伊方原発裁判「行政・資本寄り」裁判長降板/瀬戸内の島にカーボンリサイクル施設完成 広島発・原発ゼロへ光明か さとうしゅういち

◆爆心地選出なのに安倍さん以上に原発推進の総理

筆者の地元で爆心地も抱える広島1区選出の岸田総理。岸田総理は、GX(グリーントランスフォーメーション)と称して、島根原発3号機の再稼働はもちろんのこと、新規原発建設も含む原発推進姿勢に転じました。

ロシアのウクライナ侵攻によるエネルギー価格高騰や、気候変動対策にも悪乗りした形です。311以降、安倍晋三さん率いる自民党でさえ、脱原発依存を掲げ、原発依存度の低下は選挙公約としてきました。それを選挙でマニフェストに掲げることもせずに、原発拡大路線に転換したものです。

しかしながら、原発というものは、日本においては、特に実は誰も責任を取らないしろものです。6月18日、最高裁は福島原発事故における国の責任を否定。また、現体制でも原子力規制委員会でさえ「合格」とはいうけれど「許可」を出すものではありません。こんなものは論外であるのは変わりありません。

そして、ロシアとウクライナの先頭にザポリージャ原発が巻き込まれ、人類はひやひやしている状況です。こうした中、世界で最初の戦争による核被害の爆心地選出の総理が原発推進に舵を切るとは、全日本人、全世界の人に、筆者は広島市民、とりわけ広島1区の有権者として大変申し訳なく思います。

いっぽうで、こうした中、原発ゼロへ向け、希望を持てる動きも県内ではあります。ご紹介しましょう。

◆「権力・資本寄り」男性裁判長が降板──伊方原発広島裁判

一つは、筆者も原告である伊方原発運転差し止め広島裁判の広島地裁の男性裁判長が前回第28回の口頭弁論から交替したことです。これまでの男性の裁判長は、以前、ご紹介した産業廃棄物処分場をめぐる裁判の仮処分申請裁判でも、裁判長を務めていました。

その男性裁判長は、業者に処分場建設作業再開を認める判断を出してしまいました。

そして、本裁判、すなわち伊方原発広島裁判の不当判断を出し、伊方原発三号機の再稼働を認めてしまいました。

9月14日の法廷後、新しい裁判長の姿勢について報告する伊方原発広島裁判原告弁護団(筆者撮影)

ところが、その男性裁判長が6月8日の第28回口頭弁論から姿を消しました。女性裁判長に変わっていたので、筆者も含めてすこし、参加者はどよめいていました。

女性裁判長がどのようなお手並みか。9月14日に開催された口頭弁論で、すこし片鱗が明らかになってきました。少なくとも「前任の男性裁判長よりは、まじめに証拠を調べよう」という姿勢がみられることです。

女性裁判長は、原告側が求める証人調べに積極的に応じ、来春以降、行われる可能性が高まりました。原告弁護団によると、件の男性裁判長なら「ほかの伊方原発を巡る類似の裁判で出た証人は本法廷としては呼びたくない。」という姿勢が見え見えだったそうです。

裁判長交代でひょっとしたら、「伊方原発運転差し止め判決」という朗報をみなさまに広島からお届けできる可能性が少し上がったのかもしれません。

◆国立研究開発法人NEDOのカーボンリサイクル施設が大崎上島に

もうひとつは、広島県中部の瀬戸内海に浮かぶ島に国のカーボンリサイクルの施設ができたことです。大崎上島には中国電力の石炭火力発電所(試験プラント)があります。大崎上島は広島県内の最大の都市・広島市と福山市の中間にあります。2000年に当時としては最新式の石炭火力発電所ができたのですが、トラブルが相次ぎ、2011年から休止状態にあります。

現在は、中国電力と電源開発の共同出資で2017年3月運転開始の高効率の石炭ガス化複合火力発電所の試験実証機が稼働しています。ガス化した石炭により動かすガスタービンと蒸気タービンを組み合わせて発電するものです。

石炭火力と言えば、皆様も気候変動対策の敵のように思われるでしょう。毎回の気候変動枠組条約締約国会議(COP26などと報道されている会議)においても日本は石炭火力への固執で「化石賞受賞」などと報道されていることを皆様もご記憶と思います。

しかし、ロシアのウクライナ侵攻も背景に天然ガス価格も高騰している中で、日本国内でもまだまだ埋蔵量がそれなりにある石炭を使い、なおかつエネルギー変換効率も高い石炭ガス化複合火力発電所は、再生可能エネルギー100%への「中継ぎ」として有力なのではないのでしょうか?

そして、さらに、2022年9月、この大崎発電所の敷地内に、国立研究開発法人であるNEDOのカーボンリサイクル施設ができました。

発電所から出るCO2を分離・回収し、
・鉄などを触媒にして二酸化炭素からプロパンガスを作る基礎研究
・二酸化炭素を吸収させてコンクリートを固める技術を使って、ダムや橋などの大規模な工事にも活用する研究、
・二酸化炭素を藻の培養に使い、藻から抽出した油を航空機の燃料などに活用する研究
などを行うそうです。

https://www.nedo.go.jp/news/press/AA5_101530.html

こうした技術革新が進めば、原発に頼らず、なおかつエネルギーの安定供給を確保しつつ気候変動対策も進めることができます。

広島県選出の岸田総理。あなたとわたしの地元である広島で、こうした素晴らしい技術革新を国がお金を出して進めているのですよ?

ロシアのウクライナ侵攻に便乗して短兵急に原発を新増設しようとしても完成にはどうせ、10年以上かかります。それよりも、地元で開発が進んでいる技術を活かしていきませんか?

▼さとうしゅういち(佐藤周一)
元県庁マン/介護福祉士/参院選再選挙立候補者。1975年、広島県福山市生まれ、東京育ち。東京大学経済学部卒業後、2000年広島県入庁。介護や福祉、男女共同参画などの行政を担当。2011年、あの河井案里さんと県議選で対決するために退職。現在は広島市内で介護福祉士として勤務。2021年、案里さんの当選無効に伴う再選挙に立候補、6人中3位(20848票)。広島市男女共同参画審議会委員(2011-13)、広島介護福祉労働組合役員(現職)、片目失明者友の会参与。
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〈原発なき社会〉を求めて集う 不屈の〈脱原発〉季刊誌 『季節』2022年秋号(NO NUKES voice改題 通巻33号)
タブーなきラディカルスキャンダルマガジン 月刊『紙の爆弾』2022年11月号

携帯基地局のマイクロ波と「妄想」、隣人2人に同じ症状 黒薮哲哉

新世代公害とは、化学物質による人体影響と、電磁波による人体影響のことである。この両者が相互に作用して複合汚染を引き起こす。

 

米国のCAS(ケミカル・アブストラクト・サービス)が1日に登録する新しい化学物質の件数は、1万件を超えると言われている。勿論、そのすべてが有害というわけではないが、地球上は化学物質で溢れ、それに電磁波が重なり、生態系へ負の影響をもたらしている。透明な無数の牙が生活空間のいたるところで待ち構えている。

1年ほど前から、わたしは電磁波が人間の神経系統に何らかの影響を及ぼした可能性がある事例を取材している。具体的には「妄想」である。あるいは精神攪乱。2005年から、電磁波問題の取材をはじめた後、稀にこうした事例に遭遇してきた。ただし電磁波以外が「妄想」の原因である可能性もある。わたしは医師ではないので、このあたりのことはよく分からないので、事実を優先するのが基本的な取材の方針だ。

◆欧州評議会の勧告を上回る電磁波強度

今回、ここで紹介する事例の取材対象者は、AさんとBさんである。いずれも70歳前後の女性である。Aさんは一人暮らしで、Bさんは夫と二人で暮らしている。隣人同士である。住居の所在地は、神奈川県川崎市。郊外の緑が多い地域である。

最初、わたしはBさんから、「頭痛やめまいに悩まされている。電磁波の影響ではないかと疑っている」と電話で相談を受けた。わたしは現場を調査するためにBさんの自宅へ足を運んだ。Bさんの自宅には、Aさんの姿もあった。Aさんも、Bさんと同じような症状に悩まされていることをわたしは、その場で知った。

持参した電磁波測定器で、Aさん宅とBさん宅のマイクロ波(携帯電話の通信に使われる電磁波)の強度を測定した。Aさん宅でもBさん宅でも、優に1μW/c㎡を超えていた。1μW/c㎡という数値は、総務省の規制値はクリアーしているものの、欧州評議会の勧告値に比べると10倍も高い。欧州では危険な領域とされる数値に入る。Bさん宅では、2μW/c㎡を超えることもあった。

 

◆森を隔てて巨大な鉄塔型の基地局

近辺に基地局があるに違いないと考えて、わたしはAさんとBさんに、自宅近辺の環境について質問した。しかし、2人とも基地局の形状を知らない。従って基地局があるのかどうかを答えようがなかった。

 そこでわたしは徒歩で基地局の有無を確認することにした。その結果、2人の自宅から、200メートルほどの位置に鉄塔型の巨大な基地局があるのを発見した。鉄塔の周りに、10本以上のアンテナが設置してあった。

基地局は、二人の家からは森に遮られて見えないが、強い電磁波はこの基地局が発生源である可能性が濃厚だった。たまたま基地局の近くで子供が遊んでいたので、

「頭痛や吐き気に襲われることはないか?」

と、聞いてみた。子供らは、「いいえ」と答えた。

◆自宅の周りに巨大な金属フェンス-電子レンジの状態

Bさん宅の玄関から5メートルのところに廃材置き場がある。Bさん宅の敷地と廃材置き場は、金属フェンスで仕切られている。廃材置き場の地形が入り組んでいて、Bさん宅はちょうど「コの字」金属フェンスに囲まれた中央部に位置している。金属は電磁波を反射するので、基地局から放射されるマイクロ波は、金属のフェンスに反射して、Bさん宅を直撃している可能性があった。ただし、Bさんの夫は特に体の不調はないとのことだった。

Aさん宅もそれに近い位置関係になる。

「コの字」型の金属フェンスと電磁波の関係について、わたしは電磁波問題に詳しい大学の専門家に問い合わせた。グーグルの航空写真で現地を確認してもらいコメントをもらった。

「巨大な電子レンジの中で生活しているような状態になっている」

わたしはAさんとBさんに、基地局を所有する電話会社と撤去の交渉をするように勧めた。二人は電話会社に苦情を申し入れたが、電話会社は総務省の規制値を守って操業しているので、対策するに及ばないと相手にしなかった。

◆顕著な被害妄想が現れた

その後、わたしはAさんとBさんから断続的に聞き取り調査を続けた。そのうちに2人とも奇妙な事を口にするようになった。Aさん宅とBさん宅に隣接するCさん(わたしは面識がない)が、夜になると殊更に荒々しく窓を閉めたり、騒音を出したりして、「自分たちを攻撃している」と言うのだった。

植木の鉢も壊されたので、警察に相談したが、相手にしてもらえなかったという。Bさんの方は、体調不良で自宅に住めなくなり、ホテルへ「避難」することが増えているという。実際、わたしに、

「どこか電磁波から逃れられる施設はありませんか」

と、尋ねてきた。

「福島県にありましたが、今はコロナで閉鎖されています」

ふたりの症状はさらにエスケレートした。Aさんは、

「自宅へ戻ってくると、見知らぬ男が投光器で光を放射したり、大声で怒鳴りちらしたりします。部屋の中をのぞかれたこともあります。嫌がらせの電話もかかってきます」

と、話す。

Bさんも同じような妄想めいた内容の苦情を打ち明けた。わたしは、2人の訴えを電話で繰り返し聞いた。その口調から、ウソを話しているとは思えなかった。

AさんとBさんのどちから1人だけに、「妄想」が現れているのであれば、マイクロ波と妄想の接点は弱いが、隣同士の2人が「妄想」を訴えているわけだから、マイクロ波が原因である可能性も考慮する必要があった。タブーに近いテーマを本稿で事例を紹介したゆえにほかならない。

それにわたしは他にも類似したケースを取材したことがあった。たとえば鎌倉市の事例では、男性が「夜になると、基地局からものすごい音がする」と訴えていた。基地局からは、低周波音はですが、「ものすごい音」というほどではない。従って男性の話は、マイクロ波による「妄想」の可能性があった。男性の妻は、音については否定していた。夫妻のうち男性にだけ「妄想」が現れたことになる。

米軍が所有するマイクロ波の武器

◆マイクロ波で精神を攪乱する技術
 
マイクロ波が人間の精神を攪乱することは、昔からよく知られている。この点に着目して、マイクロ波を使った武器の開発が進められてきた。たとえば1977年2月に発行された『軍事研究』に興味深い記事が掲載されている。短いものなので、全文を引用してみよう。

ソ連マイクロ波兵器を開発

国防総省報告によると、ソ連は現在、人間の行動を混乱させたり、精神障害や心臓発作を起こさせるマイクロウエーブ(極超短波)兵器を開発中である。

同報告はさらに、ソ連はすでにマイクロウエーブやその他の波長の電波による人体への科学的作用や脳機能の変化を実施しており、マイクロウエーブの照射によって、敵の外交官や軍部高官の思考を狂わすことを狙っているようだ。

すでにソ連はさきにモスクワの米大使館にマイクロウエブ照射を行って情報収集電子機器を狂わせ、米国務省から抗議を受けている。

また、英国BBCは、「米外交官らがキューバで体調不良、マイクロ波攻撃の可能性=米報告書」(2020年12月20日)と題する次のような記事を掲載している。

米外交官らがキューバで体調不良、マイクロ波攻撃の可能性=米報告書

キューバでアメリカの外交官らが原因不明の体調不良を訴えたのは、マイクロ波に直接さらされたのが原因だった可能性が高いと、米政府が報告書で明らかにした。

米国科学アカデミーがまとめた報告書は、マイクロ波を誰が発していたのかは特定していない。

ただ、50年以上前に当時のソヴィエト連邦が、パルス無線周波エネルギーの効果を研究していたと指摘した。

この体調不良は2016~2017年に、キューバの首都ハバナのアメリカ大使館職員に最初にみられた。

◆「妄想」を取材対象に

マイクロ波を使って精神を攪乱したり体調の異変を誘発する技術は、すでに完成していると言われている。マイクロ波で敵地を軍事攻撃したり、デモ隊を解散に追い込む戦略も実現可能になっている。マイクロ波で、激しい吐き気を引き起こしたり、戦意を喪失させたりする戦略である。

AさんとBさんに見られる「妄想」が、本当に携帯電話基地局からのマイクロ波によるものかどうかは現時点では判断できない。しかし、「妄想」が現れている人を指して、単純に「精神の病」と判断することは避けなければならない。マイクロ波が影響している可能性もあるのだ。

以前、わたしは「妄想」を訴える人は、電磁波問題の取材対象から外していたが、最近は、積極的に取材する方針に変えた。精神疾患が原因で「妄想」が現れたのか、それともマイクロ波が原因で精神疾患になったのかは分からないからだ。

今後も、この問題の推移を追っていきたい。

▼黒薮哲哉(くろやぶ・てつや)
ジャーナリスト。著書に、『「押し紙」という新聞のタブー』(宝島新書)、『ルポ 最後の公害、電磁波に苦しむ人々 携帯基地局の放射線』(花伝社)、『名医の追放-滋賀医科大病院事件の記録』(緑風出版)、他。
◎メディア黒書:http://www.kokusyo.jp/
◎twitter https://twitter.com/kuroyabu

タブーなきラディカルスキャンダルマガジン 月刊『紙の爆弾』2022年11月号
黒薮哲哉『禁煙ファシズム-横浜副流煙事件の記録』

あさま山荘事件から50年後に考える「連合赤軍問題の本質」〈前編〉 暴力について「深く」思考するためのシンポジウムと書籍 小林蓮実

「武装闘争や内ゲバをどのようにとらえるのか」。それは、おそらく関係者も、もちろんわたしたちにとっても、明確な答えを出しにくい問いであるのかもしれない。

2022年6月18日、「あさま山荘から50年─シンポジウム 多様な視点から考える連合赤軍」と題されたイベントが開催され、会場である目黒区中小企業センターホールに多くの人が集まった。わたしは成り行きで受付の(役に立たない)手伝いをしていたが、客層は老若男女、多様だ。

このイベントでは、大学1年生の安達晴野さんからの暴力に関する質問に対し、岩田さんは「正義が勝つのでなく、世の中は勝った者が正義をつくっている」と、ガンディーに触れたことに対し、金廣志さんは「暴力についてはいちばん悩んできた。我々は暴力をなくすための暴力と考えていた」「歴史上、システムがチェンジする時に暴力が行使されなかったことはない」「本当にそんな暴力はあるのか、いまだに解決がつかない。あなたたちも一緒に考えてほしい」と答えていた。

さらに安達さんがガンディーは非暴力・不服従を訴えたことに触れ、暴力に異論を唱える。それに対し、金さんは「ガンディーのインドが世界で最も軍事大国の1つであることを含め、我々は暴力についてもっと深く考えたい」「非戦を語り続けること以外に、どうやって未来社会がつくれるんだということが、一応、わたしの建前上の考え」と返した。これらのことが、わたしにとっては特に印象に残ったことだ。

ガンディーは非暴力で御しやすかったからイギリスが評価したという内容の、アメリカの監督が描いたドキュメンタリー映画を観たことがある。非暴力を訴え続けるだけで争いがなくなるという形に、現在、なっていない。また、日常的に暴力にさらされ、報道もなされ続けている。

戦争や暴力が身近に語られるなか50年の節目にあたり、今回の前編と次回の後編を通じ、改めて連合赤軍の問題について考えたいと思う。(以下、敬称略)

シンポジウムにて、若者からの質問に当事者が答える様子
 
椎野礼仁・著『連合赤軍事件を読む年表』(ハモニカブックス)

◆時系列で「連赤」の真実を追う

1月10日、『連合赤軍を読む年表』(椎野礼仁・著/ハモニカブックス)が発行された。本書は、長年にわたる「連合赤軍の全体像を残す会」の活動や発行媒体などをもとに、50年の節目に向け、改めて発刊されたものだ。

連合赤軍は共産主義者同盟赤軍派と京浜安保共闘革命左派によって結成され、1971~72年に活動。革命左派は山岳ベースを脱走した2名を「処刑」し、連合赤軍としても山岳ベースではメンバー29名中12名の命を奪った。また、72年にはあさま山荘で人質をとって立てこもり、機動隊員2名、民間人1名も死にいたったのだ。

本書では、題名通り年表形式で、新左翼運動、革命左派・赤軍派、社会状況、警察・メディアの動きなどを追っている。メンバーが運動に参加するようになった背景・きっかけ、永田が川島に性的暴行を受けていたこと、永田と坂口の結婚、上赤塚交番襲撃時に警官による発砲でなくなった柴田のための救援連絡センター主催による人民葬、アジトの様子、最初の「処刑」決定に関する永田と坂口の記憶の食い違い、「処刑」に対する森の反応、森の論理や革命左派と赤軍派とのヘゲモニー争い。そんな内容から始まる。

次に、「連合赤軍の成立と『総括』」という章が立てられており、永田の女性問題への関心が批判へと結びついていく様子やセクハラ問題の対処から暴力への展開などが読みとれるのだ。また、「共産主義化」という方法論の登場、暴力に対する尾崎の感謝の言葉、その他、総括を要求される各人の反応、死亡者が出た際の周囲の反応などが、立て続けに記されている。さらに、逮捕時の永田の心境にも触れられていた。

続く「あさま山荘の10日間」の章では、坂口の、「敵から政治的主張を言えといわれたことで『政治的敗北をヒシヒシと感じざるを得なかった』」というような内面も吐露される。あさま山荘で人質にされた女性は、「銃を発砲しないで下さい! 人を殺したりしないで下さい! 私を楯にしてでも外に出て行って下さい」と叫ぶ。そして、妻を人質に取られた管理人の思いや坂東の父の自殺にも触れていた。この短い章の間にも、ドラマチックな展開を感じてしまう。

次回の後編では、続きの内容を追った後、わたしがイベントや本書を通じて考えた暴力に関する考えを伝えたい。(つづく)

▼小林 蓮実(こばやし・はすみ)
1972年生まれ。フリーライター。『現代用語の基礎知識』『週刊金曜日』『紙の爆弾』『NO NUKES voice(現・季節)』『情況』『現代の理論』『都市問題』『流砂』等、さまざまな媒体に寄稿してきた。労働・女性運動を経て現在、農的暮らしを実現すべく、田畑の作業、森林の再生・保全活動なども手がける。取材等のご相談も、お気軽に。
Facebook https://www.facebook.com/hasumi.koba

『抵抗と絶望の狭間 一九七一年から連合赤軍へ』(紙の爆弾 2021年12月号増刊)
『一九七〇年 端境期の時代』

《書評》『紙の爆弾』11月号 圧巻の中村敦夫インタビューと特集記事 「原罪」をデッチ上げ、「先祖解怨」という脅迫的物語を使う統一教会の実態 横山茂彦

まずは巻頭の中村敦夫のインタビュー(書き起こし)が圧巻だ。『紙の爆弾』11月号、この巻頭記事だけのために買ってもお得である。

部分的には知っていたが、中村氏は70年代から統一教会(歴史的記述なので、統一教会名で統一する)に関心を払い、テレビのワイド番組で警鐘を鳴らしてきた一人だ。ために、協会側から刑事告訴もされている(不起訴)。

中村氏は70年代の黒板講話に触れている。正確には70年代後半(78年ごろ)からだが、原理研が街頭に小さな黒板を持ち出して、共産主義の「原理」「悪魔性」を解説・批判するというものだ。もちろん漫画的な共産主義論だった。

筆者も通っていた大学のある駅前で、この黒板講話に議論を挑んだことがある。サンシモンやフーリエの社会主義思想はもとより、バブーフやマルクス、エンゲルスの一語も読んだことのない彼ら(彼女ら)は、わたしの質問に何も答えられなかったものだ。共産主義のイロハを知らない人たちが、得意そうに「解説・批判」していたわけだ。

◆宗教は基本的に「無料」である

「原罪」をデッチ上げ、先祖解怨という脅迫的物語を使う統一教会の手法を、中村氏はこう断じる。そして「信教の自由」についても説き起こす。

「現在の報道でも、『信教の自由』に絡めて話す人が多いが、私に言わせれば、これは宗教ではない。そこに信教の自由を持ち込むことは、問題に正面から取り組むのを避けるために、あえてハードルを高めているように見える」(本文より)

つまり、宗教を騙る脅迫的な商売に、信教の自由を持ち込む愚を批判しているのだ。そもそも宗教の大半は、現実社会から生じる心の不安をやわらげる役割を持っているにすぎない。

現世の不幸を嘆き、来世の幸福を祈念するのもいいだろう。ただしそれは、庶民が満足に文字を読めなかった時代とはちがい、本やビデオなどを媒介に得られるようになった現代において、ほぼ無料でなければおかしい。

高僧や導師、牧師の説教を聴くのも、大半は無料である(寺院の講話会や教会のミサ)。寺院運営のための駐車場経営や幼稚園経営、簡易な寄付やバザーなど以外に、宗教が金儲けをするのは、ほとんどすべてが詐欺なのである。※この文脈は、中村氏のものではありません(筆者)。

◆中村氏の原理的批判

さすがに中村氏は勉強家で、統一教会の教義の批判に踏み込んでいる。旧約聖書を曲解した「原理講論」がそれである。その内容が、韓国語版・英語版・日本語版で異なっている点がミソであるという。

圧倒的にキリスト教の影響がつよい韓国においては、その教義は限定的で反日的である。原罪国家とされる日本においてこそ、反共思想とむすびついて爆発的に布教が拡大したとする。その役割を果たしたのが、安倍晋三の祖父、岸信介だったのだ。

そして冷戦が終わって反共が商売にならなくなると、こんどは北朝鮮とむすびついて共和国におけるビジネス(ホテル事業)を展開する。中村氏の指摘するとおり、統一教会は思想的一貫性のある政治団体でもなく、その正体は宗教団体を装ったビジネス団体なのだ。それも会員の無償労働をもとにした、搾取と収奪、霊感詐欺商法である。ここを明確にしないと、信教の自由という隘路に迷込むことになる。
「そんな教団になびいた日本の保守政治家も、思想や政策が一致するかどうかは関係なかった」(本文より)。

ネトウヨや政治に一知半解な人々が、自民党が反日団体と手をむすぶのはおかしい。あるいは思想と政治が一致していない、などと悩んでいるのは、自民党政治を知らないからである。

剥き出しの政治の原理は「奴は敵だ。敵は殺せ」(『幻視の中の政治』埴谷雄隆)であるとともに、「敵の敵は味方」である。思想と政治が一致するなどと思っているのは、自民党右派に期待するお花畑なネトウヨレベルと指摘しておこう。

たとい思想的に正反対にある党派でも、当面の敵の前には味方というのが、自民党政治の本質なのである。そして選挙に敗れて「ただの人」にならないためには、誰とでも(暴力団や反社とでも)手をむすぶ。統一教会を積極的に取り込む。まさにこれが「選挙で圧倒的につよい」安倍政治の本質だったのだから。

最後に中村氏の推測として、安倍晋三が拉致問題の「解決」に統一教会を利用した可能性を挙げておこう。近い将来に、自民党に「切られた」統一教会側から、愕くべき真相が飛び出してくる可能性を指摘しておこう。

◆政治と宗教を議論しよう

広岡裕児の「いまこそ考える政教分離の本質」は、政治と宗教を正面から議論する必要を提起している。このテーマこそ、いま日本において煮詰めていく政治論である。

広岡氏は公明党の山口那津男代表が今回の事件を「政治と宗教一般のことに広げるべきではない」(8月1日)という言葉を冒頭にあげ、石井幹事長の記者会見(8月19日)の矛盾点を指摘する。

すなわち「国家が特定の宗教を擁護したり、国民に強制したりすることを禁じている」ことが、公明党(創価学会)において、矛盾しないのか。という論点である。

じっさいに公明党は政府(国家)に参加し、さまざまな政策を実行しているのだ。創価学会が選挙を「法戦」(宗教行為)と位置づけて戦い、その意をうけた政権与党(公明党)が支持者(創価学会=宗教団体)に有利な政策を行なうことは、まさに上記の政教分離に違反する。※広岡氏はこの部分で疑問を提起するにとどめている(筆者)。

広岡氏によれば、宗教政党には二つに分類できるという。

ドイツやフランスのキリスト教民主主義政党においては、多元主義(政治的な人権・博愛主義)を基礎に、キリスト教会が伝えようとしている価値観を推進する。社会の法が優先し、キリスト教精神はその思想的基礎にすぎないというものであろう。アメリカ大統領が聖書に手を置いて宣誓するのも、この典型である。

いっぽう、イランイスラム共和国ではイスラム教政党が政権をにぎり、アフガニスタンではタリバンが、宗教的価値観によって全体主義国家を形づくっている。だがこれは「キリスト教とイスラム教の違いではない。この二種類はどんな宗教にもある」(本文から)という。

ところで公明党においては、いまだに池田大作の「池田精神」が「社会の法」に優先すると広岡氏は指摘する。そこから「(宗教)政党が権力を掌握するにあたっては、大小新旧教義を問わず、すべての宗教を認めたうえで宗教とは距離を置かなければならない。これが政教分離の本質ではないか」と提起する。

対立宗派である日顕派を認めない創価学会(公明党)に宛てた提起だと、筆者は深読みした。まさしく、政治と宗教を本気で論じなければならない時代なのだ。

さて、その公明党の代表が大方の予想をくつがえす、山口那津男の続投(8期連続)となった。その裏側には何があったのか。大友友樹のレポートが興味ぶかい。熊野議員のセクハラ問題の隠ぺい、創価学会内の山口人気への池田会長の判断など、こちらも火種は少なくないようだ。

▼横山茂彦(よこやま・しげひこ)
編集者・著述業・歴史研究家。歴史関連の著書・共著に『合戦場の女たち』(情況新書)『軍師・官兵衛に学ぶ経営学』(宝島文庫)『闇の後醍醐銭』(叢文社)『真田丸のナゾ』(サイゾー)『日本史の新常識』(文春新書)『天皇125代全史』(スタンダーズ)『世にも奇妙な日本史』(宙出版)など。

タブーなきラディカルスキャンダルマガジン 月刊『紙の爆弾』2022年11月号

『紙の爆弾』2022年 11月号
目次
中村敦夫が語る50年 旧統一教会「口封じ」の手法
旧統一教会問題が選挙に与えた衝撃 沖縄県知事選で白旗を上げた自公政権
メディアに“逆ギレ”する議員たち 旧統一教会信者たちが語った自民党議員への怒り
特集●すでに進んだ日本の「戦時体制」
「防衛費」を積み上げてつくる「基地の島」
法律からみた安倍・菅・岸田の戦争準備
米国覇権を超克する「真の安全保障」
東京五輪汚職捜査はどこまで進展 自壊する岸田文雄政権
政党交付金の要件を満たしているのか 統一協会より「自民党の解散」こそ急務
巨大製薬企業に国家予算流出 政府に阻害された「日本製ワクチン」
「政治と宗教」問題の防波堤 公明党・山口那津男代表続投の裏側
「政治と宗教」そして民主主義 いまこそ考える「政教分離」の本質
スウェーデンの新聞が報じた米国の「ドイツ・EU弱体化のためのウクライナ戦争」謀略
「女性蔑視」でトヨタにも古傷が 香川照之“性加害”騒動の波紋
シリーズ 日本の冤罪31 飯塚事件
連載
あの人の家
NEWS レスQ
コイツらのゼニ儲け 西田健
「格差」を読む 中川淳一郎
ニュースノワール 岡本萬尋
シアワセのイイ気持ち道講座 東陽片岡
キラメキ★東京漂流記 村田らむ
裏から世界を見てみよう マッド・アマノ
権力者たちのバトルロイヤル 西本頑司
元公安・現イスラム教徒 西道弘はこう考える
まけへんで!! 今月の西宮冷蔵
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『紙の爆弾』最新号に寄せて 『紙の爆弾』編集長 中川志大

9月27日の「安倍国葬」には、当日まで多くの反対の声が響きました。やってしまったら終わりではなく、「反対の中、強行された」という事実を残さなければなりません。そのためには、今回集まった声を、より具体的な安倍・菅・岸田政治の検証につなげていく必要があります。

そのひとつとして、11月号では現在日本の「戦時体制」について特集を組みました。安倍政権の解釈改憲によって、憲法を改定せずとも日本が危険な状況に置かれてしまっていることを、あらためて確認するのが目的です。護憲と同時に、憲法解釈もとり戻すことが必要となっています。そもそも憲法で縛られる側である政府が勝手に解釈を変更すること自体、立憲主義の否定であり、許されないことです。そこにおいて着目すべきは、自衛隊の海外派遣による「戦争のできる国」化だけではありません。「国民監視」の強化こそ、私たちがいま、もっとも危険視すべきことではないかと考えます。

さらに「GDP2%」目標は、実現すれば米国・中国につづく世界第3位の軍事予算。金額ありきなのは、すなわち増加分が、米国の軍産複合体への貢献だからです。その米国は、ウクライナ戦争で儲けつつ、11月の議会中間選挙に向けて「台湾政策法案」など、中国煽動も強めています。中国に対しても「力による現状変更」という言葉を使い始めていますが、仮に台湾有事において米国が出兵することがあれば、米国の立ち位置はロシアのそれであり、米国に協力する日本はベラルーシの役割を演じることになる、という指摘があります。あらためて反戦と日本の安全保障について考えなければなりません。本誌特集は、その一助となるものです。

連日報道が続く旧統一教会(現・世界平和統一家庭連合)の問題については、霊感商法被害、二世信者の問題、政界との癒着など内容は多岐にわたりますが、それらが今に始まった問題ではない以上、現在においてもっとも考えるべきテーマは「なぜ問題が放置されてきたのか」です。今月号では1993年にテレビでの発言で教会から刑事告訴を受け、98年には参院議員として国会で追及した中村敦夫氏に話を聞きました。一方、週刊文春(9月29日号)が小川榮太郎氏について報じた「岸田首相に国葬を決断させた統一教会“弁護人”」をはじめ、“保守派”の正体にも注目が集まっています。これも、注目すべきひとつのテーマといえるのではと思っています。もちろん、旧統一教会は日本進出において、右翼勢力と深い関わりを持ってきました。それと、現在の“保守派”の関係も気になるところです。

さらに今月号では、新型コロナワクチンについて記事を掲載しました。とくに、「国産ワクチン」開発が政府により阻害され、巨大製薬企業に日本の富を流出させてきた事実に焦点を当てています。そこからワクチン広域接種の“目的”が見えてきます。厚生労働省がワクチン効果に関するデータを改ざんしていたことをレポートした8月号記事とあわせてお読みいただければ幸いです。新ワクチンなど接種推進がここにきて加速するなか、ワクチンそのものについての分析も、さらに必要性が増しています。その他にも多様なレポートを盛り込み、「紙の爆弾」は全国書店にて発売中です。ご一読をよろしくお願いいたします。

『紙の爆弾』編集長 中川志大

タブーなきラディカルスキャンダルマガジン 月刊『紙の爆弾』2022年11月号

『紙の爆弾』2022年 11月号
目次
中村敦夫が語る50年 旧統一教会「口封じ」の手法
旧統一教会問題が選挙に与えた衝撃 沖縄県知事選で白旗を上げた自公政権
メディアに“逆ギレ”する議員たち 旧統一教会信者たちが語った自民党議員への怒り
特集●すでに進んだ日本の「戦時体制」
「防衛費」を積み上げてつくる「基地の島」
法律からみた安倍・菅・岸田の戦争準備
米国覇権を超克する「真の安全保障」
東京五輪汚職捜査はどこまで進展 自壊する岸田文雄政権
政党交付金の要件を満たしているのか 統一協会より「自民党の解散」こそ急務
巨大製薬企業に国家予算流出 政府に阻害された「日本製ワクチン」
「政治と宗教」問題の防波堤 公明党・山口那津男代表続投の裏側
「政治と宗教」そして民主主義 いまこそ考える「政教分離」の本質
スウェーデンの新聞が報じた米国の「ドイツ・EU弱体化のためのウクライナ戦争」謀略
「女性蔑視」でトヨタにも古傷が 香川照之“性加害”騒動の波紋
シリーズ 日本の冤罪31 飯塚事件
連載
あの人の家
NEWS レスQ
コイツらのゼニ儲け 西田健
「格差」を読む 中川淳一郎
ニュースノワール 岡本萬尋
シアワセのイイ気持ち道講座 東陽片岡
キラメキ★東京漂流記 村田らむ
裏から世界を見てみよう マッド・アマノ
権力者たちのバトルロイヤル 西本頑司
元公安・現イスラム教徒 西道弘はこう考える
まけへんで!! 今月の西宮冷蔵
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ピョンヤンから感じる時代の風〈08〉 歴史教育における「日米統合」とは?  森 順子

高度情報化、グローバル化時代を担うグローバル人材育成を目的とする教育改革のもと、今年、4月から新教科書が使われ、新しい教育としてスタートした。

歴史教育は、「歴史総合」という新科目が、高校の必修となった。戦後の歴史教育の大きな転換になる可能性を秘めていると言われるこの科目は、これまでとは全く違う学び方という意味では、歴史教育の基本となる科目だ。

教科書の執筆者の一人である歴史学者の成田氏は、このように言われている。

「これまで世界史と日本史に分かれていた歴史科目を、18世紀以降の近代史として、『総合』した形として学ぶ新科目です」また「これまでの日本史の教科書のような、一国だけの歴史(ナショナルヒストリー)ではない。日本と世界をグローバルヒストリーとして学ぶことに主眼がある」そして「世界的な相互関係のダイナミズムから歴史をとらえます」と。

すなわち、「歴史総合」新科目は、歴史を日本史としては教えず、18世紀以降からの世界史として、「近代化」「国際秩序の変化」、「大衆化」、「グローバル化」の3編からなるテーマ史として教えるようになっている。

ここで問題は、歴史を日本史としてではなく、世界史としてとらえていることである。

言い換えれば、歴史を日本と世界の歴史、グローバルヒストリーとしてとらえると言いながら、その基軸を、どこまでも日本ではなく、世界に求めているということだ。

現在、「米中新冷戦」体制下にある日本に求められているのは、米国との「統合」である。そして、そのための教育改革が推進されているなかにあって、「歴史総合」科目は、自分の国を基本にして見る歴史を、世界を基軸にみる歴史にとらえ直して、教える教科だと言っているが、この意味するものは、何なのだろうか。

日本の歴史を日本独自の歴史ではなく、世界史の一環として見るというこの見方は、日本の独自の歴史、日本の歴史事実をなくしてしまうということではないのだろうか。教科書検定において、過去、日本がアジアで犯した植民地支配という行為に対して、その歴史事実を歪曲する教科書を合格させ、隣国、アジアに対する蔑視と軽視の立場を教科書に載せた。ちなみに欧米は、自己の植民地支配の歴史を全く総括していない。このことをとっても、歴史教育改革とは、何であるかが示されているのではないだろうか。それは、歴史の基軸を自国に置かず、とくに、欧米、近代史に置くことにより、日本の歴史、「日本史」を欧米史のなかに溶解させ、自分の国という観点を持たない人材、そういうグローバル人材育成のための歴史教育だと言えると思う。

すなわち、これが、日本を米国に「統合」するための教育改革だと言える。「英語とIT技術」を身に付けるだけでなく、日本人としての帰属意識やアイデンテイテイを持たない人材、無国籍のグローバル人材を育て、日本人の内面的側面をも溶解させアメリカ化するというではないだろうか。

 
森 順子『いつまでも田宮高麿とともに』(2002年7月鹿砦社)

新科目「歴史総合」は、「戦後の歴史教育の大きな転換の可能性を秘める」と言っているが、まさに、こういうことかもしれない。

20年以上続けてきた、グローバリズム、新自由主義によって、日本の教育はどうなったのか。一番、憂慮されることは、若者が自分の国を語れず、日本人としてのアイデンテイテイを失いつつあると言われていることだ。日本人という概念があいまい化され、日本の将来に対する不安を広げ、自己肯定感のない自分に自信が持てず、そういう社会、そういう自分の国を語れなくなっているということだと思う。

自国の歴史を知らなければ、自分の国を語れずと言うが、「日米統合」のための教育改革とは、グローバリズム、新自由主義をもう一度,蘇えさせるための「統合」だということができる。それゆえ、グローバリズム、新自由主義の全面化、徹底化であり、日本の教育のアメリカ化である。そして、それは、日本人をグローバル人間に、米国人への改造だと言えるかもしれない。こんなふうになれば、真の意味で日本人はいなくなり、日本人がいなくなれば、国が無くなってしまうというしかない。これが、「日米統合」のための教育改革の核となる重要な問題として提起されているように思う。

▼森 順子(もり・よりこ)さん
1953年5月12日、神奈川県川崎市で生まれる。法政女子高等学校卒業。1978年に田宮高麿と結婚。ピョンヤン在住。「アジアの内の日本の会」会員

7日発売 タブーなきラディカルスキャンダルマガジン 月刊『紙の爆弾』2022年11月号
『一九七〇年 端境期の時代』
『抵抗と絶望の狭間 一九七一年から連合赤軍へ』(紙の爆弾 2021年12月号増刊)

この秋、噴出し続ける広島政治・行政の積年の膿 ガツンと物申す気風で大掃除を さとうしゅういち

この夏の後半から秋にかけて、広島の政治・行政の膿が噴出しています。

◆噴出する膿1 総理腹心の石橋議員ら、旧統一協会と深い関係

まず、旧統一協会問題です。この間、岸田文雄総理自身の地元の腹心ともいえる衆院議員が旧統一協会と関係が深いことが明らかになりました。

岸田総理腹心の石橋林太郎衆院議員の政治活動用ポスター。広島3区で筆者撮影

石橋林太郎衆院議員は、広島県議会議員を経て河井克行受刑者の自民党離党に伴う、広島3区の自民党広島県連の公募に応募。過去に日本維新の会の衆院議員だった方、あるいは候補者だった方を押さえて、自民党の公認候補に選ばれました。ただ、この広島3区は、自民党の不祥事で議席が失われるということで、連立与党の公明党から候補を出すことが自公の本部間で決定。比例ブロック衆院議員だった斉藤国交大臣が3区の公認候補に選ばれました。そして、衆院選2021では、石橋さんが自民党の比例中国1位で当選。斉藤国交大臣も不利という当初の下馬評を覆して3区で当選しました。

その石橋林太郎衆院議員は実はお父さんの良三さん(県議)時代から統一協会と親密でいらっしゃいました。お父さんも広島の日韓トンネル推進組織のリーダーをされていたことが、一連の「文春砲」であきらかになりました。さらに、石橋議員の腹心ともいえる読売新聞記者出身の市議も統一協会との関係が明らかになりました。ただ、これらのことは、そもそも、地元では有名だったのですが、地元のマスコミがほとんど取り上げてこなかった。それだけのことです。

◆噴出する膿2 知事の湯崎さん腹心の教育長の不祥事

そして、もう一つの膿は、筆者の元職場・広島県庁内の不祥事です。すなわち、湯崎さんが肝いりで連れてきた平川教育長による官製談合疑惑です。
(※https://www.rokusaisha.com/wp/?p=43780

平川教育長がご自分の地元・京都のNPO法人「パンゲア」を事業への公募で優遇した、というよりも「文春砲」が正しければ「教育長がお友達に県費で仕事をつくってあげた」疑惑というほうが相応しい展開になっています。

教育長ご自身は、疑惑発覚の直後には「問題ない」と木で鼻を括ったようなことを記者会見でおっしゃっていました。

しかし、追加の文春砲が出てくるにつれて、教育長は追い込まれます。そして、ついに9月中旬、「外部の専門家による調査をさせる」と約束せざるを得なくなりました。最初に「問題ない」と断言してしまってこの展開は、一番まずい展開です。

◆アンチ河井系の与党回帰で自民党が盤石に……安倍暗殺直前の広島情勢1

さて、いわゆる河井事件発覚の前、河井案里さん、そして夫の克行受刑者は、自民党広島県連主流派からは孤立しており、自民党・公明党推薦の広島県知事の湯崎さん、市長の松井さんとも関係が悪いことで有名でした。

そのため、自民党の県議や市議でも、国政選挙の時は、極端な場合「わしは河井が大嫌いじゃけん、野党候補を応援する」と半ば公言している地方議員もいらっしゃいました。その反映で広島3区を中心に、「地方選挙は自民だけど、国政は野党」という有権者の方が多かったのが広島の特徴でした。

ところが、案里さん・克行被告の失脚、そして地元の岸田総理の誕生によりそういう議員も、斉藤国交大臣支持で固まりました。かつて、日本維新の会で活動されていたような元候補者も自民党の公募に応募するような状況も起きたのです。これが、2022年7月8日の「安倍暗殺」直前の広島の情勢の特徴でした。

◆アンチ知事・市長系の議員の失脚で知事・市長の「安倍化」加速……安倍暗殺直前の広島政治情勢2

また、一方で、河井案里さんを参院選2019で応援し、なおかつお金を河井夫妻からもらっていた自民系議員には、知事の湯崎英彦さん、市長の松井一実さんに批判的な方が比較的多かったのです。

皮肉なことですが、河井疑惑の追及で、知事も市長も大助かりになった。

このお二人、とくに知事の湯崎さんは、8.6の平和記念式典のあいさつは毎年それなりに素晴らしいことでは有名です。一方で、県政の中身では問題山積です。一言でいえば「安倍化」しているのです。

筆者の家の前の高速道路5号線二葉山トンネル問題では木で鼻を括ったような対応が続いています。説明しないで逃げるというのはまさに、故・安倍晋三さんうりふたつです。

産廃処分場問題では全国でも、大甘の姿勢が目立ちます。実はいわゆる産廃税は導入していますが、立地を規制するような条例がないために、効果は限定的なのです。(https://www.pref.hiroshima.lg.jp/site/zei/1177301663057.html

その結果、安佐南区で産廃処分場を外資が購入して大幅拡張したり、三原市では水源地のど真ん中に平気で処分場が許可されたり、ということが起きています。外資など企業のやりたい放題に大甘。まさに安倍晋三さんそのものです。

◆「河井にはそれなりに厳しく、知事・市長に甘い」広島のマスコミ・野党第1党は反省を

しかし、なぜ、こんなことになってしまったのか?

政策論議不在の広島の政治の構造については、筆者はこの12年間、ずっと街頭などで訴えてきました。政策論議が不在だから、「河井夫妻のようなお金か」、「総理、知事、市長のような組織か」の政治になってしまうのです。

そして、その構造の責任の一端は、広島のマスコミにもある、と筆者はみています。

すなわち、以前から、広島県内各社の姿勢は、自民党広島反主流派であった河井案里さん克行受刑者に対してはそれなり厳しいけれども、岸田総理や知事の湯崎さん、市長の松井さんに批判的な報道はほとんど見られません。

なお、安倍晋三さんに対しては、その政治姿勢や2度の水害時の危機管理に対してそれなりに批判的な姿勢もあったように記憶しています。

確かに、露骨に金をばらまいた河井夫妻=広島自民反主流派は最悪の金権政治家ではある。しかし、一方で、河井批判の陰で旧統一協会を含む組織がちがちの政治をやってきた総理、知事、市長ら自民系主流派の問題点の追及がおろそかになったのではないでしょうか?

野党も広島の場合、野党第1党は事実上、労働者のほんの一部でしかない重厚長大大手企業の労働組合のための党であり、知事や市長の議案に反対することはほとんどありません。したがって、知事や市長の問題点を街頭などで訴えるのも日本共産党さんと筆者くらいです。最近では、社民党さんもそれなりに街宣をがんばっておられるようですが。マスコミや野党第1党の知事や市長に対して腰が引けた対応という要因が解消されないと、今後もまた、膿がたまっていくことでしょう。

◆とにかく総理、知事、市長にガツンとモノ申し続けよう!

こうした中、筆者は、9月16日朝、広島市安佐南区中筋駅で街宣(文末写真左)。

「多くの方を苦しめた旧統一協会の広告塔になった安倍さんの国葬はおかしい。国もせっかく、旧統一協会問題電話相談をしているのに、安倍さんを国葬で持ち上げたら統一協会の宣伝になってしまい、逆効果だ。」

「安倍さんは河井事件では、1.5億円の最終責任者なのに最後まで何も語らないで亡くなってしまわれた。亡くなられたことはお悔やみするが、何も説明責任を果たさなかったのは許しがい。2014の大水害ではゴルフ、2018の大水害では宴会やカジノ法案優先という、まずい危機管理で広島県民に迷惑をかけた方だ。」
と指摘しました。

広島県知事の湯崎英彦さんに対しても、「湯崎さんがそういう人の国葬とやらに参加するのも納得できない。いま、県議会開会中なのだし、それこそ、統一協会で苦しんでいる特に2世、3世などの方を救う追加の補正予算とか検討されてはどうか?」と水を向けました。

生前、不祥事も多く、さらに広島を襲った水害時の危機管理がまずかった安倍さんの国葬強行で、いままで「岸田さんにそれなりに期待しておられた方」でも岸田さんへの失望が広がっていくのが感じられます。こうした皆様の思いにもこたえていきたいものです。

筆者は、2023年統一地方選挙・広島県議選を前に、特に元上司でもある知事の湯崎さんに対してガツンとモノ申し、海の大掃除をしていく先頭に立っていく覚悟です。具体的には、毎週日曜日に安佐南区イオンモール広島祇園前、そしてフジグラン緑井前で街宣をおこなっています(文末写真右)。当面は知事の湯崎さんの「安倍化」をただしていくとともに、国葬参加に反対、旧統一協会被害者も含む「何があっても心配しないで良い広島」を訴えていきます。

◎筆者の今後の街宣の予定

9月25日(日)10時 イオンモール広島祇園前
10月2日(日)10時 緑井フジグラン前
※以降、毎週交互にイオンモール広島祇園前と緑井フジグラン前で街宣
11月6日(日)午後 安佐南区内 勉強会 食料問題と広島 外部講師

[写真左]9月16日朝、広島市安佐南区中筋駅で街宣。[写真右]毎週日曜日に安佐南区イオンモール広島祇園前

▼さとうしゅういち(佐藤周一)
元県庁マン/介護福祉士/参院選再選挙立候補者。1975年、広島県福山市生まれ、東京育ち。東京大学経済学部卒業後、2000年広島県入庁。介護や福祉、男女共同参画などの行政を担当。2011年、あの河井案里さんと県議選で対決するために退職。現在は広島市内で介護福祉士として勤務。2021年、案里さんの当選無効に伴う再選挙に立候補、6人中3位(20848票)。広島市男女共同参画審議会委員(2011-13)、広島介護福祉労働組合役員(現職)、片目失明者友の会参与。
◎Twitter @hiroseto https://twitter.com/hiroseto?s=20
◎facebook https://www.facebook.com/satoh.shuichi
◎広島瀬戸内新聞ニュース(社主:さとうしゅういち)https://hiroseto.exblog.jp/

タブーなきラディカルスキャンダルマガジン 月刊『紙の爆弾』2022年10月号
〈原発なき社会〉を求めて集う 不屈の〈脱原発〉季刊誌 『季節』2022年秋号(NO NUKES voice改題 通巻33号)

米国のNED(全米民主主義基金)、ロシア国内の反政府勢力に単年で19億円の資金援助、フェイクニュースの制作費? 黒薮哲哉

米国CIAの別動隊とも言われるNED(全米民主主義基金)が、ロシアの反政府系「市民運動」やメディアに対して、多額の資金援助をしていることが判明した。

 
出典=ベネズエラのTelesur

NEDがみずからのウエブサイトで公表したデータによると、支援金の総額は、2021年度だけで約1384万ドル(1ドル140円で計算して、約19億4000万円)に上る。支援金の提供回数は109回。

米国がロシア国内の「市民運動」とメディアに資金をばら撒き、反政府よりのニュースや映像を制作させ、それを世界に配信させている実態が明らかになった。ウクライナ戦争やそれに連動したロシア内部の政情を伝える報道の信頼性が揺らいでいる。ウクライナ戦争は、メディアと連携した戦争とも言われてきたが、その裏側の疑わしい実態の一部が明らかになった。

良心的なジャーナリストさえ情報に翻弄されている可能性がある。

NEDは、メディアを対象とした資金援助に関して、たとえば次のように目的を説明している。

▼高品質の調査ジャーナリズムに一般の人々がアクセスできる機会を増やすと同時に、そのような報道の存在を広く知らしめる。地域や国際機関による報告に焦点をあてた調査ジャーナリズムを遂行する。その目的を達成するために、デジタルコンテンツを作成する。

▼地域ジャーナリズムの発展を支援し、重要な政治や社会問題に関する独立したニュース源の分析結果を公衆に提供する。 コンテンツは、一般市民に影響を与える政治情勢の展開や人権侵害に対する市民活動などのトピックに焦点を当てたビデオ形式を含み、定期的にオンラインやSNSで発信する。

一方、ロシアの「民主化運動」に対する資金提供については、たとえば次のように目的を説明している。

▼活動家、政治家、公共思想のリーダーを繋ぐネットワークを強化し、ロシアの民主的発展のための国際支援を提唱する。 政治と時事問題に関する専門家による分析を実現する。 客観的で事実に基づいた報告とそれを裏付ける証拠は、(注:ロシア政府が)偽情報キャンペーンで使う中心的な筋書きを正すために使用する。 出版物を世に出し、著者と共に定期イベント、公開プレゼンテーション、各種の集会を開く。それにより、重要な発見事項をテーマとした公開討論を促進する。

▼ロシアの民主化運動を地球規模の連帯で促進する。ヨーロッパの政治家やオピニオンリーダーと活動家の間でネットワークを強化する。 国内の信頼できる独立した情報源を提供して、(注:ロシア政府の)プロパガンダに対抗する。

※以上の出典 https://www.ned.org/region/eurasia/russia-2021/

これらの資金援助の性質から察すると、「市民運動」が反政府運動を展開して、それをメディアが発信する共闘関係が構築されていると想定される。独立系メディアの独立性にも疑問符が付くのである。歪んだニュースが巧みに制作されている可能性が高い。

実際、NEDに関する白書類の中には、「市民運動」のメンバーにNED資金が日当として支払われているという情報もある。たとえば中国外務省が、今年の5月に公表したNEDについての報告(ファクトシート)は、ウクライナにおける「市民運動」について次のように報告している。

2013 年、ウクライナで大規模な反政府デモが起きた。その際にNED は多額の資金を提供して、国内で活動をしている NGOの65団体の活動家、一人ひとりに賃金を支払った。

NEDが絡んでいる国の「市民運動」や独立系メディアの情報は慎重に見極めなければならない。「市民運動」の資金源を確認する必要がある。

◆NEDとラテンアメリカ諸国

今回、明らかになったNEDによるロシアへの約1384万ドルの援助額は、他諸国の反政府運動への資金援助に比べて桁はずれに多額だ。たとえば、下のグラフは、ラテンアメリカ諸国に対するNEDの支援額を示している。

ラテンアメリカ諸国に対するNEDの支援額

最も高額なのは、キューバの反政府勢力に対する支援で、470万ドル(2018年度)である。ロシアへの支援額約1384万ドルはその金額の3倍近くになっている。

◆口実は、他国の「民主主義」を育てること

全米民主主義基金(NED)は、1983年に米国のレーガン政権が設立した基金である。表向きは民間の非営利団体であるが、支援金の出資者はアメリカ議会である。米国民の税金である。

NED設立の目的は、他国の「民主主義」を育てることである。親米派の「市民運動」や特定のメディアなどに資金を提供することで、親米世論と反共思想を育み、最終的に親米政権を設立することを目的としている。その意味では、ウクライナを舞台に展開している代理戦争の裏側で、メディアを巻き込んだこうした戦略が展開されていることに不思議はない。報道されていないだけで、米国による内政干渉の手はロシア国内に延びているのだ。

かつて米国の対外戦略は、軍事力による他国への軍事進行やクーデターを主体としていた。しかし、ベトナム戦争での敗北を皮切りに、その後も軍事作戦の失敗が相次いだ。民主主義に対する国際世論の高まりの中で、米国内でも軍事作戦が批判の的になり始める。そこで従来の直接的な軍事作戦に代って「代理戦争」に切り替える傾向が生まれ、さらにはNEDを通じた「市民運動」や独立系メディアの育成により、他国の内政を攪乱したうえで、クーデターなどを試みる戦略が浮上してきたのである。

NEDについて西側メディアはほとんど報じていないが、非西側諸国では、その行き過ぎた活動が内政干渉として強い反発を招いている。ロシアのケースも同じ脈絡の中で検証する必要がある。マスメディアの情報を鵜呑みしてはいけない。

◎[参考記事]米国が台湾で狙っていること 台湾問題で日本のメディアは何を報じていないのか? 全米民主主義基金(NED)と際英文総統の親密な関係 

▼黒薮哲哉(くろやぶ・てつや)
ジャーナリスト。著書に、『「押し紙」という新聞のタブー』(宝島新書)、『ルポ 最後の公害、電磁波に苦しむ人々 携帯基地局の放射線』(花伝社)、『名医の追放-滋賀医科大病院事件の記録』(緑風出版)、他。
◎メディア黒書:http://www.kokusyo.jp/
◎twitter https://twitter.com/kuroyabu

黒薮哲哉『禁煙ファシズム-横浜副流煙事件の記録』
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冤罪を訴え、最高裁に上告中 ──「川崎老人ホーム連続転落死事件」死刑被告人との対話〈後編〉 片岡 健

2014年に起きた「川崎老人ホーム連続転落死事件」では、同施設の介護職員だった今井隼人被告(29)が勤務中、80~90代の入所者3人を各居室のベランダから転落させ、殺害したとして一、二審共に死刑判決を受けた。しかし、無実を訴える今井被告は、現在も逆転無罪を諦めておらず、最高裁に上告中だ。

今井被告は本当にこの事件の犯人なのか。前編に引き続き、筆者が東京拘置所で今井被告と面会し、本人から聞き取った無実の訴えについて、事実関係に照らしながら紹介する。

◆自白が嘘なら、なぜ客観的事実に整合したのか?

今井被告の裁判の最大の争点は、捜査段階の自白が信用できるか否かということだ。

前編では、自白した理由に関する今井被告の説明には、とりあえず合理性があることをお伝えした。だが一方で、今井被告が自白した取り調べは録音録画されており、しかもその自白内容は客観的事実とよく整合している。

たとえば、仲川さんの事件について、今井被告は「仲川さんの部屋にあったパイプ椅子をベランダに持ち出し、その上に仲川さんを立たせたうえで転落させました」と自白しているが、実際に4階のベランダにはパイプ椅子が転がっていた。今井被告が本人の主張するように本当に無実なのであれば、なぜ、このような客観的事実と整合する自白ができたのか。

筆者がその点を質すと、今井被告は指を2本立て、「このような自白になった理由は2つあります」と言い、こう説明した。

「1つは、勤務中に仲川さんの部屋に入ることもあり、室内にパイプ椅子があったのを覚えていたことです。そしてもう1つは、仲川さんが亡くなった際に第一発見者に呼ばれ、ベランダに行って下を見た時、視界に“椅子っぽい物体”が入っていたことです。それで、取り調べでは最初、『仲川さんを“茶色い木の椅子”に立たせました』と供述したのですが、刑事に誘導され、最終的に『黒っぽいパイプ椅子に立たせました』と供述したのです」

この今井被告の説明については、納得しかねる読者もいるだろう。しかし、無実の被疑者がやってもいない容疑を自白する場合、自分が知っている情報をもとに「自分が犯人だったらどうするか」と想像しながら、やってもいない犯行を供述するのが一般的だ。今井被告の話は、冤罪における虚偽自白でいかにもありそうな話ではある。

一方、1人目の被害者・丑沢さんについて、今井被告は「丑沢さんを転落させた際には、丑沢さんの手を持ち、ベランダの柵に手をかけさせた」と自白している。そして実際、ベランダの柵には丑沢さんの指掌紋が付着しており、自白の内容がやはり客観的事実に裏づけられた形となっている。

今井被告はこの点について、こう説明した。

「僕は、丑沢さんが亡くなった時、警察の人たちが現場を調べていたのを見ていたのです。その時、『捜一』という腕章をした人がベランダの柵にポンポンと白い粉をつけていたので、丑沢さんの指掌紋がベランダの柵についていることがわかりました。それに合わせて、そういう自白をしたのです」

さらに今井被告はこう説明した。

「僕の自白は、犯人でなければ知りえない秘密の暴露はなく、供述心理学者の鑑定でも『犯行を体験していない可能性が高い』と判定されています。僕の自白は、あの施設の介護職員なら誰でも語れる内容なのです」

実際、一、二審判決を見ても、今井被告の自白の中に「秘密の暴露」にあたる供述があったとは示されていない。今井被告の話には、無下に否定しがたい説得力があるのは確かだ。

今井被告が収容されている東京拘置所

◆犯行予告のような発言をしたされる件の真相

ただ、裁判では、今井被告について、他にも怪しげな事実が示されている。

1人目の被害者・丑沢さんが亡くなった後、今井被告が同僚に対し、2人目の被害者・仲川さんや3人目の被害者・浅見さんが亡くなることを予見するような発言をしていたというのだ。

今井被告はこの点について、こう説明した。

「丑沢さんが亡くなった後、僕は再発防止のため、ベランダに防犯カメラをつけたり、柵を高くしたりすることを提案しました。それと共に自殺願望のようなことを口にしている危ない入所者の名前を4、5人挙げ、対策が必要だと言っていたのです。そのように名前を挙げた中に仲川さんと浅見さんもいたのです」

この今井被告の主張については、にわかに信じがたい読者もいると思われる。だが、よくよく考えると、仮に今井被告が犯人だとすれば、事前に犯行を予告するようなことを言い、疑われるリスクを高めるほうがむしろ変な話だ。

実際、一、二審判決を見ると、今井被告の主張を裏づける事実も示されている。浅見さんは事件前に「もう死にたい」「早く殺して」と口走っていたことが判明しており、丑沢さんも転落死する前、帰宅願望が高まり、「家に帰りたい」と言っていたというのだ。

これらの事実は、今井被告の主張を裏づけるのみならず、被害者たちが自ら転落死した可能性があることを示しているようにも思われる。

◆家族にも自白したのはなぜか?

もっとも、今井被告には、他にもまだ不利な事実がある。それは、警察に犯行を自白後、母親と妹にも罪を認める発言をしていることだ。

この点について、今井被告はこう説明した。

「母と妹に罪を認めたのは、取り調べの延長線上でのことです。警察で自白後、刑事から取り調べで話したことを母と妹にも話すように言われ、『やっていない』とは言えなかったのです。『やっていない』と言えば、刑事が機嫌を損ね、マスコミから守ってもらえなくなり、取り調べも元に戻ってしまうと思ったからです」

前編で既述した通り、今井被告は逮捕前からマスコミに追いかけ回され、「疑惑職員」と報じられたりもした。そして今井被告によると、刑事から「警察がマスコミから母ちゃんと妹を守ってやるから」と言われ、迎合してしまったことが、身に覚えのない罪を自白した理由の1つであるとのことだった。とりあえず、説明の辻褄は合っている。

だが、自白したら死刑などの重い罪になることはわからなかったのか? そう質すと、今井被告は、こう答えた。

「自白した時は、そこまで深く考えられませんでした。死刑とか、そういうことは思い浮かばなかったのです」

では、今井被告にとって、母親と妹はどのような存在だったのか?

「大切な存在です。うちは父親がいなかったので、僕は自分が家の長として2人を守らなければいけないと思っていました」

◆窃盗事件の被害者への思い

最後に、今井被告本人が聞かれたくないだろうことを突っ込んで、聞いてみた。

―― 今井さんは、どんな思いで介護の仕事をしていたのですか?

「僕が介護職員になったのは、祖父母を介護した経験が役に立つと思ったからです。実際、仕事は大変でしたが、人に感謝される仕事なので、やりがいはありました。被害者の方が亡くなった時はショックで、もうこういうことがないようにしたいと思っていました」

―― ただ、今井さんは、入所者から現金や貴金属を盗んでいた。そして、その盗んだ金で同僚におごったりしていたそうですが、なぜ、そんなことを?

「見栄を張りたかったんだと思います」

―― 窃盗の被害者の人たちへに対して、今、どんな思いを抱いていますか?

「申し訳ないことをしたと思います。示談が成立した人もいますが、人の気持ちはお金で買えません。取り返しがつかないことをしたと思っています」

終始堂々としていた今井被告だが、この時は殊勝な面持ちだった。ただ、答えをはぐらかすような様子はなく、正直に話している印象を受けた。

今井被告の冤罪の可能性については、今後も検証を続け、当欄でも報告させて頂きたいと思う。(完)

◎冤罪を訴え、最高裁に上告中 ──「川崎老人ホーム連続転落死事件」死刑被告人との対話
〈前編〉http://www.rokusaisha.com/wp/?p=44047
〈後編〉http://www.rokusaisha.com/wp/?p=44051

▼片岡健(かたおか けん)
ノンフィクションライター。stand.fmの音声番組『私が会った死刑囚』に出演中。編著に電子書籍版『絶望の牢獄から無実を叫ぶ―冤罪死刑囚八人の書画集―』(鹿砦社)。

「絶望の牢獄から無実を叫ぶ[電子書籍版]─冤罪死刑囚八人の書画集─」(片岡健編/鹿砦社)
党綱領を自ら否定した自民党は即時解散せよ 岸田内閣改造人事の真相 月刊『紙の爆弾』2022年10月号

消費増税なのに利用者負担増・低賃金放置…… 検証「安倍晋三さんは、介護現場に何をしたのか?」 さとうしゅういち

安倍元首相国葬前の9月23日、広島1区発で「安倍晋三さんは、介護現場に何をしたのか?」を検証するオンラインおしゃべり会が筆者のよびかけで開催されました。

なお、この日は、リアルでも「総がかり行動」主催で、安倍晋三さんの国葬を中止するよう求めるデモが原爆ドーム前から岸田総理の事務所の前まで実施されています。

岸田総理は、国葬の理由として、安倍さんが憲政史上最長の総理であったことをあげておられます。しかし、在任期間が長いということは、それだけ、悪いことについても責任が重いということです。そのことについてもきちんと検証することが、本当の意味での「追悼」ではないでしょうか?

◆筆者から安倍晋三さんへの「追悼の言葉」―― 介護破壊の悪行三昧

まず、20時のオンラインミーティングの開始から、20分ほど、筆者(介護福祉士・元広島県庁職員=元介護保険担当)から問題提起と称する故・安倍晋三さんへの追悼の言葉をおくらせていただきました。

以下はその要旨です。

介護保険導入は2000年4月であり、介護保険が発足してからの22.5年のうち、介護保険発足から約22.5年のうち、4割弱の約8.7年が安倍晋三さんの総理だった期間である。きわめて大きな影響、それも悪い影響を与えた総理大臣で言わざるを得ない。介護の社会化が大義名分だった介護保険だが、利用者負担増でそれが揺らぎ、一方で、我々介護労働者の給料労働条件は劣悪なままだ。

第一次安倍政権(2006年9月-2007年9月)において、安倍さんは2007年参院選では「KO負け」し、短命政権に終わり、大きな影響はなかったとも言える。これにより、民主党が躍進し、2009年介護報酬改定(麻生太郎政権)では、我々介護労働者について一定程度の処遇改善加算制度が導入されるきっかけになった。言い換えれば自民党が民主党の政策を模倣した結果だ。

その3年後の2012年度の介護報酬改定は、民主党政権下で行われることになった。民主党は、マニフェストで介護労働者の大幅給料アップを掲げていた。しかし、東日本大震災からの復興財源調達を理由に、自民党政権以上の改善はされず、介護労働者の失望を買った。民主党は、震災復興財源の調達のため、公務員=旧社会党=総評時代から支持基盤も失った。古い基盤も新しい支持者も失い、民主党は自滅。安倍晋三さん、あなたは政権に返り咲いてしまった。

2012年末、政権に返り咲いたあなたは「消費税増税は全額社会保障に使う」と約束し、2014年10月に5%から7%に税率を引き上げた。当時、新人の介護労働者だったわたしは、「これで俺の給料は上がる」と喜んだが、あなたを信じたわたしが愚かだった。あなたは、2015年度から介護報酬を引き下げた。当時のわたしの勤務先の老人ホームの社長は、「消費税増税でモノも値上がりし、経営が苦しくなる。報酬も下がる。覚悟しておけ」と訓示した。こうした介護業界の苦境により、多くの仲間が現場を去った。利用者側はこの年度から一部に2割負担が導入された。サービスの利用控え圧力が進んだ。ここだけの話だが、2割負担を回避するために、名目上離婚されたとみられる方も存じている。

あなたは、2015年9月の自民党総裁選挙で「介護離職ゼロ」を掲げた。家族の介護のために仕事を辞めることに追い込まれる人をなくすということだ。それ自体は結構だが、あなたのやった利用者負担増などはそれに矛盾している。

2018年度の介護保険法改定では、2割負担の対象を拡大し、3割負担も導入した。そもそも、お金持ちとも言えない人から過剰に負担を求めすぎているのではないか?もしお金持ちに負担を求めるなら、税金をしっかり負担いただくのが筋だろう。

2018年末、あなたは、入管法改定で特定技能制度を導入した。日本人で介護労働者になる人が足りないからと言って、外国人を呼び込もうという安易な考え方だ。2022年現在、わたしの勤務先の中には、外国人の時給を日本人より高めに設定している介護施設経営者もおられる。日本人がやりたくない仕事を外国人はやりたがるとどうして安易に思えたのか?いまや、円安は進み、給料を上げないともっと外国人労働者も来てもらいにくくなるだろう。

2019年介護報酬改定(臨時)をあなたはおこなった。介護職員等特定処遇改善加算を設置したが、対象が非常に狭く実効性が薄いと言わざるを得ない。

2020年に新型コロナ禍が勃発し、ただでさえ人員不足で厳しい介護現場に追い打ちをかけた。あなたは、介護職員に5万円の慰労金は出した。菅、岸田政権では同様の措置はなかったから、この点はまだ「より少なく悪かった」かもしれない。あなたは、その年の9月に退陣した。そして2022年7月8日、山上徹也被疑者の凶弾に斃れたのである。

安倍晋三さん、あなたは無責任極まる男だ。しかし、あなたの応援でいま総理になっている岸田さんがましか?と言えばそうとも言えない。岸田さんは我々介護労働者の給料アップをしてくれたが、3%としょぼい。物価上昇、最低賃金/他業界の給料アップも加味すれば人手不足解消効果はないのではないか?一方で、岸田政権はIT化による人員基準の緩和などを検討している。しかし、例えば、夜勤帯でどれだけ削減できるのか? とくにコロナのもとでは怖すぎる。

また、岸田さんは、給料アップを2022年10月以降は介護報酬で賄うという。これは利用者負担増につながり、それを恐れて給料改善をやらない事業者も出る恐れがある。そもそも、介護保険の在り方に無理があるのだ。資本の論理と福祉は両立しないのではないだろうか。

安倍晋三さんのでたらめを忘れないとともに、岸田さんへの批判を強めないといけない。

安倍晋三さんが事実上票の差配までしていた旧統一協会が介護現場に与えた影響も指摘しなければならない。男尊女卑と緊縮財政が旧統一協会信者の主張の特徴だ。男尊女卑を前提に家族ですべての責任を負え、というのが基本的なスタンスだ。山上徹也被疑者も旧統一協会の男尊女卑に腹を立てていたという。

男尊女卑と緊縮財政が組み合わされば、ケア労働者の低賃金になる。「こんなのは女のやることだから」と低い給料にされたのだ。そして、利用者負担増で社会化に逆行することになるのだ。

この「問題提起」(筆者の追悼の言葉)を受けて、残りの時間で参加者に自由に意見を交換していただきました。

◆自民党べったりの介護経営者に苦労 ―― 四国地方の女性労働者

四国地方の介護福祉士の女性Aさんは、くしくも安倍晋三さんの地元の山口県出身でもいらっしゃいます。この女性は、ご両親の介護のため、近く退職されるとのこと。この方は訪問介護に従事されています。自民党のべったりの法人で、自民党政治家の活動に動員されるということです。それでも、福利厚生は充実していたが、安倍政権の介護報酬引き下げで、福利厚生も削られ、職場はぎすぎすしていづらい状況になっているということです。

筆者からは「自民党県議・市議らが理事長でなおかつ悪徳な社会福祉法人は全国に多くあった。NHKも含めてそれをマスコミも糾弾した。ただ、当時の安倍政権はそれも悪用して、介護報酬カットへの雰囲気づくりをしていたように見受けられる。その結果は現場の労働者が苦しむだけになっている。」と「悪徳法人が介護報酬カットに悪用されて労働者が苦しむ」構図への憤りの感想を述べさせていただきました。

◆統一地方選で「地方議員兼悪徳法人経営者」の打倒を!

また、関西地方の30代男性Bさんからは、こうした自民党べったりの法人が多い状況に驚愕したと感想をいただきました。この男性からは「こういうことを共有化していかないといけないと思った。」とご感想。

筆者は「ただし、こうした法人の存在をもって介護報酬カットに悪用されたらたまらない。それよりもこうした県議・市議兼悪徳法人経営者という方は、選挙で有権者が打倒すべきだと思う。統一地方選は大事だ。」と回答させていただきました。

◆「反共」で教条的な緊縮財政の「旧統一協会」

四国在住の女性Cさんからは「なぜ、旧統一協会は緊縮財政なのか?」とのご質問をいただきました。

筆者は「『反共』がキーワードだと思う。かつては保育園を増やす政策を取った美濃部東京都知事に対して、統一協会ズブズブの人間を旧民社党が刺客として送り込んだこともある。庶民のための財政支出を共産主義と決めつけて否定するのが統一協会の信者の方には多い。」と筆者の経験上と断りをいれつつ回答させていただきました。

◆年々増加する利用者負担

四国の介護福祉士女性Aさんからは、介護報酬本体以外に、いろいろな加算が取られるようになり、低所得者の負担も増えている、と指摘がありました。

筆者からも「利用者負担増では、今後は、例えば、孫世代に介護負担が行く恐れがある。昔は嫁=母親でもある=におしつけられていたが、そうはいっても昔よりは男女平等が進む中で、嫁=母親に行かない=ぶん、孫に押し付けられ、ヤングケアラーがさらに増える恐れがあるのではないか。昔のように嫁へ押し付ける男尊女卑は論外として、若い人が過剰に介護にエネルギーを取られるのも報道されている通り、まずい。実際、大学生とか、新社会人くらいの孫が介護をされているケースは、わたしもだんだん目にするケースが増えている。本当は(社会人として仕事をおぼえることも含めた)勉強にもっと集中したほうがいいのだが、おっさんが余計な世話を焼くのもどうかとおもい、隔靴掻痒だ。」とヤングケアラー増加への懸念を示しました。

◆仕事に対して報酬が低すぎる

東北地方の看護師女性も「看護も介護も仕事に対して給料が少なすぎる。」と訴えます。やはり欧州のように公営でやるほうが望ましいとおっしゃいます。

広島市内の別業界の会社員男性も「介護労働者の友達がいるが、昔は看護師がやっていたようなことも、専門知識がそこまでない介護士がやっている。入所者を最後まで看ることも多くなり、精神的に厳しいと思う。やはり、給料の引き上げは必須だと思う」とおっしゃいました。

◆「少子化対策」より「まず、安心」を

また、高齢者が増える中で少子化をなんとかしないと難しいのではないか?というご意見もいただきました。

これについて筆者は「ただし、日本の場合は、高齢者も多く働いている。この点が欧州とは大きく違う。コンビニでも工事現場でも、各種派遣労働者でも年金が少なく働かざるを得ない人がたくさんいる。高齢者を悪者にするのもまた誤りではないか?」と指摘したうえで「環境破壊をせずに一人当たりの豊かさをふやすチャンスでもある。問題は、人口が減るのに、まだ山を開いて大型商業施設や住宅地をつくったりする行政の在り方ではないか? いますぐ子どもがふえたとしても、労働力になるのに時間がかかるので、人口減少を前提に、新規開発はやめて土砂災害警戒区域からはむしろ撤退し、そこで平時は食料をつくるなどの方向も必要ではないか?」と提案しました。

そして「大阪維新の会は高齢者を悪者にして子育て支援重視を言っているが、これも、実際には奴隷であるところの子どもがほしいだけ。自分に反抗的な意見を言った高校生を橋下徹さんは泣かせている。それが維新の本質だ」と維新をばっさり切り捨てました。

また、山口県の女性からも「労働条件も悪い、教育を受けたら借金を背負うこんな国で、子どもを産んだらむしろ子どもがかわいそうだ。まず、教育や労働条件の改善などをする方が先ではないか?」とのお話をいただきました。

◆「チャレンジ」の前に「安心」を

広島県内の女性からは、筆者に対して政治家として何をまず取り組みたいか?とのご質問をいただきました。

「前回、2011年、河井案里さんと対決した県議選立候補時に掲げた公約のうち、まだ実現していない介護する家族を支援する条例(ケアラー支援基本条例)」をぜひ実現したい。特に広島県内は、なぜか女性の健康寿命が短く、男性が妻の介護をするケースも多く拝見する。ある一定年齢以上の男性の方はそうした中で追い詰められる場合も多い。また、ヤングケアラーや、逆に親御さんが高齢になった後、障害をお持ちのお子さんをどうするかという問題など、課題も複雑化している。2011年時点ではわたしが広島でも最初に提案したが、今回はぜひ、実現したい。」

「現知事は高速道路5号線二葉山トンネル問題について、教育長はご自身の疑惑について木で鼻を括ったような対応で、安倍晋三さんうり二つになりつつある。他方で、ご両人とも政策の中身も、保守的な広島県の風土へのいら立ちはわかるが、無理やりアメリカ的なものを押し込もうとしてうまくいっていないように見られる。基本的なニーズが満たされない中でアメリカ的なチャレンジを煽られても、ついていけない県民も多いと思う。」と指摘。

「まずは、安心を県民に。その上でチャレンジだ。知事も教育長もアメリカ的な方向に傾いている中では、安心重視の議員がもっと議会に必要だ。」
と力を込めました。

国葬反対署名の報告も国葬反対署名に取り組む広島市内の20代男性からは、国葬反対署名を3115筆集めて内閣府に提出したことが報告されました。その上で、今後は「奨学金チャラ」の署名活動を進めることが報告されました。

筆者からは「介護現場でも、例えば機能訓練指導員で資格を取るために大学や専門学校に行き、奨学金返済を抱える若者が多くいる。奨学金チャラにもぜひ取り組もう。」と呼びかけさせていただきました。

◆安倍政治の問題点を忘れぬとともに地元から遠慮なく岸田政治をただそう

安倍晋三さんの国葬で安倍晋三さんの問題点を覆い隠すことは許されません。在任期間が長いからこそ影響力も大きい。だから、きちんと検証すべきです。今回は東北から四国まで広い範囲のみなさんのご参加で安倍晋三さんの問題点を検証できました。ご参加ありがとうございました。今後ともよろしくお願いいたします。

それとともに、岸田さんもかならずしも「安倍さんよりまし」とも言えない実態も浮き彫りになってきました。きちんと地元・広島からこそ、遠慮なく岸田政治もただしていかなければなりません。

▼さとうしゅういち(佐藤周一)
元県庁マン/介護福祉士/参院選再選挙立候補者。1975年、広島県福山市生まれ、東京育ち。東京大学経済学部卒業後、2000年広島県入庁。介護や福祉、男女共同参画などの行政を担当。2011年、あの河井案里さんと県議選で対決するために退職。現在は広島市内で介護福祉士として勤務。2021年、案里さんの当選無効に伴う再選挙に立候補、6人中3位(20848票)。広島市男女共同参画審議会委員(2011-13)、広島介護福祉労働組合役員(現職)、片目失明者友の会参与。
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◎広島瀬戸内新聞ニュース(社主:さとうしゅういち)https://hiroseto.exblog.jp/

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