◎[参考動画]日産「事実関係を確認中」 ゴーン容疑者再逮捕(ANNnewsCH 2018/12/21公開)

◆やや痛快な検裁の異見分裂

 

カルロス・ゴーン『国境、組織、すべての枠を超える生き方 (私の履歴書) 』2018年日本経済新聞出版社

おおかたの予想を裏切って、ゴーンが3回目の逮捕となった。2度の逮捕の容疑(金融商品取引法違反)の態様が、ほぼ重なるので物証捜査も終わっているはずだ、という裁判所の保釈却下に異をとなえた。というのが検察の思いきった獄中逮捕劇である。

必要以上に身柄を拘束しない欧米の司法行政から考えると、日本の訴訟運用は一見して中世的な野蛮に見えるはずだ。国際的な批判はまぬがれがたいところだろう。罪状をみとめ、へへい、悪ぅございました、ありていに白状いたしやす。とでも言わなければシャバに出してもらえない、先取り刑ということになる。

わたしも三里塚闘争で一年の未決拘留を経験した。当時は200人ちかい逮捕者がいたものだから、訴訟準備に長い時間がかかったのが直接の原因だ。千葉地裁では能力を超えているということで、3分の2近くの被告が東京地裁に移送になったものだ。

それにしても、異例づくめである。裁判所が地検特捜部の案件で公判前の保釈を認めたのは、おそらく初めてのことだろう(テレビコメンテーター弁護士の証言)。ひとつにこれは、司法取り引きの実質として、もう事実関係は日産に提供してもらったから、出たければ出てもいいですよ。という新たな地平だというのだ。

それはともかく、3度や四度の逮捕は取り調べ時間の確保とともに、被告(被疑者)への精神的な圧迫としてふつうに行なわれている。鹿砦社への言論弾圧事件では、松岡社長が半年以上の拘留で事実上の禁固刑を受けている。最近では籠池夫妻への10ヶ月以上にもおよぶ拘留、周防郁雄と言論戦を展開した笠岡和雄元松浦組組長への獄死攻撃など、枚挙にいとまがない。ともあれ、取り調べ勾留時での保釈という異例の対応をした裁判所にたいして、これまで通りにやってくれという検察特捜部の反応であることは間違いない。

◆特別背任のほうが、わかりやすい

金融商品取引法違反については、日産も同罪であるところから、いわば別件逮捕の位置付けだった可能性が高い。今回の逮捕理由である自分の企業の含み損の付け替え、横領に近い出費の強要は特別背任。つまり会社を私物化することで、会社に損害を出した汚職である。泥棒じゃないかと言われても仕方がない。

今回のゴーン逮捕がルノーと日産、さらには3菱自動車の一体化を阻止し、国家の基幹産業である自動車を他国の思いどおりにはさせないという国策捜査であるならば、もはやゴーンは完全に人質司法の手の内に入ったことになる。

身から出た錆とはいえ、個人では国家には勝てないという見本である。フランス当局もまた、エリート主義という批判をかわすために静観のかまえだ。あちらはあちらで、燃料税から内乱状態が起きているのだから、フランス民衆の行動力によるものといえよう。

◆人質司法はそれほど怖いものではない

このかん、政治政策の第一人者といわれる犯罪学者と話す機会があった。いわゆる代用監獄の人質司法について、留置場(警察署)が代用監獄となることで、自白しないと出さない取り調べは実際に行なわれているが、それは拘置所(その多くが刑務所の付属)でも同じだとわたしは思う。

むしろ留置場はヤクザや不良少年、こんな人が罪を犯すのかと思うほど普通の人も散見され、気がまぎれて愉しいところでもあるのだ。これは入ってみなければわからないことで、いきなり拘置所で警察官よりも厳しい刑務官に規則づくめの生活を強要されるほうが、ふつうの人間にはよほどショックがあるのではないか。

そして懲役生活ならばともかく、未決拘留は時間があるという意味では「すばらしい」生活でもある。源氏物語を原典で読んでみたいとか、レーニン全集を読み返してみるとかの思いつきは、ふつうの生活をしているかぎり絶対にかなわないと、わたしは思うのだ。ここはもう、ゴーンさんも前時代的な日本の司法と闘うことはあきらめて、万巻の仏典など読まれてはどうか。


◎[参考動画]保釈の可能性も… 急転!? ゴーン容疑者を再逮捕(ANNnewsCH 2018/12/21公開)

▼横山茂彦(よこやま しげひこ)

著述業・雑誌編集者。主な著書に『軍師・黒田官兵衛に学ぶ経営学』(宝島文庫)、『真田一族のナゾ!』『山口組と戦国大名』(サイゾー)など。医療分野の著作も多く、近著は『ガンになりにくい食生活――食品とガンの相関係数プロファイル』(鹿砦社LIBRARY)

横山茂彦『ガンになりにくい食生活――食品とガンの相関係数プロファイル』(鹿砦社LIBRARY)

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