ミャンマー(ビルマ)を周遊旅行することにした。ミャンマーとの貿易業を行い、ミャンマーのことを執筆をするなら、日本の大手旅行会社が案内するような観光名所を訪れるのも必要だと思ったのだ。
ビジネスパートナーで、私が100万円を貸し付けたNと、その妻Pが、私と娘を案内してくれることになった。ちなみに、Nは、当シリーズ3(デジタル鹿砦社通信 2012年12月17日記事)で触れたプレッシャーに弱いビジネスマンで、Pは私に「夫にこれ以上仕事をさせないで」と主張してきた女性だ。

旅行行程は、ヤンゴン→バガン→マンダレー→メイミョー→バゴー→ヤンゴンだ。11世紀にビルマ族史上初の統一王朝が築かれ、世界的な仏教建築群が残っているバガン、ミャンマーの第二の都市で、最後の王宮跡地であるマンダレー、イギリス植民地時代に町並みが整備された避暑地のメイミョー(ピンウールィン)、13~16世紀にモン族王朝が築かれ、大きな涅槃像などの寺院があるバゴー……。ミャンマー旅行のスタンダードコースを巡ることに、私の胸は躍った。

通常、ミャンマー周遊旅行は飛行機で移動する。しかし私は、ミャンマー国内の多くの場所を見るべく、すべての都市をレンタカーで周ることにした。ヤンゴンからバガンまで飛行機で1時間弱かかる距離で、車では丸1日かかる。それでも何か、飛行機では見えないものが路上にあるのでは、と期待したのだ。

旅行第1日は、朝5時半にヤンゴンを出発する予定だった。だが、旅行に同行するNとPが車で私を迎えに来たのは、6時だった。ミャンマー人は冗談で「バーマ(ビルマ) スタンダード タイム」という言い方をする。約束した時間よりずれ込むのを標準時間と考えるという意味だ。NとPは、ミャンマーの標準時間感覚をしっかり実行している。

旅行用にトヨタのワゴン車、ハイエースを借りた。日本の中古車だが、現地では富裕層の人々に好まれる。レンタカーは運転手付きだ。痩せてメガネをかけた運転手は、NとPの近隣住民だという。彼は高速道路に入る前に、運転のお守りとなるジャスミンの花房を、路上の売り子から買った。
道路わきでジャスミンの花房を売るのは、背に赤子を背負う女性や、年端もいかない少女たちだ。車が立ち上げる土ぼこりの中で、彼女たちはジャスミンの花房を手に下げて立っている。そして無表情で、渋滞で止まった車の運転手に向けて手を掲げ、花を売る。

運転手は、バックミラーにジャスミンの花房をかける。「無事故で旅が終わるように、と願って花を買った」と彼は言う。ミャンマー人は占いや祈りの力をけっこう信じている。

ヤンゴンからバガン方面に向けた高速道路に入ると、交通量は激減する。ヤンゴンではトラックやバス、乗用車の通行量が多く、市内中心街では渋滞が絶えない。ところが高速道路には、私たち以外、車が走行していない。その代わりに、周りの畑で飼われている牛か、農夫が、道路を歩いている。
「一般のトラックは高速道路を通行できない決まりになっている。積載量をオーバーするトラックが多く、それで道路が傷むから」
運転手は車がほぼ無走行の高速道路の説明をする。トラックは高速道路をつかわず、舗装されていない下道を走る。商業を担う輸送車のために高速道路がある、と考えていた日本人の私は、ミャンマーの道路事情に首をかしげる。

「商業を優遇させる制度を作らねば、この国の発展は遅れる」
そんなことを考えていたところ、大きな衝突音と振動が走った。前輪をガクガクさせながら、停車する。
「犬を轢いて、タイヤがパンクした」
運転手はこう言い、スペアタイアを取り出し始めた。私は、草原と畑のなかにある無人の高速道路に下りて思った。ジャスミンの花房の効力は、どうなっているのだろう、と。
(続く)

【写真キャプション】
バガンを代表する黄金の仏塔「シュエズィーゴン・パヤー」。この目的地まで、道のりは長い。

(文・写真:深山沙衣子)

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