〈この20年の硬直した都政の下で、アジアの金融拠点はシンガポールに、物流拠点は上海に、ハブ空港は仁川に後塵を拝しつつある。東京が産業構造の変革の波の中で、世界をリードする絵図を描けているか。少子高齢化が叫ばれながら、福祉対策の転換を導いているか。老朽化する都市は輝きを失うのではないか。様々な危機に対する準備は万全か。これまでの延長線をなぞるだけの都政でよいのか。〉

 

都民ファーストの会HPより

小池百合子都知事が代表を務める「都民ファーストの会」のHPにある言葉からの引用である。よくぞ平然と言えたもんだと呆れる。「この20年」都知事にはどんな人間がいた? 傲慢ファシスト石原慎太郎、その子分猪瀬直樹、そしてみすぼらしく切り捨てられた舛添要一。こいつらは全て自公の推薦だったじゃないか。

◆カタカナ言葉を多用する人間は疑ってかかった方がいい

そしてもう一つ気に入らないのは、不要なカタカナ言葉の多様である。「都民ファースト」などという名前に、まず禍々(まがまが)しさを直感する。小池百合子は同HPの挨拶の中で、

〈昨年の夏、私は「セーフシティ」「スマートシティ」「ダイバーシティ」の3つのシティを実現し、東京大改革を成し遂げると都民の皆様にお訴えし、暑い熱気の中で291万余の皆様から信託をいただきました。〉

とこれまた政策の3本柱をカタカナで表現している。これは英語のくせに、くだらない韻を踏んでいるところが益々いかがわしい。英語の単語を用いると、なにか新しかったり、人の知らない概念が出て来るように勘違いされた時代が過去あった。役人や広告代理店は今でもその手法をしばしば用いるが、小池の戦法はまさにそれである。カタカナ言葉を多用する人間は疑ってかかった方がいい。これは業界を問わずだ。

◎[参考動画]都議選 選挙戦最終日に各党幹部が“最後の訴え”(ANNnewsCH 2017年7月1日公開)

◆小池百合子は少し前まで自民党のど真ん中にいた人物

そして小池は、少し前まで自民党のど真ん中にいた人物であり、上記文章のいうところの「この20年の硬直した都政」を応援していた。なにを他人事のように批判しているのか、批判する資格などないじゃないか。

築地市場の豊洲移転に関して、豊洲では猛烈な毒物が再々検出されているのに、結局豊洲への移転を決め、築地も併用すると小池はいう。つまり旧来の利権政治同様、築地の改築や運用と、豊洲の改装や補強工事の両方から「利権」を得ようと企図しているのである。豊洲移転を問題として取り上げた小池への賛辞は聞くが、問題が何が何一つ解決されていない、このあいまいな豊洲移転を鋭く突く声は小さい。小池とはこういった「世論騙し」には長けている政治家だ。

◆公明党なしでは足腰ガタガタの自民党

7月2日に行われた都議選で自民党は大敗した。獲得議席はこれまで最低の38から35あたりと予想していたが、それを大幅に下回る23議席は、壊滅的敗北と言っていいだろう。

国政選挙区ではめったに落選者を出さない公明党は、今回も手堅く候補者23名全員を当選させた。そして「都民ファーストの会」は55議席を獲得した。選挙前から公明党は「都民ファースト」に擦り寄っていたので、選挙区によっては両党の票割が行われ、その相乗効果も獲得議席数に現れている。公明党なしでは自民党も足腰ガタガタで、単独ではとても議席確保が容易でない、近年の投票力学を現す結果ともなった。

東京都議会・政党別議席数の推移(選挙ドットコムより)

◆無思想な一極集中と経済第一主義を見直さない限り、東京は変われない

さて、これから都政がどうなるのか、と言えば、10年程まえに大阪で起こったことと同様の現象が繰り広げられるだろう。「都民ファーストの会」など所詮、自民党の別働隊に過ぎず、根本政策には何の違いもない。小池は元々改憲派だし、公約を見ればわかるが、まだまだ東京の一極集中と経済成長を狙っている。

東京にお住まいの方には失礼に当たるが、もう東京の圧縮振りは、限界を超えている。食料自給率ゼロの東京がこれ以上の成長を遂げようというのはひたすら無謀な目的だ。東京オリンピックを開催する発想だって「狂っている」としか言いようがない。都内にもいまだに局地的に放射線の高濃度汚染地域が点在する東京都は、まずこれまでの無思想な一極集中と、経済第一主義を見直さない限り、いずれ訪れる物理的破綻による被害はますます大きくなるだろう。

◆「安倍支配」終焉のきっかけを作ったことにおいてのみ「都民ファーストの会」は評価されてよい

当面解散総選挙でもなければ、国会に議席を持つことはないだろうが、大阪の維新同様、中央では自公政権を補完する役割を演じるに違いない。「反自公勢力」や「野党」などと考えていればそれは大きな間違いだ。都政内では公明党と接近していても、国政では、都議選のように自民党がズタボロになる兆候が現れるまで、公明党が自民党と袂をわかつことはない。大臣の椅子を1つ貰っているのだ。公明党は極めて冷静に状況を見極め、その先主導権がどちらに転ぶかを見極めてから「転身」を決める。

ただし、見方を変えれば都議選の自民大敗は、自民党内の派閥抗争に例えることが可能であり、その結果、信任を得られなかった安倍の足元は急速にぐらつくだろう。すでに自民党内からも安倍の責任を問う声が上がり始めている。内閣支持率もおそらく、妥当な数字に下がってゆくだろう。閣僚や党重鎮の失言(本音)はもう数えきれないし、不祥事も可燃ごみに出す程度ではなく粗大ごみ位にたまって来た。長すぎた「安倍支配」がようやく終焉を迎えるきっかけを作ったことにおいてのみ「都民ファーストの会」は評価されてよい。それにしても「都民ファーストの会」からの当選者には、なんと変節者の多いことだろうか。元民進党(民主党)、元自民党といった理念なき輩がほとんどではないか。

◎[参考動画]落選候補の怒り(PlaceUniversity 2017年7月2日公開)

◆「奴らは自民党の別動隊に過ぎない」

所詮は自民党の別動部隊に過ぎないので、「都民ファースト」の大勝には警戒を怠ることができない。そして、自公=安倍政権に反対で、不満を持つ層の受け皿になるべき、本来的「野党」が都政にも国会にもないことが最大の問題点であろう。日本共産党は小池都政と寄り添う姿勢を見せていたし、社民党や自由党は都議会には一人もいない。自民・公明・維新・「都民ファースト」はいずれも党名は異なっても同じ方向を向く勢力、大政翼賛会のようなものだ。

それにしても最近の安倍自民党は「保守」ではなく「極右政党」になり果てている。バランスをとるために必要なのは、明確に大政翼賛会的与党・政党に異議を唱えるまっとうな政党、野党の出現だ。かなり難しい課題ではあろうが、それが果たせなければ国会の大政翼賛会化はますます進行するだろう。「都民ファースト」の圧勝をなにか慶事のように喜ぶ向きがあるので、あえて繰り返し釘を刺しておく。「奴らは自民党の別動隊に過ぎない」と。

◎[参考動画]安倍総理へ「やめろ!」「帰れ!」の嵐(Movie Iwj 2017年7月1日公開)

▼田所敏夫(たどころ としお)
兵庫県生まれ、会社員、大学職員を経て現在は著述業。大手メディアの追求しないテーマを追い、アジアをはじめとする国際問題、教育問題などに関心を持つ。※本コラムへのご意見ご感想はメールアドレスtadokoro_toshio@yahoo.co.jpまでお寄せください。

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