渡辺てる子講演記録〈1〉庶民による庶民のための政治実現を ── 二度の国政選挙に立候補して 林 克明

◆れいわ新選組から立憲民主党へ

2019年7月の参院選、2021年10月の衆院選の二つの選挙に、れいわ新選組から立候補した渡辺てる子氏は、その熱烈な演説で多くの人々をひきつけた。結果は落選だったが、その後も非正規労働者・格差社会・シングルマザーなどの、当事者として活動を続けてきた。
 
衆院選後は彼女の去就が注目されていたが、年が明けて2022年2月15日、立憲民主党公認で4月17日投開票の練馬区議補選に出馬することを発表した。

 
『渡辺てる子の放浪記』(林克明著、同時代社)

昨秋の衆院選挙後も活動を続け、支援者からは時期参院選出馬を望む声も上がってきた。しかし、れいわ新選組の規約では、現職の議員と立候補予定者以外は党の「構成員」からはずれる。そうなると党からの支援は受けられず、選挙で仕事も辞め、わずかな財産もほぼ使い果たしている「落選者」は、非常に厳しい状況に追い込まれる。

そのような状況で渡辺てる子氏に声をかけたのが立憲民主党だった。その後、関係者が水面下でことを進め、最終的には、山本太郎れいわ新選組代表と渡辺てる子氏が直接会談し、4月17日投開票の練馬区議補欠選挙で立憲民主党から出馬することが合意されたのである。

どの政党から選挙に出ようが、当事者として庶民による庶民のための政治実現を目指し活動してくことには全く変わりないだろう。

そうした彼女の基本姿勢がわかるのが、総選挙から一か月近く経過した昨年11月29日に行われた講演である。

その講演とは、彼女の半生をダイジェストでつづった拙著『渡辺てる子の放浪記』(同時代社刊)の出版記念講演会のことだ。

最初に選挙に出た経緯から衆院選の心境に至るまでを語った講演内容は、日本社会への大きな問題提起が含まれているので、4回にわたり報告する。(構成=林克明)

◆「次の選挙出ませんか」と山本太郎がひと言

皆さんからみれば、およそ考えられない、ある意味奇妙キテレツな半生だったのですが、そのダイジェストが林克明さん執筆の『渡辺てる子の放浪記』(同時代社)です。

私がこれまでたどったプロセスもさることながら、私の意識や思いはどういうものだったか。そういう私がなぜ活動を続けていこうと思っているかお話をしたいと思います。

私はいま62歳なのですが、2017年末に17年近く勤めていた派遣先を一方的に雇止めされました。それに対して再就職を求め、あるいは派遣先紹介を求めて団体交渉をしてもらちがあきませんでした。

このような私自身の体験もありますが、従前から派遣労働者の権利向上の活動もしていました。

雇止めされた後は、糊口をしのぐために次から次へとバイトやパートなどの仕事を知り合いから紹介され、食いつないでいきました。

そして2019年7月1日、東京のある区の非常勤職員採用の辞令をいただいたのです。
その翌日の夜、知り合いから山本太郎さんから電話が来るのでよろしくと電話があり、すぐに山本さんご本人から電話がかかりました。

「次の選挙に出ませんか」とストレートに言われ、私も1秒以下の反射神経で、「いいですよ」と答えました。すごい決断ですねと皆さんから言われるのですが、人から頼まれるといやと言えない性分が幸いしたのか不幸なのか。で、「ハイ」と言ってしまった。

活動しないよりする方を選ぶ私の当たり前の判断があったのですが、実はピンと来なかったんです。なんの事前説明も面談もなく、とつぜん携帯に電話がかかってきてというのは、社会常識的に欠ける(笑い)。太郎さんもいきなりだけど、それを受ける私もなんだという話しです。

選挙ボランティアという頭が思い込みであり、気軽に受けて、翌日どうしてくださいという話がありました。

◆その夜、母親が狭心症の発作で倒れる

で、家に帰ったら母が狭心症の発作で倒れてしまい、夜を徹してその看病をしていました。

朝早く病院に連れて行ったのですが、病院から母を家に連れ戻すと約束の時間に間に合わない。そこで、デイサービスの職員の方にお願いして、太郎さんから指定された会場に急ぎました。

そこで手続きやなにやらします、と言うんですよ。写真も撮るというのですが、ボランティアのIDカードか何かの写真を撮るのかなと思いました。

徹夜の看病明けでシャツ1枚の姿でペロっと会場にたどり着いていたわけです。写真撮影とはいっても、IDカード用か何かなんだから、首から上だけなので、とりあえず襟付きのシャツならいいやと。

そうしたら、何の説明もなくメイクをしましょうと言われたんです。細長いテーブルに紅筆とかお化粧道具が並べてあって。さすが元俳優の山本太郎だけあって、念入りにお化粧をボランティア一人ひとりのもするのだな、と。

ビジュアルにこだわるのはさすがだよねって思いました。俳優っていうのはこうじゃなければと思って。

でも徹夜の看病明けだし、お化粧をする習慣もないもので、いやいやお化粧をしてもらいました。写真も3分間写真で済むと思ったら、どうやらポーズをつけなきゃならない。首から上の写真でポーズを付けるってどうやるんだろう? 手で頬杖をつくようなかっこうをするんだろうか? なんて思ったんですけどね。

何の説明もないんですよ。れいわ新選組は人がいないもんで。

で、れいわ新選組がどういうものかもよくは分かっていない段階で記者会見になだれ込んでしまいました。そして皆さんの前でお披露目をし、次の日が選挙公示日。どれだけ私はうすぼんやりなのか。

そのとき、無名の私を皆さんに分かっていただくために、元派遣労働者、シングルマザー、そしてホームレスを5年経験していました、と伝えました。

そして渡辺てる子という名前はとても平凡なので、どうぞてるちゃんと呼んでくださいとダメ元で言ったら、皆さんから気軽にてるちゃん、てるちゃんと呼んでいただけるようになりました。

こうして2019年7月から私を取り巻く状況は劇的に変化しました。

◆当事者の労働者がなぜ発言できないのか?

あわただしく選挙に突入しましたが、れいわ新選組の政策やポリシーに関しては、なんら違和感はありませんでした。それまで私が活動を通して伝えたかったことがそっくりそのまま重なるからです。

私はシングルマザーとして、派遣労働者として活動してきましたが、そこに通底するものは「当事者」であることですね。

ところが、労働組合が主体になって進める労働運動は、労働者が主体でありながら、実際は労働者が主体じゃない、労働者ファーストではないということに気が付いたんです。

国会議事堂の向かい側に国会議員の事務所がある議員会館がありますが、その大講堂で行なわれる院内集会によく行っていました。発言する側としても、勉強する側としても行っていましたが、派遣労働者の実体を訴えるために発言の時間をもらう場合でも、他の登壇者よりずっと割り当て時間が少なかったのです。

労働運動の集会でいちばん長時間話すのは、だいたい労働法の権威の方なのです。たとえば名誉教授が基調講演を1時間くらい。その次が弁護士の方、その次に労働組合の専従の方が活動実態を述べます。最後に裁判を起こしている当該主体者ということで、やっと5分くらい当事者の労働者が時間をもらえればいい方だなと。

そういう状況を何度も目にしたし、労働者として時間をもらって話をしたこともたびたびありました。普通に考えておかしいんじゃないかと思います。労働者が困っているから労働運動があるにもかかわらず、なぜ当事者以外の人の発言時間のほうがはるかに多いんだ、と。

運動の欺瞞性をそこで感じたんですね。でも、労働運動ってそういうフォーマットがテンプレート的に確定してしまっているのです。そのフォーマットをなかなか崩せないという忸怩たる思いがありました。

◆自民議員が居眠りする厚生労働委員会で発言

そういう労働運動の在り方を変えることを個人ではできなかったのですが、国会議員に直接、派遣労働がいかにおかしな働き方かを訴えるチャンスが訪れました。2015年に労働者派遣法が改悪されたときに、改悪されないように国会議員の方々にロビー活動をしたのです。

そのときも労働組合の人に一緒にロビー活動してくれませんかと依頼しても、同行してくれる人はほとんどいませんでした。「私は運動してます、してます」と言っていますが、実は一匹狼で運動をしてきたんですね。

労働運動の限界を感じ、労働組合の人に対する不信感もあっていいはずなのに、運動・活動を止める理由にはならなかったんです。なぜか。問題を解決したいのは私だから。

よくも悪くも一人でやっていることが目にとまり、記者会見も何度もやらせてもらいましたし、当時は民主党が頑張っていたときだったので、民主党主催の勉強会に何回も行って実態を訴えました。

そうした姿に厚労省の官僚の方が目を付けて、この人間なら派遣労働者の当事者として国会で発言させてもいいんじゃないかということで、2015年8月、参議院の厚生労働委員会で登壇することができました。

そのとき派遣労働について訴える人が4人いました。経営側の弁護士と派遣の協会の理事が経営側。こちら側は、労働問題を引き受ける弁護士の方、そして当事者の私です。こうして2対2で厚生労働委員会の議員に訴えました。

三原じゅん子さんとか自民党の議員が多かったです。議長は丸川珠代さんでした。来ている議員たちは、視線を合わせられる距離で対面していました。事前に読んでもらう論文も配布していました。

私は基本的なことを述べて、その後質疑応答に入りましたが、自民党の方々は一切、興味関心を示さないのです。たぶん勉強してなかったんでしょう。私の論文も読んでくれなかったのだと思います。

ですから一切質問がこなかった。実は私は期待していたんですよ。派遣労働はこんなにすばらしいのになんであなたは文句を言うの? くらいの質問がくることは覚悟していたのですが、それすらありませんでした。

代わりに自民党の方々は何をやっていたか。まあ、仮眠してました。それから関係ない本を読んでいる。隣の人とぼそぼそしゃべりをしている。人に話を聞く態度ではないですね。学校でいったら学級崩壊の状況ですよ。

かたや立憲民主党(当時は民主党)、共産党、その他の野党の方々はそれなりに勉強してくださって、とてもいい質問をしてくれました。いい質問というのは、私の言葉から派遣の問題や矛盾を引き出すような質問ということなのですが。

明らかに与党と野党の熱量の違い、勤勉さ、誠実さ、常識のあるなしが目の当たりにしてわかりました。自民党の候補に票を入れる方々、その状況を見てください。みんなの税金使って自民党の議員は内職したり仮眠してるんですよ。そのためにみなさん、なけなしの税金を払ってるんですよね。

そのことだけをもってして、十分に怒る理由になると思います。同時に変えなければならないというモチベーションをさらに掻き立てられることになりました。

その後も派遣の体験を重ねたり、様々な状況を目の当たりにして発信していきました。たぶん山本太郎代表はその姿をいろんな形で見てくれていたのだと思います。それによるリクルートだったのです。

そんなわけで、いきなりマイクをもって街宣車に乗り込み、選挙戦に突入していきました。しかしもう後戻りできません。進んでいくしか私の道はないと思います。
(つづく)

『渡辺てる子の放浪記』(林克明著、同時代社)

▼林 克明(はやし まさあき)
ジャーナリスト。チェチェン戦争のルポ『カフカスの小さな国』で第3回小学館ノンフィクション賞優秀賞、『ジャーナリストの誕生』で第9回週刊金曜日ルポルタージュ大賞受賞。最近は労働問題、国賠訴訟、新党結成の動きなどを取材している。『秘密保護法 社会はどう変わるのか』(共著、集英社新書)、『ブラック大学早稲田』(同時代社)、『トヨタの闇』(共著、ちくま文庫)、写真集『チェチェン 屈せざる人々』(岩波書店)、『不当逮捕─築地警察交通取締りの罠」(同時代社)ほか。林克明twitter

『紙の爆弾』と『季節』──今こそ鹿砦社の雑誌を定期購読で!

《4月のことば》ゆっくりでいい 一歩一歩大地を踏みしめて 鹿砦社代表 松岡利康

《4月のことば》ゆっくりでいい 一歩一歩大地を踏みしめて(鹿砦社カレンダー2022より。龍一郎揮毫)

コロナ禍が続く中、新年度4月になりました。

新たなスタートの月です。

本来なら明るく行きたいところですが、国内ではコロナ禍が続き、国際的にはロシアがウクライナを侵略(侵攻ではなく侵略だ)し、ウクライナの必死の抵抗で長期化し停戦の見込みも立っていません。かつてのスターリニズムが生きていたことを実感させます。戦争は対岸の火事ではなく、明日は我が身、強い危機感があります。

国内外で混迷を極める中で、私たちはどう歩んでいったらいいのでしょうか。

そう、今月の言葉にあるように、「ゆっくりでいい 一歩一歩大地を踏みしめて」歩んでいくしかありません。

(松岡利康)

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一般職公務員のボーナスカットよりも、非正規公務員や介護・保育などの給料アップを通じて、なによりいまは「経済の底上げ」を! さとうしゅういち

国家公務員給与引き下げ法案が今国会に提出されています。一般職、特別職(大臣や議員など)ともにボーナスが0.15ヶ月引き下げられる内容です。このままだと与党や維新の賛成で成立するとみられます。

◆制約されている日本の公務労働者の労働三権

そもそも、公務員の給料の決まりかたはどうなのでしょうか? 日本の公務労働者は労働三権(団結権、団体交渉権、争議権)が制約されています。多くの分野の公務労働者はそうはいってもかつて筆者が所属した「自治労」や筆者の祖母が生前所属していた「日教組」などの労働組合(職員団体)に加入はできます(団結権)。皇室労働者にも「宮内庁職員組合」という労働組合はあり、天皇が(組合主催の文化祭に和歌を寄せるという形で)「参加」する唯一の労働組合です。しかし、いずれにせよ、団体交渉権や争議権は制約されています。

さらに、防衛労働者、警察労働者、海保労働者、法務教官労働者、消防労働者には組合さえありません。これは、諸外国からみると異常なことです。わたしはノルウェーのメーデーに参加した経験があります。このとき、インターナショナルを女性警察官が演奏して、それにあわせて参加者が歌っていました。そのとき、わたしがただ一人日本語でインターナショナルを歌って注目を浴びたので鮮明に記憶しています。実は戦後すぐは、警察労働者にも労働組合はみとめられていたのですが、いわゆる逆コースで禁止されてしまったのです。

◆代償としての人事院制度・人事委員会制度

こうした公務労働者の労働三権の制約の代償として、人事院制度・人事委員会制度(都道府県、政令指定都市、特別区)があります。

まず、人事院や人事委員会が民間企業の給料を調査します。それをもとに、人事院勧告・人事委員会勧告を出します。2021年の場合、人事院勧告は8月10日に内閣に提出されています。(https://www.jinji.go.jp/kankoku/r3/r3_top.html

そして、国が勧告についての取り扱いを閣議決定します。そして、地方自治体には、事務次官通知が送られます。

こうした手続きを経て、内閣は給与法の改正案を国会に、知事や市町村長は給与条例案を議会に提出します。

これらの案が可決されれば、民間企業に準じた給料アップが実施されます。ただし、自治体によっては、勧告どおりにならないケースもあります。筆者が勤務する広島県もそうでした。広島県では1990年代、あの河井案里さんの師匠にあたる男性大物県議がゼネコンの実質的なオーナーでもあり、「天皇」と恐れられるほど君臨していました。その「天皇」が1990年代に必要性の薄い大型事業を大学の後輩でもある当時の知事に強行させた結果、広島県は1990年代末には貯金が底を尽きました。その穴を埋めるために、職員の給料がターゲットにされました。人事委員会勧告が完全実施された場合に比べて3%~7%カットされたこともありました。

このように、自民党の身勝手なつけを労働者が払わされるケースは全国でありました。

また、東日本大震災のときには、民主党政権は復興財源捻出のため、公務員給料をカットしました。しかし、災害対策で激務を強いられた上に給料をカットされた公務労働者の怨嗟の声は高まりました。公務労働者のかなりの部分は民主党やのちの立憲民主党の支持基盤である労働組合の組合員です。そうした公務労働者も離反したことが、民主党政権崩壊、その後も組合員の票を自民党にとられて立憲民主党が苦戦する背景になっています。

◆コロナ災害という非常事態を考慮せよ

たしかに、コロナ災害で民間企業のボーナスは減っています。貰えればありがたい。そんな会社もあります。筆者の勤務先に至っては、ボーナスなんて存在しません。それはそれとして、平均すれば0.15ヶ月分下げるべき。それは、一見、正しいように見えます。

しかし、今回のとくに民間のボーナス減少はコロナという大災害によるイレギュラーなものと見なすべきでしょう。人事院勧告は、そもそも、民間の平均を算出するものだから、仕方がないとして、政府が人事院勧告をそのまま鵜呑みにしてよいのでしょうか?

もちろん、民間労働者のコロナ災害にともなう大幅な収入減は、国が補償するべきです。その上で、公務員の給料も一般職については、引き下げを回避すべきではないでしょうか? 現場公務員、とくに、公立病院関係者や保健所関係者はこの2年間はまるで野戦のような労働環境でした。その上にボーナス減少では士気の低下につながりかねません。

また、もし、今回の給与法改悪のように、公務員の給料を減らせば、災害によるイレギュラーな給料の低下がレギュラーなものとして定着してしまいかねません。

岸田政権の給料アップ方針自体はショボい。しかし、給料を引き上げるという方向性は正しいと思います。日本はいまや、非正規ばかりふやし、いわゆる失敗国家(内戦などで崩壊状態の国)以外では唯一といっていいほど給料が上がらない異常な国です。もちろん、給料引き上げは労働組合の仕事ですが、現状の組合、とくに連合にはそれは望むべくもありません。総理に給料アップで先行されて悔しい思いをして組合が奮起、というのが現実的なシナリオに思えます。

こうした中で、今回の国家公務員一般職員の給料引き下げは労働者の大幅な給料アップという、総理の方針実現にもマイナスです。地方公務員にも波及し、民間企業にも波及するでしょう。労働条件を「公務員準拠」にしている企業も多いからです。ただでさえ、ロシアとウクライナの戦争の影響で輸入物価が上昇して人々の暮らしが直撃されている中でさらに悲惨なことになりかねません。そして、岸田政権が掲げる「賃上げによる経済の底上げ」そのものも難しくなかってしまいます。

かつて、人事委員会勧告を無視して広島県は職員の給料カットを強行したことがありました。逆に今回は「コロナ災害」や「労働者の賃金アップを政府総がかりで実現することをきめている」という状況を踏まえて、「ボーナスカット」勧告を無視するという「政策判断」も「あり」ではないでしょうか?

◆財政出動でガツンと非正規も介護・保育も給料アップを

いま、やるべきは、財政出動ですべての人の暮らしを下支えすることです。正規公務員の給料引き下げで溜飲を下げてもらう場合ではありません。

もちろん、公務員でも教員ふくめて正規と非正規の格差は深刻です。とくに女性が多い部署にみられることですが、専門性が高い仕事ほど、非正規で使い捨てという場合がおおくあります。

2020年度からは、地方公務員にも、会計年度任用職員ができています。ボーナスも支給されるようになりました。しかし、これでも「基本給を下げてボーナスを支給」など、運用が不十分な実態があり、大幅な改善が必要です。さらに、労働時間を少し短縮することで会計年度任用職員ではなく、「パート」扱いで、同じ仕事をさせながら、労働条件を会計年度任用職員より低く押さえるセコい自治体も少なくありません。「維新」の「本拠地」の大阪では部署によってはほとんどが派遣社員というケースもあります。これでは、労働者の給料は低い上に、派遣会社が儲かるだけで市民の負担はむしろアップしかねません。

とにかく、そもそも非正規の労働条件が低すぎるのが問題であり、この20-30年正規公務員をへらしすぎたのが問題なのです。

介護など家庭の事情がある人は短時間正規公務員でよいのです。

また、たしかに、介護や保育と比べると、お役人の給料は仕事の割には高いのも事実です。筆者自身がかつては県庁マンとして働き、いまは民間で介護福祉士として働いているのだから、それはよくわかります。維新の議員などより、そのことは百万倍わかっているつもりです。

しかし、そもそも、介護や保育の労働条件が低すぎるのが大問題なのです。一般職公務員の給料は据え置いて、財政出動により、ガツンと我々、介護や保育などケア労働者の給料をアップしてください。総理、維新のような「低いほうに合わせる」格差是正ではなく、筆者やれいわ新選組が提言してきた「高いほうに合わせる」格差是正をお願いします。

◎【参考】大石あきこ議員のTwitter https://twitter.com/oishiakiko/status/1501423247987863557

私は一般職給与法に方に断固反対の立場から、また特別職給与法並びに育休法には賛成の立場から討論を行います。

一般職給与法について、先ほども申し上げましたけれども反対です。

今政府が行うべきは、自らが「骨太の方針2021」において謳った「賃上げを通じた経済の底上げ」を文字通り行うべきです。

▼さとうしゅういち(佐藤周一)
元県庁マン/介護福祉士/参院選再選挙立候補者。1975年、広島県福山市生まれ、東京育ち。東京大学経済学部卒業後、2000年広島県入庁。介護や福祉、男女共同参画などの行政を担当。2011年、あの河井案里さんと県議選で対決するために退職。現在は広島市内で介護福祉士として勤務。2021年、案里さんの当選無効に伴う再選挙に立候補、6人中3位(20848票)。広島市男女共同参画審議会委員(2011-13)、広島介護福祉労働組合役員(現職)、片目失明者友の会参与。
◎Twitter @hiroseto https://twitter.com/hiroseto?s=20
◎facebook https://www.facebook.com/satoh.shuichi
◎広島瀬戸内新聞ニュース(社主:さとうしゅういち)https://hiroseto.exblog.jp/

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冤罪説が根強い飯塚事件・久間三千年氏の「陰茎出血」は無実の証拠である 片岡 健

先日、エンペディア(Enpedia)というオンライン百科事典に設けられた「飯塚事件」のページ(https://enpedia.rxy.jp/wiki/%E9%A3%AF%E5%A1%9A%E4%BA%8B%E4%BB%B6)で、私の編著『絶望の牢獄から無実を叫ぶ—冤罪死刑囚八人の書画集』(鹿砦社)が〈鳥越俊太郎や清水潔に比べるとかなり無名のジャーナリストの本〉として紹介されていることに気づいた。

同書の第1章では、1992年に福岡県飯塚市で小1の女児2人が殺害されたこの事件の犯人とされ、2008年に死刑執行された久間三千年さん(享年70)が冤罪であることをわかりやすく説明しつつ、久間さんが死刑執行直前に獄中で綴った手記を紹介したり、この冤罪処刑に関与した警察、検察、法務省の責任者らに取材した結果を報告したりしているのだが、エンペディアでは拙著の内容に批判的なことばかり書かれている。

つまり、このエンペディアの執筆者は久間さんのことを「クロ」だと思っているのだろう。

そのこと自体は構わないが、この人は久間さんに対する福岡地裁の死刑判決(以下、確定死刑判決)に目を通していながら、その内容をよく理解できていないように思える点がある。この人は当欄も見てくれているようなので、この場で指摘しておきたい。

◆「片岡も陰茎出血といった証拠には言及していない」と批判されているが…

エンペディアの「飯塚事件」のページの記述のうち、それにあたるのは以下の部分だ。

〈当然ながら、片岡も陰茎出血といった証拠には言及していない。〉(エンペディアより。2022年2月24日アクセス)

この記述の趣旨は以下のようなことだと思われる。

確定死刑判決では、久間さんが事件当時、亀頭包皮炎を患っており、外部からの刺激により容易に出血する状態だったと認定されたうえ、被害女児2人の性器やその周辺、彼女たちの遺体遺棄現場で採取された血痕は久間さんが犯行時に出血したものであるかのように判示されている。このエンペディアの執筆者は、拙著がそのことに言及していないのは、久間さんに不利な事実を隠すためだと考えたようだ。

これは完全な誤解だ。なぜなら、事件当時、陰茎から容易に出血する状態だったことは、むしろ久間さんの無実を裏づける事実だからだ。

エンペディアの「飯塚事件」のページ

◆「陰茎出血」に関する久間さんの供述は「無知の暴露」

というのも、峠道沿いに遺棄されていた被害女児2人の遺体は、処女膜などの損傷の状況から性器に犯人の指と爪が挿入されていたと認められたが、犯人の陰茎が挿入された形跡は確認されていない。それにもかかわらず、久間さんは逮捕前、警察官に対して亀頭包皮炎の病状を次のように供述していたのである。

「シンボル(陰茎)の皮がやぶけてパンツ等にくっついて歩けないほど血がにじんでしまう。オキシドールをかけたら飛び上がるほど痛かった。シンボルが赤く腫れ上がった。事件当時ごろも挿入できない状態で、食事療法のため体力的にもセックスに対する興味もなかった」(確定死刑判決より)

この証言を見ると、久間さんは犯人が被害女児たちとセックスしたことを前提に、警察官に身の潔白を訴えていたことがわかる。実際には、犯人は被害女児たちの性器に自分の陰茎を挿入しておらず、すなわち、犯人は被害女児たちとセックスしていないにもかかわらずに、だ。

このような供述は、供述心理学で「無知の暴露」と言われる。本当の犯人の供述には、犯人でなければ知りえない「秘密の暴露」が現れるが、本当は犯人ではない被疑者の供述には、実際の犯行を知らないことを示す「無知の暴露」が現れる。久間さんは、犯人ではないため、わいせつ目的の小児性愛者であることが想像されるこの事件の犯人が「被害女児たちとセックスしている」と勘違いしていたわけである。

私が拙著で久間さんの「陰茎出血」に言及し、このことを説明しなかったのは、情報過多になると本は読みにくくなり、読者の理解を妨げるためだ。エンペディアの執筆者のおかげで、この機会にそのことが説明できてよかった。

無実の罪により処刑された久間さんの生命はもう戻らない。せめて遺族が現在請求中の再審が実現し、一日でも早く久間さんの雪冤がなされることを願うばかりだ。

▼片岡健(かたおか けん)
ノンフィクションライター。stand.fmの音声番組『私が会った死刑囚』に出演中。編著に電子書籍版『絶望の牢獄から無実を叫ぶ―冤罪死刑囚八人の書画集―』(鹿砦社)。

「絶望の牢獄から無実を叫ぶ[改訂版]―冤罪死刑囚八人の書画集―」(片岡健編/鹿砦社)
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岡田万祐子検事が作田学・日本禁煙学会理事長を不起訴に ── 横浜副流煙事件、権力構造を維持するための2つのトリック 黒薮哲哉

2022年3月15日、横浜地検の岡田万佑子検事は、日本禁煙学会の作田学理事長を不起訴とする処分を下した。

この事件は、作田理事長が患者を診察することなく、「受動喫煙症」等の病名を付した診断書を交付した行為が、医師法20条に違反し、刑法160条を適用できるかどうかが問われた。

医師法20条は、次のように患者を診察することなく診断書を交付する行為を禁止している。

【引用】「医師は、自ら診察しないで治療をし、若しくは診断書若しくは処方せんを交付し、自ら出産に立ち会わないで出生証明書若しくは死産証書を交付し、又は自ら検案をしないで検案書を交付してはならない。但し、診療中の患者が受診後二十四時間以内に死亡した場合に交付する死亡診断書については、この限りでない。」

一方、刑法160条は、次のように虚偽診断書の「公務所」(この事件では、裁判所)への提出を禁じている。

【引用】「医師が公務所に提出すべき診断書、検案書又は死亡証書に虚偽の記載をしたときは、3年以下の禁錮又は30万円以下の罰金に処する。」

横浜地検が送付した処分通知書

告発人の藤井敦子さんらは、岡田検事が下した不起訴処分(嫌疑不十分)を不服として、検察審査会へ審理を申し立てた。しかし、4月16日で事件が時効になるために、作田医師が起訴されないことがほぼ確実になった。作田医師は、岡田検事による法解釈と時効により、2重に「救済」されることになる。

◎[参考資料]審査申し立ての理由書全文
 http://www.kokusyo.jp/wp-content/uploads/2022/03/mdk220321-2.pdf

筆者は、この刑事告発を通じて日本の司法制度のからくりを理解した。2つの「装置」の存在を確認した。法律を我田引水に解釈することを容認する慣行と、時効による「免罪」である。いずれも権力構造を維持するための「装置」にほかならない。検察は昔からおなじ手法を繰り返してきた可能性が高い。

この点に言及する前に事件の概要を説明しておこう。

◆事実的根拠に乏しい診断書で4518万円を請求

この事件の発端は、2017年11月にさかのぼる。ミュージシャンの藤井将登さんが自宅で煙草を吸っていたところ、同じマンションの住民一家3人(夫妻とその娘)から、副流煙で健康被害を受けたとして4518万円を請求する裁判を横浜地裁で起こされた。3人が金銭請求の根拠にしたのが、「受動喫煙症」等の病名を付した娘の診断書だった。

ところが審理の中で、この診断書を作田理事長が娘を診察しないまま交付していたことが分かった。作田医師は、娘となんの面識もなかった。さらに3人の原告のうち、ひとりに25年の喫煙歴があることも判明した。

つまり高額訴訟の根拠となった事実に強い疑念が生じたのである。

横浜地裁は、単に原告3人の請求を棄却しただけではなく、作田医師による診断書交付が医師法20条違反にあたると認定した。これまでの判例によると医師法20条違反は、刑法160条の適用対象になる。

そこで前訴で被告にされた藤井将登さんが、作田医師に対して虚偽診断書行使罪で神奈川県警青葉署へ刑事告発したのである。告発人には、将登さんのほかにも、妻の敦子さんら数名が加わった。青葉署は2021年5月に刑事告発を受理して捜査に入った。そして2022年の1月に横浜地検へ作田医師を書類送検した。

しかし、横浜地検の岡田検事は、事件の当事者から事情聴取することなく嫌疑不十分で不起訴を決めたのである。

◆動物の診断書も無診察は許されない

藤井敦子さんは、不起訴の理由を岡田検事に電話で問い合わせた。わたしはその録音テープを視聴した。その中で最も気になったのは、作田医師が娘の診断書を交付する際に、娘が別の医療機関で交付してもらった診断書等を参考にしたから、虚偽診断書とまではいえないという論理だった。

◎[参考資料]藤井敦子さんによる取材音声
 https://rumble.com/vy7w3h-57475133.html?fbclid=IwAR1pbAQZ505EuewQY0s6dg7PRo24OPh3r__-u11DG6UvU55QH2hEV1l94ek

しかし、作田医師が交付した診断書には、娘が「団地の一階からのタバコ煙にさらされ」ているとか、「体重が10Kg以上減少」したといった事実とは異なる記述が多数含まれている。これらの記述は、作田医師が参考にしたとされる他の医師が書いた診断書には見あたらない。つまり作田医師が交付した診断書の所見には明らかな「創作」が含まれているのだ。

こうした診断内容になった原因のひとつは、作田医師が娘を診察しなかったからにほかならない。あるいは事件の現場を検証しなかったからである。さらに禁煙運動という日本禁煙学会の政策目的があったからだ。

ちなみに獣医師が動物の診断書を交付する際にも、診察しないで診断書を交付する行為を禁じている。次の法律である。

【引用】「第十八条:獣医師は、自ら診察しないで診断書を交付し、若しくは劇毒薬、生物学的製剤その他農林水産省令で定める医薬品の投与若しくは処方若しくは再生医療等製品(医薬品、医療機器等の品質、有効性及び安全性の確保等に関する法律(昭和三十五年法律第百四十五号)第二条第九項に規定する再生医療等製品をいい、農林水産省令で定めるものに限る。第二十九条第二号において同じ。)の使用若しくは処方をし、自ら出産に立ち会わないで出生証明書若しくは死産証明書を交付し、又は自ら検案しないで検案書を交付してはならない。ただし、診療中死亡した場合に交付する死亡診断書については、この限りでない。」

動物についても、人間についても、無診察で診断書を交付する行為は法律で厳しく禁じられているのだ。

改めて言うまでもなく、法律は文字通りに解釈するのが原則である。好き勝手に解釈することが許されるのであれば、秩序が乱れ、法律が存在する意味がなくなるからだ。

医師法20条は、他の医師の診断書を参照にすれば、患者を診察することなく診断書を交付することが許されるとは述べていない。

現在の司法制度の下では、検事が我田引水の法解釈をすることで、起訴する人物と起訴しない人物を選別できるようになっている。これが公正中立の旗を掲げて、権力構造を維持するためのひとつの「装置(トリック)」なのである。

◆時効というトリック

もうひとつの「装置」は、時効のからくりである。作田医師を被告発人とするこの事件の時効は、2022年4月16日である。藤井さん夫妻は、検察審査会に審理を申し立てたが、この日までに起訴されなければ、事件は時効になってしまう。検事が「牛歩戦術」を取れば、時効がある事件では被疑者を無罪放免にできる制度になっているのだ。「時効」も権力構造を維持するための巧みな「装置」なのである。

なお、岡田検事はこの事件の処分を決めるに際して厚生労働省に相談したという。内容は、藤井敦子さんが岡田検事に対して行ったインタビューで確認できる。この事実は、「民主主義」の仮面の下に、日本を牛耳っている面々が隠れていることを物語っている。

◆岡田検事に対する質問状
 
筆者は、岡田検事に対して下記の問い合わせを行ったが回答はなかった。

・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・

2022/03/23  

岡田万佑子検事殿
発信者:黒薮哲哉

 はじめて連絡させていただきます。
 わたしはフリーランス記者の黒薮哲哉と申します。

 貴殿が担当された横浜副流煙事件(令和4年検第544号)を取材しております。
 3月15日付で貴殿が下された不起訴処分について、お尋ねします。告発人の藤井敦子氏と貴殿の会話(18日)録音を聞いたところ、貴殿が処分を決める前に厚生労働省に相談されたことを裏付ける発言がありました。

 つきましては、次の点について教えてください。

1,厚労省の誰に相談したのか。

2,相談した相手から、どのようなアドバイスを受けたのか。

 また上記質問とは別に、次の点について教えてください。

3,他の医師の診断書を参照にした場合は、無診断で診断書を交付してもかまわないという法律はあるのでしょうか。

 25日(金曜日)の午後1時までに、ご回答いただければ幸いです。よろしくお願いします。

【連絡先】
Eメール:xxmwg240@ybb.ne.jp
電話:048-464-1413

・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・


◎[参考動画]【横浜副流煙裁判】ついに書類送検!!分煙は大いに結構!!だけどやりすぎ「嫌煙運動」は逆効果!!

▼黒薮哲哉(くろやぶ・てつや)
ジャーナリスト。著書に、『「押し紙」という新聞のタブー』(宝島新書)、『ルポ 最後の公害、電磁波に苦しむ人々 携帯基地局の放射線』(花伝社)、『名医の追放-滋賀医科大病院事件の記録』(緑風出版)、他。
◎メディア黒書:http://www.kokusyo.jp/
◎twitter https://twitter.com/kuroyabu

黒薮哲哉『禁煙ファシズム-横浜副流煙事件の記録』

河井事件で暴走官僚市長が「漁夫の利」の皮肉? 広島市議補選第1ラウンド、「低投票率で隠れ自公主流圧勝」 さとうしゅういち

参院選広島2019で河井案里さん(当選無効)派から賄賂をもらったとして略式起訴され辞職した議員が広島市議会で6人おられます。それに伴う補欠選挙の第一ラウンドともいえる安芸区の補欠選挙が2022年3月20日、執行されました。

他方で最近では衆院選2021で、維新の衆院議員が安芸区を含む4区から比例復活とはいえ、誕生しました。

無所属新人ですが、実際には公明党と自民党の主流派が推す元市職員の西佐古晋平さんが、維新新人の大田智弘さん、共産元議員の中石仁さんらをやぶり、得票率50%を超える圧勝となりました。投票率は20.6%でした。

▼安芸区補選2022開票結果
西佐古晋平 無所属新人 6582(公明党、自民党多数派支援) 
大田智弘  維新新人  2776.426
中石 仁  共産元職  2377
大田 清  無所属新人 1072.573

安芸区補選2022に立候補された方々

なお、投票率が低いのは、補選で当選した人は複数区の本選挙ではライバルになるので、同じ政党の議員からの支援は手を抜き気味になるからです。野党の場合も、共産党が参院選2022では複数区の広島ではライバルになるので、公式な野党共闘というわけにはいきませんでした。

◆広島市安芸区とは 超保守王国、ただし過去には例外も

安芸区は広島市の東部に位置します。実は筆者の妻の実家もあり、わたしの本籍地でもあります(わたしは、戸籍上は妻の苗字で妻が戸籍筆頭者です)。自衛隊の海田駐屯地も一部安芸区にかかっています。安芸郡海田町によって、分断されています。ちなみにこの海田町は筆者の勤務先のひとつがあります。

海田町によって飛び地となっている安芸区矢野地区は西日本大水害2018で壊滅的な被害を受け、多くの市民が亡くなられました。保守的な風土で有名で、私が広島県内にUターンした2000年以降は全ての市議選通常選挙で自民党系(公認や推薦とわず)が4議席を独占しています。

▼市議選2019安芸区開票結果
おきむね正明 自民系現職 4907 河井事件で辞職し略式起訴
金子和彦   自民現職  4871
川口しげひろ 自民系新人 4173
三宅正明   自民現職  3917
以上当選
中石 仁   共産現職  3259 後述補選2018で当選も再選ならず
かなざわ陽介 無所属新人 1968

いっぽう、県議はかつて自民党の「天皇」とも呼ばれた河井案里さんの大学の先輩で師匠にあたる男性議員と大手労働組合(もちろん原発推進、消費税増税推進)男性議員で独占しています。参院選広島は改選数をほぼ自民党の高級官僚・世襲の議員と野党とはいっても大手労働組合組織内議員でしめていましたが、こうした超保守王国広島を象徴する地域です。

ただし、何事にも例外はあります。2018年、25年ちかく市議を務めてきた自民党議員が政務活動費を不正受給していたとして起訴され、辞職。その補欠選挙は、共産党の中石仁さんと、起訴された議員の妻の対決でした。この妻は夫から「身代わり」といわれていた方でした。「あまりにも市民をなめている」という反発がおき、共産党の中石仁さんが自身初めての当選となりました。

▼安芸区補選2018開票結果
中石仁    共産新人  5585
熊本じゅんこ 無所属新人 4783(辞職議員の妻)

また、衆院選2021では、安芸区を含む4区で維新が比例復活ですが、議席を得ています。

▼衆院選2021比例区安芸区開票結果
自民党     15222
立憲民主党   4761
日本維新の会  4569
公明党     3156
共産党     1487
国民民主党   1095
れいわ新選組   791
社民党      492
N裁党      435
合計     32008

◆市長と距離がある議員二人が起訴される

今回、安芸区では沖宗正明議員が略式起訴され、辞職しました。また、三宅正明議員は徹底抗戦の構えで起訴されました。沖宗議員は、医師で筆者の妻も幼少時にお世話になっていたそうです。自民党、公明党、連合広島が推す現市長とは距離をおいていました。逆に革新系の秋葉忠利市長の時代には保守でありながら秋葉市長には是々非々の対応でした。

今回、その沖宗議員の穴を埋める補欠選挙で、市長与党が推す方が選ばれる結果となりました。

◆市議の起訴で助かった?!ネオリベ官僚の現市長

松井一実・広島市長は厚労省官僚のご出身。実は筆者の父の部下だった時代があるそうです。父によると市長は大変真面目な男だったそうです。筆者も市長は真面目だと思います。しかし、問題はその中身です。

中央政府、とくに総務省が自治体に押し付けてくる新自由主義的な施策を大真面目にやってしまう。そして市民の意見をあまり聞かずに暴走してしまう。その結果、自民党市議の中からも市長と距離をおく議員が出てくる。これが実態です。

ちなみに、河井案里さんは、県議でしたが、ともに官僚のご出身である市長と知事をぼろくそにけなすことで、熱狂的なファンも獲得していたのも事実です。逆に知事と市長は参院選2019では案里さん以外の有力候補2名を応援しました。ですから、市長と河井夫妻の確執は地元では有名です。

先日も市長は市立の中央図書館やこども図書館をなんと駅前のデパートの入っている建物に移そうという案を発表。10月の発表からろくに市民の意見も聞かないまま、関連予算を2022年度予算案に計上するという「事件」を起こしています。にぎやかすぎる場所に小中高が主に利用する図書館を移転する。素人目にみても唐突です。「そこをけちりますか?」という話です。

当然、議会で反発がおき、自民党で市長と距離をおく会派が出した図書館移転の関連予算削除の修正案に共産党も相乗り。21対24で否決されました。ちなみに立憲民主党議員は、予算の修正に反対して市長をかばいました。

こういう背景がある中で、今回の安芸区での2名の起訴を一番喜んでいるのは市長かもしれません。

逆に市民の立場に純粋に立てば「腐った議員が起訴されて良かった」と単純に喜んでいる場合ではないのです。

さらにいえば、起訴された議員を批判している立憲民主党さんが市長の暴走をかばうという構図にも頭がいたくなります。

そんなことだから、衆院選2021で惨敗したのだ、と申し上げたい。

◆維新と共産で自民批判票割れの構図

今回の安芸区補選では、維新の大田さんが実は、リベラルな方でした。彼は過去、広島市内の別の選挙区で県議や市議に旧民主党系で何度か立候補経験があります。被爆2世で脱原発、核兵器禁止条約推進、格差是正の立場です。今回の安芸区補選では、「誰か出さないといけない」ということで、立候補経験がある大田さんが落下傘で立候補された形です。保守から「自民党にお灸を据える」票を取るというよりは、ただでさえ少ないリベラルの票を共産党の中石仁さんと、分け合う形になりました。

維新の中央はいまや、核共有、憲法改悪、原発再稼働を自民党以上に「ガツン」と政府に提言する危険な勢力です。しかし、個々の候補者はリベラルな方も少なくない。そこで、リベラル系の票もかなり維新に流れる。立憲民主党さんが、市長の暴走をかばうという構図もあるわけで、なおさら、維新が注目されてしまいます。

また、リベラルな方でも、議員定数削減には賛成という方も少なくない。なんとなくクリーンそう、というイメージもあるのです。

◆「河井批判」は賞味期限切れ 他野党とは切磋琢磨の関係で

そして、今回の安芸区補選であきらかになったのは、「河井批判」そのものは賞味期限切れになっているということです。

参院選再選挙2021で自民党が負け、収賄市議や県議も起訴されて「これで勘弁してやろう」という思いも保守層には広がっているとおもいます。今回の安芸区補選では、当選した西佐古さんが防災対策を中心に訴えたのに対して、維新と共産は「河井事件批判」が軸だった。

安芸区補選の投票日の3月20日にれいわ新選組支持者のみなさまとともに街頭演説する筆者

しかし、安芸区ではやはり、西日本大水害2018の経験から防災・減災対策への関心は非常に強い。また、広島市では市長の暴走にいかに歯止めをかけるということも、保守・リベラル関係なく課題です。市民生活に直接関係するからです。広島県内全体に目をひろげても、広島県は、前知事のもとで、大阪に先行して自治体を減らし、公務員を減らしすぎました。まさに、新自由主義の弊害に苦しんでいます。県議や国政であれば新自由主義による弊害の是正が大きな課題です。これらを考えると、「河井批判」に比重が行き過ぎている立憲民主党さん、日本共産党さんの戦略では苦しいのではないか?

もちろん、れいわ新選組を全面的にバックアップする筆者は立憲民主党さん、共産党さんとも衆院の小選挙区での野党共闘や核兵器禁止条約推進、憲法改悪阻止など組むべき場面では組む大人の対応をとります。しかし、参院選2022広島では筆者自身も選択肢に「消費税廃止やガソリン税ゼロ、奨学金チャラ、介護や保育の労働者の給料10万アップ、非正規公務員の正規化」などを軸に「ガツンと財政出動で暮らしの安全保障」を確保し、「核兵器禁止条約ふくむ憲法をいかした緊張緩和外交やグリーンニューディール」で「核兵器も原発もない世界」を目指すビジョンを高々と掲げ、闘い抜く覚悟です。

「複数区では野党が切磋琢磨したほうがよい。」この間の立憲民主党さん、共産党さんの動き方を拝見して、衆院選2021以降の筆者の考え方は強化されました。

▼さとうしゅういち(佐藤周一)
元県庁マン/介護福祉士/参院選再選挙立候補者。1975年、広島県福山市生まれ、東京育ち。東京大学経済学部卒業後、2000年広島県入庁。介護や福祉、男女共同参画などの行政を担当。2011年、あの河井案里さんと県議選で対決するために退職。現在は広島市内で介護福祉士として勤務。2021年、案里さんの当選無効に伴う再選挙に立候補、6人中3位(20848票)。広島市男女共同参画審議会委員(2011-13)、広島介護福祉労働組合役員(現職)、片目失明者友の会参与。
◎Twitter @hiroseto https://twitter.com/hiroseto?s=20
◎facebook https://www.facebook.com/satoh.shuichi
◎広島瀬戸内新聞ニュース(社主:さとうしゅういち)https://hiroseto.exblog.jp/

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定期興行拡大のKICK Insist、今後を占う前哨戦! 堀田春樹

毎年、秋の開催だったビクトリージム主催の「KICK Insist」も今年からボリュームアップ。今回も新宿フェースに於いては昼と夜の二部制で開催。

今野顕彰は開始早々からパンチで圧倒され、巻き返す前に倒された。新たな挑戦でインターナショナル王座獲得は成らず。

永澤サムエル聖光は5回戦を集中して戦い切る展開で判定勝利を飾る。

◎KICK Insist 12 第1部 / 3月20日(日)新宿フェース 14:00~16:10
主催:(株)VICTORY SPIRITS / 認定:ジャパンキックボクシング協会(JKA)

◆第7試合 第1部メインイベントWMOインターナショナル・ミドル級王座決定戦 5回戦

JKAミドル級チャンピオン.今野顕彰(市原/72.57kg)vs シュートン・BKK(タイ/70.5kg)
勝者:シュートン・BKK / TKO 2R 0:37
主審:ノッパデーソン・チューワタナ
スーパーバイザー:ナタポン・ノーナクシン

シュートン・BKKはタイでの元・パタヤ地区フェザー級チャンピオンの実績を持つベテラン戦士。

第1ラウンド早々のわずかな蹴りの様子見からいきなり重いパンチでラッシュしたシュートン。今野をコーナーに詰め、右トレートから左右フック連打。今野はコーナーを脱出してもすぐ他のコーナーへ追い詰められる。

シュートン・BKKの右ストレートが今野顕彰にヒット、最初のノックダウンとなった

まともに打たれることだけは逃れ、シュートンが打ち疲れになれば今野の反撃のチャンスだが、第2ラウンドも勢い衰えなかったシュートン。右ストレート喰らった今野は脚をふら付かせながらもノッパデーソンレフェリーは様子を見ながら続行。今野のグロッギー状態へ更に右ストレートを喰らうとノーカウントで試合をストップ。

何とか凌いでからの今野の反撃を期待したが、小柄なシュートンでもベテラン戦士のパワーは侮れない勢いだった。

今野顕彰を倒してWMOインターナショナル王座獲得したシュートン・BKK

◆第6試合 女子(ミネルヴァ)57.0kg契約3回戦(2分制)

浅井春香(KICKBOX/57.0kg)vs 寺西美緒(GET OVER/56.8kg)
勝者:浅井春香 / 判定3-0
主審:中山宏美 / 副審:仲30-28. 桜井30-28. 椎名30-28

ミネルヴァ・スーパーバンタム級チャンピオンの浅井春香はパンチと蹴り、組み合ってもヒザ蹴りで上手さを見せたが、寺西が下がらずパンチと蹴りで浅井のリズムを狂わし、浅井は攻め倦む苦しさを滲ませながらヒザ蹴りが上回って攻勢を維持して判定勝利したが喜べる内容ではなかったような浅井の表情だった。

浅井春香の前蹴りが寺西美緒の前進を止めるが、寺西の圧力ある反撃も目立った

◆第5試合 ウェルター級3回戦

JKAウェルター級1位.政斗(治政館/66.68kg)vs 同級2位.ダイチ(誠真/66.68kg)
勝者:政斗 / 判定3-0
主審:桜井一秀 / 副審:仲30-26. 中山28-26. 椎名29-26

政斗は経験値が優って落ち着いた右ストレートでノックダウンを奪い、第3ラウンドにもノックダウンを奪ったが、ダイチがパンチと蹴りで反撃して来ると、政斗は倒し切れないもどかしい表情を見せるも大差判定勝利となった。

経験値で優った政斗の左ジャブがダイチにヒット

◆第4試合 フェザー級3回戦

JKAフェザー級2位.皆川裕哉(KICKBOX/57.15kg)vs WBCムエタイ日本フェザー級8位.大脇武(GETOVER/56.6kg)
勝者:大脇武 / 判定1-2
主審:椎名利一 / 副審:桜井29-28. 中山28-29. 仲28-29

武のローキック、皆川のヒジやパンチはアグレッシブな展開は好ファイトとなったが、終盤、やや蹴られて下がった皆川は印象が悪く、第3ラウンドは大脇にポイントが流れた感は拭えない。第1~2ラウンドの振り分けは難しい見極めの中、スプリットデジションとなった。

スピーディーな展開の中、皆川の蹴りに合わせた大脇武の右ストレートがヒット

◆第3試合 ライト級3回戦

JKAライト級3位.興之介(治政館/61.15kg) vs 旭野穂(野良犬道場/61.05kg)
勝者:興之介 / TKO 1R 2:23
主審:仲俊光

◆第2試合 フライ級3回戦

拓真(治政館/50.7kg)vs 花澤一成(市原/50.5kg)
引分け1-0 / (30-29. 29-29. 29-29)

◆第1試合 ライト級3回戦

古河拓実(KICKBOX/61.1kg)vs JKIライト級9位.渡辺雄太(マイウェイ/60.7kg)
勝者:古河拓実 / 判定3-0 (30-27. 30-27. 30-27)

◎KICK Insist 12 第2部 18:00~20:05

◆第6試合 第2部メインイベント 62.5kg契約 5回戦

スタミナ消耗へ、ボディーブローを炸裂させた永澤サムエル聖光

WBCムエタイ日本ライト級チャンピオン.永澤サムエル聖光(ビクトリー/62.4kg)
vs
パランラック・FELLOW GYM(元・MAX MUAYTHAI 61.5kg覇者/タイ/61.5kg)
勝者:永澤サムエル聖光 / 判定3-0
主審:椎名利一
副審:仲49-48. 中山50-48. 桜井49-48

永澤にWMOインターナショナル王座挑戦の前哨戦として5回戦が組まれ、しぶとく戦うパランラックとマッチメイク。

永澤はパンチから蹴りの組み立て、ローキック、ボディーブローで弱らせても強引に出ることは無いが、相手を弱らせていく流れは前哨戦として良い流れを掴んで僅差ながら内容は圧倒の判定勝利。また一つ上の王座目指して的確に組み立てた展開は成功だった。

上下打ち分け、ローキックをヒットさせる永澤サムエル聖光

◆第5試合 ライト級3回戦

JKAライト1位.睦雅(ビクトリー/61.23kg)vs 同級4位貴政(治政館/61.1kg)
勝者:睦雅 / TKO 2R 0:37 / カウント中のレフェリーストップ
主審:桜井一秀

睦雅がローキックで貴政を弱らせ、右ストレートでノックダウンを奪い、第2ラウンドには右ミドルキックから右フックを繋げノックダウンを奪い、カウント中のレフェリーストップとなった。

蹴りからパンチを繋いで貴政を倒した睦雅

◆第4試合 58.0kg契約3回戦

JKAフェザー級1位.櫓木淳平(ビクトリー/57.8kg)vs 眞斗(KIX/57.35kg)
勝者:櫓木淳平 / 判定2-0
主審:仲俊光 / 副審:桜井29-29. 中山29-28. 椎名30-29

パンチとローキックの一進一退の攻防は激しい展開でも落ち着いた試合運びを展開。櫓木がやや的確さで優り、組み合っても押してヒザ、コーナーに詰めてヒジ打ちはインパクトを与えて僅差ながら判定勝利。

櫓木淳平の前蹴りで、掠る程度だが眞斗の顔面にヒット

◆第3試合 女子(ミネルヴァ)ピン級(-45.359kg)挑戦者決定戦3回戦(2分制)

1位.藤原乃愛(ROCK ON/45.0kg)vs 6位.撫子(GRABS/44.3kg)
勝者:藤原乃愛 / 判定3-0
主審:中山宏美 / 副審:桜井30-26. 仲30-27. 椎名30-26

1月9日の対戦で引分けているが、今回は王座挑戦権を懸けた試合となって前回より積極的に蹴り合った両者。第2ラウンドには乃愛が前蹴りでノックダウンを奪うタイミングのいい蹴り。ここから調子上がり、主導権を奪った乃愛が蹴りのヒットを増やして大差判定勝利。

再戦で、より柔軟な蹴りで優った藤原乃愛

◆第2試合 54.5kg契約3回戦

JKAバンタム級4位.樹(治政館/54.5kg)vs 宮坂桂介(ノーナクシン東京/54.5kg)
勝者:宮坂桂介 / 判定0-3 (28-30. 28-29. 28-29)

◆第1試合 ウェルター級3回戦

山内ユウ(ROCK ON/66.4kg)vs 正哉(誠真/66.68kg)
勝者:正哉 / 判定0-2 (27-29. 28-30. 29-29)

《取材戦記》

タイ国発祥の認定組織は幾つもあるが、World Muaytahi Organization(WMO)も、ジャパンキックボクシング協会に於いては上位王座として定着してきた感があります。

今野顕彰に試練のムエタイ戦。シュートンに打ち抜かれた強打だったが、第1ラウンドは攻められながらも強打は打たれないテクニックで凌ぎ切った今野。歩いて控室に帰って意識ははっきりしていたが、試合を振り返って貰う余裕は無かった。疲れとダメージあって記憶も定まらないところに、私(堀田)が鬱陶しいこと聞いて申し訳なかった。

永澤サムエル聖光は2020年1月5日にジャパンキックボクシング協会ライト級王座決定戦で興之介を倒して初のタイトルを獲得後、同年9月12日、NJKFに赴いてWBCムエタイ日本ライト級王座を鈴木翔也と争い、判定勝利で王座獲得。コロナ禍を挟んで今年2月12日には健太(ESG)に判定勝利し初防衛も果たした。国内トップクラスを維持する存在感が増し、今後の日本人対決やムエタイ第一線級戦に期待が持てる存在に成長。2015年から勝次(藤本)と2度対戦して敗れている永澤サムエル聖光で、今や対戦の可能性は無くなったが、もし戦えばお互い負けられない立場であろう。

同・協会ライト級1位にランクする同門の睦雅も貴政を倒してTKO勝利を飾った。王座挑戦の機会を覗いつつ、永澤との同門対決は視野に無い様子でも、トップを目指す展開は見物でしょう。そんな存在感が増してきた睦雅である。

ビクトリージムはこの日出場した櫓木淳平の他、瀧澤博人、細田昇吾、石原將伍など、王座やランキングに名を連ねる選手が充実しています。今後のKICK Insistでの王座絡みに注目したいところです。

第2部 メインイベント予定だった、瀧澤博人vs ガイヤシットHIKARIMACHI(タイ)戦は瀧澤博人が、コロナ感染症防止対策の為、一定の待機期間を設ける必要のある選手に該当することが判明し、出場を見合わせとなりました。このカードは7月17日(日)新宿フェースに於いてのKICK Insist.13に延期となりました。

ジャパンキックボクシング協会次回興行は5月1日(日)後楽園ホールに於いて武田幸三さん主催Challenger.5が開催予定です。

▼堀田春樹(ほった・はるき)[撮影・文]
フリーランスとしてキックボクシングの取材歴32年。「ナイタイ」「夕刊フジ」「実話ナックルズ」などにキックのレポートを展開。ムエタイにのめり込むあまりタイ仏門に出家。座右の銘は「頑張るけど無理しない」

「ロシア帝国主義の実践者」プーチン大統領と蜜月し、迎合しながら横暴を許し、国益を損ねてきた日本の要人たちに問われる政治責任 横山茂彦

◆戦争犯罪者は日本で歓迎されていた

1991年の湾岸戦争や2000年代の中東におけるアメリカの蛮行(侵略戦争)は、イスラム世界に距離をもつヨーロッパ、日本において、いわば「対岸の火事」であった。自衛隊の海外派兵という国内政治での反対デモはあっても、ムスリムのために支援を申し出る人たちは稀だった。

いま、その舞台が近代の淵源であるヨーロッパであるがゆえに、われわれはプーチンの蛮行に激しい憤りを実感している。ヨーロッパを20世紀の戦争時代にもどしたプーチンへの驚き、戦争犯罪への怒りは、テレビで伝わってくるシーンの数々をみるにつけて、終わることがない。

いっぽう、戦況はNATOから供与されたジャベリン(対戦車ミサイル)、スティンガー(地対空ミサイル)によって、ウクライナ軍の優勢が伝えられている。アメリカの衛星カメラによる情報提供も、ウクライナ軍の善戦の根拠とされる。

「戦争に行くとは知らされていなかった」ロシア兵の士気の低さも指摘されるが、ソ連のアフガン侵攻時に威力を発揮したシルクワーム(対空砲)と同じように、アメリカ供与の最先端兵器が威力を発揮しているようだ。

ロシア軍の作戦の稚拙さも指摘されている。戦略目標だった東ウクライナだけでなく、ベラルーシ経由で北部から首都キエフ、南部からマリウポリを包囲してオデッサ迄の黒海沿岸に展開する3方面作戦は、当初ウクライナ軍を分散させるものと思われていた。しかし、ロシア軍は各戦線で釘づけにされ兵員不足・燃料食糧不足、弾薬不足に陥っているという。湿地を避けて道路上に一直線に渋滞した戦車は、上記の対戦車ミサイルの標的となった。やむなく遠距離からの無差別砲撃に頼らざるを得なくなっているのだ。

◆プーチンと蜜月した人々

さて、戦争犯罪の極悪人プーチンの横暴を許してきたロシア連邦の政治の深刻さと当時に、独裁者を賛美し抱擁してきた日本人たちがいることを、われわれは確認しておかなければならない。

今回の戦争犯罪の共犯者にひとしいその面々は、安倍晋三元総理、森喜朗元総理、鈴木宗男参院議員、山下泰裕JOC会長である。

森喜朗は2000年の総理就任後、初めての外遊先にロシアを選んでプーチンとの首脳会談を行なった。2004年にはクレムリンで「(プーチン氏は)わたしが非常に尊敬している人物であり、わたしの最も重要な友人である」と述べている。

プーチンは会談に遅刻してくることで有名だ。2000年沖縄サミットでも会議に遅刻し、怒ったシラク大統領をなだめたのが森喜朗だった。そうした気遣いが実を結び、森喜朗とプーチンは首脳会談を重ね、2001年3月には平和条約締結後の歯舞・色丹2島の日本への引き渡しを明記した「日ソ共同宣言」(1956年)の法的有効性を確認する「イルクーツク声明」に署名している。

であるがゆえに、国会で野党から「プーチンを説得するために、森喜朗元総理を派遣したらどうか?」という提案(白真勲=立憲民主党議員)がなされたのである。

その質問に対する岸総理の答弁は「特使をはじめとする具体的な対応は今は予定はない」「外交において人と人とのつながり、人間関係は大事な要素。しかし、国際法をはじめとする基本的なルール、理念を大事にしながら外交を進めていく、これが基本。外交の難しさを感じるところだ」と述べるにとどまった。話は聞くが何もしない、何もできない総理の真骨頂といえよう。

プーチン説得役を期待されているのは、ひとり森喜朗のみではない。

「ウラジーミル、君と僕は同じ未来を見ている」「ゴールまで、ウラジーミル、2人の力で、駆けて、駆けて、駆け抜けようではありませんか」(2019年9月の日ロ会談)と、プーチンに呼びかけていた安部晋三元総理である。まるで少年が憧れの親友に書いたラブレターのようで、いまだに失笑を禁じ得ない。

プーチン来日時には、山下泰裕現JOC会長、森喜朗らとともに講道館で柔道の練習を観戦していたものだ。

その山下泰裕JOC会長は取材に応じて「(プーチン大統領とは)皆さんが思っておられるほど親しいわけではない。ロシアでは、私とプーチン大統領が親しいと錯覚している人が多いですけど」

「以前は(親交もあったが、プーチン大統領は)柔道が好きでしたね」とは言うものの、2019年にプーチンから「ロシア名誉勲章」を授けられている。2014年にはロシア政府の「友好勲章」も受けている。

山下は「(IOCが)ロシアとベラルーシの選手、役員を国際大会から除外するよう勧告したことについて、全面的に賛同している。(自身の考えと)全く同じ」と支持する考えを示しているが、モスクワ五輪のときの不参加を不当とする立場とは、それではどう違うのか。選手の参加の自由が蹂躙されたという意味では、かつての自分の立場と同じではないのか。

そのいっぽうで、プーチンからもらった勲章を返上しないというのは、言行不一致と指弾されても仕方がないのではないか。ナチスに賛同・協力したリンドバーグと同じではないか。

◆法的に固定化された北方領土のロシア領有

安倍晋三は総理在任中にロシアを11回訪問し、プーチンと27回も会談してきた。いまだ記憶に新しい長門会談においては、プーチンお得意の「遅刻」で2時間40分も待たされ、その不協和音を打ち消すために墓参で時間をつぶすというパフォーマンスでお茶をにごしたものだ。その挙句に、北方領土交渉には何の成果もないのに、日ロ共同経済活動名目で3000億円もの拠出を約束させられたのである。

2020年12月にプーチンは領土割譲を呼び掛けるなどの行為を処罰する刑法改正案に署名した。罰則は最高10年の懲役である。

つまり安倍の領土交渉は、まったくの水泡に帰し、プーチンをして刑事立法化させるという結末を迎えたのである。このさき、北方領土を日本が取り戻すには、刑事罰を覚悟で領土交渉する政権が成立するしか方法がなくなった。

結果的には、安倍とプーチンの27回の会談こそが、この取り返しのつかない立法を担保するものとなったのだ。それゆえに、説得したくても出来ないというのが安倍の実感であり、ウクライナ侵攻の理解者にされかねないというのが本音であろう。

外交防衛委員会で羽田次郎議員(立民党)の質問が行なわれたことをうけて、安倍晋三元総理はこう発言している。「説得できたら私も説得したいが、まずはG7首脳が結束を固め、その上でプーチン氏に対する説得あるいは外交的な要求、要請、交渉を行うことになると思う」(2月27日の民放番組)。とだけ語っている。ようするに、安倍の対ロ外交はまったく無駄だったばかりか、何らの可能性も残さずに、日ロ関係の将来を閉ざしたのである。

◆現代のチェンバレンたち

安倍晋三元総理がプーチンを説得できない、と言うのはいいだろう。世界が注目する中で恥をかきたくないのも理解できる。

だが、プーチンに迎合することで独裁者を増長させてきた責任は大きい。いまも独裁者プーチンの戦争犯罪で、無辜の市民が犠牲にさらされているのだ。その淵源のひとつに、安倍晋三のプーチン迎合・親交があったのだと、あえて指摘しておかなければならない。

かつて、チェンバレン英首相はヒトラーに迎合し協調することで、ヨーロッパ戦争を回避しようとした。イギリスが一貫して対決姿勢を保っていれば、ナチスドイツは開戦の機会を得ないまま、兵器の陳腐化によって第二次世界大戦は起きなかった可能性がある(ヒトラーのポーランド侵攻時の軍事的判断)。

いま、日本は日ロ経済協力プランを推し進めようとしている。世界がプーチンのロシアに経済制裁をもって、ウクライナ侵攻を押しとどめようとしているときに、日本はプーチンの戦費補填になりかねない経済協力(21億円)を行なっているのだ。参院予算委員会(3月14日)での、立民党福山哲郎および森ゆうこ議員の質問に対する、岸政権の答弁を引いておこう。

福山哲郎 「安倍政権時代にやった日露の8項目の協力プラン、来年度の予算案に入っている金額の総額を言ってください」

鈴木俊一財務相 「令和4年度予算案における8項目の協力プランにかかる予算規模、これは各省にまたがっておりますが、合計しますと、約40、いや、約21億円と承知しております」

福山哲郎 「これに対しては、協力、やめられるんですよね?」

萩生田光一経産相 「すでにロシアに進出している(日本)企業の皆さんもいらっしゃいます。撤退も考えなきゃならない事態もあるかもしれません。そういう意味では、この予算はですね、計上させていただいて、そういった対応に使わせていただく予定でございます」

森ゆうこ 「(ロシアのクリミア侵攻で)本来であれば国際社会と一致して制裁強化すべきところを(安倍政権は)お金を提供して来た。間違った政策だったと思います。先ほどの(福山議員の)質疑で、8項目の対ロシア協力、21億円ということですが、私はこの(ロシアへの協力金という)お金を含んだ来年度予算には賛成できません。減額修正すべきと思いませんか?」

岸田文雄 「委員ご指摘の21億円の予算ですが、昨年末、予算編成をした、その後、今回のような大変非難されるべき大変な事態が生じた、事態が変化したわけでありますが、今後この事態がどう変化するのか、これは予断を持って申し上げることはできません。よって今の状況で予算の修正ということは考えていないということであります」

ようするに、日本がロシアのウクライナ侵攻を支えているのだ。チェンバレンのヒトラー融和策は、その弱腰が第二次世界大戦を招いたとされているが、そのいっぽうで対ドイツ戦争の兵器(スピットファイアなど)を整備する時間を稼いだという評価も、最近では少なくない。

しかし、である。北方領土を法的に固定化され、にもかかわらず対ロ経済協力を日本の企業のためと言いながら続行する日本政府。プーチンの世界史的な犯罪を、いまも公然と後押ししていると指摘しておこう。

▼横山茂彦(よこやま・しげひこ)
編集者・著述業・歴史研究家。歴史関連の著書・共著に『合戦場の女たち』(情況新書)『軍師・官兵衛に学ぶ経営学』(宝島文庫)『闇の後醍醐銭』(叢文社)『真田丸のナゾ』(サイゾー)『日本史の新常識』(文春新書)『天皇125代全史』(スタンダーズ)『世にも奇妙な日本史』(宙出版)など。

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住民票がないことを理由に「特別定額給付金」を貰えなかった人たちが、大阪市・松井一郎市長を訴えました! 尾崎美代子

3月14日、2020年に政府が行ったコロナ支援策「特別定額給付金」を、住民票がないことを理由に、給付されなかった、大阪市西成区内に居住していた10名が、大阪市・松井一郎市長を提訴した。

原告の1人Sさんに「裁判が始まるよ」と報告した

◆2007年、釜ヶ崎に暮らす2088名の住民票を強制削除した大阪市

「特別定額給付金」は、新型コロナウイルスの感染が猛威を振るい始めた2020年、すべての人を対象にした唯一出された支援対策であった。政府は、4月20日、一律10万円の特別定額給付金の給付を閣議決定、その際、2020年4月27日付けで、住民基本台帳に名前の記載がある者、つまり住民票がある者と条件づけた。

しかし、ご存知のように、釜ヶ崎には、様々な理由で住民票を持てない者がいる。野宿生活を余儀なくされた人たち、ドヤ、アパートに住んでいるが、そこでは住民票が取れない人たち、元の住所あるいは本籍地から、様々な理由で住民票を移せない人たちだ。

かつて、大阪市は、釜ヶ崎では住民票が取れない労働者に対して、白手帳(日雇い労働者の失業保険)をとったり、各種資格を取る必要がある場合には、釜ヶ崎地域合同労組が入る「解放会館」などで住民票を置くことを進めておきながら、2007年2088名の住民票を強制削除した。今回、住民票がない人の中には、その被害者もいた。

アルミ缶、銅線などを集めて暮らす彼は「解放会館」に置いていた住民票を強制削除された被害者だった

◆市長室にはほとんどいない松井市長

私は、釜ヶ崎地域合同労組、日本人民委員会、釜ヶ崎炊き出しの会、釜ヶ崎公民権運動のメンバーとともに、大阪市・松井市長に対して、住民票を持たない、持てない人たちにも必ず給付金を渡すようにと要請活動を行ってきた。4月28日、西成区役所に要請行動を行った際、「給付については大阪市役所市民局が行う」と返答されたため、5月8日、松井一郎・大阪市長と大阪市役所市民局に対して「特別定額給付金が、住民票をもっていない人にも必ず渡るように」との要望書を提出した。

市長室にも要望書を届けようとしたが、松井市長は市長室にいないことがほとんどで、いつも秘書課職員に渡すだけで終わった。松井市長は、登庁する日も、ほかの自治体首長と違って極端に低いようだ。しかも、この時、市民局の職員はわずか12名しかいない一方で、IR事業、大阪万博を推進する副首都推進局のスタッフは80名もいた。大阪市は、根本的に、住民の命を守る気などないのだ。

◆行政の責任者は、すべての人に行き渡る施策を執る努力をすべきなのに……

その後も大阪市は、「給付対象者は令和2年4月27日において、住民基本台帳に記載されている者であること」と繰り返し主張するばかりであった。しかし、この給付金は、コロナウイルス感染拡大防止に伴う自粛要請などで経済活動が停滞するなか、「簡素な仕組みで迅速かつ的確に家計へ支援を行う」(実施要項)として、国から唯一出された支援策であり、各自治体、行政の責任者は、すべての人に行き渡る施策を必死で執る努力をすべきだった。

実施要項には、「記載がなくてもそれに準ずるものとして、市町村が認める者を含む」とあり、実際、DVで、住民票のある家からシェルターなどに避難している人や、出生届けが出されず、戸籍の記載がない約800名の「無戸籍者」なども受け取れるような緊急措置が、各自治体で執られ、じっさいに給付されていた。

「住民票のあるなし」にこだわり続けていた大阪市は、その後、NPO釜ヶ崎支援機構が運営するシャルターに、1日でも泊まれば、そこで住民登録を行うとした。しかし、シエルターに泊まることが嫌だから、野宿している人がいることも事実だし、前述したように、様々な理由で住民票をとることが困難な人、あるいは嫌な人がいることも事実だ。

人権問題に詳しい弁護士の南和幸さんは「給付金について、ホームレスの人だから、受け取る権利がないというのは間違い。住民票のあるなしは、権利のあるなしの問題ではなく、とのように受け取れるかの手続きの問題でしかない。それについて、この住民登録があるないだけで、権利があるなしかのように取り扱うのは間違いである」と述べている。

つまり、野宿している人が、その場で、本人確認が行われればいいのだ。大阪市は回答書には、住民登録されれば給付対象となることなどを「周知を図ってまいります」とあるが、野宿者に「周知」して回る際、その場で野宿者の名前、本籍などを確認すればいいではなかったか。じっさい、2008年リーマンショック後の2009年、一律12000円が支払われた給付金の際には、住民票を持たない野宿者らが、西成市役所1階のロビーで、職員らにより本人確認の手続きが行われ、給付金をうけている。今回も同じようにするよう要請したが、「コロナなので」を理由に断られた。何百人も殺到する訳でもないのに。

閉められたままのセンター(右)と、南海電鉄高架下に入ったセンター仮庁舎(左)

◆住民票がないことを理由に特別定額給付金を給付をしないのは違法である

私たちは、2020年8月18日、原告10名とともに、原告の住所、氏名、生年月日を記載した特別定額給付金申請書を持参し、被告である大阪市西成区保険福祉センター分館に赴き、申請を行った。しかし、松井市長により、住所地に住民登録がないとの理由で、給付がなされなかった。そのため、10名の原告から委任状を受け、今回提訴することになった。

訴状によれば、「ホームレス状態にある原告らに被告が、住民登録がなされていないことなどを理由に、特別定額給付金の給付をしないことは、憲法14条及び31条が規定する平等原則及び比例原則に反する。よって、被告の原告らに対する本件給付金の不給付は、いずれも、被告大阪市長に与えられた実施主体としての裁量を逸脱あるいは濫用するものであって、違法であることは明らかである」としている。

さらに「被告の公権力の行使にあたる公務員は、原告らのように、ホームレス状態にある人々に対し、その状態に相応しい住民登録の方法を工夫するなどして、特別定額給付金の給付を実施すべき義務があるにもかかわらず、これを漫然放置し、不給付とした点において、重大な過失がある。従って被告は国家賠償法第1条により損害を賠償する責任に任ずる」とし、「原告らは、本件申請拒否によって、各自、少なくとも、給付額と同額の被害を蒙った」として、1人10万円の損害賠償請求を行った。

今回弁護団を構成する武村二三夫弁護士、遠藤比呂通弁護士、牧野幸子弁護士は、いずれも釜ヶ崎のセンターをめぐる訴訟、監視カメラ訴訟の弁護団を兼任し多忙を極めていたため、提訴が遅れてしまった。しかし、いよいよ裁判は始まった。全国でもおなじように、住民票がないことを理由に受け取れなかった人がいるのではないか。ぜひ、この裁判にご注目していただきたい。

▼尾崎美代子(おざき みよこ)
新潟県出身。大学時代に日雇い労働者の町・山谷に支援で関わる。80年代末より大阪に移り住み、釜ケ崎に関わる。フリースペースを兼ねた居酒屋「集い処はな」を経営。3・11後仲間と福島県飯舘村の支援や被ばく労働問題を考える講演会などを「西成青い空カンパ」として主催。自身は福島に通い、福島の実態を訴え続けている。
◎著者ツイッター(はなままさん)https://twitter.com/hanamama58

タブーなきラディカルスキャンダルマガジン『紙の爆弾』2022年4月号!
〈原発なき社会〉を求めて集う 不屈の脱原発季刊誌 『季節』2022年春号(『NO NUKES voice』改題 通巻31号)

「押し紙」が1部もない新聞社、熊本日日新聞社、地区単位の部数増減コントロールは見られず 黒薮哲哉

「押し紙」は、新聞業界が半世紀にわたって隠し続けてきた汚点である。しかし、すべての新聞社が「押し紙」政策を経営の柱に据えてきたわけではない。例外もある。この点を把握しなければ、日本の新聞業界の実態を客観的に把握したことにはならない。

かねてからわたしは、熊本日日新聞は「押し紙」政策を採用していないと聞いてきた。1972年代に「押し紙」政策を廃止して、「自由増減」制度を導入した。「自由増減」とは、新聞販売店が自由に新聞の注文部数を増減することを認める制度である。

社会通念からすれば、これは当たり前の制度だが、大半の新聞社は販売店に対して現在も「自由増減」を認めていない。新聞社が注文部数の増減管理をしている。「メーカー」が「小売店」の注文数量を決めることは、常識ではあり得ないが、新聞業界ではそれがまかり通って来たのである。

熊本日日新聞社が「押し紙」制度を導入していないという話は真実なのか? わたしはそれを検証することにした。

◆マーカーが示す熊日と読売の著しいコントラスト

次に示す表は、熊本市の各自治体(厳密には自治体にある新聞販売店)に熊本日日新聞社が搬入した新聞の部数の変化を、時系列に入力したものである。出典は、日本ABC協会が年2回(4月と10月)に発行する『新聞発行社レポート』に掲載する区・市・郡別のABC部数である。新聞社ごとのABC部数が表示されている。

熊本日日新聞社が熊本市の各自治体(厳密には自治体にある新聞販売店)に搬入した新聞部数の推移

この表から、ABC部数が微妙に変化していることが確認できる。新聞販売店が毎月、注文部数を自由に増減していることが読み取れる。部数の「ロック」は一か所も確認できない。

これに対して、たとえば次の表はどうだろう。兵庫県を対象にした読売新聞のケースである。

兵庫県を対象にした読売新聞のABC部数

熊本日日新聞の表には、マーカーがなく真っ白なのに対して、読売新聞の表はいたるところにマーカーが表示されている。同じ数量の部数が年度をまたいでロックされている箇所が多数確認できる。地域単位で部数増減がコントロールされているのである。たとえば神戸市灘区における読売新聞のABC部数は、次のようになっている。

2017年04月 : 11,368
2017年10月 : 11,368
2018年04月 : 11,368
2018年10月 : 11,368
2019年04月 : 11,368

神戸市灘区に住む読売新聞の購読者が2年半に渡って1人の増減もないのは不自然だ。普通は月単位で変化する。つまり購読者数の増減とは無関係に、部数をロックしているのである。その原因が新聞社にあるのか、販売店にあるのかはここでは言及しないが、いずれにしても正常な商取引ではない。購読者が減少すれば、それに相応する部数が残紙になっていることを意味する。

本稿で示した熊本日日新聞と読売新聞の表を、「腫瘍マーカー」にたとえると、熊本日日新聞は、「健康体」と診断できるが、読売新聞は公正取引委員会や裁判所による緊急の「精密検査」を要する。科学的に「病因」を探る必要がある。他の中央紙についても、読売と同じことがいえる。何者かが地域単位で部数増減をコントロールすることが制度として定着している可能性が高い。

【参考記事】新しい方法論で「押し紙」問題を解析、兵庫県をモデルとしたABC部数の解析、朝日・読売など全6紙、地区単位の部数増減管理が多地区で、独禁法違反の疑惑 http://www.kokusyo.jp/oshigami/16859/

◆「押し紙」廃止で業績が向上

熊本日日新聞が「押し紙」政策を廃止したのは、『熊日50年史』によると、1972年10月である。今からちょうど50年前である。当時の森茂販売部長が信濃毎日新聞の販売政策に触発されて、「押し紙」、あるいは「積み紙」の廃止を宣言した。社内には反対の意見も強かったそうだが、森販売部長は改革を進めた。その結果、店主の士気があがり、熊本日日新聞の部数は急増した。

「予備紙」として販売店が確保する残紙の部数も、搬入部数の1.5%とした。このルースは現在でも遵守されている。それが前出の表で確認できる。

熊本日日新聞社の販売改革は高い評価を受け、同社は1983年に新聞協会賞(経営・営業部門)を受けている。受賞理由は、「新聞販売店経営の近大化-新しい流通システムへの挑戦」である。

◆独禁法の新聞特殊指定が定義する「押し紙」とは?

ところで残紙(「押し紙」、「積み紙」)が独禁法の新聞特殊指定に抵触する可能性はないのだろうか。この点について考える場合、まず最初に新聞特殊指定が定義する「押し紙」とは、何かを正確に把握する必要がある。

幸いにして、江上武幸弁護士ら「押し紙弁護団」が、新聞特殊指定でいう「押し紙」の3類型を整理し、提示している。次の3つである。

1,販売業者が注文した部数を超えて供給する行為(注文部数超過行為)

2,販売業者からの減紙の申し出に応じない行為(減紙拒否行為)

3,販売業者に自己の指示する部数を注文させる行為(注文部数指示行為)

「1」から「3」の行為は、いずれも「注文部数」の増減コントロールに連動している。従って新聞特殊指定でいう「注文部数」とは何かを定義する必要がある。これに関して、江上弁護士らは、新聞特殊指定(1955年告示・1964年告示・1999年告示)に次の定義が記されていることを明らかにしている。

「新聞販売業者が実際に販売している部数に正常な商慣習に照らして適当と認められる予備紙等を加えた部数」

つまり実配部数に若干の予備紙を加えた部数を超える残紙は、すべて「押し紙」ということになる。「押し売り」の事実があったか否かは枝葉末節の問題なのである。健全な販売店経営に不要な部数は、理由のいかんを問わず原則的に「押し紙」なのである。

かつて新聞業界は業界の内部ルールで予備紙の割合を2%と定めていた。しかし、この内部ルールを1999年ごろに撤廃して、残紙はすべて「予備紙」に該当するという詭弁を公言するようになった。たとえば搬入部数の50%が残紙になっていても、この50%は販売店が注文した「予備紙」だと主張してきたのである。

しかし、「予備紙」の大半は古紙回収業者の手で回収されており、「予備紙」としての実態はない。

従来、「押し紙」とは、新聞社が販売店に対して「押し売り」した新聞であると定義されていた。わたしもそのような説明をしてきた。しかし、この説明は新聞特殊指定に即して厳密な意味で言えば間違っているのである。実配部数に「予備紙」加えた残紙は、すべて「押し紙」なのである。

地区単位の部数増減コントロールは独禁法違反ではないか? 公正取引委員会は中央紙に対して調査すべきではないか。

▼黒薮哲哉(くろやぶ・てつや)
ジャーナリスト。著書に、『「押し紙」という新聞のタブー』(宝島新書)、『ルポ 最後の公害、電磁波に苦しむ人々 携帯基地局の放射線』(花伝社)、『名医の追放-滋賀医科大病院事件の記録』(緑風出版)、他。
◎メディア黒書:http://www.kokusyo.jp/
◎twitter https://twitter.com/kuroyabu

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