7月18日(土)、山梨県甲府市で安保関連法案(戦争法案)に反対するデモが行われた。
コーラーを務める大学生が乗ったサウンドカーを先頭に老若男女150名が、甲府駅北口「よっちゃばれ広場」を出発し、JR中央本線・身延線に架かる跨線橋を渡り、甲府城跡前・甲府駅南口を通り、山梨県庁前で解散という約1時間のコースを行進した。


[動画]戦争いやじゃん 若者怒りのデモYamanashi – 2015.7.18 山梨県甲府市(7分58秒)

この映像を観て、警察官の姿が全く写っていないことに気付いただろうか。もちろん、写さないように撮影したわけではなく、編集で消したわけでもない。単に警察がデモの警備に来ていなかったのだ。
通常、デモの際はその地区を管轄している警察署の警備課や交通課のお巡りさんが警備にやって来て、交通整理やデモ隊の安全確保をする。申請をして許可されたデモの警備は警察の仕事ではあるのだが、場所や人数によっては来てくれないこともある。

これまで取材で全国約460回のデモ行進を見てきたのだが、警察の警備がない状態で行われていたのは「12県15ヶ所」だった。しかもこのほとんどが、車が走っていない歩道を通行する「歩道デモ」だった。
車道を通行する「車道デモ」に警察が来ない例は少なく、宮崎県宮崎市・宮崎北警察署の管轄と山梨県甲府市・甲府警察署の管轄の2ヶ所だけだった。今回のように、デモ隊に車両がある状態で警察ゼロというのは特にレアケースである。

警備の警察官がいないと自分達だけで車の走る車道を歩かなければならず、それなりの警備スタッフも必要だし、交通量の多い車道では恐怖を感じることもある。普段は警察なんてデモの邪魔だと思っていても、デモに警察官が来てくれなかったり、極端に人数が少なくて危なかったりすると、「もっといて欲しい」という気持ちになる。
実際、彼らはプロなので車の整理には慣れていて手際が良い。時には信号操作を行い車道の混乱を最小限に抑えながらデモ隊を進ませてくれる。地域によってドライバーの性質も違うので、信号を操作して一気にデモ隊を通す所もあれば、信号でデモ隊を停める所もある。ついでに言えば、信号で分断されたデモ隊を待って合流させる所もあれば、構わず進めてしまう所もある。このように警察のデモ警備は地域によって全然違うので、普段と違う場所のデモに参加した時は面白いので観察してみて欲しい。


上の写真はサウンドカーとして使っていたトラックの荷台を写したものだ。南国っぽいフラワーリースばかりに目が行ってしまうのだが、ここではそれが飾っている本体に注目して頂きたい。デモで良く見かける大きめの拡声器を4台並べて置いていて、そのうち2台からワイヤレスマイクの音を出し、残りの2台から音楽を流していた。音質はスピーカーには劣るものの、大きな音が出ていたし必要充分な装置であると思った。
非常に簡素なサウンドシステムなので、スピーカーやアンプが不要なので発電機もいらなくて非常に手軽だ。荷台の上は機材らしきものがほとんど見当たらず、誰かの部屋から持ってきたような黒いカラーボックスが水を入れた重しに支えられて置いてあるだけだ。もちろん、これは車が動いている時につかまる為だけにあるわけではなく、棚の上段には音楽を出力しているiPhoneが置かれている、いわばサウンドシステムの心臓とも言える部分なのだ。

そんな手作りで実戦向きのサウンドカーに若者たちは交代で乗り込み、思い思いのスピーチを行なった。

「安倍さん、あなたの仕事はなんでしょうか。
安倍さんの思いを国民に押し付けることではないのです。
国民の思いを聞くことが安倍さんの仕事です。
正直、ちょっとこういうところは慣れていないんですけれど、
自分が何もせずに、『いつかそうなるだろうな』って思ってたっていうのはずるい言い訳だと思ったので、
今日参加させて頂きました」

「この国の主権者は僕たちです。
僕たちが政治を動かすし、僕たちが政治家を動かすんです。
今回、安保法制、衆議院本会議でこないだ可決されましたけど、絶対止めたいと思います。
でも、絶対止められなくても、これ止められなくても、
いやこれ自衛隊海外に出そうとしたらふざけんじゃねえと、
絶対海外に出そうとしたら投票してやんねえぞ、絶対引きずり下ろすぞ、
と圧力をかければいいんです、僕たちが。
僕たちが政治家を動かすんです」

何もできず、見ていることしかできないなんて決して言わない。絶望以外の未来を信じるだけでなく、実際に山梨から国会前で行なわれている抗議にも参加し、こうやって地元でも声を上げている若者がいる。
いや、「自分がやる」と決めた若者たちがここ山梨にもいた。



[2015年7月18日(土)・山梨県]

▼秋山理央(あきやま りお)
1984年、神奈川県生まれ。映像ディレクター/フォトジャーナリスト。
ウェブCM制作会社で働く傍ら、年間100回以上全国各地のデモや抗議を撮影している現場の鬼。
人々の様々な抗議の様子を伝える写真ルポ「理央眼」を『紙の爆弾』(鹿砦社)で、
全国の反原発デモを撮影したフォトエッセイ「ALL STOOD STILL」を『NO NUKES voice』(鹿砦社)にて連載中。

《ウィークリー理央眼》
◎《011》戦争法案に反対する若者たち VOL.6 国会前
◎《010》戦争法案に反対する若者たち VOL.5 鳥取
◎《009》戦争法案に反対する若者たち VOL.4 新潟
◎《008》札幌攻防戦!ヘイトスピーチを撮影せよ!
◎《007》戦争法案に反対する若者たち VOL.3 渋谷
◎《006》戦争法案に反対する若者たち VOL.2 札幌
◎《005》戦争法案に反対する若者たち VOL.1 京都

世代、地域を超えて「新たな脱原発情報ネットワーク」の構築を試みる『NO NUKES voice』