パソコンの遠隔捜査による犯行予告事件をめぐり、警察庁の片桐裕長官が全国各地で誤認逮捕された4人の人たちへの謝罪を検討していると述べたのは今月18日のことだった。すると実際、その翌日以降、今回誤認逮捕を引き起こした三重県警、神奈川県警、警視庁、大阪府警が誤認逮捕被害者たちに相次いで謝罪していった。

報道でこの経緯に触れ、警察は相変わらず、世論ばかり気にするなあ・・・・・・と思ったのは、筆者だけではないはずだ。それもそうだろう。警察が無実の市民を誤認逮捕した例など、全国各地に数え切れないほどあるのだ。にも関わらず、今回のようにわざわざ警察庁長官が誤認逮捕を事実上認めた上、謝罪の意向を表明し、その通りに全国各地の警察が次々に誤認逮捕被害者に謝罪するというのは異例である。今回の4件の誤認逮捕が大きく報道され、世間の注目を集めたからこそ、警察は今回に限って、誤認逮捕を反省するポーズを社会にアピールしたとみるのが自然だろう。

このニュースを見ていて、以前取材した、ある誤認逮捕事件を思い出した。
その事件は2009年9月3日、東大阪市の民家で発生した。夕方、この民家に住む27歳の女性が外階段で、見知らぬ男性に「パンツください」と声をかけられ、手で口をふさがれた上に肩をつかまれた。しかし女性が悲鳴をあげると、男はあわてて逃げて行ったという。そして約半年後の2010年3月15日、府内に住む男性Aさんが住居侵入と強制わいせつ未遂の容疑で大阪府警布施署に逮捕されたのだが、これが誤認逮捕だったのだ。

Aさんの無実が判明したのは逮捕9日目、勾留決定をした大阪簡裁に対し、弁護人からアリバイ証拠が提出されたことによる。それは、事件があった時間帯にAさんが府内の脱毛サロンで施術を受けていたことを示すカルテや電気脱毛施術依頼書などで、無罪証拠としては決定的なものだった。これをうけ、大阪地検は同日、Aさんを処分保留で釈放し、1か月後に嫌疑不十分の不起訴処分としたのである。

これがこの誤認逮捕事件の概略だが、問題はここで終わらなかった。Aさんにとって、警察側の事後的対応があまりにも不誠実に感じられたためである。
Aさんの弁護人によれば、警察がAさんに行った謝罪の実態は「1分程度の立ち話」に過ぎず、その顛末は次のようなものだった。

Aさんが処分保留で釈放されてから1か月ほど経った日の午後のこと。Aさんが外出しようと自宅を出ると、家の前に一台のワンボックスカーが停まっていた。その中から数人、スーツ姿の男たちが降りてきて、そのうち1人が「布施署の副署長の××だ」と名乗り、Aさんは名刺を渡された。
「この前はうちの捜査で悪かったな。何かあったら協力してや」
布施署の副署長と名乗った男はそう言うと、同行した男たちと一緒にワンボックスカーで帰って行った。全部でわずか1分程度の出来事だったという。

これでは、謝罪などしていないも同然だろう。Aさんは弁護人を通じ、「警察、検察は謝罪し、誤認逮捕の原因を明らかにすべきだ」という談話をマスコミに発表。筆者が弁護人に取材したのは釈放から半年以上経ってからだったが、その時もAさんは「自分がなぜ疑われたかもわからず、今も安心できない」と不安な日々を過ごしているとのことだった。

この件について、大阪府警に取材したところ、担当者は申し訳なさそうにこう言った。
「(副署長らは謝罪の際)家に上がればよかったんですが、(Aさんに)『そこでいいですよ』と言われ・・・・・結果的に(Aさんは)説明を受けていないと思われたみたいですね」
つまり、布施署副署長らによるAさんへの謝罪が「1分程度の立ち話」になってしまったのは、Aさん本人が「家に上がってまで謝ってもらう必要はない」と言ったことに原因があるというのが大阪府警の見解なのだが、これを素直に信じられる人はマレだろう。

こういう事例もおそらく世間にはいくらでもあるのだろうが、この事件の取材を経て、つくづく思ったことがある。それは、このような誤認逮捕事件が発生した時、警察は誤認逮捕被害者への謝罪を弁護士立ち合いのもとか、公の場でするべきだということだ。

今回のパソコンの遠隔操作による犯行予告事件では、警察幹部が誤認逮捕被害者のもとに謝罪に行く場面がテレビなどでも報じられていたが、これなら警察もいい加減な謝罪をすることはできないだろう。誤認逮捕被害者側から「あまり大げさにしないで欲しい」などという要望があるなどの特別な場合をのぞき、警察が謝罪の経緯をオープンにして困ることも何もないはずである。

(片岡健)

★写真は、誤認逮捕後に「謝罪がない」というクレームもつけられた布施署