2021年の年初は、1日あたり数千人の新型コロナ感染者を出した。後手に回った政府の緊急事態宣言をうながすために、小池東京都知事の動きから始まったのは記憶に新しい。そして感染症下の政治は、従来からの政治のあり方を変えた。

すなわち、生活の外にあると思われていた政治が直接、国民諸個人に向かい合うことになったのである。それはコロナ禍を媒介に、「生政治(せいせいじ Bio-politics)=M・フーコー」として立ち顕われてきたのだといえよう。

政治が国民の生命を左右し、それゆえにかぎりなく身近なものになったのである。


◎[参考動画]小池知事 政府に“緊急事態宣言”要請へ(日テレNEWS 2021年1月2日)

◆自公時代の終わりを思わせた上半期の政治情勢

その結果、上半期の菅自民党政権にたいする批判は厳しいものになった。

北九州市議選挙、山形県知事選挙、千葉県知事選挙で自民党が敗北し、4月25日に行なわれた衆議院北海道第2区、参議院長野県選挙区、同広島県選挙区(広島は再選挙)は、いずれも野党共闘の勝利に終わった。

そして都議選挙はおおかたの予測をくつがえし、都民ファーストの善戦、自民党の復活ならずという結果に終わった。

その流れはオリンピック後の8月に行なわれた横浜市長選挙(立民の推薦候補が圧勝)までつづき、菅義偉総理の「選挙の顔」としてのショボさが、決定的に数字で顕われたのだった。


◎[参考動画]自民党「菅首相では戦えない」 横浜市長選 惨敗で(FNN 2021年8月23日)

※[関連記事]「選挙0勝4敗の菅自民党 政権交代の危機に、菅おろしが始まるぞ」(2021年4月26日)
※[関連記事]「先走って頓死か、引き延ばしてジリ貧解散か? 解散に踏み切れない自民党」(2021年4月5日) 

思い起こしてみれば、日本学術会議の任用問題で、政治と学問の独自性を理解できず、世論の猛批判をあびた菅政権は、その出発点から菅義偉個人の政治家としての資質に疑いが生じるものだった。

菅政権の成果といえるものがあるとすれば、携帯電話の料金低減ぐらいではないか。デジタル化も国民マイナンバーも、いまだ掛け声にすぎない。いやむしろ、日本がアナログ的な非効率で健全な社会であることを立証している。

無理撃ちで、内容がよくわからない「安全・安心なオリンピック」強行も、国民の分断を顕わにするものだった。

さて、人間は歳を重ねるごとに、自分の振る舞いばかりか顔にも責任を持たなければならないという。古い言葉では「男子たるもの、30になったら顔に責任を持て」などという。

けっして、生まれついての容貌を言っているのではない。いやしくも政治家たるもの、一国を導くにふさわしいパフォーマンスが必要なのだ。そこであえて、ルッキズムに踏み込まざるをえなかったものだ。


◎[参考動画]菅首相「安全安心な大会」呼びかけ 五輪開幕まであと3日(TBS 2021年7月20日)

◆政治家の風貌ではなかった菅義偉

背が低い、髪が薄い、印象が地味。などというネガティブな要素も、たとえば麻生太郎はそれを感じさせない堂々たるふてぶてしさを持っているではないか。安倍晋三は植毛とヘアマニュキアで、豊かな黒髪を見せつけているではないか。

少なくとも、菅義偉のあの死んだような目、見る人を暗くするような表情のなさ、そして自信のない者にかぎってする、内容のない激昂。たんなる美醜ではない、いずれも一国の宰相にふさわしいものではなかった。政治家らしいパフォーマンスがないのである。

それもあってか、強権的なふるまいが目立った。自分の力量に自信のない者、その責任ある立場に慣れていない者にありがちな、無法と強権である。

※[関連記事]「無法と強権の末期政権 ── 菅義偉という政治家は、もはや憐れむべき惨状なのではないか」(2021年7月16日)

このあまりにもトホホな総理の存在ゆえに、春の段階では、もはや政権交代の可能性が云々されるまでになっていた。

小沢一郎と山本太郎の動きに、その現実性が高まっていた。その意味では、安倍が菅に政権を譲った(総裁選はあったが、派閥論理で終始した)段階で、自民党も政権を奪われる可能性を感じていたにちがいない。

もはや、コロナ禍にあえて宰相となった立場に、同情すら感じられたものだ。政権批判者に「憐憫」を語らせるほど、菅政権は地に堕ちていたといえよう。

※[関連記事]「三度目の政権交代はあるのか? 小沢一郎と山本太郎の動向にみる菅政権の危機」(2021年3月9日)

わが『紙の爆弾』も政権交代の可能性を展望していた。しかるに、メディア露出戦略で、いわば政策と国民向け発信の主導権をにぎっていた小池百合子都知事への、雪崩をうった批判が生じてきた。

小池百合子を批判したのが悪いのではない。並みいる評者たちが批判の矛先を誤るほど、選挙情勢と政局は混とんとしていたのである。

※[関連記事]「《書評》『紙の爆弾』4月号 政権交代へ 山は動くのか?」(2021年3月14日)

そして政治が筋書きの見えない劇場であることを国民が知るのは、都議会選挙を待たなければならなかった。けっして筋書きがないのではない。見えないだけなのである。(つづく)

▼横山茂彦(よこやま・しげひこ)
編集者・著述業・歴史研究家。歴史関連の著書・共著に『合戦場の女たち』(情況新書)『軍師・官兵衛に学ぶ経営学』(宝島文庫)『闇の後醍醐銭』(叢文社)『真田丸のナゾ』(サイゾー)『日本史の新常識』(文春新書)『天皇125代全史』(スタンダーズ)『世にも奇妙な日本史』(宙出版)など。

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