を
回答→市場原理主義、生産性至上主義だから認知症が迷惑に思われてしまう。

ヤングケアラーについて
(現場経験を踏まえ)若い子どもから親への虐待で発覚することもある。
回答→虐待にいたるほど追い詰められる前に支援の手を。

緊縮財政だからヤングケアラーがおいつめられてしまうのでは?
回答→おみこみのとおり。 大阪維新などは高齢者や障害者の予算を切って若者支援を、などという方向だが、そうなると、ヤングケアラーは余計においつめられてしまう。

介護保険って必要なのか?
回答→市場原理主義であり、一部大手企業にお金をもうけさせるための道具になってしまった。 現行の保険では、逆進性もある。 やはり、介護は公費で賄うようにすべき。 当面は財政出動、そして中長期的には応能負担で。

第4回のおしゃべり会のテーマは「介護と参院選」です。これまでのオンラインおしゃべり会での議論をふまえ、現場労働者の待遇改善、そしてなによりご利用者・ご家族の安心をどう確保するか? 参院選に向けた戦略を語り合いましょう。お待ちしております。

第4回オンラインおしゃべり会「介護と参院選」
3月16日(水)20時~
Zoomミーティングに参加する
https://us04web.zoom.us/j/4117183285?pwd=bFhrcTlWOUpPRmZhUGFkTVpTZlV4Zz09
ミーティングID: 411 718 3285
パスコード: 5N6b38

▼さとうしゅういち(佐藤周一)
元県庁マン/介護福祉士/参院選再選挙立候補者。1975年、広島県福山市生まれ、東京育ち。東京大学経済学部卒業後、2000年広島県入庁。介護や福祉、男女共同参画などの行政を担当。2011年、あの河井案里さんと県議選で対決するために退職。現在は広島市内で介護福祉士として勤務。2021年、案里さんの当選無効に伴う再選挙に立候補、6人中3位(20848票)。広島市男女共同参画審議会委員(2011-13)、広島介護福祉労働組合役員(現職)、片目失明者友の会参与。
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◎広島瀬戸内新聞ニュース(社主:さとうしゅういち)https://hiroseto.exblog.jp/

タブーなきラディカルスキャンダルマガジン『紙の爆弾』2022年4月号!

19年間、無実を訴え続ける無期懲役囚・平野義幸さんに真相解明のチャンスを下さい! 尾崎美代子

平野義幸さん(当時38歳)は、2003年1月16日、京都市下京区の自宅で火災が発生し、女性が焼死した事件で、その後殺人と現住建造物放火の罪で逮捕されました。平野さんは一貫して無実を主張しましたが、検察は無期懲役を主張、2005年京都地裁は、懲役15年の判決が下しましたが、2006年大阪高裁は審理を行わないまま、平野さんが「反省していない」などを理由に一審判決を破棄し、無期懲役を言い渡しました。その後上告も棄却され、現在、平野さんは徳島刑務所に服役中です。

俳優時代の平野さん

◆「恩人」を殺せるわけがない!

焼死したМさんは平野さんの交際相手でした。三池祟史監督「荒ぶる魂たち」「新・仁義の墓場」などに大地義行の芸名で出演した俳優の平野さんは、事件前の1年間に、兄貴分の男性、親友の俳優(菅原文太さんのご長男、踏切事故で死亡)、妻を立て続けに亡くし、自暴自棄に陥っていました。そんなとき「あんたは絶対俳優やらないとあかん」と励ましてくれたのがМさんで、背中を押された平野さんも再び俳優をやる気になっていました。

火災が起きた日、平野さんは午後から東京で行われる深作欣二監督(2003年1月12日死去)の告別式に出席予定で、その際、映画関係者に自身をプロモートしようと、1階で準備をしていました。平野さんがМさんのいる2階に上がると、階段上付近に灯油ストーブのカートリッジが倒れ、そばにМさんが座り込んでいました。平野さんが「何をしているのか?」と尋ねると、Мさんは「あんた、誰?」などとおかしな様子でした。実は、当時平野さんもМさんも覚せい剤を使用することがあったため、平野さんはМさんがいつのまにか覚せい剤を使用し、おかしくなったのではと考え、何かしでかすとまずいとМさんの手足を縛り、舌をかまないように口にハンカチを詰め、上にガムテープを貼りました。

その後、平野さんが1階で用事をしていると、2階でドーンと音がしたので慌てて上がると、南側ベッド付近でМさんが倒れていました。平野さんはМさんが苦しくて倒れたと思い、口のガムテを取り手足も緩め、こぼれた灯油を拭くため布とごみ袋を取りに1階に降りました。

火災が発生した2階のイラスト(裁判資料より)

◆一瞬で「熱傷死」したМさん

1階で準備していた平野さんが、Мさんのなんともいえない声を聞き、慌てて2階に上ると、Мさんのいた南側ベッド付近に火が見えました。平野さんはМさんをベッドに引き上げようとしましたが重くて上げられなかったため、燃えている物を取り上げ斜め後ろに放り投げ、火を消そうと布団を火に被せましたが、逆に燃え上がってしまいました。平野さんは、1階に下り、風呂の水をバケツに入れ、階段の途中からかけたり、消火スプレーで消そうとしましたが効果がないため、表に駆け出し救助を求めました。その後も、平野さんは、燃えさかる家に何度も入ろうとしたため「このままでは義くん(平野さん)の命が危ない」と、近所の人が数人で「膝カックン」(膝の後ろを押して膝をつかせる)して止めたことが裁判でも証言されていますし、一緒に救助に入ろうとしたWさんら2名の検面調書も存在します。

しかし、検察は、灯油を撒き火をつけ、手足を縛られ動けないМさんを焼死させることができるのは平野さんしかいないと主張、そのため出火場所を、Мさんのいた南側ベッドから「離れた」北側ベッド北西角付近としました。その付近は1階へ降りたり、上の洗濯場に上る階段があり、風通しがよいためよく燃えてはいますが、さらに燃えていた場所がありました。それがМさんの遺体が発見された南側ベッド付近です。

Мさんの遺体は真っ黒に炭化しており、解剖の結果、血中の一酸化炭素ヘモグロビンが105と極端に低く、気管などに煤片などもほとんど混入していないことなどから。出火と同時に瞬時に亡くなった「熱傷死」とされました。無残な亡くなり方ではありますが、一審判決のように「迫りくる炎の恐怖となぜ被告人からそのような目に逢わされなければならないのかという混乱の中で命を落と」した状態でなかったことは明らかです。

平野さん宅のイラスト(裁判資料より)

◆自殺をほのめかしていたМさん

平野さんと弁護団は、裁判でМさんが覚せい剤を使用していたことから精神的な錯乱状態を起こし、発作的に焼身自殺を図ったのではないかと主張しました。というのも、Мさんは平野さんと交際しながらも、「目の前から消えます」「タブーを犯してしまった」「私は死にました。今の私は来世に向かって生きているのです」などと、自殺をほのめかすような言葉を多数ノートなどに書いていたからです。

検察はМさんの遺体が、炎から身を守ろうとする「ボクサースタイル」をとっていないことについて、Мさんの手足が縛られたままだったからと主張しました。しかし、遺体を解剖した安原正博教授は「死に至る時間があまりにも短く、瞬時だったので、そういうスタイルをとっていなくても不自然ではない」と証言、また「手の曲がり方が縛られていたため」という検察の主張についても、「(もしなんらかの形で両手が緊縛されていれば)曲がり方が制約される」と否定的な所見を述べています。さらに「このような熱傷死の場合は、焼身自殺の場合を除外すると極めて少ない」とМさん自殺説を裏付けるような証言も述べていました。

◆自己矛盾した検察の主張で「無期懲役」とは?

検察は、冒頭陳述では、出火点は北側ベッド北西角とし、出火前Мさんがいた南側ベッドと「離れている」から、平野さんにしか放火できないとしていました。しかし「論告求刑」では、Мさんが出火前にいた場所を北側ベッド北西角付近に変更しました。炭化したМさんの遺体から、火災発生から瞬時に焼死したことが鑑定でも明らかになっているからです。検察は、出火点と出火前、Мさんがいた位置は「離れているがゆえに、Мさんの着火行為は否定できる」とした冒頭陳述を、自ら否定せざるをえなくなったのです。

そもそも平野さんに、長年住み思い出の詰まった自宅を放火したり、新たな映画のオファーを投げうってまで、Мさんを殺害するような「動機」はありません。火災後、平野さんも覚せい剤使用で逮捕されましたが、その件で平野さんを担当した検事は、現場検証を何度も行ったうえで「放火で逮捕はない」と断言していました。にも関わらず、その後代わった若い検事がいきなり平野さんを凶悪な「放火殺人犯」にしたてたのです。

確かに平野さんも覚せい剤を使用したり、傷害事件なども起こしています。しかし、過去に悪事を働いた人が、それを理由に、やってもいない事件の犯人とされていいのでしょうか。しかも検察は、平野さんの無実を証明する多くの証拠を未だに隠したままです。例えば、消防署から消防車が出動し、消火活動を行えば、必ず「出勤記録」「活動記録」が作成されますが、検察はそれらを開示していません。実際の火災現場で消火活動にあたった消防隊員らの証言などが事件解明に重要であることは、青木恵子さんの東住吉事件の国賠訴訟で、実際の火災現場で消火活動にあたった消防隊員の証言が事実であったことからも明らかです。しかし、検察は、現場で消火活動に携わっていない消防隊員Tさんを法廷に立たせ、出火場所を「北側ベッド北西角付近」と証言させたのです。

請求の準備に向けたクラウドファンディングが3月2日から開始されました。ぜひ、みなさまのお力をお貸しください。

◎19年間、無実を訴え続ける無期懲役囚に真相解明のチャンスを下さい!◎
平野義幸さんを支援する会/代表:青木惠子
https://readyfor.jp/projects/save_yoshiyuki_hirano 

▼尾崎美代子(おざき みよこ)
新潟県出身。大学時代に日雇い労働者の町・山谷に支援で関わる。80年代末より大阪に移り住み、釜ケ崎に関わる。フリースペースを兼ねた居酒屋「集い処はな」を経営。3・11後仲間と福島県飯舘村の支援や被ばく労働問題を考える講演会などを「西成青い空カンパ」として主催。自身は福島に通い、福島の実態を訴え続けている。
◎著者ツイッター(はなままさん)https://twitter.com/hanamama58

タブーなきラディカルスキャンダルマガジン『紙の爆弾』2022年4月号!

《河井議員夫妻事件》金を受け取り「起訴相当」の広島市議らが告白した「司法取引」の実情をなぜマスメディアは明瞭に報じないのか 片岡 健

やはり「司法取引」はあったようだ。

2019年の参院選をめぐる大型買収事件で今月2日、懲役3年の実刑が確定した元法務大臣の河井克行氏から金を受け取っていた広島市議5人が同市内で代理人の久保豊年弁護士と共に会見を開き、うち4人が検察官との間で事実上の「司法取引」があったことを明かした。

この事件では、河井氏から金を受け取った地方議員ら100人全員が不起訴に。そのため、議員らと検察との間に「司法取引」があった疑いが指摘され、うち35人が先日、検察審査会で「起訴相当」と議決された。会見を開いた5人も全員、「起訴相当」と議決されており、当事者が公の場で検察との司法取引があったことを明かす形となった。

しかし、会見は新聞社、通信社、テレビ局の取材陣が多数来ていたにもかかわらず、この事実はほとんど報道されていない。そこで、この場で報告しておきたい。

会見した議員ら。左から三宅議員、木山議員、谷口議員、久保弁護士、藤田議員、伊藤議員

◆検察官はあからさまに司法取引にあたる言葉を言わなかったようだが…

会見した広島市議は三宅正明議員、木山徳和議員、谷口修議員、藤田博之議員、伊藤昭善議員。5人は河井氏から現金を受け取っており、河井氏の裁判が行われていた頃は誰もが「買収された認識があった」と認めていた。

しかし、2日の会見では、5人は河井氏から受け取った金について、「お中元やお歳暮のようなもので普通のことだった。買収された認識はなかった」と主張を一変。これまで買収された認識があったことを認めていたことについては、事情聴取が長期間に及ぶなどして疲弊したり、検察官から家宅捜索に入ることをほのめかされたりしたためだと説明した。

特筆すべきは5人のうち、藤田議員以外の4人が検察官から「検察の主張に沿う供述をすれば、起訴しない」と持ちかけられる司法取引が事実上存在したのを認めたことだ。

まず、三宅氏は「検察官はプロだから、司法取引にあたる『起訴しないから、(検察の主張に沿うことを)言って頂けませんか』という言葉は使わなかった」としたうえで、検察官から「正直者がバカを見てはいけません」「議員を続けてください」などと言われたことを明かした。木山議員も検察官から「おそらく証人として呼ばれることはないでしょう。協力できることは協力して欲しい」と依頼されたという。

また、谷口議員は「具体的には言われていないが、その趣旨の話は言われました」とコメント。伊藤議員もベテラン検事から「『協力してくれた人には、起訴しない方向で便宜を図る』という約束はできないが、そういう事件の解決の仕方もある立場だということを理解して欲しい」と言われたという。

この4人の説明が事実なら、検察は河井氏から金を受け取った地方議員らに対し、言葉巧みに事実上の司法取引をして河井氏を有罪に追い込んだことになる。

4人が会見で検察官との間で事実上の司法取引があったことを明かしたのは、「起訴相当」の議決をうけたため、自分たちが本当は罪を犯していないことを主張する意図からだとみられる。しかし、選挙違反事件が司法取引制度の対象外であることに照らせば、4人は検察の不正を告発したに等しい。

◆議員らの「司法取引」の告白を明瞭に伝えないメディア

しかし、この会見に関する新聞社、通信社、テレビ局の報道では、議員らが会見で事実上の司法取引があったことを明かしたことが明瞭に伝えられていない。

たとえば、この事件で河井氏と妻の案里氏のみならず、金を受け取っていた地方議員らを強く批判していた地元紙・中国新聞や、当時の安倍政権の責任も厳しく追及していた朝日新聞、毎日新聞は次のような報じ方だった。

◎河井元法相から現金受領「みじんの罪悪感もなかった」 「起訴相当」の広島市議5人(中国新聞)

「罪の意識みじんもない」 起訴相当の広島市議5人が反論会見(朝日新聞)

「罪悪感ない」…「起訴相当」の広島市議5人、会見で捜査批判(毎日新聞)

このような見出しでは、会見した市議5人が河井氏から違法に金を受け取ったことを反省せず、開き直っていただけであるような印象だ。どの記事も本文を見ても、市議らが事実上の司法取引があったことを明かしたことを明瞭に伝える記述は見当たらない。

事実上の司法取引があったという市議らの告白が事実であれば、河井氏は本来、裁判で無罪とされるべきだったという見方もできる。河井氏と共に起訴され、執行猶予付きの有罪判決を受けた妻で元参議院議員の案里氏も同様だ。その点に照らせば、河井夫妻や金を受け取った議員らを散々批判してきたメディアが今回の市議らの事実上の司法取引の告白を明瞭に報道しないのは、ずるい印象が否めない。

検察審査会で「起訴相当」の議決を受けた地方議員らが今後、裁判を受けることになれば、この問題はまた再燃する可能性がある。

▼片岡健(かたおか けん)
ノンフィクションライター。stand.fmの音声番組『私が会った死刑囚』に出演中。編著に電子書籍版『絶望の牢獄から無実を叫ぶ―冤罪死刑囚八人の書画集―』(鹿砦社)。

『紙の爆弾』と『季節』──今こそ鹿砦社の雑誌を定期購読で!
「絶望の牢獄から無実を叫ぶ[改訂版]―冤罪死刑囚八人の書画集―」(片岡健編/鹿砦社)

5G通信基地局の設置をめぐる電話会社とのトラブルが急増、マンション管理会社が仲介、電磁波による人体影響は欧米では常識に 黒薮哲哉

2月中旬のことである。東京都内に住むわたしの友人Aさんが相談ともぼやきとも受け取れるメールを送付してきた。家族が居住する350世帯ほどの集合住宅の管理組合に対して、マンション管理会社が楽天モバイルの携帯基地局を、同マンションの屋上に設置する計画を打診してきたというのだ。Aさんは、5Gで使われる電磁波による人体影響を懸念している。

わたしは2005年から携帯電話の基地局設置をめぐる電話会社と住民のトラブルを取材してきた。その関係で、わたしのところに住民からの相談が相次いでいる。1年半ほど前から、平均すると月に2、3件の相談が寄せられている。今週も1件。こうした現象の背景に電話会社が、競い合うように通信基地局を設置している事情がある。特に、電話ビジネスへの参入が遅れた楽天に関するトラブル相談が多く、全体の9割を占める。

Aさんは電気工学の専門家である。退職するまで有名大学で教鞭を取っていた。電磁波問題を取材しているわたしが、助言をお願いしている研究者である。電磁波による人体影響の評価がどう海外で変化しているかについてもよく把握されている。

実はAさんが基地局問題に巻き込まれたのは、今回が初めてではない。静岡県のリゾート地に所有している別宅のマンションでも、数年前に同じ体験をした。電話会社が屋上に基地局を設置する計画を持ち掛け、しかも、事前に管理組合の理事らと懇意な関係を築き、強引に基地局を設置したのだ。

Aさんは居住者たちに、電磁波による人体影響を説明しようとしたが、大半の住民が電磁波については全く何も知らず、健康上のリスクを理解してもらえなかったという。

「無知とは恐ろしいものだ」と、呟き、泣き寝入りしたのである。

様々な形状の携帯基地局

その後、5Gの普及に拍車がかかった。新聞・テレビから電磁波の健康リスクについての話題がほぼ消えた。そして既に述べたように、Aさんの身の上に2度目の試練が降りかかってきたのである。もちろん楽天に基地局の設置を許可するかどうかは、マンションの管理組合に決定権があるが、そもそも大半の住民が電磁波による人体影響を聞いたことがないので、総会で設置の是非を採決した場合、設置に反対する住民側が勝つとは限らない。むしろ基地局の賃料収入を得ることで、管理組合の財政が潤うという観点から、設置に賛成する住民の方が多い可能性もある。

楽天基地局の設置を阻止するためには、Aさんは住民運動を組織しなければならない。チラシを作成し、電磁波学習会を開催し、住民運動体を組織したうえで署名活動などを強いられる。それが計画を撤回させるオーソドックスなプロセスである。それでもなお設置反対派が勝を制すとは限らない。この問題が身の上に降りかかってきたことで、Aさんは老後の大事な時間を奪われてしまうのである。これだけでも大きなストレスになる。

◆わたし自身の2つの体験

実は、わたし自身もこれまで2度に渡ってAさんと同類の問題に直面させられた。1度目は、2005年だった。埼玉県朝霞市にある9階建て中古マンションの9階の一室を買った翌年のことである。KDDIとNTTドコモが基地局の設置を打診してきたのである。しかも、設置場所は、わたしの書斎の真上、天井をひとつ隔てた屋上だった。屋上はマンションの共有スペースだから、わたしがいくら設置に反対しても、管理組合が設置を承諾すればどうすることもできない。1年365日、1日24時間、延々と電磁波のリスクにさらされる。

幸いにわたしの両隣の住民も基地局設置に猛反対して計画は、中止になった。実は、わたしが電磁波問題を取材するようになったのは、この事件が引き金なのである。

その後、わたしは2020年の6月に2度目の試練に遭遇した。発端は、自宅から100メートルの位置にある城山公園(朝霞市の所有地)で、KDDIが基地局の設置工事をしているのを発見したことである。わたしはKDDIに工事の中止を申し入れた。KDDIは、工事を中止して、一旦は機材や重機を現場から搬出した。そして工事現場に囲いを設置した。しかし、8月に入るとわたしに事前通知することなく、再び工事を再開して、強引に基地局を設置したのである。ちなみに朝霞市には、工事再開を通知した。

埼玉県朝霞市の城山公園。KDDIが基地局設置の場所で柵で囲った

ちなみにKDDIが朝霞市に支払う賃料は、月額で360円程度である。5万円から6万円ぐらいが相場であるから、賃料が相場からかけ離れている。

この件では、現在も朝霞市とKDDIに対して解決を求めている。朝霞市が撤去に応じないので、富岡勝則市長を提訴することを視野に入れている。賃料が法外に安いので、相場との差額分を市に返済するように求める裁判である。次に、「予防原則」を根拠に基地局そのものを撤去させる裁判を視野に入れている。

◆自宅から退去を余儀なくされた被害者たち

Aさんやわたしが遭遇しているような基地局問題は、日本の隅々で日常的に起きている。電磁波による人体影響が住民の間に周知されていないために、水面下に埋もれているケースが多いが、これはだれにでも起こり得る身近な問題なのだ。

わたしが受けた相談の事例をいくつか紹介しよう。

(1)2020年、川崎市、KDDIのケース。基地局の設置場所は、7階建ての分譲マンション。25世帯ほどが入居している。世帯数が少ないために各世帯が負担する管理費が高い。そのために管理組合は基地局の設置を受け入れた。

 基地局の設置に反対したのは、自宅の真上に基地局が位置する最上階の住民家族である。設置当初、基地局からの低周波音に悩まされてホテルに避難することもあったらしい。この家庭の主婦は、フィンランドの人で、「自国では自宅の屋上や直近に基地局を設置することはありえない」と非常識な工事強行に憤慨していた。

(2)2021年、川崎市、楽天のケース。マンションに基地局が設置された後、居住者のBさん(女性)が身体の不調を訴えるようになり、Bさんの夫からわたしに相談があった。楽天と撤去の交渉をしたが、当該物件が賃貸マンションであるために、設置の是非を決める権限はオーナーに属しているとして、撤去には応じなかった。Bさん夫妻は、別の場所へ転居すると話していたが、その後、連絡がない。

(3)2021年、埼玉県志木市、楽天のケース。楽天が集合住宅(分譲)の屋上に基地局を設置する計画を打診した。Cさん(女性)がわたしに相談してきた。電磁波に対する感受性が強く、基地局が設置されると自宅から退避せざるを得ないという。Cさんは、電磁波の健康リスクを伝えるチラシをポスティングしたり、署名活動を展開した。仕事の時間を割いて、基地局設置に反対する運動にエネルギーを投入せざるを得なかったのである。疲弊している様子だった。

しかし、マンションの総会で基地局の設置が承認されてしまった。通常、住民の4分の3の承認が必要なのだが、このケースでは2分の1で可決されてしまったという。その後、Cさんからは志木のマンションを捨てて、郷里で老後を過ごすと連絡があった。自宅を失った可能性が高い。

(4)2020年、千葉県柏市、楽天のケース。自宅の直近に電柱と基地局を設置する計画が浮上した。直接被害を受けかねない2家族が、チラシなどを配布した。楽天は計画を断念した。

◆「楽天さんが多いです。特に管理費が乏しい賃貸マンションが対象になっているようです」

 
楽天の基地局

私的なことになるが、わたしは2020年2月19日、自宅がある集合住宅で開かれた理事会の後、管理会社の(株)東急コミュニティーの担当者にある質問をしてみた。管理会社に対して電話会社から基地局設置計画の仲介を求める動きがあるかを質問してみた。担当者はあると応えた。

「楽天さんが多いです。特に管理費が乏しい賃貸マンションが対象になっているようです」

賃貸マンションの場合、管理組合が存在しないので、オーナーの判断だけで基地局設置の是非を決めることができる。そのために住民からの反対運動はあまり起きない。反対する住民がいても、電話会社は強引に計画を押し切ってしまう傾向がある。沖縄県読谷村の例がその典型である。

◎5Gの時代へ、楽天モバイルの通信基地局をめぐる3件のトラブル、懸念されるマイクロ波の使用、体調不良や発癌の原因、軍事兵器にも転用のしろもの 

住民運動を組織するために被害者は、莫大はエネルギーを投入せざるを得ない。しかも、会社に勤務している人の場合、住民運動にかかわっていることをあまり口外できないので、秘密裡に活動するしかない。さらに都市部の場合、近隣との交流が少ないので、運動体を立ち上げるのがなかなか難しい。逆に地方都市では、封建的な人間関係がある場合が多く、企業や目上の人に物を言いにくい空気がある。住民運動などを起こすと「村八分」にされかねない場合もある。こうしたすきを突いて、電話会社は急速に拡大しているのだ。

基地局設置をめぐるトラブルは、水面下で進行している同時代の深刻な問題なのである。マスコミはこの問題を直視しない。電磁波と何らかのかかわりをもつ産業界(電話、電気、自動車他……)が、メディアの大口広告主であることに加えて、無線通信網を充実させる国策があるからだ。そのために自粛が働く。この問題は、実は「押し紙」よりもタブー視されているのである。

◆総務省の電波防護指針そのものがデタラメ

2月15日、東京都板橋区の山内えり議員(共産)が板橋区議会で、基地局問題をとり上げた。電磁波のリスクを指摘して、基地局設置に一定の規制を求めた。これに対して坂本健区長は、「電磁波については50年以上にわたる研究の中で一定の知見が得られており、それに基づいて、国は電波防護指針を策定し、事業者に対して遵守を求めている」と答弁した。電磁波による人体への影響はないとする趣旨の答弁である。

しかし、2018年11月、米国・国立環境衛生科学研究所の一大プロジェクト「NTP(国家毒性プログラム)」が、ラットの実験でマイクロ波(スマホ等の電磁波)に発がん性が認められたとの研究結果を発表している。これは携帯電話の端末を想定した研究であるが、マイクロ波の遺伝子毒性という点では、無視できない結論である。事実、ドイツ、イスラエル、ブラジルなどでは大規模な疫学調査により、基地局周辺に癌患者が多いとする調査結果も出ている。

こうした動きを受けて、欧米では電磁波利用を規制する動きが強まっている。

参考までに電波防護指針の国際比較を紹介しておこう。総務省が1990年に定めた1000μW/c㎡ (マイクロワット・パー・ 平方センチメートル)は、たとえば欧州評議会に比べて1万倍もゆるやかで、実質的には規制になっていない。しかも、総務省は規制値の更新を1度も行っていない。

日本:1000μW/c㎡
欧州評議会:0.1μW/c㎡、(勧告値)
ザルツブルグ市:0.0001μW/c㎡(目標)

さらに問題なのは、5Gで将来導入されるミリ波に関する研究がまだほとんど始まっていない点である。ミリ波による人体影響は、評価そのものが定まっていない。従って予防原則に即して言えば、安全とは言えないのである。50年の研究歴があるから、安全だという坂本区長の答弁は、客観的な事実とは言えないのである。

わたしは板橋区に対して区長の答弁を修正するように申し入れた。すると担当者は、総務省の説明をそのまま転用したことを認めた。そして電磁波問題は区の管轄ではないと逃げた。

電磁波問題の背景に政府の誤った国策があるのだ。水俣病と同じ過ちを繰り返しているのである。

【東急コミュニティーのコメント】

お世話になっております。
東急コミュニティー 広報センター 小笠原と申します。
このたびは、当社にお問合せいただきありがとうございます。
早速取材の件を社内で協議させていただきました。
その結果は誠に残念ですが今回の取材は見送らせていただきたく存じます。
本件は、管理組合様の個別の内容となりお客様情報に関わることから
ご要望にお応えできない形となってしまい大変申し訳ございません。
なにとぞ事情をご賢察のうえ、ご寛容賜りますようお願い申し上げます。
今後ともどうぞよろしくお願いいたします。

※なお、電磁波とは何かについては、筆者の次のブログを参考にしてほしい。
◎日本人の3%~5.7%が電磁波過敏症、早稲田大学応用脳科学研究所「生活環境と健康研究会」が公表

▼黒薮哲哉(くろやぶ・てつや)
ジャーナリスト。著書に、『「押し紙」という新聞のタブー』(宝島新書)、『ルポ 最後の公害、電磁波に苦しむ人々 携帯基地局の放射線』(花伝社)、『名医の追放-滋賀医科大病院事件の記録』(緑風出版)、他。
◎メディア黒書:http://www.kokusyo.jp/
◎twitter https://twitter.com/kuroyabu

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