分断鉄路──暫定終着駅〈常磐線竜田駅〉を歩く《1》

東京荒川の日暮里駅から千葉、茨城、福島の太平洋側を経由して宮城の岩沼駅までを結ぶJR常磐線──。
2011年3月11日まで、80の駅を総距離343.1kmで繋いでいたこの路線はその後5年が過ぎたいまも、竜田駅─原ノ町駅間および相馬駅─浜吉田駅間が運行休止となったままでいる。

今年1月、水戸・いわき方面からの下り終着駅「竜田駅」とその周辺を歩いてみた。
地震と原発で分断された鉄路の景色を3回連載で紹介する。


いわき駅から常磐線に乗車し、30分ほどで「竜田駅」に着いた。同駅は1909年(明治42年)、貨物駅として開業し、1987年(昭和62年)の国鉄分割民営化に伴い東日本旅客鉄道(JR東日本)の駅となった。2011年(平成25年)、東京電力福島第一原子力発電所の事故を受け休業したものの、2014年(平成26年)には営業を再開。当時、同駅が所在する福島県双葉郡楢葉町はその全域が避難指示解除準備区域に指定されており、避難区域内の鉄道路線としては初の営業再開だった。2016年(平成28年)3月現在、水戸・いわき方面からの下り終着駅である。
 


駅務員の大須賀さんにお話を伺ってみた。
「以前は駅周辺に7000人ほどが暮らしていました。現在は500人くらいだと聞いています。お年寄りが多いですから、ほとんどの方は避難先で暮らしているのでしょう。」
1日の利用者数は(乗降者合わせて)約70人。事故前と比べると半分以下だそうだ。
 


終着駅になったこと、利用者数が減ったことなどにより、3つの線路のうち2つはいまも使用停止中。
残された3番線に到着するのがいわき方面への下り列車だ。(つづく)

▼大宮浩平(写真家)
1986年東京生まれ。
個展情報 : 大宮浩平写真展「態度」 / 新宿眼科画廊 /
2016年4月15日~2016年4月20日 12:00~20:00(最終日のみ12:00~17:00)/ 入場無料
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抗うことなしに「花」など咲きはしない『NO NUKES voice』Vol.7
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「資本主義の終焉」をむかえた世界で私たちは何を立ち上げるのか?

たまたま参加したセミナーで意外な発言に接した。表題の通り「資本主義の終焉」と演者は断言した。

榊原英資×水野和夫『資本主義の終焉、その先の世界』(2015年12月詩想社)

この言葉が、たとえば反体制側の運動家の口から発せられたのであれば、何も驚きに価しない。けれども、本発言は旧大蔵官僚で「ミスター円」の異名を取った榊原英資氏によるものだから驚いた。常々「末期資本主義」や「帝国主義」といった言葉を乱発している素人の私ではなく、体制のど真ん中で金融政策に関わっていた榊原氏の発言には、腰を抜かしそうになった。

役人時代も異色なキャラクターや発言で話題になることが少なくなかった榊原氏ではあるが、その日の発言は「資本主義の終焉」との言葉だけでなく、その根拠や論旨が私の持論と酷似(否、同じとすら言える)していたのだから、極端に表現すれば「驚愕」ですらあった。

◆500年位の歴史スパンで捉えると「一つの時代」は終わった

榊原氏曰く「先進国が高い成長率を目指すのは現実的ではないし、そんな時代は終わった。安倍さんは『成長戦略』なんてまだ言ってますけど無理です。歴史を500年位のスパンで捉えると一つの時代は終わったと考えられる。産業革命以降の経済成長時代は、少なくとも先進国の中では終わった。それが解っている欧州の国々はもう高成長を前提に考えてはいない。低成長の中でどのように豊かさを維持してゆくかを考えるべき時代です」

その通りだ。もっともこの発言の前には「憲法を改正して現存する自衛隊は軍隊なんだから、ちゃんと認めるべきだ」や「最終的には法人税を下げ、消費税を20%に上げるべきだ」といった、予想を外さない発言もあるにはあった。だが、そんなものは「資本主義の終焉」宣言の衝撃に比べれば聞き飽きた常套句であり、「ああ、またか」程度にしか耳に残っていない。

驚きは体制側の人間から、禁句とも言うべき「資本主義の終焉」が発語されたことだ。昨年にわかにピケティが流行ったが、表現に多少の差異はあれ、榊原氏もピケティも私も共有している概念があった。それが「資本主義の終焉」だ。

◆「資本主義終焉後の世界」を構想し、議論すべき時代

それではその後の世界はどうなるのか、どうなるのが望ましいのか、についての議論は非常に貧弱だ。榊原氏の指摘に的確な部分も見当たったが、新しい世界を規定する概念までには程遠い。無理もない。今日一部の左翼を除き、正面切って「資本主義の終焉」などと発言する人間はいないし、そのような命題の存在すらほとんど無視若しくは否定されているのだから。

目前の具体的諸課題への個別の議論も軽視は出来ないけれども「資本主義終焉後の世界」、つまり全く新しい枠組みの世界を構想し議論すべき時代なのではないだろうか。

マルクスは指針を描いたが、その限界が現実により示された。

片方で急速に戦争化する世界に「宿命的破滅」を感じる。未来などあるものか、とやけっぱちになりながらも「資本主義終焉後の世界」を考察することの価値は高い。日頃構想したこともない高い視点から未来を考える営為は刺激に満ちた知的行為だ。

▼田所敏夫(たどころ としお)
兵庫県生まれ、会社員、大学職員を経て現在は著述業。大手メディアの追求しないテーマを追い、アジアをはじめとする国際問題、教育問題などに関心を持つ。※本コラムへのご意見ご感想はメールアドレスtadokoro_toshio@yahoo.co.jpまでお寄せください。

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日本共産党の学費値上げデマチラシが検察に刑事告発寸前!

この2月に大騒ぎとなった「学費の値上げデマ」について市民団体が検察に告発しそうな動きをキャッチした。東京地検特捜部にこの告発が届くにはまだ先のようだが、「参議院選挙」を睨んで告発合戦の火ぶたが切られたといってもいいだろう。この動きについては後日、詳細に伝える。

共産党の学費値上げ糾弾チラシについては、新聞でも大きく報じられた(産経新聞)が、参議院選挙を前にして、手練手管の勢力が暗躍しているようだ。

「そもそも、この日本共産党のデマのチラシは、『安倍政権が国立大学の学費を毎年値上げし、16年後に現在の年間53万円から93万円に値上げする』というもので、共産党としては、財務省の審議会が提示した、国立大学への運営費交付金の削減案に注目したものです。『仮に交付金を減らして、自己収入を増やす際、その増えた部分の全額を学費でまかなったらどうなるか』という試算を政府に出させて悪用しただけの話です。現実は、財務省審議会の提案には自民も公明も反対し、昨年11月の建議からは、学費値上げの数字は消えて、安倍政権としては例年とおり、交付金を削らないことを決議しています」(週刊誌記者)

つまり、学費の値上げ話などは、露程もないのだ。さすが、かつての石原都知事に「ハイエナ政党」と断罪された姑息な手腕やアジテーション癖はまだこの党には残っているようだ。

2月3日の衆議院予算委員会では、安倍首相がチラシを見て「まったくのデマ」「ただちに公党としては責任をもって訂正してほしい」と答弁。すると、チラシの「安倍政権が値上げ」が「安倍政権のもとで狙われる」と修正された。
修正前修正後

まさに、「ビフォーアフター」の世界だとあきれるばかり。国民が政治に不信感を持つ訳だ。国民の不安を煽って選挙へ誘導する共産党のやり口と、こんなものに振り回される馬鹿で無能な与党との競り合いは「目くそ鼻くそを嗤う」という程度のものだが、共産党は、参議院選挙では1人区はあきらめ、民主党+維新の党と連携して、与党に対抗しようという作戦のようだ。民主党と維新の党は合流して「民進党」となったが看板のすげ替えにすぎない。中身はふぬけそのものなのは時間がたつとともにわかるだろう。

『志位委員長は頭がやわらかい男です。自民を倒すためなら、柔軟に味方を作っていくのではないかな。まあ例のシールズを取り込んで票にしてしまっている時点で、彼らの手練手管は老獪だといえます』(同)

こうした動きを見ていると、共産党にはデマを平気でまく蠕動組織としての一面と、老獪な戦略家としての一面が同居している摩訶不思議な政党だ。まあ、若者が減少し、弱体化している共産党は、もはやなりふりかわっていないとも見れるが。
「そうじゃない。志位としては、忸怩たるものがあっても、民主党や維新の党と連帯しないと共産党の支持者があきれて離れていかざるを得ないと考えているのですよ」

さて、18歳と年齢が下がった魑魅魍魎、そして国民が「無関心」な争点なき参議院選挙がひたひたと近づいてくる。

(伊東北斗)

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「ナベツネ」を辞任に追い込んだ野球賭博〈闇〉のからくり《3》

「ナベツネ」こと渡辺恒雄=読売巨人球団最高顧問をも辞任に追い込んだ野球賭博──。その闇を探るべく作家・影野臣直氏が、かつて胴元をしていた男性のインタビューに成功した。タレントや有名人はなぜかくも野球賭博にはまるのか? その理由の一部始終を3回に分けて公開する。今回がその最終回。

── では、野球賭博へのヤクザの関与は?

堂本 野球賭博も博打ですから、必ずどこかの博徒が絡んでいることは確かでしょうね。まぁ、あくまでも想像ですが、関西は山口組で関東は住吉か稲川かな、という推測はできますがね。

── 噂では弘道会の名前があがっていて、巨人選手の事件が表に出たのは山口組の分裂の影響という説がでていますが、なぜなんでしょう?

堂本 ボクは、まったく関係ないと思います。だいたい、賭けたカネが払えなくて球場まで来たってことですが、行った方もバカだし、来られた方もバカですね。これは、客が野球賭博に関与していることに対して胴元のコンプライアンスが疑われる。

警察関係では名前が挙がったのは、巨人の1軍選手にコーチ、中日の有名選手やフロントの職員の関与。
中日=(イコール)名古屋=(イコール)弘道会、の式ができあがったのではないだろうか。そこから尾ひれがついて分裂の余波との話が推測される。
少々のカネを集金にキャンプにいくってのは、世間を騒がせるのを分かってやったのか。いまだ今回の事件は謎が多い。

── なぜ、巨人にいるようなスター選手がハマるんでしょうか。どうやって、巻き込んでいくんでしょう?

堂本 たぶん、他の博打が関係してると思いますよ。ボクなら麻雀とか、もっと一般的な博打から進展していったんじゃないかな、と予想します。ただ、巨人の選手だっていえば、知らなくても張らせますよ。

日本一の人気球団である、巨人の現役選手。その利用価値は莫大だという。
先発選手の近況や、監督やコーチの不仲説。
それを得れば、博打を優位に進めることができる、さまざまな情報まで入手できるのである。

堂本 野球賭博にハマるヤツって、間口の広い博打から間口の狭い賭博に入ってきますよね。たとえば、雀荘ではテレビで野球中継や競馬中継やってるじゃないですか。そんなところからはじまるんですよ。もしかしたら、ハメられている可能性も感じますよね。博打が好きなんですね、アイツらは……。

最近では、野球賭博に関与する客の年齢層が下がっているという。
客の中には学生もいるし、オレオレ詐欺で稼いだ若手の実業家モドキなども野球賭博の太い客なのだそうだ。

2020年、東京オリンピックで正式種目となる野球競技。
メジャーリーグの日本選手の流出や、WBCやプレミア12などの国際大会などの増加。
これからの野球賭博は、国際化していくのかも知れない。(了)

[文]影野臣直+[プロデュース]小林俊之

◎元胴元が語る──野球賭博〈闇〉のからくり《1》
◎元胴元が語る──野球賭博〈闇〉のからくり《2》
◎元胴元が語る──野球賭博〈闇〉のからくり《3》

小林俊之+影野臣直!強力タッグの短期連載ルポ[全8回]
新宿・歌舞伎町ぼったくり裏事情──キャッチ目線で見た「警察の対応変化。
《1》「ぼったくり店。はどうやって生まれるのか?
《2》なぜ銀座のクラブにはゴタがないのか?
《3》メニューに金額明示があれば違法性はない?
《4》東京五輪を前に警察が浄化作戦を始動?
《5》御一人様51万円「クラブ・セノーテ」事件の衝撃
《6》ベテランキャッチが語る「ぼったくり」の世界
《7》「ガールキャッチ。復活と増えるプチぼったくり
《8》警察の弾圧が盛り場の「食物連鎖」を増殖させる

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福島原発事故5年の現実と社会運動の行方を総力特集『NO NUKES voice』Vol.7!

福島県郡山市「3・11 反原発福島行動」の現場から

東日本大震災・東京電力第一原子力発電所の事故から5年。2016年3月11日(金)、福島県郡山市で催された集会「3・11 反原発福島行動」の現場に足を運んだ。

10:30。開会を前にJR郡山駅前にてプレイベントとしての演説が行われていた。横断幕を背に力強く声を張る女性。地面に置かれた拡声器から響く声は、広々とした駅前広場のどこからでも聞くことができる。これを耳にした人々の反応はどうか。と、辺りを見渡すも、立ち止まる人の数は極めて少ない。写真を見ていただければ一目瞭然、この様子だ。

郡山駅は利用者の多い駅であるにもかかわらず、である。原発事故後の福島県は異常であり、その異常性は現地に住まう人間であれば必ず感じ知ることのできるものだ(と信じている)。であるならば、無関心の表れとして片付けるには極端にすぎる風景である。これはなにか、現地だからこその結果なのではないか。現地であるがために生じる反対運動の困難というものがあるのではないか。そんな思いと共に眺めていた。

12:20。「3・11 反原発福島行動」のメイン会場である開成山公園野外音楽堂に到着。立派な会場に集まった多くの人々と幾種もの赤色旗が、「戦い」の様相を演出している。駅前とは打って変わった賑やかさだ。

ギターの弾き語りやアルトサックスの演奏を経て、演説者が順にステージでマイクを握る。驚いたのは、演説への相槌だ。「ナンセンス!」とか「(短く)そうだッ」といった掛け声を、ステージからの言葉の間に差し挟む。会場に集まる人々を眺めると、なるほど若年層にくらべ圧倒的に老年層が多い。そして赤色旗のほとんどが労働組合のものだ。チラシを見てフラッと足を運んだ一般人というのは少ないのではないか、という印象である。

同じ思いを抱いた仲間が集まり、交流の中でその思いを固め、より強くしてゆく。これは素晴らしいことだし、非難するには当たらない。しかし、社会を変革するには数の力が必要だ。だとすれば、国策に圧殺されつつある反原発の主張は、意を異にする相手にこそ伝えるべきものではないだろうか。この点では残念ながら、郡山市の「3・11 反原発福島行動」から、やや閉塞的な感を得たのも事実である。

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喜入衆VS二朗戦──自分より長身脚長の相手にどうすれば勝てるのか?

キックボクシングにおいて、長身で脚が長い選手に対し「背が低い選手がどう戦う」のか。長身の選手を攻略する 「お手本のような試合」を見た。

喜入(右奥)VS二朗(左)

2月7日、16時から「新宿FACE」で行われた「ムエタイ・オープン34」(センチャイムエタイジムhttp://www.saenchai-gym.com/主催)のファイナル、第9試合のムエタイオープンタイトルマッチにして、「ルンピニー・ボクシングスタジアム・オブ・ジャパン」のウェルター級ランキング査定試合「喜入衆(フォルティス渋谷ジム・ムエタイオープンウェルター級王者)VS二朗(日進会館)」(5回戦、肘有り)は、プロフィール上は喜入が170センチ、二朗が178センチと8センチ差だが、二朗は19戦目の32歳のベテランで脚が長い。失礼ながら、中肉中背の喜入と相まみえると、長いコンパスでしばしば「当たれば即KO」ともいえる重いキックがすぐにでも飛び、KOしそうだ。

喜入(右奥)VS二朗(左)

その長いコンパスでの蹴りで、二朗は喜入を強くハイキックで何度も威嚇する。1ラウンドから3ラウンドまで、二朗が積極的に攻勢に出て、喜入が隙を見て首相撲に持ち込み、膝蹴りをたたき込む展開。二朗はしばしば首相撲をいやがり、強引に喜入を投げ捨てる。二朗が大振りのキッ クで喜入の頭、脇腹を狙い、そのたびにこの試合が60戦目の36歳となる老獪な喜入が横にぐるりと半円状にまわり、距離をあけてかわしつつ、タイミングを見て飛び込む。喜入はまったく二朗の間合いにさせないまま、じりじりと時間をかけて、右ストレートとローキックを確実に 二朗に入れていく。

喜入(右)VS二朗(左)

二朗の陣営から「キックを当てろ、当ててからパンチ出せ」と悲鳴まじりの声援が飛ぶと、反射的に喜入陣営か ら「回れ、回って(キックを)よけて飛び込め」とアドバイスが送られる。

3ラウンドが終わると「ジャッジ3名とも赤コーナー、喜入選手を優勢とみています」と途中経過のアナウンスが流れると、一気に二朗が上から、斜め下から、そして低いキックを繰り出していく。喜入は腕2本を折りたたみ、頭の上に十字に掲げて上からのハイキックを防ぎ、横からまわってくる横腹狙いの蹴りはエルボーで防ぎ、ローキックはくるぶしを当てにいって防ぐ。

「当たっているようでまったくヒットしていない」状態の防御は、見ている記者たちをうならせた。

「うーん、長身で脚が長い相手に身長で劣る選手がどう対処するか教科書のような防御ですね」(ベテランの格闘技ライター)

喜入(左)VS二朗(右)

かくして4ラウンドは、一気に勝負に出た二朗が打ち合いを挑み、左右のフックを連打するが喜入はしゃがみこんでかわしつつ、カウンターでローキックを当てて抱きつき、二朗のリズムにさせない。最終の5ラウンドに突入すると、接近戦でパンチを打ち合い、場内から「二朗! 二朗!」のコールと「喜入! き~い~り!」のコールがこだまする。この日、もっとも大歓声が入り乱れたまま 両者は、戦いを終えて判定へなだれこんだ。エプロンでは、セコンドからバケツのような水が両者に浴びせられる。外はコートが必要だが、リング上だけ真夏のようだ。

50-47,49-48,50-47と三者のジャッジは喜入の優勢を指示し、「喜入選手の判定勝ちです」と アナウンサーが歓喜とともに絶叫した。

喜入衆

喜入選手は勝利してマイクを手にすると「今日は応援に来ていただいてありがとうございました。自分たち年配ががんばることで、あとに続く若い人たちが奮起して、いい形でバトンを渡せばいいと思います」と締めた。

それにしても、鳴り物入りで昨年の夏に記者発表したのはいいが、「ルンピニー・ボクシングスタジアム・オ ブ・ジャパン」は、ランキング査定試合ばっかりやっているが、いったいいつランキングが発表されるのか。問い合わせるたびに「そのうちに発表します」と主催側は言うが、次回の大会は7月17日のディファ有明で、また間があく。ルンピニーの権威を汚さないためにも、すぐにでもランキングを発表しないと、ランキング上位を狙って決死の試合をしている喜入や二朗ら選手に失礼だと思うが、どうだろうか。

▼ハイセーヤスダ(編集者&ライター)
テレビ製作会社、編集プロダクション、出版社勤務を経て、現在に至る。週刊誌のデータマン、コンテンツ制作、著述業、落語の原作、官能小説、AV寸評、広告製作とマルチに活躍。座右の銘は「思いたったが吉日」。格闘技通信ブログ「拳論!」の管理人。

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「ナベツネ」を辞任に追い込んだ野球賭博〈闇〉のからくり《2》

「ナベツネ」こと渡辺恒雄=読売巨人球団最高顧問をも辞任に追い込んだ野球賭博──。その闇を探るべく作家・影野臣直氏が、かつて胴元をしていた男性のインタビューに成功した。タレントや有名人はなぜかくも野球賭博にはまるのか? その理由の一部始終を3回に分けて公開する。今回は第2回。

── ハンデは、いつ連絡してくるんですか?

堂本 試合当日の16時~17時くらいに、直接ハンデ師から電話がきて、ハンディを知らされます。だいたい、試合がはじまる2時間くらい前かな。それから顧客に連絡し、プレーボールの受けつけの締め切りまで待つわけですよ。

ハンデ師からの連絡がくると、胴元から顧客全員に連絡がいく。客はすぐスポーツ新聞等で情報を集め、試合開始直前ギリギリに勝ちチームを決める。野球賭博にハマっている連中は、このときが最高の楽しみなのだという。

── カネの流れは、どうなっているのですか?

堂本 野球賭博は、シーズン144試合あります。その全試合、開帳されています。だいたいの1週間の流れは、金土日の3連戦の分を翌週の月曜に集金する。火水木の3連戦では、金曜に集金です。勝った客に配当を渡すのは、当日ですね。もちろん、テラを1割引いてね。

── 集金方法は? また、そのとき、払わない人はいないのですか?

堂本 もちろん、自宅や会社までいって対面で手渡しです。口座はアシがつくから使えない。もし、現金がないっていったら、『つくらせるか、貸しつけるか』ですね。 

ここで、賭博の収入だけでなく、金融としてシノギも生じる。だから家も商売も、身柄のしっかりしている人にだけしか張らせないのだ。

── この稼業に入ったきっかけは?

堂本 もともと、16歳でヤクザの部屋住みになったのですが、賭場の見習いの一つとして野球賭博を始めたのは25歳から……おいしいシノギだと思ったから、1年くらいで独立しました。それから、3、4年はやってましたね。

もともと、才覚があったのだろう。堂本氏にはタニマチ(=スポンサー)衆がいたうえに、当時は暴排条例もなく景気も良かったうえに、ヤクザがメシを食うのが楽だった時代だった。堂本氏は巨万の富を築いた。

── そんなに儲かっていたのに、なぜやめてしまったのですか。

堂本 そりゃ、摘発されたからです。最後は、なんと高校野球でパクられてしまいました(笑)。

逮捕され、堂本氏は野球賭博から足を洗った。
堂本氏は実刑にいくことなく、執行猶予を科せられ社会復帰した。

── では、同じように逮捕された、ダルビッシュの弟も胴元だったのですか?

堂本 いや、胴元は人脈がないとできないですね。彼は『中継(ちゅうけい)』と呼ばれる、客をまとめて手数料を抜く業者だったと思いますよ。胴元と違い、簡単に開業できるのが特徴です。

中継も、やってることは胴元と同じである。ただ抜ける額が、胴元には遠く及ばない。

堂本 それでも、逮捕されたときは賭けさせた金額が問題になる。いくら儲かったかは、罪状に関係ないから、ダルビッシュの弟も胴元として賭博開帳図利で起訴されるでしょうね。ま、初犯だったら、執行猶予で出てきますね。

よく人数を集めまとめて買うグループがいるが、もし捕まったら胴元でなくてもグループの代表者が逮捕される。それが、今回のダルビッシュの弟の事件ではないかという。

── ただ、ダルビッシュの弟の場合、ハンデメールが出てましたが……

堂本 ハンディは関西と関東では違うんです。だからといって、ハンデ師がメールでハンディを報せるわけがない。証拠が残るから。

ハンデ師は口頭でしか、ハンディを知らせない。そこには博徒ならではの徹底した守秘義務が守られている。

── それでは、そんなハンデ師への報酬はどのくらいなのでしょう?

堂本 胴元の仲間内でも、ハンデ師がどこの誰か知っている人は少ない。ヤクザでも大きな組織の親分か、それに準ずるクラスの幹部連だけでしょう。それくらいトップシークレットですから、ハンデ師への報酬は胴元クラスではわからないでしょうね。

ハンデ師によって、売り上げが大幅に変動するという野球賭博業界。ハンデ師は、野球賭博をシノギとする組織の命運さえ握っているといっても過言ではない。(つづく)

[文]影野臣直+[プロデュース]小林俊之

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◎元胴元が語る──野球賭博〈闇〉のからくり《3》

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《1》「ぼったくり店。はどうやって生まれるのか?
《2》なぜ銀座のクラブにはゴタがないのか?
《3》メニューに金額明示があれば違法性はない?
《4》東京五輪を前に警察が浄化作戦を始動?
《5》御一人様51万円「クラブ・セノーテ」事件の衝撃
《6》ベテランキャッチが語る「ぼったくり」の世界
《7》「ガールキャッチ。復活と増えるプチぼったくり
《8》警察の弾圧が盛り場の「食物連鎖」を増殖させる

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抗うことなしに「花」など咲きはしない──5年目の福島と高浜「仮処分決定」

3・11から5年。正直あの災禍に見舞われながら、一体この島国の為政者は何を学んだのだろう、と無力感に打ちひしがれた5年間であった。なにが「花は咲く」だ。あんな空疎な歌詞とメロディーで被災者や原発事故の被害者の心が癒されるとでも皆さんは本気で思っているだろうか。私はあの歌は権力者による「震災」被害隠し以外の何物でもないように感じる。抗うことなしに「花」など咲きはしない。

高台への移住を前提とした東北の復興は予想を超える困難の前に、移住を諦め、他の地域への人口流出が進んでいる。津波被害地各地、とりわけ女川町ではその傾向が顕著である。

◆動かないはずのものが動き出した──高浜原発「仮処分決定」の福音

ああ、何もできずに、何も前に進まずに5年を迎えるのか、と明るい気分になれずに悶々としていたら、福音が飛び込んできた。3月9日大津地裁(山本善彦裁判長)は高浜原発3、4号機の運転停止を言い渡す仮処分の決定を言い渡した。稼働中原発の運転停止命令は史上初であるし、仮処分の中では「原子力規制委員会」が設けた「新規制基準」が合理的なものではないとする趣旨の言及もある。

福井地裁で同様の運転差し止め仮処分の判断を下した樋口裁判長の書いた差し止め理由は、我々を良い意味で大いに驚愕させてくれたが、大津地裁山本裁判長が指摘した、「新規制基準」への疑義、稼働中原発停止の判断、はこれまでの司法判断を大きく凌駕するものであり、極めて高い評価に値する。動かないはずのものが動き出した。

◆「諦めない」活動が地殻変動を起こす

私自身、現地に数回通い、目の前で(その時は知らされなかったけれども)事故が発生していた高浜原発(4号機)をこのまま運転し続ければ、高い確率で「破局的事故」が起こっていただろう。関西電力は懲りもせず、さらに古い1、2号機の40年超えの再稼働まで目論んでいるが、頼む。頼むから日本を終わらせないでくれ!

司法は所詮、国家の一機関だ。マスコミは所詮スポンサーの言いなりだ。でも意志を持った個人や集団は違う。「若狭の原発を考える会」(木原莊林会長)はこの2年間で70回以上高浜町へ関西から通って、地道なチラシ配りを中心とする様々な取り組みを行なってきた。京都から片道2時間弱を自らハンドルを握り(多くは70歳前後の方々)は、最初誰にも相手にされない中で、罵声を浴びせられながらも「アメーバデモ」と称した数人によるチラシ配布や、地元住民との対話を続けてきた。

開始から2年、高浜町では住民の反応は全く変わっている木原代表も「楽しくないとこういう運動は続きませんから」と笑顔で手ごたえを語る。

9日大津地裁の仮処分決定は、司法判断である。しかしそれを導く筋道を作ってきたのは、このような地道な活動を諦めずに続ける人たちの活動があったからではないだろうか。一見関係なさそうでその両者はどこかで確実に結びついているように感じられてならない。全国各地で様々な運動や原発立地で闘う人たち執念の賜物だ。

相次ぐ再稼働申請、原発輸出など愕然とするような事実の前にも、全く別な地殻変動は確実に起きている。私たちはまだ負けていない。

福島および周辺の被害者のみなさんに寄り添いながら、私たちは原発全機廃炉を勝ち取るまで、絶対に諦めない。ほらここに光明があるよと示してくれた大津地裁の判断とそれを導いた多くの方々の地道な活動に深い敬意の念を示したい。追悼と哀悼をささげるべき日に、私たちは同時に「脱原発闘争」を最後まで戦い抜く決意を新たにする。

私たちは負けはしない。

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兵庫県生まれ、会社員、大学職員を経て現在は著述業。大手メディアの追求しないテーマを追い、アジアをはじめとする国際問題、教育問題などに関心を持つ。※本コラムへのご意見ご感想はメールアドレスtadokoro_toshio@yahoo.co.jpまでお寄せください。

抗うことなしに「花」など咲きはしない『NO NUKES voice』Vol.7

シングルイシューの幻想──「ノリノリ」コールよりも本気の闘論を!

いつからこの言葉が使われるようになったのだろうか。社会運動が総体として弱体化し、共有できる根本概念を失ったことの自白として「シングルイシュー」は登場してきたような印象がある。

私は偏屈だ。偏屈だから「共有できる根本概念」を有しない運動や団体とは共同行動することを好まない。「シングルイシュー」は私のような「偏屈者」の居場所を狭める効果があるように感じる。

私は天皇制や「日の丸」、「君が代」を絶対に拒否する。無理矢理「君が代」斉唱を強いられる場所に居なければならないことを強制された時には、敢えて起立し一人で「インターナショナル」を歌う。誰も仲間はいない。数百人の中で私一人が「インターナショナル」を歌う。滑稽といえば滑稽極まりない。

◆「ノリノリ」コールが「本気で止める」力になるのか?

『NO NUKES voice』は「脱(反)原発」を基軸に据えた一見「シングルイシュー」雑誌のように思われるかもしれないが、そうではない。「脱(反)原発」を目指す闘いには「反戦」の闘いや「反安保」、「改憲反対」、「反差別」等と必ず繋がる根本概念(思想)がある。私(たち)はそのことが重要だと考える。そして長く社会問題を闘ってきた人々の間では、いちいち確認をしなくてもそれは黙約として確実に成立する。だから誌面には時として一見「原発」とは直接関係ないのではないかと思われる記事も掲載される。

長く闘っていない若者の中にも、エッセンスを共有してくれる頼もしい人々がいることを私(たち)は知っている。ただし彼らはその世代にあって圧倒的に少数だ。だからよけいに貴重な存在であり連帯したいと思う。

他方、私個人はSEALDsあるいは彼らを取り巻く大人を嫌悪する。私は『NO NUKES voice』発行人の松岡氏と異なりSEALDsあるいは彼らを取り巻く大人を1ミリも評価しない。その理由はSEALDsが明確に「憲法9条改憲」を掲げているからだ。「安倍を倒せ」と言いながら「9条改憲」を主張するSEALDs。参加している学生諸君全員の総意ではもちろんないだろ。だが『民主主義ってなんだ?』の中で交わされている牛田悦正氏と高橋源一郎氏の会話でこの2名は明確に「9条改憲」主張している。いいのか? SEALDsの学生諸君?「戦争反対」を標榜するものが、戦争肯定を準備する改憲に賛同する。これは矛盾ではないのか?

また、彼らとしては真剣なんだろうけども、お祭りかコンサートのような動きが気持ち悪い。『NO NUKES voice』6号で女帝様は「市民運動に対する感覚が共産党の人の中でも変わってきているとは感じています(中略)例えばSEALDsがコールすると、共産党系の人たちは結構ノリノリで参加する」と語っている。この姿が気持ち悪く胸糞悪いのだ。やたら丁寧に作られた(なぜか必要以上に英語の多い)プラカードを掲げた若者たち。「赤旗祭り」にSEALDsが呼ばれて、舞台に上り余興でもやったのなら解らなくはないけども、現場は「安保法制」(戦争推進法案)反対の集会だろ。何が「ノリノリ」だ。怒(いか)りはないのか? 高揚感があればそれが「本気で止める」力にでもなると本気で思っているのか。

「ノリノリ」はコンサートやライブでやって下さい。命を懸けた(本当に戦地に連れて行かれるのは私たちのような年寄りじゃない。若者なんだ)闘いだと思ってその場に参加した人の中には底抜けの絶望を味わった人だっていただろう。実際実力で止めたいとの思いを抑え切れず行動を起こした若者がいたことも事実だ。

◆激しい論戦や議論が疎まれる世情に挑戦する『NO NUKES voice』という起爆剤

『NO NUKES voice』の役割は「脱(反)原発」実現のため、そして「戦争を阻止」し「憲法改正」をさせないために様々な方に登場頂き、何の制約もなく語って頂く。それにより更に広い議論を喚起することにある。換言すれば激しい論戦や議論が疎まれる世情に挑戦するのが役割だと心得ている。しかし、多彩な議論は「あらゆる意見を我々が肯定する」ことを意味するわけではない。

誌上には様々な方々にご登場頂くが、その方々の見解に異議があれば私(たち)は遠慮なく反論をぶつける。時には熾烈な批判だって紙面で展開するだろう。それに対する妥当な内容であれば「反論」の機会も設ける。それが議論の世界における最低限の約束だ。私たちはそう思う。

編集に関わる人間の意見だって統一されている訳ではない。私は当初より反原連の孕む問題に懸念を抱いてきたが、松岡前編集長は反原連に一時強い興味を表明し具体的に支援もしていたようだ。見解の相違は我々の内部にだって存在する。

だからと言って私たちは編集に関わるライターや写真家を「見解の相違」でご遠慮頂いたり、まして「排除」したことなど一度もない。しかし「見解の相違」とは全く次元の異なる「裏切り行為」を働いていた姑息な人間が存在し、自ら『NO NUKES voice』を去っていった事実はある。利己主義者との対話は成立しない。裏切り行為を私たちはことさら攻め立てはしないけれども、どこかで私たちに対する誹謗でも始めれば、私たちは言論において容赦ない総攻撃に出るであろうことを予告しておく。

『NO NUKES voice』7号は6号よりさらに精鋭化した議論満載だ。真面目に長年「脱(反)原発」運動に関わってきた人々を軽々に扱う「反原連」への徹底的な批判が展開される。だが、単視眼ではバランスを欠くので不当逮捕のご経験がある阪南大学下地真樹准教授に、社会運動への俯瞰的ご意見を伺っている。

どう贔屓目に見ても「脱(反)原発」運動は一時の勢いを失いかけている。私たちはだから起爆剤を投入する。闊達な議論と運動の持続、そして原発全廃のために。

▼田所敏夫(たどころ としお)
兵庫県生まれ、会社員、大学職員を経て現在は著述業。大手メディアの追求しないテーマを追い、アジアをはじめとする国際問題、教育問題などに関心を持つ。※本コラムへのご意見ご感想はメールアドレスtadokoro_toshio@yahoo.co.jpまでお寄せください。

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福島原発事故5年の現実と社会運動の行方を総力特集『NO NUKES voice』Vol.7!

「ナベツネ」を辞任に追い込んだ野球賭博〈闇〉のからくり《1》

プロ野球界のみならず守旧メディアの要に長年にわたり居続けた「ナベツネ」こと渡辺恒雄=読売巨人球団最高顧問をも辞任に追い込んだ野球賭博──。その闇を探るべく作家・影野臣直氏が、かつて胴元をしていた男性のインタビューに成功した。タレントや有名人はなぜかくも野球賭博にはまるのか? その理由の一部始終を3回に分けて公開する。

プロ野球史上最大の汚点と揶揄される、昭和の『黒い霧』事件から46年。ペナントレースも終わり、CSファーストステージで賑わうプロ野球界に、突然の野球賭博問題が発覚し球界を震撼させた。しかも、その渦中の人物が、名門巨人軍の現役投手だったという。それに加え、メジャーリーガーのダルビッシュ有の弟までが野球賭博に関与した疑いで逮捕された。平成の『黒い霧』事件の勃発である。
だが、一般に競馬競輪は熟知していても、野球賭博をしる人は意外に少ない。いったい、野球賭博とはどのようなものなのか。
過去に胴元を務めていたという、元業界関係者に訊いてみた。

堂本勝和(どうもとかつとも)(仮名)52歳

16歳から関西の組織に稼業入りし、主に賭博を中心にシノギを行う。39歳で野球賭博で逮捕。出所後は堅気になり、現在は建築関係の会社を経営。

堂本 まぁ、野球賭博って、簡単にいえばプロ野球の対戦カードを、どちらのチームが勝つかを当てる博打ですね。丁半博打と同じで、引き分けはありません。

── だって、野球だったら引き分けもあるじゃないですか?

堂本  試合に引き分けはあっても、野球賭博に引き分けはありません。その時のチーム状況で、強い方から弱い方にハンディキャップを与えるんです。たとえば、巨人阪神戦に張るとしますよね。われわれの上にはハンデ師というのがいて、そこからハンディを報せてもらって始めて野球賭博が開帳されます。

ハンデ師はチーム事情を徹底的に調べ上げ、適切なハンディキャップを算出する。
チーム防御率や、チーム打率に打点。また先発選手の調子の好不調から、先発ピッチャーと相手打線の相性。選手の体調の良し悪しから、球場との相性までも加味するという。

堂本 現在のチーム事情で、ハンデ師が巨人から1、5を阪神に……とでたら、試合で巨人が2対1で勝ったとしても、賭博上では2対2・5で阪神の勝ちとなるわけです。逆に3対1で巨人が勝つと3対2・5で巨人の勝ちとなるわけです。

ハンデ師は、元プロ野球選手か野球関係者など、野球に精通した人だろうと噂されている。
また、ハンディキャップは多くても少なくてもいけない。野球賭博をおもしろくするのもツマらなくするのも、ハンデ師がつけるハンディのさじ加減一つで決まるのである。

── それで、試合にかける金額はどのぐらいになるのですか?

堂本 人によって違いますね。最低は1万円から、青天井(=上限なし)まで……でも、そこは賭けるお客さんの器量次第ですよ。

── 堂本さんの賭博で、一番大きく張られた試合はどのくらいですか。

堂本 1試合に200万円賭けた豪傑がいましたね。それに、ソープの経営者や自営業者などは1試合100万とか平気で張ってきますし、そういうダンべ(=旦那衆)が多いときは1試合合計で4500万円ぐらい張ってきたかな。

しかし、4500万円すべてが利益というわけではない。
野球賭博では、張ってきた金額をIN(イン)といい、支払うべき金額とOUT(アウト)と呼ぶ。野球賭博では、勝ったOUT側から10%のテラ銭(=場代)をとる。100万円勝って受けとるカネは90万円、負けて支払うカネは100万円。差額が胴元の利益である。
だから、この日の堂本氏は勝ち側に2250万円から1割の225万円を引いた金額2025万円を支払い、負け側から2250万円を集金し、225万円もの金額が残ったことになる。

── じゃあ、胴元は絶対に損をしないじゃないですか。

堂本 いや、そうでもないですよ。たとえば、負けてる人が取り返そうと思って賭け金が上がっていくと、ちょっとこれを張らせてやろうかな、とか慈悲の心を持つでしょ。でも、負け分の金額以上のカネを1試合だけ張られて、勝ったらやめてしまう。それじゃ、困るんですよ。最低、3試合は張ってもらわないと、こっちが一方的に負けてしまう。ウチも張らせてあげたんだから……。

勝ち負け2つの選択肢しかない野球賭博。負けた金額の倍の金額を張り続け、勝った時点でやめれば絶対に負けることはない。負けているだけに熱くなり、野球賭博の盲点を突いて張ってくる客もいる。

── タチの悪い客もいるわけですね。

堂本 だから野球賭博を開帳している人は、信頼関係がある人しか張らせませんよ。それに知らない人間に張らせると、負けがこむとチンコロ(=密告)するヤツもいますからね。だから、地元の社長や自営の人などの地位のある方が多い。あるいは、サラリーマンでも家などの資産を持ってる方。ヤクザ同士なら、代紋を保証にヤクザも客になるケースもあります。

賭博は、開帳した者も客となった者も罰せられる。

地元の社長や自営業者、資産家のサラリーマンにヤクザ。彼らにとって博打は、手慰(てなぐさ)みであり、密かな楽しみでもある。 賭場が摘発されると、一番困るのは客自身なのだ。

それだけに常連は、警察などにチンコロすることはない。

── そんな顧客を、一番多いときでどれくらい抱えていたのでしょう。

堂本 だいたい20人くらいかな。質の悪い客を多く持っていても仕方がない。どれくらい質のいい客を持っているかですよ。良質の客ばかりだと3日間の3連戦で、INが3000万ぐらいあったかな。

── すべて口頭でのやり取りですよね? 負けてても、オレは勝った方に張ったなどと居直られませんか。

堂本 だから、ミスがないように全部録音してありますよ。1日最高6試合開催される、野球賭博の事務所はあわただしい。だって、試合開始直前にハンデ師から、当日行われる全試合のハンディキャップが知らされるのですから。

聞き間違えたでは、すまされない博徒の世界。たった1つのミスが、信用を著しく傷つけることになる。信用がなくなれば、顧客は去っていく。賭博の世界は厳しい世界なのだ。(つづく)

[文]影野臣直+[プロデュース]小林俊之

◎元胴元が語る──野球賭博〈闇〉のからくり《1》
◎元胴元が語る──野球賭博〈闇〉のからくり《2》
◎元胴元が語る──野球賭博〈闇〉のからくり《3》

小林俊之+影野臣直!強力タッグの短期連載ルポ[全8回]
新宿・歌舞伎町ぼったくり裏事情──キャッチ目線で見た「警察の対応変化。
《1》「ぼったくり店。はどうやって生まれるのか?
《2》なぜ銀座のクラブにはゴタがないのか?
《3》メニューに金額明示があれば違法性はない?
《4》東京五輪を前に警察が浄化作戦を始動?
《5》御一人様51万円「クラブ・セノーテ」事件の衝撃
《6》ベテランキャッチが語る「ぼったくり」の世界
《7》「ガールキャッチ。復活と増えるプチぼったくり
《8》警察の弾圧が盛り場の「食物連鎖」を増殖させる

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