住民おきざり! 国の新自由主義「突撃隊」と化した湯崎県知事による広島市内の病院統廃合! さとうしゅういち

11月中旬、筆者は度肝を抜かれました。いや、広島市民の多くもそうでしょう。広島県知事の湯崎英彦さんは、広島市内の病院の大幅統廃合計画を発表しました。大義名分は高度医療と人材育成の拠点をつくることです。

「すべての県民が質の高い医療介護サービスを受けることができ、住み慣れた地域で安心して暮らし続けることができる広島県の実現を目指してまいります」と湯崎さんは宣言。

基本構想を拝読すると、いわゆる救急車のたらい回しや中山間地の医師不足などを解消するため、県内の高度医療の資源を集約した病院を新設し、若手の医師を育成することで課題解決を目指すとしています。

具体的には、広島市東区のJR広島病院(275床)と南区の県立広島病院(いわゆる県病院、715床)、中区の平和公園近くの中電病院https://www.energia.co.jp/hospital/index.html (248床)を統合。JR広島病院に近い広島駅新幹線口近く(いわゆる駅北)に1000床近い病院として集約します。さらに、舟入市民病院(156床)の小児科は廃止し、新しいこの駅北の病院に統合するとのことです。

土谷病院の小児循環器機能も新病院に移行します。府中町のマツダ病院などからも一部機能が移行します。これでも、300床近い病床削減となります。

また、新病院の運営形態は一般地方独立行政法人(非公務員型)が望ましい、とされています。JR広島病院と県病院の統合までは、事前に報道もされていましたが、それを上回る規模の統合です。また、全体として、急性期病床を削減し、回復期病床に転換する方向も示されています。

◆国の病院・病床削減の突撃隊としての湯崎さん

「高度医療・人材育成拠点」と言われれば、いかにも素晴らしいことのように思ってしまう方も多いのではないでしょうか?だが、看板に惑わされずに、本質を見極めていく必要があります。

ずばり、湯崎さんがやろうとしていることは、厚労省の方針を「突撃隊」的に進めることではないでしょうか?

厚労省は2019年9月に424の病院について再編・統合の必要があるとしました。そして、そのために2019年4月から10%にアップされた消費税を補助金として投入することになったのです。

「日本の病院・病床数は人口比で多すぎる。これに対して医師や看護師は不足している。」

「軽度の病人が重度の病人が利用すべきベッドを占領している。」

「急性期・慢性期の病床は余り、回復期(リハビリ)の病床は不足している。」

これらを病院・病床削減の大義名分としていました。すでに、1992年のピークの169万床から14万程度削減されています。ところが、その直後にご承知の通り、2019年末からコロナ災害が世界を襲ったのです。そして、再編の対象だった病院の多くが、感染症指定医療機関です。コロナ災害では、こうした医療機関、特に公立の医療機関が多く、コロナの患者を引き受けたのです。これらの病院がなければもっと大変なことになっていたでしょう。

実際、全国に先行して病院を削減した大阪府では、コロナによる死者が6698人と東京の6108人を上回り、全国でも群を抜いています。にもかかわらず、国は病院・病床削減の撤回はしていません。とはいえ、コロナ災害を受けて政府の病院・病床削減方針への世論の批判は強いものがあります。

広島県知事の湯崎さんは、そうした中で、国の方針を「高度医療・人材育成拠点」の名のもとに強行する突撃隊の役目を果たしているのではないでしょうか?

広島県庁。このまま、厚労省の医療切り捨て路線の突撃隊になるのか?(筆者撮影)

◆住民や労働者はおきざり

今回の統廃合計画では、中山間地のため、などといいながら、住民は置きざりです。江田島市に母親が住んでいるという女性は「江田島市は呉よりも船で広島市へ行く方が実は便利。自分の母も、船で宇品港(南区)に上陸し、そこから電車ですぐの県病院に通っている。駅北へ統合された場合、遠くなり不便だ。」と案じます。

実際に、宇品港から県病院までは広島電鉄5号線、3号線、1号線で十分です。しかし、広島駅までは5号線であり、30分で本数も県病院行きよりは減ります。1号線でも広島駅へ行けますが、紙屋町など都心部を通って大回りになり一時間近くかかります。

しかも、広島電鉄の広島駅からJR広島駅を乗り越える形である程度歩かなければいけません。2025年度には広島電鉄が広島駅ビルに突入?する形にリニューアルされますが、それでも一定程度歩かないといけないことに変わりはありません。

あるいは、中区で近所の舟入病院の小児科に通っているお子さんなら、30分近く電車に乗って、さらに広島駅を乗り越えなければならない。健常者ならたいしたことがないかもしれませんが、体が弱い方にとっては負担になります。あるいは、「子どもの病院が近いから」と、その地域を選んでマンションなどを購入した方もおられるかもしれません。

また、二葉の里周辺の道路は慢性的に渋滞が激しい場所です。これは、新幹線・山陽本線で市街地が分断されていることもあります。そこへ、救急車が集中すれば大変なことになりかねない。それこそ、渋滞で手遅れということもあり得る。本当に救急病院を集中させればいいのでしょうか?

また、病院で働く医療労働者にとっても大変です。県病院、JR病院、中電病院、それぞれに文化と伝統があります。それこそ、労働組合もそれぞれカラーが違います。そういう中で、本当に合併してうまくいくのかどうか?この点も心配です。

◆医療従事者が少ないから統廃合?

医療従事者が不足するから統廃合する、という国側の論拠の一つに対しては、そもそも、きちんと医者や看護師の労働条件を抜本的に改善して対応すべきでしょう。そこに力を入れずに、統廃合しても、問題の解決にはならないでしょう。

そして、コロナもそうですが、すでに克服されたか、下火になったと思われていた感染症も復活しています。例えば梅毒などもそのひとつです。さらに今後は、気候変動で寒冷地の氷が解けて、封印されていたウイルスなどが出てきて猛威を振るう恐れも指摘されています。本当に急性期病床を減らしていいのでしょうか?大変に疑問です。大阪の失敗を広島で繰り返していいのでしょうか?

いずれにせよ、知事の湯崎さんの美辞麗句に惑わされず、「国の突撃隊」としての湯崎さんについて県民はきちんと監視をしていかなければなりません。県民の代表としての県議会の責任は重大です。

▼さとうしゅういち(佐藤周一)
元県庁マン/介護福祉士/参院選再選挙立候補者。1975年、広島県福山市生まれ、東京育ち。東京大学経済学部卒業後、2000年広島県入庁。介護や福祉、男女共同参画などの行政を担当。2011年、あの河井案里さんと県議選で対決するために退職。現在は広島市内で介護福祉士として勤務。2021年、案里さんの当選無効に伴う再選挙に立候補、6人中3位(20848票)。広島市男女共同参画審議会委員(2011-13)、広島介護福祉労働組合役員(現職)、片目失明者友の会参与。
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