『NO NUKES voice』Vol.23 総力特集〈3・11〉から9年 終わらない福島第一原発事故

本日『NO NUKES voice』23号が発売される。総力特集は「〈3・11〉から9年 終わらない福島第一原発事故」だ。

奇しくも発売日が3・11と重なった。ことしは政府主催の追悼記念式典が、新型コロナウイルスの感染により中止された。いっぽう常磐線が昨日、福島第一原発至近の、大熊町地域でも運転を再開した。

ただし、「避難指示」が解除されたのは0.3平方キロに過ぎない。常磐線の再開は地域の方々にとって、一部福音かもしれないが、わずか0.3平方キロ四方だけを「避難指示」区域から解除する、という政策を3・11に合わせて行う。行政の決定には科学的な根拠よりも、政治的なプログラム進行を優先させようとする意図が透けて見える。

◆終わらない東京電力福島第一原発事故──菅直人元首相が語る、事故から9年の今、伝えたいこと

本号の巻頭インタビューには事故当時の首相であった菅直人氏にご登場いただいた、菅直人氏は事故当時、なにを考え、どう行動したのか。

そして事故から9年後思うことは何なのであろうか。本誌編集長が直接、濃密にインタビューを敢行した。

 

菅直人元内閣総理大臣が語る「東電福島第一原発事故から9年の今、伝えたいこと」

飛田晋秀さん(福島県三春町在住写真家)、横山茂彦さん(編集者・著述業)、尾崎美代子さん(西成「集い処はな」店主)、伊達信夫さん(原発事故広域避難者団体役員)、鈴木博喜さん(『民の声新聞』発行人)、四方田犬彦さん(比較文学者・映画史家)×板坂剛さん(作家・舞踊家)、本間龍さん(著述家)、山崎久隆さん(たんぽぽ舎副代表)、三上治さん(「経産省前テントひろば」スタッフ)、山田悦子さん(甲山事件冤罪被害者)、佐藤雅彦さん(翻訳家)、渡辺寿子さん(核開発に反対する会/たんぽぽ舎ボランティア)、大今歩さん(農業・高校講師)

多彩な執筆陣が原発問題にとどまらず、核から、サブカルチャー、法哲学の分野にまで論を展開する。『NO NUKES voice』は23号にして、飛行機にたとえれば離陸直後の上昇から、水平飛行へと紙面構成においては一定の方向性を定めることができたのではないとも感じている。

しかし、決定的に足らない要素がある。それは若者が主体的にあげる声の誌面への反映である。編集部はこのことについて、怠惰であったつもりはない。論の通った(あるいは論が未成熟でも)若者の声は積極的にとりあげようと、アンテナをはってきたが、近年残念なことに、その発信自体を掴むことが困難になっている。

目を見張るような個性や、優れた感性がなくなったわけではない。しかし、わずかな例外を除いて、若者の発信がわれわれを揺さぶることは、珍しいといわねばならない。

放射能被害にもっとも敏感であるはずの若者からの、総体としての「無関心」には政府や、教育機関の「洗脳」も理由に挙げられようが、はたして、理由はそれだけであろうか。

北村肇元週刊金曜日編集長(のちに発行人)は、「『週刊金曜日』が生き残るために奇跡を信じたい」(『創』2018年・12月号)を遺稿のように、亡くなってしなった。北村氏も誌面作りで「若者をどう取り込むか」散々苦労なさったことが紹介されている。

本誌は、しかしながら、今後も若者への訴求を努力・研究しながらも、現在の発行方針を維持してゆこうと考える。すなはち「われわれが重要だと評価する情報は、広範に誌面に掲載する。その際読者には媚びない」ということである。内情は青色吐息での赤字出版がつづくが、鹿砦社が経営的に危機を迎えるまで、本誌は発行を止めることができない。

3・11から9年目、『NO NUKES voice』23号発売の日にあたり、あらためて、決意を明らかにしたい。

2019年12月15日の大熊町。ツタに覆われた車(飛田晋秀さん口絵「福島原発被災地・沈黙の重さ」より)

▼田所敏夫(たどころ としお)
兵庫県生まれ、会社員、大学職員を経て現在は著述業。大手メディアの追求しないテーマを追い、アジアをはじめとする国際問題、教育問題などに関心を持つ。※本コラムへのご意見ご感想はメールアドレスtadokoro_toshio@yahoo.co.jpまでお寄せください。

『NO NUKES voice』Vol.23 総力特集〈3・11〉から9年 終わらない福島第一原発事故

『NO NUKES voice』Vol.23
紙の爆弾2020年4月号増刊
2020年3月11日発行
定価680円(本体618円+税)A5判/132ページ

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総力特集 〈3・11〉から9年 終わらない福島第一原発事故
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[グラビア]福島原発被災地・沈黙の重さ(飛田晋秀さん

[インタビュー]菅 直人さん(元内閣総理大臣)
東電福島第一原発事故から九年の今、伝えたいこと

[インタビュー]飛田晋秀さん(福島県三春町在住写真家)
汚染されているから帰れない それが「福島の現実」

[報告]横山茂彦さん(編集者・著述業)
元東電「炉心屋」木村俊雄さんが語る〈福島ドライアウト〉の真相

[報告]尾崎美代子さん(西成「集い処はな」店主)
車両整備士、猪狩忠昭さんの突然死から見えてくる
原発収束作業現場の〈尊厳なき過酷労働〉

[報告]伊達信夫さん(原発事故広域避難者団体役員)
《徹底検証》「原発事故避難」これまでと現在〈7〉
事故発生から九年を迎える今の、事故原発と避難者の状況

[報告]鈴木博喜さん(『民の声新聞』発行人)
奪われ、裏切られ、切り捨てられてきた原発事故被害者の九年間

[対談]四方田犬彦さん(比較文学者・映画史家)×板坂 剛さん(作家・舞踊家)
大衆のための反原発 ──
失われたカウンター・カルチャーをもとめて

[報告]本間 龍さん(著述家)
原発プロパガンダとは何か〈18〉
明らかになる福島リスコミの実態と功罪

[報告]山崎久隆さん(たんぽぽ舎副代表)
「特定重大事故等対処施設」とは何か

[報告]三上 治さん(「経産省前テントひろば」スタッフ)
停滞する運動を超えて行く方向は何処に

[報告]山田悦子さん(甲山事件冤罪被害者)
山田悦子の語る世界〈7〉記憶と忘却の功罪(後編)   

[報告]佐藤雅彦さん(翻訳家)
5G=第5世代の放射線被曝の脅威

[報告]渡辺寿子さん(核開発に反対する会/たんぽぽ舎ボランティア)
「日本核武装」計画 米中対立の水面下で進む〈危険な話〉

[読者投稿]大今 歩さん(農業・高校講師)
原発廃絶に「自然エネ発電」は必要か──吉原毅氏(原自連会長)に反論する  

[報告]再稼働阻止全国ネットワーク
老朽原発を止めよう! 関西電力の原発と東海第二原発・他
「特重」のない原発を即時止めよう! 止めさせよう!

《関電包囲》木原壯林さん(若狭の原発を考える会)
「5・17老朽原発うごかすな!大集会inおおさか」に総結集し、
老朽原発廃炉を勝ち取り、原発のない、人の命と尊厳が大切にされる社会を実現しよう!

《規制委》木村雅英さん(再稼働阻止全国ネットワーク)
1・24院内ヒアリング集会が示す原子力規制委員会の再稼働推進
女川審査は回答拒否、特重は矛盾だらけ、新検査制度で定期点検期間短縮?

《全国》柳田 真さん(たんぽぽ舎・再稼働阻止全国ネットワーク)
原発の現局面と私たちの課題・方向

《北海道・泊原発》佐藤英行さん(岩内原発問題研究会)
北海道電力泊原子力発電所はトラブル続き

《東北電力・女川原発》笹氣詳子さん(みやぎ脱原発・風の会)
復興に原発はいらない、真の豊かさを求めて
被災した女川原発の再稼働を許さない、宮城の動き

《東電・柏崎刈羽原発》矢部忠夫さん(柏崎刈羽原発反対地元三団体共同代表)
柏崎刈羽原発再稼働は阻止できる

《関電・高浜原発》青山晴江さん(再稼働阻止全国ネットワーク)
関西のリレーデモに参加して

《四国電力・伊方原発》名出真一さん(伊方から原発をなくす会)
三月二〇日伊方町伊方原発動かすな!現地集会 
レッドウイングパークからデモ行進。その後を行います。圧倒的結集をお願いいたします。

《九州電力・川内原発》けしば誠一さん(反原発自治体議員・市民連盟事務局次長/杉並区議会議員)
原発マネー不正追及、三月~五月川内原発・八月~一〇月高浜原発が停止
二〇二〇年は原発停止→老朽原発廃炉に向かう契機に!

《北陸電力・志賀原発》藤岡彰弘さん(命のネットワーク)
混迷続く「廃炉への道」 志賀原発を巡る近況報告

《読書案内》天野惠一さん(再稼働阻止全国ネットワーク)
『オリンピックの終わりの始まり』(谷口源太郎・コモンズ)

私たちは唯一の脱原発雑誌『NO NUKES voice』を応援しています!

原発事故後に設置されたモニタリングポストが「数値を外から確認出来ない問題」に直面している。

福島県の中で会津地方や中通り、いわき市の避難指示が出されなかった地域に設置されているモニタリングポスト(リアルタイム線量測定システム、以下リアモニ)の撤去計画が白紙撤回されて5月で1年。

住民説明会では「万一の事態が起きた時に、放射線量を一目で確認したい」と設置継続を求める声が相次ぎ、撤去を進めたい原子力規制委員会を押し切った格好だが、一方で保育所や学校などに設置された一部のリアモニが敷地の内側を向いており、外から数値が確認出来ない状態になっているのだ。外から数値が見えるように180度動かすにしても専門業者の力が必要で、国も福島県も市町村もそのための予算措置などしていない。

昨秋の「10・12水害」で水没、故障したリアモニの建て替えも進んでおらず、住民が望んだ形とは異なる姿で「当面の間」の設置継続だけが続いている。

保育所や学校に設置されたリアモニの中には敷地外から数値を確認出来ないものも少なくないが、今のところ外側に向きを変える計画は無い

◆「外から数値が見えないリアモニって、確かに意外と多いんです」

「外から数値が見えないリアモニって、確かに意外と多いんです。そういう視点で街を歩いてみると気付くと思います。しかし、じゃあ向きを変えっぺと、人が何人か集まれば動かせるというような代物ではありません。仮に向きを変えるのなら重機が必要だから専門業者に頼まなければいけない。それはやはり、設置者である国の責任でやるのが筋なのではないでしょうか。国の責任で住民の要望に応えるのがあるべき姿だと思いますよ。でも、現実問題として国が予算措置しているのは、あくまで『維持管理費』です。向きを変えるような工事費用は盛り込んでいません。もちろん、県にもそんな予算はありません」

福島県放射線監視室の担当者は、ざっくばらんにそう語った。原発事故後、学校や保育所、集会所や公園など、子どもたちが集まるような場所を選んでリアモニが設置されたが、「職員や教師、保育士がまず真っ先に数値を確認する」との趣旨から、施設の内側に向けて設置されたものも多い。県民からは「外から数値を見えにくくするために意図的に内側にしている。〝汚染隠し〟ではないのか」との指摘もあるが、そうでは無いという。福島県中通りのある保育所長は「そんな悪意はありません」と話す。

「そもそもリアモニを設置したのが、歩いている人に数値を知らせるのでは無くて園児や保護者、保育士に見せるという趣旨だったのです。そういう意味ではリアモニの役割が変わってきているのかしれませんね」

県民からは「外から数値を見えにくくするために意図的に内側にしている。〝汚染隠し〟ではないのか」との指摘もある

◆リアモニを設置し続けること自体が「風評被害」を招く?

リアモニの撤去計画は2018年3月20日の原子力規制委員会(http://taminokoeshimbun.blog.fc2.com/blog-entry-237.html)で浮上。避難指示が出された12市町村を除く約2400台を2021年3月末までに撤去し、避難指示12市町村に配置し直すという計画だった。年間5億円とも6億円とも言われる維持費用のほか、空間線量の下がった区域にいつまでもリアモニが設置されていると特に海外からの観光客に被曝リスクが存在すると誤解を与える(風評被害を招く)という理由もあった。

2018年6月から11月にかけて福島県内15市町村で開かれた住民説明会では、撤去に反対する意見が大多数を占めた。母親たちの市民グループ「モニタリングポストの継続配置を求める市民の会」が結成され、会津若松市や福島市、郡山市、いわき市などで地元市長に対して撤去に反対するよう求める要望書が提出された。複数の市町村議会が継続配置を求める意見書を国に送った。廃炉作業が何十年にもわたって続く中で、万一の事態が起きた場合に数値を確認する機会を奪わないで欲しい、というのが撤去反対の主な理由だった。

リアモニ撤去への反対意見が続出した住民説明会。多くが「万一の事態のために、数値を確認出来る機会を奪わないで欲しい」という切実な声だった

◆「そんな事ばかりやっているから福島は駄目なんだ」とまくし立てた田中俊一前原子力規制委員長

一方、リアモニ撤去の〝言い出しっぺ〟である原子力規制委員会の田中俊一前委員長は取材に対し「あんな意味の無いものをいつまでも設置し続けたってしょうがない。数値がこれ以上、上がる事は無いのだから、早く撤去するべきだ。廃炉作業でどんなアクシデントが起こるか分からない?そんな〝母親たちの不安〟なんて関係無いよ。そんな事ばかりやっているから福島は駄目なんだ」とまくし立てていた。

福島市の木幡浩市長(元復興庁福島復興局長)も、設置継続を求める母親たちの声に理解を示しつつも「風評」を何度も口にし、「そもそも米の全量全袋検査が良いのかという議論の中で、検査をする事自体が『福島の米は危ないのではないか』という事を示してしまっているという意見も現実にある。将来的なリアモニの集約というか、どの程度設置するのが良いかという議論はあり得るでしょう。今大きく減らすべきだと言うつもりは無い。ただ、僕らは『風評』と『自分たちの気持ち』の両方を常に考えなければならないと思う」と将来的な撤去に含みを持たせていた。

最終的には福島県民の願いが通じ、原子力規制委員会は2019年5月29日の会合で「当面、存続させる」事が決まった。長年「原発が事故を起こすなんてあり得ない」と〝安全神話〟を信じ込まされた挙げ句に原発事故の被害を受けた人々が、「廃炉作業で万一の事態が起きても中通りにまで影響が及ぶ事は無い」と事故後の数値確認機会まで奪われる最悪の事態は回避された。

◆リアモニ撤去の機会をうかがい続ける国の思惑

しかし、県職員も認めているように、国は撤去方針そのものは捨てていない。しかも中には一見して数値を確認出来ないリアモニもある。せめて施設外から数値を確認出来るように向きを変える事は出来ないかと原子力規制庁に確認をしたが、監視情報課の担当者の答えは「NO」だった。

「今のところ、その後の具体的な動きは全くありません。仮に向きを変えるとしたら県や市町村と相談してやることになると思いますが…。現時点では『当面、設置を維持する』というところから何も進んでいません。最近ではむしろ、中通りにある私立幼稚園などから『邪魔だから早く撤去して欲しい』という声が複数寄せられているくらいですから、向きを変えるという発想などありませんでした。もちろん、そのための工事費用を捻出する予算など確保していませんし…」

危機を脱し、リアモニ撤去計画を口にする人も少なくなった。国も福島県も話題にしなくなった。それにはこんな裏事情もあるという。

「『配置見直し』という国の基本的な考え方は変わっていませんが、水害が起きて33台がやられた。韓国が『日本はまだ汚染されている』と騒いでいる、『聖火リレーはこのまま実施して良いのか』などいろいろな外圧が起きています。そういった状況の中で、積極的に配置見直しを言いにくい事態に陥ってしまったのが現状です」(福島県職員)

じっと身を潜めながら撤去の機会をうかがっている国。当面の存続は決まったものの、本来の目的を果たせないものもあるリアモニ。「外から数値を確認出来ない問題」は解消されないまま、とりあえずの存続だけが続いていく。

国は撤去方針そのものは捨てていない

▼鈴木博喜(すずき ひろき)
神奈川県横須賀市生まれ、48歳。地方紙記者を経て、2011年より「民の声新聞」発行人。高速バスで福島県中通りに通いながら、原発事故に伴う被曝問題を中心に避難者訴訟や避難者支援問題、〝復興五輪〟、台風19号水害などの取材を続けている。記事は http://taminokoeshimbun.blog.fc2.com/ で無料で読めます。氏名などの登録は不要。取材費の応援(カンパ)は大歓迎です。

3月11日発売『NO NUKES voice』Vol.23 総力特集〈3・11〉から9年 終わらない福島第一原発事故

◆外国船籍と公海航行を利用した「脱法カジノ」

すでにネットでは公然と語られるいっぽうで、マスコミが報じない脱法行為が存在する。いや、すでにその華やかな幕は下りてしまったが、ここ半月ものあいだ繰り返し報じられてきたクルーズ船、ダイヤモンド・プリンセスに秘められた、とんでもない事実があるのだ。

いや、秘められたというのは大げさだろう。ダイヤモンド・プリンセスはみずからカジノ船であることを、そのホームページで公然と宣伝しているのだから。公然と脱法行為を宣伝していながら、微塵も恥じることがない。遅きに失した感はあるが、このさい安倍総理のカジノ経済成長路線のあだ花として、この事実を大いに拡散していこうではないか。


◎[参考動画]ダイヤモンド・プリンセス 船内紹介 | プリンセス・クルーズ

◆地獄と化したクルーズ船、じつはカジノツアーだった

それにしても、ダイヤモンド・プリンセスの船内は地獄だったようだ。医療チームの報告として、閉じ込められた乗客たちの多くが「死にたい」と思い、不眠や不安感にさいなまれていたという。以下、時事通信報である。

「『死にたい』『船から飛び降りたい』などと訴える事例が、2月1日からの約1カ月間で91件に上っていたことが分かった。災害派遣精神医療チーム(DPAT)などの活動状況を日本精神科病院協会が公開した。活動中に寄せられた相談では、不眠や不安感といったストレス関連症状が101件と最も多く、次いで『死にたい』といった緊急を要する精神状態が91件に上った。緊急搬送はなかった。ストレス症状を訴える人は、狭い室内に閉じ込められたことによる拘禁反応を起こした例が目立った。」(時事通信3月7日)という。

「新型コロナウイルス肺炎に閉じ込められた、クルーズ船乗客たちの不自由さ ── 今後危惧される拘禁性ノイローゼ(拘禁病)と基礎疾患での重篤化」(2020年2月9日)で指摘したとおりの事態が進行していたことになる。


◎[参考動画]【TBS news23】クルーズ船“告発”動画の波紋

クルーズ船に長期にわたって監禁されることで、そのストレスから新型コロナウイルス罹患を悪化させられ、お亡くなりになった方々には哀悼の意を表しつつ、しかしそのクルーズの違法性およびカジノ誘致キャンペーンの悪質性を暴露していくことにしたい。

外国船籍であり、なおかつ公海上に出るという外洋クルーズによって、可能となっていたのがカジノである。比較的低価格で乗船できるプリンセスクルーズの場合、日本人客にカジノを体験させ、その上がりでペイするという側面もあったのではないか。とりあえず、ダイヤモンド・プリンセスがカジノ船であったことを、ほかならぬプリンセスクルーズのホームページから引用しよう。

「一流のディーラーがエスコートするテーブルゲーム、多彩な種類のスロットマシンを揃え、バーも併設したプリンセス・クルーズ自慢の本格的なカジノ。
 外国船クルーズでしかできない本格的なカジノ体験で、そのきらびやかな雰囲気をお楽しみください。
 テーブルゲームは5USドルから、スロットマシンは1USセントからと手軽に楽しむことができます。
 カジノのご利用にはUSドル(一部客船ではAUドル)をご用意ください。
 現金がない場合には船内会計に加算し精算することも可能です。」

わずか5USドル(536円=3月7日為替相場)でテーブルゲーム(ルーレットなど)、5円ちょっとでスロットマシーンが遊べるというのだ。もちろん、これでギャンブルが終わるわけではない。ついつい熱くなって、カジノ破産寸前まで追い込まれるのがギャンブル依存症である。その入り口に、カジノクルーズのような気軽なきっかけがあるのだ。ギャンブル依存とは、勝ち負けや損得の判断ミスなどではない。勝ったときの絶頂感、勝負におよぶゾクゾクとした興奮、そして必ず取り戻そうとする執着心が、底なしの泥沼にいざなう。いわば脳内麻薬に作用するのが、依存症なのである。

プリンセス・クルーズのHPより

プリンセス・クルーズのHPより

◆カジノ誘致のキャンペーン──コロナとカジノがヨコハマで繋がる

さて、ダイヤモンド・プリンセス号である。この船はアメリカのカーニバル・コーポレーション(Carnival Corporation & PLC)の傘下のプリンセス・クルーズ社が運航しているクルーズ客船だ。2014年に日本マーケット向けに大規模なリノベーションを行ない、展望浴場や寿司バーなどが新設された。このときに船籍をバミューダから英国(ロンドン)へと変更している。2014年から日本に配船され、横浜発着のクルーズを行っている。さらに2015年以降は日本発着のクルーズを毎年行っている。日本人向けのクルーズ船なのである。

日本人向けのカジノ付きクルーズ船で、横浜をメインの発着港にしている。これだけで、ピンとくる人は少なくないのではないだろうか。

発着港の横浜市(林文子市長)が、カジノを柱とするIR誘致の急先鋒だからだ。不案内な向きは、「横浜IR誘致計画の背後に菅義偉官房長官 安倍『トランプの腰ぎんちゃく政策』で、横浜が荒廃する」(2019年8月30日)を参照してほしい。

ダイヤモンド・プリンセスをふくむカーニバルクルーズは、ラスベガスに拠点を置くKonami Gaming,Inc.(コナミ・ホールディングスの子会社)から『SYNKROS(シンクロス)』というカジノ・マネジメント・システムを導入した本格的なカジノ船である。そのシステムは日本のIRにも導入されるという(業界関係者)。つまり、このカジノクルーズは横浜のIR誘致と限りなく交錯し、カジノ導入のいわば隠然たるキャンペーン機能を果たしているのだ。人々の射幸心をあおり、ギャンブル依存によって生活破綻を来しかねないカジノの実験場でもあったのだ。

すでに中国のギャンブル企業から収賄した容疑で、秋元司衆議院議員が逮捕され、5人の議員も賄賂を受け取ったことが明らかになっている。安倍総理が「日本の成長産業」として、観光客誘致を目的に導入を目論んできたカジノ産業は関係議員の汚職として、またクルーズ客たちの悲劇として、思わぬところから頓挫のきざしが見えてきた。国民をギャンブル漬けにする愚策の導入をゆるしてはならない。


◎[参考動画]値下げと割引で激安で豪華客船クルーズに行ってきた!【ダイヤモンドプリンセス】

▼横山茂彦(よこやま・しげひこ)
編集者・著述業。「アウトロージャパン」(太田出版)「情況」(情況出版)編集長、医科学系の著書・共著に『「買ってはいけない」は買ってはいけない』『ホントに効くのかアガリスク』『走って直すガン』『新ガン治療のウソと10年寿命を長くする本当の癌治療』『ガンになりにくい食生活』など多数。

いまこそタブーなき言論を! 月刊『紙の爆弾』2020年4月号

『NO NUKES voice』22号 新年総力特集 2020年〈原発なき社会〉を求めて

鹿砦社創業50周年記念出版『一九六九年 混沌と狂騒の時代』

◆瀕死の安倍政権を鞭打つ

 

タブーなき言論を! 月刊『紙の爆弾』2020年4月号

今号で、やってくれた(!)のは浅野健一氏である。「安倍野合政権崩壊へ『桜を見る会』再終幕」では、ホテルニューオータニに執拗に取材した末、ついに決定的な証言を得たのである。浅野氏ならではの電突取材は「個別の案件」ではなおものの、ANAインターコンチネンタルホテルと同じ「個別に契約することはない」「明細書は存在する」「営業上の秘密を理由に、明細書の提供(発行)をお断りすることはない」と、ニューオータニの支配人が回答したのである。しかもその明細書や見積書は「七年間は保存される」と明言したのだ。

記事には具体的なやりとりが「ナマ放送」に近いかたちで再現され、みずからニューオータニ「鶴の間」に足を運んで、参加費の支払い方法を検証している。これらの取材・調査活動は、記事の後段で報告される刑事告発に生かされるに違いない。東京地検は「犯罪構成要件に該当する具体的な事実を特定して欲しい」と、異例の「加筆・修正」を求めてきたという。検察の動きが注目される。

安倍政権が東京高検・黒川弘務検事長の定年延長で画策した「司法の私物化」はしかし、河井夫妻への強制捜査など、あまり功を奏していないかにみえる。が、籠池夫妻への刑事裁判では、論告求刑に虚偽記載があるという。記事は「大阪地検劣化の果てに『論告求刑』虚偽記載」(青木泰)である。捜査報告書と論告求刑の中身が矛盾するというのだから、大阪地検の劣化ぶりは明らかだ。

◆ビートたけし──誰も祝わない結婚

本誌芸能取材班のレポートは「ビートたけし再婚」である。18歳の年齢差結婚の相手・古田恵美子(55歳)はとんでもない女のようだ。自分の再婚を“大ニュース”とはしゃいでみたものの、誰も祝福しない深い理由が全面的に暴露されている。そもそも古田による略奪婚だったのだ。関係者によるベトナム人への不法就労、事務所関係者への恫喝にパワハラ。そして、たけし自身による軍団の切り捨て。そもそもオフィス北野からの独立劇も、古田恵美子の主導したものだったという。

◆小泉進次郎──地に堕ちた若手のホープ

環境大臣になったがために、その内容と実務力のなさを露呈してしまった小泉進次郎。私見ながら、若手のホープの座は北海道の鈴木直道知事に奪われたと言っていいだろう。記事「小泉進次郎の本性」(横田一)は、創価学会に接近する進次郎のパイプづくりが、菅義偉官房長官を介して行われているというものだ。

◆強力連載陣の見どころ

「れいわ新選組の『変革者』たち」(小林蓮実)第5回は、船後靖彦(参院議員)さんだ。「人は、自分の死と真剣に向き合ったとき、使命を確信し、それに向かって進む決意をする」(ハイデッガー)が座右の言葉とのこと。活躍に期待したい。
「格差を読む」(中川淳一郎)は「コロナ騒動が露呈させた『分断』」。いわゆる「上級国民」現象による分断も怖いが、資産階級および老後勝ち組の象徴だったクルーズ船が、いまや「監獄」であることに諸行無常を感じる。

マッド・アマノさんの連載「世界を裏から見てみよう」は「実は『横田幕府』が日本を支配している」で、かなり怖い内容だ。35年前、御巣鷹山に墜落した日航機事故に、自衛隊が関与していた疑惑をさぐる。横田幕府とは何か? 乞うご期待。
「日本の冤罪」(尾﨑美代子)は、強殺事件で冤罪をうけ、再審勝訴および国賠訴訟を勝ち取った布川事件。無罪の証拠を隠し続けた検事が、何の処分もされない現実を糺す。

連載ではないが、Paix2のプリズン・コンサート500回達成の様子(横浜刑務所)が活写されている(松岡利康執筆)。ファンクラブへの入会は、本誌挟み込みの振替用紙(Paix2ファンクラブ用)に、名前と住所を記入の上、入会費1000円・年会費5000円です。

▼横山茂彦(よこやま・しげひこ)
編集者・著述業。「アウトロージャパン」(太田出版)「情況」(情況出版)編集長、最近の編集の仕事に『政治の現象学 あるいはアジテーターの遍歴史』(長崎浩著、世界書院)など。近著に『山口組と戦国大名』(サイゾー)『日本史の新常識』(文春新書)『男組の時代』(明月堂書店)など。

タブーなき言論を! 月刊『紙の爆弾』2020年4月号

2月26日、安倍首相が「今後2週間はスポーツや文化に関するイベントの開催について中止・延期などの対応をとるよう要請した。」という発表がありました。

プロボクシングは、日本ボクシングコミッションと管轄下の日本プロボクシング協会が2月26日、いち早く日本全国で行われる3月興行全てが中止か延期と発表しました。

プロボクシングを含む多くの興行が中止となった後楽園ホールのリング

伊原代表のマイク投げも今回は見られない

3月に予定されていたプロボクシング興行は全国で15興行。4月以降の興行は、政府の要請やコロナウイルス感染拡大の影響を鑑みて判断する模様です。

大相撲春場所も前々から対策を発表していましたが、本場所そのものの延期は難しいので(過去、1日順延有り/昭和天皇崩御)、無観客での開催や中止も考えられた中、日本相撲協会は3月1日、春場所の無観客開催を決定しました。

政府発表の翌日2月27日、3月興行を予定される一部のキックボクシング各団体興行、フリーのプロモーター興行は中止・延期の発表がありました。

キックボクシングは統一管轄機関(コミッション)が無いので各団体等の協議次第ですが、中止・延期の発表とともに、3月初頭開催の直前中止が難しいもの、下旬に大会場での強行を予定している興行もあり、一斉に自粛要請ができない、または発表にバラつきが出るのはこんな時、コミッションが無いのは不便なものです。

鹿砦社通信で掲載予定の二つの興行は、2月27日に主催者より中止、または延期が発表されています。

・3月8日(日)後楽園ホールでの新日本キックボクシング協会主催、REBELSとの合同興行「TITANS×REBELS.1st」

3月8日予定、新日本キックボクシング協会「TITANS×REBELS」は延期の発表

アリス(左)とオンドラムの二人も出場予定だった「TITANS×REBELS」

・3月15日(日)後楽園ホールでのジャパンキックボクシング協会主催「KICK Insist.10」

3月15日予定、ジャパンキックボクシング協会「KICK Insist.10」は中止を発表

その他も中止の発表をされている団体興行やフリーの単独興行があります。

チケットに関して、「後楽園ホール窓口にてチケットをご購入された方は、3月1日(日)から3月31日(火)まで、後楽園ホール窓口にて払い戻しのご対応を致します。」という発表です。 その他、購入先での発表を御確認願います。

2月29日(土)に後楽園ホールで行われましたREBELS.64について、以下の対応を行なった模様です。

3月8日のメインイベンターは重森陽太だった(撮影:伊原プロモーション)

前日計量の一般公開中止、サイン会の中止、 会場入口付近に消毒剤の設置、 スタッフのマスク着用、 全ての来場者に手洗い・アルコール消毒・うがいの励行・マスクの着用などの徹底。今後の開催される興行についてもこのような対策が強いられることでしょう。

中止となった興行のカードは今後の予定されている興行に順延され、選手、ジム側の先のスケジュールの都合によって消滅カードもあるかもしれないのは仕方無いところ。

「TITANS×REBELS.1st」という対抗戦の延期は次回以降の興行に組み込むか、または時期をずらした新たな日程を組んだ上での興行開催も検討されることでしょう。

自然災害はいつ起こるか分からないものの、問題は会場費、売り捌かれたチケットの払い戻し、パンフレット・ポスターの製作費などとそれらの人件費があります。

保険で賄える範疇が判別し難いところがありますが、悪天候、交通機関の事故による開催不能は対象となり、地震や戦争など被害の規模がどこまで及ぶか予測が難しい場合や、新型ウイルスの蔓延防止による中止は対象とならないようですが、保険会社によって対応が異なるようで、今後の災害時に向けた対策が急がれるところでしょう。

昨年10月の台風19号による日本キックボクシング連盟の興行中止がありましたが、対戦カードは後々の興行に組み込まれたり消滅したカードがありました。PRIMA GOLD杯トーナメント戦も準決勝後の期間が大きく空いてしまう影響が出ましたが、後の興行で決勝戦を開催し、無事終了を迎えています。このコロナウイルス影響が長引くと続けて興行中止に繋がるので、あらゆるスポーツ、文化イベントは終息を祈るばかりでしょう。

以上は3月1日時点の状況です。今後の中止・延期、または無観客開催などの発表には各主催者発表を御確認ください。

「TITANS×REBELS」記者会見で意気込みを語ったばかりの選手たち(2月22日/撮影:伊原プロモーション)

▼堀田春樹(ほった・はるき)[撮影・文]

フリーランスとしてキックボクシングの取材歴32年。「ナイタイ」「夕刊フジ」「実話ナックルズ」などにキックのレポートを展開。ムエタイにのめり込むあまりタイ仏門に出家。座右の銘は「頑張るけど無理しない」

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◆殺されるヨーロッパの王たち

シーザー

平安後期から始まる院政という政治形態は、世界史的にみても日本にしかない。古代ヨーロッパにおいては、宗教的な価値観から王を殺害する習慣があったとされている。王権が宇宙の秩序をつかさどる存在であるから、その能力を失った王を殺害し、新たな王のもとに秩序を回復しなければならないという思想である。

たとえば歴代ローマ皇帝七十人のうち、暗殺された皇帝が二十三人、暗殺された可能性がある皇帝は八人である。ほかに処刑が三人、戦死が九人、自殺五人。自然死と思われるのは二十人にすぎない。政争と戦争に明け暮れていた皇帝たちの末路は悲惨だ。

やがて中世・近世に至って王権神授の思想が確立すると、王を殺害することはタブーとなったものの、近代の市民革命は旧制度(アンシアンレジーム)の破壊とともに王を処刑している。イギリスでは清教徒革命におけるチャールズ一世の斬首、フランス大革命におけるルイ十六世は断頭台に露と消えた。ロシア革命でもニコライ二世とその家族が処刑されている。

◆院政が誕生した秘密とは

ではなぜ、日本において天皇は殺されなかったのだろうか。いや、第三十二代の崇峻天皇は、蘇我氏およびそれとむすぶ皇族(推古・厩戸皇子ら)によって弑逆されている。蘇我馬子が罰せられていないことから、皇族が了解した宮廷クーデターであったのは確実だ。奈良朝の称徳(孝謙)女帝も、藤原氏の陰謀で殺されたとわたしは考えている。乙巳の変(大化の改新)や壬申の乱も皇族同士の殺し合いである。血なまぐさい古代王権に終止符を打ったのは、藤原氏の摂関支配である。ここにおいて、天皇は実権を奪われたのである。

孝謙女帝

そしてなぜ、日本において院政という独自の政体が敷かれたのだろうか。三つの理由が考えられる。ひとつは摂関家からの政治的な自由の確保である。若くして即位し、摂関家の執政のもとで操り人形を演じさせられ、政治的な経験を積む歳になると譲位させられる。ある日、上皇となった前(さき)の天皇は気がついたのだ。上皇として仙洞御所に君臨すれば、院宣をもって朝廷に政治的影響力が行使できることを――。

もうひとつは、兄の皇位を弟が継ぐ大兄制度からの離脱である。すなわち自分の子への譲位で、皇統を自分に近いものにしたい。そこには動物的な本能を感じさせるものがある。

いまひとつは、天皇と貴族たちのあいだに横たわる、大きな利権についてであろう。それは律令制の根幹である公地公民制と、それを掘り崩す墾田永年私財法、すなわち荘園の存在である。

そもそも荘園は、東大寺の大仏および国分寺・国分尼寺の建立資金を捻出するために、聖武天皇が開墾地を私有してもよいと許可したものだった。その聖武天皇が推進した仏教政策を受け継いだ孝謙女帝は、弓削道鏡や円興・基信ら仏教勢力を登用して、大仏の開眼を実現する。そして天平神護元年(七六五年)に、墾田私有禁止太政官令および勅命を発するのだ。

勅今聞墾田縁天平十五年格自今以後任爲私財無論三世一身咸悉永年莫取由是天下諸人競爲墾田勢力之家駈役百姓貧窮百姓無暇自存自今以後一切禁断勿令加墾但寺先来定地開墾之次不在禁限又富土百姓一二町者亦宜許之(『續日本記』巻第二十六天平神護元年三月五日『日本紀略』にも同文あり)

勅命である。いま聞くに天平一五年の三世一身の法を改めて永年私財法となって以来、人々が競って開墾を行ない、勢力のある家が百姓を開墾に動員している。そのために百姓たちが自分の土地を耕す暇もなく、困窮しているという。今後一切、開墾は禁じます。ただし、寺の先来に定める開墾は許します。富士百姓の十二町は開墾を許します。

おもてむきは庶民が困っているという理由だが、国土を私物化するなという天皇の意志は明白だ。この勅命が道鏡排除の宇佐神宮神託事件に発展し、やがて藤原氏による政権転覆につながっていく。孝謙天皇(称徳帝)の死後、荘園はますます拡大の一途をたどり、平安京遷都とともに摂関政治の全盛期を迎えることになる。

◆荘園をめぐる天皇と藤原氏の争闘

わが世の春を謳歌する藤原氏に、荘園の見直しをふくむ規制で対抗したのは後三条天皇である。この後三条帝は苦労人である。三十四歳で即位するまで、さまざまな屈辱に耐えなければならなかった。藤原道長の子である頼通(よりみち)・教通(のりみち)兄弟に、たび重なる嫌がらせを受けていたのだ。たとえば立太子のさいに、東宮の守り刀である「壺切りの剣」を渡してもらえなかった。大極殿再建用の費用を藤原氏が宇治平等院などの氏寺用に使ってしまったものだから、即位式も太政官庁を使わなければならなかった。

帝位に就いた後三条天皇が最初に着手したのは、荘園整理令であった。藤原氏をはじめとする貴族が「記録が残っていないのでわからない」と抗弁すると、天皇は記録荘園券契所を設けて調査をはじめた。さらには新たに延久宣旨枡を用いて、私升による徴税のごまかしを禁止する。かように天皇執政の熱意に満ちていた後三条天皇だが、譲位後に四十歳の若さで亡くなってしまう。後継した嫡子貞仁親王こそ、本格的な院政を始めた白河天皇である。藤原宗忠は白川天皇を評して「今太上天皇の威儀を思ふに、已に人主に同じ。就中、わが上皇已に専政主也」つまり白河天皇は専制君主だと語っているのだ。後鳥羽天皇に至り、院政は頂点をきわめる。崇徳天皇・近衛天皇・後白河天皇の三代にわたり、息子たちを操る院政を敷いたのである。

爾後、平安末期から鎌倉前期の天皇は上皇となり、仏門に入って法皇として院庁に君臨するが、独自の兵力を北面の武士として蓄えたことから、武士の勃興をまねく。武家の時代における院政は、もはや無力な存在となった。

◎《連載特集》横山茂彦-天皇制はどこからやって来たのか
〈01〉天皇の誕生
〈02〉記紀の天皇たちは実在したか
〈03〉院政という二重権力、わが国にしかない政体

▼横山茂彦(よこやま・しげひこ)
編集者・著述業。「アウトロージャパン」(太田出版)「情況」(情況出版)編集長、最近の編集の仕事に『政治の現象学 あるいはアジテーターの遍歴史』(長崎浩著、世界書院)など。近著に『山口組と戦国大名』(サイゾー)『日本史の新常識』(文春新書)『男組の時代』(明月堂書店)など。

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2009年に裁判員制度が始まって以来、裁判員裁判の死刑判決が控訴審で破棄され、無期懲役に減刑されるケースが相次いでいるが、今年1月の淡路島5人殺害事件でそれは7件目となった。死刑を破棄された殺人犯たちは一体どんな人物なのか。筆者が実際に会った3人の素顔を3回に分けて紹介する。

第3回目の今回は、君野康弘(53)。わいせつ目的で小1の少女を誘拐し、惨殺したうえ、遺体におぞましい凌辱をした男だ。

◆獄中でラジオの音楽やおいしい食事を堪能

裁判の認定によると、神戸市長田区で暮らしていた君野は2014年9月、小1の女の子・生田美玲ちゃん(当時6)にわいせつ目的で声をかけ、自宅アパートに連れ込むと、ビニールロープで首を締めつけたうえ、包丁で首を刺して殺害。そのうえで性的欲求を満たすため、遺体の腹部を切り裂いて内臓を摘出し、頭部や両脚を切断したり、胸の皮膚をそぎ取ったりした。その挙げ句、遺体を複数のビニール袋に入れ、雑木林などに捨てたとされる。

そんな君野は神戸地裁の裁判員裁判で死刑判決を受けたが、大阪高裁の控訴審で無期懲役に減刑された。そして2019年7月、最高裁で無期懲役が確定し、正式に死刑を免れた。

〈犯行全体からうかがわれる被告人の生命軽視の姿勢は明らかではあるが、甚だしく顕著であるとまでいうことはできない〉(最高裁判決より)というのが、君野に対して司法が示した最終判断だったのだ。

この君野は裁判中に大阪拘置所に収容されていた頃、別の殺人事件の犯人と獄中者同士で手紙のやりとりをしていたのだが、その手紙が筆者の手元にある。それには、こう書かれている。

〈オウム事件の死刑確定者13人、7月全員死刑執行されたですね。死刑求刑されてる私は人事とは思えなく、気分が悪いです〉

君野が獄中で書き綴っていた手紙の一節

オウム死刑囚が一斉に執行された昨年7月の時点で、君野の裁判は検察側が控訴審の無期懲役判決を不服として最高裁に上告しており、君野は死刑判決を受ける可能性がまだ残っていた。そのため、「人事とは思えなく、気分が悪い」という心境になったようである。

さらに君野は別の手紙で、楽しげにこう書いている。

〈先週の歌ようスクランブルは、1970年代~1980年代の曲が何曲か流れてなつかしかったです。中森明菜の難破船も流れましたね。高田みづえの曲も流れました。なつかしかったです。さあこの手紙が着いた明くる日7日20日は白身魚のかばやきが夕食で出ます。久々のごちそうですよ。楽しみですね!〉

〈12月12日夕食マーボカレーはうまくて、とうふも食べました。毎日マーボカレー出ればいいな〉

一読しておわかりの通り、控訴審で無期懲役に減刑された君野が大阪拘置所内のラジオで音楽を聴いたり、おいしい食事をとったりして、日々の生活を楽しんでいることがよく伝わってくる。自分に惨殺された美玲ちゃんはもう音楽を聴けず、美味しい物も食べられないことは、君野にはどうでもいいことなのだと思われる。

◆公判では写経により反省をアピールしたが・・・

君野がこんな手紙を書く男だというのは、実は筆者には想定内だった。君野と面会したり、裁判を傍聴したりした際、無反省である様子がよく伝わってきたからだ。

2016年12月、大阪高裁で控訴審の初公判を傍聴した時のこと。君野は、ダウンジャケットにスウェットパンツという普段着姿で法廷に現れた。報道では、暴力団に所属したこともあると伝えられたが、顔は青白く、弱々しい感じの男だった。

君野はこの日の被告人質問で、弁護人から現在の気持ちを聞かれると、「申し訳ないという思いが一審の時よりますます深まっています」などと反省の言葉を口にした。さらに獄中で日々、美玲ちゃんの冥福を祈りながら般若心経の写経をしているのだとアピールし、「死刑になるより、生きて償いたいです」と主張した。

だが、検察官の反対尋問では、すぐにぼろが出た。検察官から事実関係を質されるたび、言葉に窮してしまうのだ。

検察官「一審の時より具体的にどういう点で反省が深くなったのですか?」
君野「・・・」
検察官「答えられませんか?」
君野「はい・・・」
検察官「写経している般若心経の意味を本などで調べたことはありますか?」
君野「あります」
検察官「どんなことが書いてありましたか?」
君野「・・・」

こうしたやりとりを見ていると、君野が写経をしながら願っていたのは美玲ちゃんの冥福ではなく、自分の減刑なのだろうと思わざるをえなかった。

公判に参加した美玲ちゃんの母親から、「なぜ、生きたいと思うのですか?」「遺族がどんな気持ちかがわかりますか?」などと問われても、君野は沈黙したり、小さな声でボソボソつぶやいたりするのみ。遺族からこういう質問があるのは予想できそうなものだが、深く考えずに公判に臨んだのだろう。

裁判終了後、筆者は大阪拘置所を訪ねて君野と面会し、率直に「『生きて償いたい』と言っても、死刑になるのが怖いだけだとわかりますよ」と伝えた。君野は顔を紅潮させ、「わ、私は生きて、つ、償いたいと思っているんです」と言ったが、まったく真実味が感じられなかった。

最高裁で君野の無期懲役が確定した際、筆者は再び大阪拘置所まで面会に訪ねたが、君野は面会を拒否した。筆者と会っても何の得にもならないと思ったのだろう。美玲ちゃんの母親は最高裁の決定を受け、「納得できないし、娘に報告できない」とのコメントを発表したが、ここで紹介した君野の手紙を目にすれば、改めて悔しさがこみ上げてくるはずだ。

一方、君野は今頃、大阪拘置所からどこかの刑務所に移され、懲役生活をスタートさせているはずだが、税金で衣食住を保証され、無反省のまま日々を過ごしているのだと思う。

美玲ちゃんの遺体が遺棄された現場には花が手向けられていた

▼片岡健(かたおか けん)
全国各地で新旧様々な事件を取材している。近著に『平成監獄面会記 重大殺人犯7人と1人のリアル』(笠倉出版社)。同書のコミカライズ版『マンガ「獄中面会物語」』(笠倉出版社)も発売中。

最新刊!月刊『紙の爆弾』2020年3月号 不祥事連発の安倍政権を倒す野党再建への道筋

「絶望の牢獄から無実を叫ぶ ―冤罪死刑囚八人の書画集―」(片岡健編/鹿砦社)

3月1日に実施された、「東京マラソン」で、大迫傑選手が4位ながら2時間5分29秒(速報値)の日本新記録を打ち立てた。一般参加者から参加費を徴収しておきながら「新型コロナウイルス」のため参加を断り「来年の出場権を約束しますから、返金はしません」と無茶苦茶なぼったくりで、顰蹙を買った大会運営も、さらなる「新型コロナウイルス」に関する騒ぎの拡大と、日本新記録により希釈され、大会実行委員会は留飲を下げていることだろう。


◎[参考動画]3月1日 東京マラソン2020~Tokyo Marathon 2020~兼 マラソングランドチャンピオンシップファイナルチャレンジ ~東京2020オリンピック日本代表選手選考競

日本人の2時間5分台は立派な記録である。けれども、参考記録ながら世界は既に2時間を切るところまでマラソンは高速化している。どのくらい早いかをわかりやすく示してみよう。マラソンは42.195キロだから時速20キロで走っても2時間は切れない。時速20キロは平たんな道で自転車をスムースに漕ぐようなスピードだ。

常日頃トレーニングされているかたは別にして、一度時速20キロの世界を安全な場所で経験されることをお勧めする。とんでもなく早く、これを2時間続けるのは人間業とは思えないことを、体感していただけると思う。

そして、余分な話かもしれないが、大迫選手は日本新記録を出したので、賞金1億円を手にした。それくらいの価値はあるだろう。が、他方わたしのあたまには、まだ、マラソンが純粋なアマチュア競技であった時代の、偉大な選手の声が残っている。宗兄弟は瀬古利彦と同じ時期に活躍した双子のランナーだった。ある取材で宗兄弟のどちらだったか忘れたが「ゴルフがあんなに楽をして何千万円ももらえるんだったら、僕たちは2時間以上苦しんでいるんだから正直1億円位ほしいですよ」と本音を吐露した。

生まれた時代が違えば宗も億万長者になれていたかもしれないなぁ。ちょっとかわいそうに思える。宗兄弟や瀬古、伊藤国光が活躍していた時代、日本の男子マラソンは世界レベルにあった。調整さえ間違わなければ五輪でメダル獲得も夢ではなかった。1984年8月のロス・アンジェルス五輪では二人とも完走し、猛は4位入賞を果たした。瀬古は時差を無視した直前の現地入りにより、調整失敗で活躍できなかった。


◎[参考動画]1984 LA OLYMPIC MARATHON


◎[参考動画]ロサンゼルスオリンピック男子マラソン後インタビュー

大迫選手の奮闘には拍手を送りたいが、残念ながらあと4分近く世界とは差が開いている。

そして、日本新記録樹立に「東京五輪近づく」のクレジットが目に入るが、「東京五輪」強行は、恐るべき惨状と背中合わせであることを、読者諸氏にはご理解いただけるだろう。

▼田所敏夫(たどころ としお)
兵庫県生まれ、会社員、大学職員を経て現在は著述業。大手メディアの追求しないテーマを追い、アジアをはじめとする国際問題、教育問題などに関心を持つ。※本コラムへのご意見ご感想はメールアドレスtadokoro_toshio@yahoo.co.jpまでお寄せください。

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まず冒頭に、雑多な情報提供になるのをご了承願いたい。日々刻刻とふえる、新型コロナウイルスに関する情報の中で、いくつか注目しておくべきことがあるので、以下のようなものとなった。まず最初は、結果的にはメディアの過剰報道が防疫になっているとはいえ、いま世界を覆っている感染病死は新型コロナだけではないということだ。

◆アメリカで感染者21万、死者6万人の衝撃

新型コロナウイルス[SARS-CoV-2(国際ウイルス分類委員会=ICTVによる分類)2019-nCoV(世界保健機関=WHOによる名称)]の感染拡大を、日本のメディアは「戦争」と呼んでいる。

「戦争」だから小・中・高校・支援学校の休校は当然であるとして、あまりにも騒ぎすぎではないだろうか。というのも、メディアが新型コロナ騒動に明け暮れるいっぽうで、別の疾病が世界を覆っているからだ。

新型コロナウイルスは、中国の感染者が8万人、死者が3000人ほど。韓国で2000人の感染者、死者十数人。日本は感染者1000人、死者10人ほど(3月2日現在)である。

すさまじい勢いとか、世界的な集団感染との発言も出ているが、つぎの数字を見て欲しい。

年間の感染者数が1000万人、死者は3000人、関連死7000人前後。これは全世界のではなく、日本の数字である(死者以外は推定数)。

アメリカではさらに凄い。年間感染者数数千万人、重篤な感染者(入院)はじつに21万人。そして死者(関連死)は、6万人だ。※死因診断書ありは15000人。

ちなみに、これを新型コロナウイルスの中国人データと比較してみよう。

            重篤感染者数     関連死者数
アメリカ(インフル)   210000        60000
中国(コロナ)       80000         3000

数字だけ並べてみるとわかりやすい。じつはここに比較した病名は、われわれの耳に慣れきった流行性感冒、いわゆるインフルエンザなのである。過去の数字でも何でもない。いま現在、2019年から2020年にかけての、同時期の数字である。

世界は死に慣れてしまったのだろうか。死者の数だけを比べれば、たとえば小児肺炎は毎年世界中で90万人が死亡している。交通事故死は130万人(日本は3000人ほど=70年代は1万人だった)である。

新型コロナが怖い理由は、その正体(感染形態・死亡率)がまだ不明だからだが、インフルに特効薬があるといっても、現実に膨大な死者が出ている。他の疾病でもすべて同じ理由、すなわち罹患による免疫低下が死をもたらすからだ。医薬品は人間の免疫による疾病克服を手助けするにすぎないのだ。

インフルエンザ死者数の推移

アメリカのインフルエンザ死者

◆パフォーマンスは必要である

さて、安倍総理は小・中・高等学校の休校を要請した。この判断をどう評価するべきかは、学童の自宅待機によって生じる母親の休職までふくめて、国がどこまで補償できるのかによる。あるいは手続きを無視した政策決定が、政局に軋みを生じさせかねない。

にもかかわらず、「戦争」なのだから判断を要したのは理解せざるをえない。ところで、この安倍総理のパフォーマンスはしかし、安倍自身の発想ではないとわたしは思う。鈴木直道北海道知事の全道休校の決定、および緊急事態宣言の手際の良さ「この前例のない措置は、わたしが責任をとる」という潔さが、風雲急を告げるパフォーマンスとなったがゆえに、安倍総理は後追い的に乗っかったにすぎない。

とはいえ、それまで対策会議をなおざりに行ない(森法相・小泉環境相は他のイベントで欠席)、安倍応援団(百田尚樹ら)との会食など、新型コロナの動静に背を向けてきた安倍政権において、ようやく本腰になったかと思わせる(遅すぎる)。政府による初動の遅さは、このウイルスの感染力の速さにくらべて、あまりにも後手に過ぎた。

本欄でも指摘してきたとおり、ダイヤモンドプリンセス号の乗客・乗員たちは、狭い部屋の中に監禁されるストレスで免疫力を低減させられ、あるいは「不潔地帯」と「清潔地帯」の入り口が同じという杜撰な防疫の結果、3700人のうち700人が感染するなど「隔離棄民」されたのである。


◎[参考動画]クルーズ船乗船者の英国籍男性が死亡 外国籍は初(2020/2/28)

◆国立感染研究所のOBとは、誰なのか?

もうひとつ、感染の疑いを感じている国民が、PCR検査を受けられないという事態がつづいている。かかりつけの医院から検査機関に連絡をしても、中国武漢・湖北省の旅行歴がなければ受けられない。民間に検査をさせないから、旅行歴の基準を充たさない感染者が重篤に陥っているのだ。

そしてこの事態に危機感をもった、元感染研の岡田晴恵教授が悲痛な告発をしたことが話題になっている。「これはテリトリー争い」「感染研のOBの一部が、自分たちのデータにしたいから、民間での検査をさせないんです」(テレビ朝日羽鳥慎一モーニングショー)というものだ。本稿の冒頭に、ICTVとWHOが新型コロナの学名を、それぞれ独自に発表しているように、医科学界は縄張り主義が」つよい。かれらの功名(権威の獲得)や利権(予算の獲得)が国にとって、何の益をもたらさないのは言うまでもない。


◎[参考動画]元国立感染症研究所員の岡田晴恵教授PCR検査が一般病院に広がらない理由を告発

▼横山茂彦(よこやま・しげひこ)
編集者・著述業。「アウトロージャパン」(太田出版)「情況」(情況出版)編集長、医科学系の著書・共著に『「買ってはいけない」は買ってはいけない』『ホントに効くのかアガリスク』『走って直すガン』『新ガン治療のウソと10年寿命を長くする本当の癌治療』『ガンになりにくい食生活』など多数。

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首相安倍晋三が、異例の土曜日に記者会見を行い、新型コロナウイルスに対する見解を述べた。録音を聞いたが、いまさらなにを抽象論に終始しているのか、というのが正直な感想である。

「立法処置を講じる」とか、「休業補償政府が講じる」などといっている以外に具体的な言及はなく、あたかも万全な対策がこれまでも講じられており、これからも講じられる(福島第一原発の『安全デマ』発言をした時のことを思い起こされる)居丈高な姿勢に終始している。


◎[参考動画]首相、一斉休校に理解要請 新型肺炎抑制へ記者会見(KyodoNews)

そして、何より冷静に考えれば不思議なのは、どうして全国の学校に「休止」措置を依頼したのかの根拠が、全く示されていないことだ。例年、冬季にはインフルエンザが流行し、「学級閉鎖」や「学校閉鎖」が伝えられる。わたしも小学生時代に2回「学級閉鎖」の経験がある。不謹慎(そうでもないか?)ながら予想もしない時期に学校が休みになる(これは台風でも同様だったが)に、うれしくて仕方がなかった記憶がある。

でも、冷静に考えよう。実は法的に「学級閉鎖」の基準を明示したものはない。参考程度に、《『学校医・学校保健ハンドブック』によれば「欠席率が20%に達した場合は,学級閉鎖,学年閉鎖および学校閉鎖等の措置をとる場合が多い」》との基準に従い、これまでの感染症に対する「学級閉鎖」や「学校閉鎖」はおこなわれてきたようだ。


◎[参考動画]【報ステ】全国の小中高に休校要請 新型コロナ対策(ANN 2020/02/27)

20%の欠席は40人学級であれば8人、30人学級であれば6人だ。他方3月1日現在、日本全国での新型コロナウイルス感染者数は、クルーズ船に乗船していた方々を除き、全国で239人で、死者は5名だ。239人は総人口1億200万人に対して、0.001%にも及ばない。

であるのに、政府は学校の休みだけではなく、イベントの中止などを求めている。

なぜか。

決定的な対処不全が明白だからではないのか。安倍の記者会見は「もう手の打ちようがありません」と解読するのが正解ではないのか。


◎[参考動画]麻生大臣「つまんないこと聞くねぇ」休校中の費用負担(テレ東NEWS 2020/02/28)

インフルエンザが流行したって、全国の病院がパンクしたという話はわたしが物心ついて以来、聞いたことはない(大昔の「スペイン風邪」などを除く)。統計にもよるが新型コロナウイルスの致死率は低い報告で2%、高い報告で15%程度だ。

この数字を前にして、首相官邸も厚労省も「コントロールできない」と正直、対処をあきらめているのではないか。普段いい加減な発言ばかりしている某東海地方の大学教授ですらが「私の人生でこんなことは初めて。中国、韓国よりもひどい。もうこうなったら自衛するしかない」と発信している。

政治に防ぐ力を期待しても無理だろう。可能な限り免疫力を高めておくくらいしか、自衛策はあるまい。

◎[参考資料]2020年2月29日安倍首相記者会見の発言書き起こし(首相官邸)

▼田所敏夫(たどころ としお)
兵庫県生まれ、会社員、大学職員を経て現在は著述業。大手メディアの追求しないテーマを追い、アジアをはじめとする国際問題、教育問題などに関心を持つ。※本コラムへのご意見ご感想はメールアドレスtadokoro_toshio@yahoo.co.jpまでお寄せください。

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