筆者はこれまで当欄で、様々な冤罪の話題について書いてきた。2020年を振り返り、個人的な視点から今年の冤罪の重要な話題トップ5を選定した。

まず5位。やはり、これを挙げておかないわけにはいかないだろう。先日報道があったばかりの免田栄さんの逝去である。

死刑囚としては初めて再審で無罪を勝ち取った免田さん。死刑囚が再審無罪になった前例がない状況の中、独房で絶望することなく無実を訴え続け、その訴えを司法に認めさせたのは偉業だと言っていい。筆者は5年ほど前、免田さんに取材を申し込んだことがあるが、免田さんの体調がすぐれず、実現しなかった。それは残念だが、享年95歳だから大往生だろう。

第4位は、米子市のラブホテル支配人殺害事件の第2次裁判員裁判で石田美実さんが無期懲役の判決を受けたことだ。

石田さんは2016年に鳥取地裁の裁判員裁判で懲役18年の判決を受けたのち、翌2017年に広島高裁松江支部の控訴審で逆転無罪を勝ち取った。しかし検察が最高裁に上告したところ、最高裁に無罪判決を破棄され、その後に広島高裁で審理を鳥取地裁に差し戻す判決を受け、またイチから裁判員裁判をやり直す羽目になっていた。

この事件はすでに当欄で何度か紹介しているので、ここでは事件の内容には触れない。しかし、一般市民が一度受けた無罪判決を取り消され、延々と被告人の立場に留め置かれるのは、検察官も上訴ができる日本の裁判制度特有の問題だ。来年1月末に発売される雑誌『冤罪File』2021年冬号で第2次裁判員裁判の詳細を報告しているので、関心のある方は参照して頂きたい。

第3位は、2005年に栃木県旧今市市で小1の女児が殺害された「今市事件」で、勝又拓哉さんの無期懲役判決が確定したことだ。

この事件は冤罪を疑う声が非常に多いが、勝又さんが実際に冤罪であり、無実であることは当欄で繰り返し報告してきた通りだ。

支援者が多数存在し、勝又さんへのサポート体制は万全だが、勝又さんのお母さんは体調が良くないこともあり、少しでも早く勝又さんの濡れ衣が晴れて欲しい。

第2位は、やはり当欄で繰り返し取り上げてきた湖東記念病院事件の再審で、西山美香さんが無罪判決を受けたことだ。

過去記事を検索してみたところ、筆者が当欄で初めて西山さんが冤罪であることを伝えたのは、2012年のことだった。あれからもう8年になるのか……と感慨深いものがある。

もっとも、西山さんの恋心につけ込み、虚偽の自白をさせて冤罪に貶めた滋賀県警の山本誠刑事がその後、県警内で出世しているなど、この事件にはまだ放置できない問題が色々ある。今後も事件に関する動きが何かあれば、当欄で報告したいと思う。

実家でくつろぐ西山さん。今年、ついに再審無罪を勝ち取った


◎[参考動画]“事件性の証拠ない”元看護助手に無罪(テレビ東京 2020年3月31日)

そして最後に第1位は…。

これはもう完全に個人的な思いから、あの有名冤罪事件・布川事件の桜井昌司さんが国と県に約1億9000万円の国家賠償を請求した訴訟の控訴審が12月15日、東京高裁で結審したことにさせて頂いた。

一審判決では国と県が約7600万円の国家賠償を命じられているが、2度目の判決は来年6月25日に出るという。

2014年、広島であった冤罪被害者・守大助さんの支援者集会で話す桜井さん

なぜ、この事件を1位に取り上げたかというと、桜井さんが現在、ガンで闘病中で、余命宣告も受けているからだ。ご本人は回復に向かっていると公言しているが、予断を許さない状況であることは間違いない。桜井さんは自分自身の冤罪を晴らすだけでなく、様々な冤罪被害者に手を差し伸べてきた人で、筆者自身、取材でお世話になったこともある。

来年6月の判決が、長年冤罪闘ってきた「生きたレジェンド」桜井さんの努力に報いるものになって欲しいと願い、この件を第1位とした。


◎[参考動画]『塀の中の白い花~ほんとに何もやってません』(FMたちかわ/84.4MHz)で2020/11/2と11/16の2回に渡って放送した、桜井昌司さんへのインタビュー全編(冤罪犠牲者の会)

◎片岡健が選んだ《2020年冤罪問題トップ5》と関連記事

【1】布川事件と桜井昌司さん
・冤罪のない社会をめざして 布川事件冤罪被害者、桜井昌司さんインタビュー
〈1〉(2019年1月16日尾崎美代子)
〈2〉(2019年1月18日尾崎美代子)
〈3〉(2019年1月22日尾崎美代子)
・布川事件冤罪コンビ「ショージとタカオ」のショージさん、大阪トークライブ──シャバに出てきて23年、「桜井昌司」で本当に良かった!
〈前編〉(2020年4月14日尾崎美代子)
〈後編〉(2020年4月17日尾崎美代子)

【2】湖東記念病院事件と西山美香さん
・刑事への好意につけこまれた女性冤罪被害者が2度目の再審請求(2012年10月8日 片岡健)
・滋賀患者死亡事件 西山美香さんを冤罪に貶めた滋賀県警・山本誠刑事の余罪(2018年2月16日片岡健)
・湖東記念病院事件・再審開始決定を勝ち取った井戸謙一弁護士の思想と行動(2019年3月21日田所敏夫)
・中日新聞が報じた西山美香さんの作文疑惑調書、元凶はやはり山本誠刑事か(2019年6月12日片岡健)
・組織ぐるみで西山美香さんを「殺人犯」に仕立てた滋賀県警は責任をとれ! 湖東記念病院事件の冤罪被害者・西山美香さんに1日も早く無罪判決を!(2019年6月20日尾崎美代子)
・《湖東記念病院事件》冤罪を作った滋賀県警・山本誠刑事 法廷で自白していた不当捜査への「上司と検事」の関与(2020年4月29日片岡健)

【3】今市事件と勝又拓哉さん
・今市女児殺害事件をめぐる冤罪疑惑──見過ごされた自白調書の明白なウソ(2017年4月6日片岡健)
・《殺人現場探訪08》今市女児殺害事件 自白の「嘘」を如実に示すわいせつ現場(2017年7月24日片岡健)
・栃木県警の「今市事件証拠遺棄」を否定した栃木県行政不服審査会の不見識(2018年4月2日片岡健)
・《殺人事件秘話13》今市事件:隠ぺいされた被告人以外の人物の「不審車両」(2019年1月23日片岡健)
・検証・冤罪疑われる今市事件の自白調書
【上】嘘を見抜くポイントは漫画と服装(2019年7月30日片岡健)
【中】自宅と現場を見れば嘘は一目瞭然(2019年8月31日片岡健)
【下】犯行の詳細を語れなかった被告人(2019年9月6日片岡健)
・冤罪説根強い今市事件 上告棄却の勝又拓哉氏が手記に綴った「再審無罪への決意」(2020年3月27日片岡健)

【4】米子市ラブホテル支配人殺害事件と石田美実さん
・無罪判決を受けた被告人が勾留される理不尽 ―― 米子ラブホテル殺害事件(2018年12月27日)

【5】免田事件と免田栄さん

◎[カテゴリー]片岡 健 http://www.rokusaisha.com/wp/?cat=26
◎[カテゴリー]司法と冤罪 http://www.rokusaisha.com/wp/?cat=13

▼片岡健(かたおか けん)
ノンフィクションライター。原作を手がけた『マンガ「獄中面会物語」』(画・塚原洋一、笠倉出版社)がネット書店で配信中。分冊版の最新第14話では、会津美里町夫婦殺人事件の高橋明彦を取り上げている。

月刊『紙の爆弾』2021年1月号 菅首相を動かす「影の総理大臣」他

「絶望の牢獄から無実を叫ぶ ―冤罪死刑囚八人の書画集―」(片岡健編/鹿砦社)