『紙の爆弾』2023年12月号に寄せて 『紙の爆弾』編集長 中川志大

本誌でこの間、重点的に採り上げてきたコロナワクチンの問題。前号(11月号)では立憲民主党・原口一博衆院議員が、昨年の自身のがん発症・公表と、ワクチンの関係について語っています。今月号ではさらに踏み込み、いわゆる「ワクチン後遺症」についてレポートしました。9月に「XBB1.5対応」として7回目接種が始まっていますが、追加接種が推進されているのは日本だけ、という事実にまず、目を向けなければなりません。

それでも、政治の世界を含め、ワクチンの危険性に関する言及は、だんだんと増えているように見えます。“コロナブーム”も一時期と比較すれば落ち着きつつある現在、わざわざ接種を受ける人は減るのではと思っていたのですが、「接種会場の予約がとれない」との報道やSNSコメントが相次ぎました。しかし、7回目接種人口は10月末時点で人口の7%ほど。今月号記事では、「接種希望者殺到の報道に惑わされるべきではない」と指摘しています。そうしたネットを含めた情報・報道のあり方についても、11月号で原口議員が元総務相としての経験をもとに警鐘を鳴らしています。近年、インターネット上で“フェイク”が横行しているとして、総務省が音頭をとって「ファクトチェック」を推進しています。しかし、そのやり方を見れば、プラットフォームによるユーザーへの規制と監視。メディアが自己検証するのとは異なる「検閲」にほかならないと言わざるをえません。

また今月号では、水稲新品種として秋田県が2025年の全面切り替えを発表した「あきたこまちR」についてレポートしました。「あきたこまちR」は、放射線を当てて一部の遺伝子を破壊した「コシヒカリ環1号」を「あきたこまち」と交配することで作った新品種。自民党がその安全性をPRするものの、これを常食することに問題はないのか、本当に日本の農業に寄与するのか、多くの疑問が投げかけられています。秋田県がこの夏に行なったパブリックコメントには過去最多の6000件もの意見が寄せられ、計画の延期と見直しを求める署名8038筆が県に提出されました。しかも、“風評被害”を避けるとして、切り替え後も販売されるにあたり、表示義務はありません。本誌レポートでは、「あきたこまちR」の実態と、予想される事態に迫りました。ぜひお読みいただければと思います。

増税しながら減税、増税しながら給付金の岸田政権。中抜き企業をまた儲けさせるのはもちろん、かかる手間も国民にとって大きな負担であり、決して見逃せるものではありません。そして、その間にも巨額を投じた軍拡は着実に進みます。ただの“増税メガネ”ではないということです。そうして市民が自らの生活を守るのもままならない状況で、2027年までに航空自衛隊が「航空宇宙自衛隊」に改称することを発表しました。「宇宙作戦群」なる防衛省のホームページがまさに示すように胡散臭いことこの上なく、「宇宙」が軍需のネタとなっているのは事実のようです。一方、「地上」の日本では、防衛医大が「戦傷医療センター」新設を8月末に公表(こちらも先月号参照)。今月号では軍事要塞化する馬毛島の模様をレポートしていますが、もはや政府は「戦争準備」を隠さなくなった感があります。

ほか、12月号では旧ジャニーズ“NGリスト”でも話題となった本間龍氏が2030年札幌冬季五輪「招致断念」の背景事情を解説。イスラエルと“国際社会”の「罪」、超円安を克服する“秘策”など、盛りだくさんの内容をお届けします。全国書店で発売中です。

『紙の爆弾』編集長 中川志大

タブーなきラディカルスキャンダルマガジン 月刊『紙の爆弾』2023年12月号

『紙の爆弾』2023年12月号

放射線育種米交配種「あきたこまちR」が開く食と農業の悲劇的な最終幕
五輪も万博も日本ですべきではない 札幌五輪招致断念という「正しい判断」
患者が語る“症状”と“治療”「コロナワクチン後遺症」の実態
「基地反対」で再選の朝日新聞出身市長が容認
岸田大軍拡の最前線 馬毛島基地建設の現場
「細田博之会見」は“ジャニーズ以下”“増税メガネ”岸田政権のヒサンな内幕
「参院徳島・高知」「衆院長崎四区」衆参2補選が象徴する岸田政権の凋落
イスラエルの「罪」を見逃してきた米国による「国際秩序」
“NGリスト”は本質ではない ジャニーズ問題の背後にある芸能界の“闇”
「航空宇宙自衛隊」誕生へ 宇宙軍拡競争に巻き込まれた日本
「対米隷属」から「日本自立」への活路 超円安を克服する“秘策”
これは宗教紛争ではない イスラエルが潰した「パレスチナ和平」
政治家の不正蓄財が見逃される理由「政治献金」をめぐる法律の抜け穴
新文部科学事務次官の天下り斡旋「停職」歴
旧統一教会解散命令請求で揺らぐ創価学会
女こどもを食いものにする自民党の女衒政治を嗤う
シリーズ 日本の冤罪44 元講談社「妻殺害」事件

連載
あの人の家
NEWS レスQ
コイツらのゼニ儲け 西田健
「格差」を読む 中川淳一郎
ニュースノワール 岡本萬尋
シアワセのイイ気持ち道講座 東陽片岡
キラメキ★東京漂流記 村田らむ
裏から世界を見てみよう マッド・アマノ
権力者たちのバトルロイヤル 西本頑司
まけへんで!! 今月の西宮冷蔵


宝塚歌劇団と親会社・阪急電鉄は、イジメによる歌劇団員の自殺に対して責任を取れ! ──『ドキュメント タカラヅカいじめ裁判 ── 乙女の花園の今』復刻出版にあたって 鹿砦社代表 松岡利康

◆「清く 正しく 美しく」とは一体何だったのか!? 

ジャニーズとタカラヅカについての出版を始めたのは、共に1995年だった。爾来28年、ジャニーズは、30数点の告発系、スキャンダル系の本を出し続けて来たが、ご承知の通り事実上解体した。

一方、タカラヅカも、ジャニーズには及ばないまでも『タカラヅカ秘密の花園』以来20点ほどの本を出した。特に2010年に出した『ドキュメント タカラヅカいじめ裁判 ── 乙女の花園の今』が今、話題になっている。将来を嘱望されていた歌劇団員が、先日9月30日にイジメに追い詰められて自宅のあるマンションから飛び降り自殺したからだ。タカラヅカは創設100年余り経って初めての自殺者である。改めて問いたい、「清く 正しく 美しく」とは一体何だったのか!? と。13年前に同書を出して警鐘を鳴らしたが、一顧だにされなかった。

ジャニーズにしろタカラヅカにしろ、未成年性虐待やイジメは長い間ささやかれてきたが放置され、意図的に隠蔽されてきた。死者を出したタカラヅカは、こと一歌劇団の問題ではなく、親会社の阪急電鉄が厳と介入し根本的にイジミ一掃を図らねばならない。マスメディア(特に関西の)は、阪急資本に忖度するのではなく、昨今のジャニーズ並の報道を望みたい。

私たちの、そうした出版活動、当時はトリックスターのように見られたが、今思うと、自分で言うのも僭越ながら、現在のジャニーズやタカラヅカの問題を予見していたところもあると自負さえする。

◆ジャニーズとタカラヅカ ── 長年放置、隠蔽してきたマスメディアの責任は大きい

ところで、くだんの『ドキュメント タカラヅカいじめ裁判』だが、問い合わせも多く、少部数ながら復刻出版することにした。

当該のジェンヌSさんにもイジメが続き、また寮内には盗難も相次いでいたが、遂には盗難犯の濡れ衣を着せられ退学処分になる。これに対しSさんは処分取り消しの訴訟を神戸地裁に起こし勝利的に和解し終結した。その上でSさんは退団し生まれ故郷の岩手に帰郷する。しかし、地方都市では宝塚音楽学校に合格したら大きく報じられる。Sさんも同様だった。Sさんは、わけあって退団したことで冷たい視線に耐えられず東京に出る。しばらくは平穏な日々を送っていたかと思われていた。

しかし、私たちを驚かせる出来事が……なんとSさんが大手AVメーカー「ソフト・オン・デマンド」からAVデビューしヘアヌード写真集も出すというのだ。AVは発売直前に中止となる(写真集は発売され資料として購入し今手元にも残っている)。ここのところは旧版にはない部分で「その後の顛末」として追加した。

Sさんは飛び切りの美人だといい、本来なら宝塚歌劇でスポットライトを浴びたかったはずだが、なんともいえない気持ちになる。 ── 哀しい物語の終わり方である。

今回、イジメで自殺者を出すという前代未聞の悲劇的な事件が起きた。人ひとりがなくなったのだ、歌劇団や親会社の阪急電鉄は責任を取り、死に物狂いで事実経過を調査し抜本的な対策を講じなければならないことは言うまでもない。

ジャニーズとタカラヅカ、「少年愛の館」と「秘密の花園」 ── 共に1995年に出版を開始した2つの問題が今、一つは崩壊の危機に瀕し、もう一つも解体的危機にある。非常に感慨深い。これまで長年放置、隠蔽してきたマスメディアの責任は大きい。

株式会社鹿砦社 
代表取締役
松岡利康

11月16日発売!『[復刻新版]ドキュメント タカラヅカいじめ裁判 ── 乙女の花園の今』B6判、200ページ、ソフトカバー装、定価1650円(税込み)

ピョンヤンから感じる時代の風〈33〉「パックスアメリカーナの終わり」を誰もが見た2023年 若林盛亮

◆はじめに

 

10月下旬のフジTV「プライム・ニュース」では「“世界動乱の時代” の幕開けか」というテーマを取り上げた。ウクライナ戦争に続くハマスの軍事行動を契機に露わになった世界の現実を「(米国中心の)国際秩序の破綻か」としてとらえたものだった。

2023年は「パックスアメリカーナ(アメリカによる平和)の終わり」を世界が見、なかでも日本の誰もがそのことを知るようになった年になった。来るべき新年は「米覇権秩序の破綻」という現実を前提にこれにどう対処するかが問われるだろう。

とりわけ米国によって「対中対決の最前線」の役割を担わされたわが国にあって、それは明日のわが国の運命に関わる問題、他人事ではない。

◆「G7の孤立」さらした広島サミット

5月末にG7広島サミットが開催された。米国を中心とする「G7=先進国」が世界をリードするという会議だ。ここにはロシア制裁、ウクライナ支援に中立的態度をとるグローバルサウス数カ国首脳が招待され、目玉はゼレンスキー大統領出席の下、ウクライナ支援を世界に訴えるというものだった。

G7の「普遍的価値観、法の支配に基づく国際秩序」はG7会議が自ら認めるように、いま時代の厳しい挑戦を受けている。挑戦者は何も中ロ「修正主義勢力」だけではない、いまグローバルサウスと呼ばれる発展途上諸国が古い国際秩序から離反しつつある。

広島サミット後、G7に招待されたグローバルサウス諸国はこうG7を批判した。

「ウクライナとロシアの戦争のためにG7に来たんじゃない」(ルラ・ブラジル大統領)。インド有力紙は「ゼレンスキー氏の存在に支配されたG7」見出しの記事を配信。インドネシア有力紙は「世界で重要性を失うG7」見出しの記事を掲載、ベトナム政府系紙は「ベトナムはどちらか一方を選ぶのではなく、正義と平等を選択する」と書いた。

広島サミットはグローバルサウス諸国を取り込むどころか彼らの離反を招き、逆に「G7の孤立」を世界にさらす場になった。

8月、南アで開催のBRICS(ブラジル、ロシア、インド、中国、南ア)首脳会議では新たにサウジアラビア、アルゼンチン、イラン、アラブ首長国連邦、エジプト、エチオピアの6ヶ国の参加が認められ、BRICSはG7とは一線を画する新興国の国際秩序形成の巨大集団になった。

また9月にインドで開かれたG20首脳会議ではG7諸国が求めたウクライナ問題、「ロシアの侵略」明記やロシア非難の文言のない首脳宣言が採択されたことが世界の注目を集めた。また会議ではAU(アフリカ連合:20ヶ国網羅)の加入も決定され、G20でもG7先進諸国は全くの少数派に転落した。

今年、英国エリザベス女王の国葬の際、アフリカのある首脳は「女王は一度も植民地支配への謝罪の言葉を述べなかった」と不満を語った。また5月のチャールズ国王戴冠式の際にはインドと英国の間で若干もめごとがあった。カミラ王妃が即位式でヴィクトリア女王の王冠をかぶるかどうかを巡って起こったものだが、王冠の巨大なダイヤモンドは英国がインドから奪ったインド植民地化の象徴だったからだ。結果はその王冠をかぶらなかったが、インドは不快感を示した。7月に西アフリカのニジェールでは若手将校によるクーデターが起き、駐留フランス軍は年内撤収に追い込まれたが、いまも植民地主義の名残がしこりを残していることを示すものだった。

G7の「米欧日」先進諸国というのはかつての植民地主義者、帝国主義列強諸国だが、「韓国併合」を(当時の)国際法的に合法とする日本だけでなくかつて自分がやった植民地支配をまともに反省総括した国はどこにもない。「反省の模範」とされるドイツにしても「ナチスの残虐性」を反省しただけ、植民地主義に関しては反省も謝罪もない。米英仏「連合国」側の諸国は自分たちが「反ファッショ」正義の「民主主義国」側ということで反省の必要も感じていない。

だから「G7がリードする」米国中心の国際秩序はかつての植民地支配秩序の現代版「覇権秩序」に過ぎないことをグローバルサウス諸国は知っている。 

よって彼らがBRICSやG20でめざす国際秩序は、各国の主権尊重、内政不干渉、紛争の平和的解決といったASEANのような脱覇権の新しい国際秩序形成をめざすものになるだろう、パックスアメリカーナ、米覇権専横の時代は歴史の遺物として排斥される。

◆とどめを刺したハマスの先制的軍事行動

「パレスティナ置き去り-焦り」(読売10/9朝刊)-10月8日のハマスのイスラエルへの先制的軍事行動に対するマスコミの見方だ。サウジアラビアがイスラエルとの国交交渉に入り、UAE(アラブ首長国連邦)はすでに国交を結んだ、こうしたアラブ諸国の動きに「置き去り」にされるとの「焦り」をハマスの今回の軍事行動の理由としたが、果たしてそうだろうか?

そのような消極的なものではなく、パレスティナ国家樹立に向けた主導的、攻勢的、戦略的な観点に基づくものだという見方も可能だと思う。

その根拠は一言でいって、いまは米国の覇権力が衰亡段階にあることが明らかであり、よって米国の支えのないイスラエルなど怖くないとハマスが判断することはじゅうぶんありうることだ。

米国はいま、主戦場の対中対決に加え、ロシアの先制的軍事行動によるウクライナ戦争で「対ロ」の加わった二正面作戦を強いられ青息吐息なのに、このうえ「対中東」が加わる三正面作戦などとうてい耐えられるはずがない。だからいまはイスラエルとの戦争は負けない、いや勝てる-私たちにも想像できることが当事者のハマスにわからないはずがない。

事実、ハマス侵攻からほぼ1ヶ月も経った現在(10/31)、大量の戦車部隊待機のままイスラエルは空爆だけに終始している。イスラエル軍ガザ地区制圧戦争は北部の局地的侵攻に留まり「かけ声」だけに終わっている。「地上侵攻でハマス殲滅、ガザ地区完全制圧」を叫び、やられたら「十倍返し」が通例のイスラエル軍としては異例の事態になっている。米バイデン大統領自身「人質救出まで侵攻を停止するように」とイスラエルに圧力をかけたということだが、「人質救出」は「口実」、本音は「戦争にはするな」にある。最近は「中東地域派遣の米軍が攻撃を受けるから(実際、ヒズボラやフーシ派から無人機、ロケット攻撃を受けた)しばらく侵攻を控えてほしい」などと言い出している。

米国、イスラエルに戦意がなければいずれ停戦合意は成り、パレスティナ問題解決が国連などで上程され、発言権を失った米国に代わってロシア、中国、グローバルサウスの非米諸国が主導する解決案をイスラエルも受け入れざるを得なくなる事態に進むかも知れない。少なくともその可能性を秘めている。宿願のパレスティナ国家樹立も夢ではなくなる。

米ロ代理戦争のウクライナ軍「反転大攻勢」が半年以上も「かけ声倒れ」に終わり、最も軍事支援に積極的だったポーランド大統領が「ウクライナは溺れゆく人、なんにでもしがみつく。危険だ」とまで言うようになったが、ウクライナ事態に続く中東でのハマスの軍事行動は「米国の無力ぶり」を世界が知る上でとどめを刺したと言えるだろう。

◆動揺始まる日本の政界

2023年を通して「国際秩序の破綻」、すなわち「パックスアメリカーナの終わり」は、ウクライナとパレスティナでの戦争を通じて世界が眼にすることになった

米国によって対中対決の最前線を担う決断を迫られているわが国の政治家、政治勢力もこの「時代の潮目の変化」を誰よりも注視しているはずだ。先の鈴木宗男氏の大胆な訪ロ行動と「ロシアは勝つ」発言も「米国の終わり」を見越したものだろう。岸田派古参幹部の古賀誠氏は「日米安保に引っ張られすぎるのは危険だ」と岸田政権を批判した。対中対決を迫る米国との「無理心中」を躊躇する政治家、政治勢力が出てくる、いや、すでに出ていることを示すものだと思う。

新年に持ち越されたが「日本の代理“核”戦争国化」は米国の対中対決、対中“核”抑止力強化で譲れない日本への要求だ。これは何度もこの通信に書いたので詳細は省くがいつか必ずこれを押しつけてくる。「米国の終わり」の見えるいま、「米国との無理心中」を躊躇する政治家、政治勢力が出てくるだろうが、誰かを待つのではなく「無理心中拒否」の闘いを主導する政治家、政治勢力が出るべき時だと思う。

米国も日本国民の非核意識を恐れて虎の尾を踏まないように慎重に事を運んでいる。それは彼らの弱点でもあるということだ。ハマスの先制的軍事行動とまで行かずとも、主導的に非核を掲げ「核持ち込み」「核共有」を許さない「代理“核”戦争国化」阻止の積極的闘いを挑む時、日本人の性根が問われる時に来ている。

ピョンヤンからは「時代の風」を伝えることしかできないが、国内からこのような闘いが起こることを新年は期待している。いまはそのような時だと思う。

若林盛亮さん

▼若林盛亮(わかばやし・もりあき)さん
1947年2月滋賀県生れ、長髪問題契機に進学校ドロップアウト、同志社大入学後「裸のラリーズ」結成を経て東大安田講堂で逮捕、1970年によど号赤軍として渡朝、現在「かりの会」「アジアの内の日本の会」会員。HP「ようこそ、よど号日本人村」で情報発信中。

『抵抗と絶望の狭間 一九七一年から連合赤軍へ』(紙の爆弾 2021年12月号増刊)
『一九七〇年 端境期の時代』

《BOOK REVIEW》尾﨑美代子『日本の冤罪』── 明治以来続く権力機構が変わらぬ限り、この国の冤罪はなくならない 評者=松原康彦

 
尾﨑美代子著『日本の冤罪』

私は冤罪事件というと狭山事件の石川一雄さん、袴田事件の袴田巌さん、和歌山カレー事件の林真須美さん、それぞれの支援運動の末席におらせてもらい、そして原発反対運動の中で滋賀の仲間から西山美香さんのことをその都度教えてもらって、この国ではそういうことが警察、検察、裁判所の手によって起こっていることを知ってきました。

その私にとっても、尾﨑さんのレポートは驚きの連続でした。これだけの「取材」をされたご苦労を感心します。

読んだ感想というか、一言で言って日本の警察、検察、裁判所の悪どさ、というのでしょうか。別にこれら司法に関わる人々は「正義の人」でもなんでもない、権力を自らの手に持ちながら、自らの出世に汲々とする普通の大人だということでしょうね。

同時に、戦前からの歴史の中で、敗戦という事態の中で何一つ変化することもなく制度として明治以来の権力機構としての体制が維持され、「おい!こら!」の精神で、とりわけ組織防衛にその忠義心を投入することを暮らしの生業とする人たちなんだと改めて思いました。

日本の権力機構が、裁判所も含め、軍隊を除いて(自衛隊が生まれるまでの事ですが)、戦前の機構をそのまま残して戦後の政治の中で生き残ってきた、人的にも戦前、戦後が連続的に維持されてきたという私なりの想いをある意味確認する書でもありました。

「冤罪」は、こんな支配体制のもとであれば、その体制を維持するために、どんどん起こされていく。それがある意味、理の当然ではないでしょうか。こんな歴史の先に、私たちの未来はないとあらためて思います。

(松原康彦)

日本の冤罪
尾﨑美代子=著
四六判 256ページ カバー装 定価1760円(税込み)

「平凡な生活を送っている市民が、いつ、警察に連行され、無実の罪を科せられるかわからない。
今の日本に住む私たちは、実はそういう社会に生きている。」(井戸謙一/弁護士・元裁判官)

労働者の町、大阪・釜ヶ崎に根づき小さな居酒屋を営みながら取り組んだ、
生きた冤罪事件のレポート!

机上で教条主義的に「事件」を組み立てるのではなく、冤罪事件の現場に駆け付け、
冤罪被害者や家族に寄り添い、月刊『紙の爆弾』を舞台に長年地道に追究してきた、
数々の冤罪事件の〈中間総括〉!

8月に亡くなった「布川事件」の冤罪被害者・桜井昌司さんが死の直前に語った
貴重な〈遺言〉ともいうべき対談も収める!

【主な内容】
井戸謙一(弁護士/元裁判官) 弱者に寄り添い、底辺の実相を伝える
《対談》桜井昌司×尾﨑美代子 「布川事件」冤罪被害者と語る冤罪裁判のこれから
[採り上げた事件]
湖東記念病院事件/東住吉事件/布川事件/日野町事件/泉大津コンビニ窃盗事件/
長生園不明金事件/神戸質店事件/姫路花田郵便局強盗事件/滋賀バラバラ殺人事件/
鈴鹿殺人事件/築地公妨でっち上げ事件/京都俳優放火殺人事件/京都高校教師痴漢事件/
東金女児殺害事件/高知白バイ事件/名張毒ぶどう酒事件

[著者略歴]尾﨑美代子(おざき・みよこ)1958年、新潟県生まれ。中央大学中退。大学生時代の80年代、山谷(東京)の日雇労働者、野宿者問題の支援に関わる。90年代初頭大阪に移住して以降は、同じく日雇労働者の町・釜ヶ崎に住みながら、フリースペースを兼ねた飲食店「集い処はな」を経営。釜ヶ崎で知り合った仲間たちと、3・11以後福島支援、反原発運動を始め、講演会、上映会、支援ライブなどを続ける。その傍ら、かつてより関心のあった冤罪事件の取材・執筆活動を続ける。



「広島の衰退」の一因、広島空港移転から30年……今こそ交通の在り方について県民的な議論を さとうしゅういち

広島空港(三原市本郷町)が10月29日、開港30年を迎えました。正確には「広島空港の本郷町移転30年」というべきでしょう。そして、この地域に空港が移転したことが広島の衰退の一因ということは良く地元では言われています。

広島空港HPより

◆元々は広島市内にあったが手狭で豊田郡本郷町へ移転

広島空港は、元々は広島市西区観音地区(天満川と太田川放水路に挟まれた)にありました。この旧広島空港は国管理の空港で、1961年に完成しました。32年間にわたり、広島の空の玄関として機能してきました。しかし、滑走路が短く、ジャンボジェット機が離着陸できない、また航空需要に離発着数の供給が追い付かないということから、新しい空港が1980年代に模索され、結局、豊田郡本郷町(市町村合併を経た現在は三原市本郷町)に1993年に移転しました。

当時、滑走路は南北に伸びており、北側は広島市西区の市街地で、とてもではないが土地買収すれば高い費用が掛かります。さりとて、瀬戸内海を埋め立てて滑走路を広げれば環境破壊との批判はまぬかれません。そうしたことから、地価の安い地域、それも、県内の当時の自民党大物政治家が関係する地域に移転されたという経緯があります。

西区観音地区の旧広島空港は、広島西飛行場と改称され、県の管理する空港に格下げされました。宮崎線や鹿児島線など短距離の路線に使用されてきました。

筆者が広島県庁に入庁した当時の2000年頃の広島では、
広島県=広島空港(本郷町だけに本県の空港機能を集約)
広島市=広島西飛行場も維持して、羽田線も復活させ、東京への本市の利便性を維持したい、
という対立構図がありました。

広島南道路建設のために滑走路を短縮せざるを得なくなりました。西飛行場の機能を維持・拡充したい広島市は南道路をトンネル方式にして滑走路を維持する方向を模索しました。しかし、2004年に橋梁方式での道路建設に県と市が合意。そのため、滑走路の短縮を余儀なくされました。そして、県自体が、空港運営からの撤退を表明。広島市はなおも広島市営の空港化を目指します。

しかし、広島市の秋葉市長の政権末期の2011年3月議会で広島西飛行場を市営空港にする条例案が当時は市長野党だった自民党主流派などの反対多数で市議会で否決されてしまいました。この結果、空港として使える展望がなくなり、2012年に県営のヘリポートになりました。

◆アクセスが課題「広島空港」こと「三原(本郷、白市)空港」

しかし、現広島空港は、正直、広島空港というよりは三原空港ないし、本郷空港、または白市空港(東広島市内の最寄り駅の名前より)と呼んだ方が適切な空港です。

移転当初から、広島空港へのアクセスは重大な課題とされてきました。例えば、九州の中枢都市の福岡空港は博多駅から地下鉄でたった二駅です。一方、広島空港は広島駅からクルマやリムジンバスで45-50分、広島バスセンター(広島県庁や平和公園近く)から55分くらいです。また、鉄道によるアクセスも不便で、最寄りの在来線の山陽線白市駅からバスで15分かかります。マイカーでも空港内の駐車場は全て有料で、無料の駐車場が広がる岡山空港と対照的です。

なお、二葉山トンネル含む高速5号線が開通すれば広島駅―広島空港は38分に短縮されますが、そもそも供用時期が2029年に延期されているうえ、度重なるトラブルでいつ完成するかも分からない状態です。また5号線が完成したとしても、当然、道路交通の泣き所として渋滞による速度低下のリスクは大きく鉄道に定時制では劣ります。

過去にはアクセスのための鉄道も計画されました。JRに県などが打診をしてきたものの、むざむざ自社の新幹線が飛行機に客を奪われる結果になる空港アクセス鉄道をJRがつくるわけがありません。まだ、JRが国鉄であれば、国の指示で、アクセス鉄道を造らせるという手もあったでしょう。しかし、現実にはJRは民間企業です。県内でも芸備線の廃止まで検討しており、空港のために新線をつくるどころではないのは火を見るよりも明らかです。そんなものをJRが作ったらそれこそ、JR西日本幹部が株主から背任罪で告発されかねません。

そこで、広島県自身が独自にアクセスの鉄道を造る計画も検討はされたものの、2006年に凍結されています。

◆東京アクセスの主役から転落!

こうした中で、広島西飛行場から東京へのアクセスの主役を奪ったはずの広島空港も主役を新幹線に奪われていきます。すなわち、2002年度に広島-東京の旅客シェアは航空機 vs 新幹線で62% vs 38%だったのが2008年度には50% vs 50%になり、さらに2016年度には37.3% vs 62.7%となり、現在では新幹線が圧倒しています。

おまけに2012年には強力なライバルとして(岩国基地拡張強化の見返りの側面が強いが)岩国基地を民間に開放した岩国錦帯橋空港が開港しています。同空港は岩国駅から2.5kmです。それこそ、体力に多少の自身がある方なら岩国駅で降りて、歩きながら市内の観光を楽しみつつ、途中の商店街のレストランで食事・休憩をして搭乗、という楽しみ方もできますし、筆者も暇とお金さえあればやってみたいと思っています。もちろん、条件付きですが空港の駐車場も無料です。

かつては西飛行場=旧広島空港が存在意義を問われたのですが、いまや、移転先の広島空港自体が存在意義を問われかねない瀬戸際にあります。

◆交通の在り方について県民的な議論を!

そもそも、何で、こんなに広島市から遠い空港なのか? それをいまさら言っても仕方がありませんが、現実には、新幹線や岩国錦帯橋空港の方が東京へ行くには便利です。海外へいくにしても、広島空港は中途半端です。筆者自身も広島に在住するようになってからの三度の海外旅行(2004年のベルギー、2007年のノルウェー、2009年の韓国)では、広島空港ではなく関西空港しか使ったことはありません。本当は、広島市安佐北区あたりに空港を造ればいいという話もあったし、今となってはその方が良かったと筆者も思うのですが残念ながら今となっては後の祭りです。

もうひとつ、「1990年代に強行された広島市外への移転」が広島衰退の一因となったものとしては、広島大学が広島市から東広島へ移ったことがよく地元では挙げられます。しかし、広島大学については、2023年度から法学部が広島市中区に戻っています。広島市中区には地裁、家裁だけでなく、高裁もあり、それこそ、法学部生の生きた教材がそこにはありますから再移転は正解でしょう。少しでも広島の衰退に歯止めがかかることを願います。

しかし、大学の再移転はできても、空港(の移転)は本当に頭の痛い負の遺産となっています。

もちろん、広島県や広島市だけで解決できる問題でもないでしょう。国全体の交通政策の課題でもあります。しかし、まずは広島県民が交通の在り方についてもっと議論を深めていくことが重要だし、湯崎英彦知事も、県議ももっと、議論を促していくべきではないでしょうか?

例えば、ドライバーなど人材不足の今、
・(高速5号線二葉山トンネルを含め)「三原(本郷、白市)」空港へのアクセスへの投資
・県内各地から広島市への公共交通を維持・充実(バスも鉄道も)させる
のどちらに重点を置いた方が良いか?
ということも問われます。

筆者なら後者に重点を置いた方が良いと考えます。そもそも、冷静に考えて、海外や東京の方が観光をするにしても広島駅で降りて広島市が軸になる時代が今後も続くだろうし、広島県民にとっても、広島市へのアクセス充実・維持をした方がトータルでは生活や仕事の上でも実利があると思われるからです。

「県民によく考えられると困る」政治家も中にはいらっしゃるかもしれませんが、広島県が人口流出全国ワーストワンを二年連続で続ける中、きちんとした議論は避けて通れないのではないでしょうか?

▼さとうしゅういち(佐藤周一)
元県庁マン/介護福祉士/参院選再選挙立候補者。1975年、広島県福山市生まれ、東京育ち。東京大学経済学部卒業後、2000年広島県入庁。介護や福祉、男女共同参画などの行政を担当。2011年、あの河井案里さんと県議選で対決するために退職。現在は広島市内で介護福祉士として勤務。2021年、案里さんの当選無効に伴う再選挙に立候補、6人中3位(20848票)。広島市男女共同参画審議会委員(2011-13)、広島介護福祉労働組合役員(現職)、片目失明者友の会参与。
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タブーなきラディカルスキャンダルマガジン 月刊『紙の爆弾』2023年11月号

《11月のことば》冬が来る前に 鹿砦社代表 松岡利康

《11月のことば》冬が来る前に まだ間に合う(鹿砦社カレンダー2023より。龍一郎揮毫)

ついこの間までの猛暑が嘘のように秋が深まって来ました。

やがて冬がやって来るでしょう。

今月の言葉をそのまま読めば、やがてやって来る「冬が来る前に」、資金繰りなどいろいろ準備したら、年越しにも「まだまにあう」ということでしょう。

しかし、11月の言葉を揮毫した龍一郎や私たちには、“もうひとつの意味”があるのです。

2011年3月、東北を襲った大震災は多くの尊い犠牲者を出し、あろうことか福島の原発事故を引き起こしました。

この年の11月、鹿砦社常連ライターの佐藤雅彦さんが急遽出されたブックレットが『まだ、まにあう!』でした。

佐藤さんは、かの旧ソ連、今のウクライナに在ったチェルノブイリ原発事故の翌年に福岡在住の主婦、甘蔗珠恵子(かんしゃ・たえこ)さんが原発の危険性を訴えて出版された『まだ、まにあうのなら ── 私の書いた いちばん長い手紙』(地涌社)に触発され、これから書名を採っています。同じ福岡在住の書家・龍一郎も、これに感銘し揮毫したのが11月の言葉です。まだ少し在庫がありますので、ぜひご一読お願いいたします。

ちなみに佐藤雅彦さんにはこの他にもいい本がありますが、私たち版元の力不足もあり、なかなか評価されません。書名だけ挙げておきます。どれも博覧強記な佐藤さんらしい本です。

『もうひとつの憲法読本 ── 新たな自由民権のために』
『もうひとつの反戦読本』
『イラク侵略のホンネと嘘 もうひとつの反戦読本2』
『爆発危険! テロ米国「トモダチ」安保 もうひとつの反戦読本3』
『もうひとつの広告批評1 消費者をナメるなよ!編』
『もうひとつの広告批評2 選挙民をナメるなよ!編』
『食べたらあかん! 飲んだら死ぬで!── 食の安全読本』
『ロックはこうして殺された』
『芸能スキャンダルの闇を読む』
『現代語訳 幸徳秋水の基督抹殺論』
『ハリウッド犯罪調書マグショット』(ジョージ・セミナラ=著 佐藤雅彦=訳)

(松岡利康)

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〈原発なき社会〉を求めて集う 不屈の〈脱原発〉季刊誌 『季節』2023年秋号

原発利用促進のためのGX脱炭素電源法案の問題点〈2〉原発は電力の安定供給に役立たない 山崎久隆(たんぽぽ舎共同代表)

本稿は『季節』2023年夏号(2023年6月11日発売号)掲載の「原発利用促進のためのGX脱炭素電源法案の問題点」を本通信用に再編集した全4回の連載記事です。

◆原発は電力の安定供給に役立たない

経産省は原子力基本法の改訂理由で、60年を超える運転に道を開く「原発利活用」について「安定供給」を理由に挙げている。

ウクライナ戦争と円安の影響で急激に値上がりした天然ガスなどの輸入エネルギー。電力改革に背を向けて自社の利益を最優先に違法カルテルを大規模に行い、競合他社の保有情報を盗み出すなどした大手電力会社の行為に加え、国の無策が招いた電力価格の高騰を奇貨として、国民のあいだに蔓延する「値上げへの嫌悪感」を利用しての原発利活用政策の導入は、盗人に追い銭の典型である。

電力安定供給についても、原発には重大な欠陥があることを無視している。地震や台風災害時に発生する大規模な停電は、原発の再稼働などではなく電力システムの改革によってしか解決できない。

現在の日本は大規模な発電所が中心のシステムで成り立っている。この電力供給体制こそ改革しなければならないのに、原発の稼働を増やせば安定供給になるとの発想そのものが、災害時の電力不足を深刻なものにする。

昨年6月や今年3月に起きた東電管内での「ひっ迫」は、電力需給がアンバランスになって起きる通常時の「ひっ迫」だが、これは電力系統の問題であって発電所の出力の問題ではない。原発を増やしたところで解決などしない。

電力会社は原発の再稼働を進めて原発依存度が高まると、火力を廃止する。以前は待機電力として稼働可能な状態で休止する場合が多かったが、「脱炭素」のかけ声のもとで次々に廃止している。

大手電力の経営状態も悪化しているので、なおさら原発を代替できる火力設備を持ちたがらない。その結果、100万キロワット級原発が止まれば即座に電力がひっ迫する危険性が高まる。それを回避するために送電網を整備して他電力からの送電を円滑に行おうと考えている。再生可能エネルギーの広域運用を送電網整備の理由に挙げているが、実態は原発の電力を大都市(特に東京)に持っていくのが目的だ。

◆事故を起こせば国を滅ぼす原発

原発が事故を起こせば広大な地域を汚染し、人々の生活や生業を破壊してしまう。チェルノブイリ事故37年、東電福島第一原発事故12年、いずれも収束にほど遠い現状だ。

東京地裁朝倉裁判長は東電株主代表訴訟において原発の事故は国を滅ぼすことにつながると指摘し、福井地裁樋口裁判長は高浜原発の差し止め判決で原発事故で失われた国土は「国富の喪失」と指摘した。

震災以前には日本では原子力防災が事実上存在すらしていなかった。1999年のJCO臨界被曝事故は、東海村の燃料加工工場JCOで「むき出しの原子炉」が出現し、65センチの遮蔽もない容器内でウランが臨界状態になって従業員2名が死亡する世界中でも例がない異常なものだった。

事故直後から中性子線や各種放射性物質が拡散していったが、収束作業の手段さえ見つからず、周囲350メートルに避難指示、周囲10キロ圏に屋内退避が発令された。立ち入り禁止措置も取られ、国道6号や常磐自動車道が閉鎖された。常磐線も止まった。あらかじめ計画されたものではなく、その場での判断の積み重ねだった。住民避難を指示した東海村の村上村長は孤独な決断を強いられた。日本の原子力災害史上初の避難指示も独自の判断だった。

当時の原子力安全委員会は「今回の事故においては国の初動対応が必ずしも十分でなかったため、結果的には非常に適切な措置であった避難要請は国や県の指導助言なしに東海村長の判断で行われた」(ウラン加工工場臨界事故調査委員会報告の概要1999年、原子力安全委員会)と、村上氏の判断の適切さと国の初動対応の不適切さを認めている。

しかしこの教訓は震災時も生かされなかったし、今に至るも本質は何も変わっていない。大規模な放射性物質拡散事故が起きた場合、収束に当たる人々、避難を誘導し先導する人々、刻々と変わる放射性物質の拡散経路を見極めて住民避難を計画する機関などは依然として地元自治体の業務であり、国は助言し支援する立場である。しかし自治体には余りに重すぎる任務だ。

過酷事故は国を滅ぼすほどの災害になるとの認識はない。むしろ、規制基準適合性審査を通っているから安全性は確保できるとする、昔ながらの安全神話をそのまま引きずっている。これに加えて老朽原発を60年以上動かすことができるとする改訂は、さらに悪化した安全神話の姿だ。(つづく)

◎原発利用促進のためのGX脱炭素電源法案の問題点[全4回]
〈1〉福島の反省も教訓も存在しない
〈2〉原発は電力の安定供給に役立たない

▼山崎久隆(やまざき・ひさたか)
たんぽぽ舎共同代表。1959年富山県生まれ。脱原発東電株主運動、東電株主代表訴訟に参加。反原発運動のひろば「たんぽぽ舎」設立時からのメンバー。湾岸戦争時、米英軍が使った劣化ウラン弾による健康被害や劣化ウラン廃絶の運動に参加。福島第一原発事故に対し、全原発の停止と廃炉、原子力からの撤退を求める活動に参加。著書に『隠して核武装する日本』(影書房 2007年/増補新版 2013年)、『福島原発多重人災 東電の責任を問う』(日本評論社 2012年)、『原発を再稼働させてはいけない4つの理由』(合同出版 2012年)、『核時代の神話と虚像 ―― 原子力の平和利用と軍事利用をめぐる戦後史』(共著/木村朗、高橋博子編/明石書店 2015年)等多数。

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〈原発なき社会〉を求めて集う 不屈の〈脱原発〉季刊誌 『季節』2023年秋号

龍一郎揮毫

ショボすぎナメすぎの岸田政権 「6000円賃上げ」で止まるはずない介護労働者の流出問題 さとうしゅういち

厚生労働省の分析によると、2022年度に介護で働き始めた人が離職した人を下回り、就労者は前年度から1.6%減となったそうです。

岸田総理は2021年の総裁選や衆院選で介護や保育などのケア労働者の賃金アップを公約。2022年2月から3%の賃上げが実施されました。しかしながら、それは焼け石に水だったことが明らかになりました。

◆求職者がバッティングする他業種で「インフレ手当」出る中でショボすぎた岸田賃上げ

2022年度は他の業界も含む平均で2.28%の賃上げとなっています。しかも、国費投入は2022年度途中までで、10月以降は事業者判断で介護報酬に上乗せする形になっています。これでは、現場に十分に賃上げは行き渡りません。

さらに言えば、流通や飲食、食品など、女性労働者が多くて介護業界と比較的求職者がバッティングする分野に絞ってみると、「インフレ手当」などの形で手当てを出す企業も多くありました。中でもイオンさんなどは2022年度後半にパート時給7%アップを発表しています。もちろん、いわゆる主婦(主夫)の労働者で130万円の壁の中で就業時間を減らす人もおられるでしょうが、一方で、介護などから引き抜きということも増えるわけです。同じ収入確保なら短い労働時間で済む方に流れるのは当然です。

◆70代後半、80代だらけの「新人職員」

筆者の皮膚感覚とも今回の分析結果は合致します。介護福祉士として現場で働く筆者の周囲でも、介護労働者で「70代後半の新人(未経験)」職員、「80代の新人(経験はあるが)」職員という例がざらにあります。繰り返しますが、新入居者ではありません。新人職員が70代、80代なのです。他方で、20代の新人職員という方になかなかお会いすることはとくに広島ではありません。日本人最年少が今年48歳の筆者自身、という状況も珍しくありません。

「人間、年齢ではない。個人個人を見ないといけない。」

それはそうなのです。そうなのですが、そうはいっても70代で未経験の方ともなると、傍目で拝見していても仕事のペースについてこられるのが明らかにしんどそうでした。

経験者の方でも、年配の方に夜勤をしていただいたこともあるが、相当しんどそうでした。特に、夜中の体格が大きい方の排泄ケアなどは特に難しいのです。翌朝、体格が大きい方の便失禁などがそのままになっていることもありますが、責める気も起きませんでした。

便がまるで化石のようにこびり付いた入居者様の背中の便を敵部隊に見立てて思わず「張遼! 張遼!」とつぶやきながら流すのが筆者の日課のようになっていた時期もありました。三国志のゲームで魏の名将の張遼は異常に防御力が高く設定されており、敵に回すと部隊を全滅させるのが非常に困難なことから、ついついつぶやいてしまったものです。

さらに困難なのは、皮膚が弱った状態の方の便失禁が放置された状態です。下手にこすれば皮膚が切れて出血になりかねません。また、血液をサラサラにする薬を服用されている方も多いので、出血すれば止めるのが大変です。従って、仕方がなく、シャワーで流すという対応になります。だからといって、ここで年配職員を責めてもどうしようもない。こういう状況を造った政府に責任があります。 

そして、人手が足りないために、70代職員が「辞意」を表明するたびに、職場に不安が走ります。若い人が来るような職場ではないからです。

まず、そもそも、広島の場合は、東京などに高い給料を求めて若い人が流出してしまいます。その中でも介護業界の給料が低ければ若い人が来ないのは当然です。その上で、外国人労働者(特定技能)も、いったん広島に来ても、東京の給料が高いことに気づき、東京の大手法人に転職してしまいます。

◆悲惨な訪問介護、当事者が国賠訴訟

さて、筆者は主に、入所系サービス=施設で仕事をしておりますが、訪問介護ではもっと事態は深刻です。訪問介護では、移動時間や待機時間、キャンセルされた時間を労働時間に算入しない労働基準法違反が常態化しています。実は、それをなくそうという事業所もあるのですが、今度は提供をお断りすることになっています。
結局、業者が労働基準法を守ろうとしても守れない制度に日本の介護保険はなっているのです。

これに対して、こんな介護保険は違法であるとして、ホームヘルパー国賠訴訟をホームヘルパー3人が提起しました。日本の裁判では、法制度そのものの変更だけを求められるような仕組みになっていないので、損害賠償請求という形にはなっていますが、国に制度改革を迫る提訴内容です。一審の東京地裁では不当判決、そして控訴審は2023年10月25日に結審し、24年2月2日に判決が言い渡される予定です。

※引き続き、公正な判決を求めて署名を呼び掛けています。ご協力をお願いします。
 https://chng.it/7wTCpX8ZrK

◆非常事態に新卒公務員下回る「6000円」賃上げ 岸田総理はなめている!

さて、こんな非常事態に対して、岸田総理は何をやっているのでしょうか? 2023年度はご承知の通りさらに物価が上昇しています。連合は来年の春闘で5%の賃上げを要求する見込みです。特に最近の連合は芳野会長のもと、自民党にすり寄り、賃上げでも最初から会社が呑むような要求しかしません。ですから5%というのは最低限です。

だが、岸田政権=武見厚労大臣は介護労働者に対して、来年2月からの6000円の賃上げしか打ち出していません。6000円。筆者はがっくりきました。しかもこれは平均値であって多くの介護労働者はこれを下回ります。

別の見方をしましょう。2023年度の人事院勧告で公務員の大卒初任給は11000円、高卒で12000円アップとなりました。人事院勧告については様々な批判はありますが、公務員の初任給は世間一般の動向を調査し、反映させているものであることは押さえておきたいものです。ですから、公務員の賃上げが高すぎるということはありません。「大阪維新」のような無責任な政治家に騙されてはいけません。それを大前提としたうえで、その公務員初任給の増え方よりも介護労働者の給料の増え方が半分程度(中央値で見ればおそらく半額以下)とは何事でしょうか?!岸田総理も武見厚労大臣も介護労働者を舐めています。

◆男尊女卑+新自由主義の極北としての「やりがい搾取」も限界に

もともと、介護・保育などケア労働は女性の仕事として、政府も社会も軽く評価していました。

政府によるセーフティーネットの制度設計全体を見渡しても、

1.家庭内のケア労働は女性に主に担わせる
2.労働市場でも女性は低賃金に抑え込み、家計補助の役目を主に担わせる。

1986年の男女雇用機会均等法施行後も建前とは裏腹にこうした男女性別役割分担のあり方が続いていました。どちらにしても、女性の仕事だから軽んじる、ということです。

それでも、実は2000年の介護保険法の施行前は、筆者が住んでいた東京23区でもホームヘルパーは公務員でしたし、広島市では公社職員でした。それが介護保険導入で、民間企業の利潤追求の場となる。さらに小泉政権以降の緊縮財政で報酬が抑え込まれました。依然として根強い昭和からの男尊女卑と平成の新自由主義のダブルパンチを受けた介護現場が崩壊するのは時間の問題でした。

それでもこれまでなんとか持ちこたえたのは、一部のベテラン労働者の「使命感」だったように思えます。筆者は広島県庁職員時代の2000年代前半、介護保険事業者の指導をさせていただきました。当時は、まだ、現場労働者の皆様から強い使命感を感じ、それに筆者も感動したものでした。

だが、もはや、現場は限界です。そのころのベテラン職員の方も高齢化しています。若い人は外国人も含めて地方の現場には就職されません。

◆もはや抜本的な賃上げしか「血路」はない

6000円などという賃上げではショボすぎます。せめて一桁多い金額を直ちに引き上げるべきである。武器の爆買いや訳の分からない中抜きばかりの事業には気前よく使う自民党政権。政治判断で引き上げはただちにできることです。もはや抜本的な賃上げ以外の活路、いえ、血路はない。血路と申し上げたのは、もはや非常事態をしのぐにはこれしかない、そうしないと本当に日本が壊れる、という意味です。

もちろん、賃上げを行う場合、きちんと現場労働者に直接入るようなやり方でしなければなりません。現状では、処遇改善の仕組みは、極論すれば経営者がどう差配しようが勝手な状況があります。また、ケアマネなどが対象外という問題もあり、そうなると職種間での対立ということもあります。経営者判断で介護職員以外への分配も出来ますが今度は経営者側の持ち出しにもなります。

また、かつては、上記のように23区も公務員という形で、広島市も公社職員という形でホームヘルパーを雇っていたのですから、異常な不足が続くいまこそ、公務員ヘルパーの復活を検討すべきです。実はその方が経営者による利潤追求がないぶん、コストも抑えられます。

また、全体として、女性に家庭内も含めてケア労働を過剰に押し付け、一方で、女性の労働への対価を低く抑え込んできた今までの社会・経済の在り方を抜本的に見直すという視点も必要です。岸田総理が130万円の壁の撤廃と称して第3号被保険者制度の廃止をもくろんでいます。現状の女性の労働への対価を低く抑え、なおかつ女性に依然として家事育児介護負担が重い状態を維持したままで第3号被保険者廃止だけを先行すれば、当然、ネット上でも皆様が懸念しておられるように大変なことになります。こうした文脈からも、きちんとケア労働の評価を引き上げていくことが重要です。

▼さとうしゅういち(佐藤周一)
元県庁マン/介護福祉士/参院選再選挙立候補者。1975年、広島県福山市生まれ、東京育ち。東京大学経済学部卒業後、2000年広島県入庁。介護や福祉、男女共同参画などの行政を担当。2011年、あの河井案里さんと県議選で対決するために退職。現在は広島市内で介護福祉士として勤務。2021年、案里さんの当選無効に伴う再選挙に立候補、6人中3位(20848票)。広島市男女共同参画審議会委員(2011-13)、広島介護福祉労働組合役員(現職)、片目失明者友の会参与。
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原発利用促進のためのGX脱炭素電源法案の問題点〈1〉福島の反省も教訓も存在しない 山崎久隆(たんぽぽ舎共同代表)

本稿は『季節』2023年夏号(2023年6月11日発売号)掲載の「原発利用促進のためのGX脱炭素電源法案の問題点」を本通信用に再編集した全4回の連載記事です。

原発の60年超運転を可能にする束ね法案「GX(グリーン・トランスフォーメーション)脱炭素電源法案」が4月27日に衆議院本会議で可決された。

世界でも例のない60年を大きく超える運転を可能にし、新型炉の開発と原発へ国が投資を行うことを法律で裏付ける「原発推進法」。原発依存からの脱却どころか推進する政策へと大転換を強行するものだ。

改訂される主な法律は原子力基本法、電気事業法、核原料物質、核燃料物質及び原子炉の規制に関する法律(炉規法)、原子力発電における使用済燃料の再処理等の実施に関する法律(再処理法)、再生可能エネルギー電気の利用の促進に関する特別措置法(再エネ特措法)だ。

さらに所得税法、地方税法、法人税法、消費税法などの法律も一部改訂される。

特に原子力基本法の目的は、「原発依存からの脱却」を永遠にできなくするための法的縛りを、事業者だけでなく国や地方を含む行政全体にも及ぼそうとするものだ。

なお「再処理法」の改訂理由は、原発を廃炉にするために必要な費用を積立金方式で拠出金する改訂(電気事業法)と、その拠出金の管理を使用済燃料再処理機構で行うことを規定するためのもの。この目的のため機構の名称を「使用済燃料再処理・廃炉推進機構」に変更する。

「再エネ特措法」の改訂は、送電線の整備計画を経済産業大臣が認定し、認定を受けた整備計画のうち工事に着手した段階から系統交付金を交付するもの。電力システム改革が一向に進まないことから、電力事業者任せにできないということで国が推進するとの仕組みだが、多くの電力を東京圏などの大消費地に集中するためのものだ。名目は再エネの利活用といいながら、実態は東電の原発の出力が再稼働をしても柏崎刈羽原発6、7号機だけで震災前より大幅に減ることから、他電力からの原発の電力を送るためのものだ。

特にリニア新幹線などのような大電力を使うシステムを動かすには、東西の連系が重要になる。北海道の原発が定格出力運転をしていると電力が余剰になるため東京など大都市に送電することも想定している。

これらを「束ね法案」の形式として一つの改訂法にまとめて国会に提出し成立を図った。

しかし原発の利活用、原発の安全規制、運転期間のさらなる延長、廃炉費用積み立て、送電網の整備の支援の多岐にわたる変更点をひとくくりにした束ね法として国会で議論をすることから、分かりにくく論点も深まらない。

政府の思惑通り、議論も深まらないうちに衆議院の委員会審議は25時間程度で終わり衆議院本会議でも可決された。

◆福島の反省も教訓も存在しない

東電福島第一原発事故は現在収束どころか、原子炉圧力容器の真下の土台部分でコンクリート材が消失していることが分かるなど、次々に新しい問題が見つかっている。人類が経験したことのない3基の原発の同時メルトダウンと、溶け落ちた核燃料、大量の放射性物質からの放射線が作業を困難なものにし、デブリから生ずる汚染水発生を12年経っても止めることさえできないでいる。

敷地内のタンクに溜まっている汚染水は、今年夏にも海洋放出される計画で、放出設備は7月末までに完成する予定だが、地元漁協はもちろん、全国漁業協同組合連合会も反対の姿勢を変えていない。(※東電は8月24日から海洋放出を開始)

住民の多くも反対の意思を表明し、運動も続いている。国と東電は「関係者の理解なしに、いかなる処分も行わない」と口ではいいながら夏にも放出開始を強行するつもりだ。

「帰還困難区域」と呼ばれる広大な土地は今も立ち入り制限されており、居住も生産の場にも使えない。チェルノブイリ原発事故から学ばなかった日本は、犠牲を被災者に押しつけたまま、新たな原発推進への道を突き進もうとしている。(つづく)

▼山崎久隆(やまざき・ひさたか)
たんぽぽ舎共同代表。1959年富山県生まれ。脱原発東電株主運動、東電株主代表訴訟に参加。反原発運動のひろば「たんぽぽ舎」設立時からのメンバー。湾岸戦争時、米英軍が使った劣化ウラン弾による健康被害や劣化ウラン廃絶の運動に参加。福島第一原発事故に対し、全原発の停止と廃炉、原子力からの撤退を求める活動に参加。著書に『隠して核武装する日本』(影書房 2007年/増補新版 2013年)、『福島原発多重人災 東電の責任を問う』(日本評論社 2012年)、『原発を再稼働させてはいけない4つの理由』(合同出版 2012年)、『核時代の神話と虚像 ―― 原子力の平和利用と軍事利用をめぐる戦後史』(共著/木村朗、高橋博子編/明石書店 2015年)等多数。

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龍一郎揮毫

呉製鉄所廃止を市民はどう考え、どう感じているのか? さとうしゅういち

筆者は10月16日、日本製鉄瀬戸内製鉄所呉地区、いわゆる呉製鉄所が9月を以て廃止となったことを受け、呉市民の皆様に取材をしました。

今回の取材では様々な世代の方に製鉄所廃止への受け止めや思いを自由に語っていただくことを主眼としています。筆者なりの考え方もありますが、基本的に聞き手に徹することにしています。

呉製鉄所の跡地利用問題ではいろいろな政治家がいろいろな提案をされています。病院船の基地、エネルギー基地、防災拠点……。ただ、やはり、一番大事なのは市民の思いではないのか?そういう考えから、取材に向かいました。

◆製鉄所の跡地利用、現時点では具体的に進む条件なく

写真左が谷本さん、右が筆者

最初に取材に伺ったのは谷本誠一・元市議です。今春の呉市議選では惜敗しましたが現在もあきらめずに政治活動を続けておられます。(写真左が谷本さん、右が筆者)

谷本元市議は、「多くの政治家が提案しているような案の実現は難しいだろう。解体後に更地にしたところで国が買い取ってくれるような話でないと、日本製鉄も乗りづらいのではないか?中央政府の官僚が本気で動くような案がでない会議理、実現は難しいのではないか?」と指摘。

「可能性があるとすれば、市の中心部にある自衛隊が製鉄所の跡地に移動し、自衛隊の跡地を住宅などにする程度だろうが、自衛隊側にメリットがなければ実現は難しい」との見立てでした。

呉市中心部の20代の市民は、「跡地利用はなかなか結論を出すのが難しいのでは?議論を盛り上げるにしても、解体に10年以上あるので、盛り上げのタイミングが難しい。」と指摘。

「跡地利用であるとすれば宇宙産業のようなものだろう。しかし、当面、産業振興策で跡地を当てにするようなやり方は難しいだろう。10年後には自分も年を取っている。待っていられない。産業振興については例えば、地元出身の若い人が、小規模でもいいからネットワークを作り、それを活かした起業を地元に帰ってするとか、そういうことの積み重ねが良いのではないのか?」と、跡地利用については、産業振興への過度の期待を戒めるご意見でした。

いずれにせよ、呉製鉄所跡地を産業振興に直ちに結びつけるような条件はないと感じました。

呉市史を手に筆者に説明される藤川清明さん(右)

◆日本・広島の野球興隆の地・旧呉工廠

呉駅前で印鑑会社を経営されている藤川清明さんは「製鉄所の廃止はショックだし、残念、一方で感慨深い」とのことです。

藤川さんは祖父の住田喜作さんが弟とともに製鉄所の前身の呉工廠水雷部で魚雷製造に携わっておられました。

「日清戦争中の1895年から第二次世界大戦直前の1940年の45年間、職工として勤め上げ、その間、仕事を頑張って海軍から東京での研修、さらには英国への留学もさせてもらった」とのことです。

旧海軍呉工廠は、大まかに言って造船を行う部門と、大砲や魚雷など兵器を作る部門(その中には鉄をつくる部門もあった)があり、喜作さんは兵器をつくる部門で仕事をされ、その場所は空襲で焼けた後、戦後には製鉄所になったからです。

また、戦前の呉工廠ではクラブ活動が盛んだったとのことです。野球部も工廠の各部門に5つもあったそうです。喜作さんが実は、工場内で野球を普及する中心だったとのことです。そして、喜作さんは従業員の子どもさんの間にも少年野球を普及させたとのことです。

タイガースの「代打ワシ」で有名な藤村冨美男。ミスターホークスの名投手・鶴岡一人。また、ジャイアンツで活躍し、引退後は、アンチ読売に燃えてカープやスワローズ、ライオンズの基礎を作った名遊撃手・広岡達朗らを呉は輩出しています。

喜作さんのような存在は、あまり表には出てこなかった歴史ですが、呉市史にそうした喜作さんの活躍が出ているそうです。

◆呉工廠~空襲~製鉄所を知りつくす佐藤康則さん

筆者ら広島瀬戸内新聞取材班にパワポで講義される佐藤康則さん

そして、呉工廠の学徒動員の生存者である佐藤康則さんにもお話を伺うことができました。(以下、同姓の筆者自身との混同を避けるため、康則さんと表記します。)

康則さんに造船所や製鉄所を見下ろすルートでご説明をいただいた後、ご自宅でパワーポイントによるお話を伺いました。

康則さんは、戦前からご家族で呉工廠を見下ろす場所に住んでおられました。呉第二中学校時代に動員され、3年生の時、1945年6月22日の空襲を体験したそうです。

1945年6月22日、海軍呉工廠に米軍のB29が「最初は蚊のような感じ」で現れ(小さな機影とブーンという音)たが、それがだんだん、「エンジンを4つ持った大型のB29」であることがわかったと康則さんは振り返ります。

B29は写真の赤の点線で囲んだ場所をピンポイントで攻撃

B29は右の写真の赤の点線で囲んだ場所をピンポイントで攻撃。このため、工場近くの康則さんの自宅も焼け残ったそうです。

康則さんは「大砲などを作っている部署は破壊しつつ、造船を行う部署は米軍が戦後に使うつもりだったのでは?」と推測しています。

康則さんは防空壕に避難して助かりました。小1時間続いた空襲が終わった後、外へ出てみると、女子挺身隊員が避難していた防空壕が水没してしまい、多数の隊員が溺れてしまいました。教官の指示で、ダメだろうと思いつつも女子挺身隊員らを引き上げて人工呼吸をしたが、もちろん、ほとんど助からなかったそうです。そして遺体は、トラックからはみ出て足が垂れ下がっていたのが印象に残ったそうです。

一方、そのころ、康則さんのお父さんはフィリピンの第103海軍工作所に赴任後、行方不明になりました。

フィリピンを攻め落とした日本軍は米軍基地をそのまま接収して、海軍工作所をつくりました。しかし、1944年12月に米軍の反攻により、逃避を余儀なくされました。だが、康則さんのお父さんは怪我をして山岳地帯でおそらく亡くなったのだろうとのことです。康則さん自身も戦後、何度も遺骨収集に行かれたそうです。

そうしたことから康則さんは、戦後は進学を勧められるも辞退し、英国軍でバイトをしたそうです。とかく、進駐軍と言えば米軍と決めつけがちです。しかし、呉は英国軍の管轄だったのです。康則さんは中学時代に学んだ英語を活かしてイギリス軍で5年間バイトした後、第二種大型免許を取得。日新製鋼に入社し、定年まで勤め上げられました。

退職後もパソコンの職業訓練を受け、その経験を活かし、92歳の現在もご自分でパワーポイントを使ったご講演をされるなど大活躍です。

康則さんには、製鉄所のみならず、旧海軍工廠全体を山の上からご説明いただいております。

戦艦大和も造った造船部門は当時を基本的に残したまま石川島播磨重工業を経由してジャパンマリンユナイテッドの造船所になっています。

戦前・戦中に兵器やその材料の鉄を作っていた区域は6月22日の空襲で完全に破壊されました。そこに1951年、日新製鋼が誘致され、2023年9月まで稼働していました。現在、解体作業が始まっています。

そこで、康則さんはずっと働いておられたわけです。英軍バイト時代を除き、戦中・戦後を通じて同じところで働いておられたわけです。正に生き字引です。康則さん、ありがとうございました。

[左]ジャパンマリンユナイテッド(JMU)の造船所。[中央]解体作業が始まった日新製鋼跡地。[右]佐藤康則さん(右)と筆者
筆者

この日は取材終了後、呉駅前でれいわ新選組・チーム広島の皆様とともに街宣を行いました。

筆者は外遊中の広島県の湯崎知事について「日本酒やカキの売り込みにフランスに行っているというが、三原産廃処分場から出ている汚染水は川や海へ流れ込む。これを放置していては意味がないのではないか?」と指摘。

また、「最近の湯崎さんは、県民の声を全く聴かないで大型事業を進めている。平川理恵教育長は、非正規の先生の待遇改善などを放置してお友達の企業やNPO、赤木かん子さんらを儲けさせてきた。」

「知事は、新たに大学を造ったが定員割れを起こしている。こんなことなら兵庫県のように既存の県立大学の学費を無料にした方が良かった」と批判。

「知事や教育長が好き放題している広島県政をあなたの手に取りもどすヒロシマ庶民革命を!」などとボルテージを上げました。

一方で「地方の庶民に最も優しい政策を打ち出しているのがれいわ新選組だ。国政では応援している。」と紹介しました。

また、パレスチナ情勢に関して「ハマスの行動は国際人道法に違反しているが根本にはイスラエルによる入植など、これまでのパレスチナへの侵略がある。まずは戦闘を止め、人道危機を回避すること、イスラエルに侵略を止めさせることだ。」

「欧米はイスラエルべったりで、イスラエルのネタニヤフ首相の暴走を加速してしまっているが、日本がこういう時に欧米にブレーキをかけないといけない。」
とボルテージを上げました。

広島瀬戸内新聞は呉製鉄所廃止を受けて呉市民の皆様に取材をさせていただいています。

090-3171-4437 hiroseto2004@yahoo.co.jp までご意見や情報をお寄せください。

あらゆる世代のいろいろな方のあらゆる角度からのご意見や情報をお待ちしております。

▼さとうしゅういち(佐藤周一)
元県庁マン/介護福祉士/参院選再選挙立候補者。1975年、広島県福山市生まれ、東京育ち。東京大学経済学部卒業後、2000年広島県入庁。介護や福祉、男女共同参画などの行政を担当。2011年、あの河井案里さんと県議選で対決するために退職。現在は広島市内で介護福祉士として勤務。2021年、案里さんの当選無効に伴う再選挙に立候補、6人中3位(20848票)。広島市男女共同参画審議会委員(2011-13)、広島介護福祉労働組合役員(現職)、片目失明者友の会参与。
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