注目を浴びていた京都市長選挙は、共産党とれいわ新撰組が推薦する福山和人氏(58歳)が惜しくも4万1000票あまりの差で敗れた。前回選挙(2016年)にくらべると、地方政党京都党の善戦もあってか、次点の福山氏は得票率で前回の本田氏の30%の差から10%の差に縮める結果になった。※NHK選挙WEB=京都市長選

▼2016年(前回)
門川大作  254,545票 63.8%
本田久美子 129,119票 32.4%
三上隆    15,334票  3.8%

▼2020年(今回) ※2月2日23時現在
門川大作  194,821票 44.3%
福山和人  153,545票 34.9%
村山祥栄  91,632票 20.8%

注目を浴びた選挙の、政治的な背景を説明しておこう。国政レベルでは、自公安倍政権にたいして「大きな野党の塊」をつくって対抗し、政権交代への足掛かりをさぐるという統一戦線戦術が模索されてひさしい。事実、昨年の参院選挙においては自民党に2桁の議席減を強いる結果をもたらした。今回の選挙が接戦になったことで、大胆な野党共闘の道をさぐるべきであろう。

2020年1月26日付京都新聞

ところが、与野党相乗りが定着している地方首長選挙においては、その事情も違ってくる。野党が独自の統一候補を立てられない、というのが実相であろう。京都市長選挙はまさにその典型で、現職の門川大作(自民党・公明党)推薦候補に、立憲民主・国民民主・社民党までもが相乗りする選挙となったのだ。これは過去も同じだ。そして共産党との対決も、共産党系候補へのれいわ新撰組の推薦をのぞいては、これまで同様の構造である。

現職の「政策実績の評価」というところに選挙支援の論点を置くいっぽう、立憲民主の福島哲郎幹事長は「徹底的に共産党と戦う」(門川候補の出馬式)とぶち上げてもいる。

そして1月26日には「大切な京都に共産党の市長は『NO』」なる意見広告が、「京都新聞」「読売新聞」「朝日新聞」に掲載されたのだ。赤狩りを思わせる共産党へのネガティブキャンペーン、あるいは内容抜きの「NO」はヘイトであるとも評されている。

しかも、その広告に名をつらねた文化人たち(映画監督の中島貞夫・日本画家の千住博・俳優の榎本孝明・堀場製作所の堀場明会長)が「内容を知らされていなかった」というのだ。

「特定の政党のネガティブキャンペーンには賛同しない」「共産党だからNGという立場にはない」と、門川陣営の支援団体「未来の京都をつくる会(当該の広告主体)」に抗議をしている。確認をとらないまま、勝手に名前を政治利用したことで、大きな反発をまねいていた。

これは門川陣営に自失、反共キャンペーンの時代遅れを笑うべきであろう。


◎[参考動画]【2020京都市長選挙】門川大作候補100秒の主張(Mielkaチャンネル)

◆そもそも京都は赤い都市である

京都市長選で共産党をふくむ「革新系」候補が勝利したのは、この意見広告がエキセントリックに言うほど珍しいことではない。かつて蜷川虎三京都府知事は、7期28年にわたって革新府政を築き上げてきた。

蜷川虎三知事との提携で市長になった高山義三(のちに保守に転向)、京都民主統一戦線に擁立された井上清一市長、富井清市長ら、共産党をふくむ革新系統一戦線は、78年に蜷川の後継者が保守系に敗れるまで、ながらく赤い京都を体現してきたのである。

歴史的にも、鎌倉時代(承久の変)から京都はもともと、反体制運動のメッカである。いや、鎌倉以前にも、たとえば叡山は京都を守護する山門でありながら、ことあるごとに強訴をもって朝廷と藤原政権を悩ませてきた。鎌倉幕府の六波羅探題(平清盛の時代からの武家の拠点)に対して、京童は祇園御霊会にかこつけて山鉾を武器に叛乱してきた(建武政権の導火線となる)。江戸末期には討幕の拠点となり、朝廷が東京に居を移してからは、本来の日本政府(少なくとも天皇御所)は京都にあるべきとの気風を崩していない(退位後の上皇京都隠棲法案)。

あるいは戦後において、京都府学連の伝統をつぐ京大・同志社・立命館の学生運動は、全共闘運動後もしばらく80年代まで「ガラパゴス状態」を体現し、「左京区の学生は困ったもの」と呆れられながらも、学生好きな京都人から暖かいまなざしを受けてきた。それは2020年代のいまも、京大熊野寮・吉田寮に引き継がれている。
その学生運動以上に、強力なのが共産党京都府(市)委員会と立命館大学支部(福山和人氏の出身母体)であろう。京都の学生運動の歴史は、まさに共産党(民青)と赤ヘルの闘いの歴史でもあった。「未来の京都をつくる会」が必死になって反共キャンペーンを行なうのも、そのような事情にほかならない。


◎[参考動画]壁を越える/京都市長候補・福山和人(FukuTube・福山和人)

◆山本太郎は東京都知事選候補となるのか?

「共産党と戦う」という反面、立憲民主党は1月23日に、長妻昭・選対委員長が7月5日投票の都知事選挙に「野党統一候補として山本太郎れいわ代表を擁立する可能性がある」と発言している。その一貫性のなさを批判するつもりはない。

山本太郎の京都市長選における共産党推薦候補支援も、多数派形成のための戦術であり、ぎゃくにいえば立憲民主ほか、野党の選挙戦術もシングルイッシュー(個別課題=この場合は京都市政)にほかならないからだ。政治力学とは「敵の敵は味方」であり「昨日の敵は今日の友」が議会政治なのである。

たとえば死刑廃止運動では、議会での「廃止決議」がないかぎり制度は変えられないという現実から出発し、かつて死刑廃止議連(亀井静香・浜四津敏子ら)を市民がサポートしてきた。自民党の議員を何人組織できるかが運動の成否、とも言われてきたものだ。※社民系・民主系の議員の落選で議連が停止状態。あらたに自民党議員を座長とする「死刑を考える議連」が組織されている。大胆に言えば、選挙や議会政治は思想信条ではない。目的を実行できるかどうかなのである。

今回の選挙結果をうけて、発信力や予算の額それ自体としては国会議員よりもはるかに大きなものがある都知事選への、山本太郎の出馬もおおいにあり得ると予言しておこう。


◎[参考動画]私が福山和人京都市長候補を応援する理由!山本太郎 京都で激白!!(れいわ新選組)

▼横山茂彦(よこやま・しげひこ)
編集者・著述業。「アウトロージャパン」(太田出版)「情況」(情況出版)編集長、最近の編集の仕事に『政治の現象学 あるいはアジテーターの遍歴史』(長崎浩著、世界書院)など。近著に『山口組と戦国大名』(サイゾー)『日本史の新常識』(文春新書)『男組の時代』(明月堂書店)など。

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