《書評》松永平太著『笑って、食べて、愛されて 南房総、在宅看取り奮闘記』〈4〉それぞれの専門性や活動によって切り拓く未来 小林蓮実

前回、「無色透明のごちゃまぜケア」と記した。これは、松永氏いわく、「医療と介護と福祉、地域が一体となって、みんなでそこに暮らしているお年寄りを支えるという意味」とのこと。そして、その先にある最期のために必要といわれているのがACP(Advance Care Planning)と呼ばれるもので、「人生会議」「終活」ともいわれる。

そのために松永氏が施設に入っている人や容態の急変があり得る高齢者に確認する1つ目のことが、人生の最期を過ごしたい場所だ。そして2つ目が、心臓マッサージや人工呼吸器、ECMO(エクモ)などによる治療を望むかどうか。3つ目が、経管栄養法を望むかどうかだという。

 
松永平太『笑って、食べて、愛されて 南房総、在宅看取り奮闘記』(幻冬舎)

◆最高の最期の迎え方

その場合、わたしなら動けなくなる直前までは自宅、動けなくなる直前に田畑を手がけている農地の向こうにある山の奥深くに移動し、最期を迎えたい。経管栄養法はもちろん、無理のある治療も受けたくない。このようなことは誰か、特に医師に伝えておかなければ実現しないだろう。普通は伝えておいても実現しないかもしれない。そもそも山の中で死なせてもらうことは難しそうだが。

松永氏は、高齢者本人の意思を最大限にくみ取ろうとする。これは、医師にとっても本人にとっても家族にとっても重要だが、困難が伴うものだろう。また一般的に家族などには、できるだけ生命を維持してほしいと感じがちなので、本当に難しい問題だ。ただし松永氏がいうには老衰の場合には点滴などの医療介入をしなければ苦しまないとのことなので、これは広く知られるとよいだろう。

また、松永氏は、「QOLを上げてQOD(Quality of death)を求める」という。現在では家で最期を迎えることが珍しいものになってしまったが、本人・家族に「家で看取る・看取られる覚悟」があれば可能だと述べる。また、子どもが都会に暮らしていても、最期は家族全員を呼び出すそうだ。

「最後の1週間で親孝行をほどよく楽しみながらやり切って、思い出に囲まれたなかで親を看取る、これができれば最高」「地域医療とは、優しく地域へ突き返すことでもあります」と松永氏はいう。

◆日々の活動から生まれる幸福感

ただし、国連の「World Happiness Report 2023」によれば、幸福度ランキング1位はフィンランド、2位はデンマーク、3位はアイスランド、4位はイスラエル、5位はオランダとなっている。日本は47位だ。

また、内閣府による2023年版の「高齢社会白書」によれば、「総人口に占める65歳以上人口の割合(高齢化率)は29.0%。65~74歳人口は1,687万人、総人口に占める割合は13.5%。75歳以上人口は1,936万人、総人口に占める割合は15.5%で、65~74歳人口を上回っている」という。

それでは、どうすれば、地域の高齢者やわたしたちは、幸福感を抱いて暮らしていけるのだろうか。社会をよりよく変えていくことは必要だ。そのいっぽうで、足もとの生活を誰もが「笑って、食べて、愛されて」生きていけるものに変えていくことも、とても大切なこと。できるかぎり人の役に立つことは、人から求められることにも結びつく。助け合い、刺激し合える、つながっていけるシステムを確立することも重要だ。

そのようななか、松永医院のある千葉県南房総市千倉町平舘では、コミュニティ集会所にて「区民の茶の間」という活動が行われ、市の支援を受けながらYouTubeチャンネルを運営したり、「チャンネルの会」を結成して区民の一部が参加費を支払いながら山の整備を行ったり、子ども会や青年会も参加して田植えや稲刈りのイベントも開催している。

さまざまな活動が評価され、「区民の茶の間」は厚生労働省のスマート・ライフ・プロジェクトが運営する2018年の「第7回健康寿命をのばそう!アワード」にて、厚生労働省老健局長 団体部門 優良賞を受賞。

また、公益財団法人 日本国際交流センター主催の「アジア健康長寿イノベーション賞2022」では、南房総市千倉町平舘区、千葉大学医学部附属病院患者支援部、松永医院、富浦エコミューゼ研究会(千葉県)の「高齢者が主役!受け継ぐ地域の活力」という活動が最優秀事例の1つに選ばれた。アジア健康長寿イノベーション賞」においては、都内で授賞式が開催された後日、受賞者を中心とする訪問団が平舘区を訪れ、歓迎会に参加し、地域の農地などもまわったのだ。

受賞は決して重要ではなく、ゴールでもないが、地域の多くの人がそこに参加しているという実績が評価されたものだろう。

◆地域の魅力を未来に引き継ぐための、100年後、500年後からの逆算

個人的には、松永氏が口にするような、医療を産業として捉えることには反対だが、医療や介護の制度を持続可能なものとするため、必要なことは多々あるだろう。彼は「100年経っても生き残っている地域にしなければならない」というが、先日、大山千枚田保存会の20年記念イベントに参加した際にも、後継者問題は待ったなしという全国に広がる問題に触れずに進行されることはなかった。松永醫院では今後、看護小規模多機能サービスの施設開業の計画もあるそうだ。

今後、地方にとって必要なことは、やはり地域の魅力を守りながら経済とは別の文脈で可能性を拡大するような移住者を増加させること。そして、家制度の外側に、ゆるやかで心地よいつながりからなる助け合いのコミュニティを育むことが大切であるように思う。

わたしは農地を次々と引き継いでいるので、それを「農暮らし寺子屋 コモンズ名戸川原(地域にある田園エリアの名)」という形で発展させることを計画しようとしている。また、地域からのリクエストのあった八百屋、配食サービスを実現するため、キッチンカー事業の開業も予定しているのだ。そこで、移住や暮らし、パソコンや国語・日本語の悩みを解決するための駆け込み寺としても機能させることを考えている。

とりあえず、都会から訪れる会員さんの滞在先として隣の行政区の空き家を管理し、地域の人とも交流してもらっている。また、支援のサービスを手がけたい移住希望の若い夫妻、反対に2人の支援が必要な子どもを育てる移住希望のシングルマザーなどの支援も継続中。個人的に重視していることは、助け合いシステムの確立だ。それが未来の自分を救うことにもつながるだろう。

特に、Uターンや移住者は、あえて地域を世界一大切にしたい場所と考えて移り住んでいる。そのなかには、さまざまな活動に携わる仲間も多くいるのだ。その1人ひとりがそれぞれの専門性も生かしつつ、地域の高齢者も、将来の自分たちも心地よく暮らし、自然な形でここを去ることができるよう、わたしたちがつながってできることは、いろいろあるはずだ。

個人的に内房エリアのオリーブ栽培にも時々、参加しているのだが、オリーブも樹齢500年の木が世界に多くあるという。わたしも500年後の未来に地域の魅力を引き継いでいけるよう、そこから逆算した活動を重ね、日々を送りたいと常々考えている。(完)

◎地域医療の最先端モデルに学ぶ ──《書評》松永平太著『笑って、食べて、愛されて 南房総、在宅看取り奮闘記』

〈1〉笑顔で自分らしく生き、自宅で人生の最期を迎えるための地域医療
〈2〉命を輝かせ、独りぼっちにさせないための施設と取り組み
〈3〉看護師の言葉から辿る実践の「奇跡」
〈4〉それぞれの専門性や活動によって切り拓く未来

▼小林 蓮実(こばやし・はすみ)
1972年生まれ。フリーライター。現在、自然農に近い畑、不耕起栽培から多年草化を目指す田んぼを手がける。また、食と農の問題に関し、継続的に調査中。月刊誌『紙の爆弾』12月号に、「放射線育種米から誕生した『あきたこまちR』が開く 食と農業の悲劇的な最終幕」寄稿。

タブーなきラディカルスキャンダルマガジン 月刊『紙の爆弾』2024年1月号

「気候危機」論とは何か〈後編〉 最優先の課題は、原発の廃絶=脱原発である 原田弘三

◆「気候危機」対策の現況と評価

① COP26合意の背景

2021年11月、英国グラスゴーで開催されたCOP26会議で、産業革命前からの気温上昇を1.5度に抑えることで合意、2050年までに世界のCO2排出量を実質ゼロにすることが世界目標となった。この決定プロセスについて、朝日新聞編集委員原真人氏は、以下のように書いている。

 ここ数年、世界を脱炭素の急進路線に一気にかじを切らせた立役者はおそらくグレタ・トゥンベリさんや環境NGOではなく、世界の金融ネットワークである。
 いま欧米金融界を中心に機関投資家、資産運用会社、投資コンサルティング会社などがこぞって脱炭素をめぐる国際的な指針づくりを進めている。企業が脱炭素にどれだけ熱心か情報を詳しく開示させ、市場で適正に評価するためだ。脱炭素市場に巨額の投資を呼び込もうという思惑である。仕掛け人は米投資銀行出身でカナダと英国の中央銀行総裁を歴任し、いまは国連の気候変動問題担当特使を務めるマーク・カーニー氏だ。同氏が提唱して発足した金融・投資家連合は「脱炭素に30年間で100兆ドルを投資しうる」と宣言している。狙うは化石燃料を利用する発電所やガソリン車を排し、代わって再生可能エネルギーや電気自動車への転換を1気に進めること。総とっかえの投資ブームを金融からの強力な締め付けで実現しようというのだ。(中略)
 かつて地球温暖化外交で日本政府の交渉官を務めた有馬純・東大特任教授は「いまや温暖化そのものが巨大ビジネスになった。金融や再エネ業者、環境NGO、学者、そしてメディアも含めて1種の気候産業複合体、『温暖化ムラ』とも言えるような1大勢力ができている」と指摘する。
 世界経済は1970年代はインフレで、80年代以降は政府や民間の借金積み上げで成長を遂げてきた。それも行き詰まり、昨今は中央銀行のお金のばらまきが頼りだ。それでも低成長から脱せないことに危機感を抱く金融・投資家連合が、次なる成長エンジンとして見込んだのが脱炭素マネーということか。(『朝日新聞』2021年12月22日付)

この記事は現代世界における脱炭素の位置付けを的確に描写している。1997年の京都議定書で設けられた排出権取引制度を通じてCO2の金融商品化が進んだことも、欧米金融界が脱炭素を後押しする大きな動機になっていると思われる。

欧州では月間10億~15億トンの排出権が売買され、月間500億~750億ユーロ(約6・5兆~9・8兆円)の巨大市場を形成している(『週刊東洋経済』2021年7月31日号 高井裕之「脱炭素で活況呈するEU排出権市場」)。「気候危機」論が普及し脱炭素対策が進めばこの排出権市場が拡大し、金融資本家にとっての利潤獲得機会が増大する。

脱炭素は、欧米金融資本の利潤獲得に貢献するものである。

② グレタ・トゥーンベリ氏の原発への態度

2021年7月18日にBS朝日から「グレタ・トゥーンベリ気候変動の最前線をゆく」という番組が放映された。この番組は英国BBCが18歳を迎えた彼女が大学を休学して世界中を旅した1年間に密着取材したドキュメンタリーを再構成したものである。

この番組の中でトゥーンベリ氏はポーランドの火力発電所を視察し、それに続いて廃坑になった炭坑を訪れ元炭鉱労働者たちと交流する。その後、その体験を踏まえてダボス会議(2020年1月21日)で演説し以下のように言う。

「先週私は職を失ったポーランドの炭坑労働者の方々と会いました。彼らでさえ諦めていませんでした。むしろ変わらなければならないという事実をあなた達以上に理解していました。」

この発言にはトゥーンベリ氏の原発容認姿勢が表れている。彼女が訪れたポーランドでは、再生エネルギーに加えて代替主力電源として原発の建設が進められており、将来的には代替電源の約5割を原発でまかなう予定になっている。その事実と考え合わせると、彼女の発言は「CO2削減のためには原発を使ってもよい」という主張に他ならない。

彼女は2022年10月、ドイツ公共放送ARDのインタビューで、気候保護のために原発は現時点でよい選択かと問われ、「それは場合による。すでに(原発が)稼働しているのであれば、それを停止して石炭に変えるのは間違いだと思う」と答え(『毎日新聞』電子版2022年10月14日付)、原発容認の姿勢をより明確に打ち出している。 

③ IPCCの原発への肯定的評価

IPCCが2022年4月に発表した第6次評価報告書第3作業部会報告書には「原子力は、低炭素エネルギーを大規模に供給することができる(高い確信度)」と書かれている。

しかしこの認識自体、事実に照らせば誤りである。原発がCO2を出さないのは発電場面のみであり、ウラン燃料の採掘・精錬・運搬、施設の建設、運転終了後の廃炉作業、使用済み核燃料の保管・処理まで含めれば、膨大な量のCO2を排出する。

IPCCが提唱するCO2の排出削減という目的に照らしても、原発は極めて不合理な選択である。IPPCがそのような不合理な主張をしているという事実を見過ごしてはならない。

◆むすび 脱炭素から脱却し本来の環境保護を

メディアはグレタ・トゥーンベリ氏を環境活動家と呼んでいる。しかし、先に見たようにトゥーンベリ氏は「気候危機」対策としての原発を容認している。言うまでもなく原発こそが最悪の環境破壊の元凶であり、それを容認するような運動を環境運動と呼ぶことは適切ではない。「気候危機」論と環境保護を同1視すべきではないのである。

石燃料の無制限な使用が環境に悪いことは誰も否定しえない。化石燃料の資源は有限であり、その使用は大気汚染をはじめ各種の環境汚染の発生を伴う。従って、「化石燃料の使用を抑制しよう」という「気候危機」論のテーゼは、環境保護と共通点がある。

しかし、CO2の排出が気候に悪影響を与えるため脱炭素を進めよう、という点において、「気候危機」論は環境保護とは別物である。CO2自体は汚染物質ではなく植物の生長に必須の物質である。しかし「気候危機」論においてはCO2を出すもの=悪、CO2を出さないもの=善という2項対立が作り出され、実際には環境に最も悪い原発が推進される。

欧米金融資本は脱炭素に利潤の源泉を見出し、強力に脱炭素を後押しし、各種国際機関、各国政府も脱炭素を推進する政策を打ち出している。しかし脱炭素は原発推進を促すため結果として深刻な環境破壊をもたらす。

原発以外の手段で脱炭素を進めればよいという議論もある。しかし化石燃料を一挙に再生可能エネルギーに置き換えることは困難なため、脱炭素を是認すれば「足りない分は原発で」という論理によって原発推進に道が開かれてしまう。そもそも「気候危機」論自体が科学的に不確かな議論である以上、脱炭素に同調すべきではないのである。

脱炭素は端的に言えば資本の論理である。われわれは資本主義社会に生活している以上、それに順応した生活形態を余儀なくされる。例えば生活の糧を得るために営利企業に労働力を提供し賃金を得る必要がある。しかし、だからと言ってわれわれ市民に資本主義体制を強化する義務はない。同様に、市民には脱炭素に加担する義務はないのである。 

市民は、IPCCの見解やそれに追随し無闇に危機感を煽るメディアの報道を額面通り受け取ることをやめ、脱炭素から距離を置くべきであろう。市民は真に環境によいことは何かを自分の頭で考え、大気、水、土地の汚染を防止し自然の植生を守り育てるという、環境保護本来の理念に立ち返るべきである。そうした環境保護の着実な活動こそ、今日の社会で求められている運動だと言える。その意味で、原発の廃絶=脱原発が最優先の課題であることは言うまでもない。(完)
           
◎「気候危機」論とは何か
〈前編〉二酸化炭素の人為排出は本当に気候に甚大な悪影響を与えているのか?
〈後編〉最優先の課題は、原発の廃絶=脱原発である

本稿は『季節』2023年夏号(2023年6月11日発売号)掲載の「『気候危機』論についての一考察」を本通信用に再編集した全2回の連載記事です。

▼原田弘三(はらだ・こうぞう)
翻訳者。学生時代から環境問題に関心を持ち、環境・人権についての市民運動に参加し活動している。

『季節』2023年冬号

〈原発なき社会〉を求めて集う
不屈の〈脱原発〉季刊誌
『季節』2023年冬号

通巻『NO NUKES voice』Vol.38
紙の爆弾2024年1月増刊
2023年12月11日発行 770円(本体700円)

2024年の大転換〈脱原発〉が実る社会へ

《グラビア》
「東海第二原発の再稼働を許さない」11・18首都圏大集会(編集部)
福島浪江「請戸川河口テントひろば」への道(石上健二)

《インタビュー》小出裕章(元京都大学原子炉実験所助教)
必要なことは資本主義的生産様式の廃止
エネルギー過剰消費社会を総点検する

《インタビュー》井戸謙一(元裁判官/弁護士)
「子ども脱被ばく裁判」と「311子ども甲状腺がん裁判」
法廷で明らかにされた「被ばく強制」 山下俊一証言のウソ

《報告》後藤政志(元東芝・原子力プラント設計技術者)
【検証】日本の原子力政策 何が間違っているのか〈1〉
無責任な「原発回帰」が孕む過酷事故の危険性

《報告》木原省治(「原発ごめんだ ヒロシマ市民の会」代表)
瀬戸内の海に「核のゴミ」はいらない
関電、中電が山口・上関町に長年仕掛けてきたまやかし

《報告》山崎隆敏(元越前市議)
関電「使用済燃料対策ロードマップ」の嘘八百 ── 自縄自縛の負の連鎖 

《インタビュー》水戸喜世子(「子ども脱被ばく裁判の会」共同代表)
反原発を闘う水戸喜世子は、徹底した反権力、反差別の人であった
[手記]原発と人権侵害が息絶える日まで
       
《インタビュー》堀江みゆき(京都訴訟原告)
なぜ国と東電に賠償を求めるのか
原発事故避難者として、私が本人尋問に立つ理由

《報告》森松明希子(原発賠償関西訴訟原告団代表)
原発賠償関西訴訟 提訴から10年
本人調書を一部公開 ── 法廷で私は何を訴えたか?

《報告》平宮康広(元技術者)
放射能汚染水の海洋投棄に反対する理由〈前編〉

《報告》山崎久隆(たんぽぽ舎共同代表)
「核のゴミ」をめぐる根本問題 日本で「地層処分」は不可能だ

《報告》原田弘三(翻訳者)
「気候危機」論の起源を検証する

《報告》三上 治(「経産省前テントひろば」スタッフ)
汚染水海洋放出に対する闘いとその展望

《報告》佐藤雅彦(ジャーナリスト/翻訳家)
フクシマ放射能汚染水の海洋廃棄をめぐる2つの話題
映画になった仏アレバ社のテロリズムと『トリチウムの危険性探究』報告書

《報告》板坂 剛(作家・舞踊家)
再び ジャニーズよ永遠なれと叫ぶ!

《報告》山田悦子(甲山事件冤罪被害者)
山田悦子の語る世界〈22〉
甲山事件50年目を迎えるにあたり
誰にでも起きうる予期せぬ災禍にどう立ち向かうか〈上〉

再稼働阻止全国ネットワーク
岸田原発推進に全国各地で反撃中!
沸騰水型の再稼働NO! 島根2号、女川2号、東海第二
《東海第二》小張佐恵子(福島応援プロジェクト茨城事務局長/とめよう!東海第二原発首都圏連絡会世話人)
《福島》黒田節子(原発いらね!ふくしま女と仲間たち/「ひろば」共同代表)
《東京》柳田 真(たんぽぽ舎共同代表)
《浜岡原発》沖 基幸(浜岡原発を考える静岡ネットワーク)
《志賀原発》藤岡彰弘(命のネットワーク)
《関西電力》木原壯林(老朽原発うごかすな!実行委員会)
《島根原発》芦原康江(さよなら島根原発ネットワーク)
《中国電力》高島美登里(上関の自然を守る会共同代表)
《川内原発》向原祥隆(川内原発二〇年延長を問う県民投票の会事務局長)
《規制委》木村雅英(再稼働阻止全国ネットワーク)

反原発川柳(乱鬼龍 選)

書=龍一郎

龍一郎揮毫
私たちは唯一の脱原発雑誌『季節』を応援しています!

2023年を顧みる〈1〉ウクライナ戦争の現実に、世界史を目撃する 横山茂彦

◆はじめに

この一年を回顧する時期がやって来た。ウクライナ戦争が二年目を迎え、パレスチナ紛争は本格的な「内戦」、シオニズムとパレスチナとの戦争状態(ジェノサイド)に入った。この一年を顧みながら、われわれがどのような世界を生き、どのような時代にいるのかを確認しておきたい。

ウクライナ戦争は6月からウクライナが反転攻勢に出たことで、長期化は必至となった。ベトナム戦争が反仏独立闘争からアメリカの本格介入、そして1975年のサイゴン解放まで30年、ソ連のアフガニスタン侵攻が終結するまで10年、アメリカのアフガン介入が20年、そしてパレスチナ紛争が75年という長いタームを持っていることを考えるとき、ウクライナ戦争は数年、数十年単位の長期化が予想される。いや、すでにドンバス戦争・ロシアのクリミア併合から10年が経っているのだ。

さて、ウクライナの反転攻勢という事態のなかで、われわれが注目してきたのはブリゴジンのワグネルだった。ワグネルという名称は、ヒトラーが好きだったリヒャルト・ワーグナーに由来するという。

勇者たちは地獄に堕ちるのか? ロシアの民間軍事企業「ワグネル」創設者プリゴジンはプーチンに粛清されるかもしれない(2023年5月27日)

今年の5月段階で、ブリゴジンは国防相と参謀総長を激しく批判した。この兆候がロシア軍の崩壊の序曲ではないかと、ナチスドイツのヒトラーとエルンスト・レームの関係になぞらえたのが、この記事である。反乱は起きるであろう。国防軍とナチス突撃隊の関係と同様に、ロシア軍とワグネルは、どちらかが生き残り相手をせん滅するしかない、矛盾した存在だったのである。

そして独裁者は、たとい友情をつちかった盟友であっても、ナンバー2になろうとする者をゆるさない。ましてや国軍を批判する民間軍事組織は、叛乱のファクターとして排除するであろうと、記事で指摘してきた。

あにはからんや、われわれの予測は的中した。ブリゴジンが反乱を起こしたのである。

スターリン流の粛清劇がはじまる プリゴジンの反乱 ── 熾烈な権力闘争の行方(2023年6月28日)

クレムリンで何が起きているのか? 飛び交うプリゴジン死亡説とプーチン逮捕の可能性(2023年7月21日)

◆プリゴジンの反乱 粛清か、政治危機の深化か。熾烈な権力闘争

われわれがブリゴジンとワグネルに注目してきたのは、かれらがロシアの伝統的な人海戦術を体現していたからだ。すなわち、スターリン時代のロシア陸軍(ソ連軍)は、戦車のハッチをハンダ付けすることで乗員の脱出を禁じ、徹底的に戦うことを強要したのである。今回の戦争で、ワグネルはウクライナ兵の位置を知るために丸腰で最前線の標的にされたという(懲役囚捕虜の証言)。

そしてその証言にみられるように、旧ソ連軍が懲役囚を最前線に送り込んだのと同じ動員構造、労働編成であることがわかる。

この構造が崩壊したときに、おそらくロシア軍は組織的に崩壊するであろう。日本でもガダルカナル島の飛行場建設には、この動員構造が用いられた。その後、陸軍組織そのものが崩壊したのだった。

さて、ブリゴジンとワグネルは、われわれが予測したとおり反乱を起こした。

ワグネルの宿営地がロシア正規軍のミサイル攻撃を受け、プリゴジンは報復としてロシアのヘリコプターを撃墜して13名を殺害した。そしてプリゴジンは軍幹部の粛清をもとめて、モスクワ進軍を開始したのだった。

その過程で、ブリゴジンは地域の政治集会を開催し、政治的支持を取り付けることを怠っていない。単なる軍事的反乱ではなく、政治的反乱すなわちクーデターの企てだった。

記事から引用しよう。

このワグネルの「行進」がムッソリーニのローマ進軍(国王エマニエーレ3世による総理指名)、ヒトラーのミュンヘン一揆(失敗・投獄)に倣い、政変をめざしたのは明らかだったが、プーチンに「裏切り」と断じられ、検察当局が捜査を開始した段階で、部下に撤退を命じた。クーデターは未遂におわり、プリゴジンはベラルーシに「亡命」したと伝えられている。

この「亡命」劇は、ただちに粛清に乗り出せないプーチンが、盟友ルカシェンコ(ベラルーシ大統領)と相談の上、収拾策に出たものだ。プーチンの政治力の低下を指摘する声は多い(西側首脳)が、軍事衝突を回避した手腕は独裁者の冷徹を感じさせる。プーチンは政治危機を脱したのだ。

しかし、上記の記事でも明らかにしておいたとおり、独裁者はけっして反乱をゆるさない。血の粛正がいつ、いかなる形で行われるのかが焦点となった。そして、その時がやってきた。

《緊急報》プーチンがプリゴジンを爆殺 やはり独裁者は裏切りを赦さなかった(2023年8月25日)

もはやわれわれは、事実関係を報じた記事において、事件の本質を知ることになる。

モスクワの北西部にあるトベリ州で23日、ビジネスジェットが墜落した。

このビジネスジェットは、ロシアの民間軍事会社ワグネル創設者エフゲニー・プリゴジンの所有で、タス通信はロシア連邦航空局の情報として、乗客名簿にプリゴジン氏の名前があったと伝えた。

また緊急事態省によると、ジェット機には乗員3人を含む10人が搭乗していたが、全員が死亡したとみられる。連邦航空局の発表は事件の一時間後であり、事前に知っていたかクレムリンからの情報と考えられる。通常、連邦航空局は事件を実地調査しないかぎり、発表しないからだ。

独立系メディアによると、ジェット機はモスクワ郊外から飛行していた。高度8500メートルを飛行中、突然墜落したという。ということは、間違いなくミサイル攻撃である。

このミサイル攻撃という過酷な粛正劇は、政治ドラマの一幕を観ているような気分だった。ヒトラーの「長い夜」を称賛したスターリン。そのスターリンを称賛するプーチンにおいて、現代のナチス政治、ヒトラーの政治手法が再現されたのである。世界史を目撃するとは、こういうことなのだろう。(つづく)

▼横山茂彦(よこやま・しげひこ)
編集者・著述業・歴史研究家。歴史関連の著書・共著に『合戦場の女たち』(情況新書)『軍師・官兵衛に学ぶ経営学』(宝島文庫)『闇の後醍醐銭』(叢文社)『真田丸のナゾ』(サイゾー)『日本史の新常識』(文春新書)『天皇125代全史』(スタンダーズ)『世にも奇妙な日本史』(宙出版)など。

タブーなきラディカルスキャンダルマガジン 月刊『紙の爆弾』2024年1月号
〈原発なき社会〉を求めて集う 不屈の〈脱原発〉季刊誌 『季節』2023年冬号

これで「平和都市広島」を名乗れるのか? 新人研修に「教育勅語」を11年以上使用してきた松井一實市長にびっくり仰天! さとうしゅういち

平和都市・広島の市長はとんでもない方でした。

広島市の松井一實(かずみ)市長が就任翌年の2012年から「教育勅語」の一部を新人研修の資料に使っていたことが、中国新聞の取材で明らかになりました。そして、さらに今後も使う考えを示されたということで二度びっくり仰天しました。

この資料は、「先輩が作り上げたもので良いものはしっかりと受け止め、後輩につなぐことが重要」とし、教育勅語のうち、

「爾臣民父母ニ孝ニ兄弟ニ友ニ夫婦相和シ朋友相信シ恭儉己レヲ持シ博愛衆ニ及ホシ學ヲ修メ業ヲ習ヒ以テ智能ヲ啓發シ德器ヲ成就シ進テ公益ヲ廣メ世務ヲ開キ」(第二十六 教育に關する勅語)

という部分を引用し、英訳付きで掲載したということです。

松井市長は新人職員に対する講義でこの資料を、2022年、2023年と使っており、このたび、中国新聞の取材で2012年から使っていたことが明らかになりました

新人職員にとり、そうはいっても、入庁早々の市長のお言葉は大変ありがたいものです。良くも悪くも、洗脳されてしまいがちです。筆者自身でさえ、広島県庁に入庁した当初の知事(故人)のお言葉はそれなりに感動した記憶があります。

◆「ナチスも良いことをした」論と似ている市長の開き直り

さて、その教育勅語自体は1948年6月19日に日本国憲法下の国会が排除または失効を確認する決議をしています。国権の最高機関でそのように否定されたのです。

そもそもが、この教育勅語自体が、軍国主義に利用されてしまいました。松井市長は「全体を画一的に捉えて良い悪いと判断するのではなく、中身を見て多面的に物事を捉えることが重要。その一例として教育勅語を紹介した」と開き直っておられます。

だが、市長のこの開き直りのコメントは「ナチスも良いことをした」というのと似た暴論ではないでしょうか? 例えば、ナチスは確かに積極財政で景気を回復させたとされています。しかし、類似の政策は米国のニューディール政策、日本の高橋是清による積極財政など同時代に例はあります。あの時代であればだれが為政者でもだいたい、そういう方向の政策を取ったであろうということであって、取り立ててナチスをほめる話ではありません。ましてや、そのことを挙げて、ナチスによる数々の蛮行を正当化するわけにはいきません。

「教育勅語」も、結局、大日本帝国によるアジア侵略、軍国主義の悪用されていったわけです。その時点でアウトです。 

◆例に出すなら日本国憲法第15条の2であるべき

そもそも公務員には憲法遵守義務があります。もし、市長が公務員としての心構えを説くのであれば、日本国憲法から該当する条文を抜き出せば良いではありませんか? 例えば「公益」を説くなら憲法第15条の2の方が適切でしょう。

日本国憲法第15条
2.すべて公務員は、全体の奉仕者であつて、一部の奉仕者ではない。

そもそも教育勅語の「臣民」というフレーズは日本国憲法の「主権在民」に反します。主権者は国民であり、地方自治体である広島市なら市民です。そして、その市民に奉仕するのが、広島市長を筆頭に広島市役所に勤務するものの義務です。戦前の天皇に仕える「官吏」ではないのです。正直、元厚労官僚の松井さんは、市民ではなく、天皇とまではいかずとも、日本国中央政府を向いている、と言わざるを得ません。

◆米国忖度ネオリベ都市「HIROSHIMA」+戦前「廣島」=平和都市ヒロシマの否定

結局、松井市長がされていることは、平和都市「ヒロシマ」の否定ということではないでしょうか? 松井市長は、既報の通り、G7広島サミットを契機に〈原爆投下の反省無き〉米国政府を相手方とする「平和記念公園とパールハーバー」の「姉妹協定」を、議会や市民に相談もなく締結してしまいました。また、はだしのゲン・第五福竜丸の平和教材からの削除も市教委に強行させています。これは、どちらかといえば、〈米国忖度〉ということです。また、中央図書館の駅前デパートへの移転や学童保育の有料化など、アメリカンな新自由主義政策を市民の意見を聴かずに進めておられます。

一方で、今回の教育勅語は、どちらかと言えば〈戦前・戦中回帰〉です。両者は一見矛盾するように思えますが、共通点があります。すなわち「平和都市ヒロシマ」の否定です。外には米国に忖度しつつ、内には新自由主義を推進し、古い権威主義を温存。米国による原爆投下を批判し、米国も含む核政策を批判してきたヒロシマ。少なくとも1990年代くらいまでは保守地盤の中でもそれなりの運動で、それなりの教育・福祉の充実をしてきたヒロシマ。それとは対極にあるということです。

広島の歴史を簡単に振り返ると以下のようになります。

1.1894年~1945年 軍都廣島

1894年に広島に大本営がおかれ、明治帝や伊藤博文総理、国会も広島に移転し広島は「臨時首都」になりました。その後は、広島市は陸軍の、呉市は海軍のそれぞれ軍都としての地位を確立させ、1945年の原爆投下、敗戦を迎えます。

2.1946年~2011年? 平和都市ヒロシマ

原爆投下で壊滅した広島は、日本国憲法制定、1949年の平和記念都市建設法を経て平和都市として再出発します。正直、広島には軍国主義の町内会長から平和主義の議員に「豹変」した「はだしのゲン」のキャラ「鮫島伝次郎」のような側面が大いにあったのも事実です。また、1991年に当時の平岡敬市長が日本の加害責任に触れるまでは、軍都廣島も加担した日本の加害責任が左派の間でもあまり意識されてこなかったのも事実です。

ただ、それでも「もう、誰にも同じ思いをさせたくない」という被爆者の思いを建前としており、曲がりなりにも平和都市「ヒロシマ」と言えたと思います。広島市民は、国政選挙や県議選では自民党を圧勝させまくる一方で、広島市長については非自民・非中央官僚系の人物を選ぶというバランス感覚を働かしてきたのです。

3.2011年~2023年 平和都市ヒロシマの解体準備期間

しかし、2011年、秋葉忠利前市長の勇退を受けての広島市長選挙では、自民党が推薦する中央官僚が初めて広島市長になりました。松井一実さんです。今にして思えば、この直後から、松井さんが教育勅語を使用して、徐々に若手職員を洗脳していったわけです。筆者の友人の一人は「近しい人が市職員で、なんでこんな右傾化したのかなって不思議だったけど、納得。哀しい。」とこぼしていました。それだけ、松井さんはこの3期12年の間に準備していたのです。

また、ほぼ同時期に県知事を務めた湯崎英彦さんは、アメリカンな新自由主義行政を進めました。これらが相まって、そして、米国忖度・ネオリベと権威主義(中央政府や市長に逆らわない)のハイブリッドの広島の在り方を徐々に固めていったのです。

◆選挙上手の「強敵」松井市長だが、何としても打倒しなければならない

そして、G7広島サミットを契機に、広島は一挙に危ない方向に変質しようとしています。「今後も教育勅語を使用します」と開き直る松井市長。平和都市解体への下準備をほぼ完成させ、どこまで暴走するのか?空恐ろしい限りです。筆者は主には、当面は、2025年11月に任期切れを迎える広島県知事の湯崎英彦さんの打倒で広島を県民の手に取りもどす「ヒロシマ庶民革命」を目指しています。

しかし、2027年4月が任期切れの松井一実市長についても打倒しなければならない。そして、中央政府のためではなく、市民のための市役所を取り戻さなければならない。

松井さんは、地域のイベントにわざとラフな格好で参加し、人々に親しみを持たせるなど「選挙上手」で手ごわいものがあります。それでも「打倒松井」をあきらめてはいけないし、広島の政治に緊張感を持たせなければならない。

▼さとうしゅういち(佐藤周一)
元県庁マン/介護福祉士/参院選再選挙立候補者。1975年、広島県福山市生まれ、東京育ち。東京大学経済学部卒業後、2000年広島県入庁。介護や福祉、男女共同参画などの行政を担当。2011年、あの河井案里さんと県議選で対決するために退職。現在は広島市内で介護福祉士として勤務。2021年、案里さんの当選無効に伴う再選挙に立候補、6人中3位(20848票)。広島市男女共同参画審議会委員(2011-13)、広島介護福祉労働組合役員(現職)、片目失明者友の会参与。
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◎広島瀬戸内新聞ニュース(社主:さとうしゅういち)https://hiroseto.exblog.jp/

タブーなきラディカルスキャンダルマガジン 月刊『紙の爆弾』2024年1月号

冤罪を作った人たちを罰することができないならば、冤罪は永遠になくならない 尾﨑美代子

多くの事件で、犯人でない、罪のない人を犯人に仕立てるための「汚れ役」を担わされる人がいる。冤罪と言えるかどうか、先ごろ私の住む釜ヶ崎で、監視カメラにゴム手袋などを被せた件で、釜ヶ崎地域合同労組委員長稲垣浩ら4人が「威力業務妨害」で逮捕・起訴され、一審で有罪判決が下された事案でも、そういう人物がいた。一審で、原告・大阪府側の証人として証言しながら、控訴審の逆転無罪判決で、その証言がほぼウソだったと認定された芝博基氏(当時、大阪府商工労働部参事、以下芝証人)である。

2019年4月、労働者や野宿者らの寄り所であった「あいりん総合センター」が強制閉鎖されたのち、支援者、野宿者らが寄り合いや共同炊事をするために作った団結小屋に、ある日突然、逆方向を向いていた監視カメラの向きが変えられた。

釜ヶ崎周辺の監視カメラについては1990年、稲垣氏らが大阪府を被告として、監視カメラ15台の撤去と慰謝料の支払いを求めて提訴し、1994年大阪地裁が原告らのプライバシーを侵害する恐れがあるなどとして、組合事務所前の監視カメラ1台の撤去を命じる判決を言い渡し、撤去させた実績がある。今回も、稲垣氏と支援者らは同様の理由で、監視カメラのカメラにゴム手袋やレジ袋で被せた。この件でのべ6人が逮捕、4人が起訴された。被告4人は裁判で、この行為はプライバシーや団結権を守るための非暴力的・非破壊的な行為で正当防衛だと主張していた。

一方、芝証人は、カメラの向きを変えた理由について、数日前、センター西側の団結小屋付近と東側でボヤが発生したため防災目的であり、団結小屋に出入りする人たちを監視する意図は全くなかったと証言した。当時、センターは閉鎖したが、上階の「大阪社会医療センター」(以下、医療センター)が業務を続けていたため、再びボヤが起き、「医療センターへの延焼や有毒ガスの発生により入院患者らの生命、身体に対する危険が生じかねない」と、防犯対策の必要性を強調した。

しかし、芝証人は、団結小屋のある西側の防犯対策には必死になったが、玄関や窓がありボヤが起きたら西側より一層患者に危険が及びかねない東側のボヤについては、検証すらまともに行わなかった。そればかりか、カメラに映った犯人がその後どうなったかなどの捜査状況を、西成警察署に問い合わせてもいない。犯人を逮捕する気などさらさらなかったのだ。更に芝証人は、カメラの新設も考えたが「ほかに良い場所がなかったため」、南海電鉄高架下のセンター仮庁舎前の駐車場に向けられていたカメラの向きを、仕方なく団結小屋側に向けるしかなかったと証言した。

一審有罪判決に対して被告3人が控訴したが、稲垣氏の弁護人・後藤貞人弁護士が「控訴趣意書」で、先の芝証言について「芝のこのような供述は虚偽であるか、さもなければ完全に間が抜けている」と厳しく非難した。「新設するのであれば、最も適切な場所は目の前にあると。つまり本件の監視カメラが設置されているポールそのものである。1本のポールに複数のカメラが設置できることは素人にもわかる」と。「控訴審の勝ち負けは95%控訴趣意書で決まります。この控訴趣意書は私が書いたこれまでの中でも3本の中に入ります」と後藤弁護士。その「控訴趣意書」で「間が抜けている」とマヌケ認定された芝証人だが、「汚れ役」をやり遂げたのち、出世したという。

このような「汚れ役」を担う人物が冤罪事件でも良く登場する。拙著「日本の冤罪」から何人か紹介したい。姫路の花田郵便局で2人組のナイジェリア人による強盗事件が発生した事件では、ジュリアスさんがその1人として逮捕・起訴され、有罪判決で服役した。事件後、自首した犯人の1人は、共犯の男はジュリアスではなく、別の男と供述していた。

しかし、ジュリアスさんを逮捕した警察もあとに引けない。裁判では、郵便局から押収したカメラ画像が公表された。郵便局を立ち去る際、犯人の1人が目出し帽を思わず脱ごうとする場面がある。しかし、その瞬間の数秒間にはノイズ(砂嵐)が入っており、ジュリアスではない真犯人の顔はわからなかった。専門家によれば、そのような短時間にノイズが入ることは通常考えられないという。不可解なノイズを作為したのは、ジュリアスが犯人でないことを必死に隠したい警察、検察の仕業ではないのかと疑ってしまう。しかし、法廷で検察は、郵便局から押収した時からノイズが入っていたと説明、「マスクを取ろうとした直後に砂嵐が入って(筆者注・犯人の顔は)映っていませんでした。それでとても残念だったことを覚えています」と白々しく証言した。
 
泉大津コンビニ窃盗事件は、コンビニのレジから1万円札を盗んだとして逮捕、起訴された土井さんが、店から逃走する際ドアをこじ開けたが、ドア右側に土井さんの左手の指の指紋がついたとされた。普通なら左手で左側ドアを開ければよいのではないか。指紋は土井さんの指紋ではあったが、土井さんが良く通うその店に別の日についた可能性がある。にもかかわらず、警察、検察は、事件当日土井さんがつけたものと強弁。しかし、その後、弁護団が事件前のコンビニ入口のビデオ映像を証拠提出させ、そこから土井さんの母親が必死探し、指紋は5日前につけたものであることを発見した。

弁護団は、それを証拠に再度無罪を主張。それでも検察は、犯人が、わざわざ盗んだ1万円札を掴む左手で、身体を無理やりひねって右側のドアをこじ開けるという噴飯もので幼稚な再現実験を法廷でやってのけた。その後土井さんは無罪を勝ち取った。

こうした恥ずかしい「汚れ役」を担う裁判長もいた。神戸質店事件で、質店店主を殺害したとして逮捕、起訴された緒方英彦さんは、一審で無罪判決が下されたが、控訴審で追加証拠もなしに「無期懲役」の逆転有罪判決を下された。大阪高裁の裁判長・小倉正三氏の法廷は「小倉コート(法廷)」と呼ばれている。「裁判官の品格」などの著書があるジャーナリスト池添徳明氏は「非常に形式的でろくすっぽ証拠調べもしない。検察が起訴したんだから有罪だと決め打ちする”小倉コートにひっかかったらもうダメ、それが大阪の弁護士たちの共通認識だった」と痛烈に批判している。そんな小倉には、退任後、旧勲二等にあたる勲章が授与されている。

東金女児殺害事件で逮捕、起訴された知的障害を持つ勝木さんは、担当検事と「金子さん、金子さん」と呼ぶほどの親しい関係になった。そのため裁判では、検事らのいいなりで証言させられ、有罪判決が下された。金子達也検事は、その後栃木県宇都宮地検の次席検事に出世、「今市事件」に関わり、台湾出身で日本語に不慣れな勝又拓哉さんを、同じく女児殺害の容疑で逮捕、起訴し、無期懲役の有罪判決を下した。その後、2017年の福岡高検刑事部長時代、セクハラ行為で減給処分を下されたが、自ら依願退職。今では「ヤメ検弁護士」として活躍しているようだ。

冤罪がなくならないのは、上記のように堂々と冤罪を作った警察や検察が何の罪にも問われないからでもある。警察についていえば、東住吉事件の国賠で、青木恵子さんを逮捕時取り調べた大阪府警元刑事の坂本氏が証人にたった。青木さんに「坂本さん、今でも私を犯人と思っていますか?」と問われ、坂本氏は堂々と「はい、そう思っています」と証言、その理由を「あんた、自供所を自分で書いたでしょ。ほら、きれいな字で」と近所のおっさんのような口調で証言し、裁判長に注意を受ける場面があった。

同じく、再審を勝ち取ったのち、国と滋賀県を訴えた西山美香さんの湖東記念病院事件の国賠では、滋賀県(滋賀県警)側はなんと西山美香さんを犯人視する準備書面を提出してきた。弁護団が猛烈に非難し、撤回はさせたものの、こうした全く反省する気のない警察、検察、そして裁判所を罰せない限り、冤罪は決してなくならないだろう。

12月24日大阪「冤罪と司法を考える集い」

▼尾﨑美代子(おざき みよこ)
新潟県出身。大学時代に日雇い労働者の町・山谷に支援で関わる。80年代末より大阪に移り住み、釜ケ崎に関わる。フリースペースを兼ねた居酒屋「集い処はな」を経営。3・11後仲間と福島県飯舘村の支援や被ばく労働問題を考える講演会などを「西成青い空カンパ」として主催。自身は福島に通い、福島の実態を訴え続けている。
◎著者ツイッター(はなままさん)https://twitter.com/hanamama58

尾﨑美代子著『日本の冤罪』


『季節』2023年冬号刊行にあたって ── 闇の深い時代に、本誌はあえて闇の深淵に足を踏み入れ、光明を発掘します 季節編集委員会

人間の歴史は、海岸に打ち寄せる波のように、行きつ戻りつするしかないのでしょうか。科学技術は進歩一途如き様相を呈していますが、技術の進歩を産み出す人間の思想や行動が、進歩を遂げているようには到底思えません。むしろ私たちが目にしてきた二十世紀後半から二十一世紀前半の世界は、 総体ではないにせよ人間の「退行」を示してはいないでしょうか。

自然科学により、完全に解明された 「絶対的な毒性」が明らかな放射性物質に、人間は可能な限りそれらに近づかず、環境へ漏れ出たならば可能な限り局所に封じ込め、それでも制御できないのであれば避難をする。1986年ソ連ではチェルノブイリ原発事故が起きたあと、その原則は(完全ではないにせよ)履行されました。

他方2011年に日本で起きてしまった福島第一原発爆発事故の後、日本政府は被ばくから国民を守ることを放棄し、被ばくを強要する政策に終始した感があります。今日では「福島第一原発事故などなかったことにしよう」との隠蔽政策に全力を注いでいます。

「東京五輪」は、東北の復興を謳い文句に使い誘致されました。「五輪と復興に何の関係があるのか」本来招致活動が起こった時点で国民は疑問を強く持つべきでしたが、政府・マスコミ・経済界一丸となっての東京五輪はCovid-19の爆発的感染拡大により一年延期されたものの、ご記憶の通り強行開催されました。

そして 「汚染水」 はいつのまにか 「処理水」と呼び変えられています。異常以外のなにものでもありません。

福島第一原発事故後の「被ばく」強要は、明確な意図に起因しているのではないか、との疑問。その明確な証拠がついに明かされました。事故後「福島県放射線健康リスク管理アドバイザー」に着任し、福島県民を欺く役割を果たした山下俊一を井戸謙一弁護士が法廷で証人として尋問したのです。その結果極めて重要かつ驚くべき数々の事実が明らかになりました。今号の井戸弁護士へのインタビューは必見です。日本の商業新聞・雑誌の中でこの事実を採り上げるのは本誌だけでしょう。

昨年のロシアによるウクライナ侵攻に続き今年はイスラエルによるパレスチナ侵略・大虐殺が進行しています。いずれも歴史の文脈を直視することなしには理解しえず、また分析のできない戦争です。そして戦争には常に偽りの扇動や報道が旗頭の役割を担います。

原発を基軸に時代や世界を凝視すると根源に巣食う文明の病があぶり出されます。2023年は益々文明の病が顕在化した年であったようです。世界も日本国内も相変わらず「脱炭素」との虚言に踊り、日本ではGX法(原発推進法)まで成立してしまいました。闇の深い時代に、本誌はあえて闇の深淵に足を踏み入れ、光明を発掘します。

2023年12月 季節編集委員会

『季節』2023年冬号

〈原発なき社会〉を求めて集う
不屈の〈脱原発〉季刊誌
『季節』2023年冬号

通巻『NO NUKES voice』Vol.38
紙の爆弾2024年1月増刊
2023年12月11日発行 770円(本体700円)

2024年の大転換〈脱原発〉が実る社会へ

《グラビア》
「東海第二原発の再稼働を許さない」11・18首都圏大集会(編集部)
福島浪江「請戸川河口テントひろば」への道(石上健二)

《インタビュー》小出裕章(元京都大学原子炉実験所助教)
必要なことは資本主義的生産様式の廃止
エネルギー過剰消費社会を総点検する

《インタビュー》井戸謙一(元裁判官/弁護士)
「子ども脱被ばく裁判」と「311子ども甲状腺がん裁判」
法廷で明らかにされた「被ばく強制」 山下俊一証言のウソ

《報告》後藤政志(元東芝・原子力プラント設計技術者)
【検証】日本の原子力政策 何が間違っているのか〈1〉
無責任な「原発回帰」が孕む過酷事故の危険性

《報告》木原省治(「原発ごめんだ ヒロシマ市民の会」代表)
瀬戸内の海に「核のゴミ」はいらない
関電、中電が山口・上関町に長年仕掛けてきたまやかし

《報告》山崎隆敏(元越前市議)
関電「使用済燃料対策ロードマップ」の嘘八百 ── 自縄自縛の負の連鎖 

《インタビュー》水戸喜世子(「子ども脱被ばく裁判の会」共同代表)
反原発を闘う水戸喜世子は、徹底した反権力、反差別の人であった
[手記]原発と人権侵害が息絶える日まで
       
《インタビュー》堀江みゆき(京都訴訟原告)
なぜ国と東電に賠償を求めるのか
原発事故避難者として、私が本人尋問に立つ理由

《報告》森松明希子(原発賠償関西訴訟原告団代表)
原発賠償関西訴訟 提訴から10年
本人調書を一部公開 ── 法廷で私は何を訴えたか?

《報告》平宮康広(元技術者)
放射能汚染水の海洋投棄に反対する理由〈前編〉

《報告》山崎久隆(たんぽぽ舎共同代表)
「核のゴミ」をめぐる根本問題 日本で「地層処分」は不可能だ

《報告》原田弘三(翻訳者)
「気候危機」論の起源を検証する

《報告》三上 治(「経産省前テントひろば」スタッフ)
汚染水海洋放出に対する闘いとその展望

《報告》佐藤雅彦(ジャーナリスト/翻訳家)
フクシマ放射能汚染水の海洋廃棄をめぐる2つの話題
映画になった仏アレバ社のテロリズムと『トリチウムの危険性探究』報告書

《報告》板坂 剛(作家・舞踊家)
再び ジャニーズよ永遠なれと叫ぶ!

《報告》山田悦子(甲山事件冤罪被害者)
山田悦子の語る世界〈22〉
甲山事件50年目を迎えるにあたり
誰にでも起きうる予期せぬ災禍にどう立ち向かうか〈上〉

再稼働阻止全国ネットワーク
岸田原発推進に全国各地で反撃中!
沸騰水型の再稼働NO! 島根2号、女川2号、東海第二
《東海第二》小張佐恵子(福島応援プロジェクト茨城事務局長/とめよう!東海第二原発首都圏連絡会世話人)
《福島》黒田節子(原発いらね!ふくしま女と仲間たち/「ひろば」共同代表)
《東京》柳田 真(たんぽぽ舎共同代表)
《浜岡原発》沖 基幸(浜岡原発を考える静岡ネットワーク)
《志賀原発》藤岡彰弘(命のネットワーク)
《関西電力》木原壯林(老朽原発うごかすな!実行委員会)
《島根原発》芦原康江(さよなら島根原発ネットワーク)
《中国電力》高島美登里(上関の自然を守る会共同代表)
《川内原発》向原祥隆(川内原発二〇年延長を問う県民投票の会事務局長)
《規制委》木村雅英(再稼働阻止全国ネットワーク)

反原発川柳(乱鬼龍 選)

書=龍一郎

龍一郎揮毫
私たちは唯一の脱原発雑誌『季節』を応援しています!

唯一の反(脱)原発雑誌『季節』2023年冬号、週明け11日発売!  鹿砦社代表 松岡利康

このところ月刊『紙の爆弾』『季節』と発行がほぼ重なり、また来年のカレンダーの頒布とも重なり、それらの膨大な量に本社・東京編集室ともに一時は占拠され、発送が幾分遅れ気味になっていましたが、昨日でほぼ終了いたしました。

いましばらくお待ちください。週明け11日にはほぼ到着すると思います。

例年のように定期購読・会員の皆様方には書家・龍一郎揮毫の2024年鹿砦社カレンダーを一緒に送らせていただきました。

下は『季節』冬号の巻頭を飾っている龍一郎揮毫の書です。(松岡利康)

龍一郎揮毫
〈原発なき社会〉を求めて集う 不屈の〈脱原発〉季刊誌 『季節』2023年冬号

〈原発なき社会〉を求めて集う
不屈の〈脱原発〉季刊誌
『季節』2023年冬号

通巻『NO NUKES voice』Vol.38
紙の爆弾2024年1月増刊
2023年12月11日発行 770円(本体700円)

2024年の大転換〈脱原発〉が実る社会へ

《グラビア》
「東海第二原発の再稼働を許さない」11・18首都圏大集会(編集部)
福島浪江「請戸川河口テントひろば」への道(石上健二)

《インタビュー》小出裕章(元京都大学原子炉実験所助教)
必要なことは資本主義的生産様式の廃止
エネルギー過剰消費社会を総点検する

《インタビュー》井戸謙一(元裁判官/弁護士)
「子ども脱被ばく裁判」と「311子ども甲状腺がん裁判」
法廷で明らかにされた「被ばく強制」 山下俊一証言のウソ

《報告》後藤政志(元東芝・原子力プラント設計技術者)
【検証】日本の原子力政策 何が間違っているのか〈1〉
無責任な「原発回帰」が孕む過酷事故の危険性

《報告》木原省治(「原発ごめんだ ヒロシマ市民の会」代表)
瀬戸内の海に「核のゴミ」はいらない
関電、中電が山口・上関町に長年仕掛けてきたまやかし

《報告》山崎隆敏(元越前市議)
関電「使用済燃料対策ロードマップ」の嘘八百 ── 自縄自縛の負の連鎖 

《インタビュー》水戸喜世子(「子ども脱被ばく裁判の会」共同代表)
反原発を闘う水戸喜世子は、徹底した反権力、反差別の人であった
[手記]原発と人権侵害が息絶える日まで
       
《インタビュー》堀江みゆき(京都訴訟原告)
なぜ国と東電に賠償を求めるのか
原発事故避難者として、私が本人尋問に立つ理由

《報告》森松明希子(原発賠償関西訴訟原告団代表)
原発賠償関西訴訟 提訴から10年
本人調書を一部公開 ── 法廷で私は何を訴えたか?

《報告》平宮康広(元技術者)
放射能汚染水の海洋投棄に反対する理由〈前編〉

《報告》山崎久隆(たんぽぽ舎共同代表)
「核のゴミ」をめぐる根本問題 日本で「地層処分」は不可能だ

《報告》原田弘三(翻訳者)
「気候危機」論の起源を検証する

《報告》三上 治(「経産省前テントひろば」スタッフ)
汚染水海洋放出に対する闘いとその展望

《報告》佐藤雅彦(ジャーナリスト/翻訳家)
フクシマ放射能汚染水の海洋廃棄をめぐる2つの話題
映画になった仏アレバ社のテロリズムと『トリチウムの危険性探究』報告書

《報告》板坂 剛(作家・舞踊家)
再び ジャニーズよ永遠なれと叫ぶ!

《報告》山田悦子(甲山事件冤罪被害者)
山田悦子の語る世界〈22〉
甲山事件50年目を迎えるにあたり
誰にでも起きうる予期せぬ災禍にどう立ち向かうか〈上〉

再稼働阻止全国ネットワーク
岸田原発推進に全国各地で反撃中!
沸騰水型の再稼働NO! 島根2号、女川2号、東海第二
《東海第二》小張佐恵子(福島応援プロジェクト茨城事務局長/とめよう!東海第二原発首都圏連絡会世話人)
《福島》黒田節子(原発いらね!ふくしま女と仲間たち/「ひろば」共同代表)
《東京》柳田 真(たんぽぽ舎共同代表)
《浜岡原発》沖 基幸(浜岡原発を考える静岡ネットワーク)
《志賀原発》藤岡彰弘(命のネットワーク)
《関西電力》木原壯林(老朽原発うごかすな!実行委員会)
《島根原発》芦原康江(さよなら島根原発ネットワーク)
《中国電力》高島美登里(上関の自然を守る会共同代表)
《川内原発》向原祥隆(川内原発二〇年延長を問う県民投票の会事務局長)
《規制委》木村雅英(再稼働阻止全国ネットワーク)

反原発川柳(乱鬼龍 選)

書=龍一郎

私たちは唯一の脱原発雑誌『季節』を応援しています!

「気候危機」論とは何か〈前編〉二酸化炭素の人為排出は本当に気候に甚大な悪影響を与えているのか? 原田弘三

◆はじめに

岸田政権は今年2月に「GX(グリーントランスフォーメーション)実現に向けた基本方針」を閣議決定したが、その中で二酸化炭素(CO2)を出さないエネルギー源として原発の活用が提唱されている。この背景にはCO2の人為排出が気候に危機をもたらしている、とするいわゆる気候危機論がある。そこで「気候危機」論とは何か、それはどのような意味を持つのか、発生以来の経過をたどりつつ検証してみたい。

◆「気候危機」論の概要

本稿において「気候危機」論という用語は、20世紀半ば以降の温暖化が人為起源のCO2などが主な原因で起き、それにより地球環境が危機に瀕しているとする考え方を指す。国際連合の気候変動に関する政府間パネル(IPCC)第6次報告書は、20世紀半ば以降の「人間の影響が大気、海洋及び陸域を温暖化させてきたことには疑う余地がない」と述べている。そして、世界の平均気温が上昇していくにつれて、北極海の海氷面積の縮小、海面水位の上昇、洪水の多発、食料生産力の低下、サンゴ礁の消失などが起こるとされる。

「気候危機」論の高まりを受けて、「脱炭素」に向けた取り組みが世界的に推進されている。脱炭素とは、代表的な温室効果ガスであるCO2の排出量をゼロにしようという取り組みである。日本では2020年10月に、当時の菅義偉首相が「2050年までに、温室効果ガスの排出を全体としてゼロにする」と所信表明演説の中で述べた。これを受けて、環境省では「2050年までに年間で12億トンを超える温室効果ガスの排出を実質ゼロにすること」を目標として、産業構造や経済社会の変革に取り組むこととした。

◆「気候危機」論の歴史

1896年、スウェーデンの物理学・化学者スヴァンテ・アレニウスが石炭などの大量消費によって今後大気中のCO2濃度が増加すること、CO2濃度が2倍になれば気温が5~6℃上昇する可能性があることを述べた。この説は、社会の一部には浸透していた。しかし1970年代頃までは、「地球寒冷化」の方が学会の主流を占めていた。

1979年、スリーマイル島原子力発電所事故の発生後、アメリカ合衆国大統領行政府科学技術政策局から「気候に対する人為起源CO2の影響」について諮問を受けた全米科学アカデミーがこれらの学術報告をまとめ、「21世紀半ばにCO2濃度は2倍になり、気温は3±1.5℃(1.5~4.5℃)上昇する」とするチャーニー報告を発表した。

1988年6月23日、アメリカ上院エネルギー委員会の公聴会において、NASA所属のジェームズ・ハンセンが「最近の異常気象、とりわけ暑い気象が地球温暖化と関係していることは99%の確率で正しい」と発言した。この後雑誌やTV放送等のメディアを通して、地球温暖化説が一般に広まり始めた。そして同年8月には、気候変動に関する政府間パネル(IPCC)が設立された。

1992年6月にはリオ・デ・ジャネイロで環境と開発に関する国際連合会議(地球サミット)が開かれ、気候変動枠組条約(UNFCCC)を採択した。UNFCCCでは定期的な会合(気候変動枠組条約締約国会議、COP)の開催を規定した。

1997年のCOP3では、初めて具体的にCO2排出量の削減を義務づける内容を盛り込んだ京都議定書が議決された。

2006年5月、元米国副大統領アル・ゴア氏が出演するドキュメンタリー映画『不都合な真実』が公開された。翌2007年10月、人為的な気候変動問題の啓発に対してアル・ゴア氏がノーベル平和賞を受賞することが発表され、同年12月にIPCCと共に受賞した。

2015年12月12日、COP21においてパリ協定が採択された。この中で2020年以降の地球温暖化対策を定めている。産業革命前からの世界の平均気温上昇を「2度未満」に抑え、加えて平均気温上昇「1.5度未満」を目指すことが合意された。

2018年8月、15歳のスウェーデン人グレタ・トゥーンベリ氏が「気候のための学校ストライキ」という看板を掲げて、より強い気候変動対策をスウェーデン議会の前で呼びかけを始めた。他の学生も自分のコミュニティで同様の抗議活動に参加し、「未来のための金曜日(FridaysforFuture)」の名前で気候変動学校ストライキ運動が組織され、世界の若者の間に気候危機運動が大きな広がりを見せた。

◆「気候危機」論への疑問

「気候危機」論について筆者はいくつかの理由から疑問を持っている。以下にその要点をのべる。

① 『不都合な真実』における誇張

アル・ゴア氏は2006年の映画『不都合な真実』への出演を通じた「気候危機」問題の啓発によってノーベル平和賞を受賞した。しかしこの映画は2007年、イギリスで学校での上映に反対するグループによって上映差し止めを求める提訴を英国高等法院に起こされている。その結果裁判所は、上映差し止めの請求を退けたうえで、誇張がみられる9つの問題点を指摘し「注釈をつけて」上映するようにとの判決を下した。

例えば、映画ではグリーンランドの氷床が融解し海面上昇が「近い将来」20フィートに及ぶとしているが、科学者の合意では数千年かかり「近未来に海水面が上昇するというのは極端な主張で、人騒がせである」としている。

② ツバル水没の原因

京都議定書の採択と同時期、気候変動の影響による海面上昇でツバルという国が沈む、という報道が相次ぎ、ツバルは「温暖化で沈む国」として世界の注目を集めた。しかし、2021年に環境ジャーナリストの石弘之氏は、現地取材を踏まえてツバルは沈んでおらず陸地面積はむしろ拡大している、と伝えている。(『東洋経済ONLINE』2021年7月27日付 石弘之「『温暖化で沈む国』は本当か? ツバルの意外な内情」)

石氏のレポートによれば、1971年から2014年まで、少なくとも8つの環礁と、約4分の3の岩礁で面積が広くなっており、同国の総面積は73.5ヘクタールも拡大(国土面積約26平方キロメートルに対し2.9%の増加)していたという。これは波によって運ばれた砂が堆積して、浜が広がったことによる。ではなぜツバルで水没が起きていたのか。ツバルの首都の人口は、独立前の1973年には871人だったが、独立した5年後の1979年には2,620人に急増している。これが湿地や低地に多数の住居や行政施設の建設、井戸からの地下水汲み上げの増加と下水の垂れ流しを引き起こした。

同じ太平洋上の島でもハワイは水没していないことと考え合わせると、ツバル水没の原因は地球温暖化による海面上昇ではなく、人口増加と地下水利用に伴う地盤沈下と考えるのが妥当であろう。

③ 温室効果ガス以外の気候変動要因の捨象

地質学上「縄文海進」と呼ばれている事象がある。海岸沿いにあるはずの貝塚が、関東平野のかなり内奥部で多数発見されている事実から、縄文時代に属する6000年前には現在の関東平野の相当部分が海面下にあったことがわかった。気温も1~2度高かったことが判明している。

また、「マウンダー極小期」という事象もある。1645年~1715年の70年間は、それ以前にくらべて地球の平均気温が0.2度下がったことが判明しており、当時のロンドンではテムズ川が凍りつき、氷の上を人が歩いて渡っていた。またヨーロッパ全土で食糧生産が減少し、大規模な飢饉が発生した。この寒冷化の原因は太陽黒点の活動減少と考えられている。(『エコノミスト』2021年6月22日号、鎌田浩毅「太陽黒点の変化も気温に影響」)

「縄文海進」も「マウンダー極小期」も、人間活動の結果起きた事象ではない。したがって、気温上下や海面位の上下は過去数百年、数千年の時間軸では人間活動とは全く無関係に起きていたのであり、同様のことは今後も起こりうる。しかしIPCCは温室効果ガスの人為排出以外の気候変動要因を1切捨象して、温室効果ガスのみを問題視しそれへの対策を論じている。

CO2の人為排出が気候に影響を与えている可能性はないとは言い切れない。しかし、上記の諸事実から、CO2の人為排出が気候に甚大な悪影響を与えているという説には大きな疑問がある。したがって、CO2の排出を早急に削減すべきだという主張は合理的根拠を欠くと言わざるを得ない。(つづく)

本稿は『季節』2023年夏号(2023年6月11日発売号)掲載の「『気候危機』論についての一考察」を本通信用に再編集した全2回の連載記事です。

▼原田弘三(はらだ・こうぞう)
翻訳者。学生時代から環境問題に関心を持ち、環境・人権についての市民運動に参加し活動している。

『季節』2023年冬号

〈原発なき社会〉を求めて集う
不屈の〈脱原発〉季刊誌
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通巻『NO NUKES voice』Vol.38
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2023年12月11日発行 770円(本体700円)

2024年の大転換〈脱原発〉が実る社会へ

《グラビア》
「東海第二原発の再稼働を許さない」11・18首都圏大集会(編集部)
福島浪江「請戸川河口テントひろば」への道(石上健二)

《インタビュー》小出裕章(元京都大学原子炉実験所助教)
必要なことは資本主義的生産様式の廃止
エネルギー過剰消費社会を総点検する

《インタビュー》井戸謙一(元裁判官/弁護士)
「子ども脱被ばく裁判」と「311子ども甲状腺がん裁判」
法廷で明らかにされた「被ばく強制」 山下俊一証言のウソ

《報告》後藤政志(元東芝・原子力プラント設計技術者)
【検証】日本の原子力政策 何が間違っているのか〈1〉
無責任な「原発回帰」が孕む過酷事故の危険性

《報告》木原省治(「原発ごめんだ ヒロシマ市民の会」代表)
瀬戸内の海に「核のゴミ」はいらない
関電、中電が山口・上関町に長年仕掛けてきたまやかし

《報告》山崎隆敏(元越前市議)
関電「使用済燃料対策ロードマップ」の嘘八百 ── 自縄自縛の負の連鎖 

《インタビュー》水戸喜世子(「子ども脱被ばく裁判の会」共同代表)
反原発を闘う水戸喜世子は、徹底した反権力、反差別の人であった
[手記]原発と人権侵害が息絶える日まで
       
《インタビュー》堀江みゆき(京都訴訟原告)
なぜ国と東電に賠償を求めるのか
原発事故避難者として、私が本人尋問に立つ理由

《報告》森松明希子(原発賠償関西訴訟原告団代表)
原発賠償関西訴訟 提訴から10年
本人調書を一部公開 ── 法廷で私は何を訴えたか?

《報告》平宮康広(元技術者)
放射能汚染水の海洋投棄に反対する理由〈前編〉

《報告》山崎久隆(たんぽぽ舎共同代表)
「核のゴミ」をめぐる根本問題 日本で「地層処分」は不可能だ

《報告》原田弘三(翻訳者)
「気候危機」論の起源を検証する

《報告》三上 治(「経産省前テントひろば」スタッフ)
汚染水海洋放出に対する闘いとその展望

《報告》佐藤雅彦(ジャーナリスト/翻訳家)
フクシマ放射能汚染水の海洋廃棄をめぐる2つの話題
映画になった仏アレバ社のテロリズムと『トリチウムの危険性探究』報告書

《報告》板坂 剛(作家・舞踊家)
再び ジャニーズよ永遠なれと叫ぶ!

《報告》山田悦子(甲山事件冤罪被害者)
山田悦子の語る世界〈22〉
甲山事件50年目を迎えるにあたり
誰にでも起きうる予期せぬ災禍にどう立ち向かうか〈上〉

再稼働阻止全国ネットワーク
岸田原発推進に全国各地で反撃中!
沸騰水型の再稼働NO! 島根2号、女川2号、東海第二
《東海第二》小張佐恵子(福島応援プロジェクト茨城事務局長/とめよう!東海第二原発首都圏連絡会世話人)
《福島》黒田節子(原発いらね!ふくしま女と仲間たち/「ひろば」共同代表)
《東京》柳田 真(たんぽぽ舎共同代表)
《浜岡原発》沖 基幸(浜岡原発を考える静岡ネットワーク)
《志賀原発》藤岡彰弘(命のネットワーク)
《関西電力》木原壯林(老朽原発うごかすな!実行委員会)
《島根原発》芦原康江(さよなら島根原発ネットワーク)
《中国電力》高島美登里(上関の自然を守る会共同代表)
《川内原発》向原祥隆(川内原発二〇年延長を問う県民投票の会事務局長)
《規制委》木村雅英(再稼働阻止全国ネットワーク)

反原発川柳(乱鬼龍 選)

書=龍一郎

龍一郎揮毫
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共産党さん、大丈夫ですか?! 事実誤認の「れいわ批判」たれ流し、独善の一方で過剰な立憲忖度…… 日本共産党への5つの疑問  さとうしゅういち

日本共産党さん、とくにここ3~4年の貴党は加速度的におかしくなっていませんか?

筆者は、2001年参院選では、共産党が今は除名をしている日本共産党の松竹伸幸さんに全国区では投票しました。その後も、例えば、筆者の地盤である広島市安佐南区では、共産党の女性市議を、20年間、支援させていただきました。(その後、その女性市議と筆者は2023年の県議選で議席を争ことになります。)

筆者の現在の政治スタンスは、基本的に〈無所属庶民派〉です。経済政策面では、竹中平蔵さん、小泉純一郎さんに代表される30年間の労働者虐待政治ともいえる新自由主義にNO。そして、地方自治では、2025年11月執行予定の広島県知事選挙を前に、湯崎英彦県知事ら、暴走するエライ人から広島を広島県民の手に取りもどす「庶民革命」を提唱しています。

外交・安全保障では軍事よりも人間の安全保障重視です。例えば、イスラエル首相のネタニヤフ被告人のような国家の論理で個人を虐殺することに断固反対し、個人の命を重視するという意味でも庶民派です。

労働運動では現在は、共産党系とされる県労連系自治労連の役員をさせていただいています。これは、筆者が重視してきた非正規公務員やケア労働者の待遇改善にもっとも広島では有効と考えたからです。他方で、反核平和運動では一貫して〈広島県原水禁〉に参加。広島自治労連で〈原水協〉系の活動への参加の呼びかけをいただいた場合でもご遠慮させていただいています。これは、1960年代の広島の反核運動の分裂では日本共産党=原水協系の責任が重いと考えるからです。

筆者はジェンダー面では、女性差別撤廃推進の立場で、女性が多い非正規公務員やケア労働者の抜本的待遇改善には、古くから力を入れてきました。一方で、渋谷区の長谷部健区長(公園の女性トイレを廃止し、多目的トイレばかりにする)のような、急進的なLGBT政策には疑問を持つなど保守的な面もあると自覚しています。

国政では、筆者の結婚祝いの席に来られた唯一の現職国会議員ということもあり、「地方の庶民」に最も優しい経済政策を打ち出している山本太郎とれいわ新選組を推しています。また、そうしたご縁から広島県議選2003で筆者が安佐南区から立候補した際は、れいわ新選組から推薦をいただきました。

地方政治では上記のスタンス、とくに湯崎知事や松井市長の行政に厳しく切り込む、という方向性が合致する政治家と国政の与野党問わず連携するスタンスです。その一環で、日本共産党の政治家についても是々非々で支援させていただいた歴史があります。正直、県議選、市議選では、知事や市長に対して立憲民主党も含めて与党という状況があり、消極的にせよ、共産党候補を支援せざるを得ない事情がありました。

だが、最近の日本共産党はおかしい。その思いが積み重なってきたところに、決定的な事件が11月末、発生しました。まずは、その事件からご紹介します。

◆しんぶん赤旗が穀田さんの事実誤認のれいわ批判をタレ流し

11月30日、日本共産党の機関紙「しんぶん赤旗」は穀田・国会対策委員長のコメントを載せています。

政府案の問題を是認 れいわ修正案 穀田氏が指摘

日本共産党の穀田恵二国対委員長は11月29日、国会内で記者会見し、同日の参院予算委員会で2023年度補正予算案に対するれいわ新選組の修正案に反対したことについて「政府の補正予算案をそのまま是認しているところが最大の反対の理由だ」と述べました。


◎[参考動画]政府案の問題を是認 2023.11.29 日本共産党

しかし、この記者会見でのコメント自体が事実誤認です。

 

山本太郎のXでは以下のように反論しています

れいわ新選組(山本太郎・予算委員)が、11月29日に参議院予算委員会において提出した補正予算「修正案」について、日本共産党の穀田恵二国対委員長は同日の記者会見で、れいわ修正案に「反対」したことにふれ、「政府の補正予算案をそのまま是認しているところが最大の反対の理由だ」と説明しました。また、11月30日に「しんぶん赤旗」がこの説明を報道しました。

これはれいわ新選組の「修正案」を180度逆に説明したものであり、残念に思います。

ポイントとなる経緯を以下にまとめました。

① れいわ新選組の今国会や過去の国会での主張から、政府の悪質な予算案を「そのまま是認」などしていないのは明らか。

② 形式的な意味でも、れいわ新選組の「修正案」は、まさに政府補正予算案を全否定するために提出したもの。一般会計予算は全てを上書き書き替え、特別会計予算は「補正を行わないものとする」と明記。これはつまり政府案の補正予算をゼロとすることを意味する。

③ 提出前日の28日、山本太郎が、日本共産党の予算委員のところに修正案を持参し、その趣旨を説明。

「そういうことが参議院でできるんですね」と、コメントをいただくやり取りをした。

百歩譲って、これらの経緯を「たまたま聞き逃した」としても、公党である日本共産党、及び報道機関である赤旗が、私たちに確認も行わず「政府案をそのまま是認した」と説明・報道するのは悪意以外のなにものでもない。

以上のように反論しています。筆者もびっくりしました。

【声明】2023(令和5)年度補正予算案に反対し、参議院で修正案を提出した(れいわ新選組 2023年11月29日)

上記の声明の通り、れいわ新選組は、政府案の問題点を是認するどころか数多く指摘しています。それを「政府案をそのまま是認した」とは何事か?!ここまでくると、悪意があると言わざるを得ません。

筆者はここ3、4年、日本共産党さんへの疑問が高まる一方でしたが、今回の「事実誤認垂れ流し」報道は酷すぎます。日本共産党員・支持者の皆様が、労働運動、平和運動、市民運動に熱心に取り組まれているのには頭が下がります。しかし、今回のことに現れた組織体質が党員・支持者の努力をスポイルしてしまっているのではないか? そして、そもそも、日本共産党への疑問は、筆者の中でもとくにこの3、4年、積み重なる一方でした。その積み重なった疑問という筆者の中の燃料に今回の事件は火をつけてしまったのです。以下はその疑問のほんの一部です。

◆日本共産党への疑問〈1〉「ゼレンスキー礼賛」への反省は?!

日本共産党に対する筆者の疑問の第一は、同党がロシアのウクライナ侵攻後にゼレンスキー大統領を礼賛したことを反省していないことです。日本共産党系の団体では広島でもウクライナ国旗カラーのTシャツを販売していました。日本共産党系と俗に言われる県労連傘下の労働組合の幹部をさせていただいている筆者にも購入依頼はいただきましたが、ご遠慮させていただきました。日本共産党員の中には、れいわ新選組がゼレンスキー大統領を礼賛しないからという理由で、れいわ新選組をボロカスに批判される方もおられました。

ドンバス戦争が背景にあったとはいえ、プーチンによるウクライナ侵攻は国際法違反であり非難されるのは当然です。だが、ゼレンスキーはいまや、ガザで大虐殺を行っているイスラエルを全面支持。「10・7」直後にはイスラエルを激励訪問しようとして、ロシアに忖度するネタニヤフに拒否されるという醜態まで晒しています。ゼレンスキーは自分自身で「侵略者への抵抗者」としての正統性を失墜させてしまいました。

「こんな人」が大統領の国旗をイメージしたTシャツを販売していて恥ずかしくないのですか?!

◆日本共産党への疑問〈2〉「サミット翼賛」体制に加担した二人の県議

そして、2023年の広島県議選において、日本共産党の県議候補(二人とも当選)のお二人は、広島サミット誘致を「評価する」、あるいはサミット開催に「期待する」という趣旨のご回答をマスコミや市民団体のアンケートにしておられました。大丈夫なのでしょうか?

筆者自身は、もちろんサミット誘致を「評価しない」、サミット開催に「期待しない」というスタンスです。

ちなみに、安佐南区の共産党市議候補は、きちんと「評価しない」「期待しない」と回答されていました。「広島ビジョン」を岸田総理が出してから「怒りを覚えます」などとSNSに書き込まれていた共産党県議。

筆者は彼女の市議時代の20年間、応援させていただいただけに、がっくり来ました。G7なんて、そもそもが、旧白人帝国主義国家首脳の集まりであり、超大金持ちの代弁者の集まりでもあるのですよ?!そんなものに、何を期待していたのですか?!それとともに、今回の県議選で、筆者自身が立候補して彼女と争うことになったのは正しいと確信しました。もう、二度と、定数が複数ある県議選ではあなた方には投票しない(衆院の小選挙区や首長選挙で共闘が合意された場合は別として)でしょう。

◆日本共産党への疑問〈3〉大人数で威圧し「降伏勧告」

2023年2月23日、筆者は、原爆ドーム前で開催されたある集会に参加

「れいわ新選組」はシニア世代の比率が高い立憲民主党や日本共産党に比べても現役世代の若者が支持者には多く、多忙でこうしたデモには参加できない方が多かったことや、筆者の支持者の方も、地元での支持固めに奔走されていたので、筆者は一人でこの集会に参加していたのです。そして、筆者は力士のような体格の共産党員とみられる数人の女性に取り囲まれました。

彼女たちは、筆者に対して「県議選安佐南区での立候補を取りやめて、東区から出ろ」というのです。そんなことは、他人に指図される話ではありません。こういうのを、古めかしい言葉で言えば、スターリン主義というのではないでしょうか?こんなことだから、絶対に一定以上は伸びないし、若手には反感を買うばかりなのではないか?筆者も、この方々には、無礼な方々だという印象しか受けません。もちろん、筆者は即座に断りました。

いくら相手が女性とはいえ、複数人に包囲されれば怖い。筆者は、隙を見て、後ずさりした後、横へ全速力で逃げ出し、広島県庁職員だった時代の「自治労」(今では立憲が主導している組合ですので反主流派になりますが)の先輩がいる「社民党」の隊列に紛れ込んで難を逃れました。

その後、日本共産党の一部支持者の方が、筆者の悪口を触れ回っているという情報が入ってきました。

穀田さんの事実誤認を確認もせずに垂れ流した「しんぶん赤旗」。自分たちの言うことを聞かないやつは、こそこそ足を引っ張るというそのスタンスは、このとき、筆者に対しても向けられていたのです。

選挙後も、今度は、別の男性の年配日本共産党員がにやにやしながら「お主、票が思ったほど伸びなかったのう。うちから市議に出ればいいのに」と「降伏勧告」をしてこられました。

広島では、筆者は日本共産党さんに先行して非正規公務員やケア労働者の問題に取り組んできたという自負はあります。筆者はどうやら、共産党さんにとっては、目の上のたん瘤なのでしょう。それにしても、無礼な方々です。

また、これとは別に、他都道府県の日本共産党支持者であることを公言していた人物による筆者へのネット上での誹謗中傷について、東京地裁は情報開示請求を認めています。このような状況で、日本共産党に「降伏」などできるわけがありません。

◆日本共産党への疑問〈4〉筆者が投票した人物を次々除名・除籍

筆者は2001年参院選全国区で松竹伸幸さんに投票。その松竹さんが、党首公選の導入を訴える本を出版。その後除名されるという事件が発生しました。松竹さんは、除名処分の再審査を2024年の党大会に求めているそうですが、またまた、党幹部がしんぶん赤旗で松竹さん批判の「論文」を出しました。あきれるばかりです。
https://ameblo.jp/matutake-nobuyuki/entry-12830793484.html

また、中島束さんという人にも、筆者は衆院選1996の東京2区で投票した記憶があります。その中島束さんが、除籍されていたとうかがい、びっくりしました。
https://tsukanenakajima.hatenablog.com/entry/2021/02/10/101841

こういう情報に筆者はがっくり来ています。まあ、筆者が「いいな」と思って投票した人を除籍するような政党が日本共産党だったということなのでしょう。

◆日本共産党への疑問〈5〉筆者の保守との連携を批判する一方で過剰な立憲忖度

日本共産党の一部支持者・党員の中には筆者が保守系議員とも懇意にさせていただいていることをあげつらう方がおられます。しかし、広島は超保守王国です。その上で、立憲民主党が、自民党以上に、湯崎知事や松井市長に傾倒しているのです。こうした状況下で一定程度、保守系の方ともパイプがなければどうやって県民のための政策を実現するというのでしょうか?独善的に共産党だけで議案を出しても玉砕するだけです。

例えば、広島県北部のある自治体議会では政府の防衛増税に反対する意見書が採択されています。この例では、社民党議員が間に入って、保守の議員にも賛同を取り付けています。

一方で、日本共産党の方々は過剰に立憲民主党に忖度しているようにも見受けられます。

筆者が、2021年の参院選広島再選挙に立候補した際、共産党は立憲民主党系の宮口候補を支援しました。さて、その参院選再選挙2021の際、一部地方議員も含む一部共産党員の方が筆者に対して立憲民主党員の方以上に、筆者に対して高圧的な態度を取られたのも忘れません。

筆者は、「伊方原発廃炉を含む原発ゼロ」を呑むなら筆者が下りると持ち掛けたのに対して、「宮口候補は具体的な政策が分かる人ではない」と宮口陣営の立憲民主党地方議員が回答されたため、立候補を最終的に決定しました。ともかく、立憲民主党は「宮口候補が政治家として無能だ」と認識していたわけです。それなのに彼女を擁立するとは、彼女に対してもずいぶん失礼な話です。立憲広島は、湯崎知事や松井市長べったりでもあります。立憲広島は一部には知事や市長に批判的な議員もおられる自民党以上に反県民的な「労働貴族」※党のそしりはまぬかれますまい。日本共産党はあまりにも〈こんな〉立憲広島に忖度しすぎではないですか?

 
日本共産党の機関紙「しんぶん赤旗」日曜版。政府与党への鋭い追及など素晴らしいものがあるが、今回の「事実誤認のれいわ批判タレ流し」はいただけない

そして、〈そんな〉日本共産党の方々に、筆者が保守系の方と懇意にしていることを批判されるのは心外です。

※鹿砦社刊『労働貴族』(深笛義也)に「労働貴族」は詳しく取り上げられており、彼らと暗闘してきた筆者も登場しています。 

◆共同できるところは共同するがあなた方の指図は受けぬ

筆者の所属する労働組合の幹部には日本共産党員・支持者の方も多い。別に労働者のために頑張ることについては、異存はないので、それはそれで今後も一緒に頑張っていきます。また、様々な市民運動でもご一緒できるところはご一緒します。他方で、ウクライナ国旗Tシャツの購入など、ゼレンスキーによるイスラエル支持表明後の今はなおさらご協力できません。

また、筆者の「広島県知事・湯崎英彦さんを打倒し、湯崎さんから広島を県民の手に取りもどす」という「庶民革命」に賛同してくださる方については日本共産党の党員・支持者の方についても個人としては大歓迎です。

ただ、上から目線で筆者や筆者の支持者に対して、無理な行動を強要するなどのことはご遠慮いただきたい。それだけのことです。

▼さとうしゅういち(佐藤周一)
元県庁マン/介護福祉士/参院選再選挙立候補者。1975年、広島県福山市生まれ、東京育ち。東京大学経済学部卒業後、2000年広島県入庁。介護や福祉、男女共同参画などの行政を担当。2011年、あの河井案里さんと県議選で対決するために退職。現在は広島市内で介護福祉士として勤務。2021年、案里さんの当選無効に伴う再選挙に立候補、6人中3位(20848票)。広島市男女共同参画審議会委員(2011-13)、広島介護福祉労働組合役員(現職)、片目失明者友の会参与。
◎Twitter @hiroseto https://twitter.com/hiroseto?s=20
◎facebook https://www.facebook.com/satoh.shuichi
◎広島瀬戸内新聞ニュース(社主:さとうしゅういち)https://hiroseto.exblog.jp/

タブーなきラディカルスキャンダルマガジン 月刊『紙の爆弾』2024年1月号

『紙の爆弾』2024年1月号に寄せて 『紙の爆弾』編集長 中川志大

パレスチナ・ガザで続くイスラエルの暴虐。11月下旬に一時停戦するも、12月1日にはイスラエル軍の攻撃が再開し、死傷者を増やし続けています。前号(12月号)では「中東戦争」と1993年のオスロ合意、およびイスラエルによる合意無視の経緯を振り返った上で、これが宗教紛争ではないことを指摘しました。そして1月号では、なぜか報じられない、ガザに眠る「利権」の存在を明かしました。これを狙うのはイスラエルだけでなく、大国や多国籍企業も、裏側で争奪戦に関与しています。

こうして“真相”に具体的に迫っていくことこそ、反戦を求めるにあたり重要だと考えています。一刻も早い停戦が求められるロシア・ウクライナ戦争においても、2022年10月にトルコで両国間の停戦に向けた非公開協議が行なわれていたものの、米国の横槍が入り進展を阻止されたこと、また同年9月のロシアの海底パイプライン「ノルドストリーム」爆破事件にウクライナ軍幹部が関与していた可能性など、裏側の事実が次々と明らかになっています。23年2月には、マイダン革命の仕掛人のひとり、ビクトリア・ヌーランド国務次官が「戦争目的はクリミア半島の奪回とロシアのレジーム・チェンジ」と発言。ロ・ウの戦争が米国主導であることを堂々と述べました。ほかにもさまざまな“真実”を、本誌今月号で詳述しています。

12月号で札幌五輪について解説した本間龍氏は、札幌五輪招致断念の背景に東京五輪の失敗を指摘。一方で本間氏は、ジャーナリスト・今井一氏とのユーチューブ「一月万冊」で、大阪・関西万博の開催費用爆上がりの背景に、東京五輪の成功体験があると喝破しています。正しい判断をした札幌五輪と、誤った道を驀進する万博。東京五輪は市民にとって失敗、政治家にとって成功だったということでしょう。万博とカジノが、維新の化けの皮と次々とはがしています。11月27日には、政府が350億円の「大屋根」を含めた2350億円の会場整備費とは別に「日本館」など837億円を国費負担することが明らかに。3度めの上振れで総額3187億円は、まるで金を使わないと損だと言わんばかりです。際限なく予算が増額されるのは、やはり東京五輪の成功体験からです。

11月18日にその死が発表された、池田大作・創価学会名誉会長。実際に死去したのは3日前の15日。創価学会第2代会長・戸田城聖氏のときには12万人の学会員を集めた通夜・告別式後に火葬したのに対し、今回は「家族葬」で、死から3日後の火葬。池田氏の死はかねてから“Xデー”といわれ、死亡説も流れてきただけに、大きな違和感を持たれています。その背景と、池田氏の“罪過”にも、今月号でレポートしています。

2022年の旧統一教会、2023年のジャニーズ・宝塚と、これまで見過ごされてきた重大な問題に焦点が当たることは良いことでも、報道がそれ一色になることへの危惧も、同時に感じています。その裏で、やはり議論がされない重要問題も多数あります。今月号のWHO(世界保健機構)が狙う「パンデミック条約」や日本版DBSの危険性がまさにそれで、本誌として今後も問題提起を続けていきたいと思います。今月号も、ご一読をお願いいたします。

『紙の爆弾』編集長 中川志大

12月7日発売! タブーなきラディカルスキャンダルマガジン 月刊『紙の爆弾』2024年1月号

『紙の爆弾』2024年1月号
ガザはなぜ狙われるのか イスラエル暴虐の隠された“真相”
【条文解説】国家の主権を奪うWHOの医療独裁「パンデミック条約」「IHR改定」の危険な中身
なぜ「ただちに火葬」されたのか 創価学会・池田大作という「虚像」を暴く
「大阪・関西万博」予算倍増でも強行 万博・カジノで維新は自滅する
本誌に届いた“告発” ジャニーズとフジテレビの「主従関係」
5派閥に政治資金規正法違反の疑いも “ドミノ崩壊”する岸田政権と自民党
新藤義孝大臣の“買収”疑惑で注目 政界に横行する公金「コンパニオン宴会」
米欧の国際プロパガンダを超克する「クリミア友人会議」
これが「敵基地攻撃能力」の現実だ 米国が迫る「核共有」と自衛隊“核”武装化
ウクライナ戦争を仕掛けたネオコン勢力の正体
“子どもへの性犯罪者”の情報公開「日本版DBS」が暗示する未来
政権と最高裁が圧殺した「もの言う裁判官」岡口基一判事を罷免訴追した「弾劾裁判」の異常
イスラエルという「ナチオニズム国家」
静岡県沼津市「駐車場」「タケノコ」問題の真実を明かす
シリーズ 日本の冤罪45 波崎事件

連載
あの人の家
NEWS レスQ
コイツらのゼニ儲け 西田健
「格差」を読む 中川淳一郎
ニュースノワール 岡本萬尋
シアワセのイイ気持ち道講座 東陽片岡
キラメキ★東京漂流記 村田らむ
裏から世界を見てみよう マッド・アマノ
権力者たちのバトルロイヤル 西本頑司
まけへんで!! 今月の西宮冷蔵