コロナ対策を軽視し、労働者を騙し、都構想ばかり推し進める大阪維新〈暴政〉「全国すべての人々へ」給付されるはずの特別定額給付金がなぜ、「住民票を失った」釜ヶ崎の住人たちには給付されないのか? 尾崎美代子

◆大阪維新は、センターからの野宿者追い出しをやめろ!

7月6日、昨年閉鎖されたセンター前に組合のバスを置く釜ヶ崎地域合同労組や、北西角に団結テントを設置する仲間に、「土地明け渡し請求事件」の訴状などが届いた。「出ていけ!」と訴えるのは大阪府だ。コロナ災いが続く中、センターから野宿者を追い出したいのは、都構想とリンクする西成特区構想を前に進めたいがためだ。

西成あいりん総合センンター(以下センター)は、昨年3月31日閉鎖予定だったが、当日大勢の労働者、支援者が「シャッター閉めるな」と声をあげたため閉鎖できなかった。翌日から始まった自主管理活動には、全国から支援の声・物資・カンパなどが届けられた。4月24日、国と大阪府は警察がタッグを組み、センター内の労働者らを暴力的に排除したが、それ以降も大勢の野宿者がセンター周辺や釜合労のバスで寝泊まりし、炊き出しや寄り合いなどの支援活動も続けられている。

そんな中、今年2月5日、大阪地裁の執行官は、大阪府、市の職員、警察とともにセンターを訪れ、野宿者に土地と荷物などを「執行官に引き渡せ」という「仮処分決定書」を手渡し、野宿する路上に「告示書」を打ち付けていった。

大阪府はこの申し立てを、昨年12月26日に大阪地裁に行っているが、その3日前の23日には、センター解体後にできる広大な跡地をどうするかを検討する「まちづくり会議」で、センターに入っていた2つの労働施設、「あいりん職安」と「西成労働福祉センター」(現在、隣接する南海電鉄高架下に仮移転中)を、跡地の南側に移転することが決まったばかりである。国道に面し、使い勝手や立地条件の良い北側の広大な跡地には、観光バスの駐車場やタクシー乗り場や外国人向けの屋台村を作るなどの案が出たという。

そもそもセンターは1970年、「あいりん地区の日雇い労働者の就労斡旋と福祉の向上」を目的に設置されたものだ。中には2つの労働施設の他に、水飲み場、足洗い場、シャワー室、洗濯場、娯楽室など最低限のライフラインが備わっていたうえ、地区内では毎日どこかで炊き出しが行われていることから、職や住処を失った人も、ここに来れば、どうにか生きていくことができた。しかし新たにつくられようとしている「まち」には、そうした労働者の居場所はない。

数日前から夜遅く、店近くで野宿を始めた60代男女。10万円が給付されたらドヤに入る予定だが、訳あって生活保護は受けたくない

◆大阪維新行政・だまし討ちの手口

釜ヶ崎を追い出された労働者はどこへいけばいいというのか! 長引くコロナ禍のもと、苦境に立たされている若者や非正規雇用労働者を助けることも重要だが、そのためにもともと釜ヶ崎にいる野宿者やおっちゃんらを切り捨てる、あるいはそれに加担することにな るのであれば、元も子もないだろう。

訴状には稲垣浩氏ほか21名(計22名)の氏名が漢字かカタカナで書かれているが、これは昨年11月、大阪府や大阪市の職員らが、福祉相談を装って名前を聞き出したものだという。しかしその際、本人には何に使うかなどの説明はなかったという。自分が訴えられるなら、名前を明らかにすることに躊躇した人もいるはずだ。自分の名前が書かれた「告示書」が目の前に釘で打ちつけられ、怖くなり他の地に移動した野宿者もいる。だまし討ちのあまりに酷いやり方だ!

◆労働者の健康など全く考えていない大阪行政のご都合主義

閉鎖前、早朝センターのシャッターが開くと、大勢の人たちが荷物を運び入れ、ゆったり一日中過ごしていた。その数は1日50人から80人。野宿者だけでなく、働けなくなり生活保護を受けるようになった人たちも、大勢センターに集まっていた。「Aはたいがい2階の娯楽室で将棋さしてるで」「Bを探してるんか? アダチ(センター前の酒店)の前に夕方いるで」「次の日曜日、三角公園でプロレスあるで。もちろんタダや」等々、センターはまさに仲間とつながり、情報を交換し合う社交の場だった。

センター閉鎖後、行政はそうしたセンターの代替場所の1つとして、センター南側の萩の森跡地に居場所を作った。運動会で使われる白いテントを数張り置いただけだが、雨の日も真夏でも労働者は集まってきた。その萩の森跡地のテントが最近、「整備のため」と撤去され、近くの萩の森北公園(旧仏現寺公園)に移された。しかし3、4張りあったテントは1張りだけ。未だコロナ禍は収束せず、感染拡大の危険性が叫ばれる中、テントは結構「蜜」な状態だ。行政が、釜ヶ崎の労働者の健康や体のことなど全く考えていない証拠だ。

聞けばこの公園は、1977年、炊き出しや寝泊りしていた労働者が、大阪市に行政代執行で追い出された所だ。それ以降は子供達の遊び場として遊具が設置され、朝鍵が開けられ晩には鍵がかけられていた。それが今回は「居場所に使え」だと。行政の都合で「不法」になったり、「適法」になったり、ご都合主義も甚だしい。

センターの代替場所だった萩の森公園跡地が閉鎖され、新たに作られた代替場所。テントは一張りのみ。結構「密」だ

◆コロナより都構想の大阪維新の給付金対策とは?

コロナ対策の特別定額給付金の支給も大阪が一番遅れている。大阪都構想を進める副首都推進局の職員数80名以上に対して、特別定額給付金を担当する市民局の職員数が18名と非常に少ないことも理由の1つだろうが、市民局がどこにあるかも「非公開」にするなど、吉村知事、松井市長のコロナ対策はあまりにいい加減過ぎるからだ。

現在、様々な団体、個人などが「全ての人に給付金を支給するように」と訴え、交渉を続けている。直近の交渉で大阪市は、NPOやシェルターなどに住民票を移し、申請書を受け取る案で調整中だそうだ。それで給付金が受けれるならば、大いに利用すればいいが、問題なのは、その後そこに居住実態がない場合、再び住民票を削除するということだ。

これはかつて、大阪市が、住民票のない労働者らが各種資格、免状、日雇い労働者被保険者手帳などを取得する際に、釜ヶ崎開放会館や市民団体の住所に住民票を置くことを積極的に勧めておきながら、2007年一方的に2088名の住民票を強制削除したことと同じことではないか?

私が弁当を配り始めた5月頃、センター南側の路上で、開放会館においていた住民票を削除された労働者に実際会った。あれから13年経ち高齢化したため、野宿しながら、銅線、鉄、アルミ缶などを集め、日に千円稼ぐのが精いっぱいとこぼしていた。大阪市はまずは、この2088名の住民票を復活させろ!

2007年、解放会館に置いていた住民票を勝手に削除された男性。銅線、アルミ缶など集め、1日千円稼ぐのがやっと
7月15日の弁当。昨夜出会った男女に渡すことができた

このままでは、給付金がもらえない人が出てくることは必至だ。何度もいうが、おぎゃあと生まれた赤ちゃん、DVで住民票がある場所から避難する人、無戸籍者にも給付金は支給される。住民票がない人に対して、住民票すらまともにとれない酷い生活をしてきたから「自業自得」という人もいるが、じっさいに何らかの罪を犯し刑務所に服役する人も、そして労働者の血税を好き放題むしり取る悪の親玉、安部や麻生にも一律に支給されるのが給付金だ。それなのに、なぜ住民票がないくらいで、給付金支給の権利が奪われなければならないか? すべての人に給付金を渡すため、大阪市は1人1人の野宿者から氏名を聞き出し、戸籍などを確認する作業を必死で行え!

住民票がないとの理由で、給付金が支給されない人が出ることになれば、「全国すべての人々へ」という給付金支給の理念を著しく逸脱する大問題になるだろう。


◎[参考動画]仕事も住民票もないホームレスたちに“10万円”は届くのか…「西成・あいりん地区」で弁当配り見守る女性の活動(2020年5月26日放送 MBSテレビ「Newsミント!」内『特集』より)

▼尾崎美代子(おざき みよこ)

新潟県出身。大学時代に日雇い労働者の町・山谷に支援で関わる。80年代末より大阪に移り住み、釜ケ崎に関わる。フリースペースを兼ねた居酒屋「集い処はな」を経営。3・11後仲間と福島県飯舘村の支援や被ばく労働問題を考える講演会などを主催。自身は福島に通い、福島の実態を訴え続けている。
◎著者ツイッター(はなままさん)https://twitter.com/hanamama58

月刊『紙の爆弾』2020年8月号【特集第4弾】「新型コロナ危機」と安倍失政 河合夫妻逮捕も“他人のせい”安倍晋三が退陣する日
〈原発なき社会〉をもとめて 『NO NUKES voice』Vol.24 総力特集 原発・コロナ禍 日本の転機

給付金給付率が全国最下位の大阪市! 松井市長は仕事しろ! 産まれたばかりの赤ちゃんも貰える「特別定額給付金」を、長年働いてきた野宿者、住民票のない人が貰えないのは理不尽すぎる! 尾崎美代子(大阪・西成「集い処はな」店主)

◆住民票は給付金支給の条件ではない

6月17日、釜ヶ崎地域合同労組、釜ヶ崎公民権運動、人民委員会らは、大阪市の松井市長、特別定額給付金を担当する市民局に対し、すべての野宿者、住民票をもたない人にも給付金を渡すようにと、新たな要望書を提出した。

毎月、月末に開かれる「センターつぶすな!」のデモ

前回提出した要望書の回答で、大阪市は相変わらず『給付金の支給にあたっては、住民基本台帳に登録されていることが必要である』としている。

給付金は、新型コロナウイルス感染拡大の防止に伴う自粛要請などで経済活動が停滞するなか、「簡素な仕組みで迅速かつ的確に家計へ支援を行う」(実施要領)として、国から唯一出された支援策であり、その権利は全ての人にある。「住民基本台帳に登録」は給付の条件ではなく、給付方法として便宜的に利用されたものでしかない。現にDV被害者や無戸籍者らは、実際に居住している自治体で給付できる特例措置が取られている。「あまねくすべての人々に」というならば、野宿者、ネットカフェ難民など住民票がない、もてない人たちにも同様の特例措置が取られるべきだ。

国の「給付金実施要領」にも、「記録がなくても、それに準ずるものとして市区町村が認めるものを含む」とある。また5月20日の国会で、共産党の清水ただし衆院議員が「住民登録ができないという路上生活者の方々を、どう給付金からこぼれ落ちないように支えていくのか、支援していくのかっていうのは喫緊の課題です」と質問したところ、総務省の斎藤洋明政務官は「現に居住している市区町村と認めていただけるように、必要な支援が行われるように、総務省としても取り組んでまいりたい」と回答している。

さらに、そうした国会のやりとりも紹介したMBSの情報番組ミント(5月26日放送)の番組の最後に、人権問題などに詳しい南和幸弁護士(大阪弁護士会)がこうコメントしている。

「給付金について、ホームレスの人だから受け取る権利がないというのは間違いです。ホームレスに人にも受け取る権利がある。住民票のあるなしは、権利のあるなしの問題ではなく、どのように受け取るかの手続きの問題でしかない。それについて、この住民登録があるないだけで、権利があるなしかのように取り扱うのは間違いで、総務省は形式的な答弁だけではなく、実際ホームレス状態にある人に、どのように今回の給付金だけではなく、補償などを行き渡らせていくかという抜本的な問題を突きつけられていると思う」。


◎[参考動画]仕事も住民票もないホームレスたちに“10万円”は届くのか…「西成・あいりん地区」で弁当配り見守る女性の活動(2020年5月26日放送 MBSテレビ「Newsミント!」内『特集』より)

◆住民票を持てない人を大量に生んだのは行政の無策
 

コロナで炊き出しが止まっため始めたお弁当作り、炊き出しが再開したため個数は減ったが、日曜日以外は毎日続けられている

日雇い労働者が多く住む釜ヶ崎では、ドヤ(簡易宿泊所)に住む人、ドヤと飯場を行き来する人など居住形態はさまざまだが、かつてはどんなに長く同じドヤに住んでも住民票が置けなかった。しかし労働者は仕事に必要な免状や白手帳(日雇い雇用保険)を取得するため、住民票が必要になる。そこで大阪市や西成警察は、釜ヶ崎地域合同労組などが入る「釜ヶ崎解放会館」などに住民票を置けばいいと労働者に勧めてきた。解放会館には最高時、5000人もの労働者が住民票を置いていた。ところが2007年、大阪市は2088人の住民票を突然強制削除してきた。しかもその後も放置したままだ。そうした大阪市の無策こそが、現在も大勢の野宿者に住民票のない状態を強いていることを忘れてはならない。

また大阪市は、公園などから野宿者を閉め出す行政代執行などを行う際には、朝、昼、晩かまわず野宿者のテントを訪れ、ネチネチと長時間、公園から出るよう「説得」にあたってきた。昨年閉鎖された「あいりん総合センター」の周辺に野宿する人たちを、裁判に訴え追い出すため、大阪府と市は、野宿者のもとを訪れ執拗に名前などを聞き出し「債務者」に特定してきた。野宿者を追い出すときには必死で本人確認するくせに、給付金支給の際には「住民票ないから渡せない」とは、そんな勝手は断固許さん。
 
◆「給付実施要領」から逸脱する住民票の有無

総務省の6・17「通達」でも、「住民票の確認」が給付の条件から外されず、ネックになったままだ。これは「あまねくすべての人びとに」の論理から逸脱する行為ではないのか。国と大阪市は、いつまでも住民票の有無に固執せず、住民票をとれない人達への様々な給付方法を駆使していくべきだ。例えば、市民局は、野宿者らに住民登録されれば給付金の給付対象となることを「周知を図る」と回答しているが、周知するその場で野宿者の名前、本籍地などの確認作業を行えばいい。

国と大阪市は住民登録にこだわる理由について「二重払い」を防ぐためという。しかしこれは、わずか1.5%の生活保護の不正受給率を取り上げ、生活保護バッシングに躍起になる連中の発想と同じで、野宿者、住民票を持てない人は「犯罪を起こす人」という極めて差別的な発想が根底にある。実際の「不正受給」の内容は、子どものバイト代を申告しなかった、働いた日数を2日ごまかしたレベルのものが多い。本来厳正に取り締まるべきは、それよりはるかに膨大な金額を不正に集める「囲い屋」など貧困ビジネスの連中の方だ。実際、今回の給付金でも彼らは、あの手この手で労働者からむしり取ろうとしているぞ。

ここに住む野宿者は、どうにか田舎から戸籍謄本を取り寄せることが出来そうだと話した

◆松井市長はまじめに仕事をしろ!

大阪市の給付金給付率は、現在わずか3.1%で全国最下位だ。都構想実現のために大阪副都市推進局には府市あわせ80人以上もの職員を配置するくせに、給付金担当の市民局には18名しか配置していない。先日の交渉で「18名の職員はどこにいるか?」と尋ねたら「非公開です」と回答された。市民から逃げ回るようなコロナ対策では、全国最下位になるのも当然だ。松井市長に至っては「今回をきっかけにぜひ、ホームレスから脱却してもらいたい」という始末。何を寝ぼけたことを言っているのか? 今回の給付金は「ホームレス脱却」のためのものではないぞ。もちろんこれを契機に住民票をとり生活保護を受けるのは個人の自由だ。しかし生活保護を受けたくない人、様々な理由で住民票を取ることを拒む人に、住民票の取得を強要することなどあってはならない。

松井市長には、総務省「給付金実施要領」を一から読み直してから出直してもらいたい。不必要、しかも市火災条例違反の疑いを指摘される山積みの雨合羽で市役所を埋め尽くし、その整理で職員を疲弊させたうえに、給付金でさらに職員を追い込むようなことはするな!

一方で、「納税しない人間に給付金支給するな」などと的外れな批判をする人もいる。今回の給付金はオギャーと産まれた赤ちゃんにも払われることを知らないのだろうか。納税していない赤ちゃんも産まれてすぐに「コロナ禍」に放り込まれるのだから、支給されて当然だが、ならば長年、建設現場など社会の末端でこき使われ、働けなくなったらポイと捨てられ、あげく野宿に追い込まれた人が、住民票がないだけの理由で支給対象から外されるなんて理不尽すぎるだろう。

第2、第3のコロナ禍が吹き荒れたあと、膨大な数の人々が野宿状態に追いやられるのは想像に難くないが、今回の給付金支給を、住民票をもたない、もてない人たちにどこまで行き渡せることが出来るかの闘いは、コロナ後の社会をどう作っていくかの問題にもつながるだろう。全国の皆さんにご注目頂きたい!

▼尾崎美代子(おざき みよこ)

新潟県出身。大学時代に日雇い労働者の町・山谷に支援で関わる。80年代末より大阪に移り住み、釜ケ崎に関わる。フリースペースを兼ねた居酒屋「集い処はな」を経営。3・11後仲間と福島県飯舘村の支援や被ばく労働問題を考える講演会などを主催。自身は福島に通い、福島の実態を訴え続けている。
◎著者ツイッター(はなままさん)https://twitter.com/hanamama58

月刊『紙の爆弾』2020年7月号【特集第3弾】「新型コロナ危機」と安倍失政
〈原発なき社会〉をもとめて 『NO NUKES voice』Vol.24 総力特集 原発・コロナ禍 日本の転機

新型コロナ禍と釜ヶ崎「命の危機」! 10万円特別定額給付金をすべての野宿者、住民票のない者にも、一人残らず配布せよ! 尾崎美代子

◆コロナ禍、「命の危機」はすべての人に平等か?

今回のコロナウイルス禍について「全世界的に平等に降りかかり、階層もなく命の危機にさらされた」という学者がいた。確かに亡くなった人の中には、志村けんさん、岡江久美子さんなど経済的余裕のある人がいたのも事実だ。しかし、本当に「命の危機」は階層とは全く関係ないだろうか。

3・11の福島第一原発事故で放出された放射能は、地域の差はあれ、そこに住む全ての人々に平等に降りかかりはした。しかし、その後の個々の対応、とりわけ人体に多大な健康被害を及ぼす放射能を回避する方策については、階層及びそれに伴う経済的差異や地位によって、明らかな差が生じた。

もちろん避難や移住が経済的理由だけで決まった訳でないことは、家族を被ばくから守るため、着の身着のままで避難する人たちが多かったことからも明らかだ。しかし一方で、避難指示が解除された後、経済的理由などで泣く泣く線量の高い故郷に帰らざるを得なかった人たちがいたことも事実だ。

放射能もコロナウイルスも、全ての人に平等に降りかかりはするが、それをどう回避するかの条件は、全ての人に平等に与えられている訳ではないということだ。

毎日店の前を台車で通るAさんは、コロナウイルスが流行っていることすら知らなかった

◆「すべての人に給付金10万円を」

コロナ対策で、政府が全ての人を対象に唯一決まった10万円の特別定額給付金は、複雑難解な当初の30万円給付金案から、より「簡素な仕組みで迅速に」「一日もはやく手元にとどけ」との目的で変更された。それは一刻も早く届けないと、命の存続にかかわる事態に追い詰められている人たちが多数いるからだ。

私の住む釜ヶ崎では、建設現場の相次ぐ閉鎖で仕事が減ったうえ、GW前から、地区内のいくつかの炊き出しが中止となった。

空き缶、銅線、鉄を集めて、1日約千円にしかならない。開放会館に置かれていたCさんの住民票は、2007年強制削除された
カンパで頂いた米、食材を使い、1日7個~10個を順番に配っている

そんななか、「どうしたら、野宿者らにも10万円を渡すことができるか?」と考えながら私は、マスクと弁当を野宿者らに配ろうと考えた。GW突入と自粛要請が重なり、店も暇になり、時間も出来たし、ちょうど同じころ、マスクや米などのカンパが届いたからでもある。

とはいえ、仕事合間に1人でやることなので、数は1日10個前後としれている。店の近くを台車で通る人数人、閉鎖されたセンターのシャッターの下に野宿する人たちに、毎日順番に配ることにした。

マスク、弁当を渡しながら、10万円給付金を受け取る条件となっている「住民票」の有無などの話を、本人から聞き出すことも目的の一つだった。

同上

店の近くを日に何回も行き来するAさんに初めてマスクを渡すと、Aさんはきょとんとしていた。考えたらAさん常に1人、他の人と話すこともなく、携帯やテレビで情報を得る環境もない。「コロナウイルスという危険なウイルスが流行っているから、マスクして」と伝え、毎日弁当を届けた。

そのうち、Aさんは少しずつ話すようになった。きっかけは10万円給付金の話。「10万円、貰えるんか? 本当か?」。そしてAさんは私に年齢、名前、住民票は府内某所に置いたままだと話した。

もう一人、同じく毎日店の前を通るBさんは、50代で病気を患い、生活保護を受けたが、運悪く「囲い屋」に囲われてしまったようだ。Bさんは「囲い屋」とは言っていないが、住民票の話になると、必ず「前に生活保護受けた部屋に置いたまま」と暗い表情で悔しそうに話すため、私がそう考えたのだ。

センター近くでアルミ缶、鉄、銅線などを集め、1日約千円を凌ぐCさんにも住民票がない。聞けば、2007年釜ヶ崎開放会館に置かれていた2088人の住民票が、大阪市に強制削除された際の犠牲者の一人だった。またセンターに野宿する50前後の若い男性は、6年前働いていた会社の寮に、他にも以前住んでいたドヤやアパートに置いたままの人が多い。さらに多くの人は住民票をもっておらず、本籍地に戻された住民票を移すにしても、自分を証明するものが全くない人も多数いた。なお「10万円はいらんわ」という人も数名いた。

自転車に山ほど積まれた空き缶、アルミの値段が下がり、以前はこれで2200円あったが、今では1800円に

◆10万円給付金、「現に居住している場所」で受け取れるように!

決まった場所に定住する野宿者だけでなく、荷物を積んだ台車を押しながら、あちこち点々とする野宿者も多い

大阪出身で元松竹芸能所属のお笑い芸人だった清水忠史(ただし)衆院議員が、Twitterで5月18日、「19日の衆院財務金融委員会で質問にたちます。新型コロナウイル禍で、いかにして個人事業者や生活困窮者に支援するのか、財務省、経産省、厚労省の見解をといます」と呟いていた。一方、私たちは、4月28日西成区役所に要請を行っていたが、区役所から「給付については大阪市役所市民局が行う」と返答されたため、5月8日仲間と大阪市役所に向かい、「10万円定額給付金が、住民票を持ってない人にも必ずわたるように」との要望書を提出していた。しかし1週間後の15日夜遅くに届いた返答は「あと1週間回答を待ってほしい」とのことだった。

「野宿者らに本当に10万円届くのか」。不安になった私は、藁にもすがる思い、そしてダメ元で、清水議員にDMを送った。「大阪市は10万円給付金、とにかく住民票のある人と言っていますが、私たちはずっと野宿者など住民票取れない人にも本人確認して渡して、と訴え続けています。明日の質問にちょっとそのことも質問してもらえないでしょうか。ご検討をお願い致します」。

律儀にすぐに返答があった。翌日「確認したいことがあります」と連絡があり、携帯番号を伝えたところ、すぐに連絡が入った。電話で私は、釜ヶ崎の野宿者の置かれた厳しい現状、とりわけ住民票を移すにも、自分を証明するものが全くない人が多数いること、大阪市はそれまで、住民票の取れない労働者に対して、解放会館などで住民登録することを勧めてきたくせに、2007年2088人の住民票を強制削除した件などを説明した。

清水議員は、20日「地方創生に関する特別委員会」で、新型コロナ禍での生活保護制度の運用や、1人10万円の特別定額給付金の問題をとりあげ、質問したようだ。委員会終了後、「総務省とのやりとりで、2007年の『事件』も含めて伝え、大阪市では簡単に住民登録ができないこと。こうした人たちをどのように救済するかが問われていることを指摘したところ、総務省政務官は『現に居住していることを市区町村に認めてもらえるように取り組む』と答弁した」とメールが届いた。

これを先に進めたら、野宿者の人たちにも10万円が手渡せるはずだ。もちろん私たちの要請行動も引き続き行っていくが、それに加えて議員やマスコミへの働きかけなど様々な形で、「住民登録」のみに固執し続ける国、行政の考えを改めさせなくてはならない。

ある税理士さんがこう呟いていた。「確かに給付対象は住民登録者とされている、でもこの規定は支給の便宜を考えてのもの。目的が国民の生活費支援である以上、最もこれを必要としてる彼ら(住民票のない路上生活者)の除外は許されっこないね。役所は住民票でやり方が楽なんだろうけど、少しは汗かきなよ」。

今回の10万円給付金の目的(理念)は、コロナ禍で生活に困窮した人たちを助けるためだ。その支給の「便宜」のため、戦術として住民登録が選ばれただけだ。ならば、国は再度立ち止まって、その目的(戦略)のために何ができるかを必死に考えるべきだ。「オギャー」と産まれたばかりの赤ちゃんも、すぐにコロナ禍に放り込まれるのだから、10万円給付は当然だが、これまで何十年も、日本経済の末端で、それこそ汗水流して働いてきた労働者が、いまは野宿で住民票ないからと10万円受け取れないなんて、余りに理不尽だ!国と行政は、すべての野宿者、住民票を持たない人にも10万円が渡るよう、必死に動き汗水を流せ!

センターが閉まったため、水飲み場はどこも洗濯、シャンプー、ひげそりなどする野宿者で混んでいる

※コロナ禍をめぐる釜ヶ崎のこうした現況について、MBS(毎日放送)の情報番組「ミント!」が本日5月26日(火)18時15分頃から報じる予定です。関西の皆様、ぜひご覧ください。

▼尾崎美代子(おざき みよこ)

新潟県出身。大学時代に日雇い労働者の町・山谷に支援で関わる。80年代末より大阪に移り住み、釜ケ崎に関わる。フリースペースを兼ねた居酒屋「集い処はな」を経営。3・11後仲間と福島県飯舘村の支援や被ばく労働問題を考える講演会などを主催。自身は福島に通い、福島の実態を訴え続けている。
◎著者ツイッター(はなままさん)https://twitter.com/hanamama58

月刊『紙の爆弾』6月号 【特集】続「新型コロナ危機」安倍失政から日本を守る
『NO NUKES voice』Vol.23 総力特集〈3・11〉から9年 菅直人元首相が語る「東電福島第一原発事故から九年の今、伝えたいこと」他

大阪維新が牛耳る大阪府・市のコロナ対策は「やってる感」だけの後手後手! 2007年住民票を強制削除した大阪市役所は、すべての野宿者に10万円を渡せ!

◆コロナウイルスに真っ先に感染したのは、あいりん職安の職員!

窓も締め切り、3密状態だったセンター(仮庁舎)。危険性を指摘され、表で待つように変わった

猛威を振るう新型コロナウイルス禍が、日雇い労働者の町・釜ヶ崎にも様々な悪影響を及ぼしている。地区内のいくつかの炊き出しが中止になり、食事回数が減った人たち、仕事が無くなりドヤを出された人……。今後、職や住まいを失った人、ネットカフェから出された人たちが、釜ヶ崎に多数集まってくるだろうが、そうした野宿者・困窮者の最後のセーフティネットであった「あいりん総合センター」(以下センター)も、昨年4月24日に以降、強制的に閉鎖されたままだ。

大阪維新が牛耳る大阪府政・市政は、吉村知事、松井市長ともどもメディアに出まくり、「やってる感」を演出するが、とりわけ釜ケ崎に関してのコロナ対策は全てにおいて後手後手にまわっている。

厚労省管轄の西成労働福祉センター(南海電鉄高架下に仮移転中)のトイレに石鹸がなかったことについて、「働き人のいいぶん」(行動する働き人発行)で何度も注意され、ようやく置かれるようになったし、同じく労働福祉センターの「特別清掃事業」の輪番紹介時が非常に混雑し「3密」状態だったが、こちらも釜ヶ崎地域合同労組が、チラシや情宣で危険性を訴え続け、ようやく解消されることとなった。

それだけコロナ対策に無頓着、無関心だからか、釜ヶ崎内で最初に感染が確認されたのは、3月末まであいりん職安に勤務していた4人の職員だった。直接ではないにしろ、感染した職員の任務が労働者に対応する業務であったため、感染を労働者に広めた危険性は拭えない。

◆「3密」状態のシェルターの閉鎖し、センターを開けろ!

シェルター内部

大阪府と大阪市は、昨年4月24日、センターから強制的に労働者を排除し閉鎖したが、その代替場所として「広場」(「新萩の森公園」予定地)、NPO釜ヶ崎支援機構の運営する「禁酒の館」「無料休憩所」「シェルター」(夜間一時避難所)、そして「あいりん職安」の待合室などを挙げていいた。

吹きさらしの空き地にテントを建てただけの「広場」は別として、他の施設はコロナウイルス感染拡大の条件となる「3密」状態になるのではと懸念し、釜ヶ崎地域合同労組、釜ヶ崎医療連絡会議、釜ヶ崎センター解放行動らが、これらの施設を閉鎖し、広くて風通しの良い「センターを解放しろ」と要求し続けている。

◆10万円をすべての釜ヶ崎の労働者に渡せ!

前述したように、釜ヶ崎のいくつかの炊き出しが止まったこと、仕事が減ったことで、今日明日食うことにも困る労働者が増えている中、4月28日釜合労や釜ヶ崎公民権運動の仲間が、10万円の「特別定額給付金」について、西成区役所に対策を聞きに行ったところ、「まだ窓口も決まっていない」との返答であった。

今回の10万円給付については、住民票の住所と違う場所に住むDV被害者が、別住所で受け取ることができるようにする、住民基本台帳にも記載がない無戸籍者に対しても自己申告により給付可能となる措置が取られるなど、評価できる措置もとられている。しかし釜ヶ崎においては、更に深刻な問題がある。

そもそも釜ヶ崎などで日雇い労働に従事していた人たちは、長年飯場を渡り歩く者、飯場とドヤを行き来する者、ドヤから日々現金仕事に就く人など様々な就労形態を持っており、決まったアパートなどで住民票を取っている人は少なかった。

また様々な事情で故郷の家族の元を去らざるを得なかった人、連絡を取りづらい人、債務などを抱えて行方をくらました人など住民票が取れない状態に置かれた人も少なくない。

一方で現実の生活では、日雇い労働者の失業保険である「白手帳」、運転免許証や仕事に欠かせない各種免状を取得するために住民票がどうしても必要になってくる。当時はどれだけ長く居住していても、ドヤでは住民票が取れなかったため、困った労働者らが役所などに相談したところ、西成区役所は、便宜的に釜合労が入る解放会館などに住民票を置くことを勧めてきた。そのため解放会館の住所には最高時で5000人を超す人が住民票を置いていたという。

しかしこれらの住民票が2007年、突然強制的に削除された。「居住実態がない」というのか行政側の理由だったが、そもそもそれを承知の上で西成区役所、西成警察署、あいりん職安は「住所がなければ、釜ヶ崎解放会館に行ったら住民票がおけるから、解放会館にいけばいい」と、何十年間も労働者に言い続けてきたのではないのか?

住民票がなければ、給付金の申込書を受け取ることができない。今回も便宜的に解放会館などに住民票を移そうとしようにも、自分を証明するものを全く持っていない人も非常に多い。

ちなみに筆者がセンター周辺に野宿する人たちにマスクを配布しながら、住民票や、自分を証明するものの有無などについて聞き取りを行ったところ、昨年の4月24日、機動隊と国、大阪府の職員により、センターから強制排除された際、センター内に置いたままの荷物を、翌25日に返して貰えなかった男性がいたことがわかった。荷物には危険物取り扱いやクレーンなど、本人を証明する大切な免状が入っていたという。

大阪府は「センターの中に残っているものを返せ」と大きな声を上げた釜合労には、立て看などを返しに来たが、声を上げれない労働者には泣き寝入りを強いるのか。

◆国と行政は、責任持って野宿者に10万円給付金をとれるようにしろ!

総務省は、4月28日付けで「ホームレスなどへの特別定額給付金の周知に関する協力依頼について」との通知を出し、支援団体に対して、住所の認定されにくい野宿者らへの周知、支援を要請した。

しかし、役所は野宿者を強制排除する際には、早朝、夜を問わず、執拗に野宿するテントや小屋を訪ね、氏名や住所などを聞き出しているではないか。2016年花園公園から野宿者を排除した時もそうだったし、今回センター周辺で野宿する人たちのテント、段ボールの前に打ち付けられた「公示書」にも、役所がしつこく聞き出したために、明らかになった野宿者の名前が記されている。

ならば今回も10万円が全ての野宿者、住民票のない人に渡るように最善を尽くせ!勝手に人の住民票を台帳から削除した大阪市役所よ、1人も取り残すなよ!

テント前に打ち付けられた「公示書」には、役人が労働者を騙して聞き出した名前が記されている

▼尾崎美代子(おざき みよこ)

新潟県出身。大学時代に日雇い労働者の町・山谷に支援で関わる。80年代末より大阪に移り住み、釜ケ崎に関わる。フリースペースを兼ねた居酒屋「集い処はな」を経営。3・11後仲間と福島県飯舘村の支援や被ばく労働問題を考える講演会などを主催。自身は福島に通い、福島の実態を訴え続けている。
◎著者ツイッター(はなままさん)https://twitter.com/hanamama58

最新月刊『紙の爆弾』6月号 【特集】続「新型コロナ危機」安倍失政から日本を守る
『NO NUKES voice』Vol.23 総力特集〈3・11〉から9年 菅直人元首相が語る「東電福島第一原発事故から九年の今、伝えたいこと」他

釜ヶ崎の「安全・安心」は誰を守るのか? 「まちをきれいに」「ゴミをなくそう」を連呼して進められる「まちづくり」の危険性 尾崎美代子

◆あとを絶たない野宿者襲撃事件

3月25日深夜、岐阜市内の伊自良川の河川敷で野宿する81歳の男性が、何者かに石をぶつけられたり、暴行されたりして亡くなった。「知人が数人の男に蹴られた」と110番通報した女性は、男性と20年前から野宿生活を共にしていた。このような痛ましい襲撃事件があとを絶たないのは、なぜだろうか。

1983年、横浜市の公園などで次々と起こった襲撃事件で逮捕された少年らは、取り調べで「町を綺麗にするため、ゴミ掃除しただけ」などと供述した。

大阪では、2012年年10月1日、JR大阪駅近くの高架下で、野宿していた男性(当時67歳)が襲撃され、死亡する事件が起きたが、2014年大阪地裁で始まった裁判で、少年の1人は、「家を出てバイトに明け暮れていたため、たまに会う遊び仲間と憂さ晴らししようと襲撃を計画した」などと証言した。

◆釜ヶ崎の「安全・安心なまちづくり」は、誰を守るのか?

釜ヶ崎では、元大阪市長の橋下徹氏がぶち上げた「西成特区構想」のもと、「安心・安全なまちづくり」が進められている。2014年から始まった「まちづくり検討会議」の座長を務めた学習院大学教授・鈴木亘氏は、当時の釜ヶ崎についてインタビューで「どん底でしたね。ホームレスが溢れ、不法投棄ゴミが散乱し、昼から酒飲んで立ち小便している。町全体が臭気のドームでした。すべての社会問題を放り込んで、フタしてグツグツ煮えたまま放置されてる、まさに闇鍋状態。衰退しきったスラムでした」と憎悪と非難を露わにしていた

その後、「覚せい剤撲滅」「不法投棄の防止と啓発」「迷惑駐輪の防止と啓発」などを目的とした「5ケ年計画」で、警察官の増員や監視カメラの増設が実施され、西成警察主導の「あいりんクリーンロードキャンペーン」が始まった。驚くのは、パレードで訴える「町をきれいにしよう」「ゴミをなくそう」のスローガンが、野宿者を襲撃した少年らが口にした言葉と同じことだ。

パレードのあと参加者に飲み物や下着が配られる。後ろに手を組む作業服姿の警察官が、労働者を怒鳴る場面も
3月28日「センター開けろ!」と訴える集会とデモには約80名が参加した

◆2度目の不当逮捕

「安心・安全なまちづくり」を進める「まちづくり会議」では、一方で「あいりん総合センター」(以下センター)を解体した広大な跡地をどう使うかの話が進められている。昨年12月末、センターに入っていた「西成労働福祉センター」と「あいりん職安」(現在は、隣接する南海電鉄高架下に仮移転中)などの労働施設を、跡地の南側に作ることが決まった。便利で使い勝手の良い北側には、屋台村構想や、タクシー、観光バスの駐車場を作るなどの意見が上がっているという。

問題なのは、南側に建てられる労働施設の青写真に、もとのセンター内にあったシャワー室、娯楽室、足洗い場、洗濯場、昼間ごろりと横になって休息できる場所など、生活困窮者や野宿者のセーフティーネットとなる機能が一切備えられてないことだ。つまり野宿者、生活困窮者はいっそう過酷な状況に追い込まれることになる。

そうしたセンターの解体に反対し、「センター閉めるな!」「シャッター開けろ!」と訴えている仲間4名が、3月4日逮捕された。昨年11月、5月30日に監視カメラに手袋を被せ、撮影不能にしたという「威力業務妨害罪」での逮捕と同様だ。今回は昨年11月、逮捕された4名のうちの2名と、6月4日の件で逮捕された2名を加えての4名逮捕である。昨年は、逮捕後すぐに釈放されたが、その後検察の任意聴取や出頭要請に応じなかったことが、今回の逮捕の理由だ。4人はそのため大阪地検に直接逮捕され、地検で取り調べられたのち、大阪拘置所に移送され、翌日起訴されたのち、前回同様、検察の勾留請求、準抗告がいずれも棄却され、釈放された。

大阪地検は、なぜ2度も同じ失態を繰り返すのか?そもそも監視カメラにレジ袋や手袋を被せたことが「威力業務妨害罪」にあたるのか?昨年の逮捕後、勾留請求、準抗告を繰り返す検察に「こんな微罪で起訴なんて」と呆れた裁判官もいたと聞いたが、同じ容疑で、なぜ今回起訴できたのか?

監視カメラの増設に使われた費用は約1億2700万円

◆監視カメラと不当逮捕の狙いは?

逮捕された1人、釜ヶ崎地域合同労組の稲垣浩氏は、2015年、組合が入る解放会館前に設置された監視カメラを違法と訴えた裁判で勝利し、撤去させている。裁判を担当した大川一夫弁護士は「監視カメラの監視はプライバシー権を侵害するので一定の要件を満たしたときしか許されない。しかしある監視カメラはこの要件を満たしていないから違法であるとして撤去を命じたのである」と解説する。

また2016年7月の参院選前後に大分県別府警察署が、野党の支援団体が入る私有地に無断に監視カメラを設置した捜査方法を違法だとして抗議する、日弁連の会長声明の中でも、こう説明されている。「殊に、宗教施設や政治団体の施設等、個人の思想・信条の自由を推知し得る施設に向けた無差別撮影・録画は、原則的に違法である。このことは、労働運動等の拠点となっている建物に向けた撮影・録画を前提とせずに単なるモニタリング(目視による監視)の目的で設置されただけの大阪府警の監視カメラの撤去を命じた大阪地裁平成6年4月27日判決(その後、最高裁で確定)からも明らかである」。

朝、「特掃」の輪番を待つ人達でごった返す西成労働福祉センターの仮庁舎内。高齢者が多い

今回逮捕のきっかけとなった監視カメラは、もとは南海電鉄高架下のセンター仮庁舎の東側の道路と駐車場に向けて設置されていた。現場は、早朝から多くの労働者が仕事を求めて集まるが、「特掃」(高齢者特別清掃事業)の輪番紹介が始める8時過ぎには高齢者も含めてごったがえす場所だ。しかも、約200メートルの道路には信号機もなく、警備員が「車来るぞ!」と声をかけあうだけ。そうした危険な場所を監視し、事故など起きた場合に備えて設置された監視カメラが、ある日「センター開けろ」と訴える人たちの団結小屋に向きを変えられた。

それについて釜合労や釜ケ崎公民権運動が抗議し、説明を求めたが、大阪府は「センターを管理するため」というだけだった。しかし、センターのシャッター前で野宿する人たちが何者かに襲撃されたり、テントに火をつけられても、犯人は一向に逮捕されてはいない。あれだけ鮮明な画像を証拠に仲間を逮捕したくせに、ほかの犯人は分からないというのか。こうしたことからも、監視カメラが狙うのは「センター閉めるな」「シャッター開けろ」と訴える人たちを監視し、威圧するためのものであることは明らかだ。

しかも新型コロナウイルスの感染拡大が懸念される今、気密性が高く換気が悪い上、狭い場所に大勢の人たちを詰め込むシェルターなどではなく、広々として通気性の良いセンターなどを、早急に開放することが必要だ。

新型コロナウイルス感染拡大を防ぐための自粛要請の影響で、今後仕事をなくし路頭に迷う人たちが、リーマンショック後より遥かに多いと予測されるが、そうした生活困窮者が最後の拠り所として集まってくるのが、釜ヶ崎だ。そのような釜ヶ崎で、「町をきれいにしよう」「ゴミをなくそう」と訴える「安心・安全のまちづくり」キャンペーンにより、野宿する人たちが、ふたたび少年らに襲撃されてしまうようなことが起こってはならない。

JR大阪駅の高架下で野宿者を襲撃した少年の1人は、 野宿者を「俺たちと全く違う世界の人間と思っていた」と証言したが、それは違う!「野宿者も私たちと同じ人間。差別や排除してはいけない」。そう教えていくのが、私たち大人の責任だ。

▼尾崎美代子(おざき みよこ)

新潟県出身。大学時代に日雇い労働者の町・山谷に支援で関わる。80年代末より大阪に移り住み、釜ケ崎に関わる。フリースペースを兼ねた居酒屋「集い処はな」を経営。3・11後仲間と福島県飯舘村の支援や被ばく労働問題を考える講演会などを主催。自身は福島に通い、福島の実態を訴え続けている。
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「西成あいりん総合センターをつぶすな」の闘いに新たな動き ── なぜ、センター仮庁舎付近だけ耐震補強工事をしないのか?

◆「仮処分決定」で、再び強制排除されるのか!

大阪市西成区、JR新今宮駅前の「あいりん総合センター」(以下、センター)で続く「センターつぶすな」の闘いに新たな動きがあった。センターは、昨年3月31日閉鎖予定だったが、当日抗議する仲間が多数集まり、閉鎖できなかった。4月1日以降、センターでは労働者、支援者らの自主管理を続けてきたが、4月24日、国と大阪府は機動隊を使い、暴力的に排除した。しかしその後も、シャッター外に作られた団結小屋を中心に「センターつぶすな」の闘いが続いている。

そんな中、2月5日の午後、大阪府の職員と大阪地方裁判所の執行官らが警官を多数引き連れセンターにやってきて、周辺に野宿する人たち一人一人に、「仮処分決定」の書類を渡し、テント前の敷地に「公示書」を釘で留めていった。

以下の写真はその1つだが、稲垣浩氏(釜ヶ崎地域合同労組委員長)以下15名の名前が掲載されている。大阪府と裁判所は、すべてを稲垣氏のせいにする気なのか?

野宿者の寝床の前に釘で打たれた公示書
同上写真にある公示書(拡大)

◆「センターつぶすな」住民訴訟で明らかになった「南海電鉄」の杜撰な安全管理

「センターつぶすな」の住民訴訟(公金違法支出損害賠償等請求事件)の第6回期日が、2月3日大阪地裁で開かれた。この裁判は、センターの建て替えに伴い、南海電鉄高架下に作られたあいりん職安と西成労働福祉センターの仮庁舎の建設費用が、適正か否かを争うものだ。原告はこれまで、仮庁舎が、安全性が保証されない南海電鉄高架下に建設されたこと、しかも工事が「入札」でなく、合理的な理由がないまま、南海辰村建設と随意契約したことの違法性などを主張してきた。

前回原告が、大地震が起きた際、南海電鉄が倒壊する危険性について主張したところ、何も答えられない被告・大阪府に対して、裁判長が「上に電車が走っているので大丈夫でしょう」などと助け船を出す場面があった。裁判長は、25年前の阪神淡路大震災で起きたことを知らないのだろうか? そのため、今回弁護団は、25年前の阪神淡路大震災で、高速道路が倒壊するなどの甚大な被害が発生したこと、その後運輸省(当時)がまとめた「緊急耐震補強計画」の提言と通達、そうした耐震工事が南海電高架下の仮庁舎でも実施されなければならなかったと主張する「第4準備書面」を裁判所に提出した。

阪神淡路大震災で倒壊した高速道路
阪神淡路大震災で倒壊した鉄道高架橋

1995年1月17日に発生した阪神淡路大震災は、震度7、マグニチュード7・3、死者は6,434人にのぼった。書面には、この地震により、多くの建物が倒壊した。更に阪神高速3号神戸線の鉄筋コンクリート橋脚が倒壊したり、山陽新幹の高架橋が8ケ所、在来鉄道では24ケ所が落橋したこと、東海道本線でも甚大な被害が出たことを当時の写真とともに記されている。

運輸省(当時)は、震災の翌日、鉄道施設耐震構造検討委員会を設置し、7月26日「既存の鉄道構造物に係る耐震補強の緊急措置について」をとりまとめた。またこの方針に基づき、既存の鉄道構造物の緊急耐震補強計画の策定などを、全国の鉄道事業者へ通達し、その運用について指導した「解説」を出された。その「解説」によれば、阪神淡路大震災の被害の特徴は、高架橋の柱などが「せん断破壊」をおこし、高架橋が落橋したことにあるとして、緊急措置として、構造物の崩壊を避けるための耐震補強を行うこととした。被害の多かった京阪神地域を優先的に対処したうえで、新幹線、輸送量の多い線区(ピーク時、1時間の列車本数が10本以上の線区)などを対象にするとされ、実施期間はおおむね5年とされた。

ただし、高架下については「間仕切り壁」などの設置により耐震効果のある構造になっているものなどについては、対象外とするとされた。補強方法としては、鋼板巻き立て工法などがあげられていた。

◆なぜ、センター仮庁舎付近だけ耐震補強工事をしないのか?

では仮庁舎が入る南海電鉄高架下はどうか? 税金7億5千万円を投入した仮庁舎で、開業から2ケ月後雨漏りが始まったことは、これまでここで紹介してきた。構造物にどのような欠陥があるのだろうか?

南海電鉄は、25年前、運輸省から受けた「通達」に基づき、耐震補強工事を実施しなくてはならない線区に該当していたが、おおむね5年とされた期間を2十年近く過ぎて、最近ようやく難波駅と今宮戎駅の間や、萩之茶屋駅の南側で「鋼板巻き立て工法」による耐震補強工事を実施した。しかしその工事が、仮庁舎付近では行われていないのだ。

被告・大阪府は、その理由を「その場所は耐震補強の対象外である」と反論してきた。「まちづくり会議」で、南海電鉄の耐震性に疑問の声があがった際も、識者は「南海に確認したところ、今回仮移転の検討を進めている場所は、耐震化の対象外」と返答していた。データなどの提示を求めた委員に対して、府の職員は「南海電鉄を信用できないのか?」と言い返す場面もあった。

◆二重に危険な仮庁舎に労働者を閉じ込めるな!

何故センター仮庁舎付は対象外なのか? 25年前の通達では、間仕切り壁などが設置され、耐震効果がある場合は対象外とある。しかし、仮庁舎が建設される際、間仕切り壁は撤去されている。センター建て替えに反対し、連日工事現場を監視していた稲垣氏も、それを確認している。高架下で間仕切り壁を撤去して商店などにしていた個所は、この間順次「鋼板巻き立て工法」で耐震補強工事を行っている。

現在、仮庁舎がある高架下は、二重の意味で危険だということ。つまり、仮庁舎建設のために、間仕切り壁などを取り払ったことで耐震補強の対象外でなくなったうえに、耐震効果のない仮庁舎を建設したことで、鋼板巻き立て工法による耐震補強工事ができなくなってしまったからだ。

こうした理由からも、あいりん職安と西成労働福祉センターの仮移転先を、南海電鉄高架下に選んだことは、不適切だったことは明らかである。

2月3日の裁判では、この点について、南海電鉄に対して、調査を求めるための「調査嘱託申立書」を提出、裁判官はこの申し立てを認め、大阪府に回答を提出するよう求めた。

◆さらに秘密会議化する「まちづくり会議」

1月27日、西成区役所で再開された「まちづくり会議」(労働施設検討会議)でこんなことがあったと、委員の稲垣氏が組合ビラで報告している。「ところでこの日、全委員が受け取った資料の中に、センターつぶしに加担する学者を含め約20人のまちづくり会議のメンバー他が、今年1月8日に、沖縄県那覇市にあるグッジョブセンター沖縄(就労支援の窓口)に見学に行ったときの報告書(A4の紙の裏表に書かれたもの)がありました。見学には朝日新聞の記者まで同行していました。釜合労はそんな見学があったことを知りませんでした。

会議の終わりころになって、見学に参加した白波瀬桃山学院大学社会学部准教授がこの報告書について説明をおこないました。説明を終えた後、白波瀬氏がこれは公表しないでほしいという意味のことを言い、その理由として『相手方に了解を得ていないから』というので、釜合労稲垣は『公表できないものは受け取れない』と言って持ち帰ることを拒否しました。すると白波瀬氏が稲垣の座る席まできて、返すように言って手を差し伸べてきたので、その報告書を返し、『この会議は秘密会議ではない。公表できないなんておかしい』と強く抗議し退席しました。過去47回会議がありましたが、公表してはならない資料が配られたことは、釜合労が知る限り一度もありません」(2月3日付け釜合労チラシより抜粋)

どういう目的のツアーだったか、お金はどこから出たか、あるいは自費なのかなどは不明だが、表に出してはならないような資料が出るなど、まちづくり会議がますます「秘密会議化」していることだけは明らかだ。「誰も排除しない」ではなかったのか?

全国の皆さんには、改めて釜ケ崎がどうなっているかにご注目いただきたい!

センター北側に作られた毛布箱には、全国から毛布が送られている

▼尾崎美代子(おざき みよこ)

新潟県出身。大学時代に日雇い労働者の町・山谷に支援で関わる。80年代末より大阪に移り住み、釜ケ崎に関わる。フリースペースを兼ねた居酒屋「集い処はな」を経営。3・11後仲間と福島県飯舘村の支援や被ばく労働問題を考える講演会などを主催。自身は福島に通い、福島の実態を訴え続けている。月刊『紙の爆弾』2020年1月号には「日本の冤罪 和歌山カレー事件 林眞須美を死刑囚に仕立てたのは誰か?」を、『NO NUKES voice』22号には高浜原発現地レポート「関西電力高浜原発マネー還流事件の本質」を寄稿
◎著者ツイッター(はなままさん)https://twitter.com/hanamama58

月刊『紙の爆弾』2020年3月号 不祥事連発の安倍政権を倒す野党再建への道筋
『NO NUKES voice』22号 尾崎美代子の高浜原発現地レポート「関西電力高浜原発マネー還流事件の本質」他

密室で決められる「まちづくり」で釜ヶ崎の労働者はどうなるか? 

2019年12月23日、西成区役所で開催された第46回目の「まちづくり会議」で、あいりん総合センターの跡地に、労働施設をどう配置するかの話し合いが行われ、現在南海電鉄高架下に仮移転する「あいりん職安」と「西成労働福祉センター」が、跡地南側に建設されることが決まった。

駅前の北側には、屋台村を作る構想が4日後明らかにされた。かつて大阪市長だった橋下徹氏が「労働者には遠慮してもらう」といった通りの案が決まったというわけだ。「これまでの46回の会議は何だったのか?」。会議に参加する釜ヶ崎地域合同労組の稲垣氏は、呆れ顔でそう話す。まちづくり会議が発足する際、地区内で活動する様々な市民団体、労組らに声がかかったが、稲垣氏には事前に役所の職員が、会議の座長・鈴木亘氏(学習院大学教授)に面談させていた。「検討会議に入れるかどうかの『面接』やったと思う」と稲垣氏。

昨年4月1日から始まったセンター1階の自主管理は機動隊や府の職員に強制排除される4月24日まで続けられた
広々したセンター1、3階では、昼間段ボール敷いて横になる人たちが約80~100人ほどいた

一方、釜ヶ崎医療連絡会議の大谷隆夫氏は、誘いを断った理由を、シンポジウム「日本一人情のある西成がなくなる?!」(2019年1月5日)でこう語った。

「大阪市が釜ヶ崎の労働者の住民票を2007年に一斉に台帳から消し、住民票をなくしました。それまで野宿の人は、基本的には稲垣さんの組合の住所で住民登録ができた。それ以降、そうした場を認めなくて、結果として選挙権など当たり前の権利がない状態が続いていた。私たちは『それはおかしいやろ』「野宿者も選挙できるような対応をとれ」と選挙のたびに(投票所前で)訴えてきた。それが『威力業務妨害』にあたると大阪市が告発して、2年後の2011年4月5日、私たちが逮捕されました。起訴された4人は4ケ月程拘束され、裁判で有罪になりました。そんなことをやる大阪市と同じ机で話をするからといわれても、立場が違うわけです。それで私はお断わりしました」。

また同シンポで、稲垣氏は、非公開の会議について「司会は福原宏幸という大阪市大の教授だが、全体は大阪市、大阪府、国が青写真を作って、それに基づいて話が進められているという感じ。何言うてもアカンと感じました。私は当初から『センターつぶすな、そのまま使え』と言い続けたが、そういう委員は1人もいない。多数決取ったら35対1で負ける。それでもおかしいと言い続けなくてはならないと思います」と話していた。23日の会議でも、稲垣氏の「センター解体そのものに反対」意見のほか、「南側でなく北側へ」などの意見も出たが、最終的には福原氏がむりやり「労働施設をセンター跡地の南側につくる」とまとめたという。

◆野宿者たちは社会の「病理」なのか?

私が野宿者の存在を知ったのは、新潟から東京に上京してからだ。1982年暮れから83年にかけ、横浜の駅や公園などで野宿者が次々に襲撃され殺傷される事件が発生したが、「浮浪者殺傷事件」よばれるように、当時彼らは野宿者と呼ばれてはいなかった。逮捕された少年らは警察の取り調べに「横浜をきれいにするため、ごみ掃除した」などと供述した。野宿者=浮浪者=社会のごみという極めて差別的な表現が社会全体に蔓延していたのだ。

一方、彼らの多くが「ヤンマー」「イセキ」という、田舎の農家の人たちも良く被る農機具メーカーのロゴ入りの帽子を被っていたことに気づいた私は、「何か関係あるのか?」と考え、古本屋を回り、江口英一氏「山谷―失業の現代的意味」(専修大学社会科学研究叢書)をみつけた。そこには彼らの多くが地方から出稼ぎで都会に出てきたのち、様々な理由から困窮し、故郷へ帰れなくなり、山谷など寄せ場へ、そして野宿生活に転落していく経緯などが分析されていた。

バイトに明け暮れ、授業にほとんど出席していなかった私だが、急きょこれをレポートにまとめ、ゼミで発表した。しかし教授からは「それは社会病理の問題だから」のひとことで片付けられてしまった。「社会病理」? それは、かれらを襲撃し、ぼろ雑巾のように公園のゴミ箱へ放った少年らの発想と同じではないか?

谷町四丁目にある大阪労働局(国)に何度も押し掛け「シャッター開けろ」と訴えてきた

◆釜ヶ崎の労働者と、その運動の蓄積を否定する学者たち

大阪全域に貼ってある大阪維新のポスター

大阪維新の特別顧問となり、「西成特区構想」-まちづくり会議の座長を務めた鈴木亘氏は、インタビューで「どん底でしたね。ホームレスがあふれ、不法投棄ゴミが散乱し、昼から酒飲んで立ち小便してる。町全体が臭気のドームでした。すべての社会問題を放り込んで、フタしてグツグツ煮えたまま放置されてる、まさに闇鍋状態。衰退しきったスラムでした。」と話している。「生活保護者や野宿者のいる町は汚い」「危険」だから、警察とともに「クリーンキャンペーン」をやろう、監視カメラも増設しようという、これもまた非常に差別的な「社会病理学」に基づくものではないか。

一方、大阪府立大教授の酒井隆史氏は、冊子「ジェントリフィケーションへの抵抗を解体しようとする者たち」で、同じく釜ヶ崎にかかわりながら、労働者を「病理」とみなすような、岸政彦氏(立命館大学院教授)と白波瀬達也氏(桃山学院大准教授)の対談(「中央公論」2017年7月)をこう批判している。

「この対談では、すでに退けられたと思われていた『社会病理学』視点が復活していることがあると思われます。『社会病理学』視点とは、釜ヶ崎の貧困や労働者の生活様式、日常的ふるまいなどを『病理』とみなし、それを『正常化する』ことで対応をすすめる言説です。このような知的様式は、戦後のある時期までは強かったのですが、やがて差別的であるとして後景に退けられました。そこにはもちろん、自分たちは『治療すべき病理』ではないと主張してきた釜ヶ崎の労働者と、その運動の蓄積があります。さらにそれを受けて、釜ヶ崎の労働者を(対処すべき客体ではなく)主体とみなし、そしてその提起を、むしろ主流社会がみずからの「病理」のきづくきっかけとして受け止めるといった、研究者や活動家の態度の転換があったと思います。彼らの言説は、そのような歴史を逆行させるものであるようにもみえます」。

原口剛・神戸大准教授も同様にこう批判する。

「青木秀男らにより切り開かれた寄せ場学は、社会病理学の知が、労働者に対する差別や抑圧と表裏一体のものであることを告発した。そうしてそれらの土地やそこに生きる労働者を差別的にまなざす市民社会にこそ、『病理』を見出す視座を獲得したのである。またそれらの知は、市民社会の代理人たる研究者のまなざしをも厳しく批判し、研究者とはいかなる存在なのかを問うた。このような問いは、決して過ぎ去ったこととして片づけられるものではない。いやむしろ、3・11を経て研究者の『御用化』がなし崩し的に進行する現在であればこそ、ますます問われなければならない。にもかかわらず白波瀬は、社会病理学の差別的まなざしに『違和感がある』と申し添えるのみで、その知見を大々的に採用してしまう。『貧困と地域』を依り代として、かつての社会病理学は傷を負うことなく現在へと回帰してしまう。その代償はあまりに大きい。かつて『発見』されたはずの労働者の像が、かき消されてしまうのだ」。

◆使えなくなったら、「どこかへ消えろ」というのか?

令和に年号が変わったとき、おっちゃんが書いた「この国は冷和(つめたいわ)」

岸氏は、以前SNSで「釜ヶ崎のおっちゃんたちは高齢化して生活保護をもらいマンションに。ドヤにはかわって中国人と就活中の若者が宿泊する。いまの日本でだれが一番貧しいか、釜ヶ崎に来るとよくわかるな(笑)」とつぶやいていた。

現実を知っているのだろうか。生活保護を受ける人の多くは、未だドヤを少し改造した程度の安アパートに居住しているし、月末ともなれば、激安スーパー玉出のひと玉19円のうどんを炊いて凌ぐ人も多い。しかも大阪維新は、保護費を削減したり、難癖つけて生活保護を辞退させている。「生活保護受けて畳に上がれたから幸せ」だけでもない。「働かない怠け者」「税金泥棒」という根強い偏見や不安に晒される現状は変わらず、生活保護費の支給日に自殺した人も知っている。

そうした人たちのささやかな楽しみの一つが、センターで安いワンカップを飲み、仲間と談笑することなのに……。そんな憩いの場を奪うのが、大阪維新の「西成特区構想」──センター解体攻撃なのだ。

「センターつぶすな!」「シャッター開けろ!」。私たちは今年も諦めない。

▼尾崎美代子(おざき みよこ)

新潟県出身。大学時代に日雇い労働者の町・山谷に支援で関わる。80年代末より大阪に移り住み、釜ケ崎に関わる。フリースペースを兼ねた居酒屋「集い処はな」を経営。3・11後仲間と福島県飯舘村の支援や被ばく労働問題を考える講演会などを主催。自身は福島に通い、福島の実態を訴え続けている。月刊『紙の爆弾』2020年1月号には「日本の冤罪 和歌山カレー事件 林眞須美を死刑囚に仕立てたのは誰か?」を、『NO NUKES voice』22号には高浜原発現地レポート「関西電力高浜原発マネー還流事件の本質」を寄稿
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7日発売! 2020年もタブーなき言論を! 月刊『紙の爆弾』2020年2月号
『NO NUKES voice』22号 尾崎美代子の高浜原発現地レポート「関西電力高浜原発マネー還流事件の本質」他

「あいりん総合福祉センター」監視カメラに対する威力業務容疑で二度目の不当弾圧! 警察・行政が一体で進める「まちづくり」でだれが排除されてきたか?

◆二度目の不当弾圧を許すな!

11月26日、大阪府警・西成警察署は、「あいりん総合福祉センター」(以下センター)北西角の監視カメラに対する威力業務容疑で、計4名5ケ所で家宅捜索を行った。11月6日の4名逮捕に続く二回目の弾圧だ。

「あいりん総合福祉センター」の監視カメラ

先の逮捕容疑は、5ケ月前の5月31日、前出の監視カメラに軍手を被せたというものだ。釜ケ崎では、4月1日「センター閉めるな」と訴える人たちが、閉鎖を断念させ、その後自主管理が行ってきた。4月24日大阪府警と国、府が暴力的に排除してきたが、それ以降も団結小屋を拠点に活動が続いている。

問題の監視カメラは、もとは西成労働福祉センターの業者用駐車場に向けられていたが、その後労働者や支援者が多数出入りする団結小屋に向きを変えていた。周辺には野宿する者も多数いるのに。労働者と支援者らは、「プライバシーの侵害、団結権の侵害だ。向きを変えろ」と申し入れてきたが、向きを変えることなく、逆にカメラに軍手を被せただけで逮捕となった。

反弾圧を闘う大勢の仲間の力で、4名は2泊3日で全員釈放された。検事が裁判所に勾留を求め、裁判所が認めなかった決定書には、「同種事案の中では軽微な部類に属する」と書かれてあった。確かに、軍手を被せただけで、カメラを棄損したり、向きを勝手に変えてはいない。今回の弾圧は、5月31日後、再度監視カメラにスーパーのレジ袋を被せたことへの弾圧だというが、前回、長期勾留の嫌がらせに失敗した警察は、さすがに逮捕は出来なかった。

◆警察・行政一体で進む「まちづくり」で、だれが排除されてきたか?

釜ケ崎での一連の不当弾圧は、この間、国と大阪府・大阪市、そして大阪府警が一体になって進める「西成特区構想」を進める過程でおきている。じつはこうした動きは、2011年4月5日、7名が逮捕された釜ヶ崎大弾圧から始まっている。その後4名が「威力業務妨害」で起訴され、裁判で全員に有罪判決が下された。逮捕容疑は、前年2010年7月11日、萩之茶屋小学校で行われた参議院選挙の投票会場で、投票業務に従事している市職員らの業務を妨害したというものだった。

これら夢のような構想はどこへいったのか?

さらにさかのぼる2007年3月、大阪市は、釜ヶ崎地域合同労組が入る「釜ヶ崎解放会館」に置かれていた約2000名余りの住民票を、職権で削除するという暴挙を行った。釜ヶ崎にはドヤや飯場を行き来するため、住民票を置く場所がない者も多く、住民票がなければ、健康保険や免許証が取れない、仕事に必要な携帯電話も購入できないと、困った労働者らが行政に相談したところ、「解放会館へ(住民票を)置けばいい」と指導され、そのやり方が30年以上も常態化していた。

そうしたなか、突然住民票が奪われたのだ。4月の統一地方選挙で投票できないことを危惧した組合や支援者らが、2010年7月11日にも、参議院選挙が行われた萩之茶屋小学校前に出向き、選挙権をはく奪された野宿者の選挙権回復を求めると共に、検挙権を回復する可能性のある人たちに対して、投票業務に従事している市職員らが適正に対応するか監視する活動を行ったのだ。こうした全く正当な行為が、「威力業務妨害」とされ、弾圧されたのであった。

じつは同じ時期、センター周辺と西成警察署裏の屋台が相次いで強制撤去されている。センター周辺の屋台については、年に数回、市の職員と屋台関係者が共同し、屋台周辺の消毒作業をやることで、容認されてきたし、警察署裏の屋台についても、関西電力が屋台毎に正式に契約しメーターをつけるなどしており、営業は事実上容認されてきた。それがいきなりの強制撤去である。屋台で何十年も生計をたてていたおばちゃんらは、「暮れにいきなり閉めろなんて、正月も越せない。せめて次の準備をする時間をくれ」と交渉し、数ヶ月延ばしてもらった。

こうして野宿者と屋台、露店商、そしてヤクザが次々と排除されてきた。この間、ヤクザ、暴力団を反社会的勢力と呼ぶようだが、私はそれには反対だ。「反社会的」の意味が恣意的に拡大され、弾圧の対象範囲をも拡大する危険性を伴うからだ。

釜ヶ崎では長年にわたり、ヤクザと警察はズブズブの間柄だった。当時、三角公園の周辺にずらりと並ぶノミ屋(違法賭博場)の前には、シケハリと呼ばれる見張り番が立っていたが、軽らの警察官が回ってくると、一斉に「ごくろうさまです」と挨拶していた。違法賭博場であることは周知の事実だが、取り締まらず、なかには笑顔で答える警官もいた。1990年には、西成警察署の署員が、暴力団から賄賂を貰ったことが発覚したことに端を発する暴動もおこっているほどだ。こうしてヤクザを利用したり、違法でも放置してきたくせに、「コンプライアンス」云々が叫ばれたり、不必要、邪魔となったら、いきなり首をきる、「ケチって火炎瓶」として話題になった安倍晋三とヤクザの関係と同じではないか。

西成警察主導の「あいりんクリーンキャンペーン」。後ろで手を組む警察官が並ばせた労働者を怒鳴り付けていた

◆次々に弾圧されるのは、大阪維新の進める「まちづくり」に邪魔な人たちだ!

今回の一連の弾圧の背景には、大阪維新の「西成特区構想」で進められる「まちづくり」が大きく関係している。大阪維新は、釜ヶ崎の労働者の唯一の「寄り場」であるセンターをつぶし、広大な更地を確保し、ひと儲けしようと企んでいる。「耐震性に問題がある」として、労働者の「寄り場」は無理やり閉鎖されたが、その上の医療センターは未だに通常営業し、多くの患者が入院している。「危険なセンターにおっちゃんを閉じ込めていいの?」などと言いながら、患者はどうなってもいいのか? しかも「耐震性に問題がある」とセンターをつぶす一方で、耐震性に問題のない第二市営住宅までつぶすという。それも税金を使ってだ。それもこれも使い勝手のいい、きれいな「台形」の更地が欲しいからにほかならない。

かつてゆっくり横になれたスペースはもう作られない

有識者や地域の「代表」らが集まって、その台形に、どんな町をつくろうかという様々な会議が、長年税金を使って行われてきた。10月28日開催された「第45回労働施設検討会議」の議事録(案)によれば、今のところ、その台形の更地に作られる予定であるのは、南海電鉄高架下の仮庁舎に移された国の管理する「あいりん職安」と、大阪府が管理する「西成労働福祉センター」だけのようだ。面積はほぼ、仮庁舎と同じ、つまりもとのセンター内にあった、ゆっくり横になれるスペースや水飲み場、シャワー室、洗濯場、足洗い場、娯楽室などはないようだ。

一方、新今宮駅前の「地価が高い」北側は、広大な駐車場になるようで、ここにも労働者の居場所はない。かつて道路やビルを作り、日本経済を下支えしてきた労働者が、あるいは生活に困窮した人たちが最後の最後にたどり着き、どうにか命を永らえさせてきた釜ヶ崎は、もう必要ないということなのか? 誰も切り捨てない、排除しない町、差別しない町、それが釜ヶ崎ではなかったのか?

「ジェントリフィケーションにならないように」とまちづくり会議の識者らは言うが、前述したように、すでに排除と弾圧は山ほどやられている。いま狙われているのは「センターつぶすな」と主張する、私たち「邪魔者たち」だ。関西生コンへの不当な弾圧など、あらゆる権力の弾圧と闘う皆さん! ぜひ釜ヶ崎の闘いにご注目いただきたい。

▼尾崎美代子(おざき みよこ)
新潟県出身。大学時代に日雇い労働者の町・山谷に支援で関わる。80年代末より大阪に移り住み、釜ケ崎に関わる。フリースペースを兼ねた居酒屋「集い処はな」を経営。3・11後仲間と福島県飯舘村の支援や被ばく労働問題を考える講演会などを主催。自身は福島に通い、福島の実態を訴え続けている。最新刊の『NO NUKES voice』21号では「住民や労働者に被ばくを強いる『復興五輪』被害の実態」を寄稿

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国、大阪府、大阪市と一体となった大阪府警の「11・6釜ヶ崎大弾圧」を許さない! 仲間を取り戻し、11・9「私たちはあきらめない!」集会に80名参加! 次回裁判は11月20日(水)午後2時より大阪地裁1007号法廷で!

西成のJR新今宮駅前に建つ「あいりん総合センター」(以下センター)の建て替え問題が進むなか、11月6日早朝、「センター潰すな!」を訴える稲垣浩さん(釜ヶ崎地域合同労組)ら4名が大阪府警に逮捕された。

容疑は「威力業務妨害容疑」、半年前の5月31日、西成区萩之茶屋1丁目の路上に設置された監視カメラのレンズにゴム手袋をかぶせ、6月4日午後まで撮影できない状態にしたからだという。

私たちは、当日「救援会」を立ち上げ、後藤貞人弁護士らと救援活動を始めた。4人のうち3人は高齢であったり、持病などを抱えていることから、健康面なども心配されていた。

◆大阪府と大阪府警西成警察署の2度目の敗北

11月6日に逮捕されるも8日保釈を勝ち取り、9日の集会で発言する釜ケ崎地域合同労組委員長の稲垣さん

11月8日検察は抗告、準抗告を立て続けに行ったが、裁判官はいずれも棄却、4人全員の釈放が勝ちとられた。稲垣さんらの行動は、別の監視カメラで一部始終が撮影されているため、4人に隠したり、隠ぺいする証拠が何一つないためだ。釈放された稲垣さんにお話を聞いた。

「今回の逮捕は、11月9日に予定していた集会『私たちはあきらめない』への事前弾圧でもあるね。しかもこの間、釜ケ崎の私たちの闘いに関心も集まっている。集会では、それを知ってもらうため、3月31日センター開放闘争の記録、4月24日の労働者に対する大阪府警、国、府の暴力的な強制排除と闘った記録を30分ほどにまとめたビデオを上映しようとしていた。そのあとで、住民訴訟の弁護団の武村弁護士に、裁判の経緯も話して貰おうとしていた。3月11日に南海電鉄の高架下にできたセンター仮庁舎で、5月半ばから始まった雨漏りが、今も止まっていないこと、80年以上経った南海電鉄の老朽化が進み、倒壊の危険性もあることなどを話していただく予定でした。国と大阪府、大阪市はセンター建て替えの理由を『センターの耐震性に問題がある』と言っていますが、南海電鉄も危険ではないか、ということです。
 今回の逮捕については、『なんで、こんなことで逮捕されるのか?』と呆れていた裁判官もいたと弁護士に聞きました。監視カメラについては、私は前から批判してきたし、組合事務所の前につけられたカメラを、裁判で訴え、撤去させたこともある。今回はセンターから出された仲間が団結小屋を作ったら、カメラの向きが小屋側に変えられた。私がセンターでの朝の情宣で話しているが、自分の家や部屋に監視カメラが向けられたら,誰でも嫌でしょう?それと同じ。団結権や肖像権の侵害です。だから私はどうしても許せなかった。でも私たちはカメラ壊したり、向きを変えてはいない、手袋をかぶせただけです。すぐにとればいいものを、何日も放っておいて、5ケ月後に逮捕なんてありえません。大阪府警と西成警察署の、3月31日、センター閉鎖の際、労働者や支援者の闘いを甘くみたことによって敗北にしてます。今回は二度目の敗北ですよ」(稲垣さん)。

◆わたしたちに肖像権はないのか?

団結小屋に向けられた監視カメラ

5月31日稲垣氏らが抗議のため、カメラに手袋をかぶせたという監視カメラは、センターの北西側に立っている。もとは、南海電鉄高架下に建設されたセンター仮庁舎の前の道路に向けられていたカメラだ。

ここでも報告してきたが、センターは、建て替えに伴い、3月31日閉鎖予定だったが、センターをつぶすなと訴える釜合労や釜ヶ崎公民権運動のメンバーらの呼びかけで、300人以上の労働者、支援者らが集まり、閉鎖を阻止してきた。翌日から自主管理が始まり、約80名の人たちがセンター内で寝起きしていたが、4月24日、大阪府警の機動隊約200名が労働者を暴力的に排除したが、それ以降も私たちは、センター北西側に団結テントを建て、野宿者の見回り、共同炊事、寄り合い、秋祭りなどを行ってきた。よそからも大勢の人たちが支援に来てくれた。そうしたなかで監視カメラは団結小屋に向きを変えた。

私たちも黙っていたわけではない。4月から6月にかけ、谷町4丁目の大阪労働局(国)を何度も訪れ、申し入れを行い、「肖像権や団結権の侵害だ! 監視カメラの向きを変えろ!」と要求してきた。

新聞報道では放火が続いたためにとあるが、放火どころか、野宿者への襲撃も相次いでいた。放火も襲撃も、センターから放り出され、仕方なく周辺で野宿を始めて以降多発している。こうした背景には「野宿者は汚い。町の恥だ」などという差別的で誤った情報が宣伝されていることがある。行政も、こうした差別的な宣伝には「安全・安心のまちづくりを!」と加担するが、「襲撃をやめよう!野宿者の人権を守ろう」という宣伝はしない。このことの方がよほど問題だ。

しかも監視カメラがあることで、襲撃が減ったわけではない。つい最近もテント近くで野宿する仲間が、襲撃された。行政と西成警察は、監視カメラに抗議した仲間を不当に逮捕するのではなく、野宿者を襲撃、放火などで攻撃する連中をちゃんと取り締まれ。

◆大阪維新の「西成特区構想」まちづくりから排除される人たち

なぜ、今、逮捕なのか? 大阪維新は「西成特区構想」で、センターを潰して出来た広大な更地に、新たな「まちづくり」をやろうとしている。このプログラムに西成警察署が入り、監視カメラが大幅に増設されたうえ、西成警察が主導する「クリーンキャンパーン」に住民を動員し、「きれいなまちづくり」「安全・安心のまちづくり」を訴え、結果として野宿者排除を後押ししてきた。

「まちづくり会議」は現在「あいりん総合センター跡地などの利用検討に向けたワークショップ」を進め、結果を年内に出すという。先日、そのワークショップに呼ばれた稲垣さんが、「あいりん総合センター跡地等に望むむこと、望むもの」と書かれた模造紙に紙を貼ることを拒否し、「センター潰すな」の立場からの意見を欄外に添付したところ、次の会議で意見が意図的に封殺されたことがわかったという。

「まちづくり会議」に集まる人たちは、西成警察の「覚せい剤撲滅!キャンペーン」でヤクザ、暴力団を排除し、「クリーンキャンペーン」で野宿者らを排除し、今度は「センター潰すな」と声をあげる私たちを排除しようとしている。釜ケ崎から労働者や弱者を排除したい大阪維新と共に……。

◆集会「私たちはあきらめない」に80名の参加!

11月9日(土)、西成市民館で開催された「私たちはあきらめない! センターつぶすな!」の集会には、約80名もの人たちが集まった。「シャッター開けろ」運動の報告を稲垣さんらが行ったあと、住民訴訟の弁護団・武村二三夫弁護士が裁判の経過を報告した。前述したセンター仮庁舎の雨漏りが止まらない件について、「みっともない話である」として、南海電鉄の橋脚自体が非常に危険ではないかと指摘された。

逮捕直後から支援いただき、集会には、先日釈放された西山直洋さんがかけつけてくれた

センター建て替えは「耐震性に問題がある」との理由だったが、では南海電鉄はどうなのか? 住民への説明会で大阪市は、「南海電鉄が大丈夫と言っているから(大丈夫)」と説明したが、南海電鉄と大阪府、大阪市のやりとりのなかで、南海電鉄側が「強度は全く保障しない。それでもいいのであるならば使ってください」と言っていることが、情報公開で明らかになった。

阪神淡路大震災の際、鉄筋コンクリートが倒壊することがわかったが、その後、各地で橋脚などを補強工事が進められた。実は南海電鉄も今、橋脚の強度を強めるため、柱に鉄板をまく工事を行っている。場所は、センター仮庁舎から北側の難波寄りと、南側の萩之茶屋駅近くなどだ。

この補強工事は、センターとあいりん職安の仮庁舎だけ行われていない。ここだけ強度が高いとは考えられないが……。住民訴訟は当初、仮庁舎の建設費用(公金)が高すぎることを問題にしていたが、それだけではなく、仮庁舎自体がぜい弱で危険であることがわかってきた。住民訴訟に、多くの皆さんのご注目を頂きたい。これは、大阪都構想を狙う大阪維新の野望を、末端で突き崩す闘いでもあるからだ。
 
次回裁判は11月20日(水)午後2時~。大阪地裁1007号法廷で。

▼尾崎美代子(おざき みよこ)
新潟県出身。大学時代に日雇い労働者の町・山谷に支援で関わる。80年代末より大阪に移り住み、釜ケ崎に関わる。フリースペースを兼ねた居酒屋「集い処はな」を経営。3・11後仲間と福島県飯舘村の支援や被ばく労働問題を考える講演会などを主催。自身は福島に通い、福島の実態を訴え続けている。最新刊の『NO NUKES voice』21号では「住民や労働者に被ばくを強いる『復興五輪』被害の実態」を寄稿

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〈原発なき社会〉を求める『NO NUKES voice』21号 創刊5周年記念特集 死者たちの福島第一原発事故訴訟

西成あいりん総合センター住民訴訟の行方 大阪維新の「西成特区構想」が孕む〈排除〉の思想

◆センター仮庁舎のどうにも止まらない雨漏りの原因は?

センター仮庁舎のどうにも止まらない雨漏りの原因は?

9月20日、大阪地裁で「公金違法支出損害訴訟」(センター住民訴訟)の第4回目の裁判が開かれた。この裁判は、西成あいりん総合センターの建て替えに伴い建設された南海電鉄高架下の仮庁舎の予算が、適正に運用されているかを争うものだ。

今回、原告は書面にて仮庁舎が安全性が保証されない高架下に建設されたこと、合理的な理由がないにもかかわらず、南海辰村建設と随意契約したことの違法性などを主張した。

7億5,000万円の税金を使って建てたセンター仮庁舎で、開業2ケ月後に雨漏りが発生、それが一向に止まらないことは前回報告した。

その後、天井板を交換したり、天井裏に水受けを設置するなどしたが、雨漏りは止まらず、最後はバケツで受けていた。窓枠にも水滴が垂れ、床には吸水シートが敷かれていた。

建設業で働く人からは「屋根の防水工事が施されてないのでは?」「高架の上に降った雨が、スラブ(床)や梁、柱を伝って溢れるのでは?」などの声が出ている。同じ高架下に作られた1階建てのあいりん職安仮庁舎では雨漏りは確認されていない。センター仮庁舎の雨漏りの原因は何か? 仮庁舎でどんな工事が行われたのか?

南海電鉄は、高架からコンクリートが剥落する危険性などを防ぐためとして、センター仮庁舎のコンクリートの劣化が認められた部分に断面復旧材による補修を行い、コンクリートにクリアガードを塗布したという。

工事の詳細は省くが、この工事はコンクリートの気密性や水密性を確保し、鉄筋腐食の進行は抑制できるが、鉄筋の入った、高架を支えるコンクリート構造物の強度そのものを回復するものではない。

設置から81年経過し老朽化した高架下の柱のコンクリートには、無数の細かいクラック(ひび)があるが、空気や水分はこのクラックを経由して鉄筋に到達しうる。高架上の線路から雨水や空気が、クリアガードに遮断されずにコンクリート構造物に浸透していく。

つまり断面復旧材による補修や、クリアガードによっても、コンクリート構造物の気密性、水密性は確保されず、鉄筋腐食は進行していくことになる。じっさい工事後も、コンクリートの亀裂から、鉄の錆を含んだ茶色い水が出ている。

◆耐震工事のやってないセンター仮庁舎は危険ではないのか?

では、南海高架下の耐震性はどうなっているのか? じつは、センター仮庁舎から南へ200メートルいった萩之茶屋駅南側で最近、高架下の柱に重厚な鋼板を張り付ける耐震補強工事が行われている。

同じ工事は、南海電鉄の難波駅や今宮戎駅周辺でも行われてきた。しかし、そうした工事が、センター仮庁舎では行われていない。仮庁舎を決める際の「まちづくり会議」で、南海電鉄の耐震性に疑問の声があがったが、識者からは「南海に確認したところ、今回仮移転の検討を進めている場所は、耐震化の対象外」と返答されている。

更にデータなどの提示を求めた委員に、府職員が「南海を信用できないのか?」と言う場面もあった。腐食が進行しつつある柱を取り込んで建設されたセンター仮庁舎の耐震性は、果たして大丈夫なのか? 劣化した高架下に建造物を建てるならば「耐震化の対象外」とはいえ、大事をとって耐震補強工事を施すべきではなかったか? それをやらずに、工事を急いだのは、何故か?

◆大阪維新の「西成特区構想」にあわせた「まちづくり」が狙うものは?

高架下の安全性など十分考えずに仮庁舎建設を急いだのは、大阪維新の「西成特区構想」の目玉であるセンター建て替えを、新今宮駅前の再開発計画にあわせて進めたいからだ。そのため兎にも角にも労働者や野宿者をセンター周辺から「どかしたい」。これが大阪維新とともにまちづくりを進める人たちの狙いだ。

そのために、センター建て替えの理由を「耐震性の問題」としてきた人たちが、耐震性に疑問の残る仮庁舎に、4~6年、労働者を押し込めようという。おかしな話ではないか。

センター解体の目的が「耐震性」の問題ではないことは、耐震性に問題ない「第二市営住宅」まで解体することからも明らかだ。元市長の橋下氏は、「あいりん総合センターは、解体後、跡地の北半分を駅前再開発に使いたい」と明言していた。センター解体の目標は、そのために、新今宮駅前の広大な更地を確保すること、しかもなるべく使い勝手の良い台形の更地を確保することだ。まだ使える第二住宅を、税金を使って解体するのは、凸凹を平らにするためだ。

センターをつぶした跡地利用案の一例

◆大阪府は、随意契約した南海辰村建設にも責任を負わせろ!

今裁判で、大阪府は、どんなことがあっても南海電鉄に賠償責任を負わせないという免責条項を盛り込む「高架下区画地一時使用計画書」を作成していたことがわかった。

当初3か所提示された仮庁舎の建設場所を、南海電鉄高架下に決めたのち、大阪府は随意契約で南海辰村建設を相手方に選んだ。その理由を大阪府は「高架下にある特殊性により、安全性を配慮して」と述べていた。「高架下にある特殊性により、安全性を配慮して」というからには、随意契約の相手方・南海辰村建設に安心・安全に責任を負わせることが不可欠であるにもかかわらず、大阪府はそれを免責してしまった。しかも、ここで大阪府と南海が、利益相反の関係であることも明らかになった。これは随意契約を原則として禁止する地方自治法234条2項違反ではないのか。

◆日本の経済を末端で支えてきた人たちが、無残に排除されていいのか?

日本最大の日雇い労働者の町・釜ヶ崎は、1970年開催の「日本万博博覧会」に向け、大量の労働力を確保するために、国策で作られてきた。政府は、万博招致が決まった1966年以降、急ピッチで会場の建設・整備工事が進めることとなり、1967年~1969年万博関連の仕事に就く労働者を全国からかき集めてきた。労働者を詰め込めるだけ詰め込むために作られたドヤが、現在も何棟か残っている。

左ホテルの2階の位置の高さに、右ホテルの3階の窓がある

こうして国策で集められた人たちは、その後様々な理由で家族や故郷との離散を余儀なくされ、釜ヶ崎を第二の故郷に選び、生活を続けてきた。高齢化し、生活保護や年金で暮らす人、野宿者、ガードマンや清掃など比較的軽い仕事に就く人などさまざまだ。

日雇い労働者こそ減ったものの、困難は何一つ変わっていない。DVから逃れてきた女性、安宿を求める非正規雇用や派遣労働者、精神疾患を持つなど生きづらさを抱えた人……差別や貧困が拡大する今、釜ヶ崎のような場は、一層必要になってきている。そうした人たちを暴力で「どかして」つくる「まちづくり」とは何かと考えるとき、どこかで聞いたこんな言葉を思い出す。「再開発を決めるのは、いつもどこでも、そこにいない人」。

具体的にそこに住むか住まないではない。まちづくりをいうときに、そうした釜ヶ崎の歴史を踏まえ、誰が主役のまちにすべきかを考えることが重要だ。

「要するに、あっちにできるホテルから、俺たちを見えなくさせたいんやな」。今朝、「センターつぶすな!」のビラを撒いていると、おっちゃんが私にそう言った。JR新今宮駅の向こう側には、星野リゾートの建設が進んでいる。

釜ヶ崎のセンター周辺には、新しい仲間もポツポツ増えている。センター開放行動主催の「秋祭り」は10月27日(日)11時~17時。センター団結小屋周辺で。

星野リゾート建設現場

▼尾崎美代子(おざき みよこ)
新潟県出身。大学時代に日雇い労働者の町・山谷に支援で関わる。80年代末より大阪に移り住み、釜ケ崎に関わる。フリースペースを兼ねた居酒屋「集い処はな」を経営。3・11後仲間と福島県飯舘村の支援や被ばく労働問題を考える講演会などを主催。自身は福島に通い、福島の実態を訴え続けている。最新刊の『NO NUKES voice』21号(9月11日発売)では「住民や労働者に被ばくを強いる『復興五輪』被害の実態」を寄稿

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