堀田春樹
◆マイクによるアピール(パフォーマンス)はいつから始まったか
今から25年程前の2000年前後頃、あるレジャー紙のスポーツ欄で、私(堀田)はキックボクシングの小さなコラムを任された時期がありました。諸々のテーマで苦言を呈していましたが、殆どの格闘技ファンは目に通すことは無かったでしょう。知る人ぞ知るごく少数の方々に読まれる程度でした。そんな時代のあった幾つかのテーマはすでに拾い上げていますが、今回はマイクアピール(パフォーマンス)に触れてみたいと思います。
ここではリング上でのアナウンサー等による質疑でマイクを向けられる場合はインタビューとして、選手自らマイクを要求する行為はマイクアピールまたはマイクパフォーマンスと捉えることとします。
昔はマイクパフォーマンスなどプロレスの影響があるものは賛否両論ありましたが、あまり好まれていない傾向がありました。実際に「俺は試合で魅せる。マイクなど要らない。」と言う選手も居たものです。
キックボクシングにおいて、厳密には誰が最初にマイクアピールしたかは解りません。昭和40年代から50年代半ば頃(1982年)までにおいてはリング上におけるインタビューは沢山あったと思いますが、選手自らマイクを要求する行為は殆ど無かったのではないかと思います。
後に藤原敏男氏が勝利後の引退宣言や、伊原信一氏がメインイベンターたる締めの御挨拶を残した姿はありましたが、他の選手らが自らマイクを要求しなかったのは「大御所を差し置いて自分がマイクアピールする立場には無い!」といった謙虚さや「キックボクサーは試合で魅せるもの、チャラチャラ喋るものではない!」といったプライドもあったかもしれません。

◆新時代での変化
そういった昭和の難さも過ぎ去った平成期に入り、若かった立嶋篤史がマイクで語り掛けるアピールは観客を惹き付ける魅力がありました。この時代は自らマイクを要求するものではなく、リングアナウンサーから“マイクを渡された”という流れでもありました。
その次にマイクアピールすること目立ったのは土屋ジョーだったでしょう。“喋り過ぎ、長過ぎ”の印象がありました。他競技も含めて、マイクアピールという自己主張はこの平成初期から増えていったように思います。
総合系競技においては敗者が悔しさからか5分以上も喋り続ける姿もありました。傍らで勝者がただ待つだけの姿には「どっちが勝者だ!」といった異様な空気感が漂っていました。
敗者がマイクアピールする場合は、名チャンピオンの引退試合など特別な場合に限られるでしょう。
プロボクシングにおいて近年のプロボクシング(2005年以降)は殆ど現場取材に行っていないので確信は持てませんが、2000年前半まではテレビインタビュー中心にアナウンサーがマイクを選手に渡す流れはあっても、選手自らマイクを要求することは殆ど無かったでしょう。そんな過去でも勝者が調子に乗ってマイクアピールしようとリングアナウンサーのマイクを奪うも、「何するんだ!」と怒られマイクを取り返されたというエピソードもあったようでした。コミッション管理下で進行されるプロボクシング興行ではリングアナウンサーがマイクを扱う責任が伴い、選手のパフォーマンスは支持されない傾向にあったかと思います。

◆喋りたい選手の意識
近年は選手の主張は当たり前。勝者の中には自分の主張より、鍛え上げ勝利に導いてくれた会長やトレーナー、後援会に感謝を述べる傾向は多くあるようです。
現在は大手イベントを除いて地上波テレビ放映は殆ど無いものの、動画収録、ネット配信が中心で、テレビカメラに気付かず背を向け、向正面側後援会等が居る方向に向かって語り掛ける選手がいますが、その後に拡散される動画での誰が観るか解らない世界広域の視聴者とその場の観衆に向けて、正面(テレビカメラ側)に向かって語り掛ける主役となっているその姿を応援団に観て貰い、その後で応援団、仲間内に語り掛ける配慮を考えた方がいいでしょう。
パフォーマンスとしてはライバルを罵ったり、掴みかかったり等の過激な行為は永遠に映像に残るので、その時はカッコよく振舞ったつもりでも、30年後の自分が振り返ればどう思うか考え、年配指導者が躾けておく必要もあるでしょう。

◆伝統と格式は向上するか
大相撲は土俵の上で笑ってはいけない。ガッツポーズなど相手を見下すアクションを起こしてはならないなどの仕来りがあります。
プロボクシングでは上記のようにテレビが主体のインタビュー形式は現在も行なわれていますが、選手自身が要求するマイクアピールは禁止事項でなくても、“やれる雰囲気に無い”状況は今もあるので、長い歴史の格式の高さは感じるところです。
キックボクシングにおいては“マイクアピールの習慣が無かった”という時代から“勝者は喋る権利を与えられたもの”と時代が変わった感があります。大相撲やプロボクシングからも学び、今後はこのキックボクシングの権威向上や品位格式を重んじた言葉が出て来るか注目したいものです。

▼堀田春樹(ほった・はるき)[撮影・文]
昭和のキックボクシングから業界に潜入。フリーランス・カメラマンとして『スポーツライフ』、『ナイタイ』、『実話ナックルズ』などにキックレポートを寄稿展開。タイではムエタイジム生活も経験し、その縁からタイ仏門にも一時出家。最近のモットーは「悔いの無い完全燃焼の終活」
