あいかわらず無反省の経団連御用達マガジン 『WEDGE(ウェッジ)』3月号に国際環境経済研究所前所長の澤昭裕が病床から書いたというコラムであり、遺稿となった「戦略なき脱原発へ漂流する日本の未来を憂う」を斬ってみる。澤の言論は、あくまで「原発推進」を軸にして進む。澤は原子力事業を一社か二社かに再編した上で、火力や水力も含む包括的合併を提唱する。

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 東芝や日立といった原子力メーカーが進めてきたような、海外電力事業者との連携を契機とした再編も選択肢の一つだ。電力会社と例えば米国電力事業者との間でアライアンスが実現すれば、安全保障上の連携効果も高まる上、閉鎖的な我が国の原発オペレーション能力を海外に効果的に発信していく契機ともなる。若手技術者が「直営技術力」を高めていく絶好の機会ともなろう。(中略)
 海外事業者とファンドを組成して国内の原発資産を購入していくことも考えられるし、先に上記のような「原子力地域連合」を作り、ファンドが出資することも一案だ。こうした再編を進めた場合、特に経営規模の小さい会社にとっては、投資体力や技術人材プールの充実、発電ポートフォリオ拡大による不稼働リスク分散等の効果が期待できる。ただし、原子力の場合、既に地理的な分散やアウトソースが進んでおり、「重複・過剰設備の廃棄による効率化」や「研究開発や人件費等の固定費縮減」までは期待できない。
 また、「全電源停止」が生じリスク分散の意味はない、したがって、「再編はリスクの大きな電源の寄せ集めになる」との指摘もある。また、電力事業の歴史的経緯を考えると、他業種の再編事例をそのまま当てはめることは現実的とは言えない。各社は「政府及び他社に対する経営の自主・独立性」に強い自負を持ち、「地元密着で建設・稼働を進めてきた実績」をレゾンデトールとしてきた。今は苦境にあるとはいえ、送配電の「地域密着の安定収益基盤」を有していることもあり、従来の路線を変えてまで再編に踏み切るほどの危機感を持つ会社は未だ多くはないのではないか。このように各社・単独の能力・体力では状況の打開が難しいことが明らかな一方で、すぐに事業再編が進む地合いも整っていない。「事業者間協力」のあり方としては、会社再編に限らず様々なバリエーションを想定する必要があるし、協力の促進に向けては、漸新的・現実的なアプローチが必要であろう。(戦略なき脱原発へ漂流する日本の未来を憂う『WEDGE』2016年3月号
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故人が病床で書いた遺稿にケチをつけるのはやや気が引けるが、それでも間違いは間違いである。「原発推進のための電力事業の大同団結」などクソ喰らえである。もしも包括的に事業を統合するなら「脱原発のための電力再編」であるべきなのは、当然だ。

真剣に電力のありかたについて考え、病床で新しい電力事業のスタイルについて書いたことは認めよう。しかし澤よ、天国で今一度、電力について考えていただきたい。

(渋谷三七十)