◆大阪維新の「都構想」実現のための、野宿者強制排除を許すな!

西成の「あいりん総合センター」(以下、センター)周辺に野宿する人たちや支援者の団結小屋などが立ち退き(強制排除)の危機に追い込まれている。

8月5日、大阪府は、センター周辺の野宿者27名に「土地明け渡し」の仮処分を求め、大阪地裁に提訴した。それに先立つ4月22日、センター周辺の敷地は府の「公有地」であると主張し、22名に立ち退きを求めて提訴したばかりだ(本裁判の被告22名に5名追加した27名が仮処分断行の被告となった)。立て続けの提訴は何を意味するのか?

梅雨が長かったため、徐々にではなく一気に日焼けし、ヤケド状態になった野宿者の足(センター北側で)

現在閉鎖されているセンターは、閉鎖後も3階で営業する「医療センター」が移転したのちに解体を始め、2025年に新センターが完成する予定となっている。しかし4月22日提訴の「立ち退き訴訟」の本裁判が長引いた場合、取り壊しや建て替え工事の業者の入札などに遅れが生じるため、一気に仮処分を断行し、強制排除しようというのだ。(立ち退き訴訟第1回口頭弁論は9月1日、明け渡し断行の仮処分の審尋は9月4日に予定。但し、後者は非公開)。

提訴を受け大阪地裁は、2月5日、府の職員や西成警察とともにセンターを訪れ、裁判で訴えるなどと説明せず、通常の生活相談を装い、つまり騙して野宿者の名前を聞き出し「債務者」を特定していった。なんとも卑劣なやり方だ。しかも時間は午後0時45分から1時37分の短い間、昼間、仕事などで現場にいなかった人も多いのに。裁判という形式を整えるだけの杜撰なやり方だ。

◆大阪府の「強制排除」を後押しする釜ヶ崎の「まちづくり会議」

大阪府は、なぜこのような乱暴で拙速な手段で野宿者排除を進めるのか?

新型コロナウイルス対策では「アマガッパ松井」「イソジン吉村」と揶揄され、すべてが後手後手、無策・失策を連発し続ける吉村知事、松井市長だが、それもそのはず、彼らの頭にはコロナウイルスから住民を守る考えはみじんもなく、あるのは大阪都構想の実現と2025大阪万博の成功だけだ。そのため、都構想に深くリンクする「西成特区構想」を何が何でも成し遂げなくてはならない。

周知のように、センターは、昨年3月31日閉鎖予定だったが、労働者、野宿者、支援者らの反対で叶わず、4月24日の強制排除まで自主管理が続けられた。そのためセンター建て替えのスケジュールも大幅に遅れていた。

仮処分断行の訴状に書かれているように、今回の野宿者強制排除は、2016年7月26日第5回「あいりん地域まちづくり会議」で、センター建て替えが正式に決まったことから始まっているが、委員である西成特区構想有識者7名からは、昨年6月3日「早期の不法占拠解消の重要性」を主張する意見書も提出されている。

「再チャレンジできるまちづくり」などと綺麗事を並べるが、彼らの「まちづくり」とは、橋下元市長の「(再開発のために、釜ヶ崎の)労働者には遠慮してもらう」発言と同様、日雇い労働者、野宿者などの排除が前提ではないのか。

※[参考]note原口剛・神戸大学准教授「釜ヶ崎におけるジェントリフィケーションと強制立ち退きについての問題提起」

◆「全ての人に」の特別定額給付金からも排除された野宿者

強制排除までに野宿者を減らそうと「生活保護を受けるように」と説得にくる職員。「物件見に行こうか」と誘う職員も

新型コロナウイルス対策として、全ての人に一律10万円を支給する「特別定額給付金」の申請が概ね8月末でしめ切られた。当初から懸念されたように、釜ヶ崎でも一部給付されない人たちがでている。

「簡素な仕組みで迅速かつ的確に家計へ支援を行う」として始まったこの制度は、当初より「住民登録」が前提とされていた。しかし様々な理由で、住民票を持たない、持てない人もいることから、私たちは「住民票を持たない人にも給付するように」と大阪市と松井市長に再三要望書を提出してきた(ちなみに6月17日提出した大阪市への要望書の回答が8月31日午後17時25分、釜合労組合事務所のFAXに届いた)。

5月26日放映のMBSの情報番組「ミント」で、釜ケ崎の野宿者と給付金問題を取り上げられた際、人権問題に詳しい南和行弁護士(大阪弁護士会)がこうコメントした。

「給付金について、ホームレスの人だから受け取る権利がないというのは間違いです。ホームレスの人にも受け取る権利がある。住民票のあるなしは、(給付金給付の)権利のあるなしの問題ではなく、どのように受け取るかの手続きの問題でしかない。
 それについて、この住民登録があるないだけで、権利があるなしかのように取り扱うのは間違いで、総務省は形式的な答弁だけではなく、どのように今回の給付金だけではなく、(様々な)補償などをいき渡らせていくかという、抜本的な問題をつきつけられていると思う。
 2007年大阪市の(住民票)強制削除の問題[注]が、今になっても影を落としているということは、この13年間何もホームレス対策をしてこなかったことのあらわれでもあります」。

※[注]2007年大阪市(住民票)強制削除問題=ドヤ(簡易宿泊所)などで住民票が取れない日雇い労働者に対して、大阪市が解放会館などに住民票を置くことを推奨しておきながら、2007年に2088人の住民票を一方的に削除した事件。

南弁護士のコメントで、住民票の有無は給付金給付の条件ではないことがはっきりしたが、総務省はその後も「住民登録」の条件を外すことはなかった。

◆野宿者にだけ「住民登録」を義務づけられるのは、何故だ!

総務省は、全国の市民団体などから寄せられた要望に対して、住民票がなかった人、失踪届けが出され戸籍から抹消されていた人らに対して、住民登録を行い、給付金申請にこぎつける方策を提示してきた。しかし、そこから漏れる人たちも少なくはなかった。

約1時間炎天下で待たせた野宿者らに「住民票がなければ申請書は受け付けない」と言う大阪市役所の中谷係長

8月18日、そうした様々な事情で住民票のない人たちが、釜ヶ崎地区内にある西成区健康福祉センター分会に給付金の申請に行った。分会の職員らは野宿者らを中に入れず、「申請は市役所に行け」と突き返した。

しかし申請にきた人の中には、今日明日の飯代に困り、電車賃すらない人もいる。そのため私たちは「釜ヶ崎の地区内で相談窓口を設けて欲しい」と再三要求してきたのだ。

炎天下で待ち続けること約1時間、ようやく大阪市役所の担当者らがやってきた。係長の中谷氏が、住民票を作るなどして申請を行う方法を一通り説明した。その後「それでも様々な事情で住民登録できない人が申請にきた。受け付けて欲しい」と要望したところ、中谷氏は「受け付けは行わない」ときっぱりこれを拒否した。

もちろん、このまま黙って引き下がるわけにはいかない。何度もいうが、住民票の有無は、給付金を受け取るための条件ではない。これまで総務省は、住民登録の有無は、給付金の「二重払い防止」のためと説明してきた。しかし、同じように住民票を移せないDV被害者らには、住民票なしで給付した例もある。その際、いったん加害者側にも給付され二重給付となるが、それについては「やむを得ない」としている。

様々な理由で、実家や家族と疎遠になったり、連絡出来ない、したくない野宿者とて同じではないか? 同じ方法を野宿者に適応しないのは何故だ!?

私たちは諦めず、次の闘いを準備している。ご注目とご支援をお願いしたい。

▼尾崎美代子(おざき みよこ)

新潟県出身。大学時代に日雇い労働者の町・山谷に支援で関わる。80年代末より大阪に移り住み、釜ケ崎に関わる。フリースペースを兼ねた居酒屋「集い処はな」を経営。3・11後仲間と福島県飯舘村の支援や被ばく労働問題を考える講演会などを主催。自身は福島に通い、福島の実態を訴え続けている。
◎著者ツイッター(はなままさん)https://twitter.com/hanamama58

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