8月にフィンランドに行ったのは、エアギター世界選手権のファイナルステージを見るためだった。
計画を立て始めたのは、今年の春頃。なにしろ、世界選手権のファイナルステージなのであるから、まずはチケットを手に入れないことには話にならない、と思った。
日本でも手に入る、と最初聞いたので、チケットぴあを始め各種チケットセンターで検索したが、見つからない。
フィンランド大使館の観光局に電話するが、いつも留守電だ。
フィンランドのエアギター世界選手権事務局にメールするが、返事は来ない。
これが、フィンランド流なのだな、と思った。すでに旅は始まっていた。

結局は、エアギター世界選手権を観戦したことのある日本人のブログを見つけ、参加は無料だということが分かったのは、1カ月以上も後だった。
開催されるのは、オウルという地方都市。
日本で発行されているガイドブックを探すと、だいたいは北欧で1冊となっている。
フィンランド単独のガイドブックが出るようになったのは、最近だ。
しかし、そこにオウルの項目はない。フィンランドで第6位の都市だというのに。

成田からヘルシンキまで、9時間。そこからまた1時間の空の旅で、オウルに着いたのは夕方だった。
フィンランド料理の店はないか、とホテルで訊くが、ない、とのこと。海外から観光客の来る街ではないので、家庭で食べているフィンランド料理を店で食べる、ということはない、ということだろう。この辺り、日本とはだいぶ事情が違う。
フィンランド料理にありつけたのは、その後、ヘルシンキに行ってからで、そちらは充実していた。

翌日、夜行われるファイナルステージまで、「何もないですよ」と言われていた、オウルの街を散策する。
ホテルやショッピングセンター、レストランや小さな店が建ち並ぶ、石畳の街を歩いていくと、いきなり大きな湖が現れる。
湖の中に半島のように突き出た場所があり、自然の中に溶け込みようにレストランがいくつかある。ほとんど、車道と歩道が別れていて、サイクリングやウォーキングを楽しんでいる人々も多い。
何もないが、それがいい、と言える、美しい街だ。

夜、街の中心の広場に設えられたステージで、前座のバンドが実際に演奏をして盛り上げた後、選手権が始まる。広場には3千人ほどの人々が、ひしめき合っている。
ロックのサウンドをバックに、そこにはないエレキギターを、“演奏”する。
日本からは、京都出身のチョコバット鵜飼さんが出場。日本の大会は今年、仙台で開かれた。会場からの応援の声が、ひときわ大きくなる。

見ていて正直な感想は、「ファイナルステージなんだから、もっとすごいと思った」だった。
実際にはないギターを“弾いている”ようには見えないし、純粋なダンスパフォーマンスとしても、いまいち迫力に欠ける。
チャイナドレスで登場した女性が、ボンテージ姿に変身する、など、それぞれ工夫はしているが、素人芸の域を出ない。

だが、考えてみれば、これこそ、エアギター選手権の特色なのだ。
素人でも、世界チャンピオンになれる可能性がある。
ロックサウンドが街に響き渡って、お祭り気分にはなる。
アイディアの勝負だろう。

これを、そのまま真似することはできないが、地方の活性化のヒントにはなるのではないだろうか。

(FY)