長崎県西海市でストーカー被害を訴えていた女性(事件発生当時23)の母親(同56)と祖母(同77)が刺殺される事件が起きたのは2012年の暮れのこと。捜査の結果、女性の元交際相手・筒井郷太被告(同27)が殺人や住居侵入、脅迫などの罪で起訴された。筒井被告は、長崎地裁の裁判員裁判で無実を訴えたが、2013年6月14日、犯人性も完全責任能力も認められて死刑判決を宣告され、現在は福岡高裁に控訴中である。

筆者は昨年9月ころからこの筒井被告と手紙のやりとりを重ね、勾留先の福岡拘置所に面会にも訪ねた。こうした取材を通じて確信できたのは、この事件では筒井被告に不利な証拠が揃っているものの、筒井被告本人は“本気で”無実を訴えている、ということだ。筒井被告は自分のことをむしろ「被害者」であるように主張しているのだが、貰った手紙の文面や、面会した時の本人の様子から“やましさ”のようなものは微塵も窺えないのである。

そんな筒井被告の控訴審は3月3日に福岡高裁で始まるが、それに先立ち、筆者は筒井被告から手紙で「ある頼みごと」をされた。友人や知人に手紙を出したいので、相手の勤務先の住所を調べたり、仲介をして欲しいというのだ。なんでも筒井被告は獄中から友人や知人に連絡し、自分の無実の訴えを聞いてもらいたいという。そして筆者は筒井被告から手紙で、連絡をとりたい友人・知人の名前や勤務先なども告げられた……。

筆者はどうすべきか、悩んだ。たとえ筒井被告の友人・知人といえども、大半の人は報道などの情報で筒井被告のことを「ストーカー殺人犯」と確信しているはずだ。そういう人は筒井被告やその意向を受けた仲介者から連絡がきたら迷惑もしくは恐怖だろう。しかし、中には、報道の情報だけでなく筒井被告本人の話を聞いた上で真相を見極めたいと考えている友人もいるかもしれない。あるいは、筒井被告のことを「ストーカー殺人犯」だと思いながらも何か力になりたいと考えている友人もいるかも……。
そのように考えると、筒井被告の頼みごとは、安易に引き受けることはできないが、無下に断ることもできないものだった。

そして考えた末、筆者はこの「デジタル鹿砦社通信」上で、友人・知人に連絡が欲しいと呼びかけてみることを筒井被告に提案した。すると、すぐに返事の手紙が届いたのだが、筒井被告はその手紙で提案を前向きに受け入れる共に以下のような掲載希望の文章をまとめてきたのである(句読点以外は原文ママ)。

======以下、引用======

僕は無実です。友人・知人の方や、事件と少しでも関係がある方や、関係がなくても真相を知りたいと思ってくれる方(例えば、脅迫メールを受けた方、mixiのアカウントとメールをした方)には、本当のことを詳しく、証拠の説明を交えて、知ってもらいたいと思っています。すでに事件の真相については、ノートやコピー書類を作ってまとめていますので(例えば、mixiの脅迫メール・ストーカーメールを送っているアカウントの登録端末は○○さんのエクスペリア(ドコモ)で、僕の当時のスマホはauのIS03です。やアカウントのメール歴には、僕に対して脅迫していたり「殺す」と計画しているものがある…など)、友人・知人・関係のある方々や、関係がなくても真相を知りたいと思ってくれる方(mixiのあのアカウントからメールを受けた方など)は、福岡拘置所まで連絡をくれないでしょうか?住所は、福岡市早良区百道2-16―10 〒814―8503です。

======以上、引用======

このメッセージを読み、どう感じるかは人それぞれだろう。ただ、少なくとも筒井被告が“本気で”無実を訴えていることだけは確かだと筆者は考えている。

(片岡健)

★写真は、筒井被告のメッセージが綴られた手紙