わたしは知っている。奴らが「忘却」を武器に時間の経過を利用しながら、あのことを「なかった」ものにしようとたくらんでいることを。

わたしは、ずっと昔から気が付いている。どの時代でも「マスメディア」などは信用するに値せず、少数の例外を除いては、いつでも扇情的で、事実の伝達よりは、体制補完に意識的・無意識的に結果、熱心に作用していることを。

わたしは痛めつけられてきた。異端に対するこの島国の住人からのまなざしに。無言のうちに成立する不気味な「調和」、「規律」、「統一行動」。それから精神的に逸脱するもの、行動で逸脱するものへ、情け容赦なく加えられる、あの集団ヒステリアともいうべき、排他の態度に。目は血走り、殴り蹴飛ばすこともいとはないあの狂気。

わたしは見抜いている。「地球温暖化」を理由とした「脱炭素社会」の大いなる欺瞞を。「炭素」は人間の体を構成する元素じゃないのか。わたしたちは吐息をするごとに二酸化炭素を吐き出しているだろう。一酸化炭素を人間が吸いこめば、下手をすれば死ぬ。でも二酸化炭素がなければどうやって「光合成」は行われるのだ。「光合成」が止まってしまっても、人間や動物は生きていられるのか。「炭素」全体を悪者扱いする議論は、人間だけではなく生態系の否定に繋がるんじゃないのか。違うというのであれば、下段にわたしのメールアドレスを示しているので、どなたかご教示いただきたい。この議論は「地球温暖化」→「二酸化炭素犯人説」→「脱炭素」→「原発容認」→「核兵器温存」とつながる、実に悪意が明確でありながら、当面世界経済に新たな市場を生む分野として、末期資本主義社会には期待されている。わたしは資本主義を激烈に嫌悪し、早期に滅びてほしいと願うものである。

わたしは、激高している。76年前のきょう、灼熱に焼かれた、瞬時に焼き殺された、時間をかけて苦しんで死んでいった、長年被爆の後遺症に苦しんだ、体の記憶を、薄っぺらで限られた時間の中だけで扱えば、それで事足れりと始末してしまう、人々のメンタリティーに。

わたしは、半ばあきれながら軽蔑し、いずれは「矢を撃とう」と考えている。わたしが、被爆影響の可能性が高い症状であることを、明かしたことに対して、ろくな覚悟もないくせに、難癖をつけてくる、ちんけで気の毒な人間に。体の痛みがどれほどのことかもわからないくせに、軽々しくもわたしの体調をあげつらう人間。それは現象としてはわたし個人が対象であっても、そこから射程をひろげれば、被爆者(原爆・核兵器・原発)に対するある種の共通性を持った社会的態度と通じる。「黒い雨裁判」は高裁勝訴を勝ち取るまでに、どれほどの時間を要したことか。個人による侮蔑、行政による不作為または無視。わたしの価値観ではどちらも同罪だ。

2021年8月9日。毎年震度7クラスの地震が起き、原発4基が爆発し、ゲリラ豪雨により毎年河川氾濫は当たり前。世界中で感染症が波状的に襲ってきて、「軽症患者は入院させない」と棄民宣言を平然とのたまう政府。これは「地獄図絵」ではないのか。

わたしは、30年前にこんな「地獄図絵」は予見できなかった。大きな天災や人災の一つ二つはあるだろうとはおもった。人間の知性が総体として崩れゆくだろうとも予感した。毎日が「あたりまえ」のように流れてゆくゆえ、人間は鈍感になる。徹底的に鈍感になっていると思う。2021年8月9日は1945年8月9日と、表情は違うものの「地獄図絵」が展開されていることにかわりはない。

「地獄」におかれてもまだ「地獄」だと感知できず、高らかに乾いた笑い声をあげるひとびとは、さらにそぞろ寒い光景を際立させる。

青い空だけが変わらない。

▼田所敏夫(たどころ としお)
兵庫県生まれ、会社員、大学職員を経て現在は著述業。大手メディアの追求しないテーマを追い、アジアをはじめとする国際問題、教育問題などに関心を持つ。※本コラムへのご意見ご感想はメールアドレスtadokoro_toshio@yahoo.co.jpまでお寄せください。

*「祈」の書は龍一郎揮毫です。
下の「まだ まにあう」は、チェルノブイリ原発事故の翌年に、龍一郎と同じく福岡の主婦が、原発の危険性を説いて人々の自覚を促す長い手紙を書き、これが『まだ、まにあうのなら』という本になりました。佐藤雅彦『まだ、まにあう! ―原発公害・放射能地獄のニッポンで生きのびる知恵』は、これに触発されて、福島原発事故後の2011年11月に急遽刊行されました。ご関心があれば、ぜひご購読お願いいたします。お申し込みは、https://www.amazon.co.jp/dp/4846308472/ へ。

龍一郎・揮毫

佐藤雅彦『まだ、まにあう! ―原発公害・放射能地獄のニッポンで生きのびる知恵』

佐藤雅彦『まだ、まにあう! ―原発公害・放射能地獄のニッポンで生きのびる知恵』
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