日本の捕鯨に対して、中止を求め続けてきた国や団体は多い。とりわけ南極海のお膝元のオーストラリア政府や、過激な妨害行動をとるシー・シェパードの反対行動は印象が強い。

しかしこれがサメとなると、途端に話が変わってくる。オーストラリア政府は、ザメの駆除作戦に乗り出し、ここ3カ月間実行に移していた。オーストラリア近海では、凶暴なサメとして名高いホオジロザメの被害が多く、襲われての死亡事故もある。

しかし、ホオジロザメは絶滅危惧種だ。オーストラリア政府の対応は、クジラを守るという大義名分を掲げる一方、サメに対しては駆除作戦を行う。オーストラリア政府には決して動物愛護的な精神はない。捕鯨に強く反対しているのは、ホエール・ウォッチングやホエール・スイムといったクジラビジネスが主要産業になっているからだ。そのためクジラに対する愛護的政策をとってきた結果、オーストラリア国民にとってクジラは愛すべき存在になった。

シー・シェパードはこのオーストラリア政府のサメ駆除作戦を批判した。大々的に反対行動を起こしたのが、悪名高いシー・シェパードだけというのは情けない限りだ。しかも「駆除作戦の結果、捕獲されたサメはイタチザメだった」という批判は、ホオジロザメを守ろうという意思が感じられない。実際捕獲されたのはイタチザメばかりだったというが、問題はそこではない。

ホオジロザメは特に凶暴なサメであり、サメによる事故の半数近くはホオジロザメによるものと言われている。しかしイタチザメも肉食性であり、場合によっては人を襲うことに変わりはない。イタチザメは駆除してはダメだがホオジロザメは良いというのか。絶滅危惧種だというのに、人間の都合で駆除していい生き物、悪い生き物を勝手に分類するのか。

シー・シェパードの言い分に「クジラは知能の高い生き物だ」というものがあった。知能の高さでいえばホオジロザメは相当高いことで知られている。学習能力に長け、物事を順序立てて考えることができると言われている。捕食に失敗すると失敗の原因を考え、多種多様な戦法をとることによって成功率を上げていくことができる。

この知能が高く、絶滅の危険性が高い生き物を、守ろうという国はない。人間にとって危険な生き物ではあるが、基本的に無差別に人を襲う生き物ではない。ホオジロザメが人を襲った件数と、人がホオジロザメを殺した数と、どっちが上だろうか。

日本の調査捕鯨中止命令は厳粛に受け止めるべきだろう。一方でオーストラリア政府のホオジロザメに対するダブルスタンダードは、もっと批難していいはずだ。守るべき生き物も、駆除する生き物も人間の都合で決めているのだから、絶滅種増加の流れは止まるはずもない。

(戸次義継)