格闘群雄伝〈30〉李昌坤(リ・チャンゴン) ── 昭和の名勝負を裁いた忘れ得ぬ名レフェリー! 堀田春樹

「レフェリー、リー・チャンゴン~!」とリングアナウンサーにコールされ、文字にしてもカタカナ書きの方が馴染んだ響きである。昭和40年代にTBSテレビで放映されたキックボクシングの隆盛時代に、現在とは比べられないほどのレフェリーの威厳があったその姿と名前が全国に広まったのも事実でした。

「荒れる試合は俺が裁く」を貫いた李昌坤レフェリー(1981年5月19日)
ノックダウンからファイトを促す李昌坤レフェリー(1982年11月19日)

◆導かれた運命

昭和の名レフェリー、李昌坤(リ・チャンゴン/1942年6月20日東京都目黒区出身)は在日韓国人として永く活躍し、日本名は岩本信次郎。軽快なフットワークと適確な判断で試合を裁き続けた。

1966年(昭和41年)6月にレフェリーとしてデビューして以来、野口修氏が興したキックボクシングの表も裏も知り尽くし、1990年(平成2年)に第23回プロスポーツ大賞「功労賞」を受賞している人物である。

李昌坤氏は中学2年生の時、たまたま近所にあったボクシングの野口ジムに遊びに行くようになったのが格闘技との最初の出会いだった。当時は厚木基地や新橋駅前などで「ベビーボクシング」なるお祭りイベントが開催されていて、気が強いガキ大将だった李昌坤氏は中学生クラスの“ハビー級”として参加。試合後にはお菓子を貰っていたという。

そんな運命でジムに通い続け、高校三年生になるとプロボクシング4回戦でデビュー、新人王の準々決勝まで進んだが、腰を痛めて止む無く現役を断念した。

◆昭和のキックボクシング、レフェリーとして参加

高校卒業後は近所の板金屋で働きながら、野口ジムのトレーナーをしていたが、1966年1月(昭和41年)、野口進会長の長男・修氏が日本キックボクシング協会を設立された際、李昌坤氏はレフェリーとして導かれた。それまでは日本名を使っていたが、日本vsタイの試合に韓国人としてレフェリングすることで国際色豊かにしようという協会の思惑で、本名・李昌坤として参加することになった。

翌年2月26日、TBSがキックボクシング中継を始め、創生期からブームとなったスター沢村忠の多くの試合を中心に、首都圏の他、地方興行を転々としながらレフェリーとしてリングに上がり続けた。

名勝負として今も語り継がれる富山勝治vs花形満戦、富山勝治vs稲毛忠治戦や、後には藤原敏男の試合も裁いた経験を持ち、竹山晴友が活躍した昭和60年代でもメインレフェリーとして裁いていた。

富山勝治の試合担当は多かった李昌坤レフェリー(1983年11月12日)
勝者・富山勝治の手を挙げる李昌坤レフェリー(1983年11月12日)

長いレフェリー生活の中では多くのエピソードを持つ李昌坤氏。

「確か甲府での試合で、沢村が真空飛びヒザ蹴りを出したら、相手がロープまでふっとんで一番上のロープが切れてしまったんですよ!」といった忘れ得ぬ思い出や、更には自身に災難が降り掛かることもあった。空振りした沢村の蹴りが横腹に入り、悶絶の危機も何とか凌いだレフェリング。これが一番痛い思い出で、試合後の控室に沢村がやって来て、「リーさん身体大丈夫? ゴメンね!」とは沢村らしい気遣いがあって嬉しかったが、一週間ほどまともには動けなかったという。

テレビ放送が打ち切りになり、興行も不定期になってきた昭和50年代後半、多くの業界関係者が撤退していったが、李昌坤氏はそんな時代もレフェリーを辞めなかった。

それは「俺が試合を裁く。俺が判定を下す!」というレフェリーとしてのプライドを人一倍持って日本系レフェリーのほとんどを厳しく指導し、レフェリングの基礎を作ったことを無駄にせず、次の時代へ繋ぐ責任を感じていた。

キックボクシング創設以来、10年以上務めた功労者が表彰、李昌坤氏もその一人(1985年11月22日)
時代が流れた昭和60年代、勝者・向山鉄也の手を挙げる李昌坤レフェリー(1985年11月22日)

◆存在感に陰り

李昌坤氏から教わったレフェリーは皆フットワークが軽く、

「ファッションモデルみたいな動き」という批判的な関係者も居た中、時代の流れは徐々に李昌坤氏にとって窮屈な世界となっていった。ムエタイ崇拝者が増え、レフェリングもムエタイ式に移行してきた点から、各ジムからレフェリーに求められる裁き方の認識が変わって来たのだった。

首相撲でのブレイクアウトの早さ、崩しでの縺れ倒れ行く選手を支えない、軽く当たったパンチでのスリップやプッシュ気味でのノックダウン扱いなど、昔ながらのレフェリングが受け入れ難くなる傾向があった。名レフェリーたる存在が敬遠されがちになると、次第に出番が少なくなっていく中の1996年2月9日、最後の花道を作ってくれたのは士道館主催興行だった。最後のレフェリングとなったフェザー級5回戦、室崎剛将(東金)vs松田敬(目黒)戦の後、「李昌坤引退セレモニー」が執り行われた。李昌坤氏はリング上で奥さんと華やかなチマチョゴリ(韓国の民族衣装)を纏った三人の娘さんに囲まれ、最後のリングに華を添えた引退セレモニーだった。

李昌坤氏は「これで終わりなんだなと思った時、寂しさより、ここまでやって来れたんだなという思いの方が強かった。引退式をやって貰って本当にけじめがついたよ!」と語る。

時代とともに昔のレフェリーが一人ずつ消え、元々所属した日本系野口プロモーションの最後のレフェリングとしての締め括れた安堵感があったようである。

「本当に陰の人でしたね。沢山の名勝負を裁いて来たのにね!」とはキックボクシング創始者、野口修夫人・和子さんの当時の語り。

[左]試合直前の注意勧告する李昌坤レフェリー(1992年9月19日)/[右]最後のリングに上がる李昌坤レフェリー、裁いた試合は3000試合以上(1996年2月9日)
引退セレモニーで観衆の声援に応える李昌坤レフェリー(1996年2月9日)
自身のお店でインタビューを受ける焼き肉屋のオヤジ、李昌坤氏(1996年2月15日)

◆昔ながらの頑固レフェリーからの助言

李昌坤氏は、業界の中心的存在だった目黒ジムの選手に「目黒ジムには沢山強い選手が居て、練習が他のジムより充実しているんだから、試合で引分けなら実質は負けと同様なんだぞ!」と厳しい指摘を言われたこともあったという。また、「地方の選手には冷たく、反則ではないのに、“今度やったら減点取るぞ”とか言われて、だからリー・チャンゴンは嫌いだ!」という批判も聞かれるのは毅然としたレフェリングを行なうが故の嫌われ文句だろう。

後輩への指導では「レフェリーやジャッジ担当で、もしミスっても毅然と振舞って自分の裁定に自信持て!」と言うなどの忠告もあって、他団体のレフェリーでも「李昌坤さんのレフェリングはかなり意識していましたね!」という話は多い。

またレフェリーの振舞いや運営の不備など、他のスタッフが気付かなくとも李昌坤さんは気付いて動くという点は熟練者の視野の広さがあった。

「観衆の中で雑談はするな。必要以上に会場内をうろつかず待機場所に居ろ。裁いている試合に対し、同じ位置に3秒以上立ち止まるな。テレビカメラ側に極力立つな。身だしなみに気をつけろ!」といった振る舞いには、元々はプロボクシングから受けた指導が基礎となったものだった。古い体質ではあったが、威厳ある李昌坤氏ならではの存在感だった。

李昌坤氏は若い頃、板金屋やトラック運転手なども経験したが、後に目黒ジム近くで焼き肉屋「大昌苑」を経営。レフェリー引退後も継続し、かつての野口プロモーション関係者が集まることも多い賑やかさを見せて、良きキックボクシング時代を語り合う穏やかな晩年を過ごしていた。お客さんからの注文を語気強く受け応え、かつてのレフェリーの面影があったが、その接客は気さくで常連客が多い焼き肉屋のオヤジであった。

(取材は1996年2月当時のナイタイスポーツで取材したものと、後々に何度も大昌苑を訪れて李昌坤氏にお聞きしたエピソードを参考にしています。)

◎堀田春樹の格闘群雄伝 http://www.rokusaisha.com/wp/?cat=88

▼堀田春樹(ほった・はるき)[撮影・文]
フリーランスとしてキックボクシングの取材歴32年。「ナイタイ」「夕刊フジ」「実話ナックルズ」などにキックのレポートを展開。ムエタイにのめり込むあまりタイ仏門に出家。座右の銘は「頑張るけど無理しない」

女子だけのマッチメイク、勝利の女神たちの咆哮! 堀田春樹

注目のタイトルマッチは浅井春香が引分けで2度目の防衛。

◎GODDESS OF VICTORY / 3月26日(日)GENスポーツパレス 16:30~19:56
主催:エスジム、ミネルヴァ実行委員会 / 認定:NJKF

接近戦では浅井春香が首相撲からヒザ蹴りやパンチがヒット

岩上哲明記者試合レポート(一部編集含む)

◆第13試合 女子(ミネルヴァ)スーパーバンタム級タイトルマッチ3回戦

選手権者.浅井春香(Kick Box/ 55.2kg)
        vs
挑戦者5位.MARIA(PCK大崎/TeamRing/ 55.0kg) 
引分け 0-1
主審:センチャイ・トーンクライセーン
副審:多賀谷28-30. 竹村29-29. 井川29-29

試合前、MARIAは「絶対に勝ちます。シンプルイズベスト!」と王座奪取への熱い気持ちをコメント。

試合は第1ラウンド中盤から挑戦者MARIAのストレートパンチがヒットをしたのを切っ掛けに動き出す。チャンピオン浅井春香も返しのパンチや首相撲に持ち込むと、MARIAは首を捻られ一瞬苦痛の表情が出たが難無く攻勢を仕掛ける。

第2ラウンドもMARIAは重いパンチに浅井は首相撲からのヒザ蹴りで勢いを止めに掛かる。浅井のセコンド陣から「打ち合いに行け!」と指示が出てもMARIAのパンチに警戒しているせいか、打ち合いに持ち込めない。

第3ラウンド、浅井はMARIAのパンチを打たせないように首相撲を仕掛けるが、MARIAは掻い潜ってストレートを炸裂。浅井はクリンチに逃げ、最後はお互い首相撲からのヒザ蹴りを仕掛け合って終了。浅井は2連続引分け防衛。

パンチで打ち合う圧力はMARIAが上回った

試合後、浅井春香は「こんなものです、すみません!」と反省の弁を述べながらも、再戦があるならば「次はスッキリ勝ちます!」と語り、セコンドに付いていた鴇稔之会長から、「浅井は肩を痛めていて本調子ではなく、よくドローに持ち込んだ。」と健闘を称えていた。

一方のMARIAは奪取できなかった悔しさを見せながらも再戦必至と考えており、「次は絶対勝ちます!」と互いが必勝を誓っていた。

引分け防衛の浅井春香と王座奪取成らずのMARIA、明暗分かれた瞬間

◆女子フェザー級3回戦(2分制)KAEDEの2.75kgオーバーで中止

ミネルヴァ・スーパーバンタム級1位.KAEDE(LEGEND/ 59.9kg)
        vs
同級9位.寺西美緒(GET OVER/ 56.9kg)

中島稔倫会長は「寺西が試合出来ないのは残念です。今日はメインイベント出場の両選手を研究すると思います。」とコメント、寺西選手は「どちらかの選手に早いうちに挑戦することになると思います。そして王者になります!」と前向きなコメントだった。

◆第12試合 女子54.5kg契約3回戦(2分制)

ミネルヴァ・スーパーフライ級2位.IMARI(LEGEND/ 53.4kg)
        vs
NAO・YK(YK/ 53.5kg)
勝者:IMARI / 判定3-0
主審:多賀谷敏朗
副審:中山30-28. 竹村30-28. 井川29-28

当初の高橋アリスに代わり、引退するIMARIの対戦相手となったNAO・YK。初回、IMARIは左右のパンチを決め、NAOは首相撲で優位に立とうと圧力を掛ける。

第2ラウンドにはIMARIのパンチに対し、NAOもミドルキック、首相撲で自分の流れを掴もうとするが、IMARIが首相撲でも優位に立つ展開。

最終第3ラウンド、IMARIの左右のストレートからのミドルキックが決まるなど優勢が続く。NAOは首相撲や蹴りで対抗するも、IMARIの攻勢を崩せず終了。

IMARIの左ミドルキックがヒット、攻勢を維持してラストファイトを勝利で飾る

試合後はIMARIの引退セレモニーが行われ、マイクで感謝の言葉を述べた後、10カウントゴングが鳴り響いた。IMARIは涙ぐむ表情を見せながらも最後は笑顔でリングを下りた。「いい試合でしたよ。」と声をかけると、「ありがとうございます!」と笑顔で明るく返事をしていた。スッキリした表情だった。

引退セレモニーでの挨拶で次第に涙ぐみながら仲間へ感謝を述べたIMARI

◆第11試合 女子ピン級3回戦(2分制)

ミネルヴァ・ピン級4位.世莉JSK(治政館/ 44.85kg)vs 同級5位.斎藤千種(白山/ 45.25kg)
勝者:斎藤千種 / 判定0-2
主審:センチャイ・トーンクライセーン
副審:中山28-30. 多賀谷28-30. 井川29-29

昨年10月16日、斎藤千種の左ストレート貰った世莉がバランス崩してマットにヒザを着いたところへ斎藤のヒザ蹴りが顔面に入り、世莉JSKは試合続行不可能。当初の斎藤千種のTKO勝利は後日、反則打として失格負けと変更。世莉JSKの反則勝ちとなっていた。

再戦となった今回、初回から両者はパンチを繰り出していく。世莉JSKはやや動きが鈍く、斉藤千種が優勢な展開。第2ラウンドも斉藤の攻勢は続くが、世莉は打ち合いに応じるも、斉藤の左右の伸びがあるミドルキックに苦戦。

最終第3ラウンド、世莉はミドルキックで斉藤を追い込めそうな状況も流れを活かせず、斉藤はミドルキックとパンチで世莉の反撃を防ぎながら攻勢を仕掛けるも試合終了。

試合後、世莉は悔し涙を流していた。セコンドに就いた祥子JSKからは、「世莉は前に行くことが出来なかった。まだ十代ですし、今が底でこれから上がるだけ!」と気持ちを切り替えた様子。友人と会話をして落ち着いた世莉選手に労いの言葉をかけると「ありがとうございます!」と応えてくれた。

斎藤千種のハイキックがヒット、再戦は慎重に攻めて判定勝利を掴む

◆第10試合 女子ライトフライ級3回戦(2分制)

ミネルヴァ・ライトフライ級6位.紗耶香(格闘技スタジオBLOOM/ 49.1→48.98kg)
        vs
YURIKO・SHOBUKAI(尚武会/ 48.8kg)
引分け 1-0
主審:竹村光一
副審:センチャイ29-29. 多賀谷29-29. 井川30-29

初回、紗耶香は得意のパンチで主導権を握りにかかる。YORIKOは組んでヒザ蹴りで出ると、紗耶香も合わせていく展開。

第2ラウンドも紗耶香がパンチで仕掛け、YURIKOは首相撲からのヒザ蹴りで打開しようとするが、紗耶香のパンチの猛攻を防げず、ラウンド終了間際に紗耶香の右ストレートで尻餅をつくがゴングに救われた。

最終第3ラウンド、YORIKOはミドルキックと首相撲でのヒザ蹴りを主体に攻撃の数を増やしていく。紗耶香はパンチ主体で終始進めていくが、YURIKOの蹴りが的確に決まり、勢いが止まることがしばしば。最後は両者共に首相撲からのヒザ蹴りで終了。

紗耶香とYURIKOのパンチの交錯、パンチではやや紗耶香が優った

◆第9試合 女子46.0kg契約3回戦(2分制)

上真(ROAD MMA/ 45.8kg)vs AZU(DANGER/ 46.0kg)
勝者:上真 / 判定2-1(28-29. 30-29. 30-28)

◆第8試合 女子44.0kg契約3回戦(2分制)

AIKO(AX/ 43.55kg)vs Honoka(健心塾/ 43.55kg)
勝者:AIKO / 判定2-1(28-29. 30-29. 30-29)

◆第7試合 女子46.5kg契約3回戦(2分制)

ねこ太(とらの子レスリングクラブ/ 46.3kg)vs aimi-(DANGER/ 45.7kg)
勝者:ねこ太 / 判定2-0(29-29. 30-29. 30-29)

◆第6試合 女子フェザー級3回戦(2分制)

小倉えりか(DAIKEN THREE TREE/ 57.0kg)vs 谷岡菜穂子(GRABS/ 56.9kg)
勝者:小倉えりか / TKO 1R 1:42

静かな展開でスタート。互いに牽制しあう攻防の中で、小倉えりかのローキックを谷岡菜穂子はブロックする際、左膝の内側で受け、バランスを崩しそのまま倒れレフェリーストップ。谷岡はそのまま担架で運ばれた。小倉のローキックをカットした際に、左膝内側付近が陥没した様子。

小倉は試合前からリラックスしていた。セコンドは「勝算はある。必ず勝つ。」と強いコメントがあった。

試合後に小倉からは「勝ちは勝ち。フェザー級でもぜひS-1トーナメントを開催して欲しいです!」と熱望。小倉えりかの言葉には、フェザー級、そして女子キックボクシングを盛り上げたいという熱い気持ちが伝わっていた。

アクシデント的ながら小倉えりかがTKO勝利、谷岡菜穂子は左膝負傷で立てず

◆第5試合 S-1女子48.0kg契約3回戦(2分制)

Marina(健心塾/ 47.5kg)vs Nao(AX/ 47.6kg)
勝者:Nao / 判定0-3(28-30. 27-30. 27-30)

◆第4試合 マチュア女子52.0kg契約2回戦(2分制)

堀田優月(闘神塾/ 50.0kg)vs 松田沙和奈(拳之会/ 50.9kg)
勝者:堀田優月 / KO 1R 0:33

堀田優月は、開始早々にパンチで猛攻、松田沙和奈も返していくが、堀田は左ストレートを決めノックダウンを奪う。松田は立ち上がり反撃するも、再び左ストレートでノックダウンを喫し2ノックダウン制による堀田のノックアウト勝利。
試合後、堀田選手は嬉しそうな顔で「ありがとうございます。爽快でした!」と語り、堀田選手のお父さんも「まだ中学生ですけど!」と話しながらも勝利に喜びの様子だった。

左ストレートで2度のノックダウンを奪って快勝した堀田優月

◆第3試合 女子フライ級3回戦(2分制)

MIKU(K-CRONY/ 50.7kg)vs HIMEKA(LEGEND/ 50.7kg)
勝者:HIMEKA / 判定0-3(28-30. 29-30. 28-30)

◆第2試合 女子スーパーフライ級3回戦(2分制)

響子JSK(治政館/ 52.1kg/6oz)vs 珠璃(闘神塾/ 54.1→53.45kg/8oz)
引分け 0-1(28-28. 28-28. 27-28/珠璃が1.29kgオーバーで減点2含む、グローブハンディー有)

終始、珠璃がパンチで押し気味な展開。響子JSKは蹴りや首相撲で流れを変えようとするが上手くいかず。ドローで終了。

響子は「相手の減点があったから引き分けだったけど、勝たなくてはいけない試合だった。」と反省のコメントを述べていた。

珠璃は押し気味の展開も減点があって引分け、響子は蹴りで出るも優れず

◆プロ第1試合 女子40.0kg契約3回戦(2分制)

沙緒里(ワイルドシーサー前橋関根/ 40.0kg)vs 江口紗季(笹羅/ 36.7kg)
勝者:江口紗季 / 判定0-3(27-30. 27-30. 28-30)

他、プロ試合前にオープニングファイト アマチュア女子4試合有

《岩上哲明取材観戦記》

今回の興行は、第1試合から最終メインイベントまで全選手、関係者全員が興行を成功させようという強い気持ちが感じられました。メインイベントのミネルヴァ・スーパーバンタム級タイトルマッチはドローになりましたが、再戦を観たいという気持ちになり、IMARU選手の引退試合は寂しさより、「第二の人生」を応援したくなるような感情になり、ピン級のランキング戦では再戦の上、先週のジャパンキックボクシング協会興行で新王者になった撫子選手の刺激を受けたのか、両者から勝利への意気込みが伝わってきました。

アマチュア試合の堀田選手はプロ本戦の興行でもなかなか観れない鮮やかなノックアウト決着で会場を沸かせました。

興行が盛り上がるための要因の一つである「ドラマ」が各々の試合に出ていたのは良かったと思います。この興行にはNJKFのランカーであるTAKUYA選手や名古屋のGETOVERのTAKERU選手など多くの男子選手が来場していて、セコンド業務などをこなしながら何かを得ていったことでしょう。

《堀田春樹取材戦記》

浅井春香は2回連続の引分け防衛。昨年5月の初防衛では、鴇稔之会長からの教訓「チャンピオンは防衛してこそ真のチャンピオン」と語った浅井春香。名門・目黒ジムから引き継がれた教えは、勝利での完全防衛の仕切り直しへ再度持ち越された感じです。

しかし、タイトルマッチで3回戦は差が付き難く、女子でも5回戦が必要とも思えました。

しかしプロボクシングでも女子は2分制で、日本タイトル戦でも6回戦とかなり短めで、打撃格闘技においては安全面の考慮がまだ未知数で難しいようでもあります。

前回記事で、次回ジャパンキックボクシング協会(JKA)興行は5月14日(日)市原臨海体育館と書きましたが、正しくは一週遅れの5月21日(日)に市原臨海体育館で開催されます。大変失礼致しました。

当初、5月14日の開催予定だった武田幸三氏の「CHALLENGER」5月興行は中止となっています。

ニュージャパンキックボクシング連盟(NJKF)本興行は当初の予定どおり4月16日(日)に後楽園ホールに於いて「NJKF 2023.2nd」が開催されます。

▼堀田春樹(ほった・はるき)[撮影・文]
フリーランスとしてキックボクシングの取材歴32年。「ナイタイ」「夕刊フジ」「実話ナックルズ」などにキックのレポートを展開。ムエタイにのめり込むあまりタイ仏門に出家。座右の銘は「頑張るけど無理しない」

月刊『紙の爆弾』2023年4月号

睦雅と撫子がドラマチックな王座獲得! KICK Insist.15 堀田春樹

2022年、年間表彰式が第1試合前にリング上で行なわれました。

最優秀選手賞:馬渡亮太(治政館)5戦5勝(3KO)
技能賞:藤原乃愛(ROCK ON)
KO賞:馬渡亮太(治政館)
殊勲賞:睦雅(ビクトリー)
精鋭賞:内田雅之(KICKBOX)
男子新人賞:正哉(誠真)
女子新人賞:藤原乃愛(ROCKON)
優秀選手賞:永澤サムエル聖光(ビクトリー)4戦4勝(1KO)
藤原乃愛(ROCKON)6戦5勝(2KO)1分
年間最高試合賞:9月18日、馬渡亮太(治政館)vsガン・エスジム(タイ)

年間表彰式に登場、左から正哉、藤原乃愛、馬渡亮太、永澤サムエル聖光、睦雅

◎KICK insist 15 / 3月19日(日)新宿フェイス
主催:(株)VICTORY SPIRITS / 認定:ジャパンキックボクシング協会(JKA) 

岩上哲明記者試合レポート(一部編集含む)

【第2部】18:00~20:11

◆第7試合 62.5kg契約5回戦

WBCムエタイ日本ライト級チャンピオン.永澤サムエル聖光(ビクトリー/1989.11.10埼玉県出身/ 62.5kg)
       VS
ペットプーパン・ソー・サクナリン(元・タイ国ムエサヤーム・スーパーフェザー級Champ/タイ/ 61.7kg)
勝者:永澤サムエル聖光 / KO 1R 2:48
主審:少白竜

前日計量ではコンディション調整が上手くいった様子でリラックス状態が続いていた永澤サムエル聖光。試合当日も順調で「勝ちますよ」と頼もしいコメントを残していた。

永澤はセコンドの指示通りローキックとパンチで上下に技を散らしていく。ペットプーパンは様子を見ながらミドルキックを放つ。このまま第1ラウンドが終わるかと思われた終盤に、永澤の右ストレートがペットプーパンのボディーにヒットすると、悶絶の10カウントアウト、永澤はタイ遠征した2月2日のラジャダムナンスタジアムでの敗戦を払拭するようなノックアウト勝利に満足していた様子。

ボディーへ牽制右ストレートを打ち込む永澤サムエル聖光、KOはこの後
永澤サムエル聖光の今度は強いボディーブローでペットプーパンを悶絶のKO

◆第6試合 ジャパンキック協会ライト級王座決定戦5回戦

1位.睦雅(ビクトリー/1996.6.26東京都出身/ 61.23kg)
        VS
2位.内田雅之(KICK BOX /1977.12.26神奈川県出身/ 61.23kg)
勝者:睦雅(王座獲得) / 判定3-0
主審:椎名利一
副審:少白竜50-42. 仲50-42. 中山50-42

前日計量では、睦雅選手は体重調整が上手くいったこともあり笑みを浮かべ、内田選手も「調子いいよ」とコメントをして計量パスした。

睦雅が攻勢を維持、タフな内田雅之を追い詰める
新チャンピオンとなった睦雅、永澤サムエル聖光を追い越せるか

試合は、睦雅はローキック、内田はパンチで主導権を取ろうと試みている様子。第1ラウンド終了時に睦雅の右ストレートが決まり、内田はノックダウンを喫したが、第2ラウンドに入ってもダメージを引き摺らずにパンチ主体で睦雅を切り崩しにかかる。睦雅は冷静にローキックで勢いを止め、逆にパンチを決めていく。

第3ラウンドには内田は得意のパンチで劣勢を打開しようとするが、睦雅のパンチとローキックに阻止され、睦雅は左右のストレートでこの試合2度目のノックダウンを奪う。

第4ラウンド、睦雅は内田をコーナーに追い詰めていき、離れてはローキックで更なるダメージを負わせる。内田は鼻血を流しながらも、隙をみてパンチを繰り出す。

最終ラウンド、後がない内田は得意のパンチで打ち合いに持ち込もうとするが、逆に睦雅の右ストレートを貰い、この試合3度目のノックダウンを喫する。睦雅の攻勢は続くが、内田はタフネスぶりを発揮し耐え凌いだが、睦雅の大差判定勝利となった。

◆第5試合 58.0kg契約3回戦

WMOインターナショナル・フェザー級チャンピオン.瀧澤博人(ビクトリー/1991.2.20埼玉県出身/ 58.05→58.0kg)
       VS
スアノーイ・シッソー(元・タイ国イサーン地区スーパーバンタム級Champ/タイ/ 57.5kg)
勝者:瀧澤博人 / 判定3-0
主審:桜井一秀
副審:椎名30-28. 仲30-28. 少白竜30-28

初回、滝澤は上下に蹴り分け、スアノーイは様子を見るスタイル。ラウンド終盤になると、スアノーイの鋭いパンチが飛んでくるが、滝澤は上手くかわしてヒットさせず。

第2ラウンド、滝澤も蹴り主体で出て、ガードが空いたスアノーイのボディーに右ストレートを決め、更に果敢に攻めるがノックダウンまでは奪えず。

第3ラウンド、滝澤のボディー攻撃は的確に決まるが、スアノーイは変則的なガードで距離をとりダメージを受けない体勢。滝澤が攻勢を維持して判定勝利。

瀧澤博人が巧みにスアノーイをロープ際へ追い詰め、ローキックヒット

◆第4試合 女子(ミネルヴァ)アトム級(102LBS)挑戦者決定戦3回戦(2分制)

1位.祥子JSK(治政館/ 46.15kg)vs4位.ほのか(KANALOA/ 46.2kg)
引分け 1-0 /
主審:中山宏美
副審:椎名28-28. 桜井29-29. 少白竜29-28.
延長戦は三者とも9-10で、ほのかが挑戦権獲得。公式記録は引分け=ミネルヴァ実行委員会が公認。

初回、ほのかの首相撲とパンチの連打で祥子はペースを掴めず打たれる場面があった。

第2ラウンド、祥子は流れを変えようとミドルキックを繰り出すが、ほのかの接近戦にペースを掴めず、ほのかは的確なパンチで主導権を支配。
第3ラウンド、後がない祥子は打ち合いでほのかを青コーナーに追い込み、右フックを決めてノックダウンを奪う。ほのかは立ち上がり、打ち合いに持ち込むが終了。引分け裁定で挑戦者を決める延長戦に入った。

ほのかは終始、接近戦に持ち込み、右ストレートやヒザ蹴りを決めていく。祥子も打ち返すも手数で追いつかず、ほのかが延長戦を制した。

祥子JSKとほのかの攻防、際どくもほのかが挑戦権獲得

◆第3試合 フライ級3回戦

JKAフライ級2位.西原茉生(治政館/ 50.7kg)vs花澤一成(市原/ 50.8kg)
負傷引分け / TD 1R 0:28
主審:仲俊光

開始早々、打ち合いになり、早い展開で盛り上がっていた中、花澤一成が倒れる。西原茉生の右ストレートのカウンターが決まったと見えたが、TKO裁定は審議の上、偶然のバッティングと訂正。規定により負傷引分けとなった。立てない花澤は担架で控室に運ばれた。

試合後、西原選手からは「パンチが決まったかと思ったが、ビデオを見たら頭が当たっていた感じですね」と語り、「しかし、KO勝ちのイメージが出来たのは収穫です。再試合が組まれれば倒します!」と応えてくれた。

◆第2試合 ウェルター級3回戦

我謝真人(E.D.O/ 66.67kg)vs鈴木凱斗(KICK BOX/ 66.67kg)
勝者:我謝真人 / KO 1R 2:30 / 3ノックダウン
主審:少白竜

◆第1試合 ライト級3回戦

岡田彬宏(ラジャサクレック/ 61.15kg)vs来輝(BOMスポーツ沖縄/ 60.65kg)
勝者:岡田彬宏 / TKO 2R 3:00(終了ゴング同時の見極め)
岡田の右ヒジ打ちが来輝の右眉付近をカット。ドクターの勧告を受入れレフェリーストップ。
主審:椎名利一

【第1部】14:00~16:30

◆第7試合 女子(ミネルヴァ)ピン級(100LBS)タイトルマッチ3回戦

チャンピオン.藤原乃愛(ROCK ON/2005.1.6神奈川県出身/ 45.3kg)
      VS
挑戦者同級1位.撫子(GRABS/2000.7.7札幌市出身/ 44.6kg)
勝者:撫子 / 判定0-3 / 撫子が王座奪取、藤原乃愛は初防衛成らず
主審:中山宏美
副審:椎名28-29. 仲29-30. 桜井29-30

撫子が接近戦でのヒザ蹴りで藤原乃愛を苦しめた作戦勝ち

前日計量では、両者共に1回でパス、藤原選手は「ギリ(ギリ)JKファイターです。世界を目指していますので、防衛は当たり前です!」と王者の風格を見せた。撫子選手は「藤原選手とは3度目(過去1敗1分)で、3度目の正直で勝って北海道にベルトを持ち帰ります!」とコメント。

「藤原乃愛が防衛する」という声が多かったが、試合が始まると、撫子は藤原乃愛得意の蹴り技を封じる間合いを作り始めていく。撫子は首相撲からのヒザ蹴り、至近距離からのパンチで攻勢を仕掛ける。藤原は得意技を出す展開が少なく、少しずつ焦りが見えて来た。第2ラウンドも撫子は接近戦を仕掛ける。藤原は前蹴りで距離を取り、撫子の仕掛けを切り崩しに行くが、撫子はかわして接近戦に持ち込み、首相撲から顔面へのヒザ蹴り、パンチで追い込む。

最終第3ラウンドも撫子の接近戦は継続。藤原やセコンド陣は撫子の組み技に「反則だ」と声を出して主張するなど、今までと違う雰囲気になる。観客からも「藤原は心が折れ掛かっている」と心配する声が挙がっていた。藤原もブレイク後に得意の蹴りを仕掛けるがペースが掴めず終了。撫子がポイント的には僅差ながら主導権を奪った流れの判定勝利。

試合後、撫子は「ベルトを北海道に持ち帰れて嬉しい!」と語り、佐藤友則会長も「作戦勝ちです。撫子がしっかりと作戦を実行してくれました!」と両者、関係者共に奪取の喜びを爆発させていた。一方の藤原選手はノーコメント。代わりにセコンドが「今回はセコンドが悪かったです。乃愛には申し訳なかった!」と悔しさを交えてコメントしていた。いつもはインタビューに明るく応じてくれる藤原選手や関係者が悔し涙を流しているのを観て、「これが勝負の世界だ」ということを改めて認識させられました。

◆第6試合 72.6kg契約3回戦

JKAミドル級チャンピオン.光成(ROCK ON/ 72.5kg)
        VS
スーパーボーイ・ルークプラパーツ(タイ/ 71.1kg)
勝者:スーパーボーイ / TKO 2R 1:17
主審:少白竜

前日計量をパスをした光成選手は「セミファイナルですが、いい試合を見せます!」とコメント。当日もリラックスしていた表情。

初回はお互いに探り合いの蹴りの間合いで静かな展開だったが、スーパーボーイのヒジ攻撃が鋭く決まると、光成はアウトスタイルで自分の距離を取りパンチを繰り出す。

第2ラウンド、光成は得意なパンチを的確に入れていき、スーパーボーイもパンチ、ヒジ打ちを単発ながら入れていく。接近戦になり、スーパーボーイの右ヒジ打ちが光成の右眉間をカット。大きく出血はしなかったものの、再び首相撲中に右ヒジ打ちを今度は左眉上額に受け出血し、2ヶ所の負傷でドクターの勧告を受入れレフェリーストップとなった。

試合後の光成選手のセコンドは「アンラッキーだっただけ。よく戦っていたよ!」とコメント。光成選手は「そう言っていただければ嬉しいです。次回頑張ります!」と応えた。光成選手は眉間付近を2ヶ所カットで、それぞれ6針縫った様子。

パンチと蹴りで動きは良かった光成、接近戦は要注意の中で切られてしまった

◆第5試合 52.0kg契約3回戦

JKAフライ級1位.細田昇吾(ビクトリー/ 52.0kg)
        VS
宮坂桂介(ノーナクシン東京/ 52.0kg)
勝者:細田昇吾 / 判定2-1
主審:仲俊光
副審:椎名30-29. 中山29-30. 少白竜30-29

初回、細田昇吾はパンチを主体に攻めるが、宮坂は細田に距離を取らせないように蹴りで離しに掛かっていく展開。両者とも決め手に欠くが、細田が僅差2-1判定勝利。

◆第4試合 ウェルター級3回戦

JKAウェルター級1位.政斗(治政館/ 66.5kg)vs同級2位.正哉(誠真/ 66.67kg)
勝者:正哉 / 判定0-2
主審:桜井一秀
副審:仲29-29. 中山29-30. 少白竜29-30

両者共に互角な展開でミドルキック、ローキック、パンチを互いに決めていく。攻撃の的確さで正哉がやや優勢の僅差で判定勝利。

◆第3試合 59.0kg契約3回戦

JKAフェザー級1位.櫓木淳平(ビクトリー/ 58.8kg)
        VS
ナロンチャイ・シンコウムエタイジム(元・ルンピニー系フライ級6位/タイ/ 59.15→59.05→59.0kg)
引分け 1-0
主審:椎名利一
副審:桜井28-28. 仲28-28. 少白竜28-27

初回、櫓木淳平はローキックで攻勢を保つもガードが下がったところ、ナロンチャイの左ストレートでノックダウン。フラッシュ気味で効いていないが、第2ラウンド以降へ長引くとスタミナが切れてきたナロンチャイにボディー主体に攻めて挽回するが、初回のノックダウンが響いて引分け。

◆第2試合 ライト級3回戦

JKAライト級5位.林瑞紀(治政館/ 61.23kg)
        VS
JKイノベーション・ライト級4位.井上竜太(HEARDWORKER/ 61.0kg)
勝者:林瑞紀 / 判定3-0 (30-27. 30-27. 30-26)

◆第1試合 フェザー級3回戦

隼也JSK(治政館/ 56.9kg)vs石川智崇(KICK BOX/ 56.9kg)
勝者:石川智崇 / 判定0-3 (29-30. 28-30. 28-30)

王座奪取した撫子の“なでしこポーズ”

《岩上哲明記者観戦記》

【第1部】
まずは藤原選手の敗戦について、敗戦要因はいくつかあるが、簡単に2つだけ挙げると、一つは、「藤原乃愛」が徹底的に研究をされていたことから生まれた「得意技封じ」という我々が忘れかけている戦略にハマってしまったことである。そして、撫子側に「北海道へベルトを持ち帰る」というドラマにもなるようなテーマが藤原選手の「世界を狙う」を上回ったことだと思われる。しかし、これで1勝1敗1分けのイーブンであり、リターンマッチになるかどうか分からないが、時間がかかっても再戦の実現を期待したい。

セミファイナルは「ヒジ攻撃の怖さ」を改めて思い知らされたと言えよう。光成選手はこの経験を次に活かして欲しい。

【第2部】
永澤サムエル聖光選手はこの興行をしっかり締めてくれたと思う。団体のエースとしての自覚も伝わり、興行全体を意識するメインイベントの戦い方をかなり覚えてきたと言えよう。そして、ライト級王座決定戦では、「巡ってきたチャンス」と「二団体王者になるチャンス」というお互いがテーマをぶつけ合う試合だった。KO決着は見れなかったが、内田選手の粘りは新王者になった睦雅選手にとっていい手本になったと思う。

判定決着が多かったが、それぞれのセミファイナル、メインイベントが盛り上がったことで、興行として良かったと思う。改めて思ったことは、「勝利」は、選手、セコンド、ジムを含めた関係者が三位一体になることで得ることが出来ることである。そして、観客の皆様は、そのことを知ることで、キックボクシングの試合の視点が変わり、新境地で楽しめることが出来るだろう。

《堀田春樹取材戦記》

ライト級王座決定戦は、上り調子の睦雅と老練なテクニックを持つ内田雅之の拮抗した競り合いが見所だったが、睦雅の若さが優った展開。ノックダウンを計3度喫し、最後はレフェリーに止められるかと思ったが、5回戦を耐え持ち堪えた内田雅之の底力が見られた試合だった。再度王座挑戦権が回って来るかは難しいが、また応援したくなるベテランである。

藤原乃愛の王座陥落はキックボクサーとして初めてのどん底かもしれないが、多くの名チャンピオンも通って来た道で、同様に這い上がって来るだろう。18歳(ギリギリ高校生、年度末まで)としても春から大学生、人生これからである。

次回、ジャパンキックボクシング協会興行は5月14日(日)に市原臨海体育館で開催されます。新日本キック離脱後はコロナ禍を経て、初めてとなります。

▼堀田春樹(ほった・はるき)[撮影・文]
フリーランスとしてキックボクシングの取材歴32年。「ナイタイ」「夕刊フジ」「実話ナックルズ」などにキックのレポートを展開。ムエタイにのめり込むあまりタイ仏門に出家。座右の銘は「頑張るけど無理しない」

3月7日発売! 月刊『紙の爆弾』2023年4月号

今年の主役は大田拓真か、久々のNJKF出場! 堀田春樹

今回のメインイベンター大田拓真は、2019年11月30日にS-1ジャパン55kg級トーナメント覇者となり、2021年9月19日、波賀宙也に判定勝利して以来のNJKF本興行出場。コロナ禍の影響で中止に至ったタイトル挑戦もあり、他には「KNOCK OUT」や「Krush」などへの出場もあって、NJKF出場は久しぶりという感がありました。

◎NJKF 2023 1st / 2月26日(日)後楽園ホール17:30~20:35
主催:ニュージャパンキックボクシング連盟 / 認定:NJKF

(戦績は主催者発表にこの日の結果を加えたものです。試合レポートは岩上哲明記者)

WBCムエタイの世界タイトルを狙いたい旨を明かした大田拓真

◆第10試合 フェザー級3回戦

大田拓真(新興ムエタイ/ 1999.6.21神奈川県出身/57.1kg)31戦22勝(5KO)7敗2分
      VS
大翔(WSR・F荒川/1998.5.21鹿児島県出身/ 57.15kg)15戦9勝(5KO)6敗
勝者:大田拓真 / 判定3-0
主審:多賀谷敏朗
副審:竹村30-29. 少白竜30-28. 椎名30-28

大田拓真は前・WBCムエタイ日本フェザー級チャンピオン(第7代/防衛1度)
大翔は現WMC日本フェザー級チャンピオン(第5代)

初回、大田拓真のハイキックでスタート。大翔も切れ味があるミドルキックで反撃。基本に忠実な戦いをする二人だが、終盤に大田拓真のパンチが決まるもノックダウンまでは至らず。

第2ラウンド、両者とも切れがいい蹴りを繰り出すが単発で終わることが多く、大田拓真が大翔の攻撃に合わせる展開が続く。大田拓真の右ストレートが決まり、大翔はフラッシュダウンですぐに立ち上がり、ノックダウンポイントを取らせなかった。

最終第3ラウンド、大翔のヒジ打ちを大田拓真はクリンチでかわしていく。更に大田拓真はカウンターのヒザ蹴りとパンチで大翔の攻撃を防ぎ、主導権を譲らず終了。

大田拓真は試合後「あのフラッシュダウンはノックダウンかと思いましたが、勝てることが出来ましたのでよかったです」とコメント、「次回も頑張ります!」と笑顔で応えてくれました。

フラッシュダウンではあるが、大翔に尻餅をつかせた大田拓真の右ストレート
多発した大田拓真の右ミドルキックが大翔にヒット

◆第9試合 スーパーフェザー級3回戦

NJKFスーパーフェザー級5位.龍旺(Bombo Freely/2002.1.20茨城県出身/58.75kg)6戦5勝(2KO)1分 
      VS
同級7位.史門(東京町田金子/2000.9.1神奈川県出身/ 58.9kg)5戦4勝(2KO)1分 
引分け 1-0
主審:中山宏美
副審:竹村28-28. 少白竜28-27. 多賀谷28-28

関係者の多くが注目しているカード。初回、史門は果敢に攻めていき、龍旺はガードをしながら隙を突いて攻める展開。龍旺の右ストレートで史門は一瞬グラつくも互角の展開が続く。

第2ラウンド中盤には、史門がいきなりの左ストレートカウンターがクリーンヒットし、龍旺は思わずノックダウンする。ダメージは少なく龍旺はすぐ立ち上がるが、焦りのせいかパンチが大振りがち。史門は冷静に対処し、龍旺は首相撲で切り崩し、ラスト3秒で史門に右ストレートを決めるがノックダウンを奪えず。
第3ラウンド、スタミナが切れ始めた史門に龍旺は首相撲を主体に攻撃をしていくが、史門はクリンチワークで龍旺のペースを握らせない。龍旺の攻勢が続くもノックダウンを奪えず判定は引分け。

試合後 龍旺は自身に対してだろうか悔しそうな表情。一方の史門も「悔しい」とのコメントをしていたが、上位相手だったことや次に繋がるという言葉を聞き、「次は勝ちます!」と応えました。

前進する龍旺に史門の左ストレートがカウンターでヒットし、ノックダウンを奪う
接近戦で龍旺がバックヒジ打ちを返すが惜しくも当たりは浅かった
攻勢続けた龍旺もノックダウンが響いて引分け
積極果敢だったTAKUYAに攻勢に転じた山浦俊一の右ミドルキック

◆第8試合 61.0kg契約3回戦

山浦俊一(新興ムエタイ/1995.10.5神奈川県出身/60.95kg)
31戦17勝(3KO)12敗2分 
      VS
NJKFライト級3位.TAKUYA(K-CRONY/1993.12.31茨城県出身/60.75kg)
12戦7勝4敗1分 
勝者:山浦俊一 / 判定2-0
主審:椎名利一
副審:中山29-28. 少白竜29-28. 多賀谷29-29

山浦俊一は前・WBCムエタイ日本スーパーフェザー級チャンピオン(第8代/防衛1度)

試合前にTAKUYAは「山浦選手はキャリアは上ですが、気持ちで負けず、KO勝ちを狙います!」とコメント。

試合開始早々にTAKUYAはバリエーションある蹴りで仕掛ける。一方の山浦俊一はローキックで主導権を掴もうとする。手数が多いTAKUYAに対して山浦は巧みにブロックをしていく。

第2ラウンドも同様にローキックを続ける山浦とTAKUYAはアウトスタイルで攻撃を仕掛ける。TAKUYAはアグレッシブだが、山浦は有効打を打たせない。

最終第3ラウンド、山浦のローキックでダメージが出てきたTAKUYAだが、手数を減らさずパンチを中心に攻勢を仕掛ける。山浦の首相撲で揺さぶられるが、TAKUYAは耐え切り打ち合いに持ち込む。試合終了のゴングが鳴り、山浦はガックリと頭を落とし、TAKUYAは勝ちを確信して腕を挙げるが、山浦の僅差判定勝利。

試合後 TAKUYAは「負けてしまってすみません!」とコメント。王者相手に互角近い戦いをしていたことを伝えると、笑顔になり「次回は必ず勝ちますので応援に来てください!」と応えました。

TAKUYAの飛びヒザ蹴りを前蹴りで止める山浦俊一
第2ラウンドまでは採点が割れていた中、第3ラウンドを支配して辛勝の山浦俊一

◆第7試合 バンタム級3回戦

NJKFバンタム級3位.嵐(キング/2005.4.26東京都出身/53.1kg)9戦7勝(2KO)1敗1分
      VS
NKBバンタム級5位.佐藤勇士(拳心館/1991.8.12新潟県出身/53.4kg)19戦6勝12敗1分 
勝者:嵐 / TKO 1R 2:51 / カウント中のレフェリーストップ
主審:竹村光一

計量時にはNJKFとNKBの交流戦として、両選手ともに「団体の代表としてKO勝ちします」と語り、二冠王者の羅向選手が今回の興行の注目カードの一つとしてコメント。

両選手ともに小刻みで切れのいい蹴りとパンチの攻防で観客の目を引き始めていく中、嵐の飛びヒザ蹴りから左右のボディブローが佐藤勇士の右脇腹に決まる。たまらずノックダウンした佐藤勇士、立ち上がるも同じ個所に嵐の左右のパンチを貰い悶絶しながらノックダウン、そのままレフェリーストップで終了。

試合後、嵐は「左右のボディーへのパンチは偶然でしたが、飛びヒザ蹴りは狙っていました!」と笑顔で語り、「次もKOで勝ちます!」と力強いコメントをくれました。

嵐のボディーブローが佐藤勇士にヒットしてTKO勝利を導く

◆第6試合 80.0kg契約3回戦 (計量失格の佐野克海に減点1&グローブハンディー有)

NJKFスーパーウェルター級2位.佐野克海(拳之会/80.25kg/2001.4.11岡山県出身/80.25kg)
17戦9勝(4KO)6敗2分
      VS
ジェット・ペットマニーイーグル(1996.10.4タイ国出身/80.0kg)
67戦53勝(14KO)11敗3分
勝者:ジェット・ペットマニーイーグル / TKO 3R 1:57
主審:少白竜

開始から佐野克海はパンチのラッシュでKOを狙いにいくが、ジェットは首相撲で勢いを止め、ヒザ蹴りとヒジ打ちを入れていく。

第2ラウンドには佐野はスタミナが切れ気味で、ジェットの首相撲に掴まると首相撲の対応がし切れず、ジェットのヒザ蹴りとヒジ攻撃を貰う回数が増えていく。

最終第3ラウンド、佐野は中盤にジェットの首相撲からのヒザ攻撃でノックダウンし、立ち上がるもコーナーに追い詰められ、更にヒザ蹴りを貰い、2度目のノックダウンを喫したところでレフェリーストップ。

◆第5試合 60.0kg契約3回戦

コウキ・バーテックスジム(VERTEX/1997.9.20栃木県出身/58.85kg)8戦4勝3敗1分
      VS
Ryu(クローバー/1990.1.14茨城県出身/58.65kg)3戦2勝(1KO)1敗
勝者:コウキ・バーテックスジム / 判定3-0 (29-27. 29-27. 29-28)

コウキは第1ラウンドを通じて休まず攻撃をし、第2ラウンド開始早々に右ストレートでノックダウンを奪う。Ryuは3ラウンド目にようやく自分のペースを掴み、ラスト30秒にコウキの顔面にパンチをヒットさせるも巻き返しには至らず終了。

◆第4試合 スーパーバンタム級3回戦

島人租根(キング/1997.5.8沖縄県出身/55.0kg)4戦2勝2敗
      VS
大岩竜世(KANALOA/2000.7.10岐阜県出身/55.0kg)3戦2勝1敗
勝者:大岩竜世 / 判定0-3 (28-29. 29-30. 28-29)

オーソドックスな島人租根に対抗して変則的な仕掛けとローキックで攻める大岩竜世。第3ラウンド、ローキックでダメージが大きくなった島人の動きが鈍り、大岩が優勢を維持して判定勝利。

◆第3試合 フライ級3回戦

愁斗(Bombo Freely/2001.11.24茨城県出身/50.75kg)4戦2勝2分
      VS
甲斐喜羅(ビクトリー/2005.9.27埼玉県出身/50.45kg)3戦2勝1分
引分け 0-0 / 三者とも29-29

愁斗はパンチ、キックを多く繰り出し、甲斐喜羅は3戦目と思えないぐらい冷静な対応。アグレッシブで愁斗、技術で甲斐が優ったが、差は付き難い展開で試合終了。

◆第2試合 アマチュア ヘビー級2回戦(90秒制) 

髙木明彦(湘南龍拳1969.2.18大阪府出身)vs福田久嗣(ZERO/1980.5.5栃木県出身)
勝者:福田久嗣 / 判定0-2 (19-20. 19-19. 19-20)

初回は高木明彦の攻勢が目立つも、第2ラウンドには福田久嗣が打ち合いに持ち込むと高木をノックダウン寸前まで追い込んだ。

◆第1試合 アマチュア 60.0kg契約2回戦(90秒制)

アニマルタケ王(D-BLAZE/1983.2.2大阪府出身/59.65kg)
      VS
篠原まむし(矢場町BASE/1975.6.18岐阜県出身/57.5kg)
勝者:アニマルタケ王 / TKO 2R 0:47

アニマルタケ王はアマチュアらしからぬ攻勢で1ラウンド目にヒザ蹴りでノックダウンを奪い、第2ラウンド目では右ストレートでノックダウンを奪い、カウント中のレフェリーストップによるTKO勝ち。

《岩上哲明記者レポート》

二冠王者の羅向選手や元王者などから「第7試合(嵐vs佐藤勇史)や第9試合(龍旺vs史門)はKOが期待できるのでお勧めです!」という声が興行前日に挙がっていました。一番印象に残った嵐選手がダウンを奪った飛びヒザ蹴りからボディーへの左右ストレートは、往年の光本成三選手(目黒→G1)が当時の王者、越川豊選手を追い込んだ飛びヒザ蹴りからのヒザ蹴りを彷彿させるものでした。

セミファイナル龍旺vs史門戦とメインイベント大田拓真vs大翔戦は勝利への意地が感じられ、KOは無かったものの良い試合でした。今回はタイトル絡みは無かったものの、次回以降の興行で組まれると予想します。

また、リングを下りると礼儀正しく、今後応援したいと思わせる選手が増えているような印象があり、団体、各ジムで引き続きサポートをいろいろな角度で強化をしていくことが躍進への道ができるのではと思った興行でした。(岩上哲明)

《取材戦記》

年明け最初の興行として、NJKFは長らく毎年2月がスタートとなっていますが、“新春”とは言い難く、今年はタイトルマッチも無ければ年間表彰式も無い静けさがありました。

近年は地方興行やDUEL興行が充実し、13回に上る年間興行に今年のタイトルマッチ絡みの躍進に期待したいものです。(堀田春樹)

NJKF興行は3月26日(日)にGENスポーツパレスで女子中心の興行「GODDESS OF VICTORY」が16時30分より開催。

4月16日(日)は後楽園ホールで17時30分より本興行「NJKF 2023.2nd」が開催。

4月30日(日)には岡山コンベンションセンターにて13時30分より拳之会興行「NJKF 2023 west 2nd」が開催予定です。
  
▼堀田春樹(ほった・はるき)[撮影・文]
フリーランスとしてキックボクシングの取材歴32年。「ナイタイ」「夕刊フジ」「実話ナックルズ」などにキックのレポートを展開。ムエタイにのめり込むあまりタイ仏門に出家。座右の銘は「頑張るけど無理しない」

月刊『紙の爆弾』2023年4月号

期待の重森陽太、本場ムエタイ王座届かず! 堀田春樹

3年4ヶ月ぶりに新日本キックボクシング協会興行で行われたラジャダムナンスタジアム王座挑戦はまたも惜敗。

◎MAGNUM.57 / 2月19日(日)後楽園ホール17:33~21:03
主催:伊原プロモーション
認定:新日本キックボクシング協会、ラジャダムナンスタジアム
(下記より公式戦の試合順。試合レポートは岩上哲明記者)

◆第10試合 タイ国ラジャダムナンスタジアム・ライト級タイトルマッチ 5回戦

勝者=チャンピオン.ジョーム・パランチャイ(タイ/19歳/ 60.8kg)
      vs
敗者=同級10位.重森陽太(伊原稲城/1995.6.11東京都出身/ 60.7kg)
判定3-0
主審:ジラシン・シララッタナサクン(タイ)
副審:ポンメート・チャスラック(タイ)49-48.
   チャルーン・プラヤサップ(タイ)49-48.
           椎名利一(日本)49-48.
スーパーバイザー:チョークタナパット・パッタナパックディー(タイ)

第1ラウンド、ジョームは右ミドルキック、重森陽太は前蹴りでジョームの距離をとらせないと同時に、太腿を蹴ることで軸足を崩し、攻撃力を削りに来ていた。ラウンド終了後に重森の右脛から出血があったが、試合に影響は無さそうだった。

第2ラウンド、重森は左ミドルキックで攻めていくが、ジョームは合わせてパンチを繰り出し圧力を掛け始める。至近距離で互いにヒジ打ちを出していくが、重森から余裕が無くなってきた様子。

第3ラウンド、ジョームは重森のボディーにストレートパンチを的確に叩き込み、重森のスタミナを削る作戦に出てきた様子。重森はボディブローを貰いながらも、首相撲では互角に対応し、パンチやヒザ蹴りをヒットさせるが、ジョームのボディブローのヒット数が多くなる。

ジョーム・パランチャイのボディーブローが重森陽太にヒット
重森陽太のハイキックも浅かったがジョーム・パランチャイにヒット

第4ラウンド、ジョームはこのラウンドで重森を倒しに掛かるかのような左右のパンチやミドルキック、ヒザ蹴りを混ぜながら攻めていく。重森はカウンターのヒザ蹴りで対応していくが、左右のストレートを貰い動きが止まってしまう。体勢を立て直すも、明らかにジョームの優勢のラウンドになる。

第5ラウンド、ポイントで有利と思ったか、ジョームはセーブしながらも鋭いボディブローを主体に重森に圧力を掛け続ける。重森は手数足数を増やし、時折ジョームにクリーンヒットするも単発で流れを変えれず試合終了。ジョーム・パランチャイが判定勝利で防衛。

前日計量では両選手ともに今回のタイトルマッチ実現に嬉しさを語り、日本のファンへムエタイの素晴らしさを伝えるとコメント。ファイタータイプのジョームに初挑戦である重森陽太のテクニックが通じるかどうかが試合のポイントになると思われた。

防衛したジョームはリング上で「有難うございました!」とコメント。控室に戻ってきたジョームは支援者から祝福され、リング上とは違う安堵感を見せ笑顔で会釈をしてくれました。重森陽太は出血した医務室で右脛の治療を受けていた様子。

重森陽太が前蹴りでジョーム・パランチャイの接近を阻止
明暗が分かれた両者の表情、ジョーム・パランチャイの勝利

◆第9試合 WKBA世界62kg級王座決定戦 5回戦

日本ライト級チャンピオン.髙橋亨汰(伊原/ 61.9kg)
      vs
ラット・シットムアンチャイ(元・ルンピニー系フェザー級6位/タイ/ 60.0kg)
勝者:髙橋亨汰(王座獲得) / TKO 2R 0:39
主審:少白竜

試合開始早々に右フックをヒットさせる高橋亨汰。ラットはバランスを崩すが立て直し、右飛び回し蹴りで威嚇する。高橋の猛攻にキャリアでかわすラット、しかし、高橋の左のショートパンチを貰ってノックダウンを喫する。ラットはすぐに立ち上がり逆襲し、パンチの連打で高橋をフラッシュダウンまで追い込む。
第2ラウンド、高橋の猛攻は続き、ラットも打ち合いに応じるが、高橋の右ストレートで態勢が沈んだところに高橋が左の縦ヒジ打ちでラットの頭部にヒットさせノックダウンを奪う。ラットは立ち上がるも、前頭部からおびただしい出血。ドクターの勧告を受入れレフェリーが試合ストップして終了。

前日計量の会見で高橋は会長などに感謝の言葉を述べながら「チャンスを掴みたい!」と意欲が伝わる。ラットも「勝ちたい。経験(長年の)もありベルトは巻く!」と意気込みを語っていた。

試合後、控室でチャンピオンベルトを肩に掛けた高橋選手は「キレイにヒジが決まって嬉しいです。次もヒジ打ち有りで戦いたい!」と応えていた。

高橋亨汰がハイキックでラットに威嚇
ラットを流血させた高橋亨汰の左ヒジ打ちがヒット

◆第8試合 第2代WKBA日本バンタム級王座決定戦 5回戦

2021年10月17日に泰史(伊原)との王座決定戦に判定勝利した初代チャンピオン.佐野佑馬(創心會)は都合により欠場で王座返上。

NJKFバンタム級チャンピオン.志賀将大(エス/ 53.15kg)
      vs
No-Ri-(前・TENKAICHIバンタム級Champ/ワイルドシーサーコザ/ 53.4kg)
勝者:志賀将大(王座獲得) / 判定3-0
主審:椎名利一
副審:少白竜50-45. 宮沢50-46. 仲50-46

初回から志賀将大は冷静にミドルキックを中心に攻め、No-Ri-(=ノーリー)は押され気味ながら、変則的なリズムでキックやパンチを仕掛けていく。
第2ラウンド以降も志賀は首相撲に持ち込むが、No-Ri-は付き合わず後ろを向いてかわしていく。組まれたら後ろを向くことが多くレフェリーから注意を受ける。志賀は執拗に首相撲を仕掛けヒザ蹴りに入るなど自分のペースに持ち込もうとするが、No-Ri-に阻まれる。

最終ラウンドに入ると、志賀は首相撲からのヒザ蹴りでは倒せないことや、ポイントで有利な状況でアウトスタイルに切り替えた様子。No-Ri-はバックハンドや胴回し蹴りで逆転を狙うが単発で終わってしまい終了。志賀将大が大差判定勝利で王座獲得となった。

試合前にNo-Ri-選手から「身体にハンディーがある人達のために沖縄にベルトを持ち帰り勇気を与えたい!」とコメントがあり、急遽決まった試合でありながら、地元で興行が中止になった悔しさをぶつけたいという気持ちが伝わってきました。
志賀選手はリング上で感謝の言葉を述べていたが、試合には満足はしていなかった表情で、観客の「セコンド陣の指示が噛み合えばダウンは奪えたかもなあ!」という声が聞こえましたが、この試合を象徴するものでしょう。

志賀将大は離れても接近戦でも攻勢を見せ、ミドルキックでNo-Ri-を攻める
NJKFから乗り込んだ志賀将大の戴冠、今後の防衛戦に期待

◆第7試合 57.0kg契約3回戦

木下竜輔(伊原/ 56.7kg)vs 湯本剣二郎(Kick Life/ 56.85kg)
勝者:湯本剣二郎 / KO 2R 3:00
主審:仲俊光

第1ラウンド、木下竜輔は鋭いローキックを主体に攻め、湯本剣二郎はパンチで追い詰めようとするが、木下のローキックでなかなか距離が掴めない様子。

第2ラウンド、湯本はローキックのダメージが蓄積している様子だが小刻みに攻めていく。残り数秒で湯本の右フックが木下のテンプルにクリーンヒットし、前のめりにノックダウン。木下は立ち上がるもファイティングポーズがとれずカウントアウトされた。

◆第6試合 58.5kg契約3回戦

ジョニー・オリベイラ(トーエル/ 58.35kg)
      vs
WKAムエタイ世界フェザー級チャンピオン.国崇(=藤原国崇/拳之会/ 58.25kg)
勝者:ジョニー・オリベイラ / 判定3-0
主審:宮沢誠
副審:仲29-28. 少白竜30-29. 勝本30-29

ジョニー・オリベイラのタフさと国崇のテクニックの競い合いが予想された試合。初回、ジョニーのパンチがヒットすると国崇も返し、パンチの打ち合いで盛り上がる場面が見られた。

第2ラウンドもジョニーは的確に攻めていく。国崇はやりづらそうな表情を醸し出し、第3ラウンドには、ジョニーの攻勢に国崇はヒジで打開を図ろうと試みるが、ジョニーは蹴りで国崇の間合いを取らせず終了。

◆第5試合 58.5kg3回戦

仁琉丸(富山ウルブズスクワッド/ 58.65→58.35kg)vs 小林勇人(伊原/ 58.2kg)
勝者:小林勇人 / TKO 1R 2:18
主審:椎名利一

第1ラウンド、小林勇人の鋭い蹴りが会場を沸かし、仁球丸はバックハンドブローで牽制。2分過ぎて、仁球丸のガードが下がったところを小林が強烈な右ストレートをヒット。仁球丸は身体が吹っ飛ぶように受け身が取れないノックダウン。ほぼ失神状態になり、レフェリーはノーカウントでストップをかけて終了。仁琉丸は担架で運ばれた。

◆78.0kg契約3回戦=中止

マルコEX斗吾(伊原/ 78.6kg)vs 江原陸人(GODSIDE/ 負傷欠場)は中止により、引退したマルコEX斗吾出場によるエキシビジョンマッチ2回戦(90秒制)を披露。

斗吾選手は現役さながらの動きで、現役復帰の可能性を聞いてみると、「それはないです!」と笑顔で否定していました。

◆第4試合 51.0kg契約3回戦(2分制)

オン・ドラム(伊原/ 50.85kg)vs 青木繭(SHINE沖縄/ 50.65 kg)
勝者:青木繭 / 判定0-3 (27-30. 26-30. 27-30)

◆第3試合 フェザー級2回戦

吴嘉浩(=ゴガコウ/伊原/ 56.85kg)vs 古山和樹(エス/ 56.4kg)
勝者:吴嘉浩 / 判定3-0 (19-18. 19-18. 19-18)

◆第2試合 女子アマチュア34.0kg契約2回戦(90秒制)

西田永愛(伊原/ 33.8kg)vs 菊池柚葉(笹羅/ 33.4kg)
引分け 三者三様 (19-20. 20-19. 19-19)

◆第1試合 52.0kg契約2回戦

渡邊匠成(伊原/ 51.7kg)vs 今吉勇樹(K-style/ 51.8kg)
勝者:渡邊匠成 / 判定3-0 (20-19. 20-19. 20-19)

日本で激戦を制したジョーム・パランチャイ

《取材戦記》

本場タイでは権威失墜が叫ばれる二大殿堂スタジアムも、この日行われたラジャダムナンスタジアム王座を懸けた戦いは、やはりまだまだ最高峰の重みが感じられるものだった。タイからスタジアム公認審判団とスーパーバイザーが招聘されれば、タイのジョーム・パランチャイも決して気を抜けない本気で倒しに来る真剣さがあった。

採点がジャッジ三者とも49-48ではあるが、プロボクシング式のような各ラウンドが独立した採点基準ではないのは、ムエタイに精通する人なら理解出来るでしょう。

2019年10月20日にラジャダムナンスタジアム・バンタム級王座に挑戦し、引分けで逃した当時の江幡睦は、「倒しきれなかった、それに尽きると思います。ひとつのノックダウンでも奪わなければ、ラジャダムナンのベルトは獲れないということです!」と殿堂の壁の厚さを語っていたとおり、重森陽太ももうちょっと優勢に進めていても48-48か、或いは49-48は変わらなかったかもしれない。この1点差を乗り越えるにはもうちょっとながらも、もっと大きな壁が存在するのでしょう。

次に期待されるのは高橋亨汰になるかもしれない。そのステップとなった今回のヒジ打ちによる豪快TKOはインパクトがあるものでした。(堀田春樹)

まだ最高峰への通過点ながらWKBA王座獲得した高橋亨汰

《岩上哲明記者レポート》

今回の興行は新日本キックボクシング協会の底力を感じさせるものでした。KO決着した試合はそれぞれ内容は違いますが、どれもがインパクトが強く、キックボクシングの凄み、そして観客が求めているものを示してくれたものだったと思います。

メインイベントのラジャダムナンタイトルマッチは、前評判では「重森陽太はファイタータイプのジョーム・パランチャイにKO負けするのでは?」という声が割とありましたが、テクニックとタフさで僅差の判定に持ち込んだ重森選手は、次回の挑戦に期待が出来そうなものでした。重森選手に強いて苦言を言えば、前日計量後の記者会見で「ムエタイを見せる!」ではなく「勝って王者になる」と勝利への意気込みを語って欲しかったところです。ジョーム選手と同じことをコメントしたことで、試合前に勝利が重森選手との距離を少しとってしまったかもしれないでしょう。

高橋亨汰選手はリングに上がった時に「王者になる」雰囲気が出ていました。重森選手と同じ階級ではあっても、カラーも違い、団体のエースとした活躍しそうな予感をさせてくれました。今後も左ヒジを武器に盛り上げてくれることを期待したいものです。

デビュー戦で豪快なKOを決めた小林勇人選手やキャリア差に怯むことなくKO勝ちした湯本剣二郎選手のような有望な若手選手も出てきており、次回興行も期待出来そうです。(岩上哲明)

◎新日本キックボクシング協会の次回興行は、4月23日(日)に後楽園ホールでMAGNUM.32が開催予定です。

▼堀田春樹(ほった・はるき)[撮影・文]
フリーランスとしてキックボクシングの取材歴32年。「ナイタイ」「夕刊フジ」「実話ナックルズ」などにキックのレポートを展開。ムエタイにのめり込むあまりタイ仏門に出家。座右の銘は「頑張るけど無理しない」

NKB王座、二人の世代違い新チャンピオンが誕生!野獣シリーズvol.1 堀田春樹

今回は年齢層の幅広い、ヤング対決と中年対決の存在感示したタイトルマッチ。カズ・ジャンジラと杉山空が戴冠。

WPMF世界王座獲得経験者同士のベテラン対決は片島聡志が一瞬のハイキックでテクニシャン藤原あらしを倒しました。

◎野獣シリーズvol.1 / 2月18日(土)後楽園ホール17:30~20:20
主催:日本キックボクシング連盟 / 認定:NKB実行委員会

◆第9試合 第16代NKBウェルター級王座決定戦 5回戦

3位.笹谷淳(team COMRADE/1975.3.17東京都出身/ 66.6kg)
62戦29勝(10KO)31敗2分
      VS
4位.カズ・ジャンジラ(ジャンジラ/1987.9.2東京都出身/ 66.4kg)
41戦20勝(4KO)16敗5分
勝者:カズ・ジャンジラ / 判定3-0
主審:前田仁
副審:亀川47-50. 鈴木47-50. 高谷47-50
※各戦績はこの日の結果を加えています。

笹谷淳vsカズ・ジャンジラ、ヒジ打ちと左ストレートの交錯
飛びヒザ蹴りを見せたカズ・ジャンジラ

47歳と35歳の戦い。両者は過去2020年10月10日に対戦し、カズ・ジャンジラが僅差ながら判定勝利している。

初回、ローキック中心にパンチを合わせて出ていく笹谷淳。第2ラウンドには組み合う接近戦が増え、カズの圧力が徐々に増していく中、第3ラウンドにはカズの左フックがヒットして完全に主導権を奪う。

笹谷は下がり気味の展開でも打ち返し、カウンターのヒジ打ちも返すが、カズの手数と前進は衰えず、計4度の飛びヒザ蹴りも見せたが、ノックダウンに至るヒットは見られず判定まで縺れ込んだ。採点は3ラウンド以降全て、カズが支配した流れでジャッジ三者とも50-47が付いた採点。カズ・ジャンジラが新チャンピオン。

◆第8試合 第8代NKBフライ級王座決定戦 5回戦

1位.龍太郎(真門/2000.12.25大阪府出身/ 50.6kg)11戦4勝(1KO)6敗1分
      VS
2位.杉山空(HEAT/2005.1.19静岡県出身/ 50.65kg)7戦4勝1敗2分
勝者:杉山空 / 判定0-2
主審:加賀見淳
副審:高谷49-50. 鈴木49-49. 前田47-50

22歳と18歳の戦いは、初回から蹴りの主導権争いから首相撲に移ると杉山の崩しが優勢な流れを作り、前蹴りから繋ぐ技が上回った杉山空が主導権を維持した流れで勝利を導き、新チャンピオン。

王座に就いて「これからがスタート」と言うとおり、団体枠を越えたトップスターへ進まねばならない。

幾つかの飛び技など大技も見せた杉山空
前蹴りが効果的だった杉山空
片島聡志の右ハイキックがヒットした直後、藤原あらしが倒れかかる直前

◆第7試合 54.0kg契約 5回戦

藤原あらし
(元・WPMF世界スーパーバンタム級Champ/バンゲリングベイ/1978.12.22和歌山県出身/ 53.8kg)
98戦63勝(41KO)24敗11分

      VS
片島聡志
(元・WPMF世界スーパーフライ級Champ/KickLife/1990.10.19大分県出身/ 53.95kg)
52戦27勝(KO数は不明)20敗5分

勝者:片島聡志 / TKO 2R 2:55
主審:亀川明史        

藤原あらしは昨年12月24日に続いて連続出場。

則武知宏(テツ)をKOしたムエタイ技でしぶとさを見せるか注目の中、初回、両者の蹴りからパンチでの様子見。

第2ラウンド終盤、それまでの落ち着いた流れから片島のいきなりの右ハイキックで藤原あらしのアゴにヒットするとバッタリ倒れ、ノーカウントでレフェリーストップ、そのまま担架で運ばれるも、後に控室で意識はしっかり回復した様子。

ノックアウトした瞬間の片島聡志
勝利した片島聡志と陣営

◆第6試合 59.0kg契約3回戦

NKBフェザー級4位.矢吹翔太(team BRAVE FIST/1986.8.2沖縄県出身/ 58.85kg)
14戦10勝3敗1分
      VS
KEIGO(BIG MOOSE/1984.4.10千葉県出身/ 58.75kg)20戦7勝8敗5分
勝者:矢吹翔太
主審:高谷秀幸 / 判定3-0
副審:加賀見30-29. 前田30-29. 亀川30-28

蹴りから組み合って首相撲に持ち込んだ矢吹翔太のヒザ蹴りがKEIGOのスタミナを奪い僅差ながら判定勝利。

ノックアウトした右ストレートカウンターの小清水涼太

◆第5試合 62.5kg契約3回戦

蘭賀大介(ケーアクティブ/1995.2.9岩手県出身/ 62.45kg)5戦3勝(3KO)1敗1NC
      VS
小清水涼太(KINGLEO/1999.3.30富山県出身/ 62.1kg)4戦3勝(2KO)1敗
勝者:小清水涼太 / TKO 1R 1:05 /
主審:鈴木義和

蹴り合いから接近した中での小清水涼太の右フックカウンター一発で倒すとカウント中のレフェリーストップ。蘭賀大介はマットに頭を打ち付けたか、担架で運ばれる衝撃の結末となった。

◆第4試合 バンタム級3回戦

シャーク・ハタ(=秦文也/テツ/1987.10.20大阪府出身/ 52.9kg)6戦3勝2敗1分
      VS
田嶋真虎(Realiser STUDIO/2002.6.28埼玉県出身/ 53.45kg)1戦1敗
勝者:シャーク・ハタ / 判定2-0 (30-27. 30-28. 29-29)

◆第3試合 バンタム級3回戦

橋本悠正(KATANA/1997.4.21福島県出身/ 53.5kg)3戦2敗1分
      VS
香村一吹(渡邉/2007.2.22東京都出身/ 53.2kg)1戦1勝
勝者:香村一吹 / 判定0-3
主審:前田仁        
副審:亀川27-30. 加賀美27-30. 高谷27-30

◆第2試合 フェザー級3回戦

堀井幸輝(ケーアクティブ/1996.11.7福岡県出身/ 56.7kg)2戦2勝
      VS
KATSUHIKO(KAGAYAKI/1975.11.13新潟県出身/56.9kg)3戦1勝(1KO)2敗
勝者:堀井幸輝 / 判定3-0 (30-27. 30-27. 30-27)

◆第1試合 ライト級3回戦

青山遼(神武館/1999.2.5埼玉県出身/ 60.65kg)2戦2敗
      VS
猪ノ川海(大塚道場/2005.9.3茨城県出身/ 60.35kg)1戦1勝(1KO)
勝者:猪ノ川海 / TKO 1R 1:47 / カウント中のレフェリーストップ

チャンピオンベルトを巻いて感慨無量のカズ・ジャンジラ

《取材戦記》

47歳で王座挑戦となった笹谷淳。敗れたが、これが最後の挑戦となるかは微妙。チャンピンとなったカズ・ジャンジラが「穴なので!」と挑戦者を募るとおりの狙い易さはあるだろう。

NKBフライ級タイトル戦は、2010年4月24日以来、ほぼ13年ぶりの開催。選手層の薄さが原因だが、活気が増してきた日本キックボクシング連盟に於いて、NKB全階級で定期的(期限内)にタイトルマッチを活性化させることが、この連盟の基盤となる部分かと思います。現在は極力高額の賞金トーナメントの方が盛り上がるとも言える時代の流れかもしれませんが。

片島聡志は昨年9月25日にNJKF興行で波賀宙也(立川KBA)に3ラウンド制判定負けしいているが、そこから原点のムエタイスタイルに返った戦略が今回活かされたか、藤原あらしの首相撲に持ち込まない流れで勝機を見出しました。

古き昭和の頑固気質を持つ渡邉ジムから令和の新星、この日まだ15歳の高校一年生、香村一吹がデビュー戦を判定勝利で飾りました。決して昭和の練習法という時代錯誤ではないが、渡邉会長の孫のような世代の存在は、周囲に可愛がられながら期待に応えられるか。

次回、日本キックボクシング連盟興行「野獣シリーズvol.2」は4月17日(土)に後楽園ホールで開催予定です。

新チャンピオン誕生の杉山空と陣営

▼堀田春樹(ほった・はるき)[撮影・文]
フリーランスとしてキックボクシングの取材歴32年。「ナイタイ」「夕刊フジ」「実話ナックルズ」などにキックのレポートを展開。ムエタイにのめり込むあまりタイ仏門に出家。座右の銘は「頑張るけど無理しない」

NO KICK NO LIFEは必要な存在! 堀田春樹

ベテラン名チャンピオン三名の引退式と、新鋭チャンピオンクラスのバンタム級トーナメントは世代交代を表すイベントとなりました。

森井洋介は激戦から来る顔面の怪我の影響を考慮し、エキシビジョンマッチも行なわないスーツ姿での引退セレモニー。開場後、森井洋介引退記念スペシャルトークショーが開催。

喜入衆と緑川創は公式戦を戦い抜いての引退セレモニーでした。

◎NO KICK NO LIFE / 2月11日(土・祝)大田区総合体育館 / 開場14:30 開始16:00 
主催:(株)RIKIX

◆第9試合 70.0kg契約 5回戦

緑川創(元・日本ウェルター級Champ・防衛4度/RIKIX/1986.12.13東京都出身/69.9kg)
      VS
海人(=大野海人/S-cup世界トーナメント2018覇者/TEAM F.O.D/1997.8.21大阪府出身/69.8kg)
勝者:海人 / TKO 3R 0:57
主審:北尻俊介

初回、お互い様子を見ながら牽制。緑川創はパンチの連打で出るが、海人は被弾を避ける展開。残り30秒を切って、海人のヒジの連打を防いだ緑川だったが、ガードが空いた一瞬にヒジを打ち込まれ、ノックダウンを奪われてしまう。

第2ラウンド、パンチの応酬になるものの、海人のヒジ打ちを警戒したせいか緑川は自分の距離が掴めない様子。ラウンド後半に海人の左ヒジ打ちからの右ミドルキックが決まり、緑川はノックダウン。立ち上がるが海人のヒジ打ちで額をカットされドクターチェック。終了間際に海人の攻勢に緑川は追い詰められるもゴングに救われる。

引退試合は今戦える最強相手に完膚なきまで打たれ続け散った緑川創

第3ラウンド、ダメージが残っている緑川はパンチの連打を仕掛けるも、海人のヒジの連打を貰うとニュートラルコーナー付近に追い詰められ、ボディーへのパンチの連打でノックダウン。立ち上がるも左右のショートパンチを貰うと崩れ落ち、レフェリーがストップをかけて終了。

試合後、緑川の引退セレモニーでは、小野寺力会長や元・WBA世界スーパーフェザー級チャンピンの内山高志氏などが花束や試合記念パネルを贈呈、緑川創の引退挨拶が行われ、テンカウントゴングが打ち鳴らされた後に四方に一礼をしてリングを去った。

完全燃焼した現役生活にピリオドを打つテンカウントゴングを聴く緑川創

◆第8試合 62.5kg契約 5回戦

勝次(=高橋勝治/元・日本ライト級Champ・防衛3度/藤本/1987.3.1兵庫県出身/62.4kg)
      VS
髙橋聖人(前・NKBフェザー級Champ/真門/1997.12.1大阪府出身/62.3kg)
引分け 三者三様
主審:秋谷益朗
副審:北尻48-48. 能見48-49. 大成49-48

初回、勝次は前蹴り、パンチで探りながら仕掛けていく。高橋聖人はブロックをして打って出る隙を狙っている様子。残り30秒で勝次はラッシュを仕掛けるが、聖人のディフェンスで攻めきれず。

第2ラウンド、聖人は時折ローキックで切り崩しにかかるが、勝次も応戦する中。聖人のローキックで勝次がバランスを崩すもすぐに立て直し、聖人にペースを握らせない。

第3ラウンド、聖人のローキックで勝次は足にダメージが蓄積しているが、聖人は攻め切れない。手数で勝る勝次はパンチのラッシュを再度仕掛けて顔面を捉えるも、聖人は上手く距離をとっている為、コーナーに追い詰めるがダウンには繋がらない。

第4ラウンド、勝次はパンチのラッシュでダウンを狙っていくがダメージが残り、更に聖人のブロックに拒まれてしまう。聖人は隙を狙って仕掛けたい様子だが、勝次のラッシュに対応するのが精一杯の様子。

第5ラウンド、勝次のパンチは的確に聖人にヒットするも、ダウンを奪えず焦りが出て来ている様子。聖人はタフさでダメージをカバーしてきたがスタミナが切れつつあり、勝次の右ストレートや右ヒザ蹴りを貰ってしまう。聖人は後半にローキックで勝次のバランスを崩すがノックダウンには至らず終了。

今回も飛んだ勝次、やや優勢な展開を見せたが、高橋聖人のタフさに阻まれた

◆第7試合 NO KICK NO LIFEバンタム級賞金トーナメント 5回戦

HIROYUKI(=茂木宏幸/元・日本フライ級、バンタム級Chmp/RIKIX/1995.10.2神奈川県出身/53.4kg)
      VS
國本真義(MEIBUKAI/1992.3.2愛知県出身/53.5kg)
勝者:HIROYUKI / 判定3-0
主審:大成敦
副審:秋谷50-47. 能見49-48. 北尻50-47

初回、お互いローキックからスタート。HIROYUKIはパンチを混ぜていくが、國本真義はローキックで切り崩しにかかる。HIROYUKIの右ミドルキックが國本の動きを止めるが詰められず。

第2ラウンド、HIROYUKIは國本へのボディーにパンチを叩き込むが、國本はローキックを繰り返していく。HIROYUKIのボディーへのストレートで國本は嫌がるが、依然としてローキックを繰り返すも劣勢を挽回出来ず。

第3ラウンド、HIROYUKIはパンチ主体に攻めるも、國本はローキックを続けていく。

第4ラウンド、HIROYUKIは冷静に國本のローキックをかわし、右ミドルキックの切り崩しも加えながらパンチで攻めていく。國本はローキックをひたすら打ち続けながらHIROYUKIに有利な距離を掴ませない。

第5ラウンド、國本は左脇にダメージを負いながらもローキックに固執。HIROYUKIはパンチの連打、右ミドルキックを決め、更にヒジ打ちで國本の額をカット。國本は鼻からも出血するがタフネスさを発揮して終了。

試合後 HIROYUKIは「相手の選手がローキックだけで来るとは想定外だった。」とコメント。「次の準決勝、決勝では必ず勝ちます。」とトーナメントへの意気込みを語った。

ローキックに苦戦しながらも効果的なミドルキックで攻めたHIROYUKI

◆第6試合 NO KICK NO LIFEバンタム級賞金トーナメント 5回戦

花岡竜(元・JKIフライ級C/橋本/2003.11.30東京都出身/53.5kg)
      VS
サンチャイ・テッペンジム(タイ/1988.5.30ソンクラー県出身/53.3kg)
勝者:花岡竜 / 判定2-1
主審:ノッパデーソン・チューワタナ
副審:秋谷48-49. 能見49-47. 大成49-48

初回、サンチャイはオーソドックなムエタイスタイルでキックを主体に探りを入れるが、花岡は慌てることなく合わせていく展開。

第2ラウンド、サンチャイはヒジ打ちとヒザ蹴りで組み立てていこうとする。花岡はブロックや距離をとってかわしていく。後半から花岡の左ストレートからのボディーへのヒザ攻撃が決まり、少しずつ追い詰めていくがダウンまで奪えず。サンチャイはボディーへのダメージがあり、嫌がっている感じ。
第3ラウンド、花岡は的確なパンチ蹴りを決めていき、サンチャイのペースを落としにかかる。サンチャイの右ヒジが花岡の左目上にヒットしカットするが傷が浅いようでそのまま続行。

第4ラウンド、サンチャイのスタミナは落ちてきているが、花岡のカットされた傷周辺を狙いにいく。花岡は負傷ストップ負けをしない為に、離れながらボディー攻撃していくが、サンチャイのタフさと間合いで攻めきれず。
第5ラウンド、花岡のパンチがヒットしサンチャイの動きが止まる。サンチャイは花岡のカウンターに合わせてヒジ打ちで逆転勝利を狙っていくが、負傷箇所へのダメージを避けながら前に出て反撃を封じて終了。

試合後、観客へのサインや写真撮影に応じていた花岡だったが、カットされた左目上の傷のことで「ヒジのカットでのTKO負けを警戒していたので」とコメント。「次はきれいに勝ちます」とコメントしながら安堵感が出ていた。

ヒジを警戒しながら貰って切られるも徹底した攻めでサンチャイのスタミナを削る花岡竜

◆第5試合 NO KICK NO LIFEバンタム級賞金トーナメント 5回戦

麗也(=高松麗也/元・日本フライ級Champ/治政館/1995.10.2埼玉県出身/53.5kg)
      VS
神助(=岸慎介/JKIバンタム級Champ/エムトーン/2001.10.7神奈川県出身/53.5kg)
引分け 三者三様 (勝者扱いで麗也が準決勝進出)
主審:北尻俊介
副審:秋谷49-48. ノッパデーソン48-48. 大成48-49 (延長戦は三者とも麗也の10-9)

初回、神助はパンチで探りを入れながら、自分の距離を取りにいく。麗也は1分過ぎに神助の右ストレートを貰ってグラつくが冷静に対処。

第2ラウンド、初回と同じような展開に神助のセコンドからは「付き合うとKOできないよ」と声が飛ぶが、神助は攻めきれず、麗也は神助の攻撃に合わせていく。

第3ラウンド、麗也はローキックとパンチで仕掛け始める。神助はパンチ蹴りで返し、麗也がテーピングしている右膝周辺にローキックと、パンチコンビネーションで切り崩しを図るが、麗也にダメージを与えきれず。

第4ラウンド、神助はパンチ中心に攻撃を変えていき、麗也も劣勢と感じたか、パンチ主体に攻勢を仕掛ける。残り1分で打ち合いになるが、お互いに決め手を欠いてダウンまで奪えず。

第5ラウンド、神助の勢いが落ちてきているのを感じた麗也は距離をとりながらパンチを当てていく。ラスト1分頃から神助もラッシュを仕掛けるが、麗也は冷静にスウェーとブロックでダメージを貰わない。残り時間少ない中、打ち合いになるがダウンを奪えず終了。三者三様の引分け。

延長戦 神助は前へ前へとプレッシャーをかけていき、麗也は隙を狙っていく展開。後半に麗也の左右のフックが神助の顔面をとらえ、一瞬、神助の動きが止まる。神助も終盤にパンチのラッシュを仕掛けるが、麗也も合わせていき、麗也の優勢を支持され、準決勝進出が決まる。

試合後のインタビュールームではリラックスした表情で談笑していた麗也。次戦の相手になるHIROYUKIと一緒に「次の準決勝、決勝も観に来てください」とコメント。

麗也も多彩に攻める中でのミドルキックで神助を追い詰める

◆第4試合 NO KICK NO LIFEバンタム級賞金トーナメント 5回戦

山田航暉(元・WMC日本スーパーフライ級Champ/キングムエ/1998.7.17愛知県出身/53.5kg)
      VS
平松弥(元・JKIフライ級Champ/岡山/2004.10.13岡山県出身/53.2kg)
勝者:山田航暉 / TKO 3R 2:28 /
主審:能見浩明

両者ローキックでの牽制からスタート。平松弥は蹴りを上下に分けて蹴っていくが、山田航暉はブロックで凌いでいく。やや膠着状態に移ってラウンドは終了。

第2ラウンド、攻めが少ない展開にレフェリーから何度も「ファイト」の声が掛かる。平松のパンチに合わせ、山田はカウンターでパンチを返していく。そして、平松のパンチに合わせ、山田の右ストレートがカウンターで決まり、ノックダウンを奪う。平松は巻き返そうとローキックとパンチのコンビネーションで攻めていくが、山田のブロックに阻止される。

第3ラウンド、山田は平松にプレッシャーをかけていき、平松は手数を増やして山田にダメージを与えようと試みていく。2分過ぎにガードが空いた平松の顔面を山田の右ヒジ打ちがアゴにヒット。平松は立ち上がろうとするが、意識朦朧として立ち上がることができず、カウント中のレフェリーストップとなった。

蹴りも多かった山田航暉のミドルキックと平松弥との攻防

 
◆第3試合 ウェルター級3回戦

健太(=山田健太/E.S.G/1987.6.26群馬県出身/66.0kg)
      VS
喜入衆(元・LBSJウェルター級Chmp・NEXT LEVEL渋谷/1979.5.24神奈川県出身/66.5kg)
勝者:健太 / 判定2-0
主審:秋谷益朗
副審:能見29-29. ノッパデーソン29-28. 大成30-28

喜入衆の引退試合。開始から両者ともに小刻みに攻撃をしていく。健太が徐々に圧力を掛けるが、喜入衆はハイキックを繰り出してペースを握らせない。

第2ラウンド、喜入衆は健太に追い詰められるがブロック。しかし、健太の的確なボディーへのパンチで劣勢になるが凌ぎきった。

第3ラウンド、健太は左ストレートとローキックのコンビネーションで切り崩しを図るが、喜入衆は手数で挽回していく。しかし健太はペースを崩すことなく、巧みなディフェンスで優って終了。喜入衆は判定負けながら密度の濃い展開でラストファイトを終えた。

敗れたが見せ場は多かった喜入衆
愛娘から花束を贈られた喜入衆

◆第2試合 女子バンタム級3回戦(2分制)

高橋アリス(チーム・プラスアルファ/2003.11.21生/53.0kg)
      VS
Melty輝(=河野莉奈/team AKATSUKI/1992.1.12生/53.5kg)
勝者:Melty輝 / 判定0-3
主審:北尻俊介
副審:能見28-30. ノッパデーソン27-30. 秋谷28-29

◆第1試合 ミドル級3回戦

小原俊之(キングムエ/1985.6.3愛知県出身/72.0kg)
      VS
髙木覚清(RIKIX/2001.10.11岡山県出身/72.5kg)
勝者:小原俊之 / 判定2-0
主審:大成敦
副審:北尻29-29. ノッパデーソン30-29. 秋谷30-29

◆オープニングファイト ライト級3回戦

大河内佑飛(RIKIX/ 61.0kg)vs須貝孔喜(VALLELY/ 61.1kg)
勝者:大河内佑飛 / TKO 3R 1:59 / ノーカウントのレフェリーストップ

《取材戦記》

2016年以降では「KNOCK OUT」というイベントの時期を挟んでいましたが、久々に訪れたRIKIX興行でした。

確立した競技化を目指す「NO KICK NO LIFE」は5回戦が6試合組まれ、昭和に戻ったような本来の姿に近かった。

また「バンタム級トーナメントは引分けの場合、1ラウンドの延長で準決勝進出を決定。公式記録は引分け」としっかりアナウンスされたことは、この競技の在り方を正しく貫いた様子。

更には、各試合両選手は同一色のグローブを使用。赤と青のテーピングで色分けは仕方無いが、極力不均等さが無い工夫がされていました。

時代の流れに逆らえない点もありますが、小野寺力氏が語る「新しいものを取り入れつつ、守るべきものは守っていかねばならない」という使命感が現れていた興行でした。(堀田春樹)

準決勝進出を決めた左からHIROYUKIvs麗也、花岡竜vs山田航暉の並び

《岩上哲明記者レポート》

緑川選手を初めとするRIKIXジムの選手は基本に忠実な戦いをして、「目黒ジムイズム」は伝わってきたかと思います。更に「NO KICK NO LIFE」が今のキックボクシング界に必要な存在の一つと思わせるものでした。

試合前に元・WPMF世界スーパーフェザー級チャンピオンの岩城悠介(RIKIX)と話す機会があり、「メインイベントとバンタム級のトーナメントが見所です!」と語り、「今年はたくさん試合に出て活躍したいですね!」と抱負も語っていました。

興行終了後には、過去に新日本キックボクシング協会で2階級制覇した菊地剛介さんからは「いい興行だったと思います!」とコメントを貰い、プロレス実況を中心に活躍をされている村田春郎アナウンサーからは「昼にプロレスの実況をして来たのですが、この興行も実況したかったです!」とコメントが聞けました。

喜入衆選手、森井選手、緑川選手の引退セレモニーもそれぞれ「お疲れ様でした」と声を掛けたくなるようないいセレモニーでした。同時にバンタム級トーナメントでの若手選手の活躍を観て、世代交代も感じられた興行と言えるでしょう。

◎バンタム級トーナメント準決勝・決勝は5月21日(日)に豊洲PITでの岡山ジム主催興行で開催される模様です。次回「NO KICK NO LIFE」は7月9日(日)に豊洲PITで開催予定です。

激闘を続けて来た顔つきとは違うリラックスした表情でトークショーに臨んだ森井洋介

▼堀田春樹(ほった・はるき)[撮影・文]
フリーランスとしてキックボクシングの取材歴32年。「ナイタイ」「夕刊フジ」「実話ナックルズ」などにキックのレポートを展開。ムエタイにのめり込むあまりタイ仏門に出家。座右の銘は「頑張るけど無理しない」

月刊『紙の爆弾』2023年3月号

5年目のジャパンキックボクシング協会、新春のCHALLENGE! 堀田春樹

モトヤスックはノックアウトを逃すも長丁場5回戦の上手い戦いを見せた。
ダイチが同門対決を1ラウンドKOで制する劇的な王座獲得。
藤原乃愛は高校卒業前の試合を判定勝利。春からは大学生。

◎CHALLENGER.7 / 1月29日(日)後楽園ホール17:30~21:30
主催:Yashio ジム / 認定:ジャパンキックボクシング協会(JKA)

◆第10試合 70.0kg契約 5回戦

モトヤスック(岡本基康/治政館/ 70.0kg)
       VS
ネートパヤック・ピークマイレストラン(タイ/ 68.9kg)
勝者:モトヤスック / 判定3-0
主審:和田良覚      
副審:椎名49-44. 中山50-44. 松田50-44

モトヤスックは現・WMOインターナショナル・スーパーウェルター級チャンピオン。ネートパヤックは元・タイ国ムエスポーツ協会スーパーライト級チャンピオン。

初回、探りのミドルキック中心で牽制をしていくネートパヤックに対し、モトスヤックも応戦し、優る体格とパンチ蹴りの圧力で、徐々に表情に余裕が無くなっていくネートパヤック。

第4ラウンドにはモトスヤックは左右のパンチを中心に攻め、ネートパヤックはガードはしているが徐々にダメージが蓄積。更にモトスヤックのジワジワ攻めたローキックの効果が表れ、右ローキックでノックダウンを奪う。立ち上がったネートパヤックはサウスポーにスイッチしたり、距離を取って凌ぐ。

最終第5ラウンド、モトスヤックの右ローキックがネートパヤックの左足に決まる度に、ネートパヤックはスイッチし、モトスヤックはやや攻め倦むが、右ローキックを避ける為に身体を回転させたネートパヤックはダメージの蓄積があり、この試合2度目のノックダウンを喫してしまう。

モトヤスックのローキックに呻きながらこの後崩れ落ちるネートパヤック
攻勢を維持して追い詰める中のモトヤスックの右ミドルキックがヒット

モトスヤックは攻め続けるも、ネートパヤックのブロックなどのテクニックでノックアウトを拒まれてしまった展開で終了。

判定勝利したものの納得がいっていない表情をしていたモトスヤック。リングを下りた後、車椅子で来場していた長江国政会長のアドバイスを正座して真摯に聞いていた。

モトヤスックと対戦するネートパヤックにも叱咤激励する武田幸三プロモーター

◆第9試合 ジャパンキック協会ウェルター級王座決定戦 5回戦

2位.ダイチ(誠真/ 66.45kg)vs3位.正哉(誠真/ 66.5kg)
勝者:ダイチ / KO 1R 2:53
主審:少白竜

初回、両者ともにパンチを主体に主導権争いを仕掛ける。ラウンド中盤に正哉の左ストレートがダイチの顔を捉えてグラつかせたが、残り20秒を切った頃にダイチの左右のストレートがクリーンヒット。

右ストレートを顎に貰った正哉は立ち上がろうと意識は働くが身体は思うように動かずカウントアウト。ダイチが同・協会王座戴冠。

試合後、ダイチは「誠真ジムにとって2つ目のベルトですが、もっと強くなっていきたい!」と意気込みを語り、同門の正哉選手を称えていた。

ダイチのクロス気味右ストレートヒットでこの後、正哉が崩れ落ちる
ダイチとの打ち合いでは正哉にも左ストレートでチャンスがあった

◆第8試合 女子45.5kg契約3回戦

女子(ミネルヴァ)ピン級チャンピオン.藤原乃愛(ROCK ON/ 45.15kg)
      VS
タイ・イサーン地区女子ピン級チャンピオン.ペットルークオン・サーリージム(タイ/ 45.1kg)
勝者:藤原乃愛 / 判定3-0
主審:椎名利一
副審:少白竜 30-29. 中山30-28. 和田29-28

この試合がJK(女子高生)ファイターとして最後の試合となる藤原乃愛。試合前に「前回と比べられてしまいますが、KOは狙っていきます!」と意気込みを語っていた。

藤原乃愛は得意の蹴り、ペットルークオンはパンチを主体に主導権を争う展開。
第2ラウンド、藤原乃愛のハイキックからミドルキックのコンビネーションは会場を沸かせ、ペットルークオンの重いパンチも同様に沸かせた。中盤あたりに藤原乃愛の前蹴りがペットルークオンの顔面を捉えると優位に立つが、ペットルークオンも左ストレートを返すも藤原乃愛のガードで届かず。

第3ラウンド、藤原乃愛の左のパンチ、左前蹴り、左ミドルキックが要所要所で決まるが、ノックダウンまで至らず。ペットルークオンも藤原乃愛の攻撃に対して返していくも、自分のペースに持ち込めず試合終了。

両者ともに2005年生まれで今年18歳になる。ペットルークオンは、ムエタイで四つの王座獲得の肩書きを持ち、RISE興行で2戦こなしている選手。この日が日本での試合が3戦目で日本での試合に慣れてきた様子が窺えた。

試合後 藤原乃愛は、「相手は強かったです。元・ムエタイの四冠王者ですね。逃げるテクニックは上手かったですし、戦いに慣れている選手でした。ノックアウトが出来なかったのは悔しかったです。次に活かしてがんばります!」と応えた。

藤原乃愛がしなやかなハイキックと顔面前蹴りが幾度かヒット

◆第7試合 61.5kg契約3回戦

ジャパンキック協会ライト級2位.内田雅之(KICKBOX/ 61.15kg)
      VS
岩橋伸太郎(前・NJKFライト級C/エス/ 61.15kg)
勝者:内田雅之 / 判定2-0
主審:松田利彦
副審:椎名 29-29. 少白竜30-29. 和田30-28

前日の計量で岩橋伸太郎は「前回の試合でボコボコにされてしまったので、今回は自分のペースを掴み勝ちに行きます!」と語っていた。

初回、岩橋伸太郎は開始から仕掛けていくが、内田雅之はパンチ主体で岩橋の攻撃をかわしていく展開。

第2ラウンド、内田の重いストレートパンチが決まり始める。岩橋もミドルキックとストレートパンチのコンビネーションで攻めていくが、内田のテクニックで攻め倦む。

最終ラウンド、内田の右のバックハンドブローが決まり動きが止まる岩橋。2分過ぎに内田は岩橋のボディーに右ストレートを決めるがノックダウンは奪えず。岩橋も攻撃をしていくが、内田の的確なパンチで阻まれてしまった。僅差ながら内田の判定勝利。

試合後、内田雅之は「岩橋選手は、頑丈で倒すことは出来ませんでしたが良い選手でした。次回も頑張ります!」と笑顔でコメント。岩橋伸太郎は、「前回の反省を活かしオーソドックススタイルでいきましたが、勝てませんでした。内田選手は上手かったです!」と両選手共にお互いを称えていたコメントだった。

内田雅之の後ろ蹴り。格好良かったがヒットは浅かった

◆第6試合 フェザー級3回戦

ジャパンキック協会バンタム級2位.義由亜JSK(治政館/ 56.3kg)
      VS
HAYATO(CRAZY WOLF/ 56.85kg)
勝者:義由亜JSK / 判定3-0
主審:中山宏美
副審:椎名30-28. 少白竜30-27. 松田30-28

初回、蹴りの応酬の中、義由亜はHAYATOのミドルキックでグラつくも、すぐに立て直し首相撲を仕掛けて自分のペースを作っていく。第2ラウンド、義由亜はパンチの数を増やし始め、HAYATOは左目尻付近をカットするが大きな影響は無く、義由亜は首相撲からのヒザ蹴りの連打でHAYATOはやや劣勢に陥る。

第3ラウンド、義由亜の首相撲からのヒザ蹴りでHAYATOは動きが止まってしまい、余裕が無くなっていく。ラスト30秒頃、セコンドの指示が聞こえたHAYATOはローキックで攻めていくが試合終了。義由亜が判定勝利となった。

試合前は明るく関係者と会話をしていた義由亜は、試合後には「変な試合をしてすみませんでした!」と反省していた。

いきなり飛ばれるとカメラのフレーミングが間に合わない義由亜の飛びヒザ蹴り

◆第5試合 ライト級3回戦

ジャパンキック協会ライト級3位.興之介(治政館/ 61.1kg)vs村田将一(誠真/ 61.0kg)
勝者:村田将一 / TKO 3R 1:38
主審:和田良覚

開始早々から村田将一が飛び前蹴りで牽制。興之介のリズムを狂わす変則気味の展開を見せ、第2ラウンドには右ハイキックと左右のパンチ連打で2度のノックダウンを奪い、第3ラウンドには隙を突いた右ストレートで興之介を倒し、カウント中のレフェリーストップとなった。

タイミングを計った村田将一が右ストレートで興之介を倒す

◆第4試合 55.0kg契約3回戦

ジャパンキック協会バンタム級4位.樹(治政館/ 55.0kg)vs前田大尊(マイウェイ/ 54.85kg)
勝者:前田大尊 / 判定0-3 (28-30. 28-30. 28-29)

◆第3試合 フライ級3回戦

ジャパンキック協会フライ級2位.西原茉生(治政館/ 50.6kg)
      VS
滑飛レオン(テツジム滑飛一家/ 50.65kg)
勝者:西原茉生 / 判定3-0 (29-28. 30-29. 29-28)

◆第2試合 フェザー級3回戦

隼也JSK(治政館/ 56.95kg)vs勇成(Formed/ 56.8kg)
勝者:勇成 / TKO 3R 1:01 / ヒジ打ちによる右目尻カット、ドクターの勧告を受入れレフェリーストップ

◆第1試合 バンタム級3回戦

小野拳大(KICK BOX/ 53.15kg)vs紫希士(Formed/ 53.3kg)
勝者:紫希士 / 判定0-3 (27-30. 27-30. 27-30)

10年掛けて王座に到達したダイチ。まだ日本の頂点ではない真の挑戦はこれから

《取材戦記》

今回の興行はKO決着は少なかったものの、クリンチなどで試合が膠着することがなかったこと、適度なパフォーマンスで勝利を得た義由亜JSKや村田将一、キックのテクニックを披露し、会場を魅了した藤原乃愛と、“重量級ではパンチが決まるとすぐにKOに繋がる”という凄みをみせてくれたダイチによって、新年のスタートとしては成功した興行でした。

第1試合と第2試合には今年から加入したFormed ジムから出場した高校生の二人が勝利をしたことで幸先のスタートを飾り、前評判が高かったテツジムの滑飛レオンに判定勝利をした西原茉生や、前・NJKFライト級チャンピオン、岩橋伸太郎に勝利した内田雅之によって、他団体へのアピールにもなったでしょう。(第6~10試合のレポートと取材戦記は岩上哲明記者の記述を引用)

※       ※       ※    

WBCムエタイ日本ライト級チャンピオン、永澤サムエル聖光が2月2日(木)にタイ国ラジャダムナンスタジアムで試合出場しましたが、好戦的展開も判定負けを喫しました(堀田春樹)。

138LBS 5回戦 
永澤サムエル聖光(ビクトリー)vsクンスック・シップーヤイテープ

次回のジャパンキックボクシング協会興行は「KICK Insist.15」を3月19日(日)に新宿フェースで開催予定です。

◎堀田春樹の格闘群雄伝 http://www.rokusaisha.com/wp/?cat=88

▼堀田春樹(ほった・はるき)[撮影・文]
フリーランスとしてキックボクシングの取材歴32年。「ナイタイ」「夕刊フジ」「実話ナックルズ」などにキックのレポートを展開。ムエタイにのめり込むあまりタイ仏門に出家。座右の銘は「頑張るけど無理しない」

キックボクシングは何階級あるのか 堀田春樹

◆3階級制から

そもそもプロボクシングは何階級あるのか? そこから語るべきテーマかもしれません。簡潔に言えば、近代ボクシングでの無差別級からウェイト制による平等な階級制へ、世界王座に関してはヘビー級とライト級、ウェルター級、ミドル級と続き、やがて現代に近い制度の整った8階級に落ち着きましたが、ここまでの流れは明確ではないことは御容赦ください。

ここからジュニアクラス(現・スーパークラス)が新設されていき、現在は17階級(WBCは18階級)にも及びます。

創生期の3階級制日本へビー級チャンピオン、藤本勲氏はその後、ナチュラルにミドル級で活躍(2005.1.5)

1966年(昭和41年)日本発祥とするキックボクシングに於いて創生期は3階級。これは過去に述べた重複する部分は有るかと思いますが、老舗の日本キックボクシング協会ではライト級、ミドル級、ヘビー級で、リミットは当初、興行の都合から始まったものでした。

創生期の日本ヘビー級チャンピオン、藤本勲氏は以前「ウェルター級(現在の)で試合したかった」と言っていましたが、「お前は背が高いからヘビー級でやれ」と当時の目黒ジム会長からの指令。67.5kgまでがミドル級だったというリミット。藤本勲氏はここがベストウエイトながら、これを超えたヘビー級での活躍でした。

後に全日本系がフライ級からミドル級までチャンピオン決定戦を行なうということから先手を打ったと言われる日本系は、1969年に7階級制にしたことが後々まで安定した正規階級制を保っていきました。各階級リミットもプロボクシングと同様の数値でした。

全日本系は1971年11月5日にミドル級までの8階級でチャンピオンを決め、ジュニアライト級とジュニアウェルター級が存在しましたが、初代だけの1年足らずだった模様。

低迷期を経て乱立もありましたが、どこの団体も正規階級の7階級の範囲で細分化も無くシンプルで分かり易い時代が続きました(ヘビー級は人材不足で制定無しが多かった)。

しかし1998年にMA日本キックボクシング連盟でついにスーパークラスが新設され、スーパーフェザー級、スーパーライト級、スーパーバンタム級の順に王座が出来上がってしまいました。

その後はプロボクシング並みに正規階級に沿ってスーパークラスが存在する団体等が増えていき、更なる乱立ではもう日本タイトルとしての価値など無く、ローカルタイトルに過ぎない存在となりました。

近年でもメインイベントにタイトルマッチを控えていても、前座の仲間内の試合が終わると会場が閑散としていくのはその表れでしょう。

[左]昭和の7階級制日本ヘビー級チャンピオンの一人、池野興信氏、昭和時代は価値があった(2005.4.17)/[右]平成の日本ヘビー級チャンピオンの一人、内田ノボル氏、以前MA日本でも王座獲得(2006.4.28)

◆キログラム単位が分かり易い?

ウェイトのPound単位はイギリス発祥のボクシングから来たシステムで、キックボクシングに於いては新しいビッグイベント興行などで、50kgから上位へ5kg単位で区切ったリミットでのKilogram単位のタイトルも出て来た経緯があり、ファンには分かり易いkg単位であることも確かなところ、古くから続くフライ級からヘビー級の名称に馴染んでしまった慣習から離れることは当面は無いでしょう。

タイでは過去、プロボクシングと比べ、ややズレていた階級リミットから1999年のボクシング法成立以降、プロボクシングに倣った正規のリミットになっていますが、キックボクシングのタイトル認定団体によってはISKAなど、リミットが違う場合があります。プロボクシングと同じ階級名称を使うなら、リミット単位も倣うべきではないかという意見もあり、ファンを惑わし、プロボクシング界も困惑させる原因でしょう。

キックボクシング最軽量級、女子(ミネルヴァ)ピン級チャンピオン藤原乃愛、フライ級まで成長するか?(2022.5.21)

◆3ポンド枠の狭さ

プロボクシングでは過去のジュニアクラスが増えるにつれ、それまで最小でも4ポンド幅でしたが、1980年に世界ジュニアバンタム級王座が(-115P)が新設されたことは、6ポンド枠しかないバンタム級域でもう一階級作り出したのだから数値上、3ポンド枠になるしかない割り込みタイプ。更にフライ級(-112P)の下に2階級もある現在、ジュニアフライ級(-108P)の下のミニマム級(-105P)までが3ポンド枠。選手目線で考えれば「500グラム差でも大きな影響がある」と言われますが、ムエタイやキックボクシングでは更に、女子にはアトム級(-102P)やピン級(-100P)といった階級がある団体もあって、さすがに「細か過ぎ」という意見も多いようです。

重量級側は逆にリミットに幅があって、欧米のプロボクシングはミドル級超えからヘビー級までの間でも階級が増えていき、これも揶揄される問題でもあります。

◆シンプルに!

日本のキックボクシングは現在も7階級制を保っている古くからの団体はありますが、乱立が原因でランカーが2名しかいない軽量級や重量級、そんな状態で王座決定戦を行なう団体もあり、国内統一すれば全階級のランキング、スーパークラスを含めても10位までに入れないほど充実するのに、なかなか纏まりが進まないキックボクシング界であること、今更ながら同様の意見が度々聞かれる問題です。

将来に向けて、いずれは何らかの整備はされていくでしょうが、プロボクシングを含めて考え直して欲しい階級の在り方です。「正規階級のみがシンプルでいい」とは古い考え方でしょうか。

▼堀田春樹(ほった・はるき)[撮影・文]
フリーランスとしてキックボクシングの取材歴32年。「ナイタイ」「夕刊フジ」「実話ナックルズ」などにキックのレポートを展開。ムエタイにのめり込むあまりタイ仏門に出家。座右の銘は「頑張るけど無理しない」

日本のキックボクシング界・2022年の回顧と2023年の展望 堀田春樹

新年明けましておめでとうございます。年明けながら、まずは2022年の日本キックボクシング界を振り返ったうえで、2023年の見どころを検証したい思います。

キックボクシングを引退した那須川天心(2016年)

◆[1]世紀の一戦

2022年上半期、世間的には中心的話題一番の那須川天心(TARGET)vs武尊(K-1 SAGAMI-ONO KREST)戦は、6月19日に東京ドームでの「THE MATCH 2022」に於いて5万人超えの観衆の中、58.0kg契約3回戦(ヒジ打ち無し/延長は1R迄)で、那須川天心が3ラウンド判定5-0で勝利。世間的には歴史的な名勝負と言われる中、業界内では「周囲が煽った割には名勝負には至らない」と辛口批判する声があったのも事実でした。

那須川天心はすぐにプロボクシング転向に動き出すと見られた2022年下半期でしたが、その展望は今年からの活動となってどういう展開を見せるかが注目です。

◆[2]入場制限解除とは関係なく……

コロナウィルス感染する選手、濃厚接触者となる選手はわずかながらやや続き、カード変更や中止はありましたが、観衆50パーセントの入場制限は緩和された一年でした。

それより最終試合のメインイベントにかけ、仲間内の選手の試合が終わって観衆が帰って閑散としていく会場はコロナの観衆制限に関係なく寂しいものがありました。那須川天心vs武尊の試合を観ずに帰ったファンはいないでしょうし、あれほどの注目されるメインイベントがもっと必要なキックボクシング界であることは、ジム会長さん達共通の想いであるようです。

コロナの影響でなく、最近の閑散とするメインイベント前の客席

◆[3]51年続いた千葉ジム閉鎖

閉鎖するジムあれば近代的設備整ったフィットネス感覚のジムオープンが激しい時代。かつてプロを目指す殺伐とした雰囲気だった千葉(センバ)ジムは古めかしいトタン屋根のジムで、1971年(昭和46年)に前身の国際ジムから移転して建てられました。暑い夏はエアコンは無く、寒い冬はストーブが焚かれました。昨年は雨漏りするも修繕はせず解体を待つだけとなり、かつて国鉄(現JR)総武線車窓から見えた「TBSで放送中」といった昭和40年代からある看板が古びて色褪せしても、時代が流れた2000年以降も目立っていました。

ジムそのものは比較的広い空間でしたが、解体され更地となった敷地は「ここにジムがあったのか?」と思うほど狭い感覚に陥ったという元・所属選手らの声でした。
他の古くからあるジムは移転したり、改築されたりで元の建屋は無くなっていきますが、千葉ジムだけは51年間そのままの姿だっただけに、放っておいては老朽化し倒壊に繋がるだけでも、世界遺産にしたいほど勿体無い建屋でした。

熊本から上京してキックボクシングに導かれた運命を辿った戸高今朝明会長も解体前にはジムの中でポスターやチラシを見ながら「この時は稲毛忠治が40℃の熱出してボロボロでなあ……」といった話もして、苦労話も語り口が楽しそうでした。

その反面、何か言葉にならない感情でジムの中を見渡す姿もあって、特に一昨年からはコロナで活動が停止してしまい寂しそうでもありました。2020年1月にはキックボクシング最初の藤本ジム(旧・目黒ジム)が閉鎖し、そして2022年7月にも解体された千葉ジムで、昭和がより一層消えゆく年でした。

解体一ヶ月前の千葉ジム(2022年6月12日)
更地となった千葉ジム跡地(2022年7月31日 撮影:吉野道幸)

◆[4]ガルーダ・テツ東京進出

関西に留まらず、東京進出という報告には何か野望があると言えるガルーダ・テツ氏の昨年の発表。2月20日から京成立石駅近くのアーケード街にジムオープンされました。

拠点が東京にあるだけでイベント開催や他のジムとの交流もやり易いというガルーダ・テツ氏。その活動からテツジム6人目チャンピオン誕生も狙っている現在、NKB認定下の日本キックボクシング連盟の今後の中心的存在になる可能性は高く、日本列島テツジム計画は着々と進行中。その勢いで、平成時代からやんちゃな話題を振り撒いたガルーダ・テツ氏の今後のプロ興行とアマチュア大会にまた新たな展開が見られるでしょう。

東京進出を果たしたガルーダ・テツ氏(2022年10月15日)

◆[5]原点回帰の武田幸三氏のチャレンジ

語り口は熱かった武田幸三氏。「“ヒジ打ち有り”が圧され気味になっています。」の言葉にインパクトがありました。那須川天心vs武尊戦がヒジ打ち無し3回戦であったように、K-1から影響したヒジ打ち無しルールが台頭して来た勢いが止まりませんでした。

「ヒジ打ち有り、首相撲有り5回戦の本来のキックボクシングに戻す」と言った武田幸三氏の興行テーマ「CHALLENGER」は昭和の殺伐とした雰囲気を持ちながら令和時代のモトヤスック(21歳)や馬渡亮太(22歳)などの活躍した興行が続きました。治政館では後輩となる二人は「ヒジ打ち有り、首相撲有りの5ラウンド制」を受け継ぎ、最強を証明していく意気込みを感じられました。

6月19日に行われた格闘技ビッグイベント「THE MATCH」。あの立場に辿り着くにはどうしたらいいか。何をすべきかが今後の課題。元祖キックボクシングの戦いを浸透させることが出来るか、武田幸三氏を信じましょう。

毎度の御挨拶で選手に檄を飛ばす武田幸三氏(2022年1月9日)

◆[6]世代交代への流れ

梅野源治(PHOENIX)や森井洋介(野良犬道場)などのベテラン名選手らの活躍はやや陰りを見せつつも続く中で、若い世代の台頭も押し寄せ、特にオーラがある存在が、4月24日に名古屋で、IMSA世界スーパーバンタム級王座決定戦を制した福田海斗(キングムエ/23歳)。

7月3日には横浜で、タイ国ムエスポーツ協会フライ級王座とWPMF世界フライ級王座を2ラウンドKOで制した吉成名高(エイワスポーツ/21歳)は過去、二大殿堂も制している選手。

9月3日には大田区総合体育館でのWBCムエタイ世界スーパーフライ級王座決定戦で、1ラウンドKOで王座獲得した石井一成(ウォーワンチャイ/24歳)。

彼らはすでに5年ほど前からタイ国でも人気ある存在で、タイ国発祥の世界的なムエタイ王座に名を残していますが、更にその飛躍が目立った一年でした。

更に女子キックの中でも、今までに無いズバ抜けた反射神経としなりあるキックを繰り出す藤原乃愛(ROCK ON)も女子ミネルヴァ王座を獲得するまで台頭して来ており、世界を狙っている今年の注目株でしょう。

[左]日本とタイで活躍する福田海斗(2016年)/[右]ムエタイ二大殿堂を制した吉成名高(2022年11月20日)
高校生キックボクサーとして女子キックのチャンピオンに上り詰めた藤原乃愛(2022年11月20日)

たまたま六つに纏まった今年の振り返りでしたが、那須川天心無きキックボクシング界は上記の若い選手の台頭や、それ以外にも埋もれた実力者が幾らか存在します。今年の見どころは各団体、プロモーション関係者がスーパースターを生み出す腕の見せどころとなるでしょう。

希望的観測ながら、プロモーターとして知名度有る武田幸三氏、ガルーダ・テツ氏、小野寺力氏の歩み寄りもあれば面白いところで、更にここ数年増えた感のある、各団体興行に似た思想を持った他団体の首脳が顔を見せる光景は、あらゆる可能性に期待を掛けてしまいます。また今年中に何らかの進展があればその都度取り上げ、進展無ければそれなりの纏まり無い業界であったと振り返ることになるでしょう。好転を祈って2023年の展開を追いたいと思う年越しでした。

▼堀田春樹(ほった・はるき)[撮影・文]
フリーランスとしてキックボクシングの取材歴32年。「ナイタイ」「夕刊フジ」「実話ナックルズ」などにキックのレポートを展開。ムエタイにのめり込むあまりタイ仏門に出家。座右の銘は「頑張るけど無理しない」

タブーなきラディカルスキャンダルマガジン 月刊『紙の爆弾』2023年2月号
〈原発なき社会〉を求めて集う 不屈の〈脱原発〉季刊誌 『季節』2022年冬号(NO NUKES voice改題 通巻34号)